はぁはぁはぁ……」
「お父さん、お母さん。今、助けるから……ちょっと……待ってね」
そう、俺は言った。
父と母の体はとっくに冷えきっているのに。
でも、それでも俺は前のように笑って暮らしたいと願って手を必死に動かしていた。
そこから少しだった時、俺は父と母がもう助からないと幼ながら気がついたのだろう。呆然としていた。
その時に俺は誓った。
「絶対に許さない、こんなことをしたあいつらを抹殺してやる。家族の仇を打ってやる!!!
家族の仇ーーー半妖を!」
この世には、大きくわけて3つの種族がいる。
1種族目は人間、2種族目は妖怪、そして3種族目が半妖である。はるか大昔では人間と妖怪は何度も戦争を起こしていた。しかし今は和平条約によって干渉は特別な場合以外禁止となった。まぁ、人間の一生は妖怪に比べ短いので、そもそも人間は妖怪の存在など忘れてしまっているけれど。
それを利用して悪さをしようとする人間を嫌悪する妖怪や半妖たち。しかしその攻撃はほとんどの人には当たらない。それは「掃除屋」と呼ばれる仕事を持つ人々が「霊力」という特別な力で掃除をしているからだ。
その人々は紅葉月とその分家の者のみでほとんど構成せれている。
そして3種族目の半妖は両方の力に及ばずとても弱い存在として扱われており、掃除屋に掃除されるだけの「ゴミ種族」と呼ばれていた。
ザシュッッッ! グサッッッ!!
「はぁ、やっと片付いた」
俺ーー羽先優はそう言いながら刀を鞘に収めた。
そして切ったものを見る。そこには何も無い。
切ったものーー半妖は切れば跡形もなく消える。
今日もちゃんと消えているかを確認したあと、そのまま家に向かった。
「ただいま」
(……誰もいないが…)
靴を脱いで居間に座った。
「あの日」以来、俺は森の中の小屋のような場所に住んでいる。そこにはあまり物を置いておらず寂しさを感じさせて、いつも「あの日」の前のことを思い出させる。
(少し寝よう…)
目覚めると二十時頃になっていた。
立ち上がって台所に行き、適当に作って夕食を食べる。その後も色々していつの間にか二十三時近くになっていた。
(明日も早い、いつもの日課を早くしなければ)
いつもの日課、それは刀を月の光に当てることだ。
俺は目を閉じる。
『優、この刀はな、月の光に当てると強くなると言わ れているんだ。だから俺たちは毎日月の光をこの刀に当てるんだ。だからもし俺が死んだら代わりに毎日刀に月の光を当ててくれ』
(父さん……)
俺は目を開ける。
(仇を打つためにを刀には力を貯めてもらはないとな)
刀を持って外に出る。
(今日は半月か……)
刀を鞘から抜き、月の光にに当てる。
(これぐらいでいいか…早く寝よう)
次の日の朝、俺は早々に家を出て半妖を狩りに行った。
「グオォォッッ!」
「はっ!!」
ザシュッッッ!
(昨日よりも時間がかかった、腕が訛ったか…もっと精進せねば)
なぜこんなに時間がかかったのかを考えながら俺は家に帰った。
「…へぇ、面白いな。霊力を持たない身でありながらあんなに動けるなんて。これは話をしてみたいな」
俺は何かを感じて振り返る。
でもそこには誰もいなかった。
次の日、いつもよりも早起きをして家の近くで体力づくりをしていた。その時、
「ごめんください」
俺は手を止める。
(びっくりした、こんな時間に何の用だ?)
念のために刀を持って玄関前に近づいてみる。
そこには赤髪の男が立っていた。
(何者だ?)
「ここに何か用か?」
声をかけるといきなり相手が刀を斬り下ろしてきた。
「……!!!」
俺は咄嗟に刀を抜いて受け止める。
カキィィィン!!
