呪われた石と魔女〜婚約者から呪われた石を貰った。それを贈った婚約者は呪われた石だと気付かなかった。


この世界には、大陸と海、そして豊かな自然がある。聖獣も魔獣も存在し人々は魔法が使える。
そんな不思議なところ。

この世界の大陸にはいくつもの国がありその一つにグラン国がある。
グラン国は大陸のほぼ中央にある。
特産品も多数あり豊かで平和な国である。

そこの首都に住むアリーナ・ホワイティス16歳。淡いオレンジ色の髪、グリーンの瞳でまだ幼さが残る可愛らしい顔立ち。華奢な体つき。
勉強は得意だが魔法はあまり上手に出来ない。
首都の学園に通っていて今年卒業する。

彼女には家族は両親と弟がいる。
父は伯爵で母と少し離れた領地の経営をしている。今はアリーナが学園に通っている為、領地と首都のタウンハウスと行ったり来たりをしている。
五つ年下の弟のデイビッドは魔力が人より強い為、少し離れた魔法学校で寮生活をしている。長期の休みには家族と過ごす。

そんな彼女には五つ年上のヘンリック・アンダーソンという婚約者がいる。
両親が友達同士で小さい頃からの幼馴染だ。
ふたりはとても仲が良くアリーナは慕っている。アリーナが今年学園を卒業したら結婚する事になっている。デビュタントはエスコートしてもらう予定だ。

ヘンリックは公爵家の次男。魔力は少なく使えない。剣を使いこなし学問は優秀で数カ国の言語を話す。グラン国の外交官補佐をしていて将来は正式に外交官となる予定だ。
彼はアリーナとの結婚を心待ちにしている。

ある日、ヘンリックがお土産と花を持ってアリーナに会いに来た。忙しいエンリックと会うのは数週間ぶりだろうかアリーナは久々に会えたのでとても嬉しかった。

テラスでお茶を飲む。
「アリー。しばらく会えなくてごめんね。これ、お土産だよ。」そう言って可愛いお花と綺麗な箱を渡す。
「いつもありがとう。」そう言って受け取った。
「これはね、この間サリーナ国に行った時に露店で見つけたんだ。高価な物ではないんだけど箱が綺麗で妙に目に付いたんだ。それでアリーに買って来たんだよ。」
箱を開けると綺麗な石が8個入っていた。
「わぁ綺麗。」
「宝石とまではいかないらしいんだけどとても綺麗だろう。」
「嬉しい。宝物にするね。」
ヘンリックは「お返しは、ここで。」と頬を指さした。アリーナはヘンリックの頬に「チュッ」とキスをした。お互いに少し赤くなった。

「そういえば、もうすぐデビュタントだね?準備は出来てる?」
「まだ、ドレスが決まらないの。」
「じゃあ、僕がドレスを贈るよ。いいよね?」 「えっ、いいの?」
「いいに決まってるじゃないか。僕はアリーの婚約者なんだから。」
「わかったわ。楽しみにしてるわ。」
2人は仲睦まじくお茶を飲んで会話を楽しんだ。

その夜、アリーナはもへンリックかららった石を眺めていた。
透き通ってとても綺麗。ガラスで出来ているのかしら?宝石ってほどではないとヘンリックは言っていたけど?
するとそこへ、アリーナの使い魔ブルーノがやって来た。この使い魔、聖獣ブルーノは今の見た目は毛足が長い白い猫で目はゴールド。人型にも変身できる。ちょっと食いしん坊だけど頼りになる。本当の姿はアリーナにまだ見せていない。
アリーナがまだ小さい頃、怪我をしたブルーノを手当てしたのがきっかけで使い魔になった。
それ以降アリーナの家に居座っている。

「なんか、変な感じがするにゃ。」そう言ってアリーナが持っている石を見る。
「ヘンリックから貰ったのに変なこと言わないでよ。」
「なんか怪しいにゃ。オレにかしてみるにゃ。」と強引に口にくわえて床に下ろした。
そしてブルーノは前足で魔力を加えた。
すると石は「痛いっ。乱暴に扱わないで下さい。」と声を出した。
「きゃっ石が喋った。」アリーナが驚いた。
「ほらみろ。この石は呪われてるにゃ」
「呪われてる?」 「そうにゃ。」
「他の石もかにゃ?」
石に魔力を少しだけ分けたあと話しかける。
「そうです。僕たち呪われて石にされたんです。元々は人間です。ですが、記憶が無くて僕たちが何者かもわからないんです。」
「呪われるなんてどんな悪さをしたのにゃ?
悪者だったら困るからあんまり魔力はあげないにゃ。」
アリーナはブルーノに「この呪い解ける?」と聞いてみた。
「うんにゃ。今は出来にゃい。」
「なんとかならない?悪い人だとは限らないでしょ?」
「それはそうかもしれないが、勝手には出来ないにゃ。ヘンリックがどこで手に入れたか詳しく聞かないとわからないにゃ。」
「わかった。さっそく手紙を書くわ。」アリーナは手紙を書いてブルーノに飛ばしてもらった。

次の日、アリーナは学園に行く。
「ブルーノ後はよろしくね。」
「わかったにゃ。」
アリーナの学園は馬車で10分ほどのところにある。アリーナは魔力が少ないので普通科に通っている。クラスに行くと最近編入してきたマリンが隣の席の男の子マークとベタベタしながら話しをしていた。
マリンはピンクの髪でパープルの瞳可愛らしい顔をしていて、左目の下の泣きぼくろが特徴的だ。庇護力を掻き立てる感じの女の子。最近男爵家の養子になったときいている。
「おはようございます。」席に付き授業の用意をする。隣の席ではまだ話しをしていた。

お昼になり食堂へ行くとマリンとマークと他に男子数人と楽しそうに食事をしていた。
それを見て「婚約者同士ではない男女があまり近づくのはよくないのでは?」そう注意をした。マリンは「別に仲良くするぐらいいいじゃない。」とアリーナを睨んだ。
周りの男の子たちもうんうんと頷いて気にしてない様子だ。マリンをうっとり見ている。
男子達の様子が変だ。
アリーナは黙って離れた席に着き食事をした。そこへマークの婚約者リリーがやって来た。
リリーは学園に入学してからの友達だ。
「なんか急にマークが冷たくなったの。どうしてかな?」悲しそうにアリーナに聞いた。
「あれを見て。さっき注意はしたんだけど。なんか男子達変だったよ。」
「私嫌われちゃったのかな。」そう言ってリリーはしょんぼりと肩を落とした。

下校の時間になった。
校舎から出ると校門でヘンリックが待っていた。迎えに来てくれたらしい。ヘンリックに向かってアリーナは走って行った。

少し離れたところからマリンは2人を見ていた。マリンはマークにあの男の人は誰か聞いた。マークはアリーナの婚約者でヘンリックといいアンダーソン公爵の次男で外交官補佐をしている人だと教えた。

ヘンリックは長髪で金髪、それを後ろで縛っている。目はブルー目鼻立ちが整って綺麗な顔立ちをしている。細身で身長は高い。
かっこいいのだ。

公爵家で将来は外交官ですって?エリートじゃない。この学校にいる男子なんかよりずっとかっこいい。羨ましい。
あの人に近づくにはーどうすれば…
そうだ!
まずは、あの女と友達になればいいのよ。
そうすれば、あの人に近づけるわ。
その後はあの人を足がかりにして、上位貴族の男たちにも魅了を使って取り入ることもできそうね。
学校の男子だけじゃ物足りないもの。
そうマリンは思った。
ヘンリックはアリーナから手紙をもらい学校が終わるころ迎えに来た。あの石が呪われた石だと聞いて、もしアリーナの身に何かあったら…そう思うといてもたってもいれなかった。
「アリーナ!!無事でよかった。」
「私は無事だけど?」
「心配で迎えに来たんだ。」
「心配はないわ。とりあえず家に行きましょ。」
「そうだね。」
2人はアリーナの家に向かった。
家に着くと家令に挨拶をしアリーナの部屋へ行く。ドアを開けてみると何も変わりはなかった。

