「拓三ぃは、神佑大の学生さんなんやっけ?」
敵意のなさそうな微笑みを浮かべて、五代さんは俺の所属を確認してきた。正解なのでうなずいてみせる。情報工学部なのに生命工学系っぽいオルタネーター計画の中心地なXanaduに預かってもらうのは、専門とズレている、とはいえ、元校庭で出会った四足歩行の警備ロボットは機械工学系っぽいし、認証キーは情報工学部の教授であるユニのお手製となれば、一カ所にさまざまな技術が寄せ集められていると言えるか。そこで大学一年目な俺に何ができんの、って聞かれたら、特に専門的な知識があるわけではない。力仕事ぐらいなら率先してやっていこうと思う。学べるところがあれば学ばせてもらいたい。
「そうですけど」
「どこで宇宙人と知り合ったん?」
知り合ったも何も、俺にとってのあの人は宇宙人ではなくてマヒロさんだった。あちらは最期までマヒロさんのフリをしていたし、俺は弐瓶教授から明かされるまで正体を知らなかったから。
「その宇宙人が、行方不明になっていた義理の母親の姿で俺の前に現れたんです。知り合ったというか、あっちが知り合いのフリしてきたっていうか」
「そんで、拓三ぃはちいっとも疑わず、家に上がらせたと」
そこはかとなく、トゲのあるような言い回しをされているのは癪だな。話し方は関西弁のおにいさんって感じで、こちらを責めているわけではないから俺の思い過ごしだろうけれど。今日のここまでに五代さんの気分を害するようなことを言った覚えはないし。
「母方の祖父母の家に住んでいたので、義理の母親――真尋さんのご実家なんですけど、上野の不忍池の近所にあるんですよ。マヒロさん、いや、宇宙人は、俺が招き入れたんじゃあないです。ご本人がご実家に帰るような感じだったんですよ。少し路地のほうにあってわかりにくい道なのに、迷っていませんでした。疑う余地、あります?」
ないでしょ。真尋さんのことをあれだけ溺愛していた祖母ですら見抜けなかったのだし。俺や祖母、祖父、あの辺の方々にとって、マヒロさんはニセモノではなくてホンモノだった。祖母や祖父にとっては愛している娘。中身が宇宙人だろうと『真尋さんが帰ってきた』という事実は、二〇一八年三月三十一日からの約半年間、真実として成り立っていたんだよ。そこでさ、俺がさ、弐瓶教授から教えてもらっていて、マヒロさんは実は宇宙人で、と言いふらしても、俺のほうがおかしくなってしまったんじゃあないかって噂されてしまうよ。ご近所付き合いで、空気を読むのは大事だよ。
「Xanaduにも宇宙人がおるねん」
「「マジ!?」」
弐瓶教授と反応が被った。
というか、弐瓶教授さえも知らなかったのか。五代さんと親しげなのに。
「冗談を言ってもしゃあないやん。ほんまのことやで。宇宙の果ての、おもろい話をいろいろ聞けて自分も勉強になるわあ思っとるよ。お互いに情報共有っちゅーこっちゃな! フランソワさん」
灰色のスーツを着た七三分けに黒縁メガネな男が「ハイ、そうですね」とぬるっと会話に入ってくる。フランソワって名前とは結びつけられないような、日本人ビジネスマンスタイル。そのスーツの色とカーテンの色が近しかったせいか、俺も弐瓶教授も気付いていなかった。窓にもたれかかり、腕を組んでいる。ずっとそこにいたの? それとも、俺と五代さんがやりとりしている間にしれっと裏口から入ってきたの?
