倫久は勉強机の椅子に座る。俺はベッドに腰かけてどこから話そうかと考えた。しばらく沈黙がよぎる。

「自分でも意外だったんだ。倫久相手だとどうも弱気になってしまう。俺が勝手に引け目を感じて、倫久のことを崇拝することで、心の均衡を図ってたというか」
切りたての髪をわしゃわしゃ混ぜて、いや違うとつぶやいた。

「倫久の隣にいても、卑屈にならない俺になりたい」

倫久が顔を上げて驚いた顔をした。そして、耳が赤く染まる。
「それって……つまり、オレのことが好きだって言ってるように聞こえるよ」

「変わりたいと思った。だから、偽りたくないと思った……俺は倫久が好きだよ」

倫久が立ち上がって俺の前に立つ。いろいろな色がにじんだ瞳だった。優しさと、迷いと、疑い、幸せそうな甘い色。
言葉が足りないのかもしれない。俺はその目を見つめ返した。

「やっと、一つ見つけたんだ。俺は料理が好きなんだ。家族がおいしそうに食べてくれるのも好きだ。それが、家族の支えになるのも……」

目の裏に浮かぶのは家族の笑顔だ。わりと、分かりやすくて嫌になる。

「栄養士になりたい」

ふわりと柔らかなぬくもりに包まれた。倫久に抱きしめられていた。強引に抱き寄せたのに背中の手は触れるか、触れないかの優しいものだった。
「オレが一番だ」
「俺も一番に倫久に言いたかった。倫久が俺なら見つけられるって言ってくれたから」

俺のせいで変わってしまった倫久、倫久と話すようになって変わりたくなった自分。
それをラッキーだというために、これからを良いほうに変えていく。



☆☆

あの日告白をした後、自分たちがどうなったかはまた別の話。

今、隣でホワイトソースを悪戦苦闘しながら作っている倫久にでも聞いてくれ。
俺は相変わらず、家族のために……倫久のために家事にいそしんでいる。