先輩とのあれこれをぼんやりと思い出しながら、適当に会話を聞き流している内に、コイバナから話題はすっかり変わってしまっていたようだ。
 明日の小テストでは、あそこが出そうだとか、先生が何ページをやっとけって言ってただとか、クラスの違う奴らと情報交換しながら帰り道の自転車を引く。
 段々と日も落ちて、薄暗くなって行く街並みを行くうちに、一人、二人と別れて行って、最後に俺一人になるのは町を縦断する大きな川の、河川敷の辺りだ。
 
 騒がしさから解放されるこの瞬間、ほんの少しホッとする。
 部活仲間との帰り道は楽しいが、朝から部活終わりまでをフルスロットでこなしている俺はもう体力の限界で、黙って足を動かすだけで済むこの時間がやっと一息つける大事な時間なのだった。

 黙々と家を目指しながら、急いで着替えたせいでいつも以上にだらしなく着込んだシャツに目をやる。
 部活の後、ユニフォームから制服に着替える時は、さすがに先輩はやっては来ない。
 先輩に見つかったらヤバイと思って、ネクタイも何度か試しに自分で巻いてみたこともあったけど、やっぱり上手くいかなくて、諦めてポケットの中に突っ込んでいる。
 まあ、先輩は放課後は遅くまで残って生徒会の仕事をしているらしいから、今まで部活帰りに見つかったことは一度もないのだが。
 ふと思い立って足を止めた俺は、自転車の脚を立たせて、ポケットに手を伸ばす。
 そして、ぐしゃり、と丸め込んだネクタイを引っ張り出して、首にかけてみる。

「こうだっけ……。いや、こうすんだっけ?」
 あっちこっち結び目を作って見るが、上手く出来ない。

「あーもー、俺が大人になってもネクタイ結べなくって、仕事場とかで困ったら先輩のせいだ、絶対!」

 妙な言いがかりをつけて、俺は八つ当たりのようにネクタイをくしゃっと丸めて自転車カゴに放った。
 今はいい。俺が結べなくたって、九条先輩が結んでくれるから。
 だけど、高校を出て先輩と会わなくなっちまったら? 
 そしたらもう、自分でやらないと駄目なのだ。

「そんな日が来るのか……九条先輩と、会わなくなる日が……」

 いや、会わないんじゃない。そもそも会えなくなるんだ。
 今の今まで、そんな日を考えたことが無かったことに驚いた。想像も出来ない。
 先輩の顔を見ない日が来るなんて。そしてそれは、どうしようもなく、寂しいことだと思った自分のことも、よく分からない。

 「口うるさい先輩がいなくなるだけだろ」
 
 それなのに、なんで――。
 九条先輩のことなんて、今まで改めて考えたこともなかった。
 学校好きの先輩は、よく校内の見回りをしていて、俺は意識していなくても学校に来さえすればいつだって先輩に会えた。
 先輩の方が俺を見つけて来てくれるからだ。
 口うるさくて、面倒で。でも俺は、この横暴な先輩に構ってもらえるのが嬉しかったし、特別扱いしてもらってるみたいで、ちょっとした優越感みたいなのもあった。
 関わってみれば先輩は思ったより優しい人で、いちいち変わった反応を返してくるからそれが面白かったりもして――でも、だからって会えないなら会えないで構わない存在だと思っていた。少なくとも今日、同じ空を見上げたあの時までは。

 「そっか、俺……先輩と会えないと寂しいのか……」
 
 初めて知った自分の感情に、驚きを隠せないまま呟いた。
 今日の俺は、変だ。ただ同じ空を見ていたというだけで、ずっと、九条先輩のことを考えている。
 きっと、考えなくて良いことまで、考えている。

 その日から、俺は暇さえあれば先輩を目で追うようになった。

 それまでは、気まぐれに先輩の方から俺を見つけてくれてたけど、俺の方から先輩のことを見つけやすいように、生徒会室に向かう途中の階段に居座ったり、先輩がよく出入りしてるからって理由で、率先して先生の仕事を手伝って職員室に顔を出したり。
 先輩は相変わらず俺を見かける度にネクタイを直してはくれたけど、構ってくれるのはその時だけだ。 
 元々出会いからマイナスイメージなのだ。先輩の中では、校内の風紀を乱すいち不良生徒という程度の認識だろう。俺からわざわざ学年の違う先輩のクラスまで顔を出せるような間柄ではないし、先輩が自由時間のほとんどを過ごしている生徒会室は、一般生徒が用もなく足を踏み入れるには敷居の高い場所だった。
 いつの間にか俺は、偶然を装って先輩の周りをウロチョロするだけの不審者になってしまった。
 そしてその最大の難関となったのは、何かと先輩の傍にぴったりとくっついている副会長の長峰先輩だった。長峰先輩は、バスケ部の主将をしていただけあって、身長は181センチの俺を遥かに凌ぐ192センチ。スポーツマンらしい体格で、鍛え上げられた筋肉が制服越しにもわかる。
 とにかくガタイがいい。小柄な先輩の前に立たれると、すっかり先輩が見えなくなってしまう。別に悪い先輩じゃないんだろうけど、つい邪魔だなって思う。俺たち一言だってまともに喋ったこともないのにごめんな、長峰先輩。

