次の日、朝からへンリックがアリーナの家にやってきた。嬉しいのは当たり前の事だがひと月も早く帰って来た。
アリーナは驚いた。はっやっ!!
それに黒い服を着た男の人も一緒だ。
なんか身分が高そうだなーこの人は誰?
「ただいま。昨日帰って来たんだ。早かったでしょ。」うっすらと目の下に隈があり少しだけ目が腫れて疲れた顔だ。
「おかえりなさい。随分早いからびっくりしたわ。疲れてない?」
「大丈夫疲れてないよ。」
「ところで、そちらの方は?」
「ブリーズ国の王宮魔法士団長のクラーク殿だよ。」
「初めまして、私へンリック様の婚約者のアリーナ・ホワイティスと申します。」カーテシーでご挨拶をした。
「クラークと呼んで下さい。」にこやかに挨拶をする。
「あの石について、気になる事があってクラーク殿に来て貰ったんだ。今、石はどこ?」
「石は私の部屋にあるから今持ってくるわ。応接室で待っていて。」
アリーナは部屋に行き石の入った箱を持って来た。ブルーノも一緒にやってきた。
応接室でへンリックは、アリーナの両親、クラーク、アリーナ、ブルーノとソファに座りブリーズ国での話をした。
逃亡した魔女、行方不明の第一王子達の事。石は行方不明者かもしれない事。おそらく呪いを解く鍵はヘンリックの封印された魔力だという事。
ブルーノは「ヘンリックの魔力は最近少し増えた感じがしてたにゃ。魔力が増える事なんてあるのかにゃ?そーいえば、たまにまわりがホワホワしてる時があったにゃ。オレはあれが出てる時近くにいると気分が良くなったたにゃ。それが白魔力だったのかにゃ?白魔力は見た事なくてわからなかったにゃ。」と言った。
マリーナは知らなかったが両親はヘンリックの魔力を封印した経緯を知っていたため、
「ヘンリック君、封印を解いても大丈夫なのかい?」
「わかりません。でも、封印は永遠では無いと聞きました。いずれ封印を解くのなら今がその時なのかと思うんです。」
「封印を解く事を君のご両親には話したのかい?」
「ええ。二つ返事でとはいきませんでしたが、
了承はもらいました。」
「そうか。」
アリーナの両親は心配をしているようだった。
アリーナは黙ってみんなの話を聞いていた。
クラークは、まず箱の中にある石を確認した。
石は行方不明の8人と同じ数だ。
これが第一王子達か?
石自体には魔力はわずかしかなかった。
「この石は複雑な呪いがかかってるみたいだにゃ。オレが魔力を少し入れたら喋ったんにゃ。」
石達が言う「悪さはしないよ。」「何も覚えていない。」「わからない。」「早く助けて。」と。
「悪者だといけないから魔力はあんまりあげなかったにゃ。」
「もう少し多めに魔力を与えれば何か思い出してくれるかもしれませんね。まず一つだけやってみましょう。」そう言うとクラークは一つの赤い石に魔力を与えた。
すると赤い石から小さくて丸い赤い光が飛び出てきた。光は部屋の中をぐるりと回りあたりをうかがっているようだ。
それを見てブルーノたちは警戒をした。
クラークが光に「貴方はどなたですか?」ときいた。
光は「私はブリーズ国第一王子アレン・ルノール・ブリーズだ。」
「私はブリーズ国王宮専属魔法師団長クラークです。お久しぶりです。アレン王子。」
「おぉ、クラークか?」
「そうですクラークです。」
「探してくれたのか?」
「ええ探しました。このような形ですが、会えて良かったです。」
「苦労をかけてすまかなったな。」
「いえここにいるヘンリック殿のおかげです。」
クラークは泣きながらそう言った。
そして、クラークはもっと石に魔力を与えたが姿が変わる事はなかった。
アレン王子が何故石になってしまったのか、
光が経緯を話し始めた。
あの日、夜会に出席した時、捕まったはずの魔女が現れた。婚約者や側近と共にいたところに不意打ちで攻撃魔法を撃たれ皆がバルコニーから落とされた。落ちたところに魔法陣があり魔力を奪われ石にされた。その時にいたのはアレン王子と婚約者、側近とその婚約者の4人だったという。
その石を拾い魔女は馬車の方に移動した。
そこには、弟の第二王子と婚約者、その側近と婚約者が馬車に乗るために外に出ていた。その4人に向かって魔女は攻撃魔法を撃ち4人は馬車まで飛ばされた。あらかじめ魔法陣を馬車に仕込んでいたのか4人は魔力を奪われ石になった。それを拾い集め魔女は逃走した。
そして、魔女は国を出て隣国へ行きその後別の国に渡る。渡った先で魔女はその石をまとめて他国の商人に売り払い何処かへ行ってしまった。
石は買い取った商人が箱に入れてサリーナ国へ戻った。商人は宝石とまではいかない石なので加工をせずそのまま売ってしまおうと手持ちの見栄えのいい箱に入れ露店に並べた。そこにヘンリックがやって来た。アレン王子はヘンリックに何かを感じてありったけの僅かな魔力を使い興味をひくことに成功した。そしてヘンリックが買いグラン国に持ち帰った。
魔女についてわかることは。石に変えたのは自分に靡かない第一王子と邪魔をする婚約者や国王を恨んでの犯行だった。国に王子がいなくなれば後継がいなくなり国が成り立たなくなる。そこで第二王子も石にした。残りの者は巻き添えをくったことになる。
8人を石にした時、魔女は魔力を相当使ったためか老婆のようになった。その後、魔女はいくつかの国を渡り歩き魔力を徐々に回復していった。今頃は若い姿になっているだろうと言う。
アリーナは、その魔女は今頃何処にいるのかなー?なんてかるーく思った。
しかし、魔女の名前を聞いた時、戦慄が走る。
魔女の名前はマリーン。
もしかして?マリーンってマリン?
