昨日の結果はすぐに分かった。
「みんな、鉄道模型制作が活動として認められたわ。校長先生も褒めてたよ」
 この言葉に俺はガッツポーズを取った。他の2人もやることが決まった安心からか抱きあっている。これで活動内容が決まった。
「で、もう一つ報告があってね。なんとこの活動が部活に昇格することになりました」
「ええ!?」
 校長先生がせっかく公式の大会に出るのだから部活として動いた方がいろいろ都合がいいと、本来5人以上の部員が必要なルールのところ、例外的に部活として認めてくれたという。
 今までは名前のない活動なったけど、部活になるとなんか引き締まる思いだ。
「それでね、なんと部室が用意されました」
「部室ですか!?」
「そうよ。模型作りに役立つと思うわ。というわけで移動するわよ」
 急なことに慌てて荷物を持って先生の後について行った。
 移動先は普通の教室ではなく、視聴覚室や理科室といった専用設備のある部屋が集まる特別教室棟。その一階の一番奥の部屋だった。
「ここって去年度で廃部になった工作部の部室ですか?」
「そうよ」
「おお、模型作りにピッタリの場所ですな~」
 工作部という名前通り、いろんな工具が置いてある。模型作りにも使えそうなやすりやはんだごてとかは買わずに済むのは助かる。
「では早速始めていきたいんだけど、その前に一つ決めて欲しいことがあって」
「何でしょう?」
「部活なので部長を決めて欲しいの」
 確かにいないと困るな。
「では俺がやります」
「明石君。ありがとう」
 言い出しっぺというのもあるけど、二人の賛同があったとはいえ前原集落を作るというワガママを聞いてもらったからには責任持って引っ張ってかないと。
「明石君にお願いしても大丈夫かな?」
「やる気があるようですし、構いません」
「本当は私たちが明石君よりもやる気なきゃなのにね」
「では明石君に決定!」
 少ない人数の拍手が起こったから俺もお辞儀する。
「じゃあ早速だけど、どんな模型にするか話し合いたいと思います」
「決まっているのは、前原集落を作るということだけで合ってるよね?」
「はい」
「ちょっと待って」
「どうした?」
「その前にまず大会について何も知らないわよ。ルールとか分からなかったら作る以前の問題だと思う」
 瀬戸さんの指摘はもっともだ。
 思えば鉄道模型甲子園について俺たちは名前しか知らない。作ったはいいものの規格がルールに適していなくて失格とかになったら目も当てられない。
 すぐにネットで検索すると去年だけど大会の要項と日程が出てきた。今年はまだ告知されていないようだ。
 ざっくり言うと、鉄道模型甲子園は毎年夏、大体は8月上旬の土日に開かれる予定で、全国の鉄道模型を作る人たちの作品が集う大会になっている。
 参加する人たちは、中学生、高校生、大学・専門学校、社会人に分けられ、それぞれで優良賞、優秀賞、最優秀賞が与えられる。そして各最優秀賞の中から優勝に値する”総合最優秀賞”、二位にあたる”総合優秀賞”、三位の”総合優良賞”が与えられる。総合四位は名称こそないが入賞であることに変わりない。このほかにも特別審査員賞というものがあり、一番いいのは文部科学大臣賞で、他にはこの前見た『崩壊都市』の作品が受賞したファンタジー賞(架空の世界観をモデルにしたものを対象)というユニークな賞が合計5つある。
 他にも賞はあるにはあるが、成果と言えるものとなると今言った賞を取るのが目標になると思う。
 そして肝心の寸法だが、2種類あるみたいで一つはモジュールと言われる部門。これは線路が大きな楕円を描いて、それを16ブロックにわけ、振り分けられた部分をそれぞれ作るというもの。最終的にはその一つの円となったレールの上を本番当日は模型の車両が走る。大きさはそれぞれ直線ボードで30㎝×90㎝、角っこの曲線ボードで60㎝×60㎝。もう一つは一畳レイアウト部門。一枚の板の上だけで完結させるタイプで大きさは600㎜×900㎜から910㎜×1820㎜まで選べる。これは土曜日見た『崩壊都市』の作品がそうなる。あともう一つHOゲージという企画の車両を作る部門があるみたいだけど、今回俺らはレイアウト作りだから関係ない。