 九条先輩とどうこうなりたい訳じゃなかった。
 もっと仲良くなりたい訳でも、遊びに行きたい訳でも。ただ、先輩が学校を去るまでの間、出来る限り長く先輩のことを見ていたかった。


 九条先輩を意識し出してからのおよそ半年は驚くほどあっさりと過ぎた。

 俺は先輩が卒業生代表として壇上で挨拶をするのを、ただの顔見知りの一後輩として見送った。
 先輩が普段の先輩の語り口通りの柔らかい喋り口調で読み上げた文は、この街が好きで、この学校が好きで、だからここで過ごせて良かったと、地元愛と愛校心に満ちた、やっぱり風変わりな挨拶だった。なんだよそれ。俺たちまだ高校生なのに、まるで昔話ばっかりする爺ちゃんみたいな話だったよ。やっぱりアンタ、相当の変人だ。
 それなのに、壇上から俺たちの顔を見まわして、優しい目を向ける九条先輩は中身の変人具合なんてすっかり忘れちまうくらいに綺麗に笑っていて、そんで俺はペンライト振ってるアイドルファンみたく、「あ、今絶対目があった」なんてくだらないことを思った。
 卒業式に、思い出に一枚写真撮ってくださいの一言すら言えなかった。
 どちらかと言えば孤高のイメージが強く、仲の良い友達などがいる風でも無かった先輩は、それでも卒業式の時にはクラスメイトや、生徒会の後輩たちに囲まれていて、とても俺が話しかけれるような状況ではなかった。先輩は卒業後は、貿易業を営んでいるという、お父さんの会社を手伝うために、イギリスの大学に留学を決め、この学校どころか日本からも出て行ってしまうのだと言う。そんな、同学年であれば誰でも知れる情報だけを手に、俺は九条先輩とサヨナラをした。

 必死というほどでもなく、とはいえ常に視界の端で九条先輩を追いかけていた日々が過ぎてしまえば、あとは自分のことが忙しくなってくる。
 高校三年生――主要な大会で順当な成績を残し、大学もスポーツ推薦を受けていた俺は、受験戦争からはいち早く抜けた口だが、暇をしている訳ではない。流石に部活という訳にもいかず、専門のコーチについて放課後は本格的なトレーニングで体づくりに励む毎日だ。出席は必要だし、その後の大学生活のことを考えれば、学業だっておろそかには出来ない。単位を落とさないよう、中間、期末テストは平均点以上を目指して、俺なりに必死に勉強もした。
 先輩と学校で会うこともなくなれば、そのうちにこの妙な執着とでも言うのか――先輩を気にしている気持ちだってなくなると思っていた。
 実際、俺は学校にいる間や、トレーニング中に先輩のことを考えるなんてことは圧倒的に減った。けど、ふとした瞬間。例えば、屋上で弁当食べてる時とか、風呂に入って寝る前だとか、ほんのちょっと俺の意識が忙しさから解放されたその時を狙って、先輩との些細な思い出が頭をよぎった。しかもそれが、僅かな時間だからこそ、なんだかやたらと輝いていて、前より重症になってきた気がする。
 学校で見かける九条先輩はいつも余裕顔で、背筋をピンと伸ばしてゆっくりと歩くさまは、どこか優雅ですらあった。
 それは彼が卒業するその時まで変わらなくて、だからこそ俺は、もしかして先輩はこのまま来年も当たり前にここに居てくれるんじゃないかなんて、馬鹿らしい夢もみたものだ。
 普通は受験を機に引退する生徒会の仕事も、先輩は最後までやっていたみたいだし、頭の良い人だったから、受験で特別負担が増えるということも無かったのかもしれない。それがどんなに並外れたことだったか、今自分が同じ学年になって初めて分かる。  
 空が晴れた日などは、特にひどい。
 見上げた空に、初めて先輩を意識し始めたその日のことが繰り返し思い出されて、そうやって同じ思い出ばかり繰り返しなぞっている内に、そもそもそれ以前にだって俺は九条先輩のことを特別意識していたんじゃないかって気づかされて頭を抱えた。