アリーナはブルーノを見た。
ブルーノも嫌な顔をしてアリーナを見た。
その様子をヘンリックは見ていた。
「アリーどうしたの?顔色悪いよ。」
「ぇ…あの…マリーンってどんな人ですか?」
「ピンクの髪にパープルの瞳で少し小柄かな?後、左目の下に泣きぼくろがある。」と光は答えた。
ブルーノは「あの女じゃにゃいか!?」と
アリーナに言った。
「特徴は一致してるけど…。そんな事ある…?」
「アリーナの知ってる人?」
「うん…マリンていう似た女の子がクラスにいて…それで…。」
アリーナとブルーノは学校であったことを皆に話した。
「そんな事があったんだね。なんで話してくれなかったの?」
「いや、ヘンリックはいなかったし、お父様達も丁度留守だったから、なんか言うタイミングがなくて。あとほら、学校に使い魔を連れて行ったら校則違反になるでしょう?でもブルーノが第一王子のところに行ったりしたから。じゃあこれは第一王子とブルーノに任せておこうかなーなんて思って…。」
ブルーノが「アイツ俺の事、野良聖獣だと思ってるんだにゃ。」と皆に言った。
「野良?」
「そうにゃ」
「…………。」
「おかげで高級なお肉とお菓子をお腹いっぱい食べさせてもらえたにゃ。うまかったにゃ。」
「………。」
「お腹が減ったらまたおいでって言ってくれたんにゃ。」
「………。」
誰も何も言えなかった。
アリーナは俯いて赤くなった。
クラークは石が第一王子達であった事や呪いの解除方法の事。グラン国に逃走中の魔女らしき人物が首都の学園に通っているという情報を手紙にしたためブリーズ国の国王に手紙を飛ばした。
その日の午後
ヘンリックとクラークは石の入った箱を持って教会にやって来た。
神官長にこれまでの事を話した。
神官長は
「私もこの石の呪いを解けるのは白魔力だけだと思います。」石を見てそう答えた。
そしてヘンリックに
「貴方が幾つもの魔力を持って生まれたのは、何かの意味があったのかもしれませんね。今、幼少の頃の封印が少し解けかけて魔力が少し漏れ出てます。それを石が感じ取ったのでしょう。今は魔力の器も大きく成長し充分な大きさになっているでしょう。ただし、魔力の解放は身体に負担がかかりますが大丈夫ですか?」
「覚悟しています。」
「解放後はいくつもの魔力を制御しながらそれぞれを使いこなせるように訓練が必要になるでしょう。」
「使いこなすにはどのくらいの時間がかかりますか?」
「普通は優秀な魔法師に教えてもらったとしても3〜10年ほどでしょうか。素質があれば、もっと早く出来るかもしれませんね。」
「素質は…どうかな…。」ヘンリックはこれまで魔力を使うことは無かった。
そこでクラークが「心配しなくて大丈夫です。私が教えます。これでも私、王宮の魔法師団長ですから。」
「そうですか。それは心強い。封印を解いた後、何日かは魔力が暴れてまわりに影響を与える事もあります。影響が出てもいいように結界を張っておく必要があります。この教会の地下に結界を張った部屋があるのでそこで行います。他の神官にも手伝ってもらいましょう。私は準備をしますね。少しお待ち下さい。」
そう神官長は言い席を立った。
しばらくして、数人の神官と共に神官長がやって来た。
「準備が出来ました。さあこちらへ。」2人は地下室に案内された。
長い階段を降りて長い廊下の先に大きな扉があった。
神官長は「貴方はここでお待ち下さい。」と扉の前で、クラークに言った。
クラークはそこからは入れないようだ。
「では、私はここでお待ちしています。」そう言い廊下で待つことにした。
神官長は扉を開けヘンリックを中へ入れた。
扉の中は地下なのに明るく広い部屋で床の中央には大きな魔法陣があった。
その中にヘンリックは寝かされる。
神官達は魔法陣の周りを囲む。
神官長は
「今から行います。心の準備はよろしいですか?」ヘンリックにそう問いかける。
「はい大丈夫です。お願します。」ヘンリックは目をつぶった。
神官長が呪文を唱え魔法陣を発動させた。
周りの神官たちは魔力を注ぎ込む。
するとヘンリックは顔を歪め胸の辺りを掻きむしるようにして苦しんでいる。
周りの神官長や神官たちも額から汗を流し力を注ぎ込む。
夜が明ける頃、神官長たちが扉から出て来た。
「無事に解除できました。あとは魔力がおさまるまでここに居てもらいます。」
「お疲れ様でした。あとどのくらいかかりそうですか?」
「思った以上に器が大きく成長していたようなので今日のうちには出てくると思いますよ。」
「わかりました。私はここで待ってきます。」
クラークはまたここで待つことにした。
神官長達は皆疲れた顔をしふらふらとしながらその場から立ち去った。
クラークは待つ間にヘンリックの特訓について考えた。
あの聖獣はヘンリック様から白魔力が出ていたと言っていた。もしかして知らず知らずに使っていたのかも。そうであれば使いこなすのはそれほど難しくないかもしれない。
なんとしてもアレン王子達を救ってもらわねば。
ここは地下、外の様子はわからない。
そろそろ夜になる頃だろうかそうクラークがそう思っていた時、扉が開いた。
疲れた様子のヘンリックが出て来たのだ。
「ヘンリック殿!大丈夫ですか。」クラークが駆け寄ると「なんとか制御はできたみたい。」そういうと倒れ込んだ。
クラークはヘンリックの肩を抱いて地下から階段を登った。
登った先で神官がいた。
「こちらでおやすみ下さい。」そう言ってベッドのある部屋まで案内してくれた。
ヘンリックをベッドに寝かせてクラークは少しだけ安心した。
そこに神官長がやって来た。
「思ったより早かったです。少し休んだらもう大丈夫です。あとは使いこなすだけですから。貴方もお疲れ様でしょう。お食事を召し上がって休んで下さい。」
神官が食事を持って来た。
パンに野菜がたくさん入ったスープ。それにフルーツ。特別豪華でもない食事。
それを見てクラークは昨日から食べていなかったのを思い出した。急に空腹を感じて食べ始めた。なんて美味しいのか?
空腹は最高のスパイスだと誰かが言っていたけど、本当だと思った。
次の日の朝、目を覚ましたヘンリックはあんなに苦しかったのにもう苦しくない。
むしろ身体から何かが溢れ出ているように感じた。
クラークは「それが、魔力なんですよ。」そう言った。
それから神官が食事を持って来た。
パンに牛乳に野菜が入ったスープ、それを食べ神官長に会いに行った。
神官長は「魔力は安定しているようですね。
それでは魔力の色を見てみましょう。」そう言って祭壇まで案内をした。そこにある水晶玉に手をかざすように促した。
すると、白黒青緑赤の光がぐるぐると渦巻き状映る。
特に白の光が強く、次に青い光が強かった。
黒緑赤は同じぐらいだった。
「主に白、次は青、黒緑赤は同じぐらいですね。全体的に魔力が大きいので、黒緑赤は小さく見えましたが普通以上の強さだと思っていいでしょう。」
このような水晶の光をクラークは見た事が無かった。多くても3つの光ぐらいだ。
この、ヘンリックという男はすごい人材だと思った。
「これで、私達ができる事は終わりです。魔力の使い方については訓練のみです。頑張って下さい。それと他者によっては、白魔力は非常に珍しく利用価値もありますからなるべく知られることのないようにした方がいいでしょう。ある程度の訓練が終わったらまたここに来て下さい。」
クラークは「はい。わかりました。私はヘンリック殿の秘密を守ると誓います。」
ヘンリックは「神官長さま、私の魔力は悪い事には使わないと誓います。ありがとうございます。」
石は神官長に預ける事になった。
それから2人は教会を後にした。
さぁ次は特訓だ。
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その頃、
ブリーズ国王はクラークからの手紙を読んでいた。
「おぉ、我が息子達よ。なんと石にされていたとは。早く呪いを解除して無事に戻る事を祈っておるぞ。」
「あぁ、神様 息子たちをお願いします。」王妃は手を合わせて神に祈った。
国王はさっそく、グラン国に書簡を送ることにし王宮魔法士団3人に届けさせることにした。
ゲートを使えば2日ほどで着くくだろう。
