君と二度目の恋をする  百鬼夜行と神儀り

床に尻餅を付いている慧に千輝がため息混じりに言った。

「湊がいたら手伝ってくれたのにな」

立ち上がって慧が資料の本を拾い始めた。

「あの、手伝いましょうか?」

真白が一言言った。

「本当?」

千輝が嬉しそうに真白を見た。

「でも、お前らはもう下校時間だろ」

本を拾い終えた慧が言った。

「私、帰ってもやることないし。手伝いますよ」

他のみんなも同じだったようで、手伝うことになった。

真白は隼人と一緒に図書室にある残りの本を持ってくることになった。

「入ってすぐのところに、台車と旧校舎に保管しておく本が置いてあるから」


千輝に言われて、二人は図書室に向かった。

廊下を歩いている時に隼人が口を開いた。

「真白、もうすぐ俺のばあちゃんの命日なんだけど、お墓参り、一緒に行かない?」

「おばあちゃんのお墓参り?」

隼人の祖母には、真白もよく世話になっていた。

「真白と会ったのはかなり前だけど、きっと会いたがってると思うから」

「そうだね。私も行く」

「あと、要も一緒だから」

真白は要の名前が出てきて驚いた。

「え?要も?なんで?」

「俺と要は小学校が一緒で、同じクラスだったから。俺が要を誘って家に連れてきてたんだ」

「そうだったんだ」

話をしながら歩いているうちに、図書室に着いた。

「これかな?」

入ってすぐのところに台車と積み上がった本があるのを真白が見つけた。

「図書室から旧校舎って近いけど、確かに台車を使った方が早く終わるかもね」

隼人がそう言いながら、台車に本を積み始めた。

真白も手伝って、残っていた本を全て台車にのせられた。

「大丈夫かな?運んでる時に落ちないといいけど…」

「じゃあ、この本だけ俺が持つよ」

隼人が分厚い本を台車から取った。

「だいぶ古い本だね。いつ寄贈されたんだろう?」

背表紙のところを見ると、何も書かれていなかった。

「おかしいな。ラベルも何もされてない」

「なんて本なの?」

「タイトルも…掠れてて読めない。高嶺先生に聞いてみよう」

真白と隼人は台車に積んだ本と一緒に持って行った。



「タイトルも寄贈元もわからない本?」


旧校舎に戻って、慧に本を見せた。

慧は、隼人から本を受け取って、中を開いた。

「なんだこれ。作者の名前も書かれてないぞ。こんなのどこにあったんだ」

「旧校舎に持っていく本と一緒に入ってました。かなり分厚いし、古いのですぐ見つけられたんですけど」

慧と千輝は顔を見合わせた。

「俺たちがみた時はこんな本なかったんだよ。司書の先生に確認してみるね」

本は確認をとることになった。

「高嶺先生、これ、どうするんですか?」

紫音がダンボールを一箱持ってきた。

「それはそのままでいい。あとで校長に処分していいか聞くから」

いつの間にか旧校舎の大掃除が始まっていた。


終わる頃には夕方になっていた。


「じゃあみんな、気をつけて帰ってね」

千輝が真白たちに言って、送り出した。

「はい」

真白たちが帰った後に、慧と千輝はあの古い本を取り出した。

「それ、ほんとに司書の先生に確認するんですか?」

「俺に心当たりがある。話してみるから、千輝はあのダンボールを校長に持って行ってくれ」

「わかりました」

千輝がダンボールを持って出て行った。
学校が休みの日に、真白は要と隼人と一緒に隼人の祖母の墓参りにやってきた。

「あれ?花が供えてある…誰だろう?」