 九条先輩を知って、最初の夏だった。
 俺は九条先輩の顔に、見惚れたことがある――。

 当時一年だった俺は、部活の先輩でも、委員会の先輩でもない九条先輩のことを、顔と名前だけは知っていた。それは何も俺だけの話ではなくて、二年生でありながら学校代表として、入学式でも在校生代表として壇上に立ち、俺たちに歓迎の挨拶をした九条先輩のことは、俺たちの学年全員知ってはいた。そうでなくても先輩は有名人だったから、九条先輩が近くを通ると誰彼かまわず、あれが九条先輩なんだと、余計な噂話を添えて教えてくれたりもした。

 グラウンド脇の水飲み場で、直接水道の蛇口に口を近づけると、よく見えたのだ。
 渡り廊下の突き当たり――図書館の入口は、いつも校舎の影で少し冷えていた。木の壁が古めかしい、何の変哲もない場所だ。俺が卒業する頃には、老朽化を理由に改装が始まった。それくらい、ボロい場所。
 試験前には多少は人も増えたが、普段はあんな辛気臭い場所、ほとんど人もいなかった。
 だから余計に目立ったんだと思う。
 九条先輩は、一番右の窓の傍らで本棚に寄りかかって、カーテンの影に隠れるようにして本を読むのが気に入っているらしかった。何かから身を隠すように、ひっそりと本を読む姿が、普段威風堂々としている先輩のイメージと違って、妙に引っかかった。
 頭が良いことは知っていたから、読書が趣味と言われても不思議だとは思わなかった。だけど、手元の本に集中して、先を惜しむみたいに大事に一ページ、一ページ本をめくる先輩は、おもちゃを前にした子供みたいにどこか無邪気に見えた。泣く子も黙る生徒会長という、どちらかと言えば恐ろしいイメージしかなかった先輩の素顔に、きっと俺は驚いてしまったんだと思う。どうか放っておいてくれ、と願うような先輩を見つけてしまった後ろめたさのようなものもあったのかもしれない。

 そして、その瞬間は、唐突に訪れた。
 何度も同じ光景を見たはずなのに、その時は少しばかり違うことが起きた。
 いつものように、汗まみれの顔を上向けた蛇口に近づけて、身を屈めた時だった。
 普段であれば本の方へと向いているはずの先輩の視線が、俺の視線とかち合うのを感じた。

 ふいに、先輩の顔がやたらと近くに見えた気がした。ぶれていたカメラの焦点が、ぴったりと先輩に定まって、ズームされたような感覚。けれど目が合ったと感じたのは一瞬。すぐに先輩の顔は伏せられて、また本に意識を戻したのだと分かる。俺はそれが勿体ない気がして、ちょっと風邪気味だからとコーチに無理を言って早あがりの許可をもらうと、ユニフォームから制服に着替えて、こっそり図書館に向かった。

 中に入って、周囲を見回す。ひと気がないとは思っていたけれど、実際窓際の席に陣取る九条先輩以外には入り口の図書委員の眼鏡女子一人以外誰もいなかった。俺は、先輩の横顔をこっそり伺える、同じテーブルの対角線上に視線を隠すための大き目の本を持って座った。そうして、じっくりと先輩の表情を観察する。
 面白そうに紙面を追う瞳。時折、何事かを呟く唇。さらさらと緩い風に吹きあげられている前髪。そこから覗く、案外可愛らしいオデコに至るまで。

 一言で言えば、先輩の纏う空気は洗練されていて、まるで絵のごとく背景に溶け込んでいたのだった。
 噂に聞く、変人だとか、暴君だとか言った雰囲気は微塵も感じさせない。
 初めてはっきりと見た先輩の顔は、とても綺麗だった。
 単純に好きな顔だったんだと思う。直感で好きだなって思う感じ。
 この顔ならずっと眺めててもいいな、なんて思っていたら、本当に長い時間が過ぎていたらしい。
 気づいたら、全校生徒に帰宅を促す放送が流れていて、先輩はそれを合図に静かに椅子を引いた。先輩が手にしていた本を直すのを見届けて、俺は一行だって読んでない本を元の場所に戻す代わりに、その本を手に取ってカウンターに持っていた。

「あの……大丈夫だった? 九条くんに何か言われたりとかは……」
「え? やっ、何もなかったっすけど」
「そう」

 ホッとしたように息をついた図書委員の眼鏡女子――名札を見たところ、三年の先輩だった――の反応でようやく分かった。ここにひと気が無いのは、偶然なんかじゃなかった。九条先輩がいると知って、誰も入ってこなかったのが正しい。九条先輩に目をつけられるのを恐れる生徒たちは、出来る限り先輩との接触を避けているのだった。その時は、幾らなんだって何の罪もない奴に難癖をつけて来たりなんてないだろうと思っていたけれど、その後制服を着崩した程度でずっと絡まれることになった俺としては、それが満更間違っていなかったことを知る。
 タイトルも見ずに借りていったその本は、「郷土と私」とか言う、この地域に残る昔話とかが集められた現代日本において全く役に立たなそうな本で、俺は表紙を捲っただけで読むのを諦めた。
 それが多分、先輩に目を奪われた最初の話。
 学年も違えば、接点もろくにない。そんな俺と先輩の思い出はひどく断片的で、時系列もバラバラに、切り取ったようにシーンが浮かんでは消えていく。