箱から石を取り出すと赤い石と黄色い石が話し始める。「こんにちは。」「ごきげんよう。」と挨拶をされてヘンリックは少し驚いた。
ベッドで寝ていたブルーノは起き上がり「アリーナ、ヘンリックこれは呪いをかけられて石にされた人間だったにゃ。悪者かどうかもわからにゃいが魔力をこれ以上分けてあげなければ喋るだけだにゃ。それに、この呪いを解くのは少し手間がかかりそうなんだにゃ。」
「僕たち悪さはしないよ。」「しないわ。」と石は言う。
「本当に危なくないんだね?」ブルーノに聞く。ヘンリックは自分が送った物で迷惑かけてしまったことを申し訳なく思った。
「何だか妙に目に付いて買ってしまったんだよ。ごめんね。」 「ううん。大丈夫。私も気づかなかったし。」
「それなんだけど。石がヘンリックに残ってる僅かな魔力を送ったらしいにゃ。助けてくれってにゃ。」 「どういう事?」
「呪いを解いてもらえそうだと思ったんにゃと。」
「僕、魔力は少ないけど…。」
「そこなんにゃよ。魔力だけならオレの方がずっと上にゃ。」
「魔力は関係ないのかな?」
「そうかもしれないにゃ。それと他の石にも魔力を与えて話をしたけど皆んな記憶が曖昧でどうしてこうなったかはわからなかったにゃ。」
「そうなんだね。ごめんね。こんな時なんだけど、明日からまた出張でしばらく来れないんだ。その間、心配だな。」
「大丈夫よ。いつも通りに待ってるわ。危険でもなさそうだし。それに私にはブルーノがいるわ。そんなことよりヘンリックは気をつけて行って来てね。」
「わかった。気をつけるよ。ブルーノよろしく頼むよ。」
「まかせろにゃ。」

ヘンリックはアリーナにプレゼントをした石が呪いを受けたものであったことをアリーナの両親に詫びた。
両親はアリーナに害が及ばない事を知り安心した。そしてしばらく石を預けておく事も了承してもらった。
そして夕方、ヘンリックは帰って行った。

明日からヘンリックはブリーズ国へ出張だ。
またアリーナとしばらく会えなくなるな。
外交官の仕事はは結婚したら伴侶を伴っての行事が多いい。出張は同伴だ。
結婚したらずっと一緒にいられるのに。
早くアリーナと結婚したいな。

ブリーズ国は魔法が盛んに使われていている魔法大国だ。優秀な魔法師がいるという。ヘンリックは石について調べてみることにした。
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その後、アリーナは学園に通い日常を過ごしていた。
デビュタントまであと2ヶ月。
それまでにはエンリックも帰ってくる。


最近、マリンが男子を侍らせ近よってに来るようになった。アリーナと仲良くなって友達になりたいという。だが、マリーナは嫌だった。
友達になるのを断れば、「マリンが友達になりたいって言ってるのになぜアリーナは友達になってあげないんだ。」そう男子達に激しく詰め寄られた。何度も断ってもそのたびに男子に責められとても怖かった。

アリーナ以外にも友達になってと言われている女子も数人いるようだ。
その女子たちは婚約者がマリンに取られてしまい悲しんでいる様子を見て気の毒だと思っていた。それに、日頃のマリンは女子には傲慢に振る舞っていてとてもじゃないが仲良くしようなんて思えなかった。
当然、マリンと友達になる女子はいなかった。

最近は婚約者同士の喧嘩も目にするようになった。
「マークひどいわ。昨日のお茶会一緒に行くって約束してたのに。」
「お茶会ぐらいどうだっていいだろう。僕は忙しかったんだから。」
「嘘よ。本当はマリンとデートしていたって知ってるのよ。」
「だからどうしたって言うんだよ。お前とお茶会なんか行くよりマリンといた方が僕は幸せなんだ。」
「うわ〜ん。ひどいわ〜」とこんな感じ。

男子達はマリンに恋慕というより陶酔しているようだ。
そんな事が増え、だんだんと女子と男子の間には壁ができてしまった。

そんな中、マリンに関わらないようにしている一部の男子がいた。
マリンがどんなに擦り寄っても目も向けず話しかけても無視をする。完全に嫌ってるようだ。
その男子の婚約者に虐められたと訴えても「貴様の言うようなことはとても信じがたい。我が婚約者がその様な事をするとは到底考えられない。」と言われて振り払われた。
マリンは歯ぎしりするほど悔しがっていたようだ。
その男子達はこの国の第一王子や側近、高位貴族の令息であった。

ヘンリックはブリーズ国で、ある情報を得た。
この国の第一王子に魅了の力で婚約破棄をさせ自分が婚約者になりかわろうとした魔女がいた。将来、王となる第一王子と結婚して自分が王妃になり国を乗っ取り贅沢な暮らしをしたかったらしい。彼女は学校で第一王子に擦り寄り魅了の魔法を使い籠絡させようとした。しかし、強い魔力を持っている第一王子の婚約者に見破られてしまった。拘束され投獄されたが、魔女は牢屋から逃げてしまう。
その頃、夜会に出席していた第一王子や第二王子、側近その婚約者達が行方不明となった。人数は8人。そして、逃亡した魔女も。捜索はしているものの今だに見つかっていない。

ヘンリックは考える。
8人の行方不明者。8個の石。
数は合っているが…。ただそれだけの事。
でも、もし関係があるとしたら?
ヘンリックはブリーズ国の国王に謁見を申し込んだ。

国王との謁見であの石の話と行方不明者について確信は無いものの関係があるのかもしれないと伝えた。
国王は息子達をどうしても探し出したかった。
どんな些細な事でも手掛かりが欲しかった。
すぐに王宮魔法師団長を呼びヘンリックに話の内容を説明させた。

魔法師団長によれば、王宮や学校を捜索したところ何らかの魔法を使ったわずかな形跡あった。しかしどのような魔法かはわからなかった。おそらく痕跡を消す魔法を使ったのだと言う。このような事をしたのは逃亡中の魔女ではないかと疑ってる。
もし、その石が行方不明の第一王子達であれば呪いを解き救わなければいけない。
魔法師団長は呪いをかけた者が解除すれば1番早いがその魔女を探し出すにも今のところ手掛かりはないという。

国王は、魔法師団長にヘンリックと共にグラン国へ行きその石の正体を確かめ、呪いの解除を命じた。
そして「君の上司には伝えておこう。もし石が
私の息子達であったのなら助けてほしい。どうかよろしく頼む。」とヘンリックに言った。
「かしこまりました。」
2人はさっそくブリーズ国を立ちグラン国へ向かった。

ブリーズ国は少人数の場合に限り、移動は空間魔法を使うことが出来る。
空間魔法には制約があり決まったゲートにしか移動が出来ない。ゲートの使用は今のところ同盟国間のみだ。
グラン国までは距離があるためブリーズ国の同盟国のゲートを3箇所ほど経由して行く。グラン国へは2日ほどで到着できる。
来る時は馬車や船などの移動で10日ほどかかったがそれを2日で移動が可能とは…。
へンリックはさすが魔法大国だと感じた。

