☆輝星side☆
闇夜にひっそりとたたずむバス停には、僕以外誰もいない。
そりゃそうかとボヤキ、梅雨時期とは思えない星たちの堂々たる輝きに目を止めた。
電車の駅というすぐれたものが、高校のすぐ近くにある。
徒歩や自転車以外は電車通学がほとんどで、バスに乗るのは家の近くに駅がない田舎暮らしの生徒ぐらいだ。つまりは僕。
それでもバスで45分揺られれば、家の近くまで連れて行ってくれる。
ありがたやと、くたびれ感漂うバスに手を合わせての感謝は欠かせない。
だって経営赤字のこのバスがなくなってしまったら大変。
山道を自転車コギコギで遠くの駅まで行って、電車に揺られ、帰りも自転車コギコギという通学地獄が待っている。
太陽の照りが強烈な真夏日は特に、高校に行きたくなくなるだろう。体が凍りつくような真冬も同様に。
雨が降ってはいないが、梅雨特有のじめっぽさで空気が重い。
じとじとが体感温度を無駄に上げる。
腕にまとわりつく熱を逃がしたくて、僕は制服シャツの長い袖を肘までまくった。
いつも君を隠していてごめんね。
広範囲にわたる腕の傷を、手のひらで慈しむように撫でる。
君のこと、嫌いじゃないよ。
むしろ大好き。
霞くんとのかけがえのない想い出でできた稲妻に見えるんだ。
でもね、僕はこの赤黒い傷跡を晒せない。
霞くんの前では特にね。
彼を悲しませたくない。
僕のことで悲痛な表情を浮かべないで欲しいと、切に願ってしまう。
人間が持つありとあらゆる感情というものは、絡まりやすくて、ほどくのが難儀で、ほんと扱いづらいよね。
頼りなく揺れる街灯の光が、僕とバス停だけを闇から浮かびあがらせている。
折れそうなほど薄い月が行方をくらませた。
さっきまで雲一つない夜空だったのに、明日は雨なのかもしれない。
放課後だけは大雨であってくれないかな。
そうすれば調理室からテニスコートを見下ろすことも、カスミソウカプを瞳に映して作り笑いを浮かべることもしなくてすむから。
雲間から顔を出した頼りない月に願いを込めてみたものの「天気は操れないから無理」と突き放された気がするのは、また月が雲に隠れてしまったせい。
他力本願はよくないよね。
そもそも部活中に窓の外を見なければいい話だし。
体力が吸い取られた時のように背骨がへにゃる。
体に力が入らない。
バス停に頭を預けたその時だった。
聞き覚えのある、僕の耳には入れたくない、鼓膜が拒絶するようなワイルドな笑い声が聞こえてきたのは。