**無職59日目(10月29日)**
心太朗は、仕事を辞めてもうすぐ2か月が経とうとしていた。振り返ってみれば、辞めた当初は何だか人間らしい心を取り戻した気分になっていた。あの時は、「ああ、仕事ってやっぱり無理してやるもんじゃないな」と自分に言い聞かせていた。澄麗に優しくなれたのも、日々の忙しさから解放されたからだ。食事も美味しく感じられ、久しぶりに草木や動物、虫たちに目を向ける余裕ができた。空を見上げるなんて、数年振りに感じる瞬間もあった。
しかし、次第に慣れが生じてくると、人間とは贅沢な生き物であることを心太朗は実感する。何もない日々が続くと、退屈を感じるようになり、社会から外れることにも慣れてしまうのだ。気がつけば、日記小説を書いている自分も、ネタが尽きてきてしまった。「これではいけない、何か面白い出来事を書かなきゃ」と焦る心太朗。しかし、彼の日常には特別な出来事などなかった。
「暇かと言われればそうでもない」と心太朗は思う。朝はゆっくり起き、コーヒーを飲みながらボーッと過ごす。そして、神社へ散歩し、チョコザップで運動をし、帰宅して日記小説を書く。書き終わると、X(旧Twitter)でフォロワーたちとやりとりを楽しむ。澄麗と買い物や図書館に出かければ、気づけばもう夕方。「あれ、まだ昼だと思っていたのに、なんでこんなに日が暮れてるの?」と地球にツッコミを入れる。
夕食を準備して、食べて、本を読んだり、ギターを弾く。その後、寝る支度をすれば、あっという間に一日は過ぎて行く。心太朗は思った。「忙しくはないが、暇でもないって、なんか矛盾してないか?」と、頭をかしげる。仕事を辞めたらもっと時間があると思っていたのに、意外と1日は短い。どこかで聞いた「自由ができると、逆に面倒くさくなる」という言葉を思い出す。
日記を書くネタが尽きるのは恐ろしい。心太朗は、書くネタがないことに嘆いていた。「これでは、読者もつまらないだろうな。『心太朗の毎日は退屈だな、こいつ何やってんの?』と思われるのが目に見えている」と、内心焦っていた。とはいえ、これから子供が生まれる予定だし、大きな転機が待っている。そんな未来を楽しみにしている自分もいた。
「何か大きな変化を起こさなければいけないのかもしれない」と心太朗は思った。「でも、どうしたらいいんだろう?何か行動を起こさなければ」と。しかし、今は日記小説を書くくらいしか社会とは繋がりがない自分がいた。
結局、心太朗は考え込んだ。「どうしたものか?」と。現状には「何をしてもいい自由」があるのに、実際に行動に移すとなると躊躇してしまう。もしかしたら、自分が求めているのは「何かをすること」ではなく「しないこと」なのかもしれない。そんな自分を笑い飛ばしながら、心太朗は自分の日常を見つめ直すことにした。これからの彼の行動がどうなるのか。彼の冒険は、まだ始まったばかりだ。