 例えば春先。
 九条先輩は剣道の全国大会優勝者だし、決して身体が弱いわけではない。それなのに俺がなんとなく先輩をひ弱に思っているのは、先輩が花粉症もちだったからだ。
 くしゃみが止まんなくなって、鼻水を啜りあげると、忌々しげにポケットに手を突っ込む。しばらくまさぐって、見つからないとなると、イラついたのか隣の長峰先輩を蹴ることもあった。完全なる八つ当たり。そういう所が、暴君って言われる所以なんだと思う。上品そうな見かけと違って、意外とやることは荒っぽい。俺はそれがなんだかとても可愛く思えて。ハンカチやティッシュなんて当然俺も持ってやしないけど、制服の袖で無防備な先輩の赤くなった鼻をこすってやったらどんな顔するんだろうって思った。

 例えば夏。
 その日は梅雨も明けたばかりだと言うのに、湿気が多くてじめじめした日だった。
 衣替えの時期を過ぎても、なんの意地なんだかなかなか学ランを脱ごうとはしなかった九条先輩も、流石に赤いTシャツ一枚だった。少しでも風を求めてか、珍しくちゃんと自分のクラスにいたらしい先輩は、教室の窓からだらしなく腕を垂らしていた。暑いのは特別苦手なようだった。
 三年のクラスは一階だから三階の生徒会室とは違って、グラウンドから見える先輩の顔はいつもより近くに見えた。赤という強烈な色に、先輩の白い肌は映えていて、酷く眩しかった。いつもは袖に隠されている、ほっそりとした腕に誘われるように、俺はその日も先輩を眺めていた。
 汗で張り付いた前髪が、肌を刺激して痒いみたいだった。子供がむずがるみたく、乱暴に頭をふって前髪を鬱陶しそうに掻き上げる仕草を見るのが好きだった。あれは、凄く可愛い。

 例えば秋は――暑くもなく寒くも無く、九条先輩は割といつも機嫌が良かった。俺のネクタイを結んでくれる時も、いつもは小言が多かったけど、秋には珍しく俺の試合の結果を気にしてくれたり、普通の会話も幾らかしていた。
 読書に適した季節になったせいか、先輩の図書室に入り浸る時間は増えたようだった。太い本を手にしていることが多くなって、先輩は一人ではなく、たまに長峰先輩を連れてくるようになった。
 二人が、何を話しているのかは想像もつかなかった。本のことかもしれないし、学校のことかもしれない。表情をころころ変えながら、普通の友達同士みたいにしてる九条先輩が不思議で、ちょっと寂しかった。だから先輩の機嫌とは反対に、秋はあまり俺は楽しくなかった。

 そうして、冬。
 先輩は、窓際に居なかった。それは図書館でも、生徒会室でもそうだ。雪が降って、窓ぎわで過ごすのは寒いから、奥に引っ込んでいるのだろうとはすぐに分かった。
 大体は窓際から顔を出す先輩を眺めていた俺にとって、これは結構つらいことだった。
 雪が降ると、屋内でのトレーニングに限られるため、部活は早めに切り上げられて、俺は暇になる。そうなると、生徒会よりは入りやすい図書室で、俺は九条先輩が来るのを待つようになった。でも冬は受験もそうだし、卒業に向けてだったり、学校の行事は増える時期だ。九条先輩はいつも忙しそうで、なかなか図書館でゆっくりする暇なんてないようだった。
 でもその日――冬休みを明日に控え、長期休暇前に会える最後のチャンスに、九条先輩はいた。 
 相変わらず誰もいない。図書室のど真ん中に、どこから引っ張り出して来たのか、教師用のストーブを我が物顔で持ち運んで、先輩は机に顔を突っ伏して眠って居た。
 コートは教室にでもおいているのだろうか、セーターだけでは寒いのか先輩はたまに肩を震わせていた。
 空調が肌に合わない生徒の為に、図書館には毛布が何枚か置いてあったはずだ。
 先輩に釣られて、ちょこちょこ顔を出すようになった俺に、いつだったか受付の図書委員の子が教えてくれた。
 急いでそれを借りに行こうと思ったところで、俺はふと思い立った。
(これって先輩をじっくり眺められる、滅多にないチャンスなのでは?)
 盗み見るだけではなく、堂々と――それは日々こそこそと先輩を追いまわしていた俺にとって、随分と魅力的なことだった。
 だからそのまま、ちょっとだけと言い訳をして、眠る先輩の正面の席に座って、何をするでもなく穏やかに寝息を立てる先輩をぼうっと肘をついてみていた。
 
