9ミリメートルのメモリー

 全員が運転体験できたところで、次は値段と始めるにあたって必要なものを調べる。
「すみません、全くの初心者が鉄道模型を始めるには何を揃えたらいいですか?」
 ブースから出たところを店員さんに質問する。
「そうですね。まずどんなレイアウトでも必要なものですと……」
 店員さんが商品棚の方へ移動したので俺たちもついていく。
 基本的には工具の類だった。カッターや精密ドライバー、ニッパー、定規などでほとんどは部室にあったものがそのまま使えそうだ。
 次に必要なのは接着アイテム。接着剤もゴム系、ゼリー系、プラ版を使うもの専用のもの、プラモデル用の接着剤、瞬間接着剤と種類は豊富。あと、ボンドを水に溶かして使うこともあるからスポイトもあるといいらしい。
 こんなにあるのは使う素材によって使い分けられるようなので、きちんと調べないといけない。
 後は色付けのスプレーや絵の具、それを塗るための筆などがあるといいと教えてくれた。
「ちなみにレイアウトのプランってありますか?」
「山奥の集落を作ろうと思っています」
「ではローカル線がメインって感じになりますね」
 また別の棚へ移動するのでまたついて行った。
「山ならこれは欠かせませんね」
 四角くて分厚い水色の板を手に取った。
「発泡スチロールでできた板です。これは土台で使い、地形作りに適しています」
 これをカッターで削って地形を作るみたいだ。
「お金をかけないやり方だと発泡スチロールや新聞紙で大まかな形を作って、それをこの……プラスターで覆うというやり方もあります」
 プラスターはなんか目の粗い包帯みたいなものだった。
「あと、線路ですね。ローカル線の線路は」
 他にも川を作るときの絵の具やスプレー、トンネルの入り口、山に生えてる草木に使う教えてくれた。
「あの、それと夜景を再現したいとかんがえているんですけど」
「夜景ですか?」
「はい」
「夜景となると電球が必要になりますね」
 不思議そうな顔をしながら店員さんはまた移動した。店員さんが取ってくれたのはLED電球12個入りとパワーパックのセットだった。だけど値段は4500円。多分安い方なんだろうけど、数を揃えるとなるとお金の問題がでてくるな。
「ありがとうございます」
「よければこの本を買っていってください。結構わかりやすくて人気なんですよ」
 タイトルは『Nゲージ入門・鉄道模型の大事典』。パラパラとめくると今店員さんが言ってくれたことが書いてあるっぽい。
「ありがとうございます。これ買います」
「ありがとうございます」
 2000円近くしたけど、あるのとないのとでは雲泥の差だ。
「あの、これって無料のやつですか?」
 瀬戸さんが持っていたのはジオラマの材料カタログで、表紙に無料とは書いてある
「大丈夫ですよ」
「ありがとうございます」
 本とカタログ、それから先輩がちゃっかりもらってきた無料配布の『ジオラマ作成』というパンフレットという戦利品を持って学校へ戻った。
 しかし運転体験を思いっきり楽しんでしまったせいか下校時刻ギリギリの到着になってしまった。
「明日は鉄道模型の勉強とできたらレイアウトの設計だな」
「了解」

 アパートに戻ると母さんに電話をかけた。あることをお願いするためにかけるんだけど、この一週間俺が付き合いで連絡する暇がなかったりこっちからかけても仕事が忙しいのか出なかったりしてなかなか予定が合わなくて、星奈がコケたときに鬼電のごとく何回もかけて繋いだ時くらいしか話せていない。だからそろそろゆっくり話がしたかった。
『星夜、やっとかけてきた』
 母さんの抗議と呆れの混じった声が鼓膜に直撃しそうな勢いを持って響いた。
「ごめん母さん。いろいろと忙しくて」
『忙しいって何?あ、お友達とか?でもそれにしたって遅くない?』
「ちゃんと説明するから」
 編入初日の事件から部活をすることになったことを詳しく話した。最初のラッキースケベのくだりは笑っていたけど、部活をすることになり、模型を作るという話になると静かに聞いてくれた。
「だから前原集落の資料が欲しくて、そのために俺の部屋にある写真を送ってほしいんだ」
「なるほどね。わかった、明日送るよ」
「ありがとう」
「私も何かあったと思うからそれも一緒に送るわ」
「助かる」
 これでなんとか前原集落の写真は手に入る。これで設計もやりやすくなるはずだ。
 それからは部活以外の近況や、母さんたちの今の状況、星奈の様子などを結構な時間話した。なんだかんだ一週間とはいえ離れて暮らしていると、母さんの声は安心するな。
「じゃあ明日もあるから、お休み」
「お休み、頑張りなさい。星奈と約束したなら、変なモノ作るんじゃないよ。もちろん、ワガママを許してもらった他の部員の子のためにも」
「わかってる。じゃ」
 電話を切って布団の上に寝転んだ。
 母さんからエールをもらい、自然と力が湧いてくる感覚を感じる。
「楽しみだな。ってもうこんな時間!!」
 時計は23時になろうとしていた。慌てて夕飯と風呂を済ませ、布団に入って明日に備えた。
 今日の作業は部室にある道具の確認から始めた。
 昨日である程度模型作りを始めるために必要なリストは揃った。そこからあるものを出して本当に買わなきゃいけない道具を選別する。せっかく工作部の部室と道具を使っていいことになったのに、既にあるものを買ってしまったら勿体ないからな。
「カッターと定規、やすり、ノコギリに糸鋸にニッパーはあるわね」
「千枚通しにキリ、ドライバー、金属用の鋏……あ、電動ドリル!使うかわからないけどありがたい。すごい、結構揃ってますね」
「それだけじゃないよ。私も実はこんなものを持ってるのだ」
 先輩がどや顔で見せて来たのはピンセット、プラスチック用の鋏、ニッパー、デザインナイフといったプラモデルようの工具キットだった。それに加え、だいぶ使い込まれた筆もたくさんあった。
「模型作りだから必要かなって」
「よくこんなもの持ってましたね?何か作ってたりするんですか?」
「違うよ。先生に追っかけられたときに逃げ切るためのいたずらグッズを自作するために買ったもの」
 聞かなきゃよかった。というかいたずらグッズを自作してたのか!既に
「も、もちろん今は作ってないよ!」
 俺の顔に出てたのか慌ててアピールをしてきた。
「でも、それって先輩手先が器用ってことですよね?それってかなり助かるんじゃない?」
「あ、そうか」
「そうだよ~。いたずらグッズを自作するのって結構細かい作業あるんだよ」
「先輩、自慢できることではありません」
「はい……」
「みんなごめんね~」
 手先が器用なことは自慢していいと思うんだが、と突っ込みたかったけど先生が来たからタイミングを失くしてしまった。
 とりあえず部室にあった道具は全部確認が終わり、リストと照らし合わせる作業に入った。
「とりあえず全くないのは塗装関係か」
「そうね。去年の10月に使えなさそうなものは捨てちゃったからね」
「それで、これだけの工具が残ってたのはラッキーだね」
「ええ」
 本当にそうだ。多分工作以外でも何か困ったときに使えそうなものばかりだから取っておいたんだろうけど、捨てなかった学校側には感謝だ。
「買うのに必要なのは塗装と模型専用の接着剤、あとはエアスプレーガンや、このグルーガンっていう熱を利用する接着剤みたいなものですね」
「あとレイアウトの設計ができたら最終的な予算を算出になるな」
「それは明日になりそうね」
「じゃあ、勉強会と行きますか」
 本を作業台の中央に置き、先輩が昨日出してくれた動画を見る。
 先輩が選んだものは非常にわかりやすいものだった。おかげで本の内容もかなり早く理解することができた。
「一旦休憩しましょうか」
 瀬戸さんの提案で少し休憩を挟む。動画は30分近くあったから、少し目が痛くなっていた。
「二人は前原集落に住んでたんですよね?」
 ペットボトルのお茶を半分くらい飲み干した後、急に質問された。
「ああ。俺は4歳から6歳まで親の都合で住んでた。おじいちゃんとおばあちゃんの家があってそこで世話になってたんだ」
「私は住んでたわけじゃないけど、明石君と同じでおじいちゃんとおばあちゃんの家が前原集落にあったから、行ったことはあるって感じ。でも夏休みとかは長い間いたから住んでたって言っても、もしかしたら通るかもね」
「どんなとこだったんですか?」
「山に囲まれてて何もないけど、水と空気が綺麗で夏でも意外と涼しいところかな。のどかで静かでいいところだけどそこ変わり何もないから都会に慣れた高校生にはきついかな」
「そうそう。あるのって個人経営に近いスーパーと田舎にあるコンビニもどきくらいで、子どもの遊び場って川か公民館だもん。あ、そういえば駄菓子屋もあったな。あそこのおばあちゃんテレビしょっちゅうテレビ見てて客がいることにも気づかないの」
