倫久と並んで園庭に入るとあひる組の先生が、旺次郎と理央を連れてきてくれた。

 先生って、どうして保育園の先生になったんだろうな。
 ふとそう思ってじっと見つめていた。
 「僕は保育士の仕事は責任の重い仕事だけど、つらいと思ったことがないからですよ」

 どうやら俺の疑問は口から出ていたみたいだ。

 「どの職業にも大変なことってあると思うんです。でもそれが苦じゃない。大変だと思ってもいやだとは思わないそれが保育でした。この体格だからいろいろ言われたり、警戒されたりはしましたが。好きだから保育士になりました。もしかしたらほかにも適正はあったかもしれませんが、僕にはこの仕事が性に合ったみたいです」

 「俺には将来の夢とか、やりたいことがなくて。先生はいつみつけたの?」

 「僕は偶然です。年上の彼女が、保育士で、工作を手伝ってたら面白かったから、やってみようかなって……劇的なきっかけじゃなくてすみません」

 俺が聞いた中で一番しっくりくる。何かを目指すのにきっかけなんて、なんとなくでいいのかもしれない。

 「祐にぃさんも保育士になりますか?」
 「俺が好きなのはそこじゃないな」

 あぁ、でも好きなもの知りたいことで一番興味があるものが一つあった。

 「ありがと、先生……なんか、少し見えた」
 「どういたしまして」
 人とかかわることで、どんどん俺は俺のことを知り始めている。
 なんだか、不思議でちょっと厄介だ。
 俺は人を寄せ付けないために、染めている金髪がすごく子供じみてかっこ悪いもののように感じた。

 倫久が期待した目で俺を見てくる。俺はひとまず覚悟を決めることにした。
 「帰ったら手伝ってほしいことがあるんだけど」
 俺がそう言うと倫久は「いいよ」と軽く返事をする。


 帰ってすぐ庭に大き目のピクニックシートを敷いて、その上に椅子を置いた。そして少し小さいが、旺次郎のケープを巻く。そしてバリカンを倫久に手渡して目をつむった。
 「倫久、一思いにやってくれ」

 さすがに倫久は引いていて、最初はためらったが一思いにじょりっと、バリカンを動かした。結構思い切った場所を切ったみたいで、ひぇって小さい声が聞こえた。
 そうしていると、あんとふみも帰ってきて、倫久からバリカンを取りまるで、相撲取りの断髪式のような様相になってきた。理央君と旺次郎も面白がっている。

 はっきり言ってがたがただ、金髪の時よりもダサくなった気がする。
 結局仕上げは駅前の1500円カットに飛び込んでお願いしたが、すっきりと心が晴れた。

 すこし進みたい道が見えたくらいで、はしゃぎすぎだとは思うがこれはけじめだった。

 家に帰ると、炊き立てのご飯とみそ汁のにおいがした。あんとふみが支度をしていたのだろう。
 「ただいま」
 キッチンに行くと、倫久が「おかえり」と迎えてくれる。
 「すごく似合うよ。祐一郎って頭の形良いんだね」
 「ん」
 「なぁ、倫久話をしよう。あん、ふみ二人をよろしく」
 あんとふみは親指を立てて返事をした。