6月…
今月は、私の誕生日だ…
何歳になるんだっけ?
楓は自分の歳がいくつなのか…忘れていた。
中3だから…15歳かぁ
私って、仲が良い友達の中で一番に誕生日を迎えるんだった。
若い頃は気にならないんだけど…
歳を取ったら、一番に歳をとるのが嫌になるんだよね…
ずっと、そう思ってたよ。
うちは、お母さんもいないし…
お父さんが、お金をくれて終わりだな…
お母さんが生きていた頃は、毎年ケーキを作ってくれていた。
寂しいけど…仕方ない。
運命を受け入れないとね…
剣は何かしてくれるかな?
いや、あまり期待をしてはダメだ…
求めない求めない…
私の誕生日は、水曜日か…
ま、友達におめでとうって言って貰えるだけでもいいか…
そして…誕生日当日…
友達数人が、誕生日おめでとうって言ってくれた。
嬉しい…
剣のクラスに行ってみた。
剣も…
「楓、誕生日おめでとう」
「覚えててくれたんだ?ありがとう」
めちゃくちゃ嬉しかった…
そういえば、剣もずっと私の誕生日を覚えてくれてたな…
私だって、忘れたことは無かった…
毎年、剣の誕生日が近づく度に、ドキドキしてメールしてたよ…
懐かしいな…
剣が、めずらしく…
「楓、今日も一緒に帰れる?」
「うん、帰れるよ。待ってるね」
って言った…
もしかしたら…もしかするかも?
そう思ったけど…
期待しない期待しない…って思い直した。
放課後…
いつもと同じように一緒に帰った。
いつものパン屋さんで別れる時に…
剣が
「これ…」
って誕生日プレゼントらしきものをくれた…
「えっ、もしかして誕生日プレゼント?」
「うん、気に入るかどうか分からないけど…」
「開けてもいい?」
「うん…」
開けてみると…それは、「なめ猫~なめんなよ~」の
パスケースとかが入ったグッズのセットだった。
楓は、当時なめ猫が好きだったから…
「剣、ありがとう。可愛いー」
「気に入ってくれたなら、よかった…」
と、恥ずかしそうに言った。
「剣、1人で買いに行ったの?」
「うん…すごく恥ずかしかったけどな…」
「嬉しい…本当にありがとう」
「楓が生まれて来た日だから…お祝いしないとな。ちょっとだけ公園に行こうか?」
「うん、行きたい」
そして、剣と楓はいつもの公園に行った。
「今日、家でお祝いして貰えるんじゃない?大丈夫?」
「うちは、お父さんだけだし…たぶん何もないと思う」
「そうか…お金があったらケーキ買うんだけど…ごめん」
「ううん。プレゼントすごく嬉しかったし…覚えててくれるだけでも嬉しい…」
「当たり前じゃん、覚えてるに決まってるよ。絶対忘れないから!」
「剣、ありがとう。私も絶対に忘れないよ…」
公園から帰ると…
お父さんがケーキを買ってくれていた…
「お父さんも、ありがとう」
「ん?お父さんもって?」
「なんでもないよ…」
7月…
もうすぐ夏休みだ…
何して過ごそう…
昔の私は、何をして遊んでたんだろうな…
剣はクラブだろうしなぁ。
夏で引退だしね…
「剣、夏休みもクラブだよね?」
「うん、そうだな…しかも、試合あるし…」
「そうだよね…またも一緒にどこかに行けないなぁ…」
「楓、25日暇なら試合見に来る?」
「えっ、いいの?暇で〜す」
「なら、祥子と来たら?」
「分かった。祥子に聞いてみる」
楓は、祥子にすぐ聞いてみた。
「祥子、剣たち25日に試合あるんだって。一緒に行かない?」
「ホント?行きたい」
「祥子の好きな、誠まことも野球部だからいいんじゃない?」
「だから…行きたいんだよ…」
祥子は、先輩にチョコをあげたけど…見事に振られていた…
それにしても、気が変わるの早いな…
「そうだね…行こう行こう」
前の人生では試合を見に行ったことは無かった…
本当に私達は付き合ってたのか?っていうくらい何もしていないよね。
今度こそ、付き合ってるって日々を過ごしたい。
25日、当日…
楓は、祥子の家に迎えに行って…
一緒に電車に乗って試合がある学校に行った。
剣たち野球部のみんなはもう来てる。
野球部って、後輩も結構いるんだね…
「相手の学校って、けっこう強いらしいよ」
って祥子が言った。どうやら野球部の友達に聞いたらしい…
「そうなんだ?剣たち大丈夫かな?」
心配した通り、1回裏で相手に1点取られてしまった…
そして2回表も点を取れず…
そのまま、相手も剣のチームも点が取れずに5回まで進んだ。
5回表、剣のバッターの順番になった。
「剣、頑張ってー」
と、声を出してみた。
その声を聞いて、剣が一瞬、楓の方を見た気がした…
剣は、ヒットを出して…2塁までいった。
野球のルールは、あまり分からないけど…
剣すごい!!