(…なんて重い一撃なんだ……というかいきなり刀を抜いて切りかかるなんて礼儀知らずもいいところだ)
「いやぁ〜、君、すごいね〜。僕、君に興味が出てきちゃったよ~」
そう言いながら赤髪の男は刀を収める。
「…いきなり刀を抜くのは礼儀知らずじゃないのか?」
「あ〜、ごめんごめん。ちょっと君を試そうと思ってさ~」
俺は刀を収めた後、そいつを睨んだ。
「まぁまぁ、とりあえず立ち話もなんだし中に入れてよ。」
(絶対に入れたくない…だが何故か入れなければいけない、そんな気がする)
結局、溜息をつきながらも家の中に入れることにした。
「で、何の用だ。」
「僕ね~昨日見ちゃったんだよね~」
「もったいぶらずにさっさと言え」
「それがね~、君が半妖をボッコボコにしてるのを見ちゃってさぁ〜」
「でね、その時の君の動き、おかしいなぁ〜と思ってさ〜、…霊力を持っていない人間があんなに素早く動けるはずないのにどうしてか動けるんだろうなぁ~と思って」
(そういえばこいつの名前、知らないな)
「……名前な乗れよ」
「いや、何の用だ?って言ったのそっちでしょ!」
「まぁいいや、僕の名前は紅月祈流《こうづききる》だよ。珍しい名前でしょ」
「あーソウデスネ。」
「棒読みじゃん。酷くない?」
「というかそんな話をしに来たんじゃなくって!なんであんな動きができるの!?」
「一回落ち着け、日々の鍛錬を欠かさずにやればあれくらいできるだろう」
「はぁ!?出来るわけないじゃん!僕は霊力を使ってあれくらいなら余裕で動けるけどなしではむりなの!」
「はぁ……?」
俺は少し考えた後に不思議に思ったことを質問しようと思い祈流に話しかける。
「質問いいか?」
「どうぞ!!」
(こいつ、興奮しすぎだろ…)
「霊力ってなんだ?」
祈流がぽかんとした表情になった。
(なんかまずいことを俺は言ったのか?)
「えっ……あ…えっ……」
「何を喋っているんだ?」
「え、嘘、ほんとに知らないの?」
「あぁ」
俺がそう言うと祈流はいきなりじろじろと観察してきた。
「じゃあ君の使っている刀についても何も知らない?」
「刀?」
「ふぅーん、そうなんだ。なら霊力について説明するね」
「霊力っていうのは妖怪や半妖を倒す時に使う力の事だよ。この力を持たない人は倒すことはできないんだ」
「さっき俺には霊力がないと言っていたよな?なら俺はなぜ半妖を倒すことができるんだ?」
「それはね、君が使っているその刀のおかげだよ」
驚いて自分の刀を見る。
「その刀自身が霊力を持っているんだ。だから君は半妖を倒すことができる」
(この刀に半妖を倒す力が……)
「あははっ、でも僕、君にもっと興味が出てきちゃった。よしっ、君をスカウトしよう!」
「は?スカウト?」
「君を掃除屋にスカウトするってこと!」
「掃除屋って何をするんだ?」
「掃除屋は悪さをする妖怪や半妖を倒すのを仕事とする場所だよ」
「まぁ、スカウトと言っても無理強いはしないよ?
君はどうする?」
「少し考えさせてくれ」
「わかった〜」
(掃除屋…妖怪と半妖を倒すと言っていたな。半妖を倒せるのはいいが妖怪は別に恨んでない。出来れば倒したくないな……)
俺は顔を上げる。
「答えが出たっぽいね~、で、どうする?」
「断る」
「理由は?」
「俺は半妖だけを倒す。妖怪は関係ない。それに、この森の中で多くの半妖がいるんだ。その仕事をしている人も多いのだろう?そいつらと馴れ合うのは絶対に嫌だ」
「ふぅーん、そう。じゃあ諦める。」
(案外あっさり引き下がったな)
「でもひとつ言っておくね」
そう言うと祈流の雰囲気が急に変わった。
「一人で全てをするのはいつか限界が来る。君はいつまで耐えられるかな?」
ゾクッッ
「……」
(ここまで背筋が寒くなったのは久しぶりだ)
「……いつまでだって耐え続けてやる。」
「俺はあの日、誓ったんだ。誓いを全うするためなら俺は何でもできる。……たとえそれが、他人を傷つけることであっても」
「そう、でもきっと君は掃除屋に来る。僕の勘がそう言ってる。僕の勘はよく当たるからね」
そう言いながらウインクした後、祈流は立ち上がった。
「じゃあ僕はこれで帰るね。じゃあね〜、えーと……」
「優。羽先優」
「羽先……?まぁいいか。じゃあね、優」
「……はぁ」
溜息をつきながら寝転ぶ。
(一人で全てをするのはいつか限界が来る……か)
「そんなことは起きない。…絶対に起こさせない」
(今日は疲れたな)
その後のことは何も覚えていない。
初めて会った日から祈流は一度もやってこなかった。
(絶対に来ると思っていたが…まさか来ないとは……
いや、今はそんなことどうでもいい。早く家を出て半妖を倒しに行こう。)
俺は家を出ていつも通り、半妖を何体か倒した。
(もう暗くなる。早く帰ろう)
その時、毛が立つほどに強い何かを感じた。
咄嗟に辺りを見渡す。
刀を抜いて構える。すると次の瞬間
グァァァァッッッ!!
