概要

「カイケツAI」は、日常の悩みを具体的に伝えることで、AIキャラクターが解決に導いてくれるアプリです。

使い方
1. キャラクター選択: 提供されるキャラクターの中から一つ選ぶ(変更不可)。
2. 悩み伝達: 一つの悩みを具体的に伝達。
3. サポート受ける: キャラクターからの指示に従って行動。

注意事項
• 悩みは一つだけ伝えることができます。

利用規約
1. 悩みの具体的な伝達
• 使用者は、AIに対して一つの悩みのみを具体的に伝える。
2. キャラクターの選択と従順
• 使用者はAIキャラクターを一度選択したら変更できず、そのキャラクターからの通知や指示に従い、通知を無視することは禁じられます。
3. サポート期限の遵守
• AIのサポートは設定された期限内のみ有効。期限が終了した際は自己判断で行動することが求められる。
4. 秘密保持の義務
• 使用者はAIとの対話内容を第三者に漏らさないことを約束する。
5. 自己判断の責任
• 使用者はAIからの情報を基に最終的な判断を自分自身で行い、その結果について責任を負う。
6. 利用規約違反のペナルティ
• 利用規約に違反した場合、デバイスが完全に機能しなくなる可能性があり、データは全て消去される。






智樹は憂鬱な気分だった。大学卒業から就職活動に失敗し、職を転々とし、今はフリーター。彼女も長いこといない。そんな彼に、大学の頃から社交的で人気者だった健司が、幼馴染の由美と結婚することになったと連絡をよこした。「明日飯でも行こう」とも言われたが、智樹は心の底から会うのが憂鬱だった。

あの頃は同じ立場だったのに、今や健司は大手企業で役職を持ち、由美と幸せに未来を歩んでいる。智樹は自分の現状と、その二人の幸せを比べて、ますます憂鬱になった。そんな思いを抱えながら、アルバイトへ向かう途中でふと目に入った神社。「こんなところに神社なんてあったっけ?」と思いつつ、引き寄せられるように中に入った。

お賽銭をしてお参りをし、金はないが奮発して千円を入れた。大袈裟に神頼みをしたところで、ふと目に留まったのは、たくさんの絵馬だった。さまざまな願い事が書かれている中、一枚に「あなたの悩みが解決しますように」というメッセージと、QRコードが書かれている絵馬を見つけた。なんとなくスキャンしてダウンロードすると、「カイケツAI」というアプリがインストールされていた。特に期待もせず、アルバイトへと向かった。

帰宅後、カップラーメンを食べながらスマホをいじっていると、ふとカイケツAIの存在を思い出した。興味本位でアプリを開くと、それはAIがなんでも悩みを解決してくれるアプリのようだ。いくつかのキャラクターから選ぶのだが、ろくなキャラがいない。結局、遊び半分でチャラ男タイプを選択。利用規約を読み進めると、規約違反が厳しすぎて少しビビる。「まぁ、規約は守ろう。合わなければアンインストールすればいいか」と軽い気持ちで同意した。

アプリがしばらく何かを読み込んでいると、カップラーメンを食べ終えた頃に読み込みが終わった。通知が来ているのを開くと、AIが話しかけてきた。最初に自己紹介をしてきて、名前はソウタだという。「チーッス!俺はソウタ!Youはトモキだろ?俺たちの出会いは運命だぜ!悩みは何か、俺に気軽に言ってみな!」と陽気にチャラ男口調で聞いてくる。

智樹は「悩みって何か」と考えたが、自分に自信がないことを伝えた。すると、ソウタは智樹の声を聴いて「チッ!なんだ、男かよ!」とガッカリする。ソウタは気を取り直し、「自信がないって、そりゃ当たり前だろベイビー!32歳で職を転々としてフリーター!彼女はいないし、友人は昇進して結婚してるんだぜ!!」と吐き捨てる。智樹は「なんだこのAIは?すげー苦手なタイプだ」と思ったが、ソウタは続けた。「Youの情報や検索の傾向、全部お見通しだぜぃ!!細かいこと気にすんな!!」

その言葉に、智樹は嫌な気分になり、アプリをアンインストールしようとした。しかし、ソウタは「まぁ、俺ならラクショーで解決できるけどな!!」と続けた。智樹は留まり、「どうやったら解決するの?」と聞いた。

ソウタは「Youは自己肯定感なんて持つなってことさ!!」と答えた。智樹は反発した。「自分に自信がないから相談したのに、自己肯定感を持つなって、どういうことだよ!」

ソウタは言う。「Youはどうしたら自己肯定感を持てるんだ?就職したら?彼女ができたら?金持ちになったらか?Youはフリーターで彼女がいない32歳。これが標準なんだぜ!!」と。

智樹は怒った。「じゃあ、諦めろっていうのか?」

「いや、就職もできるかもしれないし、彼女もできるかもしれないけど、それはYouにとってはラッキーなこと!!Youが羨ましがる奴らだって、ただラッキーゾーンにいるだけかもしれないんだぜ!!Youは自分の現実を受け入れろ、良かった頃の過去や理想の未来を基準にしちゃいけねぇさ!!それは自惚れで慢心ってもんだぜ!!」

