すれ違ってしまった恋~期限付きだけど…やり直します~

前の人生では、初めてのデートは初詣だった。



でも、この期間限定の人生では、

初デートは明日…

2か月早くなった。

嬉しいー



動物園の行き方を調べておかなきゃ。

剣も調べてくれてるかな…

この時代にはスマホが無いから不便だ。

でも、楓は時刻表が愛読書だったから…



いや、確か動物園ってバスでしか行けないじゃん。

どうやって調べるんだったけ?

スマホで調べ慣れてる楓にとって…

それは辛いことだった。

インターネットも無いし…

この時代って、本当に不便…

悲しくなるよ…



でも、覚えてることもあるからね。



バスセンタ―まで行って乗り換えだった気がする。



明日は、9時にいつものパン屋さんの前に待ち合わせだ…

目覚まし時計をかけてっと…



楓は、ワクワクして…なかなか眠れなかったけど…

若さゆえか…

いつの間にか眠っていた。



目覚ましよりも早く目が覚めたから…

時間の前には、パン屋さんに行った。

少しして剣が来て…



「おはよう」



「おはよう、ちゃんと来たね、今日はよろしく」



「来るにきまってるじゃん。こっちこそ、よろしくー」



剣と、バス乗り場まで一緒に歩く…



―――恥ずかしい…

―――でも、いっぱい剣のことを知るために頑張らなきゃ



「剣ってどんな動物が好きなの?」



「うーん。熊かな」



―――そうだったんかい!それで、あの時に熊って言ったの⁉

【すれ違ってしまった恋 2話別れ~21歳参照】



剣にとっては、名札の「便秘」みたいなもんだったのかな…



「そうか、動物園楽しみ」



「うん、そうだね」



近くのバス停に着くと、すぐバスが来たから乗り込んだ…

整理券を取って…



1人だと、絶対に一番後ろの席に座っていたけど…

どうしようかなって思っていたら、剣は迷わず二人用の席に座った。

楓は、剣の隣の席に座った…



近い…

恥ずかしい…



少し、無言が続く…

でもこの無言も心地いい…



いつの間にか…祥子の話や野球部の友達の話で話がはずんだ。



バスはあっという間にバスセンターに着いて

次は乗り換えだ…剣は迷わずバス停に行った。

また、剣は2人用に座ろうとして…



「次は、楓が窓側に行く?」

って聞いてくれた。



「ありがとう、実は酔いやすいんだ…」



「ごめん、さっき聞けば良かったね」



「大丈夫。ここからの方がグネグネ道だから、窓側が良かった」



「それなら、良かった」



「剣は、大丈夫なの?」



「俺は、全然平気」



「それなら、良かった」



剣が気が付いてくれる人で良かった…





今では考えられないけど、昔はクラスの名簿があった。

それには、住所・電話番号・保護者の名前が書いてある。

剣とは、同じクラスになったことは無かったけど…

剣と同じクラスの子に名簿を見せて貰ったことがある。

そしたら、剣と楓の電話番号は下2桁が違うだけだったから驚いた。

だから、お互いに…ずっと覚えていた…



楓は、バスに揺られながら…それを思い出していた…

剣と楓は、動物園に着いた。



入場料を、それぞれ払って…

―――中学生だから、割り勘は当たり前だよね…



「剣、何から見る?やっぱ猿かな?」



目の前に猿山が見える…



「そうだね。猿から見よう」



「ま、臭いけど…」



「気にしない気にしない」



二人は、まるで中学生のように…

はしゃいでいた…

―――中学生なんで、当たり前なんだけどね…



「次は、何見る?」



「とりあえず、パンフレットの順番に行こう」



「わかったー」



こんなに、回れるかな…

楓は、気持ちがまだ老人だから…

追いついてない…



でも、思っていたより…

身体は中学生のようで…

難なく、回れた…



それから…ペンギンや羊などがいる、ふれあい広場に行ったり

爬虫類館で大騒ぎしたり…

そう…熊も見た。



ここの動物園って、息子や孫とも一緒に来たけど…

熊っていたっけ?

今日、見ている熊は棒を振り回したり芸をしている。

なんか…懐かしい。



まわっていたら食堂が見えた。



―――そういえば、昼ごはんどうするんだろう?