アリーナはヘンリックとクラークが教会へ向かうのを見送った。
ヘンリックは大丈夫だろうか?心配だった。
そんなアリーナに父は
「きっと大丈夫だよ。私達は将来的に魔力の解放はするべきだとは聞いていた。だが、本人が子供の頃の記憶が無かったかからヘンリック君の両親はどうするべきか迷っていたようなんだ。魔力が無くてもヘンリック君は勉学も優秀だし若いのに外交官補佐にもなった、おまけに人柄もいい。私もこのままでもいいのではないかとも思っていたんだ。」
「そうだよね。私はヘンリックが魔力無くても構わないわ。今のままでも素敵な人だもの。ただ、魔力が戻ったらヘンリックがかわるんじゃないかって心配なの。」
「魔力が戻っても性格は変わらないと思うがにゃ。。」そうブルーノが言った。
「ただ、白魔力を持ってるのが他人に知られてしまうと面倒な事がおこるかもしれないな。」と父が言った。
「訓練すれば魔力は隠せるにゃ。多分大丈夫にゃ。」意外とブルーノは楽観的だった。
「そうだな。ヘンリック君なら魔力も上手く使えるようになるだろう。」そうアリーナに言った。
「そうだよね。」アリーナは心配そうに頷いた。
「あと、落ち着くまでしばらく学校を休んではどうかな?」
「んー試験があるからあんまり休みたくないんだ。なんとかなるよ。」
「そうか?なんかあったらちゃんと言うんだよ。」
「うん、わかった。」
その後、ブルーノとアリーナは部屋に戻り話をした。
「アリーナ、あんまり心配しなくてもヘンリックは大丈夫だにゃ。」
「うん、そうなんだけど。ただ、マリンの事も気になって。」
「そうだにゃーあれが例の魔女だとしたら捕まえないといけないにゃ。でも、それはアリーナやオレの仕事ではないにゃ。」
「もし、マリンが捕まったとして、男子達はどうなるの。あのまま魅了に取り憑かれたまま?」
「しばらくはそうだけど、魅了の魔法は時間が経てば消えるにゃ。」
「かならず?」
「かかった程度はあるけどそれはちゃんと解けるにゃ。」
「そうなんだね。そういえば、ブルーノは魅了にかからなかったの?近くに行ったんでしょ?」
「オレは普通の動物と違って聖獣だからかからないにゃ。」
「そっか、聖獣は凄いんだね。」
「そうにゃ。そしてそのオレを使い魔にしてるアリーナも凄いのにゃ。」
「私凄いの?」
「そうにゃ。本来なら主人は使い魔に命令してなんでもやらせるものなんだがにゃ。アリーナはオレに命令はしないにゃ。」
「そうだね。ブルーノは使い魔というより友達?兄弟?家族?みたいだからね。」
「オレはアリーナの使い魔でよかったと思ってるにゃ。自由にさせてもらってるし。でも危険な時はオレが守るからにゃ。」
「うふふ、ありがとう。これからもよろしくね。」
「まかせろにゃー。」
ブルーノ本人はアリーナを妹のように思っていた。家族とか友達とか言われとても嬉しかった。本当は小さい頃からアリーナの知らないところでブルーノは危険回避のためにいろいろとやっていた。わざわざ危険があった事は本人には言っていない。
きっと1人と1匹はこれからも仲良しだ。
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ヘンリックはクラークと屋敷に帰って来た。
家族は心配そうにヘンリックに寄り添う。
「ただいま。」
「おかえりヘンリック。」
「封印は解いてもらったよ。制御はちゃんとできてるよ。」
「そうか。それはよかった。」
「それで、少し訓練をしないといけないんだ。」
「そうだな、使いこなせない事にはな……。」
「父上、あの訓練場を使わせたらどうでしょうか?」ビルバーグが言った。
「今は使ってないが、そこで訓練をしていいぞ。」
「訓練場?そんなものがあったんですか?」
「ああ、ヘンリックが使う事はないだろうと思っていたから教えてなかったな。」
父や兄は魔法騎士団に所属している。
アンダーソン家には広大な領地があり宝石や魔石の鉱山も幾つか所有している。
その中で既に魔石の廃鉱山となったものがありそこの敷地を訓練場として使っていた。
広大な敷地で民家も近くに無い。その為攻撃魔法を使っても影響はない。
父や兄は赤魔力があったのでその訓練所で魔法の鍛錬をしていた。
赤魔力は火、火力による攻撃魔法や防御魔法が主である。
「では、そこで訓練をします。クラーク殿、宜しいでしょうか?」
「私はかまいませんよ。」
「それでは、僕が案内します。」と兄が言った。
「少し離れた場所だから用意も必要だろう。準備をするのでそれまでしばらく身体を休ませろ。」父がそう言った。
「はい、そうします。」
「ところで訓練場にはどのくらいいるつもりだ?」
「とりあえず7日ほど様子をみます。」とクラークが答えた。
「おそらくヘンリック殿はすぐに使えると思います。弱い魔力から順に使えるように訓練をする予定です。」
「僕、送ったら訓練をみていいかな?何個も魔力を持つ者の訓練なんて滅多に見れないから。父上はどうしますか?」
「うーむそうだな。しかし仕事があるしな。時間が空きそうなら行ったみてもいいぞ。それに、ビルバーグよ、仕事はどうするつもりだ」
「僕は休み取りますよ。だって弟が初めて訓練をするんですよ。見ないわけにはいきませんよ。」
「兄上、僕はそんな子供じゃないですから。」
「いや、それは譲れないな。よし、決まりだ。僕も行って手伝うよ。父上いいですよね。」
「うむ。しょうがないやつめ。」
「さっそく僕も準備しなくちゃ。」ビルバーグはなんだかとても嬉しそうだ。
ビルバーグは昔からヘンリックを可愛がっていた。大人になってもそれは変わらない。彼は弟が大好きなブラコンだった。
訓練場に行く前にヘンリックは父にアリーナの家でのことを話した。石の正体が探していた行方不明者だった事、呪いをかけた魔女らしき人物がアリーナと同じクラスだという事。
アリーナが学校でその魔女の手下に嫌がらせをされてるらしい事。当面はブルーノがついていてくれるが心配だと伝えた。
クラークがその事柄をしたためた手紙をブリーズ国国王に送ったので我が国でも何か動きがでてくる可能性がある。魔法騎士団の父上は忙しくなるかもしれない。と伝えた。
アリーナに会いたいなぁー。心配してるだろうなあ。少しだけなら大丈夫だろう、ちょっとだけ行ってこよう。
ヘンリックはアリーナの家に行った。
「こんにちは、ヘンリックです。アリーナはいますか?」
「アリーナお嬢様は学校に行かれました。」
「そうか、学校に行っちゃったか。」
「ではこれを渡して下さい。」そう言って手紙と花を置いて行った。
「かしこまりました。」家令はそれを受け取る。
ヘンリックは屋敷にもどり訓練場へ行く準備をした。
アリーナは通常通りに学校へ行った。
今日もマリン達はアリーナにまとわりつく。
アリーナはマリンに友達になるのは嫌だと再度伝えた。
すると取り巻きの男子がアリーナに掴み掛かろうとした。そこへ女子達がやって来てアリーナを庇い転んで怪我をしてしまう。
その怪我をした女子はリリーだった。そして怪我をさせた男子はマーク。
そんな騒ぎを聞きつけて数人の教師が駆けつけた。
マークは教師達に職員室へ連れて行かれた。
リリーは保健室へアリーナが付き添った。
リリーは骨折までではないが左手首の捻挫で全治1週間ほどの怪我だった。
「リリーごめんなさい。私を庇って…怪我しちゃって…。」アリーナは泣きながらリリーに謝った。
「ううん、いいの。これでマークとは婚約は解消ね。」ほろりと涙を流した。
「ごめんなさい。」
手当が終わリリーは早退した。
職員室では、マークに対して教師が言う。
「なぜ女子に対してあんな事をした?」
「アリーナがマリンに友達になって欲しいと言われたのに嫌だって断ったから。」
「それは、アリーナとマリンのことで周りがどうこうする事ではないんじゃないか?」
「いや、マリンが友達になりたいって言っているのになぜ断る。アリーナがおかしいです。マリンの友達になぜならないんだ。」目が虚ろでおかしな言動ばかりを繰り返す。
「怪我をしたのが誰かわかってるのか?」
「えっ?わかりません…。」
「リリーだよ。」
「リリー?」
「君の婚約者だろう?」
「婚約者?」