隼人の祖母の墓のところに花束が二つ供えてあった。

「父さんと母さんはまだ出張で海外にいるはずだし…ばあちゃんの友達が供えたのかな?」

隼人は疑問に思いながらも、持ってきた花を供えた、

そして三人で手を合わせた。



墓参りが終わったあと、隼人の祖母の家に行った。

「要と隼人は小学生の時、同じクラスだったんでしょ?どんな風に仲良くなったの?」

要と隼人が顔を見合わせた。

「…俺が一人でいたところに隼人が声をかけてくれたんだ。一人でいてもつまんないだろって」

要がポツリと言った。

それから、隼人の祖母の家でよく遊んでいたらしい。

「それから何年かして紫音たちとも会って、桜咲家の神社でよく遊んでたんだ」

「私、みんなのことあんまり知らないから。ちゃんと一人一人と話したこともない気がする」

「今度話してみるといいよ。せっかくみんな同じクラスになったんだから」

要が言った。

「そうだね」


その頃京都では、虎田(とらだ)家と朱本(あけもと)家、青龍寺(せいりゅうじ)家が、玄道(げんどう)家の屋敷に集まっていた。

(みつる)、いきなり呼び出してなんの用事だろう?」

羅衣(らい)が眠そうな顔をして言った。

「また夜中までゲームしてたんでしょ?朝弱いくせになんで治らないの?」

「しょうがないじゃない。羅衣はマイペースなんだから」

若菜(わかな)がそう言っている日和(ひより)をなだめるように言った。

「みんな、いきなり呼び出してごめん」

充が歩いてきた。

「充、今日はなんの用なの?」

日和が尋ねた。

「実は、神宮(かみみや)家の次期当主からの頼みで夏休みにくる子たちを護衛してほしいと言われてね」

「護衛?誰の護衛?何のために?」

若菜が首をかしげて聞いた。

桜咲(さくらざき)家の近くに住んでいる子たちで、前世の記憶を持っているそうだ。その中でも、一際強い霊力を持っているのが、柏木(かしわぎ)真白という女の子らしい」

「柏木真白?」

「なんでもその子は、眷属がいるという噂だ。九尾の狐、狗神、蛇神、鬼神の四人だ」

「それって、彩葉(いろは)と同じ…」

羅衣がつぶやいた。

「そう。その真白という子は、彩葉の生まれ変わりだ。他にも、彩葉の従者たちも生まれ変わっていて、同じ学校に通っていると言っていた」

「それ、誰から聞いたの?」

日和が聞いた。

「桜咲湊くんから。今年から京都の大学に通ってるって言ってたな」

湊は、大学から帰る途中だった。

ポケットに入れていたスマホが鳴った。

「はい」

湊が電話に出ると、慧からだった。

『湊か。大学はどうだ?』

「楽しいですよ。授業が一年のうちは多いのでそこが大変ですけど」

湊は苦笑して言った。

『そうか。忙しいところ悪いが、聞きたいことがある。今からその写真を送るから、それに見覚えがあったら教えてくれ』

慧から送られてきた写真を見た。

「この本、どこにあったんですか?」

『学校の図書室だそうだ。隼人と柏木が見つけたんだが…』

「そうですか。かなり古い本に見えますね。高嶺先生は見覚えはないんですよね?」

『俺も千輝も、他の先生たちに本の整理を頼まれていたんだが、最初にみた時はなかった』

湊は顎に手をあてた。

「俺も見覚えはありません。でも似たようなものは、みたことがあります。何かわかったら連絡しますね。あと、夏休みにある集まりですが、真白ちゃんたちも連れてきてください。琉晴さんが興味があると言っていました」

