無職のススメ、元社畜の挑戦日記


**無職48日目(10月18日)**

心太朗は、朝の光がカーテンの隙間から漏れ込むのを感じながら、なんとか目を覚ました。寝れている、いや、寝れてはいるが身体は重く、頭はボーッとしている。「あれ、まだ二日酔いじゃないよね?」心太朗は自分に問いかけたが、酒は一切飲んでいないことに気づく。

「天気も良くないし、これって絶対天気のせいだ」と心太朗は自分に言い聞かせた。気分がすぐれないのは、決して自分のせいではない。彼の心の中に潜む「怠け者の自分」が、さも当然のように囁く。「そうだそうだ、俺は悪くない!むしろ、天気が悪いせいでアスファルトも心も湿気ているんだ」と、勝手に天気を責めてみる。

「何かをやろうとしても動けない」と、彼は自らの怠惰をさらに強調する。そんな心太朗を見て、妻の澄麗は優しい声で「ゆっくり休めばいいよ」と言った。彼は思わず、「ここで責められたら心が折れるから、もっと甘やかしてくれ!」と内心叫んだ。澄麗のその言葉が、時には彼にとっての最大の救いだった。

しかし「前日休んだから、これ以上休むのは申し訳ない」と心太朗は悩む。「でも、休むのも仕事だし、自己管理だし、何より自分を大切にすることが社会貢献だし…」と、いつの間にか複雑な理屈をこねている。無理やり体を起こそうとするが、何もやる気がしない。

そんな時、彼は「シャワーを浴びる」という名の強制的な自己洗浄を思いつく。動きたくない体を無理やりシャワー室へと導く。「何もやりたくないのに、どうしてシャワーなんか浴びるんだろう?」心太朗は自分に問いかけるが、たどり着いてしまうと全身を洗える快感にしばしうっとりする。シャンプー、トリートメント、洗顔、体を洗う……気分が晴れない日は敢えて30分以上かけて、まるでリゾート地のスパにいるかのような贅沢な時間を楽しんでいる。

「寝ている時間が一番リラックスしているが、寝れない時はシャワーを浴びているときが一番リラックスできるかもしれない」と心太朗は考えながら、シャワーの水に打たれる。何かしら哲学的な気分に浸りつつ、シャワーから出る水が落ちてくる音に合わせて「これが俺の人生のサウンドトラックだ!」と、勝手に自己陶酔する。

そして心太朗は、今日の行動を考え始める。「動くべきか、動かぬべきか。なぜ動かないといけないのか?動かないと未来が変わらないと思っているから?」と、どこかの哲学者のように悩んでみたり。

「本当にそうだろうか?」と自問自答しながら、過去の栄光に浸る。いろいろ考えてうまくいったことはあっただろうか?彼は一般の人と比べて10年以上遅れて就職したが、追いつき追い越すために頑張ってきた。結果、確かにかなりのスピードで昇進し、昇給した。でも、幸せだったか?

「毎日13時間働いて、寝不足でイライラして、家族との時間もなく、澄麗にまで強く当たっていた。自分の頑張りが、まるでジェットコースターのように疲れさせただけだった」と心太朗は自虐的に笑った。

「頑張った結果がそれだなんて、まさにブラックジョークだな」と、彼は自分の人生にツッコミを入れる。「一生懸命頑張っても、結局うまくいってないじゃん。むしろ、そこまで自分を追い詰めていない時の方が幸せだったのかも」と、心太朗は過去を思い出す。

バンド時代、駆け出しの頃はライブにもほとんどお客さんがいなくて赤字が続いた。お金が全然なかったが、周りの人が服をくれる不思議な現象が起きていた。「衣装を買うお金もなくて、全身貰い物で固めていた時期もあった。その時の服装は、逆にファッション雑誌に載ってもおかしくなかったかもしれない」と心太朗は笑う。

「どんなにお金がなくても、裸で過ごすこともなかった。なんとかなっていたのだ」と、過去の自分に少し感謝する。その当時、バンド活動が楽しくて仕方なかった。何も分からなかったから、とにかくライブをしまくっていた。そんな姿を見て、周りが応援してくれたり、会場を無料で貸してくれたり、ついには憧れの銀杏BOYZやサンボマスターが出ていたイベントに出演することまでこぎつけた。

