**無職7日目(9月7日)**
心太朗は無職生活を始めて1週間が経過した。意外と早いス時期に心身が回復していることに、自分でも思わず「俺ってこんな単純な生き物だった?」と疑ってしまったほどだ。眠たい時には遠慮せずに寝て、グランピングで自然パワーを吸収した結果、まさかの「心も体も元気です!」状態。巷でよく聞く「自然に癒される」なんて台詞が、まさかここまで効くとは思わなかった。仕事に戻れるんじゃないかと一瞬頭をよぎったが、「いやいや、まだそれは無理っす。もうちょっと無職を楽しませてくれ」と、彼は無職ライフを満喫しようと決めた。
そんな彼に、現実という名のパンチが迫ってきた。「あれ、俺、あと2ヶ月で父親じゃん」。予定通りなら、父親デビューまで残りわずか。いや、無職のままでデビューとか、心太朗自身が心配でしかない。「まだ働くの怖い…」なんて言い訳しているが、そもそも父親になる実感すらないという問題。澄麗はお腹もかなり大きくなって、すっかり母になる準備万端な感じだが、心太朗は「父親の予習ゼロ」。よく「母は子供が産まれる前に母になる、父は産まれてから父になる」って言うけど、今のところ全然ピンとこないどころか「本当に俺、父親になれるの?」というレベル。
そんなこんなで、赤ちゃんが産まれる前に必要なものを揃えなきゃいけない時期に突入。働いてた頃は13時間労働や休日出勤で、準備なんてする余裕は皆無。しかし、今は無職!つまり、動ける時間はある!…いや、多少は、、。
そこで、澄麗と一緒に赤ちゃんグッズを買いに行くことに。驚いたことに、家の周りには赤ちゃん用品店が意外と充実していて、西松屋、ベビーザらス、アカチャンホンポ、バースデイまで揃っている。「赤ちゃん用品のドリームチームかよ」って思うほど。しばし無職という事実を忘れ、2人はベビー用品選びに没頭する。
澄麗がしっかりとリストアップしてくれた必要なアイテムは次の通り:
- チャイルドシート(最重要…らしい。まだ無職だけど安全には投資しなきゃ)
- バウンサー(簡易ベビーベッド)
- 紙おむつとおしり拭き(どれだけ使うか未知。たぶん魔法のごとく消えるらしい)
- 肌着10枚、服4着、アウター1枚(11月生まれだから)
- 布団(寝具は絶対重要)
- 哺乳瓶、ミルク(哺乳瓶を洗うグッズも買うべき)
- 爪切り(赤ちゃんの爪って、いつの間かに伸びるらしい)
- ベビークリーム、ソープ、洗濯用洗剤(赤ちゃんの肌は超敏感)
- ベビーバス(赤ちゃんのお風呂)
- 母乳パッド(え、これ何に使うの?)
バウンサーは心太朗の姉がお祝いでくれるらしく、ベビーバスは心太朗の甥が使っていたものが実家にあるとして、心太朗は、「ベビーカーや抱っこ紐も必要なんじゃないの?」と思いつつも、澄麗曰く、焦る必要はないらしい。新生児は首が据わっていないため、ベビーカーや抱っこ紐はすぐには使えない。外出する機会もそんなに多くないし、抱っこしている間は軽いので問題ない。むしろ、産まれたばかりの赤ちゃんに早く買っても、結局あまり使わないという話もよく聞く。焦って「どんだけ無駄遣いしたんだ」と後悔するより、慎重に選ぶ方が賢明だと心太朗は思った。
それにしても、最も高価なのはチャイルドシートだ。ピンからキリまであり、10万円を超えるものも珍しくない。心太朗は「さすがにそこまでは必要ないだろう」と考えたが、交通ルールでチャイルドシートは150センチまで義務付けられている。「150センチって、どこの大人が乗るんだ?」と内心ツッコミを入れつつ、子供の安全が最優先なのは言うまでもない。しかし、これもどうせ3歳くらいでサイズアウトしてしまう。「じゃあ、3年で買い替え?これはもはや「お金をドブに捨てる」レベルだ」と心太朗は思った。だから、最初から高価なものを買う意味はない。3歳を過ぎたら、クッションや座高を上げるだけのシートで充分らしい。むしろ、「買い替え前提」の選び方をした方が賢いだろうと2人は考えた。下の子ができたら、そちらに回す手もあるのだ。
いろんな店を回った2人は目星をつけていたが、最後に立ち寄った西松屋で「秋の感謝祭セール」に遭遇。そこで目にしたのは、まさかの1万円のチャイルドシートだった。「これって運命?」と心太朗は思わず心が躍った。安全性を店員に念入りに確認し、ネットでもチェックして、満場一致で「これでいいじゃん!」となった。しかも、心太朗の車は古いためISOFIX(固定用のアレ)がない。「これがあるかないかで値段が変わるのか!自分の車が古くてよかった…のか?」と一瞬疑問に思ったが、逆に安く済んだのだ。「1万円は超お得だ。まさにラッキー買い物だ!」
次に2人が直面したのはおむつ問題。紙おむつとおしり拭きがどれだけ必要か、見当もつかなかった。しかし、ネットで調べると「異常な量を消費する」との情報が目に入った。とりあえず最初の2週間分だけ購入しておこうと2人は決めた。赤ちゃんの肌に合うかどうかもわからないため、慎重になるべきだ。ここで失敗すると、後で地獄が待っているらしいからだ。
布団もセットで購入し、悩む時間をゼロにした。これで安心だ。そして、最も楽しかったのは服選びだった。肌着を10枚セットで購入し、一安心した心太朗は、澄麗とともに服を2枚ずつ選ぶことにした。しかし、選んだ服はまさかの全く同じだった。「どんだけ息が合ってるんだ、俺たち」と心太朗は驚いた。残りの2枚は別々に選んだが、これもまたお揃いっぽくなり、夫婦の絆を感じた。「さすがは“仲良し夫婦”ってやつだ」と心の中で自画自賛。
レジで清算を済ませると、合計約4万円だった。チャイルドシートだけで3〜4万見込んでいたため、思いがけず節約できた。「無職でもいけるんじゃないか」と心太朗は胸を躍らせたが、油断は禁物だと自分に言い聞かせた。「これが無職の生活力か?」と少し自信がついた心太朗だった。
帰宅すると、すぐにチャイルドシートを車に装着した。赤ちゃんの布団も敷いてみると、心太朗と澄麗の布団の間に小さな可愛い布団が並ぶ。「これ、なんかニヤけちゃうな」と心太朗は感じた。澄麗が嬉しそうに赤ちゃんの服を畳んでいる姿を見て、心太朗は彼女が完全に「母親の顔」になっていることに気づく。「ああ、やっぱり子供って魔法だな」と思いつつ、自分も少しずつ父親になる実感が湧いてきたが、「いや、まだまだこれからだろうな」と心の中で自分に言い聞かせた。