そのフランソワさんの年齢は、五代さんより年上っぽい。ご大層な肩書きがたくさん付いているわりに、五代さんは見た目結構若い。ユニより若そうにも見える。この部屋の中での最年長はおそらくフランソワさんだ。マヒロさんのように他の人間の見た目を間借りしているのだとすれば、実年齢はわからないけれど、おじさんがいくつだろうと興味ないからいいや。
「フランソワさんは、政府の先端技術研究の支援員なんよ」
「政府って、この国の?」
文脈的にそうだろうけれど、我が国がそういった支援をするようには思えなくて、聞いてしまった。しかも宇宙人だっていうのに。
「せやで」
俺は今一度、フランソワさんを見た。変哲もない、と言うと失礼だけれど、都心部のオフィス街をビジネスバッグ片手に歩き回っていそうな、いたって普通の男性。とてもじゃあないが宇宙人には見えない。マヒロさんは、まあ、可愛らしくておっぱいの大きな美人妻で、フランソワさんはなんか、こう、一般人すぎる。
「でもでも! フランソワさんは宇宙人なのよねん?」
ユニからその正体を訝しがられている、と解釈したのか、フランソワさんはその左手を挙げて、マヒロさんが出してくれたものと同じ銀色の円盤を出現させた。お前も持っているのか。人生で二度もタイムマシンを見ることになるとはな。俺は別に、……使っていいなら使いたいな。
「乗ってもいいのん?」
そわそわしている弐瓶教授。教授のほうが乗りたいよな。今すぐにでも一色京壱が飛び降りる前の時間軸に行きたいのだろう。フランソワさんの返事を待たず、ここであわよくば達成しようと、その機体に触ろうとして、タイムマシンは消失した。
「ダメです」
「マヒロさんは乗せてくれたよーん?」
「弐瓶柚二、アナタの目的は、あの子から聞いています。ワタクシもアナタも、あの子に協力するのでしょう?」
「なあに、フランソワさんとアンゴルモアはお知り合い?」
「ええ。――ですので、あの子の任務はワタクシが引き継ぎます」
フランソワさんが俺のほうに視線を向けてきたので、逸らす。糾弾されそうな気がした。俺は悪くない。あちらがしていいよって言うからしたのに、その結果でなんだか思い詰めてしまって首を吊られた。俺は悪くないよな。
「自分らのオルタネーター計画は、宇宙の力で完成したんや」
革張りの椅子から立ち上がり、フランソワさんの肩を揉む五代さん。生命工学から宇宙工学に話が飛躍した……のか?
「英伍くん、質問でぇーす」
弐瓶教授が右手を挙げる。背格好とあいまって、最新鋭の研究施設を見学にきたどこぞの学生さん、のようにも見えた。
「ほい、ユニ坊」
「オルタネーター計画の『オルタネーター』ってどういう意味なのん?」
知らなかったのか。知らないのに協力していたのか。ずいぶんとまあ。
「……なぁんか呆れられちゃってるけどけど、参宮くんのために聞いてんだかんね」
「はあ、そうだったんですか。それは、余計な気を回させましたね」
「もう。参宮くんはこれからここにお世話になるんだから、興味持ってるフリぐらいはしといてよねん」
発起人な五代さんの前で言わないほうがいいんじゃあないかな?
五代さんは五代さんでずっとニコニコしっぱなしで表情が固定化されている。表情から腹の中を探れない。目は口ほどにものを言うなんて言うけれど、その瞳が見えづらいしさ。
「興味はありますよ。なんせ政府が認めた先端技術ですから」
「だよねん。英伍くんはすごいのだ」
弐瓶教授が五代さんを讃えると、ようやく「照れるやんかー」とさきほどまでとはニュアンスの違う笑いに変わった。わかりづらい。なんだろうこの人は。……やっぱり気になるし聞いておくか。
「弐瓶教授と五代さん、どういったご関係なんですか?」
「いとこだよん?」
「あ、ああ、はいはい」
いとこね。俺から見たいとこはいな、い、と言いたいところだが、俺を産んだ母親のほうの家系図を知らないから、実はいるのかもしれない。親戚付き合いが皆無だったもんで、いとこ同士って言われたらこんなもんなのかな、と納得しておこう。
「なんやと思ったん?」
「元彼とか」