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アリーナは帰宅後、学校での事をブルーノに話した。
編入して間もない女の子。急にほとんどの男子生徒が彼女に陶酔する。一部の男性教諭もだ。おかげで、授業も上手く進まない。婚約者同士の諍いも多くなった。いずれ婚約破棄騒動に発展するだろう。
男子生徒は、「彼女は特別だ。」と言うらしい事も。確かに可愛いけど。でも…。
そんなマリンに友達になってほしいと言われたことも。

「マリンに友達になるのを断ったら周りの男子に怒られたんだよ。あれは怖かったな。でも、その時に女子達が庇ってくれてなんとかなったけど。断り続けたら男子になんかされそうで心配なんだ。」
ブルーノは「マリンって子と男子達は変なヤツらだにゃー。」
「おかげで男子と女子に壁ができてしまって、居心地が悪いんだよね。でもね、おかしくなったのは全部の男子ってわけでもないんだよ。一部の男子、第一王子とかその側近の人とかはマリンのことさほど思ってないみたい。王族だから近くで見た訳ではないけど。」
「ふぅ〜ん。そうにゃのか?」
「むしろ嫌ってる感じ。」
「へぇ〜。」ブルーノは何か考えている。
「それと石は今日どうだった?」
「相変わらず話をしてたけど今は箱の中にゃ。」
「可哀想だけど、明日も箱の中にいてもらいましょう。」
「そうだにゃ。」

次の日、ブルーノは昨日アリーナが言っていたことが気になって猫の姿で学校に行った。

「あの子がマリンだにゃ。」男子を侍らせたマリン達を裏庭で見つけて後を追う。
マリンのまわりに小動物も集まっている。
遠くにいてもわずかに魔力が感じられる。

どこから魔力が出てるのかにゃ?
これは、異性に魅了をかける魔法だにゃ。

近くに行くとマリンの胸元から魔力が出ているのを感じる。

あのネックレスは強力な魅了の魔道具にゃっ!こいつらみんな魅了にかかってるんだにゃ!

魅了の魔道具はこの国に持ち込むことも使用することも禁止されている。ブルーノはマリンから離れようとした。その時、マリンと目が合った。
「まぁ可愛い猫ちゃん。こっちにおいでー。」と手を出した。
ブルーノは慌てて逃げた。

ふぅ。バレたかと思ったにゃ。

マリンは唖然として「あれ?効かない。」そう呟いた。マリンの魅了は動物にも効くのだ。

オレには魅了は効かにゃいのにゃー。
神獣に魅了は効かない。

周りにいた男子達は「マリンは動物達にも好かれるんだね。まるで女神のようだ。」そう言ってマリンをうっとりとした目で見ていた。

あいつら魅了にかかって操られてるにゃ。
アリーナになんかしたら許さないにゃ。
でもなんでアリーナに近づくんだろうにゃ?

ブルーノは学校の裏庭から校舎に向かう。
渡り廊下で王族と側近らしい数人の男子を見つけた。そっと近づくとこちらを見た。
側近らしい男子はブルーノを警戒をしている。
王族と思われる男子が「お前、誰かの使い魔か?それとも野良聖獣か?」と言った。

オレは野良じゃにゃーし!!
ちゃんとご主人いるっつーの!!
ブルーノは神獣だとバレた事よりそっちの方が悔しかった。

仕方なく普通の猫の様に「にゃーん」と鳴いてみた。「普通の猫のふりか?」そう言って抱き上げる。

こいつにはバレてるにゃー。

その時、ブルーノはその男子の胸元に違和感を覚えた。胸元に前足を付ける。これは攻撃魔法を弾く魔道具だ。

もしかして、これであの魅了を弾いていたのかにゃ?
さすが王族、最高級品だにゃ。

普通の猫のふりを続けながらブルーノは
小さな声で「また来るにゃん。」と言った。
王族の男子は驚く事もなく「ああまってるぞ。今度くる時はこの校舎にある執務室に来い。何か好物を用意しよう。」  
「じゃあ、肉とお菓子だにゃ。」と言い、腕をすり抜け、走って学校から出て行った。
ブルーノはアリーナの帰りを部屋で待った。
今日は疲れたにゃぁ。
ソファーで寝て待っていた。少し遅くなってアリーナが帰って来た。
「今日は遅いんだにゃ。」
男子達に追いかけられたて女子達に匿って貰ってなんとか逃げ切ってそれで、遅くなったとアリーナが疲れた様子で答えた。
「そいつら、ただじゃおかないにゃ。」

ブルーノは今日の事をアリーナに話した。
「あーマリンがいつも着けてるネックレス?魅了の魔道具なの?それで男子が操られてるのね。これ第一王子とかは知っているのかな?」
「まだ聞いてないにゃ。また行くのにゃ。」
「直接?」
「そうだにゃ。だめだかにゃ?」
「いやぁ私の使い魔だって知られるのはちょっと困ると言うかー学校に使い魔連れて行くのは校則違反なんだよね。」
「言わないにゃ。なんか、アイツはオレを野良だと思ってるみたいだにゃ。」
「野良?」
「そうにゃー」
「……。」
「それに今度行ったらご馳走してくれるって言ってたのにゃ。肉かにゃ?お菓子かにゃ?楽しみにゃ。」すっごく嬉しそうだ。
「うちでだってご飯あげてるじゃない?」と呆れた顔している。
「アイツが出すご馳走はアリーナがくれるご飯より高級なご飯のはずにゃ。絶対に食べにゃいと。」ブルーノの頭の中はご馳走の想像をしている。
「なんか恥ずかしい。私の使い魔って言ったら絶対ダメよ。」
「わかってるにゃ。上手くやるにゃ。それよりアリーナ、魅了で操られてるヤツらに気をつけてほしいのにゃ。」
「うん、1人で行動しないようにする。」
「危なくなったらオレを呼ぶにゃ。」
「わかった。そうするね。」

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次の日、ブルーノはさっそく執務室に行った。窓から入ると昨日の男子は1人で机に向かっていた。
「やぁ来てくれたのかい?」穏やかにブルーノを迎い入れた。

そして、ブルーノに肉とお菓子を与えた。
思った通りの高級品だ。
ブルーノは夢中で食べた。
「美味しいかい?慌てなくてもたくさんあるよ。」と優しく頭を撫でた。

ご馳走を食べ終わりブルーノは
「お前に聞きたいことがあるんだが聞いていいかにゃ?」
「なんだい?」
「この学校で魅了の魔道具を持ってるヤツがいるにゃ。その魅了にかかって操られてるヤツもたくさんいるにゃ。知ってるのかにゃ?」
「あぁ僕も怪しいと思ってる人物はいるよ。今調査しているところなんだ。そうか魔道具か。」となんか考え込んでいる。
「早くなんとかした方がいいにゃ。迷惑してるやつがたくさんいるにゃ。」
「そうなのかい?」
「そうにゃ。それと、昨日気なったんだが、お前のその胸にあるのは攻撃魔法を防御する魔道具かにゃ?」
「これかい?これは昔から王族とその側近が身に着けるペンダントなんだ。最近は高位貴族も似たような物を持っているんだ。」
「それで、お前たちは魅了の魔法を弾いてたんだにゃ。」
「ああそうか、だから私達はなんともないんだな。」
「そういうことにゃ。高級品は違うんだにゃぁ。」
「これ持っている事は誰にも内緒だからね。」
「わかったにゃ。」
「それより、君さ、私の使い魔にならないかい?毎日お菓子や肉をお腹いっぱい食べさせてあげるよ。」
「お腹いっぱい?」 
「そう、お腹いっぱい。」
「あとーそうだな王宮に部屋を作ってあげる。」 「部屋?」
「そう、王宮に部屋、それにふっかふかのベッドを置くよ。ソファーもいいね。」
「……お腹いっぱい……王宮に部屋……ふっかふかの…。」
「私はまだ使い魔がいないから。お願いだよ。」
「……ダメにゃ……それは……ダメにゃ。」
「だって君、野良でしょ?」
「………。」
ブルーノはいたたまれなくなり素早く逃げ出した。
「またおいで。」