そして、次は4番バッターの仁ひとしだ。
「祥子が、仁打ってー」
と声を掛ける。
仁は、ホームランを打った。
一気に歓声があがる…
「やったー!」
楓は祥子と飛び上がって喜んだ…
そのまま、お互いに点が取れず…
試合終了…
「剣、すごいよー。おめでとう」
「ありがとう。でも今日勝ったから、来週も試合になっちゃったよ」
「そうか…そんなのいいよ。試合頑張ってね」
「うん…次は、遠い学校だから来て貰えないけど…頑張るよ」
「分かった。応援してるね」
祥子は、この試合を見に行ったことがきっかけで
誠と付き合い始めた…
楓は、剣の試合が見れて本当に嬉しかった。
これから、まだまだ続く夏休み…
剣に会えなくて寂しくなっても絶対に
よそ見はしない…
8月…
この時代にいられるのも…あと2か月になっちゃった…
どう過ごせばいいのかな?
この頃に、楓は前の人生で友達に誘われて
大学生と遊びに行くサークルみたいなのに入っていた。
それで、キャンプに行った時に
不良っぽい男の子のグループと知り合った。
それで、連絡先を教え合って…
友達と会いに行った。
何回か、みんなで遊んでる時に…
その男の子達の先輩に会った…
楓は、その人に気に入られて、ぐいぐい来られた…
楓もそのうちに、その人に魅かれていって…
そして、剣と別れることになったのだ…
だから…今回の人生は、絶対にそんなことはしない!
そう決めた…
前の人生通り…友達に誘われて…楓はキャンプに行った。
そして…男の子たちと知り合って…
しつこく電話番号を聞かれたけど…
断固として教えなかった…
電話番号を貰って、電話してねって言われたけど家に帰って捨てた。
残り少ないこの時代の期間を無駄にしたくなかったから…
だから…好きになってしまった人との出会いは無いことになった…
剣とは、毎日クラブで…会えていない。
この時代に携帯電話があったら、メールだけでも連絡が取れたのに…
時々、剣の家に電話したいと思うけど…
お母さんが出るだろうしな…
お盆も過ぎて、少し経った頃…
剣から電話があった。
「楓、ごめんな…クラブが忙しくて連絡が出来なくて…」
「ううん、いいよ。私こそ、電話すればいいのに…ごめんね」
「クラブも今月で引退だから、引退したらもっと会えると思うから…」
楓は、自分には残り少ないことを呪った…
「うん、大丈夫…。剣はクラブ頑張って」
「ありがとう。でも、会いたいから明日会えないかな?」
「え!明日?クラブは?」
「明日、急に休みになったんだ」
「そうなんだ…会いたい会いたい!」
「じゃ、何処かに行こうか?」
「プールに行こうよ」
「いいね」
楓は、水着になるのが恥ずかしかったけど…
―――まだ、若い身体だから、大丈夫だよね…
―――ビキニは無理だけど…
翌日…電車に乗って市民プールに行った。
「水着、恥ずかしいな…あまり見ないでね」
「見ない見ない…」
剣の水着姿もカッコよかった…
前の人生では、上半身の裸すら見たことなかったもんね…
二人は、お互いに恥ずかしいって思いながら…
一緒に流れるプールで、はしゃいだり…
ウォータースライダーで遊んだり…
楽しい時間を過ごした。
身体が触れ合うこともあって…
本当に恥ずかしかったけど…
夕方まで、二人で過ごした…
帰りの電車では、二人とも疲れて…眠ってしまった。
楓は、ウトウトしながら考えた…