マークは婚約者を覚えていない様子だった。
その事から、マークは停学となりしばらく自宅謹慎をする事になった。
そんな騒ぎがあとアリーナは校庭の隅にあるベンチに座り落ち込んでいた。
そこへブルーノが猫の姿でやって来た。
「アリーナごめんにゃ。あの時、あの女の子が先に飛び出して来てオレが出て行けなかったにゃ。」
「ううん。私がもっと上手く言っていればこんな事にならなかったんだよ。」
「そんな事ないにゃ。嫌なものは嫌って言っていいんだにゃ。それにアイツは魔女なんだし。」
小声で話しているとそこへ1人でマリンがやって来た。
ブルーノはアリーナの前に立ちマリンを威嚇をする。
「あらー猫ちゃん。こっちにおいでー。怖くないよー。」
ブルーノは怖い顔で威嚇する。
それを無視してマリンは
「ねぇ、アリーナ。あなたの婚約者今日はお迎えに来ないの?この間お迎えに来ていたでしょう?貴方の婚約者って素敵よねー。仲良くしたいわ。だからーお友達になって。」
「嫌よ。絶対嫌。」
「どうして?」
アリーナは青ざめた。
そこへ取り巻きの男子達がやって来た。
「マリンこんなところにいたのかい?」
「チッ!」
マリンは舌打した。
アリーナはその隙に足早にそこから立ち去った。ブルーノも警戒しつつアリーナについて行った。
「もしかして狙っているのはヘンリック?だからしつこく友達になりたがっていたの?」
「そのようだにゃ。あのクソ女。」
「この間お迎えに来た時に見られてたんだわ。」
「とりあえず、今日は帰ろうアリーナ。」
「うん。」
家に帰ると家令から
「お嬢様が学校に行った後にヘンリック様がお越しになりこれをお渡しするようにと。」
そう言われお花と手紙を渡された。
さっそく部屋に行き手紙を読む。
ヘンリックは無事に封印を解き魔力の制御ができるようになった。
少し離れた訓練場で魔力の訓練をすることにした。取り敢えず7日間訓練をする。
あの石は教会に預けたから安心して。
帰って来たら、ドレスを作りに行こう。
それまで会えないけどごめんね。
そんな内容だった。
アリーナはヘンリックを心配した。
すぐにでも会いたいと思った。
ブルーノが隣で心配そうにアリーナを見ている
「明日も学校にいくのかにゃ?」
「うん…試験があるの。」
「試験が終わったらどうするにゃ?」
「もうすぐ夏季休暇で休みになるんだけど。それまで休んだ方がいいのかな?」
「そうだにゃー。騒ぎが収まるまで休んだ方がいいだろうにゃ。」
「お父様に相談してみる。」
夕方になり父が帰って来た。
学校での出来事は父の耳にも入っていた。
「アリーナを庇って怪我をしたリリー嬢にお見舞いをしないといけないね。」
「そうねぇなにがいいかしら?」と母がアリーナに聞く。
「うん。リリーは婚約解消するって言ってたの。申し訳なくて……。」
「まぁ。なんて事でしょ。」
「その事は2人とその両親が話し合って決める事だからね。でも、なんだかマーク君の様子がおかしいらしいから話し合いはしばらく出来ないんじゃないかな?」
「そう…。私がマリンと友達になるのは嫌だって言ったからこんな事になっちゃったの。もう少しなんとかできたかもしれないのに…。」
「本当はあの魔女が悪いんだにゃ!アリーナは悪くないにゃ。」
「どういう事かな?」
「アイツはアリーナと友達になればヘンリックとどうにかなれると思ってるんにゃ!!だからアリーナにしつこく友達になれって言ったんにゃ。まわりのヤツらは魅了で操られてるからマリンが言ったことをなんとしてでも叶えてやるんにゃ。」
「そう言うことか。」と父は言った。
「もし仮に、アリーナが友達になったらとしたら、マリンはヘンリックに会った時に魅了をかけるにゃ。魔力で弾くこともできるが今のヘンリックはまだ出来ないにゃ。」
「そうだね。まだ出来ないだろうね。」
「学校には私みたいな目にあっている人が他にもいるの。その人たちって婚約者は学校にいないのよ。」
「おそらく、学校以外で魅了を使う気なんだろうにゃ。あぁーあのアイツが持ってるやつがあれば大丈夫なんだがにゃー。」
「なんだいそれは?」
「第一王子が着けてるやつ。最高級品の攻撃を弾く魔道具にゃ。あれは魅了も弾くにゃ。」
「なんでブルーノはそれを知ってるのかな?」
「あ"っ!!」
「ばかっ!ブルーノ!!」
「それを知っているのは王家に使える一部の者だけなんだけどねぇ。」
「…オレがアイツから聞いたにゃ…。そういえば内緒だって言ってたにゃ……。」
「そうだねぇ内緒だよねぇ。」
「お父様ごめんなさい。」
「お父さんごめんなさいにゃ。」
「これは王家の機密事項なんだよねぇ。誰にも言ってはいけないんだよ。気をつけるようにね。」
「はい。」
「はいにゃ。」
「それで学校のことなんだけど。明日は試験があるから行くつもりなんだけど、その後夏季休暇まで休んだ方がいいかなって思ってるの。お父様はどう思う?」
「そうだねぇ。そろそろ学校にも調査が入るから休んでいいと思うよ。」
「調査?」
「そうだよ。まぁこれは私の仕事と関係があるから教えてあげられないけどね。」
「ふぅん?では休みます。」
「わかったよ。明日の試験は頑張るんだよ。」
「はい。」
父はアリーナの頭を撫でて微笑んだ。
「ブルーノ、アリーナを頼むよ。」
「オレにまかせろにゃん。」そう胸を張った。
ブルーノはお父さんの仕事ってなんだろうにゃ?と思った。
翌日、アリーナは学校へ行き試験を受けた。
教師の計らいで、アリーナは別室で行われた。
元々優秀なアリーナは難なく問題を解き試験を終わらせた。
終了のベルが鳴り帰宅の時間になった。
アリーナは誰にも会わないようにして学校から出た。はずだった。
裏門を出たところにマリンがいた。
アリーナは後退り逃げようとしたところ男子達に捕まった。
「アリーナお友達になりましょう。そして貴方の婚約者を紹介してよ。」ダイレクトな物言いだった。
「嫌よ、こんな事する貴方とはお友達にならないわ。」
「強情ねぇ。じゃぁこうしたらどう?」
1人の男子がアリーナを叩こうと手を上げる。
アリーナは叩かれるのを覚悟して目を瞑った。
そこに横から大きく白い動物が現れその男子に飛び掛かった。男子は押さえ込まれて身動きができなくて気絶寸前だ。
「なにっ!」マリンは驚いて後退りをする。
取り巻きの男子達も怯えた表情を見せた。
そしてその動物はマリンの方を向いて冷気を出し威嚇しながら近づいて行く。
怖くなったマリンと取り巻き達はたまらずに逃げて行った。
残された男子は気絶して少し凍ってるようだ。
その動物は、大きくて白い毛並み金色の目。
「ブルーノ?」
そうだと言うように首を縦に振った。
「ありがとう。怖かったよー。」そう言って抱き付いた。
そこに騒ぎを聞いて学校から教師が駆けつけて来た。
アリーナは事の経緯を教師に伝えた。
「そうかそうか怖かっただろう。怪我はないかい?1人で家に帰れるかな?」
「私の使い魔がいるので大丈夫です。」
「迎えに来ていたんだね。ここは学校の外だから校則違反ではないね。この事はきちんと報告するから安心してね。気をつけて帰りなさい。」
「はい。」
教師は凍って気絶している男子を連れて学校に入って行った。
アリーナとブルーノは2人を見送った。
そしてブルーノはいつもの猫の姿になった。
「ブルーノ」
「さっきの姿だとちゃんと喋れないんだにゃ。」
「そうなんだね。お家に帰ろう。」
ブルーノを抱き上げ馬車に乗って家に帰った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
その頃、マリン達は教師に呼び止められ会議室に連れて行かれた。
人数が多いので職員室に収まらないからだ。
「君たち、今回は昨日の事もあるのでただでは置けないな。それなりの処罰は必要だ。決まるまで自宅謹慎をしてなさい。」
そう言い渡された。
その後、各自の親が迎えに来て連れ帰った。
マリンも男爵が来て連れ帰った。
皆、家に帰れば親からの説教をされる。
しかし、よくわからない事を言う子供に親は戸惑ってしまっていた。
マリンに関しては、男爵は何も言わない。
男爵もまた魅了で操られているから。
そろそろこの国も収め時かもしれないわね。
次はどこに行こうかしら?