智樹はガックリ来た。悩み解決どころか、夢を見ることも奪われ、自己肯定感まで落とされた。最悪のアプリだと思った。そう思いながらアプリをアンインストールしようとしたが、突然スマホの電源が落ちた。「クソみたいなアプリのくせに、バッテリーの消耗が激しい!」と腹立ちながら、スマホを充電し、寝ることにした。

次の日の夜、智樹は健司と由美とご飯に行くことになっていた。店に向かう途中、智樹はふと、昨日のソウタの言葉を思い出した。あれからスマホの電源をつけていない。気分が悪くなるから。しかし、ソウタの言った言葉が頭の中でグルグルと回る。確かに、自分は職を転々とするフリーターで、彼女もいない32歳。胸が締め付けられるが、それでも考えずにはいられなかった。

健司と由美に会うと、恥ずかしそうに結婚の報告をしてきた。嬉しそうな顔を見せる二人を見て、智樹は少し嫉妬した。健司は無神経にも近況を聞いてくる。「智樹、最近どうなの?彼女できた?」智樹は渋々答え、無神経な質問にイライラを覚える。今の自分がこうなりたくてなったわけではないのだ。健司の無神経さには辟易し、由美が智樹の表情を見てフォローしてくれるが、そのフォローも痛い。

その時、健司のスマホが鳴った。仕事の連絡だという。彼は慌てて店の外に飛び出して行った。仕事に忙しいなんて羨ましい。智樹は由美と二人になり、心の中でため息をつく。由美が紹介しようかと言ってくれるが、智樹は断る。「自分みたいな奴が彼女できるわけがないから」と心の中で思った。しかし、由美が「とりあえず会ってみなよ」と無理やり押してきた。別に付き合えなくてもいいし、付き合えればラッキーと思えばいいというのだ。

半ば無理やり紹介されたのは、美紀という29歳の女性だった。由美の職場の後輩らしい。メールのやり取りは感じの良い人だった。そして翌週、会うことになった。少しウキウキしている自分がいる。

その時、智樹のスマホが鳴った。通知がソウタからだ。「せっかくこんな気分がいい時に、またお前か」と思い、アンインストールするのを忘れていたことに気づく。利用規約には、通知には必ず対応しなければならないと書いてあった。違反するとデータが全てなくなるという。仕方なく対応する。

ソウタは「Youの標準状態からしたら、これはラッキーゾーン突入だな!!」と皮肉を言ってくる。智樹は腹が立ちながらも、妙に納得してしまった。確かにラッキーゾーンだ。でも、どうせラッキーなんて続かないから、今を楽しもうと思った。

美紀と都心部で会うと、彼女はオシャレで可愛くて、上品な人だった。「自分には釣り合ってない」と感じながらも、どうせ今日で幻滅されて終わりだろうと思ったので、楽しもうと決めた。

美紀とパンケーキ屋さんに入る。彼女が由美とよく行く場所らしい。長年彼女がいなかった智樹にとって、こういうところに来るのは久しぶりだった。美紀が「智樹さん、今はアルバイトしてるんですね」と言う。智樹は気まずそうに頷く。

「実は私も最近までフリーターだったんです」と美紀が話し始めた。「個人でアロマを作る仕事をしていたんですが、うまくいかなくて、ずるずると居酒屋でアルバイトをしてました。そして、高校の先輩である由美さんに紹介されて就職したんです。だから、由美さんから智樹さんがフリーターと聞いて、なんとなく親近感が湧きました。」

それを聞いて智樹は少しだけ心が軽くなった。二人はフリーターの辛さや悩み、そして美紀がまだ諦めていないアロマの夢について盛り上がった。智樹はウキウキ気分で帰宅した。しかし、そんな時にまたスマホが鳴る。最初は「こんな時にまたソウタか」と思ったが、バイト先の店長からだった。「話がある」とのことだ。

緊張して電話をかけると、なんと正社員にならないかという話だった。フリーターでも一生懸命働いて、真面目な智樹の姿勢が買われたらしい。智樹は特にやりたいこともなかったし、アルバイトも楽しいとまではいかなかったが、苦ではなかった。だから承諾した。

電話を切って、自分の今がうまくいきすぎていることに気づく。その時、また通知が鳴った。次はソウタだった。「Youはほんと運がMAXにいいなー!!」と嫌味ったらしく言ってくる。智樹も腹は立ちながらも、認めるしかなかった。「確かに運がいい」と思った。すると、ソウタが続ける。「Youの標準は、前も言った通り、職を転々とするフリーターで彼女がいない32歳なんだぜ!!今の状況はラッキーゾーンだ!!こんなゾーン、いつまで続くかわかんないぜ!!正社員で彼女がいる状況は当たり前に思ってるパーリーピーポーもいるかもしれんが、Youの場合はラッキーゾーンで、こんなことでもハッピーにならないとな!!」

