それが二週間前のこと。そして、また現在に戻る。

 倫久はやっと学校に来た。スラックスのしわがちゃんと伸びていた。シャツはどうやらポロシャツに買いなおしたみたいだ。
 『委員長、思ったより元気だな』と先ほどのヒロの言葉にニヤリとする。彼がこの2週間頑張っていたことをこのクラスで俺だけが知っているから。

 授業中だが気にせず、スマホを確認する。
 さっき鳴ったのは、倫久からのRINEだった。

 倫久:来たよ 学校
   美緒さんが今日も家においでって 行ってもいいかな

 ニヤついてしまった。慌てて口を引き結ぶ。

 祐一郎:おう来い

 と言葉はそっけなくして、スタンプは動物系にすることにした。スマホをポケットにしまって、また窓を見た。窓には反射して倫久が映っていた。姿勢がいいのは剣道部だからだろうか。
 鬱陶しいくらいに太陽は明るい。もうすぐ期末で、そのあとは夏休みだ。




 ☆☆




 うちの学校には、正門のほかに、徒歩通用の裏門がある。と言っても、バス通、電車通の人間は正門のほうが近いし、自転車通の自転車置き場も正門に近い。徒歩通でも寄り道派には正門のほうがいろいろと店がそろっているため。裏門はほぼ人通りがない状態だ。裏門の存在を知っている者も、少ないかもしれない。
 だが、旺次郎の通う保育園に行くにはこちらからのほうが近い。
 RINEでやりとりして、裏門前で待ち合わせた。
 「へぇ、裏門なんて初めてだ」
 倫久が感心していた。

 裏門を出て寺の境内を抜ける道を通る。10分ほどで旺次郎の通う保育園に着いた。
 「すごい大きな道を使うともう少しかかるよね。良いこと聞いたよ。ありがとう」
 倫久は無邪気に喜んでいる。尊すぎて眉間にしわが寄る。
 カバンから保護者名札を出して園に入ると、いつも通り園児たちの注目を集めた。今日は子分を連れていると、どこかの子がポソリとつぶやいていた。子分じゃない。想い人だと目で訴えておいた。


 園庭で待っていると、旺次郎と理央が出てきた。あひる組の先生は男の先生だ。かわいらしいくまちゃんエプロンをつけていなければ、なにかのスポーツ選手かのようにガタイがいい。
 「今日も、問題なく過ごせました。詳しくは連絡帳に書いてあります。あと、七月二十五日にお泊り保育がありますが……理央君はどうしますか?」
 この先生、自分がガタイが良いのを理解していてしゃべり方がすごく丁寧だ。
 「えっと……」
 倫久は眉を八の字にして困っている。
 「お泊り保育の日は、夏祭りがありまして。保護者の皆さんで屋台を出していただいています。ですから参加なら係りの希望を聞いていてですね。的あて屋さん、魚釣り屋さん、くじ屋さん、あと、たしか長瀬さんところは、今年はヨーヨー屋さんでしたね。もちろんそちらの係りで参加が難しいようなら、お布団を並べる方もありますが……」
 倫久の視線がこちらを向いた。
 「今年は俺が出る。倫久もヨーヨーすれば?」
 倫久はうなずいて、書類を受け取っていた。
 「やったあー、理央君。今年も、お泊り保育一緒だね。お隣で寝ようね!」
 旺次郎が理央君の手をぶんぶん振って、はしゃいでいる。理央君もうれしそうに笑っていた。