「……!!!」
キーン!!
(…なんて重い攻撃なんだ、それにいつも倒しているものと形が違う…!)
「うっ……」
(……油断してしまった。右腕が全く動かない…)
(左腕だけで攻防を全て行うのは無理がある。逃げるという選択肢はない。これは…賭けに出るしかないな。)
俺は無理矢理相手の懐に入り込んで切りかかった。
しかし相手は素早く、避けてからすぐに爪を使って俺を引っ掻いて来る。その後、遠くにあった木に飛ばされぶつかる。
「かはっ……」
(動こうとしても動けない。……ここまでなのか?)
俺は静かに目を閉じた。次の攻撃が来る。
「……?」
(攻撃が来ない?なぜだ?)
「…大丈夫?」
はっと目を開ける。そこには新緑色の髪に思色の瞳を持った少年が俺を覗き込むように見ていた。
少年の後ろには半妖がいる。今にも襲ってきそうだった。
「危ない!」
「大丈夫だよ」
ゴンッッッ!
とても鈍い音が森中に響く。
(このドーム状の壁はなんだ?この壁が俺と少年を守っているのか?)
そんなことを考えていると半妖のまわりにも同じ、壁のようなものがはられていた。
「祓いたまへ 清め給へ」
その声が聞こえると半妖が跡形もなく一瞬で消え去った。
(何が起きているんだ……?)
「…律さん。出来ればいきなり走らないようにしてくださいさると嬉しいのですが…」
その声の主が月の光に照らされる。
そこに居たのは茶髪に深い青色の瞳を持つ少女。
「あっ。ごめん、凪」
「それに、私がもし追いつけなかったらどうするおつもりだったのですか?」
「うぅ……。ごめんなさい」
「まぁ間に合ったのでもういいのですが。…それより早く探しましょう。じゃないとまた文句を言われてしまいます」
「あぁ、それなら見つけたよ。ほら」
凪と呼ばれている少女がこちらを見る。
「…って大ケガではありませんか!この方が探している方かはおいといて、早く治しましょう!」
少女は俺の近くまでよってきて自分の手を俺にかざした。
すると少女の手から光が溢れ、傷がどんどん治っていく。
(…!傷が治った。痛みも感じない。むしろ前よりも身体が軽い気がする)
「これくらいで良いでしょう。傷は治りましたが、しばらくは安静にしてくださいね」
「……わかった」
「で、律さん。この方は探している方であっているのですか?」
「絶対そうだよ!だって祈流が書いた絵にそっくりだもん!」
「そうなのですか?……でも律さんがそう言うなら恐らくそうなのでしょう」
「凪は似てると思わないの?」
「1ミクロンも似てないと思います。」
「えー」
俺は会話をしている二人をずっと見つめていた。
それに少年が気づいたのか、
「あっ、ごめん。君の名前って羽先優【わせんやさし】で合ってる?」
「何を言ってるんだ?」
「何を言っているのですか?」
俺と少女の声が重なって否定した。
「羽先優【はねさきゆう】ですよ。」
「…あぁ、俺の名前は羽先優はねさきゆうという。」
「えっ!ごめん!間違えた!」
「いや、別に構わない」
「あっ、僕の自己紹介がまだだったね。僕の名前は
月城律輝【つきしろりつき】だよ、よろしくね」
「私は春道凪【はるみちなぎ】と申します。よろしくお願い致します」
「ちょっといきなりで申し訳ないけど、一度掃除屋に来てくれない?」
「…理由は?」
「祈流が連れてきて欲しいって言ってたんだ。祈流にはもう会ったことあるんだよね?」
「会ったことはある、だが俺は掃除屋には入らないとスカウトを断ったはずだ」
「うん、そうなんだけどそれとはまた別の話。詳しい話は知らないから凪に説明してもらうね」
「話、ちゃんと聞いていなかったのですか?…じゃあ私から説明させていただきますね」
凪がニコリと笑いながら説明をした。
「率直に申し上げます。ここは住んでは行けない場所なのですよ」
「…そうなのか?」
「はい、ここは妖怪や半妖が多く、他と比べても強いので危険な場所として立ち入りを禁止しているのです」
「じゃあ、今俺が住んでいる小屋はなんなんだ?
