世都はタロットカードを両手でかき混ぜる。ひと山にまとめ、3山に分け、またひとつに。
そしていちばん上のカードをめくろうとして、その手を止めた。このままこの結果を伝えて良いものなのか、躊躇してしまう。
「女将さん……?」
結城さんが怪訝そうに首を傾げる。早く結果が知りたくてたまらないのだろう。
しかし、この結果が良いものであっても悪いものであっても、今のままでは。
きっと、結城さんが望む様な未来は訪れない。奇跡でも起きなければ。
「結城さん、結城さんはどうしはりたいんですか?」
世都の質問に、結城さんはぽかんとする。
「え、どうって」
「素敵な人と出会いたいて、言うてはりましたよね?」
「はい、そうです」
世都はまだカードをめくらない。この結果は「今の」結城さんによるものだ。それだときっと意味が無いのだ。
「そのためには、私は、結城さんが自立しはることが大事なんや無いかなぁって思うんです」
すると、結城さんはまたきょとんと目を瞬かせる。
「あたし、自立してますよ。働いてひとり暮らししてますし」
「そうや、無いんですよ」
世都はふるりと首を振る。確かに経済的には自立しているのだろうが。
「心の、自立です」
「心……?」
言われた意味が理解できないのか、結城さんは眉をしかめる。気分を害させてしまったかも知れない。だが世都は言葉を続ける。
「結城さんは、男性と、恋人と常に一緒にいたいと思ってはるんですよね?」
「恋人やったら、それが当たり前や無いんですか? 好きやから一緒にいたい、何をしてるか知りたい、そう思うんや無いですか?」
「思う人もいれば、思わん人もいますよ」
「そんなの、寂しく無いですか?」
「無いんですよねぇ」
互いが同じ熱量なら、釣り合いも取れるのだろう。それは勝手にやってくれと思う。だが結城さんの場合はそうでは無かったから、破局に至ったのだ。
恋は求めるもの、愛は与えるもの。良く言ったものである。相手のために尽くしてあげたいと思うことも、愛の側面なのかも知れない。だがそれは自己満足という見方もできる。
世都は尽くすことは相手のためにならないと思っているので、余計にそう感じてしまうのかも知れない。世都の個人的感情なのではあるが。
相手のことを思う、考える、慮る、何を望んでいるのかを汲み取る。それはとても難しいことだ。だがそれをしようとする心が「愛」なのだと思う。一緒に暮らしたいと言うのなら、それは必要不可欠なものなのだ。家族同士であっても、友人同士であっても、恋人同士であっても。
結城さんは相手のことを考えている様で、そうでは無かった。求めていただけだったのだ。きっと山縣さんには重荷になっていただろう。結城さんの感情は「恋」の域を超えてはいなかった。
「だって、恋は人生のオプションですもん」
恋や趣味などは人生を彩るものであって、不可欠なものでは無いのだ。あれば気持ちが、人生が豊かになる、それだけのものだ。暴論だとも思うが、それは事実であると世都は思う。
未熟な恋が育ってたおやかな愛になる。それはその通りだと思う。だが育てきれない人だっている。今の結城さんがその典型なのだ。
「オプション、ですか……?」
「はい。無くてもええもんやと、私は思ってます」
「でも、あたしには無くてはならんもんで……」
それが悪いことだとは言わない。それも大きな潤いだ。だが先を考えるのであれば、発展させてあげなければならないのだと思う。
恋特有のときめきなども大事なものなのだろう。だが相手の悪いところも受け入れることができる器は愛から生まれる。少なくとも世都はそう思っている。もちろん限度はあるが。言葉であれ物理であれ暴力行為を受けたら逃げて欲しいし、浮気などされたら社会的に痛め付けてやれなんて過激なことを思ってしまう。
相手を思いやれなければ、健全な関係なんて築けない。相手に求めてばかりだと、その関係は歪みを起こす。簡単なことなのだ。
「結城さん、一緒に暮らすのに、関係を続けるのに大事なことは、なんやと思います?」
「え、な、なんやろ」
結城さんはうろたえてしまう。相手を優先し、尽くし、そして縛ってしまっていた結城さん。そんな結城さんに言うには酷なのかも知れない。だが、そうしなければきっと結城さんは一生このままだ。自分で気付くにはきっと難しい。なぜなら。
「自分勝手にならんことです」
結城さんが目を見張り、息を飲むのが分かる。
「あたし、自分勝手、ですか?」
世都はゆっくりと頷く。結城さんの顔がみるみると強張って行った。
「そんな、そんなつもりは」
「もちろん無いんやと思いますよ。でもね、結城さん、結城さんはお相手に求めてしもうてばかりなんや無いかと思うんですよ」
「でもあたし、家事とかも全部やってあげたりして、いつでもたっくんのためにって」
世都は泣きそうになる結城さんに穏やかに、だがはっきりと問うた。
「それを、お相手は望んではりましたか?」
「……え?」
