うだうだ過ごしているうちに、お泊り保育の日になった。
保育園から配られたお泊り保育と夏祭りの係決めは、特にもめることもなく。俺と倫久はヨーヨー屋に決まった。担当の先生はあひる組の先生だった。こちらも顔見知りだから問題ない。
昼から保育園の遊戯室へ集まって、同じ係の人たちとヨーヨーを作ることになっていた。
倫久とは修了式以来だから三日ぶりだ。学校に通っていれば、用事がなくても毎日会うがそれがなくなれば俺たちの接点なんて特にない。これが現実だ。
下駄箱で履き替えていると、倫久が現れた。
「これからヨーヨー作るんだよね。作ったことある?」
「いや」
「オレも」
「ん」
思ったよりスムーズに話が進む。どんな表情をしているかなんて見られるわけもなく。なんだかお互い前だけ見て話をしていた。
そうしていると、同じヨーヨー屋担当の母親たちにみつかって、準備が始まる。
「すごい、結ばなくていいんだ。これ便利だね」
パチンと止めるプラスチックの部品を見せながら、倫久が無邪気に見上げてくる。
「ん」
母親たちはさっさと流れ作業を確立して、倫久は膨らんだ風船に釣りゴムを挟んで止める係をひたすらやっている。母親たち曰くとても器用そうだからだそうだ。俺はその隣でもう一人の母親と紙縒りを縒っていた。地味だが楽しい。
あっという間に準備された100個が完成した。園児一人に二個の計算らしい。
作業が終わるとあとはひたすら夕方を待つことになった。母親たちは何やらにぎやかに話をしている。俺たちは二人並んで、遊戯室の隅に座っていた。
「夏休み、なにしてるの?」
「あー旺次郎の世話」
俺が家にいると、旺次郎は保育園に行きたがらない。
「ひとりふたりも一緒だから、理央君も来る?」
何の気なしだった。いや気まずいと思っている、頭の片隅にはあの告白が残っていたのだが、きっと旺次郎が喜ぶだろうなと思った。言い訳臭い。自分が会いたいというには、自分の気持ちはあやふやすぎるのだ。でも、ふと夏休み中だろうと会いたいなと思ってしまう、業が深いと思う。
「ほんと……祐一郎は裏表がないね」
単純馬鹿と言いたいのか。いや、倫久はそんな厭味を思うことはないだろう。
「じゃあ、理央が保育園に行きたがらないときはお邪魔するよ。オレもついていくけど」
倫久はにっこりと笑って俺の目を真正面からとらえる。
「あぁ」
「言質とったからね」
少しうれしそうに笑う。
「あぁ、友達と遊びに行きたいときでもいい」
「なんかそういうのはもういいや」
せっかく笑っていたのに、曇ってしまった。
「オレさ。将来は会社員か、公務員って漠然としたことしか考えてなくて。剣道続けるなら警察官でもいいなくらいで」
「ん」
「でも、今は弁護士になりたいなって思ってる」
「そか」
「両親の事故の時、親身になってくれた弁護士の人がいてさ。ああなりたいと思った。だから今は勉強がしたい」
なんだかまぶしかった。お金のことといい、進路のことといい。倫久は俺とおなじ年なのに真剣に悩んで答えを出している。辛いことがあったのにすごく前向きだ。
「俺なんて、夏休みの過ごし方で、母親と喧嘩したばっかだ。倫久はえらいな、ちゃんと考えてて」
倫久がまぶしかった、心から。
「……倫久ならできる」
と言った。
倫久がぐっとうつむいてから顔を上げた。頬が赤い。
保育園から配られたお泊り保育と夏祭りの係決めは、特にもめることもなく。俺と倫久はヨーヨー屋に決まった。担当の先生はあひる組の先生だった。こちらも顔見知りだから問題ない。
昼から保育園の遊戯室へ集まって、同じ係の人たちとヨーヨーを作ることになっていた。
倫久とは修了式以来だから三日ぶりだ。学校に通っていれば、用事がなくても毎日会うがそれがなくなれば俺たちの接点なんて特にない。これが現実だ。
下駄箱で履き替えていると、倫久が現れた。
「これからヨーヨー作るんだよね。作ったことある?」
「いや」
「オレも」
「ん」
思ったよりスムーズに話が進む。どんな表情をしているかなんて見られるわけもなく。なんだかお互い前だけ見て話をしていた。
そうしていると、同じヨーヨー屋担当の母親たちにみつかって、準備が始まる。
「すごい、結ばなくていいんだ。これ便利だね」
パチンと止めるプラスチックの部品を見せながら、倫久が無邪気に見上げてくる。
「ん」
母親たちはさっさと流れ作業を確立して、倫久は膨らんだ風船に釣りゴムを挟んで止める係をひたすらやっている。母親たち曰くとても器用そうだからだそうだ。俺はその隣でもう一人の母親と紙縒りを縒っていた。地味だが楽しい。
あっという間に準備された100個が完成した。園児一人に二個の計算らしい。
作業が終わるとあとはひたすら夕方を待つことになった。母親たちは何やらにぎやかに話をしている。俺たちは二人並んで、遊戯室の隅に座っていた。
「夏休み、なにしてるの?」
「あー旺次郎の世話」
俺が家にいると、旺次郎は保育園に行きたがらない。
「ひとりふたりも一緒だから、理央君も来る?」
何の気なしだった。いや気まずいと思っている、頭の片隅にはあの告白が残っていたのだが、きっと旺次郎が喜ぶだろうなと思った。言い訳臭い。自分が会いたいというには、自分の気持ちはあやふやすぎるのだ。でも、ふと夏休み中だろうと会いたいなと思ってしまう、業が深いと思う。
「ほんと……祐一郎は裏表がないね」
単純馬鹿と言いたいのか。いや、倫久はそんな厭味を思うことはないだろう。
「じゃあ、理央が保育園に行きたがらないときはお邪魔するよ。オレもついていくけど」
倫久はにっこりと笑って俺の目を真正面からとらえる。
「あぁ」
「言質とったからね」
少しうれしそうに笑う。
「あぁ、友達と遊びに行きたいときでもいい」
「なんかそういうのはもういいや」
せっかく笑っていたのに、曇ってしまった。
「オレさ。将来は会社員か、公務員って漠然としたことしか考えてなくて。剣道続けるなら警察官でもいいなくらいで」
「ん」
「でも、今は弁護士になりたいなって思ってる」
「そか」
「両親の事故の時、親身になってくれた弁護士の人がいてさ。ああなりたいと思った。だから今は勉強がしたい」
なんだかまぶしかった。お金のことといい、進路のことといい。倫久は俺とおなじ年なのに真剣に悩んで答えを出している。辛いことがあったのにすごく前向きだ。
「俺なんて、夏休みの過ごし方で、母親と喧嘩したばっかだ。倫久はえらいな、ちゃんと考えてて」
倫久がまぶしかった、心から。
「……倫久ならできる」
と言った。
倫久がぐっとうつむいてから顔を上げた。頬が赤い。