ここまできて、もっとやらなきゃ、もっと皆んなにウケる曲を作らなきゃ、このパターンで作ればうまくいくとか、力が入り始めてしまったと、彼は反省する。そこからバンドはどんどん停滞していき、解散した。これが「力を入れる」という呪いなのかと、心太朗は思い出した。

「もっと力を抜いて、未来はなんとかなるからテキトーに迎えればいい」と、彼は結論づける。「今、とにかくシンプルに生きればいい。寝たい時は寝ればいい、食べたい時に食べればいい、元気な時は動けばいい」と、心太朗は自分に言い聞かせる。それができる今は、心太朗にとってありがたいことであり、彼はそれに感謝する。「テキトーに生きるために、辛い時は「とりあえず」という言葉を使おう」

心太朗は「とりあえず」寝ようと決めた。寝れなかったら起きればいいし、寝たことを後悔したらその後頑張ればいいと、心太朗は気楽に考える。「とにかく今は「とりあえず」休もう。身体と心がそう言っているような気がするから」

シャワーを浴びて、すっきりした心太朗は澄麗に休むことを伝えた。優しい言葉が返ってくる。「今は休むことが一番の仕事だよ。お願い、ゆっくり心と体を労わって!」と彼女は微笑んだ。

そんな心太朗は、ゆっくりとした時間の中で、次なる一歩を踏み出す準備を始めた。人生は時々コメディで、時々ドラマだ。結局、彼は「今はテキトーに生きる。それが、人生の一番の攻略法だ!」と、心の中で大きく決意するのだった。

**無職49日目(10月19日)**

心太朗は、隣の県に車の点検に行くことになった澄麗を見送った。彼女は「点検のついでに実家にも寄ってくるから、今日は一人でいていいよ」と言ってくれた。その言葉には、心太朗の最近の精神的な疲れを見越した優しさが隠れていた。彼女は本当に優しい。時には、「その優しさ、どこで売ってるの?」と問いただしたくなるほどだ。

澄麗が出発した後、心太朗は一瞬孤独に襲われ、未来に対する不安が彼の心を包み込む。「これが、社会から追放された男の孤独か」と、自虐的に思う。だが、前日の心に決めた「とりあえず」精神を思い出し、少しずつ行動を起こすことにした。心も体も、なんとか回復しつつあるのだ。何もしないよりはマシだ。

「とりあえず」神社に行ってみる。神社には、独特の雰囲気があって、何かしら気持ちが落ち着く。祈りを捧げるついでに、心太朗は「とりあえず」お賽銭を投げ入れる。気持ちだけは、いつも金持ちだ。

次に、「とりあえず」チョコザップに行く。運動ができる場所として重宝しているが、運動自体は得意ではない。器具に向かって「俺は今日こそは頑張る!」と自分に言い聞かせ、苦手な運動を始める。心太朗の調子も上がってきたが、彼の運動センスは上昇しないまま。ウエイトを上げようとした瞬間、器具の位置がズレてしまい、「おっと、ここでもグダグダか」とツッコミを入れる。

帰宅後、心太朗は澄麗の優しさを思い出す。彼女はいつも「家事は私の仕事だから、気にしないで」と言うが、今の自分が無職ということを考えると、少しばかり罪悪感が湧いてくる。ただ一つ、彼女が嫌いな家事がトイレ掃除だということは知っている。ならば、少しでも彼女の負担を減らそうと、心太朗は決意した。「トイレをピカピカにして、澄麗を驚かせてやる!」

普段からトイレ掃除は少しずつやっていたので、そこまで時間はかからないと思っていた。しかし、そんな心太朗の考えは甘かった。掃除用具を持ち出して、意気揚々とトイレに向かうが、結局、トイレは彼にとっての試練だった。掃除をするにつれ、「これが本当にピカピカになるのか?」という疑念が湧いてくる。