アレのせいで迷惑している者がいるのか。
早くなんとかしないといけないな。
それにしてもあの聖獣は魔力がかなり高いし知能も高そうだ。それにちょっと可愛い。と王族の男子、第一王子はそう思った。

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ブルーノは家でアリーナを待った。
石は箱の中なので話し声は聞こえない。
お腹いっぱいだにゃー眠くなったにゃー。
ソファーですやすやと寝ていた。

しばらくしてアリーナが帰って来た。
ソファーでブルーノがお腹を上にして寝ていた。
「ブルーノただいまー。」
「うにゃにゃ〜。おかえりにゃさ〜い」
「随分と気持ちよさそうに寝てたのね。」
「お腹がいっぱいで寝てたにゃ。」
「やだ〜またなんか獲って食べたの?ご飯はあげてるでしょう。」
「ちがうにゃ。昨日会った王族らしいヤツに貰って食べたんにゃ。」
「もしかして第一王子ー!?」
「そうなのかにゃ?お腹いっぱい食べていいって言うからたくさん食べたんにゃ。」
「もう!恥ずかしい。まさか、私の使い魔だって言ってないわよね?」
「言わなかったにゃ。」
「絶対に言わないでよ。」
「言わにゃい。」
「で、食べて帰って来ただけ?」
「いんや、ソイツに魔道具の話したら、今調査中だって言っていたにゃ。あと、魅了にかからない理由もわかったにゃ。」
「理由があるの?」
「王族とか側近は攻撃魔法を撃退する魔道具を持ってるにゃ。それが攻撃だけじゃなくて魅了も弾いていたんにゃ。アイツは知らなかったみたいだけどにゃ。」
「ふう〜ん。そうなんだね〜。」
「流石に王族の持ち物は高級品だにゃ。」
「そうだね。」
「あっ、この事は誰にも内緒だったにゃ!そう言われたんにゃ。」
「あ〜あ今言っちゃったじゃない。」アリーナは苦笑いをした。
「あ"っ!!」
ブルーノは冷や汗が出た。

ブルーノはアリーナが学校で何事もなく過ごせるようにしばらく学校に行こう。
でも、アイツに使い魔になってほしいって言われた事は内緒にしようと思った。


ヘンリックとブリーズ国の魔法士長クラークはグラン国の隣の国にあるゲートまで来た。
ここからは馬車で移動をする。
今日中に到着する予定だ。

ヘンリックは急に会いに行ったらアリーナびっくりするだろうなと少しにやけて想像をした。
馬車の中でクラークとヘンリックは石の特徴や解除方法を相談した。石がへンリックだと解除が出来るような話をしていたことを伝えた。
クラークは「ヘンリック様は魔力が少ない様に見受けられますが?石のいう事に何か心当たりはありますか?」
「いやぁそれがわからないんですよ。」
「もしや、ご幼少期に何かありませんでしたか?」
「う〜ん。幼少期のことは両親に聞いてみないとわかりませんね。あんまり記憶がないもので。」
「そうですか。ご両親に少しお話しをさせてもらってもいいでしょうか?」
「それは構いませんよ。」
クラークはヘンリックに何かを感じているようだった。
まずは、石を持っているアリーナの所へ。

夜、グラン国に着いた。
遅い時間だったためアリーナの所へは明日行くことにして、まずはヘンリックの屋敷にやって来た。
ヘンリックは両親と兄ビルハーグに事情を話した。

アリーナに贈った石が呪われていた事を知り
「へンリック、なんてことでしょう」と母が嘆いた。
「とても綺麗だったから……。気付かなくて…。ブルーノが気が付いて…害はないってことなんだけど。」
「ブルーノは聖獣だからな。へンリックは魔力が少ないから気付かなくても仕方がないよ。」
「どうしてみんなと違って僕だけ魔力が少ないんだろうね。」
「そんなに落ち込むなって。魔力が少なくたってお前は優秀なんだから。」兄はそう言って慰めた。
「そ、そうね。」
「もう少し魔力が強ければ…よかったんだけど。ごめんね。」
「………。」
そこでクラークが
「石が言うには、呪いを解く鍵はへンリック殿にあるとのことです。何か心当たりはありませんか?」と両親に聞いた。
「例えばヘンリック殿は幼少の頃の記憶が無いと伺いましたが何かあったのではないですか?」
「……。」
「あなた…。」
「…そうだな、ヘンリックも大人になったしな。隠す必要は無いな。」
「えっなになに?なんかあるの?」と兄が聞いた。
父は「お前はヘンリックが生まれた頃の事を覚えているか?」兄に言った。
「ヘンリックが生まれてすぐに別邸で過ごしたりホワイティス家にお世話になったりしてこの屋敷にはいなかったよね。5年ぐらいかな?」
「そうだ、この屋敷にお前を置いておけなかったんだ。」

ヘンリックの両親は話しを始めた。
王家の血筋のアンダーソン家では代々魔力を持つ者が生まれる。その中でもたびたび強い魔力を持って生まれる者がいる。王宮や魔塔に魔法士として登用される者もいた。魔力が大きすぎて制御が出来ずに幽閉されてしまう者もいた。

ヘンリックは生まれた時に魔力が非常に強かった。感情が高ぶり泣けば窓ガラスが割れたり花瓶が割れたりドアが飛ばされたりした。父や母の魔力では抑えきれずまわりの者が怪我や火傷を負う事もあった。それでも両親や乳母は諦める事なく愛情を持って育てた。
ヘンリックの兄は安全のために別邸で過ごしていてヘンリックの魔力のことは知らせなかった。

ヘンリックが5歳になったある日、飼っていたウサギが野犬に襲われて死んでしまった。ヘンリックは悲しくてなかなか泣き止まなかった。それを乳母がなだめるために抱こうとした時に魔力が暴走し爆発をおこしてしまった。庭の草木は倒れ周りにいた者は怪我を負った。中でも近くにいた乳母は大怪我だった。後に乳母はその怪我がもとで亡くなってしまう。怪我こそ軽く済んだへンリックだったが自分を責めてひどく泣いた。泣いている間は部屋だけでなく屋敷中がひどく壊れ、凍りついた。誰も近づくことができなかった。ある程度泣いたあとに気を失った。目を覚ました時は以前の記憶を全て失くしてしまっていた。あのウサギや乳母の事も。両親はヘンリックが幽閉されるかもしれないと思った。

両親は友達であるホワイティス伯爵夫婦に相談をした。すると教会ならなんとかしてくれるかもしれないとホワイティス伯爵が言った。 
そこで、両親が教会に行くと神官が話を聞いてくれた。
神官によると魔力には白、黒、青、緑、赤、の魔力の種類があるがヘンリックは全てをもつ珍しいタイプだという。まだ身体も小さいく魔力の器が小さいので感情が高まると違う魔力同士がぶつかり合い器からはみ出て暴走が起きる。そこで、神官は個々の魔力を小さく圧縮をして小さな器の中に封印する事を提案した。
ただし封印は永遠ではない、いずれは封印を解く事になると神官は言った。
両親は神官に封印をお願いした。
封印後、魔力暴走は起きる事もなくなった。魔力は使えなかったが普通の子供と変わらずに育ち両親は安心した。
これからは家族一緒に暮らせると喜んだ。