お弁当を作っていたら、お父さんに何か言われそうだから

楓は弁当を作らなかった…

それに…今の時代にコンビニはない…



「剣、お昼ごはんはここで食べる?」



「そうだな、ここで食べよう」



―――初めての一緒のごはん…緊張する。



「食券を買うシステムね…何にしよう?剣、先に買っていいよ」



「おう」



「剣、何にしたの?」



「ラーメンにした」



「私は、オムライスにする」



楓は、箸を使うのが下手だったから、スプーンを使う物にした。



「いただきます」



二人とも、そう言って食べ始めた…



恥ずかしかったけど…

考えてみたら、一緒に居酒屋とか行ってたしな…

気にしないようにしよう。



二人は、ご飯を食べた後…

鯉に餌をやった。



―――剣とは、何をしても楽しい

―――剣も、そう思ってくれてるといいな…



剣と遊具で遊んで、めちゃくちゃはしゃいだ…

一通り、周って…



「もう、終わっちゃったね」



「帰るか…」



「うん」



二人は、バスに乗った…

疲れたのか…

楓がウトウトしていたら…



眠ってしまった剣の顔が、楓の顔の横に…



―――えええっ!!顔が近い…

―――どうしよう?



そう思っていた楓だったけど…

楓も、いつの間にか、完全に寝てしまった。

そして、二人は顔を近づけたまま…眠った。



前は、こんなこともしたことが無かった…

嬉しい…

こうやって、どんどん剣に近付きたい。



バスセンターに着いて、二人は顔を見合わせて笑った…



次のバスに乗り…



また、いつものパン屋さんに着いた…



「楽しかったねー」



「うん、楽しかった」



「お小遣いを貯めて…また何処かに一緒に行ってくれる?」



「いいよ。また行こう」



そう約束して、剣と楓は家に帰った…

11月…



動物園、楽しかったな…

また、どこかに行きたいな…



今日は、11月6日か…

えー!!

今月は、剣の誕生日じゃん。



何か、プレゼントあげないと…

ヤバい!!

今度の、日曜日か次の日曜日しか買いに行く時がない!



でも、何をあげればいいんだ?