剣とこうして出かけることができるのも、あと少し…
こうしてると…また、離れてしまうのが嘘みたい…
でも、私には期限がある。
それは、どうしようも出来ない…
あと約1か月…
どうすれば、もっと剣の近くにいけるのかな…
9月…
今月いっぱいで、この時代ともお別れだ…
私は、剣に近付けたのかな…
あと1か月、精一杯…頑張るしかないね…
剣はクラブを引退したから…
毎日、一緒に帰って、夕方まで楓の家で一緒に過ごした…
といっても…
他愛無い話をして…
たまに手を繋いで…テレビを一緒に見て…
その繰り返し…
休みの日に、一緒に出掛けたいけど…
毎週、誘ったら嫌がられるかなって思って我慢してた…
そしたら、剣から…
「こんどの日曜日、一緒に何処かに行こう」
って、言ってくれた。
「何処に行こうか?」
「お金がかかる所は行けないよな…」
「また、海に行こうよ」
「そうしよう」
二人は、前に一緒に行った海に行った。
まるで、青春ドラマのように…
砂浜で走って…水をかけ合って…
すごく楽しかった。
それから…
剣は、毎週のように何処かに行こうって言ってくれた。
だから、二人で…
用もないのに、街へウインドショッピングに行ったり…
あてもなくウロウロしたり…
一緒にいられるだけで…楓は幸せだった。
でも、時は待ってはくれない…
楽しい日々は、どんどん過ぎていく…
悲しいけれど…これか現実だ…
本当に、1年なんてあっという間だったな…
そして…
楓が、この時代にいられる最後の日がやって来た。
9月30日水曜日…
二人は、いつものように学校から一緒に帰って、楓の家で過ごした。
楓は、今日が最後だと分かっていたから…
「剣、お願いがある。もう一度、夜に会ってくれないかな?」
「うん。いいけど…どうしたの?」
「なんでもない…ただ、夜に2人になりたいって思って…」
「そうか…いいよ。いつもの公園で会おう」
「ありがとう」
剣と楓は、公園で会って…
「たまには、歩こうか…」
そう言って色々な話をした。
「私ね。きっと剣より先に剣のこと好きになってたと思う…ずっと好きだった…それとこんな私を好きになってくれて、ありがとう」
「いや…俺の方が楓のこと先に好きになったと思うよ。俺こそ、こんな俺を好きになってくれてありがとう」
「剣、これからもよろしくね。私達、まだ子どもだし、これからも色々あると思うけど…ずっと一緒にいたい」
「俺も、そう思ってる…」
「剣、大好きだよ」
楓は、そう言って…初めて剣に抱きついた…
剣は、驚いてたけど…
剣も、抱きしめてくれた…
二人は、初めてキスをした。
楓は、嬉しくて涙が出そうになったけど…我慢した。
「剣、また明日ね…」
「うん、また明日…」
そう言って二人は帰った…
帰り道、楓は泣きながら…ずっと剣の後ろ姿を見ていた…
剣が振り返って手を振ってくれた。
楓も、大きく手を振った…
明日は、来ないことは分かっている…
悲しかったけど…
諦めたくない…
楓は、ある決意をした…
楓の決意…
楓は、明日からの楓に手紙を書くことにした。
楓の大事な、Dr.スランプ・アラレちゃんのノートに…
―――――10月1日からの楓へ
信じられないかもしれないけど…私は、未来から1年間の間だけ来ていた楓です。
楓は今、剣と付き合っています。
でも、未来の私は剣より好きな人が出来て別れてしまったの…