掃除が終わり、次はベランダの掃除をすることにした。外に出てみると、床はなんだか汚れている。ゴシゴシとタオルで磨くが、これが意外と難しい。磨いたところを歩くと余計汚れるから、奥から少しずつ進めていくことが求められる。まるで人生そのものだ。「うわぁ、これが現実の厳しさか」と心の中でツッコミを入れながら、2時間ほど掃除に没頭する。

最後に洗面器に水を汲んで流すと、「これで澄麗も喜んでくれるだろうか?」と期待に胸を膨らませる。だが、普段の澄麗の頑張りと比べると、自分の努力はチリにもならない。心太朗の心の中で、優しさの天使と悪魔が言い争っている。「お前の頑張り、全然見合わねーだろ」「いやいや、こういう小さなことが大事なんだ!」

その後、心太朗は休憩を挟みつつ、手をつけていなかった2日分の日記小説を書くことにした。これで、なんとか追いつく! 心太朗の心も体も、少しずつ復活してきたのだ。今日一日を通じて、彼は自分なりに動けたことに満足感を覚える。さあ、澄麗の帰りを待つぞ。

心太朗は、ふと考えを巡らせる。自分の人生は本当にグダグダかもしれない。X(旧Twitter)のフォロワーさんたちも、休職や退職を経験している人が多い。そんな彼らも、自分のことをそう思っているかもしれない。だが、心太朗は自分の試行錯誤を振り返る。「毎日、少しでも幸せに生きようと頑張っているじゃないか」と、自分を励ます。苦労しながらも小さな方法を見つけて、それをシェアしていこうと思った。

「何があっても、心太朗は心太朗だ!」「自虐が多いのも、俺の個性だ!」と、自分にツッコミを入れつつ、彼は澄麗の帰りを心待ちにするのであった。

**無職50日目(10月20日)**

心太朗は、何かずっと忘れ物をしているような、モヤっとした感じがあった。そんな違和感を抱えたまま、今日もその「何か」を見て見ぬ振りをする。

いつものように、朝はゆっくり起きる。これが心太朗の日課であり、もう早起きなんて無縁だ。寝起きで目が冴えるまで、無心にジャーナリングを始める。心の中で浮かぶ言葉を、さながら酔っぱらいが愚痴るように書き殴るのだ。

だいたいテレビを流しながらジャーナリングする。仕事をしていた頃は、テレビなんて見る余裕すらなかった。しかし、今は完全に「テレビにしがみついてる」生活だ。テレビを観るようになって驚いたのは、性被害のニュースがあまりにも多いこと。「こんな事件ばっかりだな…」と呟くと、画面の中のキャスターが冷たく「ずっとこんな事件ばかりですよ」と言っているように感じる。

そして、ニュースの内容が虐待やら闇バイトやら、暗い話ばかり。「もうさ、力の弱い者ばっか狙う卑怯者が多すぎない?」と心太朗はひとりごとを続ける。ニュースを見ていると、だんだん気分が悪くなってきた。こんな世の中でジャーナリングなんてできるか!と思い、YouTubeに逃げることにした。

なぜか奥田民生の歌が無性に聴きたくなって、彼の弾き語りライブを見つける。ゆるりと力を抜いて歌う姿が心太朗の心に響く。「いいなぁ…俺もこんなふうにゆるりと生きたい」と願望を抱くも、自分の現状を振り返り「無理か、、、」とツッコミを入れる。


その流れで、今度は峯田和伸の弾き語りに移行。これがまた沁みる。彼の歌声とギターの和音が、まるで心太朗の悩みをそっと包み込んでくれるようだ。


ギターが弾きたくなって、久しぶりに押し入れからアコースティックギターを取り出す。5年ぶりに弾いてみるが、当然、下手くそになっている。「あれ?こんなに下手だったっけ?」と自分の腕に驚きつつも、ジャラジャラと音を鳴らし始める。

しばらくして、澄麗が「一曲歌ってよ」とリクエストしてくる。そういえば、澄麗は心太朗の歌を一度も聴いたことがない。「いやいや、もう下手すぎるから無理でしょ」と断ろうとするが、彼女がなぜかカメラを構えてスタンバイしている。え、まさかのスタンディングオベーション準備?