楓は、祥子に相談した…



「祥子、もうすぐ剣の誕生日なんだけど、何をあげればいいと思う?」



「そうかぁ、男って何を貰ったら嬉しいんだろう?」



「わかんないんだよー。助けておくれ、祥子ー」



「それとなく、剣に聞いてみるとか?」



「あまりに、あからさまじゃない?」



「そうだよね…うちが野球部の友達に聞いてみるよ」



「お願い、祥子。助かる」



祥子が友達に聞いてくれた。



候補は…服・スポーツグッズ・文房具・漫画etc…



「祥子ありがとう。それで…買いに行くの付き合ってくれない?」



「いつ?」



「明後日か、その次の日曜日」



「明後日は用事があるから。次の日曜日ならいいよ」



「祥子、ありがとう」



そして…次の週の日曜日…



祥子と街に行った。



祥子とは、よく街に遊びに行く。

でも、たいてい服を買いに行くから行く店は決まっているけど…

今回は、そういう店じゃない。



「服は難しいよね…とりあえず、スポーツ用品店に行ってみようか?」



楓と祥子は、スポーツ屋さんに行ったけど…

高い物ばかりで…楓の小遣いでは買えない。



「よし、文房具かな…」



文房具店に行ってみたけど…

値段的にはいいんだけど、何か物足りない…



「とりあえず気分を変えて、いつもの雑貨屋さんに行ってみよう」



そしたら、楽しそうな物がいっぱいある…



「これ、いいんじゃない?」



祥子が見せたのは、ミニ香水だった。



「でも、匂いが嫌だったら…私が嫌かも?」



「色々あるから、匂って決めれば?」



値段的にはいい…

匂ってみると…いい匂いもある…



「色々匂っていたら、よく分からなくなったよー」



「最初にいいって思ったのがいいんじゃない?」



「これにする!」



「よし、決まり」



やっと、決まった…



「祥子、ありがとう」



よし、剣の誕生日は木曜日…





木曜日、いつものように



「剣、誕生日おめでとう。今日もクラブ終わるの待ってるね」



「あ、覚えててくれたんだ。ありがとう。じゃ、あとで」



待っていると…剣がクラブを終えて帰って来た。

着替えるのを待って…



「これ、誕生日おめでとう」

プレゼントを渡すと…



「えっ、ありがとう。びっくりしたよ」



「えへへっ、びっくりさせようと思って…開けてみて」



剣はプレゼントを開けた…



「こういうの欲しいと思っていたんだ…クラブの後、汗臭いから…」



「全然、臭くないけどね。使って貰えたら嬉しい」



「楓、ありがとう」



こうして、楓のプレゼント大作戦は終わった…



また、剣に近付けたかな…

昔、しなかったことを沢山して、もっと仲良くならなきゃ。

私が迷うことがないように…

12月…


楓は、できるだけ剣と一緒に帰るようにしたり…

話をするようにしていた。

もっと、近づかないと…

でも、近づき過ぎて嫌われるんじゃないかとも思ったり…



―――恋愛って難しいよね…



でも、昔と同じ過ちを繰り返さないようにしなきゃ…

私には、あと9か月くらいしか残ってないんだもん。



もうすぐクリスマスかぁ

恋愛といえば、クリスマスに一緒に過ごすのは定番だけど…

私と剣ってクリスマスに何かしたっけ?

覚えてない…

ってことは、何もしてないのかな?



でも、今度はクリスマスイベントしたいな…

イベントっていっても、昔はイルミネーションとかも無かったし…

何をすれば?



プレゼント交換?

そんなことするより、一緒に過ごしたい…



クリスマスあたりって休みはどうだったかな…

楓はカレンダーを見た。

え~、クリスマスイヴは水曜日で、クリスマスは木曜日じゃん。

日曜日は28日かぁ。

その前の日曜日が21日…

その辺りで、会えないかな…



楓は、ほとんど剣と一緒に帰っているけど…

いつも誰かが一緒にいるから…

なかなか二人っきりになれない…



だから…遠くに行かなくてもいいから…

二人っきりになりたいな…



そうだ!

クリスマスの夜に、公園で会えばいいんじゃない…



楓のお父さんは、放任主義で…

楓の行動には、あまり口うるさくない。

祥子の家に行ってくるって言えばいいかも?



でも剣は出れるかな?



翌日、剣に聞いてみた。



「剣って、夜出れる?少しでもいいからさ」



「うん、出れるよ。大丈夫だと思う。なんで?」



「いや…たまには二人で会いたいなって思って…クリスマス来るし…」



「いいね。会おうよ」



「ホント⁉やったー!じゃ、24日の水曜日の20時に公園にしようか?」



「いいよ」



楓は、本当はすごく恥ずかしかった…

でも、今しかこの世界にいれないんだって思ったら勇気が出た…



そして…24日。

楓は、少し前に公園に行った。

寒かったけど…

剣に会えるなら、これくらい我慢できる。



少ししたら剣が現れて…



「楓、早いじゃん。待った?」



「ううん、そんなに待ってないよ」



二人で公園のブランコに乗りながら話をした。



楓は、恥ずかしくて…



「次は、すべり台しようかな」



そう言って立ち上がった時に、フラフラっとして…

剣の、膝の上に乗ってしまった…



「あっ、ごめん。重かったでしょ?」

楓は、すぐ立ち上がった…



「いや、大丈夫…」



「恥ずかしいね…私、ドジだから…」



「そういう所も、俺は好きだよ」



「ありがとう。私も剣が大好き」



二人は、寒い中…公園で遅くまで話した…



キャー!

こんなシーン、前には無かったよ…

嬉しい…

もっと、もっとがんばらなきゃね…

クリスマスが済んで…

楓は思い出した…



―――そういえば、前は初詣に行ったのが最初のデートだったんだ…

―――初めてのデートじゃなくなったけど、行くしかない!



「剣、冬休みどこか行こうよ」



「うーん、行きたいけど冬休みの前半はクラブがあるからなー」



「じゃさ、初詣はどう?」



「うん、その頃ならクラブも絶対休みだし…いいんじゃない?」



「どこに行こうか?」



「島にある神社に行こうよ」



「いいね。じゃ、そこにしよう」



元旦…剣と楓は、いつものパン屋さんで待ち合わせて…



「剣、おはよう。あっ明けましておめでとう。今年もよろしくお願いします」



「明けましておめでとう。こちらこそ、よろしく!」



電車に乗って…それから、船に乗り換えて…



―――昔って何を話したんだろう?

―――全然、覚えてないや。



船では、外に出て海の風を感じた…

寒かったけど…剣といれば寒さもぶっ飛ぶさ!