「それで僕は別邸に行かされていたのか。」
「僕は兄上やみんなに迷惑かけていたんだね。知らなくて本当にごめんね。僕のせいで人が死んでいたなんて……。」ヘンリックは涙を流して両親と兄に謝った。
「仕方なかったんだからしょうがないよ。俺は少し寂しかったけど、そのあとはみんな一緒だったじゃないか。」と兄は肩を抱いてそう言った。
「迷惑だなんて…あなたは私達の大切な子供なんだもの。」
「そうだな。大切な家族なんだ。乳母のことがあったから話さなかった。優しいお前の事だから気に病むと思っていた。出来れば忘れたままの方がいいとさえ思っていたんだ。」両親も涙を流した。
そして皆が泣き止み、落ち着いた頃、クラークが話し始めた。

「やはり、ヘンリック殿は白魔力をお持ちだったんですね。白魔力はほとんど持つ者がいない珍しいものです。特徴は浄化、回復、再生ができます。そのため国によっては利用価値があるので本人の意思を無視し劣悪な環境で幽閉し囲っているところもあります。おそらくその白魔力で呪いを浄化ができるはずです。ヘンリック殿の封印の解除は可能なのでしょうか?」
エンリックの父が「それは可能だと思う。神官長は封印は永遠ではないと言っていた。」
「あなた。封印を解いてしまっても大丈夫なの?」母は心配で父にきく。
「もう大人になったから子供のときみたいにはならないと思うが…。いずれは魔力を解放をするべきだろう…それは教会の判断を聞いてみないとわからないが。」
「僕は封印を解いて魔力を解放したいと思います。」
「お前がそう思うのならまずは教会に行ってみるといい。」
「わかった。そうするよ。」
そこで話を終えそれぞれ部屋へ行き休むことになった。

ヘンリックはベッドに入ってもなかなか眠ることが出来なかった。
記憶は戻らなかった。
乳母はどんな人だったんだろう。
僕のことをきっと恨んでいるだろうな…。
ちゃんと謝りたい。
ごめんなさい。ごめんなさい。
記憶に無い乳母を思い涙が沢山溢れた。
そうして夜は更けていった。

次の日、朝からへンリックがアリーナの家にやってきた。嬉しいのは当たり前の事だがひと月も早く帰って来た。
アリーナは驚いた。はっやっ!!
それに黒い服を着た男の人も一緒だ。
なんか身分が高そうだなーこの人は誰?

「ただいま。昨日帰って来たんだ。早かったでしょ。」うっすらと目の下に隈があり少しだけ目が腫れて疲れた顔だ。
「おかえりなさい。随分早いからびっくりしたわ。疲れてない?」
「大丈夫疲れてないよ。」
「ところで、そちらの方は?」
「ブリーズ国の王宮魔法士団長のクラーク殿だよ。」
「初めまして、私へンリック様の婚約者のアリーナ・ホワイティスと申します。」カーテシーでご挨拶をした。
「クラークと呼んで下さい。」にこやかに挨拶をする。
「あの石について、気になる事があってクラーク殿に来て貰ったんだ。今、石はどこ?」
「石は私の部屋にあるから今持ってくるわ。応接室で待っていて。」
アリーナは部屋に行き石の入った箱を持って来た。ブルーノも一緒にやってきた。

応接室でへンリックは、アリーナの両親、クラーク、アリーナ、ブルーノとソファに座りブリーズ国での話をした。
逃亡した魔女、行方不明の第一王子達の事。石は行方不明者かもしれない事。おそらく呪いを解く鍵はヘンリックの封印された魔力だという事。

ブルーノは「ヘンリックの魔力は最近少し増えた感じがしてたにゃ。魔力が増える事なんてあるのかにゃ?そーいえば、たまにまわりがホワホワしてる時があったにゃ。オレはあれが出てる時近くにいると気分が良くなったたにゃ。それが白魔力だったのかにゃ?白魔力は見た事なくてわからなかったにゃ。」と言った。

マリーナは知らなかったが両親はヘンリックの魔力を封印した経緯を知っていたため、
「ヘンリック君、封印を解いても大丈夫なのかい?」
「わかりません。でも、封印は永遠では無いと聞きました。いずれ封印を解くのなら今がその時なのかと思うんです。」
「封印を解く事を君のご両親には話したのかい?」
「ええ。二つ返事でとはいきませんでしたが、
了承はもらいました。」
「そうか。」
アリーナの両親は心配をしているようだった。
アリーナは黙ってみんなの話を聞いていた。

クラークは、まず箱の中にある石を確認した。
石は行方不明の8人と同じ数だ。
これが第一王子達か?
石自体には魔力はわずかしかなかった。

「この石は複雑な呪いがかかってるみたいだにゃ。オレが魔力を少し入れたら喋ったんにゃ。」
石達が言う「悪さはしないよ。」「何も覚えていない。」「わからない。」「早く助けて。」と。
「悪者だといけないから魔力はあんまりあげなかったにゃ。」

「もう少し多めに魔力を与えれば何か思い出してくれるかもしれませんね。まず一つだけやってみましょう。」そう言うとクラークは一つの赤い石に魔力を与えた。

すると赤い石から小さくて丸い赤い光が飛び出てきた。光は部屋の中をぐるりと回りあたりをうかがっているようだ。
それを見てブルーノたちは警戒をした。

クラークが光に「貴方はどなたですか?」ときいた。
光は「私はブリーズ国第一王子アレン・ルノール・ブリーズだ。」
「私はブリーズ国王宮専属魔法師団長クラークです。お久しぶりです。アレン王子。」
「おぉ、クラークか?」
「そうですクラークです。」
「探してくれたのか?」
「ええ探しました。このような形ですが、会えて良かったです。」
「苦労をかけてすまかなったな。」
「いえここにいるヘンリック殿のおかげです。」
クラークは泣きながらそう言った。
そして、クラークはもっと石に魔力を与えたが姿が変わる事はなかった。

アレン王子が何故石になってしまったのか、
光が経緯を話し始めた。
あの日、夜会に出席した時、捕まったはずの魔女が現れた。婚約者や側近と共にいたところに不意打ちで攻撃魔法を撃たれ皆がバルコニーから落とされた。落ちたところに魔法陣があり魔力を奪われ石にされた。その時にいたのはアレン王子と婚約者、側近とその婚約者の4人だったという。
その石を拾い魔女は馬車の方に移動した。
そこには、弟の第二王子と婚約者、その側近と婚約者が馬車に乗るために外に出ていた。その4人に向かって魔女は攻撃魔法を撃ち4人は馬車まで飛ばされた。あらかじめ魔法陣を馬車に仕込んでいたのか4人は魔力を奪われ石になった。それを拾い集め魔女は逃走した。

そして、魔女は国を出て隣国へ行きその後別の国に渡る。渡った先で魔女はその石をまとめて他国の商人に売り払い何処かへ行ってしまった。
石は買い取った商人が箱に入れてサリーナ国へ戻った。商人は宝石とまではいかない石なので加工をせずそのまま売ってしまおうと手持ちの見栄えのいい箱に入れ露店に並べた。そこにヘンリックがやって来た。アレン王子はヘンリックに何かを感じてありったけの僅かな魔力を使い興味をひくことに成功した。そしてヘンリックが買いグラン国に持ち帰った。

魔女についてわかることは。石に変えたのは自分に靡かない第一王子と邪魔をする婚約者や国王を恨んでの犯行だった。国に王子がいなくなれば後継がいなくなり国が成り立たなくなる。そこで第二王子も石にした。残りの者は巻き添えをくったことになる。 
8人を石にした時、魔女は魔力を相当使ったためか老婆のようになった。その後、魔女はいくつかの国を渡り歩き魔力を徐々に回復していった。今頃は若い姿になっているだろうと言う。