男子達にもらったプレゼントをお金に換えればしばらくは持つわよね。
この国から逃走する計画を立てマリンは考えていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
アリーナとブルーノが帰宅してすぐに父が帰って来た。
さっきの出来事を知って急いで帰って来たらしい。
「お父様、おかえりなさい。」
「おかえりにゃ。」
「あなた、おかえりなさい。」
「ただいま。アリーナ怪我はないかい?」
「ブルーノがいたから大丈夫だったの。」
「オレがアリーナを守ったにゃ。凍らせてやったにゃ。」
「そうか、よくやったな。」父はブルーノの頭を撫でた。
「あなた、今日は早かったですね?」と母が言った。
「学校での事を聞いたからね。心配で帰って来ちゃったよ。」
「まぁ。ブルーノがいるんですもの心配はご無用ですわ。」と母が笑って言った。
「そうなんだけどね。」
「そうだにゃ。オレがいるんだから大丈夫にゃ。」
「ブルーノってば大きな身体になって庇ってくれたのよ。」
「あの姿になったのか?アリーナは怖くなかったのかい?」
「すぐにブルーノだってわかったもん。怖くなかったよ。」
「そうかそれならばいいが。」チラッとブルーノを見る。
「アリーナ、明日から学校に調査が入る。アリーナは休みにしてあるから自宅にいるといい。」
「まだ先の話じゃなかったの?」
「ブリーズ国から書簡が届けられて、魔法師団も派遣されて来たからね。」
「クラークさんが手紙書いたから?」
「そうだね。おそらかマリンて子は魔女だという事なんだよ。学校だけでなく問題を起こした者の家も捜索されるだろうね。」
「お父様はそれに参加するの?」
「そうだね。参加するしかないな。これでも役人だからね。」
「そうか。そうなるのね。」
「ヘンリック君のお父様も参加するはずだよ。」
「へぇ。随分と大掛かりなんだね。」
「まぁね。」
父はあまり細かいことは話さなかった。
ここはアンダーソン家の訓練場。
その訓練場は首都から離れた廃鉱山跡地である。周りには人家は無く昔事務所として使っていた小屋があるだけ。
広い敷地は砂利を敷き詰められていて草木は全く無い。
ヘンリックは訓練をしていた。
クラークに魔力の出し方の基本を教わる。
「自分の中にある魔力から一つを出して下さい。それをそれぞれの魔力一つづつ行います。」
まずは赤魔力。
「小さな魔力から行えば後は楽にできるはずです。」
ヘンリックは目を瞑り自分の中から魔力を探り当てる。それを表に出す。手のひらに赤い光が灯る。
「そうですうまく出来ましたね。今度は違う魔力を出してみましょう。」
2人の様子を兄ビルバーグは見ている。
オレは光を出すのに3週間ぐらいかかったな。
ヘンリックは天才か?すぐに出来ちゃったじゃないか。
ヘンリックは自分には素質が無いと思っていたが本当はあったのだ。それも天才的に。
そしてヘンリックは赤から始まり次々と違う光を出している。
そしてとうとう最後の白魔力だ。
白魔力はヘンリックの手でかなり大きな光を出した。
ビルバーグは初めて見る白魔力に驚いた。
これが白魔力か、なんて大きさなんだ。
やっぱりヘンリックは天才だったんだな。
「よく出来ました。ヘンリック殿。こんなに早く出せるとは思いませんでした。」
「ありがとうございます。」ヘンリックは肩で息をしながら答えた。
「今日はこの辺で終わりましょう。初めてですから体力がかなり消耗しているはずです。」
ビルバーグはヘンリックの肩を抱いて急拵えの休憩所に連れて行く。
「ヘンリック、凄いじゃないか。お前は天才だ。」
「へぇ…。」
「そうですね。私も驚いています。素質がないなんて言っていたのに、それどころかヘンリック殿は天才だと私も思います。」
「兄上、そうなの?」
「あぁ、俺が光を出した時は随分かかったんだぞ。お前は簡単に出せたじゃないか?」
「明日はもっと頑張るね。」そう言うとヘンリックは寝てしまった。
翌朝、ビルバーグが朝食を作り3人で食べる。
「ビルバーグ殿手間をかけさせて申し訳ありません。」そう恐縮するクラークに「そんな事ありません。ヘンリックの先生になって貰っているんですから。それにこれは僕が好きでやっているんですよ。」とにこやかに答える。
「兄上ありがとう。」
「なーに弟のためだ。」
そう言いながらヘンリックの頭を撫でる。
「今日も頑張れよ。兄上が見守っているぞ。」
クラークはその様子を見て、あぁこの兄はブラコンなんだなぁと思った。
今日も訓練が始まる。
「今日は昨日取り出した魔力を大きくするところから始めましょう。まずは赤魔力からです。」
ヘンリックは昨日の通り赤魔力を手に出した。
なかなか大きくならない。
「大きくなるように念じて下さい。」
すると赤い光が大きくなった。
「それを形にするように、炎になるよう念じて下さい。」
すると赤い光が炎になった。
「そうですその調子です。」
ヘンリックは炎の形を念じている。
「彼方に向かってその炎を飛ばして下さい。」
ヘンリックは手を上げて投げるように炎を飛ばした。
ドッカッーン!!と爆音が響き100メートルほど先に大きな穴ができた。
クラークとビルバーグは目を見開いてしばらく声にならなかった。
「初めてにしては威力が大き過ぎです。」
「おいおい、凄すぎるだろ…。俺の弟。」
ヘンリックも自分の力に驚いた。
「これは、随分と力を込めて炎を作りましたね。」
「いえ、そんなには込めたつもりは無かったんですが…。」
「えっ!!もっと力を込める事も可能と言う事ですか?」
「多分…」
「………素晴らしい。」
しばらく3人は声にならなかった。
「大きな力があるのならばそれを加減して使えば問題ないです。その辺も訓練していきましょう。」
そして訓練を続ける。
ビルバーグは弟の魔力に驚愕した。
この事を父上や母上にも教えてあげないと。
驚くだろうな。
早速、手紙を書いてそれを飛ばす。
「赤緑黒の魔力は大体形になりましたね。今日はこの辺で終わりましょう。」
「はい。」
その夜、ヘンリックは晩御飯を食べて倒れるように眠りについた。
ビルバーグの所に父から手紙が飛んできた。
手紙の内容は魔女の調査でブリーズ国から魔法師が来ている事や学校に調査が入ると言う事。
クラークにその内容を教える。
「マリンという少女が魔女だとまだ断定はしていないみたいですね。アリーナがなんだかに巻き込まれそうになったらしいけど、無事だそうだ。まぁ、あの聖獣がついているから心配はないさ。」
「魔女の件はうちの魔法師に任せておいて大丈夫でしょう。」
「この事はヘンリックにはまだ教えない方がいいね。アリーナの所に飛んで帰るって言うと思うから。」
「そうですね。おそらく後2日もあれば形になると思われます。それまでは頑張ってもらいましょう。」
学校では第一王子も加わり調査が行われた。
第一王子は事前にマリンについて裏で独自に調査をしていた。男爵の養子になった経緯が曖昧で、どこから来たのかがわからなかった。偶然知り合った聖獣が、マリンの魔道具について教えてくれた。この国では魅了の魔道具は禁忌とされている。持っているだけでも罪になる。マリンを捕まえるのは難しいことでは無い。だが、出所がわからなかったためそのままにして調査をしていたという。
