ザシュッッッ! グサッッッ!!
「はぁ、やっと片付いた」
俺ーー羽先優はそう言いながら刀を鞘に収めた。
そして切ったものを見る。そこには何も無い。
切ったものーー半妖は切れば跡形もなく消える。
今日もちゃんと消えているかを確認したあと、そのまま家に向かった。
「ただいま」
(……誰もいないが…)
靴を脱いで居間に座った。
「あの日」以来、俺は森の中の小屋のような場所に住んでいる。そこにはあまり物を置いておらず寂しさを感じさせて、いつも「あの日」の前のことを思い出させる。
(少し寝よう…)


目覚めると二十時頃になっていた。
立ち上がって台所に行き、適当に作って夕食を食べる。その後も色々していつの間にか二十三時近くになっていた。
(明日も早い、いつもの日課を早くしなければ)
いつもの日課、それは刀を月の光に当てることだ。
俺は目を閉じる。

『優、この刀はな、月の光に当てると強くなると言わ れているんだ。だから俺たちは毎日月の光をこの刀に当てるんだ。だからもし俺が死んだら代わりに毎日刀に月の光を当ててくれ』

(父さん……)
俺は目を開ける。
(仇を打つためにを刀には力を貯めてもらはないとな)
刀を持って外に出る。
(今日は半月か……)
刀を鞘から抜き、月の光にに当てる。
(これぐらいでいいか…早く寝よう)


次の日の朝、俺は早々に家を出て半妖を狩りに行った。
「グオォォッッ!」
「はっ!!」
ザシュッッッ!
(昨日よりも時間がかかった、腕が訛ったか…もっと精進せねば)
なぜこんなに時間がかかったのかを考えながら俺は家に帰った。
「…へぇ、面白いな。霊力を持たない身でありながらあんなに動けるなんて。これは話をしてみたいな」
俺は何かを感じて振り返る。
でもそこには誰もいなかった。


次の日、いつもよりも早起きをして家の近くで体力づくりをしていた。その時、
「ごめんください」
俺は手を止める。
(びっくりした、こんな時間に何の用だ?)
念のために刀を持って玄関前に近づいてみる。
そこには赤髪の男が立っていた。
(何者だ?)
「ここに何か用か?」
声をかけるといきなり相手が刀を斬り下ろしてきた。
「……!!!」
俺は咄嗟に刀を抜いて受け止める。
カキィィィン!!
(…なんて重い一撃なんだ……というかいきなり刀を抜いて切りかかるなんて礼儀知らずもいいところだ)
「いやぁ〜、君、すごいね〜。僕、君に興味が出てきちゃったよ~」
そう言いながら赤髪の男は刀を収める。
「…いきなり刀を抜くのは礼儀知らずじゃないのか?」
「あ〜、ごめんごめん。ちょっと君を試そうと思ってさ~」
俺は刀を収めた後、そいつを睨んだ。
「まぁまぁ、とりあえず立ち話もなんだし中に入れてよ。」
(絶対に入れたくない…だが何故か入れなければいけない、そんな気がする)
結局、溜息をつきながらも家の中に入れることにした。
「で、何の用だ。」
「僕ね~昨日見ちゃったんだよね~」
「もったいぶらずにさっさと言え」
「それがね~、君が半妖をボッコボコにしてるのを見ちゃってさぁ〜」
「でね、その時の君の動き、おかしいなぁ〜と思ってさ〜、…霊力を持っていない人間があんなに素早く動けるはずないのにどうしてか動けるんだろうなぁ~と思って」
(そういえばこいつの名前、知らないな)
「……名前な乗れよ」
「いや、何の用だ?って言ったのそっちでしょ!」
「まぁいいや、僕の名前は紅月祈流《こうづききる》だよ。珍しい名前でしょ」
「あーソウデスネ。」
「棒読みじゃん。酷くない?」
「というかそんな話をしに来たんじゃなくって!なんであんな動きができるの!?」
「一回落ち着け、日々の鍛錬を欠かさずにやればあれくらいできるだろう」
「はぁ!?出来るわけないじゃん!僕は霊力を使ってあれくらいなら余裕で動けるけどなしではむりなの!」
「はぁ……?」
俺は少し考えた後に不思議に思ったことを質問しようと思い祈流に話しかける。
「質問いいか?」
「どうぞ!!」
(こいつ、興奮しすぎだろ…)
「霊力ってなんだ?」
祈流がぽかんとした表情になった。
(なんかまずいことを俺は言ったのか?)
「えっ……あ…えっ……」
「何を喋っているんだ?」
「え、嘘、ほんとに知らないの?」
「あぁ」
俺がそう言うと祈流はいきなりじろじろと観察してきた。
「じゃあ君の使っている刀についても何も知らない?」
「刀?」
「ふぅーん、そうなんだ。なら霊力について説明するね」
「霊力っていうのは妖怪や半妖を倒す時に使う力の事だよ。この力を持たない人は倒すことはできないんだ」
「さっき俺には霊力がないと言っていたよな?なら俺はなぜ半妖を倒すことができるんだ?」
「それはね、君が使っているその刀のおかげだよ」
驚いて自分の刀を見る。
「その刀自身が霊力を持っているんだ。だから君は半妖を倒すことができる」
(この刀に半妖を倒す力が……)
「あははっ、でも僕、君にもっと興味が出てきちゃった。よしっ、君をスカウトしよう!」
「は?スカウト?」
「君を掃除屋にスカウトするってこと!」
「掃除屋って何をするんだ?」
「掃除屋は悪さをする妖怪や半妖を倒すのを仕事とする場所だよ」
「まぁ、スカウトと言っても無理強いはしないよ?
君はどうする?」
「少し考えさせてくれ」
「わかった〜」
(掃除屋…妖怪と半妖を倒すと言っていたな。半妖を倒せるのはいいが妖怪は別に恨んでない。出来れば倒したくないな……)
俺は顔を上げる。
「答えが出たっぽいね~、で、どうする?」
「断る」
「理由は?」
「俺は半妖だけを倒す。妖怪は関係ない。それに、この森の中で多くの半妖がいるんだ。その仕事をしている人も多いのだろう?そいつらと馴れ合うのは絶対に嫌だ」
「ふぅーん、そう。じゃあ諦める。」
(案外あっさり引き下がったな)
「でもひとつ言っておくね」
そう言うと祈流の雰囲気が急に変わった。
「一人で全てをするのはいつか限界が来る。君はいつまで耐えられるかな?」
ゾクッッ
「……」
(ここまで背筋が寒くなったのは久しぶりだ)
「……いつまでだって耐え続けてやる。」
「俺はあの日、誓ったんだ。誓いを全うするためなら俺は何でもできる。……たとえそれが、他人を傷つけることであっても」
「そう、でもきっと君は掃除屋に来る。僕の勘がそう言ってる。僕の勘はよく当たるからね」
そう言いながらウインクした後、祈流は立ち上がった。
「じゃあ僕はこれで帰るね。じゃあね〜、えーと……」
「優。羽先優」
「羽先……?まぁいいか。じゃあね、優」
「……はぁ」
溜息をつきながら寝転ぶ。
(一人で全てをするのはいつか限界が来る……か)
「そんなことは起きない。…絶対に起こさせない」
(今日は疲れたな)
その後のことは何も覚えていない。