アリーナは、その魔女は今頃何処にいるのかなー?なんてかるーく思った。
しかし、魔女の名前を聞いた時、戦慄が走る。
魔女の名前はマリーン。
もしかして?マリーンってマリン?
アリーナはブルーノを見た。
ブルーノも嫌な顔をしてアリーナを見た。

その様子をヘンリックは見ていた。
「アリーどうしたの?顔色悪いよ。」
「ぇ…あの…マリーンってどんな人ですか?」
「ピンクの髪にパープルの瞳で少し小柄かな?後、左目の下に泣きぼくろがある。」と光は答えた。
ブルーノは「あの女じゃにゃいか!?」と
アリーナに言った。
「特徴は一致してるけど…。そんな事ある…?」
「アリーナの知ってる人?」
「うん…マリンていう似た女の子がクラスにいて…それで…。」
アリーナとブルーノは学校であったことを皆に話した。


「そんな事があったんだね。なんで話してくれなかったの?」
「いや、ヘンリックはいなかったし、お父様達も丁度留守だったから、なんか言うタイミングがなくて。あとほら、学校に使い魔を連れて行ったら校則違反になるでしょう?でもブルーノが第一王子のところに行ったりしたから。じゃあこれは第一王子とブルーノに任せておこうかなーなんて思って…。」
ブルーノが「アイツ俺の事、野良聖獣だと思ってるんだにゃ。」と皆に言った。
「野良?」
「そうにゃ」
「…………。」
「おかげで高級なお肉とお菓子をお腹いっぱい食べさせてもらえたにゃ。うまかったにゃ。」
「………。」
「お腹が減ったらまたおいでって言ってくれたんにゃ。」
「………。」
誰も何も言えなかった。
アリーナは俯いて赤くなった。

クラークは石が第一王子達であった事や呪いの解除方法の事。グラン国に逃走中の魔女らしき人物が首都の学園に通っているという情報を手紙にしたためブリーズ国の国王に手紙を飛ばした。
その日の午後
ヘンリックとクラークは石の入った箱を持って教会にやって来た。
神官長にこれまでの事を話した。
神官長は
「私もこの石の呪いを解けるのは白魔力だけだと思います。」石を見てそう答えた。
そしてヘンリックに
「貴方が幾つもの魔力を持って生まれたのは、何かの意味があったのかもしれませんね。今、幼少の頃の封印が少し解けかけて魔力が少し漏れ出てます。それを石が感じ取ったのでしょう。今は魔力の器も大きく成長し充分な大きさになっているでしょう。ただし、魔力の解放は身体に負担がかかりますが大丈夫ですか?」
「覚悟しています。」
「解放後はいくつもの魔力を制御しながらそれぞれを使いこなせるように訓練が必要になるでしょう。」
「使いこなすにはどのくらいの時間がかかりますか?」
「普通は優秀な魔法師に教えてもらったとしても3〜10年ほどでしょうか。素質があれば、もっと早く出来るかもしれませんね。」
「素質は…どうかな…。」ヘンリックはこれまで魔力を使うことは無かった。
そこでクラークが「心配しなくて大丈夫です。私が教えます。これでも私、王宮の魔法師団長ですから。」
「そうですか。それは心強い。封印を解いた後、何日かは魔力が暴れてまわりに影響を与える事もあります。影響が出てもいいように結界を張っておく必要があります。この教会の地下に結界を張った部屋があるのでそこで行います。他の神官にも手伝ってもらいましょう。私は準備をしますね。少しお待ち下さい。」
そう神官長は言い席を立った。


しばらくして、数人の神官と共に神官長がやって来た。
「準備が出来ました。さあこちらへ。」2人は地下室に案内された。

長い階段を降りて長い廊下の先に大きな扉があった。
神官長は「貴方はここでお待ち下さい。」と扉の前で、クラークに言った。
クラークはそこからは入れないようだ。
「では、私はここでお待ちしています。」そう言い廊下で待つことにした。

神官長は扉を開けヘンリックを中へ入れた。
扉の中は地下なのに明るく広い部屋で床の中央には大きな魔法陣があった。
その中にヘンリックは寝かされる。
神官達は魔法陣の周りを囲む。
神官長は
「今から行います。心の準備はよろしいですか?」ヘンリックにそう問いかける。
「はい大丈夫です。お願します。」ヘンリックは目をつぶった。

神官長が呪文を唱え魔法陣を発動させた。
周りの神官たちは魔力を注ぎ込む。
するとヘンリックは顔を歪め胸の辺りを掻きむしるようにして苦しんでいる。
周りの神官長や神官たちも額から汗を流し力を注ぎ込む。


夜が明ける頃、神官長たちが扉から出て来た。
「無事に解除できました。あとは魔力がおさまるまでここに居てもらいます。」
「お疲れ様でした。あとどのくらいかかりそうですか?」
「思った以上に器が大きく成長していたようなので今日のうちには出てくると思いますよ。」
「わかりました。私はここで待ってきます。」
クラークはまたここで待つことにした。
神官長達は皆疲れた顔をしふらふらとしながらその場から立ち去った。

クラークは待つ間にヘンリックの特訓について考えた。
あの聖獣はヘンリック様から白魔力が出ていたと言っていた。もしかして知らず知らずに使っていたのかも。そうであれば使いこなすのはそれほど難しくないかもしれない。
なんとしてもアレン王子達を救ってもらわねば。

ここは地下、外の様子はわからない。
そろそろ夜になる頃だろうかそうクラークがそう思っていた時、扉が開いた。
疲れた様子のヘンリックが出て来たのだ。
「ヘンリック殿!大丈夫ですか。」クラークが駆け寄ると「なんとか制御はできたみたい。」そういうと倒れ込んだ。
クラークはヘンリックの肩を抱いて地下から階段を登った。
登った先で神官がいた。
「こちらでおやすみ下さい。」そう言ってベッドのある部屋まで案内してくれた。
ヘンリックをベッドに寝かせてクラークは少しだけ安心した。
そこに神官長がやって来た。
「思ったより早かったです。少し休んだらもう大丈夫です。あとは使いこなすだけですから。貴方もお疲れ様でしょう。お食事を召し上がって休んで下さい。」
神官が食事を持って来た。
パンに野菜がたくさん入ったスープ。それにフルーツ。特別豪華でもない食事。
それを見てクラークは昨日から食べていなかったのを思い出した。急に空腹を感じて食べ始めた。なんて美味しいのか?
空腹は最高のスパイスだと誰かが言っていたけど、本当だと思った。

次の日の朝、目を覚ましたヘンリックはあんなに苦しかったのにもう苦しくない。
むしろ身体から何かが溢れ出ているように感じた。
クラークは「それが、魔力なんですよ。」そう言った。
それから神官が食事を持って来た。
パンに牛乳に野菜が入ったスープ、それを食べ神官長に会いに行った。


神官長は「魔力は安定しているようですね。
それでは魔力の色を見てみましょう。」そう言って祭壇まで案内をした。そこにある水晶玉に手をかざすように促した。
すると、白黒青緑赤の光がぐるぐると渦巻き状映る。
特に白の光が強く、次に青い光が強かった。
黒緑赤は同じぐらいだった。
「主に白、次は青、黒緑赤は同じぐらいですね。全体的に魔力が大きいので、黒緑赤は小さく見えましたが普通以上の強さだと思っていいでしょう。」
このような水晶の光をクラークは見た事が無かった。多くても3つの光ぐらいだ。
この、ヘンリックという男はすごい人材だと思った。
「これで、私達ができる事は終わりです。魔力の使い方については訓練のみです。頑張って下さい。それと他者によっては、白魔力は非常に珍しく利用価値もありますからなるべく知られることのないようにした方がいいでしょう。ある程度の訓練が終わったらまたここに来て下さい。」
クラークは「はい。わかりました。私はヘンリック殿の秘密を守ると誓います。」
ヘンリックは「神官長さま、私の魔力は悪い事には使わないと誓います。ありがとうございます。」