船を降りて…神社までは距離がある。



人も多い…

なんか恥ずかしいなぁ…



でも、楓はこうして、また剣と来れることが嬉しかった。

期限付きだけど、もう一度剣に会えて…

そして、こうして剣といられることが

すごく嬉しかった。



神社で参拝して…そのまま歩いて抜けて…

砂浜を歩いて…

砂浜をみながら座って話をした。



「楓、この後予定あるの?」



「親がさ、親戚の家に行くから、後で電車で来いっていうんだよね」



「そうか…でも昼ごはんくらい食べれる?」



「うん、大丈夫。夕方に親戚の家に着けばいいんじゃないかな」



「じゃ、何処かでご飯食べて帰ろう」



「うん。楽しみ」



確か…前の時は、昼ごはんも食べずに帰ったんだよ…



またも、違う展開…



楓と剣は、商店街で昼ご飯を食べようとしたけど…

どこも観光地価格で高い…

お小遣いが少ない私達にとっては辛い金額だった…



「なんか、高い所ばかりだね」



「そうだね…戻ってから何処かで食べようか」



「そうだね。そうしよう」



この時代は、コンビニも無いからな…

家の近くに戻っても正月で、どこも閉まってるし…

この時代には、モールもない…

生きづらい時代だね…



駅に戻ったら…

駅にある、売店のような店があった。

あーこの時代には、こういうのが、あったなぁ。



「楓、ここで何か買って食べるか」



「うん、そうしよう。」



二人は、おにぎりと飲み物を買った。



そして、それを持って駅のホームで食べた。



「なんか、ごめんな…こんなご飯で…」



「いいよ。剣と一緒ならどんなご飯も美味しいから!」



「いつか…お金を稼ぐようになったら、美味しいもの食べような」



「うん、楽しみにしてるね」



楓は、死ぬ前の人生で、飲みに行った時にいつも剣がお金を出してくれていたことを思いだした…



―――ちゃんと、奢ってもらったよ。





でも、今回は期限付きだから…

それは見れないんだって思って悲しくなった…
2月…



世の中は、バレンタインデーの話題ばかり…



祥子が…



「楓、バレンタインデーに剣に何かあげるの?」



「まだ、何も考えてないんだよー」



「手作りしたら?」



「え~、そんなこと出来るの?」



「けっこう簡単なんだよ。私も大好きな先輩にあげようと思ってるんだー」



「そうなの?なら私も一緒に作りたい」



「いいよ、一緒に作ろう」



そんなこんなで、楓は祥子とチョコとクッキーを作ることにした。



楓の家には、オーブンがあったから…楓の家で作った。



チョコは、板チョコを溶かして…型に入れるだけ…



でも、クッキーは殆ど祥子が作った…

食べてみたけど、けっこう美味しかった。



それを可愛い瓶に詰めて…



この時代に100円ショップは存在しない―――



だ・か・ら、祥子のお母さんが集めた瓶を頂きました。



すごく可愛く出来た…

剣、気に入ってくれるかなー



バレンタインデー当日



本当は、こういうの持っていっちゃいけないんだけど…

私は、そんなの気にしない…



夕方、いつものように…

剣がクラブが終わるのを待って…



「剣、これ…作ってみたんだけど…どうぞ」



「えっ、これ楓が作ったの!?」



「あ…全部じゃないけどね…祥子と一緒に作ったんだ…」



「嬉しい…ありがとうな」



剣は感動してるみたいだった…



―――おっしゃー!良かった…



これも祥子のおかげだな…



「よし、帰ろうか…」



「うん」



いつものパン屋さんまで帰るのかと思ったけど…



剣は、そこで止まらなかった…



「あれ?剣どこに行くの?」



「なんか…嬉しいから、家に帰る前に楓と一緒に食べたくなった」



「嬉しい…じゃ、公園に行こう」



剣と楓は、いつもの公園に行った。



剣は、可愛くラッピングしたリボンをほどいて…

瓶からチョコを出して…食べてくれた。



「美味しいよ」



「なら、良かった」



剣はクッキーも食べた…



その後、またチョコに手を伸ばしたんだけど

その手は、楓の口の前に…

あーんと言わんばかりに…



楓は、思わず口を開けた…

そしたら剣が、チョコを楓の口の中に入れた…



楓は、びっくりして…どういうリアクションしていいか分からなくて…

たぶん…顔を真っ赤にして…



「美味しいね、剣ありがとう」



って言った。



剣の顔を見たら…

剣も顔が真っ赤だった…



あーこのドキドキいいよね…

懐かしい感覚…



しかも、この展開も前の人生には無かった…



少しずつ、剣の心に近付けてるかな…

シャイな剣が、これだけ楓に近付こうとしてくれている。

私も、頑張らなくっちゃね。



真っ暗になった公園で、二人は語りあった…

3月…



もうすぐホワイトデーがやってくる。

ホワイトデーにバレンタインデーのお返しをする風潮だけど…

剣は、お返ししてくれるのかな?



