それは二週間前のことだった。
一番下の弟と最寄りのスーパーでばったり委員長と会った。
「あ、りーくんだ」
弟の旺次郎が委員長の方を指さす。彼はキャベツを片手に途方に暮れていた。それだけじゃない、教室で見ていた彼は、清潔感のある男だったのに。そこにいたのはしわだらけのシャツとハーフズボンといういで立ちだった。なんというか彼らしくなかった。
「りーくん?」
「うん、あひる組で一緒なの。でもね……最近ね……あんまり来てないの」
「そっか……声かけるか?」
「……うん!」
旺次郎はトトト……と走ると、委員長と手をつないでいる少年に声をかけた。そして、委員長がこちらに気づいた。
「あれ?長瀬君?」
俺の名前を憶えていたことに驚いた。
「この子、君の弟?」
「あぁ、旺次郎っていうんだ。保育園で同じ組らしいよ」
委員長は、旺次郎の視線に合わせてしゃがむと、「こんにちは」と言った。
「こっちは、理央。弟だよ」
「りーくん、知ってる」
旺次郎ははしゃいでいた。
「こんにちはが、先だろうが、おー」
たしなめると、こんにちはとお辞儀を返していた。理央君はこぼれるかってほど大きな目をしたかわいらしい顔立ちだった。
俺は委員長の手にあるキャベツを見て、委員長を見た。その視線に気づいて委員長が立ち上がる。苦笑いを返しながら、キャベツをかごに入れた。
「あぁ……これね。弟がロールキャベツが食べたいって……これ、キャベツであってるよね。値札ついてるもんね」
自分に言い聞かせるように早口で言って、自嘲した笑みを浮かべる。
「でもなんか、作れそうにないな……」
「僕もうシールのお弁当やだ。ろうるきゃべつ食べたい!」
理央君は、シャツの裾をぎゅっと握って目をウルウルさせた。旺次郎が慰めるように理央君の手を取った。
「うちの兄ちゃんのロールキャベツうまいぜ!」
旺次郎が得意げに答えていた。委員長の視線がすがるようにこちらに向けられた。だが、また頬を引きつらせてうつむく。一瞬見えた葛藤。
「あぁ、得意だよ」
そんなに得意ではない。手間もかかるし普段はあまり作らない。だが、委員長の様子を見ていると、そう言うのが正解のような気がした。
「キャベツ一個あったら十分だ。家で作るか?」
きょとんとした顔がかわいい。委員長は視線を泳がせてうつむいた。
「なんか意外だね。長瀬君……料理作れるんだ」
馬鹿にしたような口調ではない。純粋におどろいて、落ち込んだようなそんな声音だった。
「まぁな」
委員長とこうして長いこと話をしたのは、初めてだったのにこのまま放っておいてはダメだと警告音が頭の中に響いた。
結局、強引に家に連れて帰ることが決定した。旺次郎は家に友達を呼べたことがうれしかったらしく。理央君と手を握ってぶんぶん振りながら道を歩いていた。委員長は、理央君の笑顔を見てどことなくホッとした顔をしていた。
「ここが俺んち」
家はシングルの母親が40年ローンを組んだ一戸建てに住んでいる。ありがたいことに兄弟が多いわりに、ひとりひとりに個室がある。玄関のドアを開けると、三和土にスニーカーが二個並んでいた。妹たちのだ。
「ただいま、あん、ふみ お客さん連れてきた」
すると、リビングのドアが開いて二人が顔をのぞかせる。
「髪が長いほうが安奈であん。髪が短いほうが史奈でふみ 双子なんだ」
「祐にぃおかえり。お客さん、いらっしゃい」
「ってめちゃくちゃかわいいんだけど。この子!!」
あんとふみが理央君をキラキラした目で見つめていた。
「りーくんです。おーのお友達です」
理央君はきまじめに頭を下げていた。うちの旺次郎より礼儀がなっている。
「こんにちは、はじめまして」
委員長はあっけに取られて双子を見ていた。
「って。兄弟多いんだね。長瀬君」
「あぁ、あと一人、一個下に高一の妹がいる。今日はバイトだから8時に帰ってくるよ。家は五人兄弟なんだ」
委員長は驚いた顔で、こちらを見上げている。
「まぁ上がって。旺次郎、理央君にはお前のスリッパ貸してやれよ」
「はい!」
あんとふみは、理央君に構いたくて待ちかまえている。こっちはこの二人に任せてよさそうだ。
「あぁ、祐にぃ。お米は炊いておいたから」
「お味噌汁も準備しといた」
「サンキュー」
スリッパを委員長にだして、自分もスリッパをつっかけた。
リビングの奥がアイランドキッチンになっている。母一番のこだわりだったが、彼女が腕を振るうのは休みの日ばかりで、平日は俺や妹が使っている。
「じゃあ、卵は冷蔵庫に……ロールキャベツはコンソメ味で良いよな」
委員長はリビングやキッチンを見ながらきょろきょろと見まわしていた。
「あっ、うん。レシピ……クックシルで調べてるから」
慌ててポケットからスマホを取り出した。
「あぁ、いいよ。見なくてもできるから。じゃあ、とりあえず、委員長は手を洗って、手伝って。あーアレルギーとかある?」
「オレも、理央もないよ」
