ふ~、
 そこまで一気に読み進めて芯賀は目を瞑った。
 頭の中には、かつて世界史を勉強した時に覚えた数々の文言が浮かんでいた。
 古代オリエント文明、ビザンティン文化、イスラム文化。
 それは、多様な文明と文化が融合した他に類を見ない独特なものだった。
 
 さて、
 教科書の文言を頭から消して、トルコとロシアとの関係が書かれている箇所に目を移した。
 トルコはオスマン帝国時代からロシアと対立しており、断続的に交戦してきたという歴史がある。
 更に、トルコがNATOに加盟したことからその関係は悪化の一途をたどった。
 しかし、軍事的緊張に反して経済的には結びつきが強く、特に天然ガスをロシアに頼っていることから、工業振興の側面で良好な関係を構築している。
 そんな中、シリアでトルコ軍機がロシア軍機を撃墜するという事件が起こった。
 それに強く反発したロシアは、トルコからの農産物の輸入を禁止すると共にロシア人観光客が利用するチャーター便の運航を停止した。
 更に、天然ガスパイプラインや原発建設の凍結など、厳しい経済制裁に踏み切った。
 それに対してトルコは反発したが、年間470万人に達するロシアからの観光客が9割減るなど国内経済に大きな影響が及んだことから態度を軟化させ、プーチンに送った書簡の中で謝罪を表明した。
 そうしてロシアとの関係改善に向かい始めた時、エルドアンに対するクーデター未遂事件が起こった。
 その黒幕と目される人物がアメリカ在住のイスラム指導者と断定して身柄引き渡しを要求するも、アメリカがこれを断ったために対立が表面化する。
 それを見逃さなかったのがプーチンだった。
 クリミア問題やドーピング問題で欧米と対立する中、トルコとの関係改善を一気に進めたのだ。
 その結果、NATO加盟国であるトルコがロシア製の最新鋭迎撃ミサイルを購入するという前代未聞の事態となった。
 トルコは急速にロシアへ接近していったのだ。