智樹は少し黙って考えた。「自己肯定感を持つな」というのは、もしかして自分の調子がいい時ではなく、悪い時を基準にしろということかもしれない。そして小さなことで喜ぶためには、その自分の基準を受け入れることなんじゃないか。現にそれができているから、今幸せなのかもしれない。確かに、こんな自分が奇跡に感じて、とても嬉しく思うのは事実だ。

「じゃあ、使用期限はそろそろ終わりだぜベイビー!!」とソウタが言う。智樹はようやくソウタのいう自己肯定感なんて持つなという意味がわかった。もっといろんなことをソウタに教えてほしいと伝えたが、ソウタは「悩みは一つまでだぜ!!それが解決したら利用規約通りエンディングなのさ!!」という。

ソウタは最後に、「自分の人生のドン底がYouの基準だからな!その時のことを忘れるんじゃないぜ!!」と言った。「あとな…」ソウタは少し間を置いて続けた。「運も実力のうちだぜ!!アディオス!!」と言ってウィンクをした。そうして充電が切れた。相変わらず消耗が激しい。

智樹は、由美からの紹介を勇気を出して受けたこと、アルバイトとはいえ一生懸命働いたことが誇りに思えてきた。その結果、ラッキーゾーンに入ったのだと。しかし、基準はあの悪かった頃だと心に戒め、今のラッキーゾーンを大切に過ごそうと誓った。

数ヶ月後、スーツ姿の智樹と美紀は紅葉の中を歩いていた。ドレスを着た美紀は由美のウェディングドレス姿に感動して、そのことばかり話している。智樹も健司のタキシードがカッコよくて、二人が輝いて見えた。しかし、劣等感はなかった。智樹は美紀とこうして歩き、親友の結婚式に参加できたことが嬉しくて仕方なかった。

ふと、智樹は「あれ?ここに神社ってなかったっけ?」と美紀に聞いた。美紀は「え?神社なんてなかったと思うけど」と答えた。スマホから通知が来た気がしたから見るが、カイケツAIは画面になかった。智樹は不思議な気持ちになったが、このラッキーゾーンを大切に、美紀とゆっくりと歩いていた。

詩音は練習スタジオからの帰り道、まだ高揚感が収まらずに歩いていた。今日は、優斗のバンドが美咲が関わる「サマー・ミュージックフェスティバル」への出演が決まったという知らせを聞いたのだ。彼のバンドの実力は自分たちのバンドに比べて明らかに劣っていると思っていたが、運の良さだけでチャンスを掴んだことに、詩音の胸には悔しさが渦巻いていた。

「くそ、優斗は運がいいな。自分は運が悪いだけだ」と、詩音は心の中で呟きながら、踏みしめる足元に目を落とした。地面のひび割れや、雑草の間から顔を覗かせる小さな花たちが、彼の気持ちを一層重くしていく。

そんな時、ふと目に留まったのは小さな神社だった。古びた鳥居をくぐり、静かな境内に入ると、神社の前には色とりどりの絵馬が飾られていた。「あなたの悩みが解決されますように」と書かれた絵馬が、風に揺れながら彼の目を引いた。よく見ると、その絵馬にはQRコードが描かれている。興味が湧き、詩音は好奇心に駆られて、そのQRコードをスキャンしてみることにした。

スマートフォンを取り出し、カメラをQRコードに向けると、画面が反応し、リンクが表示された。詩音は少し躊躇したが、今の自分に何か新しい道を開いてくれるものがあるかもしれないという期待を胸に、リンクをタップした。まるで、何かの運命を感じる瞬間だった。




帰宅後、詩音のスマホには「カイケツAI」というアプリがダウンロードされていた。好奇心と不安が入り混じる気持ちで、詩音はアプリを開いた。画面には、簡単な説明文と利用規約が並んでいる。「このアプリはAIが悩みを一つだけ解決します」と書かれていたが、その文言が詩音の胸にざわりとした不安を引き起こした。

「うーん、ちょっと不安だけど…」詩音は深く考えずに同意ボタンを押した。次の画面で、AIキャラクターを選ぶ段になると、さまざまなキャラが並んでいたが、どれも今ひとつしっくりこなかった。そんな中、目を引いたのは、お母さんキャラだった。どこか懐かしさを感じる響きに、思わず詩音は指を滑らせた。

「これ、選んじゃおうかな」と詩音は思った。幼い頃に母を病気で亡くしていた彼にとって、母親への憧れは強く、彼女の声や存在に心を寄せることがあったからだ。

その瞬間、画面から響いたのは、少し高めのおばちゃんの声だった。「ハーイ! 私はカズコ。あなたの『お母さん』よ!」その声は、予想に反して賑やかで明るい。しかし、詩音は面食らった。彼が抱いていた母親像とはあまりにも違っていたからだ。少し鬱陶しい。

