ホームルームが始まる直前になってようやく、朝練を終えた運動部の面子がぞろぞろ教室に入ってくる。

「うわぁ。でたよ、高嶺柊(たかみねしゅう)
「今日も爆モテですな。我々オタクとは住んでる次元が違う。矢野氏もそう思うでしょう?」

 話を振られた俺は、一呼吸置いてから「あー、そうだね」と同調の返事をする。

 教室に入るなり――いや、廊下を歩いている段階で、周りに女子を侍らせているイケメンこそが高峯柊。

 サッカー部のエースで、英語ペラペラの帰国子女。おまけに背も高くて、アイドル並みに顔が良い。親は誰もが知る大企業の重役なんだとか。
 設定モリモリの爆モテイケメン。そんな男だ。

 片やこちらは、教室の隅に集まってアニメやゲームの話をしているような、典型的な陰キャ集団。
 声優の追っかけハシモッチャン、美少女ゲーム好きでオタク口調のノブさん、そして二次元を広く浅く愛す俺――矢野の三人組だ。

(普段パリピ滅べとか言ってるけど、悔しいことに実際、めちゃくちゃかっこいいんだよなぁ)
 
 女子と話す高嶺の端正な横顔を観察していると、視線に気づいたのか、何故かイケメンがこちらに向かって歩いてくる。

「何だ? こっち来るぞ」
「さっきのが聞こえてたのでは?」

 オタク仲間が戸惑い始める。

 高嶺の視線は俺に向いていて、嫌な予感がした。

「のの……じゃない、矢野。昼に体育館倉庫来て」

 彼はそれだけ告げて、またクラスの中心へと戻っていく。

 二年三組が始まって早半年。
 今まで一度だって、人気者の高嶺がオタク集団に話しかけにくることなんてなかった。

 それが突然変わった。心当たりなら――実は十分すぎるくらいある。

「どういうこと?」
「カツアゲ?」

 友人二人は放心状態で顔を見合わせている。

「そうかも……。俺、何かしたのかな」

 俺はへらりと笑って誤魔化した。