初めて来た時、かなり真新しかったぞ?」
「あれは私が建てさせた小屋です。私が掃除をしやすいように森の中に小屋を建てたんです。ここでの任務はとても長い時間を要しますから」
「それに、不思議に思われませんでしたか?あの小屋の近くには妖怪も半妖もよってこないのです。それは私が結界を張っているからなのですよ」
「……。」
(…たしかによく考えてみたら小屋の近くには半妖が出てこなかったな…)
「なら何故君たちはこの森に入れるんだ?」
「それはね、仕事だからだよ。ちなみに今回の仕事は君を見つけて掃除屋に連れていくこと」
「あの小屋を捨てて出ていかないといけないのか?」
律輝は困った顔で凪を見る。
「出ていった方がいいと思います。元々あなたのものでもありませんし、なんせとても危険ですから」
「だが俺には親戚もいない。住む場所がないんだ」
「それなら大丈夫です。私が責任を持って掃除屋に頼んでおきましたので」
「え、凪、もう頼んであるの?」
「勿論です。私は何かあったとき用に常に備えていますから」
「…できる女ってやつだ……。」
「おっと、話が脱線しすぎましたね。優さん、改めてお願い致します。掃除屋に来て頂けませんか?」
「…あぁ、わかった」
(こんな話を聞いたあとじゃ断れない…)
「ありがとうございます」
「よしっ!じゃあ早速優、荷物をまとめてきて!」
「は?えっ!今から!?」
「もちろん!出来れば急いだ方がいいからね」
「五分以内で頑張ってまとめてきて!」
「無理があるだろ!!」
そう言いながらも大急ぎで家に帰って荷物をまとめた
。
(この小屋ともお別れか…)
小屋を出て玄関前に立つ。
「今までありがとう。さようなら」
そこから少し歩いて二人と合流する。
「じゃあ行こっか!」
「あぁ。」
「えぇ。早く行きましょう。」
こうして俺は小屋を出て掃除屋に行くことになった。
「……優さんは凄いですね。こんなにもすぐに新しい一歩を踏み出す決意をするなんて。……見習わないといけませんね」
「今、何か言ったか?」
「何も言っていませんよ。早く行きましょう」
こうして新しい日々が始まろうとしていた。
俺があの小屋を出てから山を下る途中、何度か半妖と遭遇した。
だが、凪がいつの間にか倒していたためなんの被害もなく山を下ることが出来た。
「…少し休憩しませんか?流石に疲れました…」
「あーっっ!凪、本当にごめん!忘れてた!」
凪が近くにあった岩に座る。
「そんなに歩いていない気がするが…」
「僕たちからしたらそうだけど、凪は病弱だから」
「病弱なのにここまで来たのか!?」
(病弱ならこんなところで仕事なんて大変なんじゃ……。小屋を建てた理由がわかった気がする…)
「…。」
凪は何も喋らないまま暫くボーッとしていた。
「…そろそろ行きましょう」
「りょーかい。ほら、優。早く行くよ」
「あぁ」
そこから少し歩いたあと、ある神社に入った。
(至聖神社《しせいじんじゃ》?聞いたことがないな)
大きな赤い鳥居をくぐると大きな本殿が目に入った。
(とても綺麗な神社だな。だが、人がいる気配が全くしない)
「本殿に用事がある時はほとんどないです。これはカモフラージュのようなものですから」
(…カモフラージュ?)