「あ、先輩もやられたんですか?気づいたら気づいたで謝りはするんですけどお笑いの神様みたいなすっとぼけ方するんですよね」
「そうそう!!」
 大きい集落と言ってもあくまでも”山奥にある集落”にしてはだからであって町という規模で見ると小さい。だからどっちかが出した話題は大体わかってだんだん懐かしくなってきた。
「あの、お二人とも」
「あ、ごめんごめん」
「すまん」
 つい盛り上がって瀬戸さんを置いてけぼりにしてしまった。
 けど瀬戸さんは口角が上がっていてなんか楽しそうにしていた。
「大丈夫よ。二人にとって前原集落は思い出の地なんですね」
 そりゃそうだ。小さい頃過ごしたところだからたくさんの思い出がある。
「あの、まだプランを考える時間じゃないですけど一ついいですか?」
「え、うん、いいけど」
「今回の模型のコンセプト、思い出なんてどうですか?」
「思い出?」
 どういうことかよくわかわずオウム返しをした。
「そうよ。……芸術作品って作成している時の感情が出やすいってよく聞きます。そして私達が作る前原集落は二人の楽しい思い出がたくさん詰まっているなって二人の話を聞いてて感じました。だったらその思い出を全面に出せればいい作品になると思います。それに、私達が経験ある他校のライバルに技術では絶対に勝てません。ならいっそう感情のこもった作品を出すべきだと思います」
 瀬戸さんの言葉は腑に落ちた。確かに俺たちじゃ他の参加者に太刀打ちなんて到底できないと思う。となると何で勝負するのかとなるとそういうところになってくる。
「思い出……か」
「そう。例えば明石君」
「なんだ?」
「その前原集落の夜景だけど、どういうときに見た夜景が一番記憶に残ってる?」
「うーん、そうだな……夏かな。その夜景が見える場所は夜になると明かりがなくてその分夜景が綺麗に見えるんだけど、夏は空に天の川がはっきり見えるんだ。で、町の形も細長いから上と下に天の川が出現したみたいに見えるんだよ。その中でも一番衝撃的だったのは夏祭りの日。建物の明かりに加えて提灯や屋台の明かりが加わって天の川感が増してもはや宇宙にいるのかと錯覚するくらいキレイだった」
 集落で過ごす最後の年の夏祭りの日に見たあの夜景は本当に忘れられない。小学生のころの記憶は結構忘れてるのにこの記憶だけは今も鮮明に焼き付いているくらいだ。
「何それ見たかったー!!」
「最高じゃない、それよそれ。そういうのを作っていくのよ」
「絶対インパクトあると思うわ」
 話しているうちに本当にいけそうな気がしてきた。まだプランを練っていなかったとはいえ、俺個人の、星奈との約束という意味でも夜景という漠然なモノしか考えてなかった。誰かに見せるのなら、俺の思う一番いい夜景見せたいし、見せなきゃいけない。星奈はもちろん、見に来るお客さんや審査員の人にも。
「いいと思う。思い出。それで行こう」
 休憩中に運よく雑談からコンセプトが決まった。
「あ、だったら私も一ついいかな」
「どうぞ」
「私も一番記憶に残ってるのって夏祭りなんだ。おじいちゃんとおばあちゃん、東京に行っちゃったお兄ちゃんと一緒に屋台のご飯食べたり射的やったり、結構昭和な感じが残ってて楽しかったんだ。で、前原集落の夏祭りってお神輿が町を回るんだけど、そのご神体?かな、とにかく上に乗っかってるのが結構変な形なんだよね」
「ああ、そういえばよくわからない形してましたね」
 俺もあの祭りは行っているから変な形の神輿は見たことがある。今でもよくわからないけどその変な形から笑っていた覚えがある。
「これで設定も決まりですね。夏祭りの日の夜の前原集落」
 もはやそれしかないと思う。偶然にも俺と先輩の思い出が夏祭りで重なったんだから。いや、前原集落の大きなイベントはそれくらいだからある意味必然なのかな?そんなことも思った。
 だけど一つ気になったこともあった。
「でもさ、思い出にするのはいいんだけどそれだと瀬戸さんの思い出が入ってないのがちょっと気になるんだけど」
 瀬戸さんは前原集落とは無縁だ。だから当然前原集落に思い出はない。だからと言ってひとりだけ思い出が入っていないというのは印象が悪い気がする。大人数なら話が違ったかもしれないけど……。
「ああ、そうよね。それはちょっと問題よね」
「ですがいたこともない場所に思い出なんてありませんから入れようがないですよ?それに私は大丈夫です。明石君と先輩」
「そんな、私はいやだよ。思い出をコンセプトにする以上全員の思い出があるべきだと私は思います!」
「いや先輩、話聞いてました?入れようがないですよ」
 けどどうしても瀬戸さんの言うことは一理ある。ここをどうするべきか、どこかの思い出を強引にぶち込むか?でもそんなことをすれば俺たちの思い出が上手く再現できなくなるかもしれない。
 そのとき模型の教科書に載ってた写真に目が行った。都心を寝台列車が走っているシーンを映したものだ。
 昨日模型の運転をしたとき、瀬戸さんはこの青い電車を選んだ。何かあるのかもしれない。
「ねえ瀬戸さん。そういえば昨日模型を運転したときこの電車を選んだけど、どうして?」
「え、ああ。ちょっと思い入れがあったの」
 思い入れ、つまり思い出があるということか?
「どんな」
 少し食い気味になって聞いた
「昔島根に住んでたんだけど、お父さんは当時陸上自衛隊の習志野にある空挺部隊に所属してて千葉に住んでたのよ」
「すご!」
 空挺って人間やめてるとか言われるスゲー人たちの集まりだって聞く。というかたまに出る軍人っぽい口調はお父さんの影響か。
「それでお父さんに会いに千葉へは何回も行ってたの。で、お父さんと一緒に千葉から島根に帰る時によくその列車に乗ってたのよ。お父さん鉄道に乗るのが好きだから。初めて乗った時のことは今でも覚えてる。それまでは電車って昼間に走るものだと思ってたし、何より電車の中で寝られるっていうのが衝撃的だった。後はお父さんの膝に乗って外の景色を眺めてたわね。町の明かりが星に見えたり、深夜に普段は起きれない時間まで起きて普段見ることのできない眠った町や駅を見るのが楽しかったわね」
 今まで見たこともないようなテンションで青い電車での思い出を話してくれた。
「そうだったんだ。……ってあるじゃん思い出!」
 先輩が思いっきり突っ込んだ。
「あの、確かにブルートレインには私の思い出がありますけど前原集落の思い出ではありませんよ」
「う……」
 けど瀬戸さんの言葉にあえなく撃沈していた。
 でも瀬戸さんに鉄道での思い出があったのなら、何かしらで模型に入れることができるかもしれない。何しろ鉄道施設に関しては全く決まっていない。どこかしらに入れられるところがあるはずだ。
「瀬戸さん。他にもそのブルートレインで記憶に残っている事ってある?」
「朝になって大きな橋を通ったことかな。名前は忘れたけど、鉄道ファンの間じゃかなり有名な橋って聞いてる。結構高くて下には町が広がってて怖がってたわね」
 すぐにスマホで調べてみる。出て来たのは余部鉄橋という橋とそこを通る寝台特急『出雲』号が出て来た。確かに高いところを走ってて町がその下に広がっていて海が近くにあるみたいだ。
「これかな?」
「あ、そうそう。この景色で間違いないよ」
 場所もわかった。それにしても、ここって山の近くを通ってるし、この鉄橋も結構いいデザインだと思うからレイアウトに組み込めないかな?そうすれば瀬戸さんの思い出であるこの寝台列車を入れることができるのに。
「あ、結構時間経ってしまったわね。そろそろ再開しましょう」
 その言葉にハッとして俺たちは先輩のスマホの動画と本に視線を戻し、勉強を再開した。

 その夜アパートの頼んでたものが届いた。
 けど、思ったよりも箱が小さくて嫌な予感がした。
「なんでこんなに少ないんだ?」
 中のものを確認する。俺の部屋にあったものは全てあった。けどそれ以外に母さんとかが持っていたはずの前原集落で撮った写真がまったくなかった。
 出れるかわからないけど母さんに電話を掛けた。
『あ、星夜、荷物届いた』
「届いたけど、俺の部屋のもの以外なくてさ。どうして」
『あーそのごめんね。どうやらおじいちゃんとおばあちゃんが死んじゃったあとに遺品整理で捨てちゃったっぽいのよ』
「ええ!?」
 おじいちゃんとおばあちゃんが亡くなったのは俺が8歳の時で、その時には既になかったというのか……
『本当にごめんね。まさかこんな形で使うなんて思いもしなかったし』
「そんな……」
 今更仕方ない。ないものはないからどうしようもない。しかし前原集落の資料がほぼないに等しくなってしまった。困ったことになったな。
「というわけで、祭りの日の写真と夜景の写真とかは手に入ったけど前原集落の基本的な情報は手に入りませんでした。すいません」
 次の日の部活で正直に話して謝った。
「まあしょうがないよ。それに肝心の祭りと夜景の写真はあるんだから」
