青年に振り回されたせいで、由季との待ち合わせに遅れてしまい、俺はダッシュで待ち合わせの別の公園へと向かう。
息を切らしながら公園に着くと、由季の方から声を掛けてくれた。

「啓介くん、こっち!」

こちらに手を振る彼女は、本当に天使かと思う程に可愛い。
俺は乱れた髪を直しながら、彼女の元へと近寄る。

「ごめん、遅れちゃって」
「別に気にしてないよ、それで今日はどうしたの?」

用件を聞かれ、俺は彼女の為に作ったチョコレートを鞄の中から取り出す。

「じゃん!これチョコレート、俺が作ったの!」

彼女ならきっと喜んでくれる…そう思っていた。
しかし、由季の表情は何処か引き攣っているよう見える。

「ごめん、私何も用意してなくて…」

その言葉に、不思議と俺の心の中は落胆していた。
いやいや、そもそも俺は彼女に対して見返りなんて求めていない。
ただ、彼女の喜ぶ顔が見たかっただけなんだから。
すぐさまそう思い込むように切り替え、俺は彼女に微笑を浮かべる。

「そんなの気にしないから!それに他にもプレゼントを持ってきたんだ」
「え…開けてもいい?」

もう一つの小包を差し出すと、由季は包装紙を少し雑に破り出す。
包装紙から出てきたものは、二人の思い出が沢山詰まったアルバムだった。

「今日で付き合って丁度半年だから、作ってみたんだ」

ここ最近休みの日も寝る間も惜しんで、このアルバムを作っていた。
彼女のことを想うと作業は全然苦ではなかったし、寧ろ思い出を振り返ることも出来たわけで、とても楽しかったと思う。
健気で優しい彼女なら、このサプライズもきっと喜んでくれるはず…。

「……ちょっと、重いかな」

由季の口から出た言葉は、俺が全く想像もしていなかったものだった。

「……え?」
「前々から思ってたの。啓介くん、重すぎるよ」

”重い”……その言葉だけが、俺の頭の中でぐるぐると駆け巡っている。
そして、終いには永遠に言われることの無いであろう言葉を告げられてしまう。

「私たち別れよう」
「え、え…何で?」
「とにかく、もう付き合うの無理だから。それじゃあ」

由季はそれだけ告げると、走り去るように公園を後にした。
俺のプレゼントしたチョコレートとアルバムを残して。

その後、別れることに納得がいかなかった俺は由季に何度もメッセージを入れた。
しかし、既読すら付かない……おそらく既にブロックされているのだろう。
半年記念日…ましてやバレンタインデーに振られると思っていなかった俺の頭の中は真っ白だった。
重い足を何とか動かして、家に向かっていると、駅の近くで見覚えのある二人の男女を見掛ける。
由季と、もう一人は……さっき俺を振り回した美青年だ。
まさか、俺に嫌味を言われた腹いせに青年が由季を奪おうとしている…?
だから俺はさっき由季に振られたのか…!
青年を殴り込みに行こうと足を踏み出すも、由季の言葉に状況が一変する。

木崎(きさき)くん、好きです。チョコ作ってきたから、食べて欲しいな」

由季は木崎にチョコレートを手渡した。
木崎は満更でも無い様子でチョコレートを受け取る。

「ありがとうございます。凄く嬉しいんですが、由季先輩の気持ちにすぐには応えられないです」
「じゃあ、答えならいつまでも待つから!」

彼女の熱烈なアピールに、木崎は優しく微笑浮かべながら、由季の頭をポンッと撫でる。

「ありがとうございます」

由季は頬を赤く染めながら、”それじゃあ”と告げ、そそくさとその場を去った。
ずっと微笑を浮かべいた木崎は深い溜め息を吐きながら、由季から貰ったチョコレートを見つめる。
そして、駅前のゴミ箱に向かう。
そんな彼の行動を予測して、俺は木崎の前に立ちはだかった。

「あ、アンタはさっきの。またチョコ欲しくなったんすか?」
「ちげーよ…いや、違くないか。そのチョコは、俺が欲しくて欲しくて仕方なかったもんだからな」
「そうなんですか。それなら、あげますよ」
「いらねぇよ!!」

駅前ということもあり、大声を上げる俺に誰もが注目していた。
突然、俺が叫んだことで、木崎も驚いたのか慌てたように周囲を見回す。

「ちょっと、場所変えませんか?」
「……おう」

今の俺は、物凄く無様で惨めだと心の奥底から実感した。