『渚から聞いてる。神宮家の屋敷でやるらしいな』

「特に真白ちゃんは一人にしない方がいいと姉さんも言っていました」

『そうだな。柏木は巻き込まれやすい。本人にも気をつけるように伝えておく。それじゃあな』

電話が切れると、湊は大きく息を吐いた。

「一応、護衛は頼んであるけど、本当にあの人たちに任せてよかったのかな」

湊は京都に来て日が浅い時に、琉晴から会わせたい人がいると言われた。

それは以前、湊の家に来ていた玄道充だったのだ。

琉晴は、充の他にもあと三人の護衛をつけるのだという。

他にも要たちの術具の扱い方に関しても教えてくれるとのことだった。

「あの子たちが巫女の術具を使いこなせていないのは事実だし、その方がいいのかもしれないんだけど…」

自分自身もよく知らない相手だったので、不安があった。

「まずは、会ってみてからどうするか決めてもらおうかな。俺も色々やらなきゃいけないこともあるし」


天音はカフェで待ち合わせをしていた。

「天音」

天音の名前を呼んだのは、一人の男性だった。

「お父さん…」

テーブル席の天音の向かいに座った。

「元気にしてたか?」

「うん」

「そうか。…一緒に住んでいる子達とも仲良くしているか?」

「うん。二人とも優しいから」

天音の父親は、ホッとした様子だった。

「いきなり連絡して悪かった」

「大丈夫。お母さんは、元気?」

「あぁ、元気だよ。それで天音さえよかったら、顔を見せてあげてほしい」
天音の表情が固くなった。

「うん。お母さんともちゃんと話したい。でももう少し時間がかかるかも」

天音の父親の表情が柔らかくなった。

「帰ってきたいと思った時に帰ってきてくれればいい。待ってるから」


父親を見送り、天音はカフェを出た。

外には満開の桜の木があった。

琴音(ことね)にあげた鞠も桜の模様があったな…」

そんなことを思っていると、近くの公園でバスケをしている女の子たちがいた。

「バスケ…」

天音も琴音が亡くなる前は、バスケをやっていた。

「天音?」

顔を向けると、紫音が立っていた。

「何してるんだ?こんなところで」

「えっと、お父さんと会ってきたの。その帰り」

「そうか」

紫音が公園に目を向けた。

「バスケ、やりたいのか?」

天音がじっと見ていたことに気づいたのだろう。

「別に…」

天音は目を逸らした。

「でもいつもバスケ部の練習してるところ見てたりするよな。興味があるんならやってみればいいのに」

「そんなでもないから…」

(本当はまたやってみたいけど、琴音のことを思い出しちゃって、うまくできない…)

