地方では桜が開花したという話題で盛り上がっているなか、五人はイベントに向けたレッスンで、日々の忙しさを痛感していた。だんだんと過ごしやすい気温になっていき、装いも自然と軽くなっている。居酒屋緋廻でも春が旬の魚料理が並ぶようになり、タイミングが合えば五人は揃って緋廻に顔を出して、季節を感じられる料理を堪能する。レッスンの合間には、息抜きがてら行きつけのカフェで同じメニューと春限定のドリンクを飲んだりもした。

 レッスンとプライベートを楽しんでいた三月末。しかし、四月になるとメンバー揃ってプライベートを楽しむことは無くなっていく。それは、トラブルが相次いで発生してしまったため。そのトラブルと対峙するために次々と会議やレッスンの日程が決まっていく現状。また、凉樹と朱鳥を中心に個人仕事も流れ込んできてしまい、次第に揃っての練習すらもできない日が増えていった。咲佑は、本当に今の状態でサマイブのステージに立てるのか、些か不安に思い始めていた。

 四人もそれは同じだった。イベントにかける熱量は同じであるはずなのに、足並みがそろっていないと感じ始めていた。個人仕事があるのは仕方のないことだとしても、やっぱり四人はそれぞれが焦っていた。さらに四月になって数多くのトラブルが一気に巻き起こるとは思っておらず、気持ちにも余裕が無くなっていく。そんな四人にとっては辛いとも言える現実を突きつけられながら、毎日をただガムシャラに生きていた。

 あと一か月もしたら四人体制で活動していく、その未来が待っていることを容易に想像することはできず、むしろこのまま五人でいつまでも一緒にいられるんじゃないかと夢を見ることだってあった。でもその夢は叶わない。その望みを叶えさせてくれるキューピットなんて、この世に存在しない。

 残り一か月で咲佑はグループ活動からの卒業を迎える。この一か月で咲佑はメンバーに何を残してあげられるのかと常に自分に問い続けていた。が、未だその答えは見つかっていない。メンバーで揃って何かをしているときも、家で自分の時間を過ごしているときも、時間は止まらずに進み続ける。止まってくれればいいのに、なんて思うことはもうやめた。時間が止まったとしても、答えが見つかるとも限らないから。

 自分にしか出せない答えが出ない。そんな苦悩に満ちた日々を送る咲佑のことを知っているかのように、会社近くにある緑地公園の花壇には、五月ごろに見頃を迎える花々がたくさん植えられている。咲佑は季節ごとに色んな表情を見せてくれる植物が好きだった。中でも一番楽しみにしているのが、まだ蕾の状態でいるジニア。それは明るい色の花を見るだけで、心が晴れやかになるため。どんな色を出して咲いてくれるのか分からないジニアの花に、咲佑は自分の願いを重ね合わせた。