「この神社はね、紅葉月っていう有名な家が管理している神社なんだよ。でね、紅葉月は掃除屋の運営もしているんだ」
「個人として動く霊媒師と呼ばれる存在とは違って、掃除屋は一般の方には存在を知られておりません。何故だと思いますか?」
「…何処にあるをわからないから?」
「正解です。」
凪は笑った後、本殿の裏にある御神木を俺に見せた。
「ここが掃除屋への入口です。よく見てください。
ここにもみじの形をしたキズがあるのが分かりますか?」
「これのことか?」
「うんうん、合ってる!」
「ここに手を当てて霊力を流し込むと……」
御神木の葉が柔らかな風に吹かれて揺れる。
(とても優しい風だ…)
そう思って目を閉じる。
風を感じなくなった時、目を開けてみるとさっきと違う場所にいた。
「……。」
(どういう仕組みなんだよ……)
「驚いたでしょ?霊力を持たない人にこれをすると、とても驚くからね」
「…驚くを超えて最早、絶句する」
「歩きながら話しましょうか。時間がもうありませんから」
「で、なにか質問はある?」
「聞きたいことは沢山あるが、とりあえず、さっきのはどういう仕組みなんだ?」
「うーんそうだな…それ、僕も知らないんだよね」
「知らないのか?」
(分からないのにこんな得体の知れないものを使っていたのか…)
「凪は知ってる?」
「予想程度なら分かりますが、真実は分かりかねます。」
「…知らない方がいいと思いますよ。結構複雑な仕組みになっているので理解し難いと思います」
「そっか。ちょっと知りたくなったけど、凪がそういうんだったら本当に知らない方が良いんだろうね」
「…そう言えば律輝は凪への信頼が厚すぎないか?」
「そりゃあ、一番任務で一緒になる機会が多いし、それに学校も同じだしね」
「…二人は学校に行っているのか……」
「行ってますね。掃除屋専用の学校に」
「専用の学校なんてあるんだな…」
チョンチョン
律輝が俺をつついて手でこっちに来てと合図してくる。
不思議に思って行ってみると律輝が俺の耳に自分の口を寄せて話してきた。
「凪は何も言ってないんだけど、実はね、凪はーー」
「あれ~!優がいる~!!」
ビクッ
「もう~そんなに驚かなくてもいいじゃん」
「…祈流」
「兄さん、きちんと連れてきましたよ」
「兄さん?」
「祈流の事だよ」
「兄さんと呼ぶってことは血縁なのか?」
「僕と凪が?全然違うよ~だって似てないでしょ~」
「……たしかに、見た目は似てないし、性格もほぼ反対だな…」
(唐紅色の髪に鮮緑色の瞳を持ち、この軽く親しみやすそうな話し方をする祈流と、茶髪に深い青色の瞳を持ち、だ
れに対しても敬語で少し距離を置かれているような話し方をする凪。これ以上、対になる存在はいないだろうと思え
るくらいに違う)
「え!何?僕の性格がいいって言いたいの~?当たり前だよ~。」
「じゃあ優さんといのり兄さんはわたしの性格が悪いと言いたいのですか?」
「…俺は祈流が親しみやすすぎてまるでそういう性格を演じているように、凪は逆にある程度の距離を保っているようだと思っただけだ。」
二人が同時に固まった。そのあとすぐに、まるでフォローをするように律輝が話に入ってきた。
「あっ、それなら僕もわかるよ!祈流ってめっちゃ軽いもんね!」
「……。」
「え~、そんなこと言っていいの~?僕、一応この中で一番年上だと思うんですけど~」
「そう言えば優って今何歳なの?」
「…十六…だと思う」
「へぇ~そうなんだ~、じゃあ僕が一番年上で合ってるね~。ちゃんと年上は敬わないと~」
「…祈流は何歳なんだ?」
「いのり兄さんは今年で二十一歳です」
「…これで?」
「はい。」
「えぇ……」
「酷くない?」
「あと、すみませんがもう家に帰っても良いですか?もうすぐ日が昇ってしまうので」
「ん?あ~そっか、確かにもう日が昇るね~。つまりもう二人は帰らないと行けないのか~、学校頑張ってね~」
「えぇ!僕はもうちょっとここに居たい…。」
「いけませんよ、律さん。学校に行くのも任務みたいなものです。ちゃんと行かないといけません」
「えぇ…わかったよ。ちゃんと学校行く!じゃあ途中まで一緒に帰ろ!凪!」
「えぇ、構いませんよ」
二人とも笑顔でこちらを見る。
「では、今日はこれで失礼致します。」
「じゃあね!祈流、優。」
二人は早歩きで道をまっすぐ進んでいき、途中から二人が見えなくなった。
「さてと、僕たちも帰ろうか~」
「帰るならあの二人について行けば良かったんじゃ…」
「律輝たちとは方向が少し違うからね~」
「ここから少し真っ直ぐに行くのは同じなんだけど~、優の家は途中で曲がらないとだからさ~。」
「そうなのか。」
「まぁ、案内するから着いてきて~。あと、ちょっと本気出して走るからちゃーんと着いてきてね~」
「え。」
祈流はそう言うといきなり走り出した。
「……!」
(速っ…すぎるだろ!)