 どれだけ時間が経ったのだろうか。
 陽の落ちる時間が早くなって、夕暮れというより暗くなってきた窓の外に気づく。
 そろそろ図書館を閉める時間かもしれない。
 下校を促す放送が流れて先輩が目を覚ます前にここを離れようと思っていたら、ふいに先輩がくしゅ、とくしゃみをした。
 目は覚まさない。けれど、その唇が小さく「寒い」となぞったのを、俺は確かに見た。
 見て、それから、ほとんど衝動で唇を寄せた先輩の冷えた頬の感触を、俺は今でもはっきりと覚えている。
 意気地なしの俺は、着ていたブレザーを先輩の肩に重ねて、逃げるように図書室を出た。
 
 あれは……あの日々は――。

 トレーニングを終えた一人の帰り道。
 あーあ、と思う。
 会えない間に九条先輩の思い出に縋ること、はや半年以上が過ぎた。
 吐く息も白い。
 年末だった。

(これってもうあれだよな?)
 
 好きってやつだ、と。
 この時になって、俺はようやく観念した。
 先輩と会えなくなって最初の冬休みを一週間後に控え、俺はその長期休暇の間に、来年通うことになる大学寮の下見に行くことが決まっていた。
 この街を出るまで、あと三か月と少し。まだ先のようでいて、あっと言う間なのだろう。
 先輩が学校にいなくても、今はまだ先輩と過ごした思い出があの校舎にはある。でも俺も卒業してしまったら、もうその繋がりすらなくなってしまう。いよいよ先輩との接点が無くなっちまうって時になって、遅すぎる気づき。

「あーくっそ!!」

 気を紛らわす為に、首が痛くなるくらい上を見ながら歩いていた。
 悔しいことに、今日も嫌になるくらい綺麗な空だった。
 名前は知らないが、多分有名な名前がついていそうな、明るい星が幾つも瞬いている。
 それを眺めながら、やっぱり俺は先輩のことを考える。
 今すごく会いたかったし、せめて先輩が海外みたいに遠くじゃなくて、この街にいてくれたらよかったのにと思う。
 そうすれば今この空に向かって大声で叫べば、偶然にだって会えたかもしれない。

「先輩帰ってきたりしねえのかな……」

 まあ帰ってきていたとして、俺に連絡くることなんて絶対にないし、すぐ向こうに戻っちまうんだろうけど。と、拗ねた気持ちで歩く。流石に歩道を歩くのは、前をみていないと通行人にぶつかりそうだったので、土手を下って人が滅多に通らない川沿いに出る。

「っと、アブね……」

 足元なんてちっとも見ていなかったから、川べりに出っ張った大き目の岩に足が引っかかる。
 咄嗟に足を踏ん張った先に、ありえない人のありえない姿を見止めて、俺はギョっと目を見開いた。
 誰もいないと思っていた。
 だから、そこに――今の今まで俺の思考を占領していた”彼”を見つけた時は、本気で驚いた。

「九条……先、輩?」
 
 暗がりで目を凝らす。空はまだ夕暮れ時だったが、高架下は影が邪魔をしてよく見えなかった。
 うっかり蹴飛ばしてしまわなくて良かった……。俺が冷や汗を流したのも無理はない。先輩は、俺の足元、数センチ先に寝転がっている。

「九条先輩……っすよね?」

 白昼夢の可能性も考えながら俺が恐る恐るもう一度名を呼ぶと、俺の顔を一瞥した先輩は嫌な奴に会ったとばかりに眉を顰め、面倒そうに半身を起こした。

 真っ白の質の良さそうなコートが、土と草でまばらに色づいていた。先輩はそれを手で払うのではなく、コートを脱いで乱暴に振りまわして汚れを払った。パンっと最後に一振りして、敷物になっていたコートが、きちんと先輩の身に纏われる。

「随分大雑把なんっすね。まだ汚れてますよ、そことか……」
「気にならない」

 汚れの部分を指さした俺に、先輩は短く応える。俺に一人の時間を邪魔されたのが、大層不快らしい。元々あまり機嫌の良い人ではないが、特に今日は眉間の皺が濃い。久々に会えたというのに、あんまりだと苦笑いする。

「ちょっとは気にして下さいって。ほら、髪も跳ねてる」
 乱れた黒髪を直してやろうと後頭部を撫でつける。先輩はそれに大げさに驚いて、俺から数歩後ろに遠ざかった。
「そんなに怖がんなくても」
 ちょっと傷ついて、触れたばかりの手を引っ込める。
「別に怖くなんて無い」
「じゃあこっち来て下さいよ。久しぶりなんだし、ちょっと付き合ってください」
 なんでここにいるんだとか、向こうの生活はどうなんですかとか、訊きたいことは色々あったけど、頭の中は先輩が今ここにいるってこと以外どうでも良くなってしまった。

