**無職4日目(9月4日)**

無職生活4日目を迎えた心太朗。若い頃はアウトドアに夢中で、友達とキャンプに行き、自然の美しさを満喫していたのに、今では仕事に追われてその楽しみはどこへやら。最近の心太朗と自然の関係は、冷め切った恋人のようだった。「もっと仲良くしていればよかった」とちょっと後悔。

「まだ残暑が続くこの時期、学生たちの夏休みも終わりかけ。今がキャンプのチャンスだ!」と心太朗は思った。以前、澄麗が「仕事辞めたらどこに行きたい?」と尋ねたところ、心太朗は「キャンプに行きたい」と言っていた。

しかし、澄麗のお腹はどんどん大きくなってきて、普通のキャンプは厳しいかもしれない。「コタちゃんが元気になるなら行ってみたい」と澄麗は言ってくれたが、妊婦には普通のキャンプは無理だった。そこで、快適さを求めて「グランピング」に行くことに決定!心太朗は、今までの人生にはグランピングなんてなかったなと考えた。

**グランピングの魅力**

グランピングとは、英語の“Glamorous”(魅力的な)と“Camping”(キャンプ)を組み合わせた新しいスタイルのキャンプで、手ぶらで豪華なキャンプ体験ができる。普通のキャンプでは、テントや寝袋、食材を持参して、自分で設営や料理をしなければならないが、グランピングではすべて用意されている。これなら妊娠中の澄麗も気軽に自然を満喫できそうだ。しかも、料理スキルを披露せずに済むのが嬉しかった。つまり、心太朗にとって都合のいいズボラキャンプ!略してズボキャン!「これまでのキャンプって、もしかしてただの修行だったのか?」と過去の自分を見つめ直した。

2日前、心太朗と澄麗は関西でズボキャンスポットを探したが、なかなか見つからなかった。「無職が遊ぶな!」と神様に言われているように思ったとき、ふとスマートフォンの広告に目が留まった。「滋賀でグランピング『VIWAKOGLASTAR』」の文字があった。(https://glastar.jp/)サイトを覗くと、意外にも空いている。ワクワク感に変わった。「超穴場かも!」と心躍らせていた。


**出発と到着**

早朝、心太朗と澄麗は車で滋賀県へ出発した。天気は最高の快晴だった。運転中、心太朗は「眠たくない」ことに気づく。無職になってから毎日眠かった彼にとって、これは久しぶりの「楽しい」感覚だった。

途中でランチを取り、「VIWAKOGLASTAR」に無事到着!琵琶湖の美しい景色が広がっていて、心太朗は感動した。スタッフたちは想像以上に丁寧な接客で、「パリピな接客かもしれない」と心配していた心太朗も安心した。

軽く案内を受けながら、澄麗のために振動を抑えて運転してくれるスタッフに感謝した。受付では無料のクラフト体験を勧められたが、心太朗はなんとなく断った。しかし、澄麗の「やりたい」という表情に負けて、二人でキーホルダー作りに挑戦することにした。「まさかグランピングでハンドメイドの時間を過ごすとは…」と心太朗は驚愕した。

**キーホルダー作り**

キーホルダー作りは、革に好きなローマ字を打ち込むシンプルな作業だった。二人はすでに考えていた子供の名前を打ち込むことにした。「女の子の名前はこれ、男の子の名前はあれ」と二人で笑い合いながら作業を進めた。打ち込む際にずれないように気を付けることに、心太朗は甘く見ていた。「こんなに楽しいとは!」と、先ほど断った自分の判断をすぐに否定した。

完成したキーホルダーは、いつか子供たちにプレゼントしようと約束し合い、クラフト体験を終えた。「これが親の心か」と、すでに親バカになっている自分を自覚した。「まさかこんなところで親バカになるとは…」

**琵琶湖のほとりでのひととき**

心太朗と澄麗は琵琶湖の目の前にあるテントを選んだ。テントの中は思った以上に広くて快適だった。「これがグランピングか、これまでのキャンプは何だったんだろう」と思いながら、琵琶湖を眺めつつコーヒーを楽しんだ。「こんな幸せ、久しぶりだな」と心から感じていた。

夕方、二人は持参した食材で鍋を作ることにした。グランピングに来て鍋を作るというのも珍しかったが、BBQの片付けが面倒だったのでこの選択にした。「これができるなら、毎日鍋でもいいかも」と考えつつ、波の音や虫の声を聞きながら自然の中での鍋を楽しむ心太朗は、このひとときに心から満足した。

夜、澄麗がシャワーを浴びに行くと、心太朗は一人でハイボールを楽しんでいた。ここでのドリンクは初日は飲み放題という嬉しいサービスがあり、彼は心ゆくまで楽しむことができた。「これが無職の特権か?」とつぶやきつつ、ふと空を見上げると、驚くほどの満天の星空が広がっていた。

「何年ぶりに星を見ただろう」と思いながら流れ星がスッと空を横切った。「俺、幸せになれた」と涙が溢れ出す。「死にたくなることもあったけど、生きていて良かった」と心太朗はつぶやいた。

**養老孟司の話**https://www.youtube.com/watch?v=znffrG1fb0E&rco=1

心太朗は以前YouTubeで「死にたい」という物騒な検索ワードで偶然見た解剖学者・養老孟司の話を思い出した。養老が学生たちに「幸せですか?」とアンケートを取った際、理由はほぼ全てが人間関係に関連していたという話が心をよぎった。

「ある人が、自分が中学生の時にいじめられた経験を本にしたことがある。14歳の時のことを24歳になった時に書いた。その本を読んだ時の印象と皆さんがここにアンケートで答えた印象が非常に似ているんです。その本の中に一言も出てこなかったことがある。それを端的に言うと『花鳥風月』なんです。花であり、鳥であり、風であり、月なんですよ。つまり広い意味の自然なんです。人の世界でない世界がほとんどないんだってことに気がついた。そうすると、子供の世界にそういうものがないと何が起こるかというと人間の世界が大きくなるんです。」

心太朗はこの数年、「花鳥風月」を忘れていたことに気づく。「綺麗な星、波の音、虫の声」これを美しいと感じる心を、久しぶりに取り戻した。澄麗が戻ってくると、二人で星空を見上げながら、幸福な時を共に過ごした。

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