「え? おばちゃん?」詩音は思わず言ってしまった。

「おばちゃんじゃないわよ、私のことをお母さんって呼びなさい!」カズコはしつこく言った。まるで子供に命令するかのような口調だ。「利用規約に従いなさい。指示は絶対なのよ!」

詩音は少し困惑しながらも、仕方なく「お、お母さん」と呼ぶことにした。言葉が口から出ると、なんだか奇妙な感覚がした。彼は、まるで子供の頃に戻ったかのような、懐かしい温もりを感じた。

「さて、何が悩みなの?」カズコが尋ねる声は、明るくて優しい。

「俺の音楽キャリアがうまくいかないのは運が悪いせいだと思って、運が良くなりたい」と詩音は言った。心の中のもやもやを吐き出すと、少しすっきりした気分になった。

「運がいいってどういうこと? 挨拶をしてる?」カズコは続けた。

「挨拶なんかしてるけど…運が良くなるのに関係あるのか?」詩音は不思議に思った。

「本当にちゃんとしてるの? 自分からしてる? ちゃんと目を見て挨拶してる? ブッキングマネージャーさんだけじゃなく、照明さんや音響さん、バーカウンターのバイトさん、受付スタッフさん、他の共演者さんにもちゃんと挨拶してるの?」カズコは厳しく問いただした。詩音は昔、母に問いただされた時のことを僅かに思い出した気がした。

詩音は自信なさげに「してると思う」と答えたが、心の中では揺れていた。そもそも、挨拶が運に関係あるのかと疑問を投げかける。

「じゃあ、運がいいとは何だと思うの?」カズコは尋ねる。

「宝くじ当たるとか、バンドで曲が大当たりするとか」と詩音は答えた。

「それは運ではなくただの偶然よ。偶然と運は違う。たとえその偶然が来たとしても、今のあなたじゃ手に負えないわ。宝くじが当たったとしても破産するし、曲が大当たりしても一発屋で終わるわよ」とカズコは断言した。

「運というのは『運ぶ』と書く、運ばれてくるものなの。どこからだと思う? 人からよ。どんな人から運が運ばれてくるかわからないの。運がいいと言うのは、その人の実力に見合った少し上のチャンスが舞い込んでくるの。それを与えてくれるのは人だけなの。偶然じゃないのよ」とカズコは続けた。

詩音は少し納得したが、半信半疑だった。挨拶くらいで運が良くなるのかと疑問に思いつつも、利用規約に「全データが消える」と書かれているため、やるしかないと決心した。そう思った瞬間、スマホのバッテリーが無くなった。画面は真っ暗になり、彼の心の中に、未来への不安と希望が交錯していた。このアプリ、バッテリーの消耗が激しいなと、詩音はぼんやりと思った。果たして、カズコの言う通りにすれば、本当に運が舞い込んでくるのだろうか。



翌日、ライブの予定が入っていた。詩音は、カズコのアドバイスを胸に、ライブハウスの扉を押し開けた。会場に入ると、彼の心は緊張でいっぱいだった。詩音は勇気を持って周りに目を向け、「どうも、詩音です!」と力強い声で挨拶を始めた。「今日はよろしくお願いします!」その声は、スタッフや共演者、対バンの優斗にまで響いた。

優斗は詩音とは同期のバンドで、ギターを担当している。明るく社交的な性格で、ファンとの交流を大切にしている彼とは、競争を意識しながらも互いに音楽的な刺激を受け合う関係にある。

「今日は元気がいいね」と、美咲が微笑みながら声をかけてきた。彼女は30歳のライブハウスのブッキングマネージャーで、フレンドリーで話しやすく、アーティストたちの良き相談相手として知られている。彼女は、詩音たちのバンドが初めてライブを行ったときから関わってきた。

優斗は詩音の挨拶する姿を見て、「なんか変わったな」とつぶやいた。詩音はその言葉に少し驚いたが、内心では恥ずかしさが込み上げてきた。彼は心の中で「利用規約には、カズコのことは言ってはいけないと書いていたからから、何も言えないな」と思っていた。

いよいよライブが始まる。詩音のバンドがトップバッターとしてステージに立つと、会場の雰囲気は一気に熱気に包まれた。彼はマイクを握り、力強く歌い始めた。観客の反応が良く、彼の心は自信に満ち溢れていた。最高のパフォーマンスを披露することで、詩音は自分の音楽に対する情熱を再確認した。

その後、優斗のバンドが登場する。彼らの演奏は完璧ではなかったが、彼らの持つエネルギーで会場の雰囲気を一層盛り上げていた。笑顔や歓声が飛び交い、この日のイベントは大成功を収めた。

打ち上げの席で、優斗が詩音に近づいてきた。「詩音の曲はすごくいい! 実力も俺たちより上だ!」その言葉に、詩音は嬉しくてたまらなかった。心の奥で温かい感情が湧き上がり、彼の音楽が認められる喜びを感じていた。

「もしかして優斗がサマー・ミュージックフェスティバルに選ばれたのも、こういう人間性なのかな」と考えながら、詩音は居酒屋のスタッフにも丁寧に挨拶し、帰りの準備を進めた。