 家に帰ってもする事も無いし、俺はまだもうちょっとこの空を見ていたかったので、その場に先輩がしていたみたいに寝転がってみる。草がちくちくと捲りあげたシャツからはみ出た腕に刺さって痛い。川の傍のせいか、土が少し湿っていて、それが夕暮れの涼しさのせいで冷えていた。
 お世辞にも心地良いとは言えない。気持ちよく眠れるような状況じゃなかった。こんな場所に、先輩はいつから寝転んでいたと言うのだろうか。

「先輩、こんなとこで何してたの?」
「――君は?」
「俺は帰り道っすよ。川辺に降りて来たのは、空を見て歩きたかったから、かな」

 先輩は胡乱な目つきで俺を見下ろしていたけれど、どこかへ行こうという気はないのか、そのまま俺の横に居座った。律儀に付き合ってくれているのだろうか。いや、先輩は俺が現れなければそのままここに寝転がっていたのだろうし、元々ここを離れる気はないのかもしれない。

「で、質問」
「何?」
「先輩がここで何してたの、って俺は訊いたの」
「君は……相変わらず目上に対する口の利き方がなってないね」
 長い会話に面倒になって、早速崩れだした俺の敬語に、先輩はあからさまに不快感を滲ませる。
 そういえば、学校にいる時もそれでよく怒ってたっけ。今にも舌打ちが聞こえて来そうな苦い顔だ。それでも先輩は俺の事を無視する気は無いようで、ゆっくりと、重たい口を開く。

「僕も、空を見てた」
 そう言って、先輩は空を仰いだ。予想通りの言葉だった。それでも、改めて言葉に出されて、俺は安心する。やっぱり、気のせいなんかじゃない。先輩と俺は、同じ物を見ていた。
 先輩の視線に誘われるように、俺も空を見上げる。なるほど、ここから寝転がって見る空はまた格別だと思った。

「町の屋根んとこと、空の境界線のとこが綺麗なんだな……」
 俺の言葉に、先輩がちょっと驚いた様に目を見開いた。驚くと言うより、意外と言った感じか。
「そう、君にも分かる?」
 先輩は珍しく、どこか嬉しそうに弾んだ声を出した。先輩の表情から、棘が抜ける。

「僕ね、ここ好きなんだ。町の人工的な光が、闇が濃くなるにつれて瞬きだす」
「先輩は空が好きなの? それとも、この町の風景が好きなの?」
 俺が尋ねたことはとても些細なことで、どっちでもいいと言うのが正直な所だろうとは思った。だけど俺は知りたかった。その小さな差が、とても気になったのだ。
 先輩が何を好きなのか、正確に知りたいと思った。
「この町の空が好きだ」
 即答だった。
 どうしてだろう。今日は先輩は、何でも素直に答えてくれるみたいだ。こんな風に九条先輩と普通の会話をしているのが、俺にはとても不思議なことのように思える。
 元々、学年だって違うし、友達でもないし、先輩がしつこく俺の素行を正しに来さえしなければ、言葉を交わすことすらなかった相手だ。すっかり目を付けられてしまった俺は、先輩の小言は沢山聞かされたけれど、それは一方的なもので、ほとんど会話では無かった。あとは全部、俺が勝手に先輩を眺めてただけ。先輩は俺のことなんて、ネクタイを結んでくれる5分間で話をした程度にしか知らない。それなのに、今、先輩が当たり前に俺と会話をしてくれるのが嬉しかった。

「――その答えじゃダメ?」
 
 俺が先輩との会話に殊更感動している間、反応がないことを不審に思ったのか、先輩は体ごと俺の方に向けて怪訝そうに俺の顔を覗き込んだ。
 空を見たままだった先輩の視線が、真っ直ぐに俺を捉えた。
 綺麗で、優しい目だと思った。本当に、好きという気持ちが流れて来そうな、そういう目。良くない勘違いをしてしまいそうだ。眩暈が、する。
 きっと、先輩は素直なだけなのだ。自分の感情を取り繕ったりしないから、俺のことを馬鹿にしたりもするし、こうやって真正面から「好き」なんて言えるんだろう。

「俺も、どっちも好きっすよ。町も、空も」
 正直な話、そんなの深く考えたことは無かった。俺は先輩みたいに地元愛が強い訳じゃないし、そもそも空が綺麗だなんて恥ずかしくて誰にも言えない気がしていた。
 高校生男子として、その話題はロマンチック過ぎる。でも、先輩は俺よりずっと前からその綺麗さを知っていて、そしてそれを素直に好きだって言える。そういうの、カッコイイと思う。