軽口のつもりだったんだけれど、弐瓶教授が「違うよーん! ユニちゃんは、京壱くん一筋なんだからね!」と拳を振り回して抗議する。知っているから叩かないでほしい。
「……さて、オルタネーター計画やけども」
五代さんが咳払いして、話はオルタネーター計画へと戻ってきた。ついでにスクリーンが天井からおりてくる。会話に混ざる素振りのなかったフランソワさんが用意してくれていたみたい。
「元々は、病気で悪くなった臓器やらケガで傷ついた皮膚やらを置き換えるための代替品を生成する、ってのが始まりだったんよ」
プロジェクターが起動する。スクリーンにはスライドショーが映し出された。赤くてブヨブヨしたものが、オルタネーター計画の初期段階、五代さんたちのチームで作り上げた成果物。
「此度の研究支援で、フランソワさんが派遣されてきてな。この代替品に、宇宙人の〝カケラ〟を混ぜることで、オルタネーターの第二段階――初期のオルタネーター計画からすると、完成品と言っても差し支えのないものが出来上がった」
画面が切り替わり、動画が流れる。初期段階のものに、ピンセットで〝カケラ〟を加えると、みるみるうちに人間の眼球へと変化した。
「皮膚の一部でも、抜けた髪の毛でもええんやけど、そのカケラひとつがオルタネーターの核細胞になるんよ。でもって、第三段階。自分らは『人間』の代替品を製造した」
次の画面には、板前姿の女性が登場した。ベリーショートな黒髪のその女性は、魚――ウナギだな。ウナギを手早く捌いている。厨房にいる女性は彼女一人で、他は全員老年男性。
「彼女はウナギ職人のところに弟子入りしたオルタネーターやで。めっちゃ可愛がられとって、アニーちゃん、って呼ばれとるらしい」
「人間にしか見えないのん」
俺も弐瓶教授に同じく。ただのグロテスクな肉塊から、こんなテキパキと働く女性が出来上がるのか。
「代用、のオルタナティブから、オルタネーター。もしくは、このご時世、人類の危機の、これからの時代を支える『発電機』としてのオルタネーターやで」
「なるほど。ありがとうございます」
理解した。全てのオルタネーターがアニーちゃんのように、人間の代わりとして働いてくれるんなら、人間は楽ができるようになるじゃん。アニーちゃんの働いているウナギ屋なんて、映っていたご老人たちって職人だろ? 年寄りに無理させるよりは、代わりのオルタネーターに働いてもらったほうがいいよな。
話が終わったタイミングでさっさと片付け始めるフランソワさん。五代さんとフランソワさんの力関係が気になる。フランソワさんのほうが下なのか?
「そんでな、拓三ぃ。明日、拓三ぃのおかあちゃんが来日することになってんねん」
敵意のなさそうな微笑みを浮かべて、五代さんは俺の所属を確認してきた。正解なのでうなずいてみせる。情報工学部なのに生命工学系っぽいオルタネーター計画の中心地なXanaduに預かってもらうのは、専門とズレている、とはいえ、元校庭で出会った四足歩行の警備ロボットは機械工学系っぽいし、認証キーは情報工学部の教授であるユニのお手製となれば、一カ所にさまざまな技術が寄せ集められていると言えるか。そこで大学一年目な俺に何ができんの、って聞かれたら、特に専門的な知識があるわけではない。力仕事ぐらいなら率先してやっていこうと思う。学べるところがあれば学ばせてもらいたい。
「そうですけど」
「どこで宇宙人と知り合ったん?」
知り合ったも何も、俺にとってのあの人は宇宙人ではなくてマヒロさんだった。あちらは最期までマヒロさんのフリをしていたし、俺は弐瓶教授から明かされるまで正体を知らなかったから。
「その宇宙人が、行方不明になっていた義理の母親の姿で俺の前に現れたんです。知り合ったというか、あっちが知り合いのフリしてきたっていうか」
「そんで、拓三ぃはちいっとも疑わず、家に上がらせたと」
そこはかとなく、トゲのあるような言い回しをされているのは癪だな。話し方は関西弁のおにいさんって感じで、こちらを責めているわけではないから俺の思い過ごしだろうけれど。今日のここまでに五代さんの気分を害するようなことを言った覚えはないし。