「よしじゃあ、つくる」
一番下の弟と最寄りのスーパーでばったり委員長と会った。
「あ、りーくんだ」
弟の旺次郎が委員長の方を指さす。彼はキャベツを片手に途方に暮れていた。それだけじゃない、教室で見ていた彼は、清潔感のある男だったのに。そこにいたのはしわだらけのシャツとハーフズボンといういで立ちだった。なんというか彼らしくなかった。
「りーくん?」
「うん、あひる組で一緒なの。でもね……最近ね……あんまり来てないの」
「そっか……声かけるか?」
「……うん!」
旺次郎はトトト……と走ると、委員長と手をつないでいる少年に声をかけた。そして、委員長がこちらに気づいた。
「あれ?長瀬君?」
俺の名前を憶えていたことに驚いた。
「この子、君の弟?」
「あぁ、旺次郎っていうんだ。保育園で同じ組らしいよ」
委員長は、旺次郎の視線に合わせてしゃがむと、「こんにちは」と言った。
「こっちは、理央。弟だよ」
「りーくん、知ってる」
旺次郎ははしゃいでいた。
「こんにちはが、先だろうが、おー」
たしなめると、こんにちはとお辞儀を返していた。理央君はこぼれるかってほど大きな目をしたかわいらしい顔立ちだった。
俺は委員長の手にあるキャベツを見て、委員長を見た。その視線に気づいて委員長が立ち上がる。苦笑いを返しながら、キャベツをかごに入れた。
「あぁ……これね。弟がロールキャベツが食べたいって……これ、キャベツであってるよね。値札ついてるもんね」
自分に言い聞かせるように早口で言って、自嘲した笑みを浮かべる。
「でもなんか、作れそうにないな……」
「僕もうシールのお弁当やだ。ろうるきゃべつ食べたい!」
理央君は、シャツの裾をぎゅっと握って目をウルウルさせた。旺次郎が慰めるように理央君の手を取った。
「うちの兄ちゃんのロールキャベツうまいぜ!」
旺次郎が得意げに答えていた。委員長の視線がすがるようにこちらに向けられた。だが、また頬を引きつらせてうつむく。一瞬見えた葛藤。
「あぁ、得意だよ」
そんなに得意ではない。手間もかかるし普段はあまり作らない。だが、委員長の様子を見ていると、そう言うのが正解のような気がした。
「キャベツ一個あったら十分だ。家で作るか?」
きょとんとした顔がかわいい。委員長は視線を泳がせてうつむいた。
「なんか意外だね。長瀬君……料理作れるんだ」
馬鹿にしたような口調ではない。純粋におどろいて、落ち込んだようなそんな声音だった。
「まぁな」
委員長とこうして長いこと話をしたのは、初めてだったのにこのまま放っておいてはダメだと警告音が頭の中に響いた。
結局、強引に家に連れて帰ることが決定した。旺次郎は家に友達を呼べたことがうれしかったらしく。理央君と手を握ってぶんぶん振りながら道を歩いていた。委員長は、理央君の笑顔を見てどことなくホッとした顔をしていた。
「ここが俺んち」
家はシングルの母親が40年ローンを組んだ一戸建てに住んでいる。ありがたいことに兄弟が多いわりに、ひとりひとりに個室がある。玄関のドアを開けると、三和土にスニーカーが二個並んでいた。妹たちのだ。
「ただいま、あん、ふみ お客さん連れてきた」
すると、リビングのドアが開いて二人が顔をのぞかせる。
「髪が長いほうが安奈であん。髪が短いほうが史奈でふみ 双子なんだ」
「祐にぃおかえり。お客さん、いらっしゃい」
「ってめちゃくちゃかわいいんだけど。この子!!」
あんとふみが理央君をキラキラした目で見つめていた。
「りーくんです。おーのお友達です」
理央君はきまじめに頭を下げていた。うちの旺次郎より礼儀がなっている。
「こんにちは、はじめまして」
委員長はあっけに取られて双子を見ていた。
「って。兄弟多いんだね。長瀬君」
「あぁ、あと一人、一個下に高一の妹がいる。今日はバイトだから8時に帰ってくるよ。家は五人兄弟なんだ」
委員長は驚いた顔で、こちらを見上げている。
「まぁ上がって。旺次郎、理央君にはお前のスリッパ貸してやれよ」
「はい!」
あんとふみは、理央君に構いたくて待ちかまえている。こっちはこの二人に任せてよさそうだ。
「あぁ、祐にぃ。お米は炊いておいたから」
「お味噌汁も準備しといた」
「サンキュー」
スリッパを委員長にだして、自分もスリッパをつっかけた。
リビングの奥がアイランドキッチンになっている。母一番のこだわりだったが、彼女が腕を振るうのは休みの日ばかりで、平日は俺や妹が使っている。
「じゃあ、卵は冷蔵庫に……ロールキャベツはコンソメ味で良いよな」
委員長はリビングやキッチンを見ながらきょろきょろと見まわしていた。
「あっ、うん。レシピ……クックシルで調べてるから」
慌ててポケットからスマホを取り出した。
「あぁ、いいよ。見なくてもできるから。じゃあ、とりあえず、委員長は手を洗って、手伝って。あーアレルギーとかある?」
「オレも、理央もないよ」
「よしじゃあ、つくる」