「じゃあ、僕はそろそろ行くよ。お爺様の具合が悪いって言うから、年を越す前に早めにこっちに帰ってきたんだ。病院帰りに少し寄り道をしただけだから」
 一通りの会話が終わったと判断したのか、先輩は立ち上がり、俺に背を向ける。先輩が何故ここにいたのか、知りたかった情報は今の先輩の言葉で全て知れた。

「あ、待てって……! あの、俺、送ろっか?」
 咄嗟に出た言葉に、先輩が信じられないと言った様子で振り返った。
「……なんで?」
 心底不思議そうに先輩が尋ねる。その反応はとても自然だと俺も思う。
 なんとなく口をついて出て来た言葉なので、理由を考えるのは難しかった。本音は、ただ先輩と離れがたかっただけなのだけれど、じゃあ何故離れたくないのかと言われると、何も言えないから黙り込む。

「えと、もう暗い、から。変な奴に絡まれでもしたらって、思っ、て――」
 しどろもどろ自分で言いながらも、妙なことを言っていると思う。顔が、急激に赤くなって来るのが、集まる熱で分かる。
 何を言ってるんだ、俺は。相手はあの、九条先輩だ。特に有名でもなかった、うちの学校の剣道部を全国優勝に導いた彼は、俺なんかよりずっと強くて、彼に敵うような奴はそうそう居るはずもないのに。
 だけど、俺はどこかでちょっと思ったんだ。

 ――でも顔とか可愛いし、アブネェかも、って……。
 
 先輩は俺の言葉を聞いて、口をポカンと開けた。そんな間抜けな彼の表情は初めて見た。目がまんまるに見開いて、なんだか俺を可哀想なモノを見る目で見ている。先輩が何を言いたいのかは痛いほどよく分かる。分かるけど、いたたまれなくなるから、出来れば何か言って欲しい。
「君、正気じゃないね」
 ようやく先輩の口から出た言葉は、思い出の通り容赦がなかった。でも、何も言われないよりはずっと良い。先輩の言葉に力なく俺は頷く。本当に、どうかしている。

「疲れてるんじゃないの? 早く帰った方がいい。僕も帰るから」
 一人で、と強調する先輩の言葉が、俺の沈み切った心に更に追い打ちをかける。恥ずかしいし、馬鹿だし、呆れられた……。
 先輩は、「じゃあね」と言って、踵を返す。今度こそ俺はそれを見送った。別れる間際には、先輩の顔をまともに見れもしなかった。今引き止めないと、また先輩が行っちまう。でも、引き止める術が俺には無い。

(ああでも、嫌だな)

 どうにもこのまま、行かせられる気がしない。
 先輩が「好きだ」って言葉を発した時の、口の動きだとか、表情だとか。あんなに柔らかい表情が出来るだなんて、反則だと思う。
 それで俺を見たんだ。見て、「好き」って言った。
 先輩が好きなのは、この街の空で、俺のことじゃないけど、言ったのは言った。

「あー、やっぱ無理だって!」

 突然の大声に、すぐ横を歩いていた散歩中の野良猫がびっくりして走り去った。
 もやもやした気持ちをスッキリさせたくて、俺はまた、空を仰いだ。
 ――と、何かが一瞬またたいて、地上に落ちた。

「あ、」
 思わず声をあげる。見間違いかと思ったけれど、もう一度目を凝らして空とにらめっこしていると、また星が、堕ちた。
「え? え? 流れ星? え、何?」
 見ていたらそれは、次から次へと落ちて来て、陳腐な言葉だけれど、まさに星のカーテンみたいだった。
 すっげぇ、綺麗だ――。
 思ったら、俺の足は先輩の向かった先を追いかけて走りだしていた。

「先輩ー!! 九条先輩ー!!」
 土手を上っていった先輩の背中は、もう見えない。家に帰ると言っていたから、向かう先は分かっている。俺は見えない先輩の後を追って、必死に走る。

「先輩、どこ? もう帰っちまった? なあ、あのさぁ――」

 すっかり姿の見えなくなった先輩に向かって呼びかける。
 何を言うつもりなのか、何が言いたいのか、自分でも分からないけれど、心のまま伝わればいいと思った。先輩が聞いてなくても別にいいんだ。俺が知りたいんだ。俺の心を。

「空が、星が、すっげー綺麗で。俺、アンタに、教えてやりたくって」
 走りすぎて、荒くなった呼吸のせいで途切れ途切れに、思いつくまま言ってみる。声に出してみて、初めて自分が何をしたかったのか分かった気がした。
 綺麗なモノを、先輩と一緒に見たかった。教えてやりたくて、俺の好きなモノも知って欲しくて。

「だって、俺今日嬉しかった。俺が綺麗って思ったモノを、先輩も見ててくれて、嬉しかった。あの時だって――」

 俺が初めて空を綺麗だって思った、あの日。
 誰も見ていなかったモノを、俺達だけが見ていたのが、特別な気がした。
 同じものを良いと思えるのは、素敵なことだ。きっと俺たち、相性がいいよ。

