そして次の日、倫久たちの団体戦。いきなりシード校と当たったみたいだ。昨日対戦した相手との2度目の試合となった。
 倫久は副将。もうすでに、先方次鋒中堅と負けていて敗退が決まっていた。
 倫久は真っ直ぐに竹刀を構える。昨日と違って倫久は狂戦士モードだった。技を打つと、間髪入れず次の技を繰り出している。
 最後だからできることを全部やっている。そんな感じだった。
 相手は気圧されているのか防戦一方で。そんな中、倫久は相手が振りぬいた隙をついて、メンを打った。パァンとこぎみ良い音が響く。3人の審判が一斉に旗を上げた。倫久はゆったりと動いていて、余裕を見せている。

 二人はまた開始線に戻り構えた。相手が落ち着いたのか。倫久は攻めあぐねている。じりじりとしているのがこちらにも伝わってきた。打っても交わされ。また、打ってもいなされる。焦れたところを、うまくコテを返され。相手にも一本入った。

 1対1。

 倫久は開始線に立つ前に大きく深呼吸をした。そしてたぶん、こちらを見た気がした。俺はそれに合わせて手をあげる。
 はじめ!という声とともに。倫久はバッと前に出て気勢を発する。驚いた相手がそこに振り下ろす。その隙をついて、まっすぐにメンを狙った。スパンっときれいにメンが入った。
 審判3人がシュバッと旗をあげる。
 圧巻の勝ち方だった。なんだろう、たった10秒ほどのことなのに緊張と動悸、勝利と歓喜で涙が出そうだ。
 理央君も旺次郎もバチバチと手を叩いている。

 団体戦は大将戦が引き分けになり。3対1で負けた。倫久たちの全国大会への挑戦は終わった。倫久たちは試合の手伝いや、片づけがあるからあとで帰ってくるらしい。

 祐一郎:試合お疲れさま すごいな

 そして少し考えて、もう一行足す。

 祐一郎:かっこよかったよ

 RINEを送って、幼児二人の手を取る。俺の好きな男はすごい男だった。そう思うとなんだか、胸が軋んだ。あれだけ強くなるのに彼はどれだけ練習を重ねてきたのだろう。

 ☆☆

 倫久の県大会健闘会を、家で行うことになった。母がお寿司が食べたい!というので、大量の寿司ネタを買ってきて、手巻き寿司パーティーをすることにした。

 夕方、私服に着替えた倫久が到着する。リビングでは、あんとふみに理央君が構われているいつもの風景を見て笑っていた。
 「手伝うことがある?」
 倫久はまっすぐ俺のいるキッチンにやってきた。
 「特に」
 もう全部準備はできた、母が帰ってくれば始められる。
 「じゃあさ。ちょっと話がしたい」
 倫久が俺のシャツの裾を引っ張った。なんだその仕草、あざといぞ。って少しドキリとした。
 「ん。じゃ、先に部屋へ行っといて」
 倫久はうなずいて、廊下に出ていった。それを見届けてから、シンクの縁に手を突いた。
 (え?話したいことって何だ?思い当たることがない。いや、もしかしてあれか?かっこいいなんて調子に乗って送っちゃったからか?いやあ。うーん)
 とりあえず、ペットボトルとグラスを持って後を追った。