石は神官長に預ける事になった。
それから2人は教会を後にした。

さぁ次は特訓だ。


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その頃、
ブリーズ国王はクラークからの手紙を読んでいた。
「おぉ、我が息子達よ。なんと石にされていたとは。早く呪いを解除して無事に戻る事を祈っておるぞ。」
「あぁ、神様 息子たちをお願いします。」王妃は手を合わせて神に祈った。
国王はさっそく、グラン国に書簡を送ることにし王宮魔法士団3人に届けさせることにした。
ゲートを使えば2日ほどで着くくだろう。

アリーナはヘンリックとクラークが教会へ向かうのを見送った。
ヘンリックは大丈夫だろうか?心配だった。

そんなアリーナに父は
「きっと大丈夫だよ。私達は将来的に魔力の解放はするべきだとは聞いていた。だが、本人が子供の頃の記憶が無かったかからヘンリック君の両親はどうするべきか迷っていたようなんだ。魔力が無くてもヘンリック君は勉学も優秀だし若いのに外交官補佐にもなった、おまけに人柄もいい。私もこのままでもいいのではないかとも思っていたんだ。」
「そうだよね。私はヘンリックが魔力無くても構わないわ。今のままでも素敵な人だもの。ただ、魔力が戻ったらヘンリックがかわるんじゃないかって心配なの。」
「魔力が戻っても性格は変わらないと思うがにゃ。。」そうブルーノが言った。
「ただ、白魔力を持ってるのが他人に知られてしまうと面倒な事がおこるかもしれないな。」と父が言った。
「訓練すれば魔力は隠せるにゃ。多分大丈夫にゃ。」意外とブルーノは楽観的だった。
「そうだな。ヘンリック君なら魔力も上手く使えるようになるだろう。」そうアリーナに言った。
「そうだよね。」アリーナは心配そうに頷いた。
「あと、落ち着くまでしばらく学校を休んではどうかな?」
「んー試験があるからあんまり休みたくないんだ。なんとかなるよ。」
「そうか?なんかあったらちゃんと言うんだよ。」
「うん、わかった。」

その後、ブルーノとアリーナは部屋に戻り話をした。
「アリーナ、あんまり心配しなくてもヘンリックは大丈夫だにゃ。」
「うん、そうなんだけど。ただ、マリンの事も気になって。」
「そうだにゃーあれが例の魔女だとしたら捕まえないといけないにゃ。でも、それはアリーナやオレの仕事ではないにゃ。」
「もし、マリンが捕まったとして、男子達はどうなるの。あのまま魅了に取り憑かれたまま?」
「しばらくはそうだけど、魅了の魔法は時間が経てば消えるにゃ。」
「かならず?」
「かかった程度はあるけどそれはちゃんと解けるにゃ。」
「そうなんだね。そういえば、ブルーノは魅了にかからなかったの?近くに行ったんでしょ?」
「オレは普通の動物と違って聖獣だからかからないにゃ。」
「そっか、聖獣は凄いんだね。」
「そうにゃ。そしてそのオレを使い魔にしてるアリーナも凄いのにゃ。」
「私凄いの?」
「そうにゃ。本来なら主人は使い魔に命令してなんでもやらせるものなんだがにゃ。アリーナはオレに命令はしないにゃ。」
「そうだね。ブルーノは使い魔というより友達?兄弟?家族?みたいだからね。」
「オレはアリーナの使い魔でよかったと思ってるにゃ。自由にさせてもらってるし。でも危険な時はオレが守るからにゃ。」
「うふふ、ありがとう。これからもよろしくね。」
「まかせろにゃー。」

ブルーノ本人はアリーナを妹のように思っていた。家族とか友達とか言われとても嬉しかった。本当は小さい頃からアリーナの知らないところでブルーノは危険回避のためにいろいろとやっていた。わざわざ危険があった事は本人には言っていない。

きっと1人と1匹はこれからも仲良しだ。

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ヘンリックはクラークと屋敷に帰って来た。
家族は心配そうにヘンリックに寄り添う。
「ただいま。」
「おかえりヘンリック。」
「封印は解いてもらったよ。制御はちゃんとできてるよ。」
「そうか。それはよかった。」
「それで、少し訓練をしないといけないんだ。」
「そうだな、使いこなせない事にはな……。」
「父上、あの訓練場を使わせたらどうでしょうか?」ビルバーグが言った。
「今は使ってないが、そこで訓練をしていいぞ。」
「訓練場?そんなものがあったんですか?」
「ああ、ヘンリックが使う事はないだろうと思っていたから教えてなかったな。」

父や兄は魔法騎士団に所属している。
アンダーソン家には広大な領地があり宝石や魔石の鉱山も幾つか所有している。
その中で既に魔石の廃鉱山となったものがありそこの敷地を訓練場として使っていた。
広大な敷地で民家も近くに無い。その為攻撃魔法を使っても影響はない。
父や兄は赤魔力があったのでその訓練所で魔法の鍛錬をしていた。
赤魔力は火、火力による攻撃魔法や防御魔法が主である。

「では、そこで訓練をします。クラーク殿、宜しいでしょうか?」
「私はかまいませんよ。」
「それでは、僕が案内します。」と兄が言った。
「少し離れた場所だから用意も必要だろう。準備をするのでそれまでしばらく身体を休ませろ。」父がそう言った。
「はい、そうします。」
「ところで訓練場にはどのくらいいるつもりだ?」
「とりあえず7日ほど様子をみます。」とクラークが答えた。
「おそらくヘンリック殿はすぐに使えると思います。弱い魔力から順に使えるように訓練をする予定です。」
「僕、送ったら訓練をみていいかな?何個も魔力を持つ者の訓練なんて滅多に見れないから。父上はどうしますか?」
「うーむそうだな。しかし仕事があるしな。時間が空きそうなら行ったみてもいいぞ。それに、ビルバーグよ、仕事はどうするつもりだ」
「僕は休み取りますよ。だって弟が初めて訓練をするんですよ。見ないわけにはいきませんよ。」
「兄上、僕はそんな子供じゃないですから。」
「いや、それは譲れないな。よし、決まりだ。僕も行って手伝うよ。父上いいですよね。」
「うむ。しょうがないやつめ。」
「さっそく僕も準備しなくちゃ。」ビルバーグはなんだかとても嬉しそうだ。
ビルバーグは昔からヘンリックを可愛がっていた。大人になってもそれは変わらない。彼は弟が大好きなブラコンだった。

訓練場に行く前にヘンリックは父にアリーナの家でのことを話した。石の正体が探していた行方不明者だった事、呪いをかけた魔女らしき人物がアリーナと同じクラスだという事。
アリーナが学校でその魔女の手下に嫌がらせをされてるらしい事。当面はブルーノがついていてくれるが心配だと伝えた。