だがそうしているうちに学校内で問題が起った。そこで男子とマリンを引き離すためにマリンと男子たちは自宅謹慎をさせていると言う。
ブリーズ国の魔法師は魔女の足取りをクラークの手紙によりある程度掴んでいた。
ブリーズ国から隣国に渡りその後は数ヶ所の国を渡り歩き途中のグリード国で石を売った。グリード国からレナ国に行きそこからグラン国にやって来た。足取りを追ううちにピナ国で国の宝物殿から盗まれた魔道具の話があった。それがあの魅了の魔道具だ。ピナ国では、それは禁忌の魔道具の為に封印をしてあった。しかし、長い間そのままにしていたために封印が解けかけていた。そして誰かがおそらく魔女がなんらかの方法でその封印を解いて盗んだ。
ピナ国を出た魔女はその魔道具を使い行く先々で魅了を使って金を稼ぎながら国から国へ渡り歩いていた。
そしてついにグラン国にやって来た。
まず、金持ちの男爵を魅了で操り養子となったマリンは学園に入って来た。おそらく、第一王子を手玉に取り王宮に入り込んで国を操るつもりだったのだろうと魔法師は言う。
まずはマリンを捕まえて魔女かどうか確かめなくてはならない。
ブリーズ国の魔導師と魔法騎士団が自宅謹慎中のマリンの家に行く。
マリンは自宅で逃走の準備をしていた。
魔法を使えるスクロールを数枚用意し金目の物と一緒に鞄に詰め込んでいた。
魔法師はまずマリンの家を結界で塞ぎ逃げられないようにし、そこに魔法騎士団が突入をする。
屋敷に入ると男性の使用人や男爵がいて皆目が虚ろになっていた。部屋を全て騎士団が周り2階の奥の部屋にマリンがいた。
それに気がついたマリンは逃走用のスクロールを使って逃げようとしたが結界の中は魔法が使えずに捕まった。
魔法騎士団はすぐさま、マリンの首からネックレスを取ると魔力を封じる縄でマリンを縛り上げた。
「何するのよっ!離せ!私は何もしてないわっ!!それ返してよっ!!」鬼のような顔をして大声を上げる。可愛い顔も台無しだ。
マリンは暴れて騒いだので口を塞がれ声が出せないようにされた。
その後、馬車に乗せられ王宮の地下牢に入れられた。魔力を封じる縄はそのままで。
マリンは牢の中でも大声を上げ私は出せ、何もしていないと騒いだ。
マリンの首にあったネックレスを魔法師達が調べた結果、ピナ国で盗まれた魔道具と特徴が一致していた。それを魔法を遮る箱に収めた。
マリンが持っていたスクロールは瞬間移動ができる物ではあるがあまり遠くには行けない。破ることで発動する。これは、一般的に使われる事はなくレナ国の闇ギルドで裏取引された物であった。
その他鞄の中には宝飾品が多数。男の子達から贈られた物だった。
ただ、それだけではブリーズ国から逃走した魔女と断定が出来ない。クラークの報告による魔女の特徴、髪の色、瞳の色、左目の下の泣きぼくろこれは一致している。だが、ここにいる者はその魔女と面識が無かった。
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ホワイティス伯爵とアンダーソン公爵は王宮の一室で話をしている。
2人でビルバーグの手紙を読んでいる。
「ヘンリックは頑張っているようだな。」
「ヘンリック君には随分と素質があったんですね。」
「ビルが言うには天才だとか。あれは弟に甘いからそんな表現をしてるんじゃないかと思うんだがな。」
「そうでしょうか?王家の血筋ですからね。あながち間違ってはいないでしょう?」
「確かに私やビルよりも習得はかなり早いがどうだかな。」
「きっと、すぐに使えるようになって帰って来ますよ。」
「そうだといいがな。」
「あとですねー学校の捜査で第一王子が言っていた聖獣のことなんですがーアレうちのアリーナの使い魔でしてー。あははっ。」
「あぁアレだな?そうかそうか。」
「で、第一王子がなんかアレを野良聖獣だと思っているらしいんですよー。」
「野良?」
「そうなんですよー。ハハッ」
「プッ、アハハハッ そうかそうかー」
「ナイショでお願いしますねー。」
「わかったわかった野良か、ハハハッ」アンダーソン公爵はお腹を抱えて大笑いをしている。
2人で笑いながら歓談をしていた。
アンダーソン公爵は笑い上戸だった。
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翌日、問題を起こした男子達の家に魔法師が訪問をする事になった。
ある男の子は目は虚ろで「マリンの所へ行かなくちゃ。もっといいプレゼントを贈らなくちゃ。マリン…マリン…。」という感じだった。
両親は「最近はお小遣いもすごく使うようになって…様子もなんか変わってしまって…。」とオロオロしていた。
「これは魅了の魔法ですね。おそらくプレゼントでも要求されていたのでしょう。しばらくは暴れたり騒いだりしても、部屋から出さないようにして下さい。魅了から離れて時間が経てば正気に戻りますから。」
家から出さないようにと謹慎中の男子の家をまわって歩いた。
学校では、残りの男子や男性教師を対象に調査が行われた。
その中で魅了にかかっている者は自宅で療養の為に休ませる事になった。
学校は教師や生徒の数が少ない状態になったのでしばらく休校となった。
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アリーナは休みを取っていたので自宅にいた。
ヘンリックはどうしているかなー?
ブルーノは散歩から帰って来た。
「学校は休校になったにゃ。随分魅了にかかったやつがいたみたいだにゃ。」
「そうなんだね。ブルーノまた学校にいったの?」
「外からチラッと見ただけにゃ。」
「本当?なんか口の周りに付いてるけど?」
「お菓子なんか貰ってないにゃ。」
「あやしい…。」
「第一王子には会ってないにゃ。」
「またー貰って食べたのねー?」
「だってくれるんだもんにゃ…。」
「もう!!私の使い魔って言ってないよねー?」
「言ってないにゃ」
「言ったら絶交だからね。」
「絶対に言わないにゃ。」
「もうっ!!」
少しだけヘマをしたブルーノだった。
ヘンリックの訓練は順調に進んでいた。
「次は青魔力を出して下さい。そうです。上手になりましたね。」
ヘンリックの手に青い光が出ている。
「青ですから水か氷のイメージで形を作って下さい。」
ヘンリックの手の上で丸い水の玉ができる。
「それに魔力を込めて下さい。」
丸い水はだんだんと大きくなり膨らんでいく。
「それを遠くに飛ばす感じで…。」
ヘンリックは手を上げホイッと投げる。すると300メートルほど先に勢いよく飛んで水の玉が弾けた。弾けた水はヘンリックやクラークの所まで飛んで来て2人はずぶ濡れになった。
「あっすみません。」
「大丈夫です。こんなに威力があれば山火事なんかすぐに消せますね。」
「そうですね。」
「では、次は氷をイメージしてみて下さい。」
ヘンリックは青の光を出し氷の固まりを作り上げた。魔力を込めて大きくする。
「今度は転がしてみましょうか?」
ヘンリックはエイッと投げた。投げてころがった後には氷が出来る。固まりは500メートルぐらいまで転がり弾けた。
ドッゴーン!!