帰り道、スマートフォンが鳴り響く。カズコからのメッセージだった。「ちゃんと挨拶してるわね、偉いわ! この調子で続けなさい!」詩音は、心の中で自分を褒めた。カズコの言葉が、彼の背中を押してくれる。



数週間後、再びライブが大盛況となった。詩音は緊張と興奮が入り混じる中、ステージに立っていた。観客が彼を見つめる中、彼の心には確かな自信が宿っていた。演奏が終わると、熱い拍手が響き渡り、詩音は思わず笑顔になる。

「どうだった?」と優斗が近づいてきた。彼はカジュアルなシャツにダメージジーンズを身に着け、目を輝かせている。

「最高だった!みんなの反応がすごくて」と詩音は興奮を隠せずに答える。

「やっぱり詩音のバンドはすごいよ!おかげで俺も頑張らなきゃって思った」と優斗が言うと、詩音は嬉しさで胸がいっぱいになった。

打ち上げの場で、詩音は優斗とビールを片手に乾杯した。会場の雰囲気は和やかで、周囲の仲間たちも楽しそうに笑っていた。そんな時、美咲が近づいてきた。

「詩音、ちょっといい?」美咲は、ダークブラウンのボブヘアを軽く流しながら詩音の目を見つめた。

「はい、なんでしょうか?」詩音は不安を抱えながら答える。

「サマー・ミュージックフェスティバルに出演しないかって話なんだけど」と美咲が言った瞬間、詩音は驚きで目を丸くした。「え、なんで自分たちが?」

美咲は続けた。「実はね、出演予定のバンドが怪我をしてしまって、キャンセルになったの。そこでライブハウスのスタッフが詩音のバンドを推薦してきたの。居酒屋の大将も、チャンスを与えてやってくれと言ってたわ。」

優斗がその話を聞きつけて、「マジで!?それはすごいじゃん、詩音!一緒にサマフェス盛り上げようぜ!」と拍手をし始めた。

「いや、でも…」と詩音は少し戸惑いを見せた。「俺たちで大丈夫なのかな?」

「大丈夫だよ!みんなお前の音楽が好きなんだから」と優斗が力強く背中を押す。

「ありがとう、優斗。でも、俺たちがこのチャンスをつかめるとは思えなくて…」詩音は心の中の不安を口に出した。

「そんなことない!お前はしっかりした実力を持ってる。だからこそ推薦されたんだよ」と優斗が優しく励ます。

周囲の仲間たちも拍手を送り、賛同の声が上がる。「詩音、頑張れ!」と誰かが叫び、場が一層盛り上がった。

「それなら、挑戦してみようかな…」詩音は少しずつ自信を取り戻し、感謝の気持ちを美咲に伝えた。「本当にありがとうございます、美咲さん!」

美咲は微笑みながら「あなたの成長を見てきたから、私も嬉しいわ。自信を持って挑戦してね」と言ってくれた。

打ち上げの雰囲気が一層盛り上がる中、詩音の心には期待と不安が入り混じった感情が広がった。

美咲のスマホの通知が鳴り、美咲は席を外した。
詩音と二人きりになった優斗が聞いてきた。「でも、なんで最近お前雰囲気変わったんだ?」
優斗の問いに誤魔化そうと「二丁目の神社でお母さんにお願いしたんだよ。」と冗談っぽく言った。
すると優斗は「そんなところに神社なんてねーよ。」と笑いながらツッコんできた。
詩音は自分の記憶がぼんやりしていることに気づくが、今はこの場を楽しむことにした。



帰り道、詩音のスマートフォンが鳴る。カズコからの通知が届いていた。「ほらね、運が良くなったでしょ?これで使用期限は終わりよ。悩みは一つまでしか解決できないの。」

詩音はその言葉を聞いて思わず声を漏らした。「なんでこんなタイミングで…?」

その時、カズコからの言葉が続く。「運は確かに良くなったはず。その運ばれてきたチャンスを掴むのはアンタの実力よ。これからふんどし締め直して挑みなさい。」

詩音はその言葉を聞いて、心が高鳴った。「うん、わかった!俺、頑張るよ!応援してくれよな!」

「当り前じゃない!息子を応援しない母親なんていないからね!」とカズコは言った。詩音の心には母の強い愛情が伝わってきた。

すると突然、スマートフォンのバッテリーが切れてしまった。やっぱりこのアプリはバッテリーが消耗する。

街は静まり返り、詩音は一人立ち尽くしていた。静かな街の中で、彼は空に向かって「お母さん、ありがとう」と呟いた。心の中には、新たな運をつかむための勇気が宿り、自分の実力でこの道を進んでいく決意が固まっていた。