クラークがその事柄をしたためた手紙をブリーズ国国王に送ったので我が国でも何か動きがでてくる可能性がある。魔法騎士団の父上は忙しくなるかもしれない。と伝えた。


アリーナに会いたいなぁー。心配してるだろうなあ。少しだけなら大丈夫だろう、ちょっとだけ行ってこよう。
ヘンリックはアリーナの家に行った。

「こんにちは、ヘンリックです。アリーナはいますか?」
「アリーナお嬢様は学校に行かれました。」
「そうか、学校に行っちゃったか。」
「ではこれを渡して下さい。」そう言って手紙と花を置いて行った。
「かしこまりました。」家令はそれを受け取る。
ヘンリックは屋敷にもどり訓練場へ行く準備をした。
アリーナは通常通りに学校へ行った。
今日もマリン達はアリーナにまとわりつく。
アリーナはマリンに友達になるのは嫌だと再度伝えた。
すると取り巻きの男子がアリーナに掴み掛かろうとした。そこへ女子達がやって来てアリーナを庇い転んで怪我をしてしまう。
その怪我をした女子はリリーだった。そして怪我をさせた男子はマーク。
そんな騒ぎを聞きつけて数人の教師が駆けつけた。
マークは教師達に職員室へ連れて行かれた。
リリーは保健室へアリーナが付き添った。

リリーは骨折までではないが左手首の捻挫で全治1週間ほどの怪我だった。
「リリーごめんなさい。私を庇って…怪我しちゃって…。」アリーナは泣きながらリリーに謝った。
「ううん、いいの。これでマークとは婚約は解消ね。」ほろりと涙を流した。
「ごめんなさい。」
手当が終わリリーは早退した。

職員室では、マークに対して教師が言う。
「なぜ女子に対してあんな事をした?」
「アリーナがマリンに友達になって欲しいと言われたのに嫌だって断ったから。」
「それは、アリーナとマリンのことで周りがどうこうする事ではないんじゃないか?」
「いや、マリンが友達になりたいって言っているのになぜ断る。アリーナがおかしいです。マリンの友達になぜならないんだ。」目が虚ろでおかしな言動ばかりを繰り返す。
「怪我をしたのが誰かわかってるのか?」
「えっ?わかりません…。」
「リリーだよ。」
「リリー?」
「君の婚約者だろう?」
「婚約者?」
マークは婚約者を覚えていない様子だった。
その事から、マークは停学となりしばらく自宅謹慎をする事になった。

そんな騒ぎがあとアリーナは校庭の隅にあるベンチに座り落ち込んでいた。
そこへブルーノが猫の姿でやって来た。
「アリーナごめんにゃ。あの時、あの女の子が先に飛び出して来てオレが出て行けなかったにゃ。」
「ううん。私がもっと上手く言っていればこんな事にならなかったんだよ。」
「そんな事ないにゃ。嫌なものは嫌って言っていいんだにゃ。それにアイツは魔女なんだし。」
小声で話しているとそこへ1人でマリンがやって来た。
ブルーノはアリーナの前に立ちマリンを威嚇をする。
「あらー猫ちゃん。こっちにおいでー。怖くないよー。」
ブルーノは怖い顔で威嚇する。
それを無視してマリンは
「ねぇ、アリーナ。あなたの婚約者今日はお迎えに来ないの?この間お迎えに来ていたでしょう?貴方の婚約者って素敵よねー。仲良くしたいわ。だからーお友達になって。」
「嫌よ。絶対嫌。」
「どうして?」
アリーナは青ざめた。
そこへ取り巻きの男子達がやって来た。
「マリンこんなところにいたのかい?」
「チッ!」
マリンは舌打した。
アリーナはその隙に足早にそこから立ち去った。ブルーノも警戒しつつアリーナについて行った。

「もしかして狙っているのはヘンリック?だからしつこく友達になりたがっていたの?」
「そのようだにゃ。あのクソ女。」
「この間お迎えに来た時に見られてたんだわ。」
「とりあえず、今日は帰ろうアリーナ。」
「うん。」


家に帰ると家令から
「お嬢様が学校に行った後にヘンリック様がお越しになりこれをお渡しするようにと。」
そう言われお花と手紙を渡された。
さっそく部屋に行き手紙を読む。

ヘンリックは無事に封印を解き魔力の制御ができるようになった。
少し離れた訓練場で魔力の訓練をすることにした。取り敢えず7日間訓練をする。
あの石は教会に預けたから安心して。
帰って来たら、ドレスを作りに行こう。
それまで会えないけどごめんね。
そんな内容だった。

アリーナはヘンリックを心配した。
すぐにでも会いたいと思った。
ブルーノが隣で心配そうにアリーナを見ている
「明日も学校にいくのかにゃ?」
「うん…試験があるの。」
「試験が終わったらどうするにゃ?」
「もうすぐ夏季休暇で休みになるんだけど。それまで休んだ方がいいのかな?」
「そうだにゃー。騒ぎが収まるまで休んだ方がいいだろうにゃ。」
「お父様に相談してみる。」


夕方になり父が帰って来た。
学校での出来事は父の耳にも入っていた。
「アリーナを庇って怪我をしたリリー嬢にお見舞いをしないといけないね。」
「そうねぇなにがいいかしら?」と母がアリーナに聞く。
「うん。リリーは婚約解消するって言ってたの。申し訳なくて……。」
「まぁ。なんて事でしょ。」
「その事は2人とその両親が話し合って決める事だからね。でも、なんだかマーク君の様子がおかしいらしいから話し合いはしばらく出来ないんじゃないかな?」
「そう…。私がマリンと友達になるのは嫌だって言ったからこんな事になっちゃったの。もう少しなんとかできたかもしれないのに…。」
「本当はあの魔女が悪いんだにゃ!アリーナは悪くないにゃ。」
「どういう事かな?」
「アイツはアリーナと友達になればヘンリックとどうにかなれると思ってるんにゃ!!だからアリーナにしつこく友達になれって言ったんにゃ。まわりのヤツらは魅了で操られてるからマリンが言ったことをなんとしてでも叶えてやるんにゃ。」
「そう言うことか。」と父は言った。
「もし仮に、アリーナが友達になったらとしたら、マリンはヘンリックに会った時に魅了をかけるにゃ。魔力で弾くこともできるが今のヘンリックはまだ出来ないにゃ。」
「そうだね。まだ出来ないだろうね。」
「学校には私みたいな目にあっている人が他にもいるの。その人たちって婚約者は学校にいないのよ。」
「おそらく、学校以外で魅了を使う気なんだろうにゃ。あぁーあのアイツが持ってるやつがあれば大丈夫なんだがにゃー。」
「なんだいそれは?」
「第一王子が着けてるやつ。最高級品の攻撃を弾く魔道具にゃ。あれは魅了も弾くにゃ。」
「なんでブルーノはそれを知ってるのかな?」
「あ"っ!!」
「ばかっ!ブルーノ!!」
「それを知っているのは王家に使える一部の者だけなんだけどねぇ。」
「…オレがアイツから聞いたにゃ…。そういえば内緒だって言ってたにゃ……。」
「そうだねぇ内緒だよねぇ。」
「お父様ごめんなさい。」
「お父さんごめんなさいにゃ。」
「これは王家の機密事項なんだよねぇ。誰にも言ってはいけないんだよ。気をつけるようにね。」
「はい。」
「はいにゃ。」
「それで学校のことなんだけど。明日は試験があるから行くつもりなんだけど、その後夏季休暇まで休んだ方がいいかなって思ってるの。お父様はどう思う?」
「そうだねぇ。そろそろ学校にも調査が入るから休んでいいと思うよ。」
「調査?」
「そうだよ。まぁこれは私の仕事と関係があるから教えてあげられないけどね。」
「ふぅん?では休みます。」
「わかったよ。明日の試験は頑張るんだよ。」
「はい。」
父はアリーナの頭を撫でて微笑んだ。
「ブルーノ、アリーナを頼むよ。」
「オレにまかせろにゃん。」そう胸を張った。
ブルーノはお父さんの仕事ってなんだろうにゃ?と思った。