結城さんは愕然とした表情で、ぽつりと呟いた。
そしていちばん上のカードをめくろうとして、その手を止めた。このままこの結果を伝えて良いものなのか、躊躇してしまう。
「女将さん……?」
結城さんが怪訝そうに首を傾げる。早く結果が知りたくてたまらないのだろう。
しかし、この結果が良いものであっても悪いものであっても、今のままでは。
きっと、結城さんが望む様な未来は訪れない。奇跡でも起きなければ。
「結城さん、結城さんはどうしはりたいんですか?」
世都の質問に、結城さんはぽかんとする。
「え、どうって」
「素敵な人と出会いたいて、言うてはりましたよね?」
「はい、そうです」
世都はまだカードをめくらない。この結果は「今の」結城さんによるものだ。それだときっと意味が無いのだ。
「そのためには、私は、結城さんが自立しはることが大事なんや無いかなぁって思うんです」
すると、結城さんはまたきょとんと目を瞬かせる。
「あたし、自立してますよ。働いてひとり暮らししてますし」
「そうや、無いんですよ」
世都はふるりと首を振る。確かに経済的には自立しているのだろうが。
「心の、自立です」
「心……?」
言われた意味が理解できないのか、結城さんは眉をしかめる。気分を害させてしまったかも知れない。だが世都は言葉を続ける。
「結城さんは、男性と、恋人と常に一緒にいたいと思ってはるんですよね?」
「恋人やったら、それが当たり前や無いんですか? 好きやから一緒にいたい、何をしてるか知りたい、そう思うんや無いですか?」
「思う人もいれば、思わん人もいますよ」
「そんなの、寂しく無いですか?」
「無いんですよねぇ」
互いが同じ熱量なら、釣り合いも取れるのだろう。それは勝手にやってくれと思う。だが結城さんの場合はそうでは無かったから、破局に至ったのだ。
恋は求めるもの、愛は与えるもの。良く言ったものである。相手のために尽くしてあげたいと思うことも、愛の側面なのかも知れない。だがそれは自己満足という見方もできる。
世都は尽くすことは相手のためにならないと思っているので、余計にそう感じてしまうのかも知れない。世都の個人的感情なのではあるが。
相手のことを思う、考える、慮る、何を望んでいるのかを汲み取る。それはとても難しいことだ。だがそれをしようとする心が「愛」なのだと思う。一緒に暮らしたいと言うのなら、それは必要不可欠なものなのだ。家族同士であっても、友人同士であっても、恋人同士であっても。
結城さんは相手のことを考えている様で、そうでは無かった。求めていただけだったのだ。きっと山縣さんには重荷になっていただろう。結城さんの感情は「恋」の域を超えてはいなかった。
「だって、恋は人生のオプションですもん」
恋や趣味などは人生を彩るものであって、不可欠なものでは無いのだ。あれば気持ちが、人生が豊かになる、それだけのものだ。暴論だとも思うが、それは事実であると世都は思う。
未熟な恋が育ってたおやかな愛になる。それはその通りだと思う。だが育てきれない人だっている。今の結城さんがその典型なのだ。
「オプション、ですか……?」
「はい。無くてもええもんやと、私は思ってます」
「でも、あたしには無くてはならんもんで……」
それが悪いことだとは言わない。それも大きな潤いだ。だが先を考えるのであれば、発展させてあげなければならないのだと思う。
恋特有のときめきなども大事なものなのだろう。だが相手の悪いところも受け入れることができる器は愛から生まれる。少なくとも世都はそう思っている。もちろん限度はあるが。言葉であれ物理であれ暴力行為を受けたら逃げて欲しいし、浮気などされたら社会的に痛め付けてやれなんて過激なことを思ってしまう。
相手を思いやれなければ、健全な関係なんて築けない。相手に求めてばかりだと、その関係は歪みを起こす。簡単なことなのだ。
「結城さん、一緒に暮らすのに、関係を続けるのに大事なことは、なんやと思います?」
「え、な、なんやろ」
結城さんはうろたえてしまう。相手を優先し、尽くし、そして縛ってしまっていた結城さん。そんな結城さんに言うには酷なのかも知れない。だが、そうしなければきっと結城さんは一生このままだ。自分で気付くにはきっと難しい。なぜなら。
「自分勝手にならんことです」
結城さんが目を見張り、息を飲むのが分かる。
「あたし、自分勝手、ですか?」
世都はゆっくりと頷く。結城さんの顔がみるみると強張って行った。
「そんな、そんなつもりは」
「もちろん無いんやと思いますよ。でもね、結城さん、結城さんはお相手に求めてしもうてばかりなんや無いかと思うんですよ」
「でもあたし、家事とかも全部やってあげたりして、いつでもたっくんのためにって」
世都は泣きそうになる結城さんに穏やかに、だがはっきりと問うた。
「それを、お相手は望んではりましたか?」
「……え?」
結城さんは愕然とした表情で、ぽつりと呟いた。