 本当に不幸中の幸いなのはそれだ。もし祭りの写真、特に夜景は集落の人もあまり知られていない場所だからなかったら大変なことになっていた。
「そうね。前原集落の情報なら今の世の中便利だからすぐに手に入るわ」
 金谷先生が俺の肩に手を置いて励ましの言葉をくれた。怒られるかと思っていたからみんなの対応はすごくありがたい。
「じゃあ今日は予定を変更して前原集落の資料探しを行いましょう」
 すぐに全員で手分けして前原集落に関する情報を集めるためスマホや学校のパソコンを借りて資料を探す作業に入った。
 写真自体はそこそこネットに転がっていたけど、全体写真や写っている範囲の広い写真は数枚しか見つからなかった。
「思ったより手強い」
 あまり知られていない町と言ってもここまで写真が少ないとは思わなかった。全体写真は俺の夜景の写真のみでギリギリ稜線がわかるくらいで、建物なんかは当然わからない。
 誰も声を発せず、緊張した空気になっていたけど突然先輩が立ち上がった。
「あ、そうだ!」
「どうしました?」
「うちのおばあちゃんだよ。おばあちゃんは前原集落の元住人だから、おばあちゃんに聞けば一発だよ」
「それだ!」
「なーんで忘れてたんだろう。おばあちゃんごめ~ん」
 確か俺がダムを見て気分が落ちていた時にそんなことを言っていたのを思い出した。元住人なら生き証人だし、いろいろ知っている。これほど強い味方はない。
「じゃあ早速家に行こう」
 動きやすいようにメモと筆記用具だけ持って学校を出た。先輩の家は学校から徒歩20分ほどにあり、俺の家とは反対側にあった。他の家と同じくらいの大きさの一軒家で、庭は他の家とは少し広いって感じだ。
 その庭に一人のおばあさんがナスに水をあげていた。あの人が先輩のおばあちゃんかな?小さい頃の記憶も思い返してみるけど、わからなかった。
「おばあちゃん」
「あら実里おかえり。早かったわね。あれ?お友達連れて来たの?しかも男の子まで」
「うん。一緒の部活の仲間だよ」
「あら、じゃあ挨拶しなくちゃ。久しぶりに実里がお友達連れて来たんだから」
 じょうろを地面に置いたと思ったらタッタッタッとすごい早さで俺たちの元へ歩いてきた。何歳なのかはわからないけど、すごい元気だなって思った。
「どうぞいらっしゃい。実里がお世話になっています」
「あ、いえ」
「初めまして。部活で本田先輩にお世話になっています」
「ささ、どうぞ上がって行ってください」
 案内されてリビングへと通された。すぐに先輩のおばあさんがすごいペースでお茶を出してくれた
「ありがとうございます」
「ゆっくりしていってね。実里、また外にいるわね」
「あ、待っておばあちゃん。みんなおばあちゃんに用事があって来たの」
「あら、私に?」
「あの、あなたは前原集落に住んでいたとお聞きして」
 前原集落の名前を出すと驚いたような顔をした。
「お若い方から前原集落の名前を聞くとは思わなかったわ。そうよ、嫁入りしてからずっと前原に住んでいたわ」
「それで一つお願いがありまして」
 先輩のおばあちゃんに事情を説明し、そして今日なぜここを訪れたのかを話した。
「そう。前原集落の模型を。実里、あなたすごいことしてるのね」
「えへへ。だけど写真とかが少なくて、困ってたんだ。だからおばあちゃんに話を聞こうと思って」
「そういうことならいくらでも力になるわ。でも困ったわね」
「どうしたの?」
「あたしも年だし前原から離れて結構経つから説明するとなると地図とかが欲しいのよね。それがないとこれがなんだとか説明するのが難しいのよ。あれ、……でも確か、ちょっと待っててね」
 先輩のおばあちゃんは部屋に行ってしまった。しばらくドタドタと音がし、確認のために先輩が部屋に入って行ったけど、すぐに戻って来た。
「ごめんね。やっぱり地図とかがないと多分あなたたちの期待に添える説明ができそうにないわ」
「そうですか……」
「本当にごめんね」
「いえ、でしたらどこかから地図や全体の写った写真とかを探してみます」
「ありがとうございました」
 先輩の家を後にして学校に戻る。
「みんなごめんね」
 先輩が初めて会ったときみたいにしおらしく謝って来た。
「いえ、大丈夫ですよ。それに、地図さえあれば説明できるって言ってたので、何としても全体のデータを手に入れましょう」
「……うん」
 とりあえず目標は前原集落の全体の分かるものを手に入れることだ。だけどネット、それもダムマニアとか廃墟マニアみたいな人のやっている個人のブログまでも調べてみたけど全体を映している写真は見当たらなかった。そこをどう突破すればいいか、なかなかいい案が浮かばない。
 それでも根気強く前原集落を検索に掛けてみる。上ではなく下の方にあるサイトや記事を一つ一つ開いていっていいものがないか確認する。
 探したけれどもやっぱり見つからない。もうみんな上の空になっていた。
 この状況はまずいな。
 ここは一度角度を変えて『前原ダム』と打ち込んだ。ダム建設の前後の写真とかが出てくるかもしれないという賭けに近いものだが、やらないよりかはと思い検索した。結果はダメだった。けど面白いものを見つけた。
「前原ダム資料館?」
 場所は前行ったときに降りたバス停からすぐ近くにある施設らしい。その施設を今度は検索してみる。
 無料公開されている資料館でダムの歴史や工事の過程や苦労など、実物も展示しながら伝えている施設らしい。
 ここならもしかしたら資料があるかもしれない。今すぐ行こうと思ったけど、下校時刻まであと一時間を切り、今からだと帰りのバスがなくなる可能性があったからやめた。けど明日は土曜日。朝から行けばゆっくり見られるし、バスの心配もない。それに前原ダムのアーチの近くだから実際の前原をダムとはいえ感じられるのはプラスだと思い提案してみることにした。
「みんな、ちょっといい?」
 一斉に俺の方を向いた
「明日なんだけどさ、ここに行こうと思う」
 俺のスマホの画面を全員が覗く。
「ダムの資料館?」
「はい」
 俺は考えをみんなに伝える。前原ダムは計画自体は30年前からあったらしいから、その時からの資料があるならもしかしたら前原集落の写真とかもあるかもしれない。そう踏んだ。
「今はその賭けに乗るしかないな」
「手詰まりだったし、行ってみよう」
「だったら明日車を出すわ」
「いいんですか先生」
「もちろん」
「ありがとうございます」
 なんとか行くことが決まり、明日は9時に駅前に集合することにして解散となった。
 集合場所へは俺が一番乗りだった。土曜なだけあって結構な人が行きかっている。
 特に特急列車が停まったあとはたくさんの人が駅から出て来た。駅前のバス停からは温泉街へ行くバスも出ているからバス停はこの時間は人が多くなる。
 少しして瀬戸さん、時間の10分前に先輩が、そして5分前に先生が来た。先生の車はミニクーパーという小さくてかわいい車だった。
「おまたせ。じゃあ行こう」
 先生の運転は揺れが少なくて眠れるくらいの安全運転だった。
 バスの時と違って一直線に山へ向かっていくからすぐに緑に囲まれた。クネクネしているわけではなく二車線あるけど狭い方の道だと思う。よくこんなところを普通のバスが通ってるなとびっくりする。
 40分ほどして先週行ったダムのアーチに着いた。改めてみると高くて高所恐怖所ではなくても怖く感じる。今は水を放出していないみたいだ。ちょっと見て見たかったな。
 駐車場に車を停めるとすぐそばに資料館はあった。元工事の人のための宿舎を改造して作ったものらしいからあまり大きな建物ではない。入場は無料らしく、ゲートの類もなかった。中に入るとまずダムの模型が出て来た。鉄道模型とは違い、紙で作られているものっぽかったけどかなりリアルに作られている。
 その奥に通路があって壁にいろいろ書いてあり、その前の透明なケースには当時の書類らしきものがある。
 計画からすぐに反対運動が起こって一時期は暴動の手前まで行ったらしい。また行政側も勝手に地質調査を行うなどお互いエスカレートして一触即発の時代が長いこと続いていたらしい。
「ねえねえ明石君。これ!」
 先輩が指さした方には俺の予想が当たっていたことを示すものがあった。ダムの計画の歴史の年表に1980年代のものではあるけど航空写真があった。横に進んで行って、俺たちが住んでいたころの2000年代のところを見る。そしてそこには住民がいなくなったあとに撮られたと思われる航空写真があった。
「ありました!」
 俺の声を聞いてすぐに瀬戸さんと先生が飛んできた。写真撮影は大丈夫と確認しているからスマホで写真を撮った。
「これで話が聞けるね」
「だけど、このままは見づらいですし印刷したら画質が粗くてなっちゃいませんか?」
「うーん。確かにこれだとおばあさん見えづらいかも」
 書き直すにしても時間はかかるし、そもそもちゃんとした地図になるのかも怪しい。これで何とかするしかないのか?
