ご飯をよそっていると、ガレージから音がした。ガチャガチャと玄関が開いて、ペタペタとスリッパの音が聞こえる。
 リビングのドアを開けたのは母だった。母の後ろには、春奈もいた。

 「ただいま! あれ? お客さん?」
 「いや、RINEしたろ」
 「見たかな?」今、既読をつけた。何のためのRINEだ。
 「おかえり!」
 旺次郎が元気に答えた。そのとなりに理央君と倫久がちんまりと座っている。彼らは生真面目にお辞儀をする。

 「あれ?かわいい」
 「おーの保育園のおともだちです。で、祐にぃのおともだちのとも君です」
 すこし得意げに旺次郎が答えている。母親の視線が俺の方に向いた。説明しろよと言ってきているようだった。
 「スーパーでばったり会って」
 もごもごっと答える。それ以上の説明は何もないと明後日の方を向いた。

 「まぁ、お腹空いたし、話は食べながらにしましょうか!」
 母はいつも通りのマイペースで、場を仕切る。


 ダイニングテーブルに全員がそろう。
 「え?こんなにたくさん作ってた?」
 倫久はテーブルの上に所狭しと並んだ料理に驚いていた。
 ごはん、味噌汁、ロールキャベツ、そこにきんぴらと、ニンジンラペ。じゃがいもとベーコンの炒め物。ほうれん草の胡麻和えなんかが並んでいた。
 「常備菜だよ。もともと作ってたやつを皿に盛っただけだ」
 「私が作ったの。食べて!」母が得意げに胸を張る。

 「いただきます」
 皆で手を合わせて食事を始めた。
 湯気の立つロールキャベツを前に理央君が目を輝かせている。倫久も炊いたばかりのご飯を噛みしめていた。


 さっきまで勝っていた男女比がここにきてひっくり返される。こうなると女たちは際限なく話し始める。案の定、母親は倫久を質問攻めにして事情を吐かせていた。たぶん、職業柄得意分野なのだろうが、自分よりも自然で圧巻だった。
 倫久が嫌な顔をしていないか、ちらりと見たがなんだか真面目な顔でうなずいている。困ったら助け舟を出そうと静かに見守った。最後までその必要はなかったみたいだ。


 食事の後、ダイニングテーブルでは母と倫久は向き合うように座って話をしていた。
 いろいろな役所の手続き、福祉関係。学校関係。倫久一人で把握するには大変だった細々したことを母はよく知っていた。
 「来年から小学校なんだから。いろいろあるわよ」
 圧倒されつつも、最後は母を神のようにあがめて、倫久は必死にスマホでメモを取っていた。
 「美緒さん!ありがとうございます」
 倫久はひとしきり聞き終わったのか、頭を下げていた。いつの間にか名前呼びになっていて親しげだ。春奈は勉強するとさっさと部屋に戻っていた。いつもは俺もそうしていたが、今日は倫久もいるため膝に旺次郎を乗せてテレビを見ていた。

 「ママ。りーくん寝ちゃった」
 双子に世話を焼かれながら、テレビを見ていたのだが力尽きて寝たらしい。小さく丸くなって寝ている。
 「せっかくだから、泊っていきなさい」
 結局、母のその一言で、倫久たちは問答無用でうちに泊まっていくことが決まった。そして、心配だからと母が週末に倫久の家に突撃することも決まっていた。妹たちは部活があって、突撃隊には俺と旺次郎で参加することが決定していた。
 「来ても驚かないでくださいね」
 倫久は気まずそうにうつむく。
 「うちの母親、強引だけど。悪い人じゃないから」
 フォローにならないフォローを入れてみた。倫久が苦笑いを浮かべている。