二時限目の授業がおわり、教師が教室を出ていった。

 入れ替わるように教室の後ろのドアからHR委員長の小畠倫久が入ってきた。一瞬だけ、教室が沈黙に包まれた。
 クラスの視線集めて彼は自席についた。相変わらず背筋はピンとのびている。
 この二月前、彼の両親が事故で亡くなったそうだ。今日はおよそ二か月ぶりの登校だった。
 彼の登校はひっそりとクラスが注目していた。

 お互い視線でけん制しつつ、一番に動いたのは、彼と同じHR委員の女子だった。二言三言と言葉を交わし、自分の仲良しグループ女子が集まっている場所へ帰っていった。そのあとゆるゆると人が集まって、委員長は変わらぬ笑顔を浮かべて受け答えをしていた。いつも通りの様子に皆が緊張を解いた。
 それにしても、天井から吊られてんじゃないかってくらい姿勢がいい。


 「なあ、祐ちゃん。委員長来たな」
 ガタンと椅子を鳴らして、前の席に着いたのは友人のヒロだ。俺ははぁとか、ふんとか。返事をして、机に突っ伏した。
 「委員長、思ったより元気でよかった」
 委員長の方を見ると、彼もこちらに気づいて少しだけ口角を上げる。一瞬手を上げようとしたが、すぐに下ろして辺りを見回す。そしてうつむいた。机の下でスマホを触っているようだ。
 すぐに尻ポケットのスマホがブルブルと震えた。

 学校という場所は特殊だ。クラスには暗黙の了解による住み分けがあり。それをカーストと呼ぶ。陽キャ。陰キャ。あるいは、部活の違い。容姿の優劣。趣味のあるなし。そんなもので皆は静かに住み分けていく。
 俺の場合はツーブロで金髪。背は高いほうだ。顔は学期に一人は女子が告白してくるくらいには整っている。多分いわゆるヤンキーというカテゴライズに興味を持って声をかけてくるのかもしれない。ただ俺はその告白を一度も受けたことがない。そのせいで、他校にすごく美人の彼女がいるとか、放課後は年上の彼女の家に入り浸ってるとか、憶測を呼んでいる。
 実際は女が好きではないだけだ。姉妹で懲りたのもある。つい目で追うのは、委員長みたいな凛としたきれいな男だった。だから、そんな無責任な噂も、俺自身に隠している事情があるからありがたい。

 ……いや、完全にクラスで浮いていることの言い訳だ。

 ヒロは、休み時間10分をめいっぱい話し倒して、自席に戻っていった。
 次の授業は、数Bだった。担当の教師が委員長を見て一言二言、声をかけて授業を始めた。
 俺は肘をついて窓の外を見た。運動場ではどこかのクラスが体育の授業を受けていた。
 空は青く、真っ白な雲の塊が自己主張強めに広がっていた。

 もう一度委員長を見た。彼はまじめに教科書とノートを広げ授業を聞いていた。
 その背中に無言で「頑張れ」と声をかけた。