「おや、お客さんとは珍しい」
 急に声が掛かり振り返ると60代くらいの小柄な男の人が作業服を着て手にモップを持っていた。
「こんにちは」
「はい、こんにちは」
「あの、どちら様で?」
「私はこの先にある発電所に清掃員として派遣されている者です。この資料館も清掃範囲なので少し遠いですがこうして来ているのです」
 やっぱり清掃の人だった。だけどこんな山奥まで大変だなあ。
「こんな何もないところですが、どうぞごゆっくり楽しんで行ってください」
 清掃のおじさんはお辞儀をして仕事に戻ろうと後ろを向いてゆっくり歩き始める。だけど俺はその後ろ姿を無意識に止めてしまった。
「あの」
「はい」
「この写真ってどこかにデータとかあるのですか?」
「ちょっ、明石君!」
「え?……多分あるとは思いますけど、何分この施設のことは構造以外はわからないので」
「……そうですよね。ごめんなさい」
「どうしてそんなことを聞かれたのですか?」
 ここでも事情を説明した。学校で模型を作ること、元々水の底に沈んだ前原集落に住んでいたこと、そしてその模型のモデルを前原集落にすることを。そしてその資料がなく、元住人に聞くにも地図か全体の写真がないと難しいこと、できれば資料をコピーさせてもらえないかということ。
「ほお、鉄道模型でこの前原集落を。……あれ?でもここには鉄道は走っていなかったのでは?」
「そこはうまく線路を敷いてアレンジする予定です」
「なるほど、まあ少し空想を入れるのも悪くはないですな。で、そしてその資料としてこの写真が欲しいと」
「はい」
「わかりました。ちょっと発電所の方に聞いてみます。ここの管理は発電所ですから」
「いいんですか!?」
 正直自分でも何でこんなことしたのかわからない。普通に生の写真を手に入れるなんて無茶なのは明らかだ。だからこそ清掃のおじさんの対応にびっくりしてしまった。
「せっかく数ある中でここを頼ってくださったんです。やるだけやってみましょう」
「ありがとうございます!」
 思いっきり頭を下げた。それに対し清掃のおじさんは笑顔を向け、電話を取り出してかけ始めた。
「すいません。清掃の稲葉です。はい、実はですね……」
 清掃のおじさんはそれから5分くらい電話で話し続けた。あまりトーンや表情が変わらないからうまくいってるのかそうでないのかはわからない。
「はい。お忙しいところすいません。では」
「どうでしたか?」
「残念ですが、ここにあるものは貸すことはできないそうです」
「ま、当然っちゃ当然ね」
 わかっていた。いきなり高校生が来て展示してある写真貸してくれなんて通るわけがない。
「しかし、発電所の所長さんが今から来るそうです」
『え!?』
 清掃のおじさんからとんでもない言葉が飛び出た。発電所の所長さんが来る?なんかすごいことになっちゃった。
 そしてその言葉通り5分くらいして資料館の前に車が止まり、所長さんと思われる男の人が下りて来た。
 かなりいかつくガタイのいい人で、黒髪で目力が強いので反社の人と間違えてもおかしくない。
 俺の心臓が編入初日以上に血液を全身に送り出し始めた。早すぎて壊れないか心配だ
「君が写真のコピーを頼んだ高校生かな?」
 声も低くて重圧感があった。余計に緊張した
「はい、明石星夜といいます」
「ふむ。なんであの写真が欲しいのかもう一度話してくれるかな?」
「はい」
 先生やみんなが見守るなかもう一度、清掃のおじさんにも話したことを一から話した。間違えないように慎重に言葉を選びながら。
「事情はわかった。だが展示してあるものはいかなる理由があろうと持ち出しはもちろんコピーもダメだ。ここができた時にテレビの取材で資料を取り出したことはあったが、あれは例外中の例外だ」
 厳しい口調で同じことを言われた。当たり前だ。そもそもアポなしであんな非常識なことをして貸してくれるなんて虫のいい話はない。
「けど……俺は君のその勇気と度胸嫌いじゃない」
「え?」
「ちーと非常識だけど、目的のためにそこまでやるなんざなかなかできることじゃない。それに俺も前原に住んでいたことがあってな、模型とはいえもう一度見れるって思うと協力したくなってきた」
「……いいんですか?」
「ああ……と言いたいが、あれはダメだ。正確には俺が持っている私物だ。工事関係者からもらった航空写真とかもあるからコピーしてきてやる」
「ありがとうございます」
 全員でお礼を言った。所長さんはすぐに資料館の職員用の部屋に入り5分ほどして戻って来た。
「これが航空写真だ。それとこれは俺が住んでた頃の写真のコピー。十数枚しかないが、役に立つと思うぜ」
 ついに手に入った。そして所長さんのご厚意で当時の普段の町の様子が映った写真も
「ありがとうございます」
 改めてお礼を言って頭を下げた。
「いいってことよ。だけど、完成したら見に行くから教えてくれ。確か大会に出るんだっけか?」
「はい。まだ日程は出ていませんが、8月の上旬に行われる鉄道模型甲子園という大会に出展予定です」
「鉄道模型甲子園、8月だな。おし分かった。じゃあ楽しみにしてるぜ。ここまでやったんだ。変なモノ作ったらただじゃおかないからな」
「はい。頑張ります」
 満足そうに頷いて車で帰って行った。車が山を登りここから見える最後のカーブを曲がると俺は膝から崩れ落ちた。
「はあ、緊張した」
「ちょっと明石君?」
 瀬戸さんが俺の前に仁王立ちして見下ろした。
「さすがにあれはない。今回は運よく共感が得られる方が責任者だったからよかっただけのこと、普通なら学校にクレームが言ってもおかしくないからね。私達は学校の看板も背負ってるっていうのを忘れないで」
「ごめん」
「まあまあ、結果オーライだったんだからいいじゃん。終わりよければすべてよし」
「そういう問題ではありません」
「落ち着いて瀬戸さん。それに瀬戸さんも、なんで罰を受けたか忘れないでね」
「……はい。少し頭に血が上りすぎました」
 瀬戸さんの言う通りだ。とにかく反射的にやってしまったことは反省すべきだし、部長としてもっと責任ある行動を心がけないとな。
 だけど、瀬戸さんの罰の原因ってなんだろう?とはいえ今それは気にしても仕方ない。
 その後は行ける範囲で稜線や地形の分かる写真をたくさん撮った。かなり集まったから山を作るのに役立つと思う。
 そしてここで集めた資料を元に再び先輩の家にお邪魔した。先輩のおばあちゃんは今日も快く受け入れてくれて、写真を持ってきたのを見て驚生きながらも楽しそうに集落のことを話してくれた。
 地図兼設計図に町の建物の位置、その建物がどんなものかを書き記していく。そして3時間かかってようやく町の明確な地図を完成させることができた。
「よし、完成」
「やったわね」
「おばあちゃん、ありがとう」
「本当にありがとうございました」
「こんな老いぼれでも役に立てたなら嬉しいわ。それに、懐かしいわね前原」
 先輩のおばあちゃんは地図と写真を懐かしむように眺めた。約10年ぶりの前原の光景はどう映ったんだろうかな?ちょっと疑問に思う。
「これで模型を作るから楽しみに待っててね」
「今度はこれが実際に出来るのかい?それは楽しみだね。実里、皆さん頑張ってください」
「はい」
 最後に改めてお礼を言ってから俺たちは先輩の家を後にし、学校へ向かった。まだ昼近かったのと、設計図ができたテンションのまま、どれくらいのお金がかかるか計算しようとなったからだ。まあ今日はみんな時間があるから、今日できるならやっておきたい。
 制服ではなかったけど普通に校門を抜けて部室に入った。
 そして地図兼設計図を広げるけど、興奮していてあることを忘れていた。
「あの、線路どうします?」
「あ……」
「それにまだどんな車両走らせるかも決まってないよ?」
 車両はともかく線路がまだ敷けていないのを忘れてた。そしてレイアウトで完結させて車両を走らせるためには一週させる必要がある。だけど町の中を通すわけにはいかないし、そもそも敷けても走らせられるような配置に出来ない。
「まずは線路だ。線路がなけりゃ車両だって走らせられない」
「了解。……ローカル線ってだいたい山の高くて平たいところを通ってるのよね?」
 瀬戸さんが本に載ってるローカル線をモチーフにした模型の写真を見ながらそういった。
「どうなんだろう?」
 ローカル線と言われる路線は俺の実家の近くに走ってはいたがどちらかというと平地を田んぼの中や湖の横を通っていた。だから山を走るローカル線のことはわからない。
 知らないんじゃ埒が明かない。動画を検索して走行映像を見ることにした。選んだ映像では本に載ってたような地形、つまり瀬戸さんの予想通り、高いところを通る路線で下に川が流れてたり、その川を挟んで集落があるようなところだった。
「そうなると、このあたりがいいかもしれないわね」
 動画を見た結果、瀬戸さんが指したのは町のはずれ、ダムだとアーチのかかっているところから夜景の見える場所の前を通って町の反対のはずれ辺りまで平坦な場所が続いていた。
「うまくはめられそうかな?」
「線路を買わないとわからないけど、半分は敷けそう」
 ただ、どうしても反対側の山は平坦なところは見つけられなかった。
「トンネルになるわね」
「……やるしかない」
「頑張ってやるしかないね」
 反対側はほぼすべてトンネルを通すことに決まり、大体の線路設置案が完成した。
「あと車両だね」
「意外と重要ですよ。例えば前原集落に新幹線なんて走らせたら雰囲気ぶち壊しになりかねません」