私は、ずっとずっと…剣と別れたことを後悔していました。
剣と別れてから…色々な人と付き合ったけど上手くいかなくて…
高校生の時に知り合った人と結婚したけど…離婚してしまいました。
そして…友達だった剣とも連絡が付かなくなってしまうの…
これから、あなたには楽しい誘惑があるかもしれない…
でも、剣と別れたら…きっと後悔すると思う。
私は、後悔した剣との日々を…この1年間、後悔しないように、やり直したつもりです。
剣に近付きたくて…頑張ったけど、まだこれからだと思うんだ…
もし、この話を信じてくれるなら…
これからも、剣との日々を大切にして欲しい。
決して…後悔しないように…
剣と本気で向き合って、付き合って下さい。
私からのお願いです。
追伸
今日、剣と初めてハグしてキスしました…
楓、頑張ってね♪―――――
そして、楓がこの時代に来てから、今日までの剣とのやり取りも書いておいた。
23時59分…
―――剣、この1年間本当に楽しかった…
ありがとう…
明日からの楓のこと、よろしくね―――
決して…剣には届かない言葉だった…
楓は、0時ジャストに…この時代から消えた…
また、身体がグルグル回って…
気が付くと…
楓は、病院のベッドに寝ていた…
―――私、どうなったの?
―――このまま死んでしまうのかと思ってたけど…
楓は、ふと気が付いた…
机の上に、ノートが置いてある。
それは、見覚えのある…アラレちゃんのノートだった…
これは…
私が書いたノートだ…
中を開いてみると…
私が書いた文章の後に…
楓と剣との日々がびっしりと書いてあった。
ノートは何冊もあった…
それには、高校生の2人…
就職してからの2人…
結婚してからの2人…
子どもが出来てからの2人…
子どもが巣立ってからの2人…
最近の2人…
ノートを読んだだけでも、剣との日々を体験したような気分になって…
楓は、嬉しくて…涙が止まらなかった…
病室のノックが鳴り…
入って来たのは、剣だった…
「楓、体調はどう?」
「うん、今日はすごくいいよ」
「ノート見てるんだね…俺も見ていい?」
「うん、いいよ。変なこと書いてあるかもしれないけど気にしないでね」
剣は、アラレちゃんのノートを見て驚いた…
「楓、今の楓はどっちの楓?」
「え?どっちって?えっと………過去に戻った楓だよ」
「そうか…そうだったのか…」
そう言って、剣は立ち上がって後ろを向いた…
「えっ?剣どうしたの?」
振り向いた剣は…
「実は…俺も、あの1年間にいたんだ…どうしても楓との過去をやり直したくて…死ぬ瞬間にお願いした。1年経って、気が付くと病室の前だったんだ…」
「本当に?そうだったんだ…だからかぁ。どおりで……シャイな剣も積極的だったんだね…」
「あれからの剣と楓は本当に頑張ってくれたみたい…このノートを見て」
二人は、沢山のノートを読んだだけで…
すごく幸せな気持ちになれた…
「実際に、剣との日々を過ごせなかったのは寂しいけど、これで良かったと思う」
「そうだな…こんな不思議な経験が送れるとは思ってなかった。これで後悔なく逝くことが出来るな…」
「そうだね。本当に幸せだったよ。剣…」
「俺もだよ…楓、ありがとう」
「剣、ありがとう」
その言葉を、言った途端…
また、身体がグルグル回った…
でも、今度は剣がそばにいた…
二人は手を繋いで…
この世界から消えた…