「これだと、モジュール部門は難しいな」
「線路を自由に敷けないのは痛いわね」
「そもそも前原集落は鉄道通ってないからね〜」
「え、そうなんですか」
「そうだよ。集落ができた時から一回も通ってないよ」
「全部バスでしたからね」
 一回おじいちゃんに聞いた覚えがある。前原集落は意外と大きいけど、鉄道を敷くまでのメリットはないと言っていたような気がした。林業が主な産業だったはずだからどちらかと言うと人はバスや自家用車、荷物はトラックが主流だった気がする。
「てことは、線路は空想で敷くことになるのね?」
「ああ」
 だからこそ、既に線路が敷くところが決まっているモジュール部門は避けたい。
 しかしいきなり一畳レイアウト部門のみ出展というのもなかなかきついものがありそうだ。大体はモジュール部門のみで、一畳レイアウト部門のみというのは過去を遡ってもほぼいない。この前の『崩壊都市』の学校もモジュール部門を出していた。
「ひとまず一畳レイアウト部門で決めるのはどうかな?前原集落を作るのには一畳レイアウト部門で出すのがいいと思ったのなら、それを信じてやるっていうのはどうかな?」
 俺が悩んでいたのがわかったのかアドバイスをくれた。
「一畳レイアウト部門での出展にしたいと思うけど、いいかな?」
「OK」
「いざとなったら変えればいいわ」
「ありがとう」
 ひとまずは一畳レイアウト部門で出展することに決定した。
「じゃあ次は……」
「待って」
 瀬戸さんが再び待ったをかけた
「今度は何?」
「そもそもの話、私たちは鉄道模型を全く知らない。例えば昨日の『崩壊都市』の模型。山のあの形をどう作ってるの?どんな順番で作るのが理想なのか?知らないととんでもないものが出来上がってしまうよ」
「……ごもっともだ」
 またしても瀬戸にぐうの音もでない指摘をされた。
 目標が見つかって視野が狭くなっているのかもしれない。部長に立候補したのになんてざまだ。
「鉄道模型の動画結構あるよ」
 先輩がサイトから鉄道模型を作っている動画を検索して見せてくれた。
「ありがとうございます」
 さっとスライドしてみるといろんなものが出てきて面白そうではある。けど同時にマニアックな内容そうなサムネが多く、これじゃあ見てもチンプンカンプンになるのは目に見えた。検索エンジンに『初心者』を追加し再度調べ直す。
「動画もいいですけど、まずは実物を見に行きませんか?」
「実物?でもあれって昨日までじゃなかったっけ?」
 確かに昨日までと幕に書かれていたのを思い出した。
「あのイベントは昨日までです。けど、鉄道模型を年中展示しているところはあります。例えばここです」
 瀬戸さんもスマホを見せた。画面に出ていたのは『JAMJAM』という鉄道模型の専門店。一番近い店は昨日行ったモールのすぐそばにあるみたいだ。
「ここには走行用のレイアウトが置いてあるみたいです」
 画面をスクロールさせ、一番下にレンタルレイアウトという項目が出てきた。お店のレイアウトでお客さんの持ち込んだ車両を走らせられるというサービスみたい。
「へえ、結構大きいな」
 写真に写っていた椅子と比較すると、縦2m×横4mはあると思う。これだけ大きなレイアウトを走らせられるなら子供とか楽しいだろうな。
「いろいろ売ってるんだね」
「はい。なので値段を調べて予算を出すためにも行った方がいいと思います」
 値段は確かに気になることだ。今は何が必要かはわからないけど、知っておいて損はない。
「そのお店に行ってみよう」
 実際に鉄道模型に触れられて、どんなものを使い、それらがいくらなのか知れる。なら行くしかないと思い、『JAMJAM』へ向かうことにした。