 少し想像してしまった。なんか……すごくシュールな光景が広がりそうだ。『崩壊都市』のような世界を再現するならともかく、実在したものを再現するなら、車両もしっかり考えないといけないな。
 そう思っていた矢先先輩が提案をした。
「だったら瀬戸ちゃんの青い電車だよ」
「先輩、まだ諦めてなかったんですね」
 いや、俺も諦めてはいないぞ。だけど瀬戸を説得できる材料が見つけられていない。
「当たり前だよ。やっぱり思い出がコンセプトなのに一人だけ入ってないなんて嫌だもん」
「ですが、このレイアウトに組み込むには無理があると思います」
「フフン。実はこのレイアウトと寝台列車が合うかもしれない要素を私は三つも見つけたのだ」
「本当ですか!?」
「もちろん」
 俺と瀬戸さんにVサインを出した。
「わかりました聞かせてください」
「では一つ目!寝台列車が活躍するのは夜。レイアウトの設定は夜だから寝台列車が走っててもおかしなことにはならないはず」
 ちょっと強引に思えるけど、夜に走る寝台列車は画にはなると思う。
「二つ目。瀬戸ちゃんの思い出のある『出雲』号はローカル色のあるところを通ってたんだ。動画サイトに走行映像があって確認したから間違いない。だから『出雲』号ならローカル色の強い前原集落を走らせても違和感はない」
 それは知らなかったな。後で先輩にその動画を教えてもらって見て見よう。
「そして三つ目。この寝台列車は昔”星の寝台特急”って呼ばれてたんだって。そして寝台特急のシンボルマークは時刻表だと流れ星なんだよ。これ見て」
 ネットに挙がってた時刻表の写真だった。東京駅から出発する列車のページらしい。真ん中に『寝台特急出雲1号』と書いてあり、その上には確かに流れ星みたいなシンボルマークが描かれていた。
「つまり。寝台列車は地上を走る流れ星と言っても過言じゃない。そしてこのレイアウトは上下に天の川、星の大群がある。そしてその真ん中を流れ星が走る。ロマンチックじゃない!」
 その光景を想像してみた。上と下に天の川、目線に流れ星……最高だ。
「それに、瀬戸ちゃん寝台列車の中から夜景見たって言ってたでしょ?」
「よく覚えてましたね。はい。寝台列車の通路に折り畳み式の椅子があるんですけど、そこに父が座ってその膝に私が座りながら夜の流れる景色を見てました」
 確かにそんなこと言っていたな。瀬戸さんはさらっと言ってたから俺は覚えていなかった。先輩の注意力に驚いた。
「以上のことから、寝台列車とは流れ星としてレイアウトにマッチし、瀬戸ちゃんの思い出としても組み込むことができるのだ」
 すごい。本当にそんな気がしてきた。
「……負けました。演説を聞いてたらだんだんとその光景が見たくなっちゃいましたよ」
 一度落とした顔はさっきまでの呆れから、「やれやれ」って感じだけど口角は上がっていた。
「では車両は寝台特急『出雲』号に決定!」
 先輩のおかげで車両と瀬戸さんの思い出を入れるという問題を一気に解決できた。
「その、ありがとうございます」
「いいってことだよ。さっきも言ったけど、仲間外れは絶対に嫌なの」
「それでもです」
 瀬戸の顔が今までにない笑顔になっている。まだ付き合いは浅いけど、ここまでの明るい顔は初めて見た。先輩恐るべし。
「じゃあこれで全部決まったからどれくらいかかるか計算しよう」
 四人で手分けして作業する。俺は夜景に必要な電球などを担当する。
 でも改めて前原集落は建物が多い。夜景を作る建物だけでも相当なのに祭りの屋台とかにもつけるから一体いくつ必要になるんだ。設計図を見て不安になって来た。
 30分後簡単な予算が出た。細かく追ってくと面倒くさいから合計を言うと約10万円。レイアウトにおよそ6~7万円、大会出場費およそ2万円、その他経費に1万円といったところになった。しかもこれが最低の額だ。
 全然足りない。レイアウトに関しては本に近いレイアウト制作の過程があって、その中にいくらかかったかが出ていてそれをもとに出した暫定ではある。けどその中に工具は入ってなかったから結局本に載ってたものに近い値段になると思われる。
 流石にこの予算は予想していたとはいえ、実際に出されると言葉を失う。ちなみに親に部費として支援してもらうとしても5000円が限界だ。それが三人だとしても1万5千円。どう考えても絶望だ。さっきまでの笑顔が消え、どんよりした空気になってしまった。
「代用ってできないかな?」
「百均にワンチャンあるかも……ね?」
「せいぜいボンドや接着剤くらいよ。でも、減額できるだけましね」
 ここに来てまた失速だ。それどころかまだ模型に触れてすらいない。
「先生、バイトってこの学校は確か」
「原則禁止ね」
 よほどのこと、例えば在学中に親の失業などだ。そういう理由がない限りバイトすることは出来ない。
 けど、このままでは目標に達成できない。
「一度交渉してみようと思う」
 覚悟を決め、そうみんなに告げた。
「わかったわ。月曜日にも校長先生にお話できるか確認してみるわ」
「お願いします」
 金谷先生にお願いをし、これで今日はもう出来ることは多分ない。まだ明るいけど一応バイト先を探すだけ探しておこうと決め解散になった。
 星奈の病院の面会終了時間にも時間があったから、予定にはなかったけど星奈に会いに行くことにした。予想外の来院にびっくりしてたけど嬉しそうだった。
 まだ星奈に本当のことを言えてない。いつ言おうかも悩みのたねである。今考えているのは模型が形になって来たときだ。どんな答えが来るかは不安だけど、
 週が明けた月曜日の放課後、すぐに職員室前に集まった。
 校長室へ案内され、初めて顔を合わせた時と同じように座った。唯一違うのは校長先生が俺たちと反対のソファーに座ったことくらい。
「顔を出せなくてすまないね。毎日金谷先生から報告は聞いてるよ。土曜日も休日返上で活動したと聞いた時は驚いたよ。そこまで真剣に取り組んでくれて嬉しい限りだ」
 ラフな感じで話してくれたけど、俺の方はまたしても緊張で心臓に負担がかかっている。
「いえ……あ、それと部室を用意して頂いてありがとうございます」
「「ありがとうございます」」
 先輩と瀬戸さんも俺の後に続いて頭を下げた。
「いいって。君たちが自分で活動内容を見つけて来たんだ。それに私は心を動かされた。それだけだよ」
 校長先生の言葉に少しだけ緊張が揺らぎ、心臓の鼓動も若干落ち着いたことで、心にも落ち着きが出て来た。
「ところで、今日は何か頼み事があると聞いたのだが、要件は何かな?」
 本題に入った。
「実は、模型を作るにあたってお金が足りないことがわかりました。……こちらです」
 一昨日作った予算のリストを机に置いた。
「このように模型はかなりお金がかかり、今の私たちが到底出せる額ではありません。なのでアルバイトの許可をいただきたいと思います」
「アルバイト?」
「はい」
「ちなみに校則は知っているね?」
「はい。原則禁止というのは知っています」
「ふーむ」
 校長先生は予算を見ながら唸った。
「確かに始まったばかりの部活にしてはなかなか出せない額だ。親御さんが出してもらうにしても、この割り当てだと一人3万……」
「はい」
「……君たちの熱意はわかるし、今回はできる限り手助けしてあげたいとさえ思っている。だがすまない、これだけではバイトの許可は出すことはできない」
 相当悩んでくれたとは思うけど、出された答えはNO。やっぱりそう簡単にはいかないか。
「せめて、OKを出せるとすればどんな条件か教えていただけませんか?」
 瀬戸さんの質問に校長先生はさらに難しい顔をし、また考え込んでしまった。
「詳細な計画を考えて教えてほしい。いつまでに目標額を達成できて、どこで働くかを細かくね。それを提出すればもう一度考えてみよう」
「わかりました。ありがとうございます」
「申し訳ない」
 やっぱり許可は降りず、俺たちは失意のまま校長室を後にし部室に戻った。
「計画と言ってもどんなふうにすればいいんだ?」
「どこでどのくらいやるか?それは絶対条件よね」
「それと、これは私の予想なんだけど、目標額を達成した後も辞めずに続けないかも心配なんだと思う。」
 なるほど。バイトはどこも長期で入ってくれる人を欲しがってる感じがした。俺たちにそんな気がなくても可能性があると判断出来る以上は許可できないのか。
「目標額は10万。三人なら週2でも一ヶ月で稼げるな」
「でも高校生で短期ってどんなのがある?派遣とかはまず無理だし」
「昨日探してみたけどどこも一年くらいやってくれる人歓迎とかだった」
「短期と言っても一ヶ月なんて好条件はまずないと思う」
 いくら考えてもいい案は浮かばなかった。改めて調べてみても一ヶ月で終わるバイトなんてまずない。
「みんなあの、一応これ」
 金谷先生が一枚の紙をみんなから見える位置に置いた
「アルバイト許可申請書」
「あったんですか、書類?」
「禁止される前の許可制時代のものよ。今朝別の探し物をしていたらまだ残っててコピーさせてもらったわ」
 ないよりはいいけど、いい条件のバイトがないんじゃ意味がない。
「いっそのことクラウドファンディングやってみるとか?」
「多分ネットでバイトしろで終わりかと」
「やっぱり?」
「可能性は0じゃないですけど、期待はできないかと」
「ですよね〜」
「とにかく、今は根気強くいいバイトを探すしかないですね」
 口ではそう言ったけど正直そんな美味しい話があるとは思えない。でも希望的観測にすがらないと色々保てない気がした。