「先輩、見てるか? 夜の空も、すっげー綺麗!」
 言い切ったら、清々しかった。走って汗をかいたのも良かったのかもしれない。俺は根っからの体育会系だから、頭で考えるより体を動かした方が、答えが出やすい。
 叫んで満足すると、その場にぺたりと座り込んだ。流石に、トレーニングを終えた身体に、全力疾走はきつい。でも気分的には爽快だった。ずっと胸の中につっかえていたものが、全部吐き出された感じがする。

「キモチイー!」
 うーん、と体を伸ばして、ふぅっと息をつく。

「この野生児が……」
 後ろから聞こえた楽しげな声音を、誰と確かめる必要もなかった。そんなの、分かり切っている。

「居たなら早く出て来てよ先輩。ここ小さな街だから、変な噂が立っちまう」
 高坂さんちの郁人くんが夜中に奇声を発してた、なんて、ご近所さんで噂になったら俺はともかく母さんが可哀想だ。
「嫌だね。まあ、恥ずかしい思いをしたのはこっちだけど」
 人の名前をデカい声で、と先輩は吐き捨てるように言う。

「いいじゃん、呼びたかったんだよ。アンタの名前」
 少しも怯むことなく言い返してやれば、先輩は少し面喰ったように目を見開いて、それからすぐ「生意気」って、怒った。尖った唇は、怒っていると言うより、拗ねている風だ。
 先輩は、どういう気まぐれなのか当然のように俺の横に並んだ。 

「綺麗だな……」
 もう何度言ったか分からない言葉を、それでも呟かずには居られない。今度のは、独り言ではない。横には、同じように空を見上げる先輩がいる。
「――うん、冬は流星群の季節なんだ」
「へぇ?」
「珍しいから、よく見ておくといいよ」
 まるで、自分は興味がないみたいな言い方をする。
 ちょっとした違和感を感じて、先輩の表情を伺おうと顔を横にずらす。
 空を見上げている先輩は、また、さっきみたく優しい表情をしているのかな、とか、期待を込める。
 正面からでもいいけど、横顔もきっと良いと思った。なんたって、俺に向かって先輩が眉を吊り上げ小言を言っている時ですら、俺は「綺麗な顔してんなあ」なんて、呑気に思っていたくらいなのだ。微笑まれでもした日には、それこそ凶器だ。

 俺は息をひそめて、先輩の横顔を盗み見る。
 空を見ることなんて、忘れていた。
 流星群が珍しいだとか、よく見ろだとか、そんなことどうでも良かった。
 先輩の顔が見たい――。頭の中は、先輩のことで一杯だ。

「……貴文先輩」

 まだ顔を寄せる勇気がなくて、体を固くしたまま初めて下の名前で呼んでみた。視線を先輩の横顔から、正面へと戻す。緊張で、体温がどんどん冷えて行く。先輩は振り向いてくれたのか、それとも空から目を離していないのか。知りたいけど、知りたくない。

「先輩はよく見ろって言ったけど、俺、今は空見てる余裕なんてない」
 頭が浮わついている。言葉だけが先走る。何かが、俺の体を、猛烈な勢いで駆け抜けて行く。熱なのか、感情なのか、良く分からないものが溢れて、どうしようもない。
「先輩が傍にいたら……俺、何にも見れない」
 思わずつぶってしまった目を、恐る恐る片方ずつゆっくりと開けた。そのまま先輩の方へと向き直る。
 綺麗な、黒を見た。
 まさか、先輩もこっちを見ているなんて思ってもいなかったから、それが先輩の切れ長の目から覗いた、漆黒の瞳だと気付くには、少しだけ時間が要った。

「うん、僕も……」
 先輩の唇が動いた。
 星なんかより瞬いて見える。先輩の傍は、キラキラする。
「空なんて、星なんて、今だけはどうでもいい」
 先輩の腕が伸びて、俺の肩を掴んだ。弱い力で手のひらを乗せられただけなのに、まるで吸いつかれたように思った。引き寄せられる。離れたくない、離れられない。
 俺の目の前で、それはゆっくりと閉じられた。先輩の伏せた睫毛が、俺を誘う。
 そのまま唇を重ねて、瞼にもキスを落として、それからようやく先輩の顔がまともに見れた。緊張したし、恥ずかしかったけど、それは先輩も一緒なんだと思った。俺だけ、目を逸らすのは卑怯だ。
「俺、先輩のことそういう風に好きって今日気づいた」
 だからまだちょっと混乱してるって正直に言ったら、先輩は「遅いよ」と鼻で笑った。

「僕は知ってたよ。いつも見てたから」
 ――僕をみてる、君のこと。

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