「母方の祖父母の家に住んでいたので、義理の母親――真尋さんのご実家なんですけど、上野の不忍池の近所にあるんですよ。マヒロさん、いや、宇宙人は、俺が招き入れたんじゃあないです。ご本人がご実家に帰るような感じだったんですよ。少し路地のほうにあってわかりにくい道なのに、迷っていませんでした。疑う余地、あります?」
ないでしょ。真尋さんのことをあれだけ溺愛していた祖母ですら見抜けなかったのだし。俺や祖母、祖父、あの辺の方々にとって、マヒロさんはニセモノではなくてホンモノだった。祖母や祖父にとっては愛している娘。中身が宇宙人だろうと『真尋さんが帰ってきた』という事実は、二〇一八年三月三十一日からの約半年間、真実として成り立っていたんだよ。そこでさ、俺がさ、弐瓶教授から教えてもらっていて、マヒロさんは実は宇宙人で、と言いふらしても、俺のほうがおかしくなってしまったんじゃあないかって噂されてしまうよ。ご近所付き合いで、空気を読むのは大事だよ。
「Xanaduにも宇宙人がおるねん」
「「マジ!?」」
弐瓶教授と反応が被った。
というか、弐瓶教授さえも知らなかったのか。五代さんと親しげなのに。
「冗談を言ってもしゃあないやん。ほんまのことやで。宇宙の果ての、おもろい話をいろいろ聞けて自分も勉強になるわあ思っとるよ。お互いに情報共有っちゅーこっちゃな! フランソワさん」
灰色のスーツを着た七三分けに黒縁メガネな男が「ハイ、そうですね」とぬるっと会話に入ってくる。フランソワって名前とは結びつけられないような、日本人ビジネスマンスタイル。そのスーツの色とカーテンの色が近しかったせいか、俺も弐瓶教授も気付いていなかった。窓にもたれかかり、腕を組んでいる。ずっとそこにいたの? それとも、俺と五代さんがやりとりしている間にしれっと裏口から入ってきたの?
そのフランソワさんの年齢は、五代さんより年上っぽい。ご大層な肩書きがたくさん付いているわりに、五代さんは見た目結構若い。ユニより若そうにも見える。この部屋の中での最年長はおそらくフランソワさんだ。マヒロさんのように他の人間の見た目を間借りしているのだとすれば、実年齢はわからないけれど、おじさんがいくつだろうと興味ないからいいや。
「フランソワさんは、政府の先端技術研究の支援員なんよ」
「政府って、この国の?」
文脈的にそうだろうけれど、我が国がそういった支援をするようには思えなくて、聞いてしまった。しかも宇宙人だっていうのに。
「せやで」
俺は今一度、フランソワさんを見た。変哲もない、と言うと失礼だけれど、都心部のオフィス街をビジネスバッグ片手に歩き回っていそうな、いたって普通の男性。とてもじゃあないが宇宙人には見えない。マヒロさんは、まあ、可愛らしくておっぱいの大きな美人妻で、フランソワさんはなんか、こう、一般人すぎる。
「でもでも! フランソワさんは宇宙人なのよねん?」
ユニからその正体を訝しがられている、と解釈したのか、フランソワさんはその左手を挙げて、マヒロさんが出してくれたものと同じ銀色の円盤を出現させた。お前も持っているのか。人生で二度もタイムマシンを見ることになるとはな。俺は別に、……使っていいなら使いたいな。
「乗ってもいいのん?」
そわそわしている弐瓶教授。教授のほうが乗りたいよな。今すぐにでも一色京壱が飛び降りる前の時間軸に行きたいのだろう。フランソワさんの返事を待たず、ここであわよくば達成しようと、その機体に触ろうとして、タイムマシンは消失した。
「ダメです」
「マヒロさんは乗せてくれたよーん?」
「弐瓶柚二、アナタの目的は、あの子から聞いています。ワタクシもアナタも、あの子に協力するのでしょう?」
「なあに、フランソワさんとアンゴルモアはお知り合い?」
「ええ。――ですので、あの子の任務はワタクシが引き継ぎます」
フランソワさんが俺のほうに視線を向けてきたので、逸らす。糾弾されそうな気がした。俺は悪くない。あちらがしていいよって言うからしたのに、その結果でなんだか思い詰めてしまって首を吊られた。俺は悪くないよな。
「自分らのオルタネーター計画は、宇宙の力で完成したんや」
革張りの椅子から立ち上がり、フランソワさんの肩を揉む五代さん。生命工学から宇宙工学に話が飛躍した……のか?