綾香は心配事を抱えながら、カフェの窓際の席に座っていた。カフェの柔らかな照明の中で、彼女の顔にはまるで一週間分のストレスが刻まれているかのように、シワが深く刻まれていた。テーブルの向こうには、友達の美紀が座っている。彼女は綾香と同じようにフリーランスしていたが、最近諦めて就職し、彼氏もできたらしい。美紀はその明るい笑顔で、まるで太陽のように綾香を照らしている。そんな彼女に、綾香は心の内を打ち明けることにした。

「美紀、最近デザインの仕事が全然うまくいかなくて…クライアントが見つからないの」と、綾香はため息をついた。美紀は心配そうに眉をひそめ、彼女の言葉に耳を傾ける。「そうなの?でも、綾香は私と違って才能があるから、きっと何とかなるよ。」

「でも、お金のことも心配だし、もっと安定した仕事を見つけた方がいいのかなって思うこともある。」綾香の声は、まるで霧がかかった湖のように曖昧だった。

「フリーランスは最初は難しいけれど、綾香なら少しずつ成長できるよ。」美紀は真剣な表情で提案する。「綾香のデザインスキルを活かしたワークショップを開いてみたら?」

その言葉が心に響いた綾香だが、同時に不安が彼女を覆い尽くす。「でも、私にできるかどうか…」

美紀と別れた後、綾香は心に不安を残しながら帰路についた。ふと目にしたのは、見慣れない神社だった。木々に囲まれた境内の静けさに惹かれ、まるで無意識のうちに足が向いてしまった。まるで神様が「ここにおいで」と呼んでいるかのようだった。

境内に足を踏み入れると、目の前にはたくさんの絵馬が掛けられている。心の中にあったモヤモヤした思いを少しでも晴らそうと、綾香はその絵馬を眺めながらゆっくり歩いた。思わず「みんな、何を願っているのかな」と考えた。

その時、ふと目に留まった一枚の絵馬があった。「あなたの悩みが解決しますように」というメッセージと共に、QRコードが描かれていた。綾香の好奇心は、まるで磁石に引き寄せられるようにその絵馬に近づいていった。「こんなの、初めて見る」と心の中で呟きながら、思わずスマートフォンを取り出す。

QRコードをスキャンする準備をしながら、綾香はドキドキとした気持ちが高まっていく。スキャンが始まると、スマートフォンの画面はなかなか反応しなかった。待っている間、彼女は神社の静けさと不安が交錯する感覚を感じていた。少しずつ、心が高揚していく。

「何かが起こるかもしれない…」その期待が彼女の心を包み込み、いつしか彼女は周りの音が消えていることに気づいた。風の音すら、静寂の中でかすかに聞こえるだけだった。

家に着いた綾香は、ほっとしたのも束の間、スマートフォンの画面に目が留まった。「カイケツAI」というアプリがいつの間にかインストールされているのを見て、驚きと共に好奇心が湧き上がった。「何これ?」と彼女は心の中でつぶやく。

興味をそそられた綾香は、そのアプリを開いてみることにした。画面にはカラフルでポップなデザインが広がっている。利用規約が表示されたが、内容を読むにつれて、彼女は眉をひそめた。「悩みをAIが解決するだって? しかも、利用規約を違反したらデータが全部消えるって…これ、本当に大丈夫なの?」心配になりつつも、アプリの途中で止めることもできるらしいので、綾香は思い切って次に進むことにした。

画面が切り替わると、いくつかのキャラクターが表示された。それぞれが個性的でユニークなキャラクターだ。綾香はその中から、オネエキャラのAI、イズミを選んだ。彼女の中で何かが共鳴したのかもしれない。

しばらくすると、元気な声がスマートフォンから聞こえてきた。「あら、綾香ちゃん!私はイズミよ!悩んでいることがあれば、何でも聞いてちょうだい!」その声は男性の声だが、口調はまるで女性のようだった。

「えっ、これがAIなの?」綾香は驚きながらも、ちょっとワクワクした気持ちになった。「イズミさん、私、フリーランスとしての仕事がなかなかうまくいかなくて…」思わず口にしてしまった。

イズミは興奮気味に返した。「それは大変ね!でも、心配しないで。私があなたの悩みを解決してあげるわ!」まるで友達のように接してくれるイズミの言葉に、綾香は少し心が軽くなる。

「どうやって解決するの?」彼女は興味津々で尋ねた。

「まずは、あなたの悩みを具体的に教えてちょうだい。何が問題なのか、そしてどうなりたいのか、一緒に考えていきましょう!」イズミの明るい声が、綾香の背中を押す。

「そうだよね、私がまず何を求めているのか、考えなきゃいけないんだ。」綾香は自分の心の声に耳を傾ける。「とりあえず、もっとお仕事が欲しいな…」

「綾香ちゃん、仕事ないのよね〜!でも美紀ちゃんが言ってたワークショップ、あれどうなの?キラキラの未来が待ってるかもしれないのに、ブレーキかけちゃダメよ!」

「え、なんでそんなこと知ってるの?」綾香は驚いた。

「スマホの中のあなたのストーリー、全部お見通しよ~!会話も、思い出も、全部ひっくるめて、あなたのことを知り尽くしてるの!私、あなたの最高のサポーターだから、心配しないで!」