琴音が亡くなった直後に、全国大会の試合があったが、天音がミスをして負けてしまった。

それ以降、思ったようなプレーができなくなり、やめてしまった。

部活も今は何もやっていない。

「そうなのか?天音って本当にやりたいことはあんまり口に出さないよな」

「え?」

「花蓮とか結奈よりは、よく話す方だとは思ってるけど、本当に自分のやりたいこととか言いたいことはなかなか口に出さなかったり、誤魔化したりしてないかなって思って」

紫音は昔から人のことをよく見ているなと天音は感じていた。

花蓮が桜咲家にやってきたときに、声が出せないと知っていても紫音は進んで声をかけていた。

そして徐々に花蓮は声が出せるようになっていった。

今では、問題なく話すことができている。

「花蓮が声を出せなくなってた時、進んで話しかけてたのはどうして?」

紫音は、突然の質問に驚いていたが答えてくれた。


「だって、ずっと話さないままでいたら、どんどん話せなくなるだろ?何かのきっかけで声が出たり、話せるようになるかもしれないと思ったからだ」

天音は、花蓮にどうやって接したらいいのか分からず、なかなか話しかけることができなかった。

「やっぱり、紫音はすごいね。ちゃんと行動を起こせて」

「なんだ?急に」

「なんでもない」

(それが、私が紫音を好きになった理由なんだけどね)
真白は、雨が止むのを待っていた。

「真白?何してるの?」

結奈が教室に入ってきた。

「あれ?部活は?」

「今日は気分が乗らなくて。うちの学校、結構自由なところあるから」

真白は確かにそうだなと思った。

運動部は、全国大会に行く部活もあれば、ただ楽しんでいるだけ、という部活もある。

文化部も同じで、コンクールで入賞したりする部活もあれば、結奈のようにその日の気分で、部活に出ない生徒もいる。

良くも悪くも、自由な校風なのだ。

「なんか、描きたいもの思いつかなくて帰ってきちゃった」

「そっか」

結奈は真白の座っている席までやってきた。

「真白と二人で話すのって二回目だね。前は去年の夏頃話しただけだったから」

真白は去年のことを思い出した。

「確か、七月あたりだったよね。私まだ天音と花蓮とは二人で話したことないかも」

「そうなんだ。花蓮は部活のことが多いし、天音はよく外に出かけることが多いんだよね。私は家にいる方が好きだけど」

「私は半々くらい。よく春香と一緒に出かけたり、家で本を読んだりしてることもあるよ」

雨の音が強くなってきた。

「そういえば春香、陸上今日は休みかな。雨だから」

「春香は陸上部なんだ」

「うん。小さい頃から走るの早かったんだよ」

いつも先に前を歩いていた春香を真白は追いかけていた記憶がある。

「私、お姉ちゃんがいたの。六個歳の離れた」

真白は前に要から結奈の姉が火事で亡くなったことを聞いたのを思い出した。

「確か、火事で亡くなったって…」

「うん。お姉ちゃんは絵を描くのが好きで、コンクールで金賞を取るくらい絵が上手だった。私が美術部に入ったのもお姉ちゃんの影響だし」

真白は、きっと仲がよかったんだろうな、と思った。

真白は兄弟はいなかったが、春香とは本当の姉妹のように育った。

なので、春香に双子の妹がいたというのを聞いた時は驚いた。

(いつか、叔母さんともちゃんと話せるようになるといいんだけど…)

まだそれには時間がかかりそうだ。

「雨、上がったみたいだね」

結奈が窓を見て言った。

真白も目を向けると、綺麗な虹が出ていた。



紫音は、部活が終わったあと、水道で水を飲んでいた。

ふと、外を見た。

さっきまで降っていた雨が嘘のように綺麗な青空が広がっていた。

(さっきの雨で桜もだいぶ散ったかもな)

水道の蛇口をひねって水をとめた。

「そういえば天音、なんで桜を見て悲しそうにしてたんだ?」

紫音が遠くから見かけた時は、桜を見ていた気がした。

置いてあるカバンを持って、廊下を歩いた。

「そういえば、天音は俺が花蓮のこと好きだって気づいてるんだよな」

自分はそんなにわかりやすいのだろうかと窓ガラスに自分の顔を映した。

「何やってるの?」

紫音が声をした方を見ると、花蓮が立っていた。

(さっきの、聞かれてないよな…?)

あんな独り言を聞かれたら、たまったもんじゃない。

「か、花蓮…い、今の聞いてたか?」

「え?何が?」

花蓮は首を傾げた。

どうやら聞かれてはいなかったらしい。

紫音は、心の中でホッとした。

「これから帰るの?私も帰るんだけど、一緒に帰る?」

「ああ、そうだな」

二人で静かな廊下を歩く。

「静かだね。もうみんな帰ったのかな」

さっきまで聞こえていた生徒たちの声は、あまり聞こえなくなっていた。

「雨も上がったし、帰ったんじゃないか?」

「私も早く帰らないと。結奈と天音が帰ってるかもしれないし」

「…ほんと、よく話すようになったよな」

花蓮は瞬きをした。

「まぁ、あの時よりは、ね」

花蓮は困ったように笑った。

「みんなのおかげだよ」

周りに優しくしてくれる人たちがいたから、花蓮は心を開いてまた話すことができるようになった。

「俺も、花蓮には感謝してる」

「私、何かしたっけ?」

「前に、俺は俺のままでいいって言ってくれたことあっただろ」

花蓮は、しばらく考えこんでいたが思い出したようだった。

「あぁ、前に服屋に買い物に行った時のこと?だってあれ、紫音の好みの服じゃなかったんでしょ?」

紫音は、何年か前にまだ、弟の理音(りおん)として振る舞う癖が抜けておらず、理音が好んで着ていた服を手にとっていた。

その時に、花蓮に『紫音が着たいと思う服を着たら?』と言われて、自分らしさを取り戻せた気がした。


「私は、思ったことを言っただけ。感謝されるようなことは言ってないよ」

(それでも俺は嬉しかった。だから花蓮を好きになったんだ)