そう思いながら…毎日を過ごしていた。



そして、ホワイトデー当日…



朝から、剣と何回も顔を合わせているけど…

剣は、何かをくれる雰囲気はない…

昼休憩になっても、そんな雰囲気はなかった…



―――剣、忘れてるのかな?

―――もしかしたら、夕方かもしれない…



そして、剣のクラブが終わって…



「楓、お待たせー。帰ろうか?」



「うん、帰ろう」



―――あれ?本当に忘れてるのかも?



いつものように、喋りながら帰る…



だんだん、不安になってくる楓…



パン屋さんに着いてしまった…



楓は諦めて



「剣、また明日ね…」



そう言って振り向いて帰ろうとすると…



剣が、楓の腕をつかんで…



「待って」



と言った。



すると…剣がプレゼントらしき物を持っている。



「これ…」



「剣、ありがとう。見ていい?」



「うん…」



可愛くラッピングされた包み紙をはがすと…

中には可愛いクッキーが入っていた。



「ありがとう。これ剣が買いに行ったの?誰かと?」



「俺、1人で行った。恥ずかしかったけどな…」



「剣…ありがとう。大好き」



楓は、そう言って剣の口にクッキーを持って行った。



剣は、ビックリしてたけど…食べてくれた。



「剣、春休みどこかに行こう?」



「クラブの休みの日なら行けるよ」



「うん、それでもいいよ」



「クラブの休みが分かったら教えるね」



「うん、待ってる」



それから…

剣は、クラブの休みの日を教えてくれて…



二人は、会う約束をした。

お金が無い二人は…

近くの海に行こうと約束した。



家から歩いて行ける海だ…



当日…

パン屋さんで待ち合わせをして、二人で歩いていった。



剣と楓の家は、団地の上にあるから

ずっと…下っていく。



ただ、二人で歩いていくだけなのに…

すごく楽しい…

話が途切れても、その無言が楽しく感じる。



今日は、下のスーパーで

おにぎりとお茶を買って行った。



昔は、ごはんやさんも少なくて…

しかも、高かった…



海に着いて…二人で砂浜で遊んだ…

定番の水の掛け合いもした。



二人で砂浜でおにぎりを食べて…

沢山、話をした。



時間が経つのはあっという間で…

夕方になって…帰る時間になった…



今度は坂道を上がっていく。



楓が疲れて…

休んでいると…



剣が、楓の手を持って優しく引っ張ってくれた…



―――キャー!初めて手を繋いだよ…



剣は、パン屋さんに着くまで楓の手を離さなかった…



前の人生では、手も繋いだことがない二人だった。

握手しただけ…



明らかに前の人生と違っている。



だから楓は、すごくすごく…嬉しかった。
4月…



楓と剣は、中学3年生になった。



楓は、中2の終わり頃には、問題児扱いされていて…

仲良し5人組だった楓たちは、5クラスにバラバラにされた。

しかも、楓のクラスだけ今まで使われていなかった教室で

怖い先生が集まっている保健室の隣のクラスになった。



楓のクラスだけ1階で、他のクラスは2階で…

剣とも違うクラスになって…

しかも、剣の教室は楓の教室から一番遠い…



楓は、休憩時間になると…

2階の剣のクラスに行った。

祥子は、剣と同じクラスになっていたから…

楓は、祥子のお母さんが作った玉子焼きが大好きで…

いつも自分のお弁当を、すごい勢いで食べて…

貰いに行っていた。



友達に遊びに誘われることもあったけど…

楓は、我慢した。

前の人生では、遊びに行くのが楽しくなって

剣との距離が離れてしまったから…

今回は、そんな誘惑に負けないようにしようって思ってた。



だから…剣とも変わらず毎日一緒に帰った。



ある朝、楓はなんか怠くて…

学校に行きたくないって思って…

剣に電話をした。

そしたら、珍しく剣が出て…



「剣、なんか今日だるくて…学校休むよ」



「大丈夫か?」



「うん、なんかね。さぼりだよ」



「俺も、さぼろうかな…」



「ほんと?じゃ、後でうちに来る?」



「いいのか?」



「うん、8時半にはお父さん出てると思うから」



「分かった。適当に行くよ」



「うん、待ってるね」



剣は、10時くらいに来た…



自分の部屋に入れるのは恥ずかしかったから…

応接間に入って貰った…



二人で、並んで座って…