細かい氷の破片が飛んできた。
「あっぶねぇ。」ビルバーグはびっくりした。
「あんまり魔力込めるとこうなります。」
「いえ、そんなに込めたつもりはないんですが……。」
「!!」
「!!」
2人は絶句した。
「では、氷で壁を作ってみましょう。」
ヘンリックは魔力を手の平に集め前に出した。
「壁のイメージで。」
するとヘンリックの前に氷の壁が出来上がった。ただ、大き過ぎた。高さは50メートル横は100メートルほどの壁で厚さは5メートルもあるだろうか?
「イヤイヤーデカ過ぎだろこれ?」
「そうですねぇ。軽い攻撃は防げますね。では、この氷の壁を火を使って溶かしてみましょう。」
ヘンリックは炎をイメージし手を当てる。すると氷は溶けて水になり蒸発して無くなった。
「よろしいですね。」
「スッゲェー」
「では、今日はこのぐらいにして明日は白魔力の訓練をしましょう。」
ヘンリックは初めの頃は魔力を使うととても疲れていたが今は疲れを知らない。
魔力を使い慣れてきているからである。
本人にも自覚があった。
「クラーク殿、浮遊魔法とか転移魔法はどのようして使えるのですか?」
「そうですねぇ。どちらもできないこともないと思います。まぁ、イメージをして念じる?感じですかね?」
「鍛錬すればできますかね?」
「そうですね。ヘンリック殿は魔力が十分あるのでできると思いますよ。あとー魔力を発動する時にイメージの詠唱するのもいいかもしれませんね。」
「訓練場じゃなくても鍛錬は出来ますね?」
「危なくはないですけど落ちても痛くない所ならいいでしょう。」
「わかりました。」
さぁ、後は白魔力だ。
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翌日の朝、ビルバーグは朝食を作りながら考えているいた。
ヘンリックはすごいなぁ。俺より遥かに強い魔力を持ってる。やっぱ外交官にしておくのは勿体無いな。今からでも魔法騎士団に入ればいいのに。
さて、ご飯ご飯。
「おそらく今日で訓練は終わりです。あとは自分で鍛錬をして魔力を使いこなして下さい。」
「わかりました。」
「さあ、食べよう。ヘンリック、たくさん食べて頑張るんだぞ。」
「うん。」
まるでお母さんのような兄である。
訓練が始まる。
「今日は白魔力です。攻撃魔法ではありません。浄化、回復、再生が出来ます。私はこの魔力はありませんが、イメージが大切だと思っています。」
「わかりました。やってみます。」
「まずは昨日までにこの訓練場にたくさん穴を開けましたね?それを元に戻す回復をやってみて下さい。」
ヘンリックは手に白い光を出す。
それからど魔力を込めて大きくする。そして昨日開けた穴に向かって光を放つ。
すると光が穴の周りをまわって大きな光になり穴を塞ぎもとの平らな地面になった。成功だ。
「もう一度、今度は範囲を広げてやって下さい。」
手に白い光を出し魔力を込めて大きくする。先ほどのものより大きくする。そして広範囲に光を放つ。
すると辺りが光で覆われてあちこちに開いた穴が平らな地面になり元通りになっていく。
「うおおっ!!俺の弟サイコー!!」ビルバーグが叫ぶ。
クラークも目を見開き辺りを確かめる。
「できましたね。凄いです。感動ですね。」
ヘンリックはほっとした。そして嬉しく思った。
「では、次は再生です。回復と同じ感じですがもっと時間を遡っていく感じですかね?かつての姿にしていく?そんな感じで。」
また、手に光を出し大きくしていくどんどん大きくしてかつての姿をイメージしそれを地面に置く。
すると砂利を敷き詰めた地面から草や木が生えて来て大きくなっていく。
花が咲き、木々は葉を伸ばしてどんどん大きくなり辺りは森のようになった。
「ホェーッ!!訓練場が森になった!!」
「素晴らしい。ヘンリック殿すごいです!!」
「ありがとうございます。」
「人体に施す場合にも同じく行えば怪我の治療もできるはずです。」
「万能ですね。白魔力は!!ヘンリック凄いよ。やっぱり天才だよー」ビルバーグは感動しヘンリックに抱きついた。
「ありがとう。2人のおかげだよ。」
「ヘンリック殿が頑張ったからですよ。」
「頑張ったなー偉いぞー。」
「次は浄化です。これはここではできませんね。どうしますかね?」
「はい。クラーク殿。この鉱山の中に泉があるんですがいつからか濁ってしまって飲む水にならないのですが浄化でなんとかなりますか?」とビルバーグはきいた。
「試しにやってみますか?」
3人は鉱山の中に入っていった。
「もう少し先です。」
かなり奥の方へやって来た。
明かりをビルバーグは魔力で灯しながら案内をする。
「ここです。」
そこは大きな濁った池のようなところだった。
「かつてここは飲み水を汲んでいた泉だときいています。この水を浄化できればまた飲み水として使えないでしょうか?」
「さて?これは、水の浄化だけではだめですね。浄化、再生、回復を全て使わないといけないのではないでしょうか?」クラークは答えた。
「うっわぁそうかー。」ビルバーグは頭を抱えて膝を折った。
ヘンリックは「やってみるよ。」と言って手を出した。
手の平に光を出し大きくしながらイメージする。そして手の平を濁った水に伸ばし光を流していく。すると濁った泉から光が溢れてきた。鉱山の中が光で照らされる。
3人が目を開けられないほどの光だった。
やがて光が収まって消えた。
目の前にはかつての姿の泉が現れた。
水は澄み、水路を通り流れて行く。
「おおぉーっ!!」ビルバーグは大声で叫んだ。
「おお凄い。」クラークは感動した。
「へぇー凄いなぁ。」ヘンリックは目を細めて笑った。
「できたじゃないかーヘンリックは天才だー。」
「そうですね天才ですね。」
「へへっ」
「それではこれで訓練は終わりです。あとは自分で鍛練をして下さい。」
「クラーク先生、ありがとうございました。」
「それでは帰りましょう。」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「俺たちしばらく風呂に入ってないだろ?臭くなってないかな?そうだ、ヘンリックの浄化でパッパッと綺麗にできないかなー?」
「えーできるかな?やってみるよ。」
ピッカッー!!
「できたじゃん!!」
「じゃあまとめてやってみるよ。」
ピッカッー!!ピッカッー!!