天音は、担任に教材を運ぶのを手伝わされてやっと終わったところだった。

「…疲れた。早く帰ろう」

雨も上がったので、傘は必要なさそうだ。

そのまま昇降口に向かった。

その通り道に体育館を通り過ぎた。

少し開いたドアの隙間からのバスケ部が練習しているのが見えた。

(バスケ、もう一回やりたいな)

シュートの練習ぐらいなら大丈夫だろうか。

今度、人がいない時にやってみようと天音は思った。
夕方になって、千輝は、職員室で仕事をしていた。

「まだ残ってたのか」

慧が職員室に入ってきた。

「仕事が残ってて…」

慧は、置いてあった給湯器でコーヒーを二ついれて、一つを千輝に渡した。

「ありがとうございます」

千輝はそれを受け取ると、一口飲んだ。

「そういえば、あの本、どうしたんですか?司書の先生に確認するって言ってましたよね?」

「一度は見せたが、司書の先生の目には中身が何も書かれていないように見えていたらしい。だから湊に表紙の写真を送った。だが、似たようなものは見たことがあってもあの本に見覚えはないと言っていた」

「それってもしかしたら、霊力のある人間にしか見えないものなんでしょうか?」

「その可能性はある。湊も何かわかったら、連絡してくれるらしい」








桜も散り、五月になった。

真白たちの学校では、修学旅行について説明が行われていた。

「修学旅行は、京都に向かいます。まだ先ではありますが、現時点で決まっていることを話しておこうと思います。二年生は人数が多いので、引率の先生も多くなります」

真白は、手元のプリントを見た。

慧と千輝の名前もある。

二人は同じ学年で別々のクラスを受け持っている。

(夏に、京都に行った方がいいのかな…)

送別会の時に会った二人組に夏に退魔師と術師の集まりがあることを聞いていた。

湊に連絡が取れれば、行けるかもしれないと真白は考えていた。

(私、湊さんの連絡先知らないだよなぁ…要たちに聞けば、誰かは知ってるかもしれない)


「湊さんの連絡先?」

真白は要に湊の連絡先を知らないか、聞いてみた。

「一応わかるけど、どうして?」

「聞きたいことがあって」

要はスマホを取り出して、湊の連絡先を表示した。

「あ、でも電話よりメッセージの方がいいかな。大学の授業とかもあるかもしれないし」

今は昼休み。

高校と大学では、授業時間が違うため、メッセージの方がいいだろう。

真白は、湊のメッセージアプリのIDと電話番号を教えてもらった。

「ありがとう。とりあえず、夕方になったら連絡してみる」



夕方になった頃、湊は家に帰って調べ物をしていた。

「あの本と似た物をどこかで読んだ気がする。…どこだったかな」

湊は記憶を辿った。

「あれは、確か…姉さんに会いに行ったときだった気がするんだけど…」

三年前に、湊が久しぶりに姉の渚に会いに行った。

その時に神宮家の書庫を見せてもらったのだ。

「そうだ、その時に似たような本を見たんだ」

湊はスマホを取り出して、慧から送られてきた写真を見た。

「でも、中を見ないとわからないな。もし処分する本なら、そのまま持ってきてもらえると助かるんだけど…」

「何を見ているんだ?」

鵺が現れた。

「この本、なんの本か分かるか?」

鵺に写真を見せた。

「これは古い歴史書だ。表紙のところにそう書かれている」

湊は目を凝らした。

よく見ると何かタイトルのようなものが書かれている。

「俺には掠れてて読めないな…」

「それは人間が解読するのは難しい。おそらくあやかしが記したものだろう。霊力のない人間にはその文字も目に映ることはない」

「あやかしでも、字が書けるのか?」

「人間に化けることが可能なあやかしであれば文字を習得することも可能だ」

(もしかして、古い時代からいたあやかしが記した本も探せばあるのか?そもそもあの学校は、元々は何があった場所なんだ?)


湊が考えていた時、スマホが鳴った。

画面に表示されているのは知らない番号だ。

「誰だろう?もしもし」

恐る恐る電話に出ると、真白の声が聞こえてきた。

『湊さんですか?すみません。要から番号を聞いて連絡しました』

「真白ちゃん?どうしたの?」