 一晩あるゆるところを探したけどやっぱり都合のいいバイトはなかった。明け方近くまで探したせいで寝不足になって急遽座学になった体育で初日に先輩を追いかけてたと思われるおっかない先生の前で鼻提灯を作るところだった。起こしてくれた隣の吉川さんに感謝だ。
「すみません。日直で遅れました」
「明石君!あったよバイト」
「え、本当ですか!?」
「本当だよ。これ見て」
 見せてくれたのは喫茶店のポスターだった。
「ここ、私のお母さんの友達がやってるところでね」
 先輩の話によると、この喫茶店は駅から15分ほどのところにあるこのあたりでは結構有名な店で、創作ショートケーキと紅茶が人気。休日には行列が出来ることもあるらしい。
 人気店だからバイトも人気なんだけど5月に学生さんのほとんどの人が学校の用事が重なってしまい、一ヶ月夕方がとんでもない人手不足になってしまった。
 今月が終わればその学生さんたちも復帰するようで、一ヶ月のために雇ってしまうと来月以降過剰人員になってしまう。だから雇うに雇えなくて困っていた。ということらしい。
「昨日家にたまたまその店主さんが居て、そうとは知らずに今の部活のことを喋ったら是非来てほしいって。で、まだ校長先生の許可が取れてないから、今日話し合って答えを出すねって言ってあるんだ」
「すぐに交渉に行きましょう。双方に取ってメリットしかありません。お店は一ヶ月だけの補填ができ、私たちは必要以上にバイトすることはありません。明石君!」
「もちろんOKだ」
 いい意味で不意打ちに近い形で舞い込んだチャンスだ。絶対に手にしたい。
「すぐにアルバイト許可申請書を作ります」
 校長先生の許可を取り付けなければもう詰んだと思ったほうがいい。
 バイトの理由は部活での資金を稼ぐため、場所は喫茶店『太陽の花』、バイトの期間は一ヶ月限りで目標額の15万円(ギリギリではなく余裕を持たせるために少し多めに設定した)を稼げた段階で退職する。
「これで書類はOK」
 後は校長先生と交渉するだけだけど、金谷先生が来ないと交渉の席にすらつけないよ
「おまたせー」
『先生!』
「うわっ。どうしたの?」
 バイトが見つかったことを話すと先生も頬が緩んできて
「やったじゃない。すぐ校長先生に話をしてくる」
 と飛び出していった。
 そして5分もしないうちに戻ってきた。
「OKだって」
「行きましょう」
 全員がドタドタと音を立てて校長室へと向かった。

「お忙しいところ何度もすみません」
「大丈夫だよ。アルバイトの件だね?」
「はい」
 持ってきた少しシワのついてしまった申請書を校長の前へ提出する。
「この申請書よく見つけましたね」
「金谷先生が見つけてくれました。僕は存在すら知りませんでしたから助かりました」
「金谷先生が……なるほど。では拝見しよう」
 胸ポケットに入っていたメガネをつけて申請書を見始めた。金谷先生の予想を信じて見つけたバイトだ。祈るように校長先生を見つめた。
 時間にすればホンの少しなんだろうけど、すごく長く感じる。校長先生の目を俺は追い続けた。いい反応なのか、悪い反応なのかつぶさに観察するけど、表情はあまり動かない。張り詰めるような空気が室内を支配する。
 そしてやっと校長先生は申請書を机に置いた
「負けたよ。君たちの目標への執念に驚いた。この申請書にある期間のみ、特別に許可をだそう」
 待ちに待った言葉に顔を上げた。少し呆然としてしまったけど、徐々にこみ上げるモノがあった。
『ありがとうございます』
 全員が立ち上がって頭を下げた。
「ただし一つだけ条件をつける。この許可は部活で使うお金が足りないことで申請している。つまり君たちの遊びのためではない。だから給料が支払われたらすぐに金谷先生に預けること。いいね」
『はい』
 それについては異論はないし、遊ぶ暇なんて多分ないはずだ。
「校長先生、本当にありがとうございます」
 金谷先生も改めて頭を下げてお礼を言った。
「生徒が頑張りに水を差すわけには行きませんからね。それに、昨日設計図を見たときから私も興味が湧きましてな。是非ともいいものを作ってくれたまえ」
『はい』
 校長室を後にし、すぐに先輩がお店へ連絡した。するとすぐにお店で面接する流れになった。一応OKだけど、俺と瀬戸さんはまだあったこともないから確認の意味で面接をしたいとのことだった。
「当然だわな」
「私たちおいしい話に簡単に食いついてたわね」
 焦っていたとはいえもう少しよく考えて行動しようと心に決めた。
 バイト先となる喫茶店につくと店主さんが出迎えてくれた。
 店主さんはかなりの美人で顔は細長い形で目が大きい印象だ。ただ若干ツリ目なのできつくも感じだ。あとは髪が長くて、多分背中まであると思うけど、今はポニーテールにして結んでいる。そして頭のてっぺんに立つアホ毛が気になってしょうがなかった。これで40代とは驚きだぞ。
「初めまして。私が店主の出羽日向子です」
 声は意外と低かった。アルトまでは行かないかもしれないけど、顔からのイメージとは違った。
「初めまして、明石星夜といいます。よろしくお願いします」
「瀬戸菜摘と申します。よろしくお願いいたします」
「はい。よろしくお願いします。では早速面接を始めますね」
 面接と言っても少しお話するだけだった。ある程度は本田先輩から聞いていたみたいで本当にその通りか確認したかったって感じだ。
「では正式に採用します。一ヶ月の短い間だけど、改めてよろしくお願いします」
 次に書類を何枚か書いて最初の出勤日を決める。全員が揃ってる方がいいということで、明日から早速入ることに決めた。
「では明日からお願いします」
「はい」
 これでわかっている問題は片がついた。後はバイトでお金を貯めることができれば、ようやくスタートラインに立つことができる。先はまだまだ長いが、今は目の前のことを頑張るぞ。
 一か月が経った。
 部室の机にはたくさんのアイテムが積み重なっていた。これは昨日みんなで『JAMJAM』に行って買ってきた鉄道模型制作のためのアイテムたちである。
 一昨日の土曜日にバイトが期限となって終了し、そのお金はすぐに約束通り金谷先生へ預けた。予定よりも多い週3日で入ることができたから目標を上回る額が手に入った。そしてその資金で店員さんにアドバイスをもらいながら買ってきた。
「やっとスタートだね」
「はい。ここに立つのに随分時間かかりました」
 そのほとんどはバイトで全員揃わなかったことも原因だけど、だからと言って何もしなかったわけじゃない。部室で動画を見て鉄道模型の作り方を勉強したり、工具の使い方を技術の先生から教わったりして準備をしてきた。試験の日以外はちゃんと時間を無駄にせずできることを進めていた成果がここにあり、これから出す時に来たんだ。
「じゃあ始めましょうか」
「まずは何するの?」
「土台に設計図を写すところから始めましょう」
 一番最初は基盤だ。まずレイアウトボードの縁を角材をくっつける。これで下に空間ができて家や街灯の配線を通すことができる。
 次に青い発泡スチロールの板を2枚重ねて置いた後、設計図通りに線路を置いた。そのとおりに油性ペンで記入する。それから山や川、建物の位置をペンで記入していく。設計図をもう一度書き直すような感じだ。
 青い発泡スチロールの板に設計図と同じ図面が書き写せたらいよいよ工作に入る。
 動画や本を見ると盆地や川の部分を切り取るところから始めている。なのでまず町が収まる盆地を作るために「山」の部分に挟まれた「集落部分」と書いた部分を切り取る。大きいのと初めてやる作業なので、俺が切って瀬戸さんと先輩に板を押さえてもらいながら作業した。
 けど、正直不安がある。技術の先生にもカッターで小さいものを切り出す練習をしていた時「お前不器用だあ」と呆れられたほど思うように形を作れなかった。けど今回は大きいし線に沿ってカッターを入れればいいだけ。二人に見られながらの作業ではあるけど、何も緊張する要素はない。思い切って行こうと気を持ち直して作業に入った。
 まずは奥側の山と集落の境界を切る。直線はほぼないけど、線に沿ってゆっくり、ゆっくりと腕が震えないよう気を付けて刃を入れて行った。
『あ!』
 ……けど終わりが見えた時に油断してしまい思いっきり「山」の部分にカッターの刃が入ってしまった。
「ご、ごめん!」
 すぐに謝って切ってしまったところを見る。
「だ、大丈夫。削れてはいないから」
「ボンドでつけておきますね」
 瀬戸さんが慎重に切れてしまった面にボンドを塗ろうとしたら、今度はパキっと音がしてカッターの刃が入ったとこの根本から折れてしまった。
「……ごめんなさい」
 身体が動かず顔だけを俺たちに向けて一言謝罪の言葉を発した。
「う、うん、大丈夫。むしろ接着しやすくなったんじゃない。ほら貸して」
 先輩が瀬戸さんから壊れた発泡スチロールを受け取り、ボンドをつけて接着した。手慣れたものであっという間に元通りのようにピタッとくっついた。
「「すごい」」
 先輩の器用さに思わず言葉がこぼれてしまった。職人の手捌きって感じの動きに思え、
「フッフッフッ。私の特技だよ。いたずらグッズを自作するのって結構細かい作業があるからね」
 けど悪い意味で先輩は期待を裏切らなかった。俺の感動を返せと言いたいしそれなら手先が器用な理由はできれば知りたくなかった。そのいたずらグッズを作ったとしても未使用で被害者がいないことを願う。
「先輩、台無しです」