「おぉ素晴らしい。」
「凄いなぁ。ヘンリック。」
「へへっ。」
ビルバーグは父に訓練終了の手紙を送った。
それには訓練場が森になった事や鉱山の泉が復活した事がしたためられたが父は大袈裟に言ってるのだろうと思っていた。
しばらくして、父が廃鉱山へ鍛練に行ったときにそれを見て大袈裟でない事を知る。
教会でアンダーソン公爵夫婦とホワイティス伯爵家族は訓練場に行った3人の帰りを待った。
今日はブルーノもいる。
そこに、ブリーズ国の魔法師3人も加わった。
教会にある少し大き目の部屋でみんなが座り黙って待っていた。
そこに、神官長が入って来た。
手にあの石の入った箱を持っている。
「3人が来るまでに少しお話をします。
これから来る3人のうちの1人が、この石の呪いを解く白魔力を持っています。その者がこれからも普通の生活が出来るように白魔力の事は口外しないと誓って下さい。お願いします。」
皆が一斉に頷く。そこへ神官がやって来て「到着されました。」と声をかけた。
そしてヘンリックたち3人は部屋に通される。
家族や仲間たちに迎えられて少し照れたような顔をしている。
ヘンリックは真っ先にアリーナの元に行き「ただいま。」「お帰りなさい。」と挨拶をする。
ヘンリックの両親はこっちは後かーと少しだけ落ち込んだが、ビルバーグが「父上、母上ただいま。」と抱きついた。
挨拶が終わり、いよいよ石の浄化をはじめる。
広い部屋の真ん中に赤い石を置きヘンリックが浄化をかける。すると赤い石が光に包まれだんだんと人の形になり赤い瞳の青年になった。
髪は金髪で端正な顔つき。細身で長身。
白い正装で金色の豪華な刺繍が施されている。
「アレン王子!」クラークが叫ぶ。
「おお、戻ったぞ!!」
「やっとお会い出来ました。」
「クラーク苦労かけたな。」
「いえいえ、ヘンリック殿のおかげです。」
「ヘンリック、良くやってくれた。感謝する。」
「いえ皆さんが頑張ったおかげです。」
さて、次は黄色い石だ。
ヘンリックが浄化をかける。すると石が光に包まれだんだんと人の形になり金の瞳の女性の姿になった。長い黒髪で目は大きく睫毛は長い。
とても綺麗な人だ。豪華な赤いドレスを着て
金色のネックレスを付けている。
「ナターシャ!!」
「アレク様!!」2人は抱き合った。
「あぁまたお会いできるとは……。」涙を流しながらアレク王子と喜び合う。
そしてヘンリックは次々と浄化をかけていく。そして、8個の石は浄化され8人になった。
よく見れば石の色はその人の瞳の色だとわかった。
「ヘンリック殿。ありがとうございました。この御恩は一生忘れません!!」
クラークやアレン王子達が感謝を述べる。
「いえいえ、僕だけの力ではありません。みんなで頑張ったおかげですよ。」
神官長は「よかったですね。これで完全に呪いは解けました。それからみなさん、先程のお話を忘れないで下さいね。」
ビルバーグは「先ほどの話って何?」と父に聞いた。
「ヘンリックが白魔力を持っている事を口外しないという事だ。」
「えっ!弟の自慢出来ないって事?」
「そうだ。わかったな。」
「はーいわかりましたぁ。」と元気無く返事をした。
ブルーノはヘンリックに
「随分と魔力が強くなったにゃ。必ず白魔力は隠すんだにゃ。自分のためだにゃ。あとアリーナのためでもあるにゃ。」
「そうだね。ブルーノは僕がいない間アリーナを守ってくれたんだって?ありがとう。これからもよろしくお願いします。」
「まかせろにゃ。」
そんなやり取りをアリーナは見ていた。
そして、少し離れた所でアンダーソン公爵はブルーノを見ていた。
「アレが野良ねぇ。野良。プッハハハッ。」
公爵は笑い上戸であった。
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その後、公爵と伯爵と魔術師団長のクラークは
マリンについて話し合った。
マリンについて魔女と断定ができていない。
アレン王子達を証人になってもらえばマリンを魔女とだと断定が出来る。そこで、アレン王子達を王宮の地下牢でマリンと対面をしてもらう事になった。
地下牢でアレン王子を見たマリンは蒼白になった。
まさかあの呪いをといたの?
マリンに会ったアレン王子は
「その女はあの魔女に間違いありません。」と言った。
第二王子もまた「魔女に間違いない。」と言った。
マリンは第二王子に「あの時はフードを被っていたから顔なんか見てないでしょ。」そう言った。
「あの時とは?いつのこのかな?」伯爵が聞いた。マリンは「………。」悔しそうにして黙ってしまった。
「これで、逃亡中の魔女だと断定できましたね。」とクラークに言った。
「はい。ありがとうございます。」
「それでは身柄はブリーズ国に送ります。よろしいですね。」
「はい。ありがとうございました。」
こうして魔女はブリーズ国に送られ厳しく取り調べが行われた。
アレン王子にかけた魅了は自分の黒魔力で作った魔道具を使った。しかしあまり出来が良くなかったために見破られてしまった。
また、石の呪いは闇ギルドから入手した呪いのスクロールに自分の魔力を足して作った物だった。マリンは解除の方法を知らなかった。そして、ピナ国からどうやって魔道具を盗んだのか。それは、封印を解く鍵を持つピナ国の管理官を言葉巧みに騙して盗んだ。その管理官はその後亡くなっていて、マリンが手を掛けたとされた。
国家反逆、窃盗、殺人、禁忌の魔道具使用などの罪が明らかにされた。
極刑は免れないだろう。
その後、アレン王子達とクラークと魔法師団員は無事にブリーズ国に帰って行った。
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ヘンリックとアリーナは2人で1ヶ月後のデビュタントの衣装合わせに街にやって来た。
「ここのお店はとても評判がいいんだって。」
「高そうだね?」
「これくらい大丈夫だよ。さぁ入ろう。」
2人はあれやこれやと見てお互いに似合う衣装を選んだ。選び終えるとにこやかに店を後にした。とても満足した買い物だった。
仕上がりが楽しみだ。
帰りにカフェに寄ってお茶やケーキで休暇をした。
「王宮の舞踏会でデビュタントでしょ。そこに一家全員招待されたの。ブルーノもなんだよ。」
「ブルーノは猫のままで行くの?」
「ううん。人型で行くよ。だって猫はマズイでょ?第一王子がいるし。」
「そうだねぇ。衣装は決まってるの?」
「お母様が用意するみたい。」
「それはちょっと楽しみだね。」
「ふふっそうね。」
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その頃、アリーナの家ではお母さんがブルーノの採寸をしていた。
ブルーノは人型になるとシルバーで所々に青が混じった髪になり瞳は金色だ。
背は高くて肌は白く整った顔をしているが八重歯が少し尖っている。
それを休暇で帰っているデイビッドは見ている。
「お母さん、オレ人型あんまり得意じゃないんだよ。」
「少し我慢してね。すぐに終わるから。」
「服なんて窮屈だよ。」
「でもね服は着ないとねぇ。裸では行けないわ。」
「そうだにゃぁ。どうせ作るならカッコいいやつがいいな。」
「そうねぇ。カッコよくて上品な感じにしましょうね。」
「ねぇ僕とお揃いのはダメ?」
「ディビットとお揃いは嫌だにゃ。」
「兄弟みたいでいいじゃないか?」
「兄弟だったらオレはデイビッドのお兄ちゃんになるな。背も高いし。」
「えー!」
「オレの方が歳上だ。お前みたいな子供と同じなんて嫌だにゃ。」
「そんなー。」
「はいはい。2人とも喧嘩しないの。」
「はーい。」
「お母さん。オレはデイビッドとお揃いは嫌だからにゃ。」
「ハイハイわかりましたよ。次はデイビッドの番よ。」
「はーい。」
人型になると普通に喋ったりそうでなかったりのブルーノだった。
そして、息子が2人いて嬉しいお母さんだった。