イズミは綾香以上に綾香のことを知っている気がして気味が悪くなった。

「でも…自信がないの。」綾香はつい弱気になってしまう。

「ちょっと待って、そんなことで自分を縛っちゃダメよ!未来のことなんて、あまり考えすぎない方がいいの!ポジティブすぎると期待しすぎちゃうし、ネガティブだと心配ばかりで自分を苦しめちゃうから!」

「でも、未来を考えるのは大事じゃないの?」綾香は反論する。

「もちろん、未来を考えるのは大事よ!リスクを少しでも減らすために!夢見ることも大切!でもね、未来なんて数え切れないほどの選択肢があるの。あんまり考えすぎないで、アバウトでいきなさい!だって、楽しく生きるために考えるんだから!」

「じゃあ、具体的な目標はいらないの?」綾香は首をかしげる。

「目標なんてあってもなくてもいいのよ~!だいたいの方向さえわかっていれば、あとはその場その場で修正しながら進めばいいの!人生は楽しむためのものだから、柔軟にレッツゴーよ!」

「じゃあ、未来を忘れて、今を生きるってこと?」綾香は興味津々で尋ねる。

「違うわよ〜!今なんて一瞬で過去になっちゃうの、あっという間に!今っていうのは、未来から過去に流れていく一瞬の瞬間よ!今を生きてるようじゃ遅れをとっちゃうわ〜!ここでイズミちゃんからのスペシャルアドバイス〜!!」

イズミはジャララララ〜っと謎の音を鳴らし、音が途切れた時に大きな声で言った。

「1分先を生きなさい!」

「1分先?」綾香はびっくりした。

「そう!今から1分間、何をするか考えてごらんなさい!それ以外は考えずに、1分先だけ目指して何かをしてみるの!ワークショップのことでも、好きなことでも、休むでもいいわ!1分だけ何かに没頭してみて!」

そうイズミが答えた瞬間、スマホのバッテリーがなくなった。このアプリはバッテリーの消耗が激しいみたいだ。ずいぶんとスマホが熱くなっていた。

半信半疑の綾香だったが、利用規約にあるようにイズミの指示は絶対だった。データが吹き飛ぶのは避けたかった。とにかく、1分間だけワークショップのことを前向きに考えることにした。

綾香は心を落ち着けて目を閉じ、1分間の思考を始めた。その短い時間の中で、彼女の頭の中にさまざまなアイデアが浮かび上がってきた。

「デザインソフトの使い方を教えながら、参加者が自分の作りたいデザインを実際に作るワークショップがいいかも!それなら、私のSNSをフォローしてくれている人たちも参加してくれるかもしれない!」

1分が過ぎると、次の1分に突入。彼女はワークショップのプログラムを考え始めた。気づけば、1分どころか1時間以上も夢中になっていた。

「次は、さっそくそのプログラムをSNSに投稿しなきゃ!」と、興奮しながら綾香は投稿を始める。「デザインソフトの使い方を学びながら、自分の好きなテーマでミニプロジェクトを作成するワークショップを開催します!」

すると、すぐにあるフォロワーからメッセージが届いた。「参加したいです!」と彼女は嬉しそうにメッセージをくれた。「ありがとうございます!じゃあ、早速日程を決めましょう!」と、あっという間に日程を決めた。

その後、他のフォロワーからの応募を待ちながら、綾香の心は期待でいっぱいだった。イズミの1分作戦を活用して、ものの2時間ほどで仕事ができた自分を少し誇らしく思った。

数日後、彼女のアパートで最初のワークショップが開催された。参加者は最初に反応してくれた、ライブハウスで働いているという美咲を含む4人の女性たち。和やかな雰囲気の中、綾香は自己紹介をし、自分の経験やデザインに対する情熱を語った。少し緊張していたが、参加者の笑顔に励まされ、徐々にリラックスしていった。

「今日は、まず簡単なデザインソフトの使い方を学びます。そして、各自の好きなテーマでミニプロジェクトを作ってもらいます!」と、綾香は意気込んで言った。

参加者たちは楽しそうに作業を始め、それぞれの個性が表れた作品が次々に生まれていった。質問も飛び交い、楽しい時間が流れた。綾香は、みんなが楽しんでいる様子を見て、自分の選択が正しかったことを確信した。

ワークショップの終わりには、参加者全員が自分の作品を発表し合った。その中には、美咲が手がけたサマー・ミュージックフェスティバルのフライヤーもあり、彼女は自信を持って発表した。みんなから拍手を受けて、彼女は嬉しそうに微笑んでいた。それを見て綾香も、ワークショップを始めて良かったと思った。