俺は、はぐれないように全力で走り出した。
「はぁ…はぁ…はぁ」
「着いて来れたのはさすがだけど息切れしちゃってるねぇ~」
「祈流が…いきなり…走り出すから……」
「ちゃんと予告したじゃん!いきなりじゃないよ!」
「…そういう意味じゃない…!」
「まぁともかく~、ここが今日から優の家になるよ~」
指を刺された方を見るとそこには木製の家があった。
(あの小屋と同じくらいの大きさ…)
「あ、そうそう言うの忘れてた。優さ、凪にこの家を貸すってだけ言われなかった?」
「あぁ。そう言われた」
「それなんだけどやっぱなしで!」
「そうか。で、何を要求するんだ?」
「へぇ~、意外と冷静だね~」
「そうだろうと思っていたからな」
「じゃあ何を要求するかぐらい想像がつくんじゃない?」
「…掃除屋に入れとか言うんだろ?」
「おぉ~合ってる合ってる!」
「はぁ…それは断ったはずだ。…だがタダで住むのも気が引ける」
「おっ!この流れは~!」
「だから掃除屋に入る以外の方法で役に立とうと思う。」
「えぇ~、本当にそれでいいの~?君の両親は半妖だけの仕業じゃないかもしれないのに~」
俺は驚いた。
(半妖《《だけ》》けではない?)
「!……一体どういうことだ!」
「君が見た両親を殺した半妖っていうのは君がずっと倒し続けていた形のものだよね?」
「あぁ。同じ、狼のような姿をしていた」
「そういう動物の形をとる半妖はまだ半妖として半人前、つまり未完成の半妖なんだよ。」
「そう言えば、半妖というのはどうやって生まれるんだ?」
「生物の死骸に妖力や霊力が宿ったものとされているよ。ちなみに妖力っていうのは妖怪が使う力の事だよ。」
「未完成の半妖に知能はないんだよ。」
「何を言っているんだ!あいつらは複数で襲ってきたんだぞ!そんなこと有り得ない!」
「落ち着いてよ~。熱くなりすぎ~。」
「だってっ……」
「ちゃんと最後まで話を聞いてくれる?まだ最後まで話してないよ」
「っ…」
俺は黙る。
「でーも、やーっぱり複数で襲ってきたのか~。それは大変だね~」
「話を戻すね~。実はね~、知能がなくても複数に動くことがある半妖、結構いるんだよね~。その原因が……妖怪が力で半妖を操っているからなんだ。」
「……つまり、本当の黒幕は妖怪と言いたいんだな?」
「そゆこと~」
「…ずっと仇は半妖だと思っていが、妖怪が操っていたんじゃ仇は妖怪ってことになる」
「そうだねぇ~。まぁ君の両親を実際に殺したのは半妖だし、両方だね~」
「……。」
「どう?入る気になった?」
「……あぁ。」
俺は笑う。この時これ以上ないくらい奇妙な笑みを浮かべていたと思う。
「うわっ、こっっわ」
「俺は両親の仇を打つためなら何でもすると決めた。だから、掃除屋に入るのはただの利用だ」
「そう?じゃあ僕も君の活躍を利用させてもらうよ。まぁ入れたらだけど」
「入れない場合がある、ということか?」
「一応試験があるからね~。まぁ頑張れ!」
「あぁ。必ず入ってやる」
(誓いを守るために!!!)