「英伍くん、質問でぇーす」
弐瓶教授が右手を挙げる。背格好とあいまって、最新鋭の研究施設を見学にきたどこぞの学生さん、のようにも見えた。
「ほい、ユニ坊」
「オルタネーター計画の『オルタネーター』ってどういう意味なのん?」
知らなかったのか。知らないのに協力していたのか。ずいぶんとまあ。
「……なぁんか呆れられちゃってるけどけど、参宮くんのために聞いてんだかんね」
「はあ、そうだったんですか。それは、余計な気を回させましたね」
「もう。参宮くんはこれからここにお世話になるんだから、興味持ってるフリぐらいはしといてよねん」
発起人な五代さんの前で言わないほうがいいんじゃあないかな?
五代さんは五代さんでずっとニコニコしっぱなしで表情が固定化されている。表情から腹の中を探れない。目は口ほどにものを言うなんて言うけれど、その瞳が見えづらいしさ。
「興味はありますよ。なんせ政府が認めた先端技術ですから」
「だよねん。英伍くんはすごいのだ」
弐瓶教授が五代さんを讃えると、ようやく「照れるやんかー」とさきほどまでとはニュアンスの違う笑いに変わった。わかりづらい。なんだろうこの人は。……やっぱり気になるし聞いておくか。
「弐瓶教授と五代さん、どういったご関係なんですか?」
「いとこだよん?」
「あ、ああ、はいはい」
いとこね。俺から見たいとこはいな、い、と言いたいところだが、俺を産んだ母親のほうの家系図を知らないから、実はいるのかもしれない。親戚付き合いが皆無だったもんで、いとこ同士って言われたらこんなもんなのかな、と納得しておこう。
「なんやと思ったん?」
「元彼とか」
軽口のつもりだったんだけれど、弐瓶教授が「違うよーん! ユニちゃんは、京壱くん一筋なんだからね!」と拳を振り回して抗議する。知っているから叩かないでほしい。
「……さて、オルタネーター計画やけども」
五代さんが咳払いして、話はオルタネーター計画へと戻ってきた。ついでにスクリーンが天井からおりてくる。会話に混ざる素振りのなかったフランソワさんが用意してくれていたみたい。
「元々は、病気で悪くなった臓器やらケガで傷ついた皮膚やらを置き換えるための代替品を生成する、ってのが始まりだったんよ」
プロジェクターが起動する。スクリーンにはスライドショーが映し出された。赤くてブヨブヨしたものが、オルタネーター計画の初期段階、五代さんたちのチームで作り上げた成果物。
「此度の研究支援で、フランソワさんが派遣されてきてな。この代替品に、宇宙人の〝カケラ〟を混ぜることで、オルタネーターの第二段階――初期のオルタネーター計画からすると、完成品と言っても差し支えのないものが出来上がった」
画面が切り替わり、動画が流れる。初期段階のものに、ピンセットで〝カケラ〟を加えると、みるみるうちに人間の眼球へと変化した。
「皮膚の一部でも、抜けた髪の毛でもええんやけど、そのカケラひとつがオルタネーターの核細胞になるんよ。でもって、第三段階。自分らは『人間』の代替品を製造した」
次の画面には、板前姿の女性が登場した。ベリーショートな黒髪のその女性は、魚――ウナギだな。ウナギを手早く捌いている。厨房にいる女性は彼女一人で、他は全員老年男性。
「彼女はウナギ職人のところに弟子入りしたオルタネーターやで。めっちゃ可愛がられとって、アニーちゃん、って呼ばれとるらしい」
「人間にしか見えないのん」
俺も弐瓶教授に同じく。ただのグロテスクな肉塊から、こんなテキパキと働く女性が出来上がるのか。
「代用、のオルタナティブから、オルタネーター。もしくは、このご時世、人類の危機の、これからの時代を支える『発電機』としてのオルタネーターやで」
「なるほど。ありがとうございます」
理解した。全てのオルタネーターがアニーちゃんのように、人間の代わりとして働いてくれるんなら、人間は楽ができるようになるじゃん。アニーちゃんの働いているウナギ屋なんて、映っていたご老人たちって職人だろ? 年寄りに無理させるよりは、代わりのオルタネーターに働いてもらったほうがいいよな。
話が終わったタイミングでさっさと片付け始めるフランソワさん。五代さんとフランソワさんの力関係が気になる。フランソワさんのほうが下なのか?
「そんでな、拓三ぃ。明日、拓三ぃのおかあちゃんが来日することになってんねん」