 瀬戸さんも同じことを思っていたようだった。
「まあでも本田さんのおかげで修理できたし、最悪また買えばいいからね。お金はまだ十分あるから、失敗を恐れずに頑張って」
「……はい」
 先生はああ言ったけど一度失敗すると余計緊張してしまい、何か所もラインオーバーを起こしてしまった。そのたびに接着し、乾かしてからまた作業になって余計に時間がかかってしまった。
「「本当にごめんなさい」」
 下校時刻の15分前に俺と瀬戸さんは二人で先輩に頭を下げていた。結局何をするにしても手が滑ったり、震えたりして思い通りのことが出来ず、壊したところを直す作業を何か所も入れてしまった。
「まあ……そんなこともあるって」
 フォローしてくれているけど、先輩の顔はいつもの天真爛漫なものではなく作り笑顔だったのを見逃さなかった。
 まさかこんなに不器用だった自分に落胆し、焦りを覚える。なにしろこれから先細かい作業が増える。それを全部器用な先輩にやらせるわけにはいかない。
「だ、大丈夫。私もいたずらグッズを作る前は不器用だったよ。やっていくうちに出来るようになるよ。私が保証する。だってここに成功例があるからね」
 下を向いた俺たちを見て慌てたのかまくしたてるように励ましてくれた。でも保証できる理由がどうしても納得いかないんだよなぁ。けど、嬉しかった。
「明日は練習の日にしましょう。時間はまだありますから。焦らず、コツコツとですよ」
 それから金谷先生はバイト期間中の練習に使った材料をもう一度使えるよう話しをつけると言った。
 先生の言う通り、急いで失敗しては元も子もない。少なくともどんな材料も狙った形にできるようになるまでは練習したほうがいいな。
 初日はさんざんで幸先悪いものになったけど、完成のためにまた停滞することを選んで部室を後にした。
 夜学校の課題を片付けていると電話が鳴った。相手は母さんだった
「もしもし」
『星夜、明日学校終わったら時間あるかしら?』
「いや、部活あるけど」
『だよね……』
「どうしたの」
『明日星奈が外泊できることになったのよ』
「本当!」
 ここ最近の星奈の回復はすさまじい勢いでもしかしたら退院が早くなるかもとお医者さんが言うほどだった。こういう日ももうすぐかなと待っていたけど予想よりも早くてびっくりしている。でも、それは星奈の頑張りの成果だな。
『日程はこれから決めるなるわ。で、明日その説明があるんだけどどうしても私もお父さんも休めそうになくて代わりに行ってほしいのよ』
 両親は会社にお願いして時間を作ろうとしたけど予想外の繁忙に入ってしまったらしくい。なんとか星奈の外泊の日は休みをもらえたけど、さらに説明のためとはいえ休まれるのは困ると言われてしまったそうだ。
「わかった。確認してみる」
『ごめんね』
「ちなみにいつになるの?」
『星夜の休みに合わせることになると思う。できたら土日がいいわね』
「土日なら部活も休みだから大丈夫」
『なら次の土日から話してみて頂戴』
「わかった」
 電話を切るとメッセージのグループに明日休みの連らくを入れた。
【星奈が外泊できるようになりました。その説明を聞きに行きたいため明日はお休みしてもいいですか?両親はどうしても仕事を休むことができなかったそうなので僕が行くことになりました】
 5秒もしないうちに既読が着いた。
【え、本当!よかったじゃん いいよ】
 先輩だった。文字の後ろにグッドの絵文字とやったーのスタンプが続いた。
 そして既読がもう一つ増えてこっちもすぐにメッセージが来た。
【了解。行ってきなさい】
 瀬戸さんからもOKをもらえた。けどそのあとに可愛いキャラクターのスタンプが続いた。あんまりスタンプを使うイメージがなかったからびっくりした。
【ありがとうございます】
 お礼のメッセージを送って母さんにもOKがでたことを伝えた。

 学校が終わってすぐ病院へ向かった。受付で主治医の先生(星奈の手術をしたお医者さんとは違う、この病院の常勤の人)が緊急の手術が入ってしまったらしく、予定よりも遅くなる可能性があると伝えられた。また本来主治医の先生が行っていた外来を代わりの先生がしているため場所がなく、違う場所で行うことになった。
 本当なら星奈のところに行きたいけどいつ呼ばれるかわからないからおいそれと離れるわけにもいかなかった。仕方なく誰も座っていないベンチを選んで座り鉄道模型の動画を見て復習しながら先生を待った。
「明石君。お待たせしました。こちらへどうぞ」
 動画が一本見終わったちょうどいいタイミングで主治医の先生が俺を呼んだ。息を切らしていて急いできたんだなっていうのが丸わかりだった。お疲れ様です
「失礼します」
 診察室に入ってすぐに説明が始まった。
 星奈はまだ完全回復ではないけど現状は補助なし車いすなしで移動できるようになってきた。もちろん移動する際には誰かが常にいないといけないが、ここまで動けるようになったなら病院に閉じ込められるのはストレスだろうと思われ、トレーナーさんにタイミングをうかがっていて、一昨日ようやくそのOKサインが出て外泊が許され、親に連絡が行った。
「で、明石君たちの家は確か静岡でしたよね?」
「はい」
「さすがに遠いから、星夜君が今下宿しているアパートでの許可になるけど、大丈夫かな?」
 まあ当然の話だ。いくらもう病気の方は心配ないと言っても遠く離れたところまで行かせることはできないし、無茶して体調崩したら元も子もない。
「はい。まだ親には聞いてませんが、多分そのつもりだと思います」
「わかりました。ではそのようにお伝えください」
「わかりました」
「次に日程ですけど、いつにしますか?」
「早くて次の土曜から日曜です」
「土曜から日曜ですね」
 希望を聞いた先生はパソコンのカレンダーを出してそれと書類を交互に見て何かを打ち込んで行った。
「大丈夫ですね。では今度の土日に外泊を正式に許可します」
「ありがとうございます」
 話が終わり、診察室を後にして星奈のところへ向かった。今日も病室にはいなかったからおそらくリハビリだな。可愛い顔ではあるけど活発だから動けるようになってじっとしていられないのかもしれない。
 予想通りリハビリテーションにいた。今は休憩中のようでトレーナーさんと離れて座っていた。
「星奈」
「あ、お兄ちゃん」
 座ったまま手をぶんぶん振りはじめた。トレーナーさんに挨拶をして星奈の隣に座る。
「今度お兄ちゃんの部屋に泊まりに行くね」
「あ、星奈にも話は行ってたのか」
「うん」
 いや、本人に伝えててもおかしくはないな。
「でもよく俺の部屋ってわかったな」
「だって家までは遠いから無理だよ。だったらお兄ちゃんの部屋しかないじゃん」
 それ以外選択肢はないから答えはでるのは当たり前か。
「でも楽しみだな。お兄ちゃんの部屋」
「いや、何もねえぞ。安いアパートだし」
「それはそれで楽しみなの。それにエッチな本とか探したいし」
「あっても星奈が来る前に全部売りに出すわ」
「えー!」
 持ってないけど星奈にエロ本が見つかった日には次の日俺の身体は宙に浮いていることだろう。
「ん、待て。お前病気になるまえ俺の部屋家探ししてないだろうな?」
 たこ口で明後日の方を向いて吹けてもいない口笛を吹く動作を取った。
「よし、退院前祝いにケーキを買おうと思ったけどやめにしよう」
「ごめんなさい!!」
 こんなやり取りも久しぶりだ。だいぶ前の星奈に戻って来た気がする。手術が終わってからリハビリ初期までは痛みがなくなったとはいえ前の星奈の半分も明るさがなかった。リハビリで動けるようになるのに比例して気持ちも戻って来たのかな。
 気づくと夕焼けが広がり、面会終了を知らせるBGMが流れていた。
「じゃあそろそろ行くな」
「うん。次はお兄ちゃんの部屋だね」
「その前に病院に迎えに行くよ」
「そうだった!」
 トレーナーさんに再度挨拶をして帰った。母さんに連絡して今度の土日が外泊日に決まったことを伝え、部活のグループにも土日になったことを伝え、部活に影響はないことを伝えた。
「さて、片さないとな」
 模型関係のもので散らかってしまっていて、このままじゃ星奈はもちろん親も呼べない。掃除に関しては母さんはうるさいからきちんとしておかないとな。そして
「これは売らないとな……」
 有言実行。三崎学園の友達から譲ってもらったものだけど、星奈に見られるわけにはいかないので古本屋へ行ってお金に変えよう。
 すまん安芸。お前の宝は星になったのだ。
 待ちに待った土曜日が来た。
 9時には病院に着いて母さんたちの到着を待つ。入口ドアの前にいたから、いつもの受付のお姉さんが気づいて中で待たせてくれた。
 予定は10時なのにやっぱり早く来過ぎたな。面会時間じゃないから上にはいかれないから暇になってしまった。
「星夜」
 声がした方を向くと約一か月ちょっと振りに見る父さんと母さんと顔の姿があった」
「久しぶり父さん母さん。……何かやせた?」
 前見たよりも頬のあたりのふくらみがないように思える。激務のせいだったら心配だ。
「まあ忙しいけど心配ない。これでも体力には自信があるからな」
「そうよ。二人とも中学から大学まで陸上の長距離やってたんだから。お父さんにいたっては予選会を通過していれば箱根に出られるところだったのよ」
「え!」
 それは初耳だし普通に驚きだ。確かに体つきはいいなとは思っていたけどそんなすごいとこまで言ってたのか父さん。普段すぐ寝るイメージがあるから想像できない。そこは年取ったってことなのか?