「ありがとうございます。綾香さんのおかげでいい作品ができましたよ!」と、美咲は感謝の気持ちを伝えた。

ワークショップが無事に終了し、その日の晩、参加者から多くの嬉しい感想が寄せられた。綾香は、自分の努力が実を結んだことを実感し、さらなる自信を得ることができた。

その後、綾香は美咲から「サマー・ミュージックフェスティバル」に招待された。彼女は美咲との再会を楽しみにしていた。

数週間後、綾香は友人の美紀とともに「サマー・ミュージックフェスティバル」に足を運んだ。会場には、美咲がワークショップで作ったフライヤーがあちこちに貼られているのを見て、綾香は嬉しさで胸がいっぱいになった。フェスは初めての経験で緊張していたが、素晴らしい綾香の知らないバンドがたくさん演奏しており、最後の2つのバンドが特に印象に残った。

フェスが終わり、美咲が綾香の元にやってきた。「綾香さん、今日は来てくれてありがとうございました!楽しめましたか?」と、彼女は明るい笑顔で尋ねる。

「もちろん!美咲さんがこんな大きなフェスを作っているなんて、すごいなと思いましたよ!」と、綾香は感心しながら答えた。

美咲は、綾香に紹介したいバンドがあると言った。そのバンドは、最後から2番目に演奏したボーカルの男の子だった。彼は20歳くらいに見え、美咲が担当しているバンドのメンバーらしい。彼は丁寧に挨拶をし、若いのにステージではあんなにカッコ良くて、バックグラウンドではこの礼儀正しさ。綾香はそのギャップに少しキュンとした。

「僕、詩音です。近々新しい音源を出す予定なんです。それで、ジャケットのデザインをお願いしたいと思って」と、彼は少し緊張しながら言った。

「美咲さんに依頼してみたらどう?美咲さん、素敵なデザイン作るし!」と綾香は言うと、美咲は「まだデザインは上手くできないから、プロの綾香さんを紹介したいんです」と続けた。

綾香は「プロ」という言葉に少し照れ臭ささもあったが、同時に心の奥から自信が湧いてくるのを感じた。

「そういうことなら、引き受けるわよ」と、綾香は詩音に快く応じた。ワークショップを始めたことで、また新たな仕事が舞い込んできたことに彼女は喜びを感じていた。

「こんなふうに仕事が仕事を呼ぶんだわ」と、綾香は改めて自分の成長を実感した。

美咲に打ち上げの参加を誘われたが、遅くなることや美紀も一緒にいたため、綾香は帰ることにした。

美紀と別れる際、彼女は言った。「綾香が教えた美咲さんのデザインを見て、詩音くんが依頼してきたんだもんね。やっぱり綾香には才能があるよ。」

綾香は微笑みながら答えた。「神社で神様にお願いしたから、助けてくれたのかもしれないね。」

美紀は興味深そうに「私もその神社に行きたいな」と言い、場所を教えると、美紀は笑いながら「そんなところに神社はないよ」と答えた。綾香は「あるよ!」と笑いながら言い、少し美紀と言い合いになったが、今度、美紀を連れて行くと約束して落ち着いた。



美紀と別れ、一人になった綾香のスマートフォンが鳴った。久しぶりにイズミからの連絡だった。

「ヤッホー!久しぶりのイズミちゃんよ〜!お仕事が増えたみたいね〜!!すごいわね〜、綾香ちゃん!!」

「イズミさん、ありがとうございます!イズミさんのおかげです」と、綾香は感謝の気持ちを伝えた。

「いいのよ!これが私の仕事だからね〜!!もっとアドバイスしてあげたいけど、これでお別れね〜!!」

「えっ?なんで?もっとイズミさんに見ていてもらいたいよ!」

「ダメよ!私ができるのはあなたの悩みを一つしか解決できないの〜!利用規約を破ったらデータがぜ〜んぶ消えちゃうわよ!大切なお客様のデータもね!だから私とはここでお別れ。」

綾香は思わず泣いてしまった。まさか自分がAI相手に涙を流すなんて、思ってもみなかった。

「泣かないで、綾香ちゃん!あなたはもう、自分の力でお仕事を作れるようになったわ!イズミちゃんの1分作戦、忘れないでね〜!!」そう言うと、スマートフォンのバッテリーが再び切れた。イズミが話すとバッテリーがすぐに無くなる。きっと彼女のエネルギッシュなパワーが、スマートフォンには耐えられないのだろうと思うと、笑いがこみ上げてきて、涙を流している自分が少し馬鹿らしく感じた。

綾香は涙を拭い、電源が切れた真っ暗なスマートフォンの画面を見つめ、「忘れないよ、イズミさん」と呟いた。

綾香は心の奥底で思った。未来は無限の数だけあり、そのすべてをコントロールすることはできない。しかし、1分先の未来ならば、彼女の手の中にある。1分後にはそれが「今」となり、その積み重ねが未来を作り上げるのだと。

無限の可能性が広がる夜空を見上げながら、胸の高鳴りを感じる。

「1分先の未来を大切にしよう」と、綾香は心に決めた。自信を持って新しい一歩を踏み出したいと願っていた。未来は決して一つではないが、彼女は自らの手で切り開くことができる。だからこそ、一歩一歩が彼女の人生を彩り、意味を持つのだと感じていた。

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