3
連絡船がゆっくりと島へ近づいて行く。
真夏の太陽がジリジリと照りつける中、《陰キャ長屋合同合宿》のメンバーは島へ上陸した。
「わー!気持ちいいなー!」
夏目先輩が心底気持ち良さそうな声を出す。
港は案外広くて、船を降りると荷物を持ってゲートまで歩く。頭上には屋根があって、日差しを遮ってくれるから快適だ。潮風が吹き抜けていく。
「ほら、敬。あれ見て」
夏目先輩が指差す方向を見ると、ゲートの向こうに巨大な猫が肩肘をついて横向きに寝転がる姿の焼き物が見えて来た。
「よ!三毛!今年も会えたな」
夏目先輩が猫の頭を撫でる。
俺はその瞬間にシャッターを切った。
驚いてこっちを振り向く先輩。
夏の日差しに照らされたその顔にもシャッターを切る。
「敬、写真に熱心なのは写真部部長として嬉しいけど、ちゃんと作品になる写真を撮りなさいね。俺の写真撮ったって、ただの記念写真になっちゃうでしょ」
「記念写真でもいいです。だって先輩、合宿が終わったらもう引退でしょ。最後に思い出作りたいです」
「ハハッ。そっか。まあ、好きにしろよ。でもフォトコンテストの参加は部員として必須だから、ちゃんとコンテスト出品用の作品も撮るんだぞ」
「はい。分かってます」
「琉生、敬!自転車レンタルするぞ!」
長谷川先輩が小さなレンタサイクルの店の前で待っていてくれた。
自転車を借りると、とりあえずは合宿所へ向かう。
海沿いの道を自転車で走った。
砂浜にはモザイクタイルを使った雪室のような形の建物が見える。色とりどりのタイルが貼られた可愛らしい雰囲気だ。
何だかワクワクしてくる。このアートの島の作品を全部見て回りたい。
俺は意気込んで自転車のスピードを早めた。
「敬ー!そこの横道を入れ!」
後ろから長谷川先輩の声がする。
「分かりましたー!」
俺は海沿いの道から分かれた細い下り道へ入る。
「嘘だよー!」
「えぇっ!!」
みんなそのまま海沿いの道を自転車で走って行く。
俺は仕方なく自転車を降りてUターンする。けっこうな坂道だから、そのまま自転車を押しながら歩いて登った。
「敬、お疲れさん」
夏目先輩が坂の上で待っていてくれた。
「すみません。先輩、待っていてくれたんですね」
「悪いのは長谷川だろ。アイツ…。ほら行くぞ」
夏目先輩が自転車を漕ぎ出す。
俺は思わず首に下げたカメラを構えた。
カシャッ
「おい、また写真撮ってんの?行くぞー」
夏目先輩が自転車を止めて振り向く。
なんて綺麗なんだろう…。
青い空には真っ白な入道雲がモクモクと湧いていて、海はキラキラと輝いている。
自転車に跨ったままでこっちを振り向いている夏目先輩は、いつもの制服姿じゃなくて新鮮だ。
形のいい麦わら帽子を被っていて、顎の下で留められた紐が可愛らしい。紺色の半袖シャツに、カーキ色の短パンから伸びるまだ日に焼けていない白い足。細い足首。
真ん中で分けられた前髪は汗で湿って、そのかたちのいい額に張りついていた。
あの額にキス出来たら、俺、死んでもいいかも…。
自分の中に夏目先輩への強い欲望をハッキリと感じたのは、この時が初めてだった。
連絡船がゆっくりと島へ近づいて行く。
真夏の太陽がジリジリと照りつける中、《陰キャ長屋合同合宿》のメンバーは島へ上陸した。
「わー!気持ちいいなー!」
夏目先輩が心底気持ち良さそうな声を出す。
港は案外広くて、船を降りると荷物を持ってゲートまで歩く。頭上には屋根があって、日差しを遮ってくれるから快適だ。潮風が吹き抜けていく。
「ほら、敬。あれ見て」
夏目先輩が指差す方向を見ると、ゲートの向こうに巨大な猫が肩肘をついて横向きに寝転がる姿の焼き物が見えて来た。
「よ!三毛!今年も会えたな」
夏目先輩が猫の頭を撫でる。
俺はその瞬間にシャッターを切った。
驚いてこっちを振り向く先輩。
夏の日差しに照らされたその顔にもシャッターを切る。
「敬、写真に熱心なのは写真部部長として嬉しいけど、ちゃんと作品になる写真を撮りなさいね。俺の写真撮ったって、ただの記念写真になっちゃうでしょ」
「記念写真でもいいです。だって先輩、合宿が終わったらもう引退でしょ。最後に思い出作りたいです」
「ハハッ。そっか。まあ、好きにしろよ。でもフォトコンテストの参加は部員として必須だから、ちゃんとコンテスト出品用の作品も撮るんだぞ」
「はい。分かってます」
「琉生、敬!自転車レンタルするぞ!」
長谷川先輩が小さなレンタサイクルの店の前で待っていてくれた。
自転車を借りると、とりあえずは合宿所へ向かう。
海沿いの道を自転車で走った。
砂浜にはモザイクタイルを使った雪室のような形の建物が見える。色とりどりのタイルが貼られた可愛らしい雰囲気だ。
何だかワクワクしてくる。このアートの島の作品を全部見て回りたい。
俺は意気込んで自転車のスピードを早めた。
「敬ー!そこの横道を入れ!」
後ろから長谷川先輩の声がする。
「分かりましたー!」
俺は海沿いの道から分かれた細い下り道へ入る。
「嘘だよー!」
「えぇっ!!」
みんなそのまま海沿いの道を自転車で走って行く。
俺は仕方なく自転車を降りてUターンする。けっこうな坂道だから、そのまま自転車を押しながら歩いて登った。
「敬、お疲れさん」
夏目先輩が坂の上で待っていてくれた。
「すみません。先輩、待っていてくれたんですね」
「悪いのは長谷川だろ。アイツ…。ほら行くぞ」
夏目先輩が自転車を漕ぎ出す。
俺は思わず首に下げたカメラを構えた。
カシャッ
「おい、また写真撮ってんの?行くぞー」
夏目先輩が自転車を止めて振り向く。
なんて綺麗なんだろう…。
青い空には真っ白な入道雲がモクモクと湧いていて、海はキラキラと輝いている。
自転車に跨ったままでこっちを振り向いている夏目先輩は、いつもの制服姿じゃなくて新鮮だ。
形のいい麦わら帽子を被っていて、顎の下で留められた紐が可愛らしい。紺色の半袖シャツに、カーキ色の短パンから伸びるまだ日に焼けていない白い足。細い足首。
真ん中で分けられた前髪は汗で湿って、そのかたちのいい額に張りついていた。
あの額にキス出来たら、俺、死んでもいいかも…。
自分の中に夏目先輩への強い欲望をハッキリと感じたのは、この時が初めてだった。