テレビを見たり…喋ったり…



お昼ご飯は、二人でカップヌードルを食べた。



二人は、イチャイチャするでもなく…

ただ、喋りまくっていた。



剣のお姉さんの話、お父さんとお母さんの話も沢山聞いた…



家の中で、こんなに一緒に過ごすのは初めてで…

ドキドキしたけど…

剣は、そういう人じゃない。

それは、分かっていた。



夕方になって、車が帰って来る音がした。



「剣、お父さん帰って来た…」



「ヤバいね」



「剣、ここから一緒に出よう」



剣と楓は、慌てて靴を取って掃き出しの窓から出た。



そして、お父さんが家に入るまで、壁の横で潜んでいた。



「ごめんね」



「びっくりしたけど、いいよ」



「今日は、楽しかった。ありがとう」



「俺も、楽しかった。ありがとな」



「剣、握手して」



「いいよ」



二人は、前の人生と同じように握手した。



でも、前の人生とは違って…



長い間、手を握りあっていた。



「剣、また明日ね」



「うん、明日は学校に行こう」



「明日は行くよ」



「ばいばい」





楓は、何食わぬ顔をして玄関から「ただいま」と帰って行った…

5月…



ゴールデンウイークか…

って言っても、この時代のゴールデンウイークは

4月29日の天皇誕生日から…飛んで

3日の憲法記念日と、5日のこどもの日しかない。

でも、今年は3日が日曜日だから4日が振替で休みで…

3日から5日までが3連休になる…



でも剣は、クラブがあるんだろうな…



3日から5日までイベントがあるけど…

お金ないし…

一緒に行けそうにないから、仕方ないね…



そんなことより…

今月は、待ちに待った修学旅行があるんですよ。



楽しみ~♪



でも、剣とはクラスも違うし…

自由行動もないし…



せめて、一緒に写真撮りたいな…



前の人生では、写真撮ろうとしたら邪魔が入って撮れなかったんだった…



今回は、なんとしてでも撮りたい。



修学旅行は2泊3日。

九州に行く。

どんなことが起こるかな…



当日…

祥子が迎えに来た。

祥子がマスクを持って行くってマスクを持っているから…

(昔は、ガーゼのマスクしかなかった)



「なんで?」



って聞いたら…



「だって、雲仙って臭いんでしょ?」



なぜか…そうかって納得して…

楓も持って行くことにした。



それから新幹線に乗って…

クラスが違うから、当然…剣とは車両も違う。

着いてからのバスも違う…



全然、つまんない…



楓と祥子は、雲仙でマスクをして写真に写った…

まるで不良じゃん。

その時に、祥子とは一緒に写真撮れたのに…

剣は、何処に?



結局、旅館に着くまで、剣とは会えなかった…



それから、旅館でご飯を食べた後で…

祥子と一緒に剣の部屋に行った。



「剣、一緒に写真を撮ろうよ」



「うん、いいよ」



廊下で撮ろうとしたら…先生がやって来て…



「おまえら、何してるんだ?用がないなら自分の部屋に戻れ」



って言われて…

ここは、男子が泊まるエリア…

しかも、祥子は内緒でカメラを持って来てたから

バレたら大変…



そこで祥子が…



「歯磨きしてる振りすればいいんじゃない?」



て言うから…



剣と二人で



「そうか!」



って、歯磨きをしてる振りをして写真を撮ろうとしたら

また、先生が来て…



「もう、消灯だぞ。自分の部屋に戻りなさい」



「歯磨き、終わったらね」



って言ったけど…



「ダメ」

って言われてしまった…



次の日に撮ろうと思ったら…

旅館は、楓のクラスだけ別棟…

しかも、先生の部屋の前を通らないと

みんなの棟に行けない…



私が何をした?って思ったけど…



諦めて…同室のみんなで恋バナをした。



翌日も…剣とは写真撮れず…



考えてみたら、前の人生で

剣と一緒に撮った写真って1枚も無かったかも?

いつも、みんなと一緒で…

二人で写った写真は無かった…



学校に戻って解散してから…

楓は、祥子に頼んだ



「祥子、今からでいいから剣と一緒に写真撮って」



「うん、いいよ」



剣は、野球部の友達と帰ろうとしていたけど…



「剣、一緒に写真撮ろう」



「いいよ」



「じゃ、祥子お願い」



剣と楓は、初めて一緒に写真を撮った。



その写真は、楓の宝物になった…