「さ、そろそろ時間だ。行こう」
 受付を済ませ、星奈の病室に行く。もう準備ができていたようで待ってましたとばかりに俺たちを出迎えた。
「お父さん、お母さん」
「星奈、久しぶり」
「星奈、会いたかったぞ」
 母さんと星奈が抱き合った。父さんは外側から見守る形ではあったけど、嬉しそうにしている。
「明石さん。お久しぶりです」
 主治医の先生も病室に来た。外出前の診察をしてから、外出中の注意点などを話てくれたあと、俺たちは病室を出た。
 久々に外に出る星奈は今にも走り出しそうだけど、それは危ないのでしっかり手を握った。
「うわー。久々の娑婆の空気だー」
「待て待て待て」
 思わず突っ込んでしまった。多分外出が決まったあたりから言おうと決めてたなこれは。昔から面白い言葉を使いたがるやつだったけど、これをぶっこんで来たかとずっこけたくなった。中学生の女の子のチョイスじゃないぞ。
「星奈……言葉が物騒だぞ」
「えぇ。いいじゃん」
 結局父さんも突っ込まれてしまい、星奈はブーイングをかました。もっともその顔は本当に怒っているのではなく楽しそうだ。
 久々に家族四人が揃い、いつもの日常が戻って来たって感じだ。せっかくだからまずはどこかに行こうとなって、俺は迷いなく鉄道模型を作るきっかけとなったショッピングモールへ向かった。
 予想通り星奈は目を輝かせていた。どこへ行こうかと案内板を見て悩んでいるようだ。
「だったらこのクレープ屋に行かないか?ある人に教えてもらったんだけどうまいんだよ」
 先輩に教えてもらった『怪人ミルクレープ』を指さす。
「お兄ちゃんのおすすめ!なら行く」
 星奈は秒で決めた。
 フードコートは土曜日というだけあって混み合っている。どこも席が埋まっていて空いているのは一人、よくて二人の席がほとんどだった。ただクレープだから食べ歩きもできなくはないが、なるべく座らせてあげたい。店の前にくるとなんと四人用の席がちょうど空いた。他の人に取られる前に確保した。
「じゃあ選ぼうか」
『怪人ミルクレープ』の種類は豊富で、スイーツの他にサーモンとかの食事系のものもある。俺は先輩おすすめで王道のチョコバナナクレープにする予定だけど、星奈はどれにしようかなと呟きながら指をあちこち動かしている。まあ行列ができているから選ぶ時間はあるからゆっくり選ばせてあげよう
「お兄ちゃんは何にするの?」
 決められなかったのか俺の意見を聞いてきた
「俺はこのチョコバナナ。ここを教えてくれた人のおすすめなんだ」
「へえ、じゃあ私もそれにする」
 星奈が笑顔で言った。でも王道と侮るなかれだ。多分チョコソースも業務用ではなく自作している可能性がある。三崎にいたときファミレスで一時期バイトしてたときに店のメニューを食べたときのチョコパフェとは味が全然違った。どこがどうという食レポは出来ないけど、単純にチョコが上手い。としか言いようがない……。
 ようやく順番が来て全員がチョコバナナクレープを頼んだ。注文してからはすぐに出てきてそれを星奈が笑顔で受け取った。
「いっただきまーす」
 大口を開けてかぶりついた。
「おいしい!」
 頬に手を当ててクレープを持っている手を振動させながら感動していた。というか危ない、落ちるぞ。
「本当ね。すごくおいしい」
 母さんも高評価だ
「お兄ちゃんここ教えてくれた人がいるって言ってたよね。どんな人」
「ああ、今行ってる学校の先輩だよ」
「部活の人?」
「そう」
「へえ、どんな人なの?男、女?」
 クラスの話や学校の話はしてたけど、部活の話はうっかり鉄道模型を作る理由を話しそうで内緒にしてたから教えていない。だからグイグイ来る。
「星奈とはちょっと違うタイプの天真爛漫な人だな。星奈は元気、先輩は楽しいことが好きな人かな」
「へえ、ってことは女の人?」
「そうだよ」
「写真ないの!!」
 女とわかったらさらにエンジンかけて来た。なんか期待しているみたいだけど、残念ながらその希望には沿えない。
「……ないな。なんだかんだ写真は撮ってない」
「なーんだつまんない」
「でも気になるわね」
「別にそんな関係じゃないのに。まあそうだな……」
 どう説明しようか悩んでいると、近くに先輩に近い姿の女性が通ったのが見えた
「あ、あの女性が近いかな」
 と指さす。が、その顔が見えたとき俺はクレープを落としてしまった。なぜなら
「あれ?明石君じゃん」
「え、あらこんにちは」
 先輩ご本人だったからだ。そして瀬戸さんも一緒だ。
「こ、こんにちは先輩、瀬戸さん……」
「お兄ちゃん?もしかしてこの人がそうなの?」
 やましいことは何もないのに板挟みになったような感じになってどう話したらいいかわからなくなってしまった。
「あ、明石君のご家族ですか?」
「はい。星夜の母の星子です。息子がお世話になっています」
「弥奈咲学園3年で明石君と同じ部活をやってます本田実里です」
「同じく二年の瀬戸菜摘です」
 固まっていた俺をよそに女性陣は挨拶をした。
「お兄ちゃん。この人がそう?」
 じっと二人を見ていた星奈がようやく口を開き、俺に聞いてきた。
「うん」
「そうなんだ。初めまして、明石星夜の妹の星奈です。兄がお世話になっています」
 星奈は清楚なイメージのお辞儀をした。
「本物だ~!可愛い」
 先輩は星奈に抱き着いた。先輩、星奈はぬいぐるみじゃありませんよ。
「あの先輩、星奈はまだリハビリ中なので離してください」
「あ……ごめんなさい」
 星奈と父さん母さんに向かって頭を下げた。
「大丈夫だよお姉さん」
「お姉さん……いい響き!」
 先輩が落ち着いたところで母さんが一緒の席に誘った。隣がちょうど空いたから机と椅子を持ってきてくっつけ、星奈を母さんの横に移動させ、俺は瀬戸さんの隣に座った。
「ところでお兄ちゃん。鉄道模型部ってどういうこと?」
「え、明石君教えてなかったの?」
「あ、ああ。そのサプライズにしたくて」
「でも前原集落のことはしゃべっとかないとまずいと思うよ」
 瀬戸さんの指摘はもっともだ。
 今まで星奈に前原集落が沈んだことをまだ喋れていなかったのは恐怖があったからだ。鉄道模型で再現と言っても納得してくれないんじゃないかという恐怖。星奈ならわかってくれるという思いと、納得してくれず嫌われてしまうという恐怖が闘い、結局今まで喋ることができていなかった。いずれ話さなきゃいけないのに先延ばしにしてきた。
 この期に及んでまだ悩む俺を母さんが耳打ちしてきた。
「大丈夫よ。いざとなったら私がフォローするから」
「……母さん」
 母さんも援護に入ってくれた。先輩たちのことを話すには、鉄道模型部のことを話さなければならない。そしてそれは前原集落のことも話さなければならないのと同じ。
「お兄ちゃん。どうしたの?」
 覚悟を決めて星奈に話そう。
「あーその。星奈。一つお前に言っておかなきゃならないことがあるんだ」
「へ?」
「実は……」
 星奈に約束の場所である前原集落がダムの完成で沈んでしまい、もう夜景を見せることが出来ないことを明かした。同時に先輩と瀬戸さんとの関係を説明し、罰を受けて救済措置としての部活メンバ―であること、俺は巻き込まれだけど内申目当てで参加したこと、そしてその活動として鉄道模型を選んだこととその理由も。鉄道模型で前原集落とその夜景を再現し、別の形で夜景を見せようとしていることを説明した。
「そっか……」
 やっぱりダメなのか?不可抗力に近いと言っても俺との約束を糧に頑張って来たのにそれがなかったことになるんだから
「頑張ってお兄ちゃん!」
「え?」
「確かに実物を見られないことは残念だよ。でもお兄ちゃんが一生懸命作ってるもの見て見たい!」
「星奈……ありがとう」
 今までの俺を殴りたかった。星奈はちゃんとわかってくれたんだ。信じてやれなかった俺をしかりつけてやりたい
「あの、それと私からもいいですか?」
 先輩が真剣な面持ちで立ち上がった。
「はい」
「あの、息子さんを怪我させかねないことをしてごめんなさい」
 先輩が父さんと母さんに頭を下げた。
「ああ、話は聞いてるわ。ちゃんとすぐに星夜に謝ったみただからもう気にしてないわ。これからも星夜をよろしくね」
「ありがとうございます」
 父さんも同じようなことを言って先輩を許した。
「実里さん。お兄ちゃんをよろしくね」
「もちろんだよ星奈ちゃん!」
 また先輩は星奈に抱き着いた。だからそれはやめてくれって言ったのに。
 注意しようと立ち上がると瀬戸さんが先に立ち上がり先輩の耳を引っ張った。
「いいいい痛い痛い瀬戸ちゃん!」
「先輩。明石君にやめろって言われてましたよね?」
 ドスの効いた声で注意されていた。
「ご、ごめん。だから離して、耳が千切れる!!」
 一呼吸を置いてから手を離した。先輩は耳を押さえて唸り声をあげてしまった
「お見苦しいところを見せてしまい申し訳ありません」
 と俺の家族に謝った。とはいえ目の前であんなものを見せられたからどう返していいかわかならいようだ。どちらかというと父さんも母さんもタイプが先輩に近い。
「このお姉さん怖いね」
 星奈が俺の方に来て隠れるように瀬戸さんを見つめた。
「こ、怖い……」
 星奈の言葉と仕草に落ち込んだようで顔色がどんどん悪くなって最後は椅子に崩れ落ちた。というか瀬戸さんってそんなキャラだったっけ?
「だ、大丈夫だよ星奈。この人はまっすぐで曲がったことが嫌いなんだ。さっき俺が先輩に注意したのにまたやったからあんなことしただけで本当は優しいよ」
「本当?」
「本当」
 恐る恐る瀬戸さんに近づき、前に立って
「あの、お兄ちゃんをよろしくお願いします」
「こ、こちらこそ、よろしくね!」
 星奈がかけた言葉で瀬戸さんは元気を取り戻した。けどやっぱり瀬戸さんのキャラは絶対違うよねと言いたいが、先輩と同じ目に合いそうだから心の底に留めておいた。
 先輩たちは映画を見に来たみたいでクレープを食べ終わったら別れた。俺の家族は二人をいい感じに評価してもらえたようでうれしかった。
 それから二日間星奈や家族全員で過ごした。家族といられる幸せとありがたみを改めて認識できたと思う。それから星奈はまた病院へ戻った。病室に戻る前に「お兄ちゃん頑張って。楽しみにしてるね」と、言われた。星奈へ真実を言うという壁を乗り越えたからもう俺の中に迷うものはない。完成へ向けて気合を入れた。