「祐一郎は?」
倫久の決意を聞いた後でごまかせないと思った。
「俺は……うちは兄弟が多いだろ。なんか、はるはお菓子を作る人になりたいって、きっとそれにはお金がかかるだろうし。はる自身もそのためにバイトしてる。そういうのを支えたいと思うから、自分の将来にまで手が回らねぇ。それに……」
今の成績はひどい。大学に行けたところで、どうにかなるとは思えない。まだ固まってない未来が心細いように感じた。だから妹のせいにした俺はずるいのかもしれない。
「祐一郎はほんと、優しいな。家族思いだ。当たり前に人を尊重する」
「いや……」
倫久は首を振って、俺の否定を否定する。
「優しいよ、祐一郎ならきっと見つけられる」
力強い言葉だった。どうしてそんな風に俺のことを信じられるのか、不思議だ。だが、欲しかった言葉だった。体温がじわじわと上がっていく。
「ありがとう」
「どういたしまして」
未来は漠然としていた。そのためには何が必要か、何をしなければならないのか。分からないことだらけだ。でも、そう思うたびにきっと倫久の『祐一郎なら、見つけられる』が脳内をめぐりそうだ。
「そうだ、一緒に勉強しよう」倫久は良いことを思いついたという顔をして、提案してきた。
「ん」
「勉強すれば選択肢は広がるって」
倫久が笑う、俺だけに向けた屈託のない笑顔だ。
「ちょっと男の子たち!カレーのお米が届いたから運ぶの手伝って!」
遠くで呼ばれた。
「いこっか」
「ん」
遊戯室内はすっかり、夏祭りの屋台が並んでいた。
「これも夏の思い出?」
倫久が笑いながら聞いてきた。
「夏の思い出だな」
皆でカレーを食べ終わってからが夏祭りの本番だ。子供たちが一斉に屋台に向かう。ヨーヨー釣りは、ほどほどに盛り上がった。倫久は初恋キラーだ。女の子たちがキラキラした目で倫久を見ていた。俺も隣りにいたが、全くそんなことはなかった。遅れてやってきた旺次郎と理央君は、くじ屋さんで当たったものと、さかな屋さんでとったものを見せながら楽しそうに笑っていた。
高校2年の夏。青春真っただ中と言うやつなのだろう。
それからほぼ毎日、倫久はうちに来て勉強している。ありがたいことに、俺の勉強も見てくれて、初めて夏休み期間より前に宿題が終わった。倫久はいつも七月中には終わらせていたそうだ。
ダイニングテーブルには大量のてんぷらと、ざるいっぱいのそうめんが並んでいる。
「そういえば、とも君。初盆どうするの」
倫久は、理央君と並んでマイタケのてんぷらをほおばっていた。
「弁護士さんに教わって、飾りとかできる範囲でやる予定です。お寺の人には昼から来てもらうことになりました」
「そう……親戚の方は?」
「祖父母はどちらとも亡くなっていて、親戚は母の姉だけです。いちおう、お寺さんの来る時間は伝えています」
母は眉間にしわを寄せていた。
「じゃあ、初七日以来ね」
倫久の両親が亡くなって、半年近いが一度も家に顔を出したことはないそうだ。
「……そう、ほんとうにいやらしいわね……」
理央君に聞こえないギリギリのトーンで毒づいた。倫久は苦笑いを返す。
「祐一郎、初盆にはついていてあげなさいね。私よりもあなたのほうが適任だと思うわ」
なぜか母が困ったような笑みを浮かべていた。
「ん」
倫久の決意を聞いた後でごまかせないと思った。
「俺は……うちは兄弟が多いだろ。なんか、はるはお菓子を作る人になりたいって、きっとそれにはお金がかかるだろうし。はる自身もそのためにバイトしてる。そういうのを支えたいと思うから、自分の将来にまで手が回らねぇ。それに……」
今の成績はひどい。大学に行けたところで、どうにかなるとは思えない。まだ固まってない未来が心細いように感じた。だから妹のせいにした俺はずるいのかもしれない。
「祐一郎はほんと、優しいな。家族思いだ。当たり前に人を尊重する」
「いや……」
倫久は首を振って、俺の否定を否定する。
「優しいよ、祐一郎ならきっと見つけられる」
力強い言葉だった。どうしてそんな風に俺のことを信じられるのか、不思議だ。だが、欲しかった言葉だった。体温がじわじわと上がっていく。
「ありがとう」
「どういたしまして」
未来は漠然としていた。そのためには何が必要か、何をしなければならないのか。分からないことだらけだ。でも、そう思うたびにきっと倫久の『祐一郎なら、見つけられる』が脳内をめぐりそうだ。
「そうだ、一緒に勉強しよう」倫久は良いことを思いついたという顔をして、提案してきた。
「ん」
「勉強すれば選択肢は広がるって」
倫久が笑う、俺だけに向けた屈託のない笑顔だ。
「ちょっと男の子たち!カレーのお米が届いたから運ぶの手伝って!」
遠くで呼ばれた。
「いこっか」
「ん」
遊戯室内はすっかり、夏祭りの屋台が並んでいた。
「これも夏の思い出?」
倫久が笑いながら聞いてきた。
「夏の思い出だな」
皆でカレーを食べ終わってからが夏祭りの本番だ。子供たちが一斉に屋台に向かう。ヨーヨー釣りは、ほどほどに盛り上がった。倫久は初恋キラーだ。女の子たちがキラキラした目で倫久を見ていた。俺も隣りにいたが、全くそんなことはなかった。遅れてやってきた旺次郎と理央君は、くじ屋さんで当たったものと、さかな屋さんでとったものを見せながら楽しそうに笑っていた。
高校2年の夏。青春真っただ中と言うやつなのだろう。
それからほぼ毎日、倫久はうちに来て勉強している。ありがたいことに、俺の勉強も見てくれて、初めて夏休み期間より前に宿題が終わった。倫久はいつも七月中には終わらせていたそうだ。
ダイニングテーブルには大量のてんぷらと、ざるいっぱいのそうめんが並んでいる。
「そういえば、とも君。初盆どうするの」
倫久は、理央君と並んでマイタケのてんぷらをほおばっていた。
「弁護士さんに教わって、飾りとかできる範囲でやる予定です。お寺の人には昼から来てもらうことになりました」
「そう……親戚の方は?」
「祖父母はどちらとも亡くなっていて、親戚は母の姉だけです。いちおう、お寺さんの来る時間は伝えています」
母は眉間にしわを寄せていた。
「じゃあ、初七日以来ね」
倫久の両親が亡くなって、半年近いが一度も家に顔を出したことはないそうだ。
「……そう、ほんとうにいやらしいわね……」
理央君に聞こえないギリギリのトーンで毒づいた。倫久は苦笑いを返す。
「祐一郎、初盆にはついていてあげなさいね。私よりもあなたのほうが適任だと思うわ」
なぜか母が困ったような笑みを浮かべていた。
「ん」