仕方なく、心太朗は久しぶりにライブ感を取り戻し、自作の曲「黒猫」を歌い始める。

歌い始めた瞬間、今の自分の状況と重なって「いや、これ今の俺じゃん!」と心の中で思わず笑ってしまう。

黒猫

平日昼間の公園で 
ぼんやり独りで飯を食う
三十路を過ぎてるフリーター
傍から眺めりゃ不審者で  

3時を過ぎたら猫が来る
毛並みの綺麗な黒猫さ
バイトでくすねた餌をやる
コイツは本当に可愛いな

まるで愛されてるような気がしてさ
愛されてるような気がしてさ
愛しているような気がしてさ
愛せているような気がしてさ

38度の炎天下
マイナス1度の氷点下
春夏秋冬 超えてきた
コイツは独りで生き抜いた

君は生きているだけでたくましい
君は生きているだけでたくましい
君は生きているだけでたくましい
君は生きているだけでたくましい

たとえ泥水すすって凌いでも
誰かのスネをかじってでも
生きていることがたくましい
君が生きている 僕は嬉しい

3時を過ぎたら猫が来る
毛並みの綺麗な黒猫さ
バイトでくすねた餌をやる
コイツはやっぱりに可愛いな

歌い終わると、澄麗が大げさな拍手を送り、まさかのひとりスタンディングオベーション。演歌歌手のステージを観に来たおばあちゃん並みの盛り上がり方である。「いやいや、そんなに褒めるほどでもないって!」と照れくさく笑うが、彼女の反応に少し心が温かくなる。

「最高! もう、すっごく良かったよ! やっぱり才能あるじゃん! 私、今鳥肌立っちゃった!」と、満面の笑みで言ってくる。

心太朗は顔を赤らめていたが、まんざらでもない。澄麗は続ける。

「本当に! 黒猫の歌詞、泣きそうになったよ。愛されてるような気がしてって部分、めっちゃ切なくて好き!」澄麗はさらに続けた。

「ねえ、これ絶対もっと歌った方がいいよ! どっかのライブバーとかでさ、また歌ってみたら? 子供が生まれたら、ぜひ私たちの前でライブやって! そしたら、子供にも自慢できるじゃん!」

「またライブ、やってもいいかもな…」とふと思う。どこでもいい、家でもいいし、公園でもいい、小さなライブバーでもいい。お客さんは澄麗一人でも、数人でも。そんなゆるいライブを、またやりたい気持ちが少し湧いてきた。

その時、心太朗はふと思った。「生まれてくる子供にも、いつか俺の歌を聴かせてあげたいな」と。こうして、小さな夢がまた一つ、心太朗の中に増えたのであった。

**無職51日目(10月21日)**

心太朗は今日、父の誕生日を祝うため、実家に帰ることになった。「帰る」と言っても、実家は心太朗の家から車でたったの10分。たった10分だが、心太朗がその道を運転するのはだいたい月に一度か二度。それ以上はどうしても心のエンジンがかからない。過去の親子関係もあり、なんとなく実家に行く日は重いような、そんな感じなのだ。

今日は特別な日だから、なんとか気を引き締めて準備を進める。父は大酒飲みだ。「かのか」っていう麦焼酎が大好きで、さらに、ワインも一本持参。これで父は大喜びするに違いない。おつまみも忘れずに、心太朗は着実に「親孝行セット」を準備して車に積み込む。

10分の運転は本当にあっという間で、家に着くと母が玄関先でニコニコしながら迎えてくれる。「元気そうだな」と心太朗は思いつつ、母のその笑顔が「またあんた来たの?」じゃなくて良かったと胸を撫で下ろす。実際、心太朗が実家に足を運ぶのは決して頻繁ではないし、、。でも、そんなことはどうでもいい。今日は父の誕生日だ。

「父さん!」と呼びながら部屋に入ると、そこにはすでにお酒の準備を整えた父が待っている。心太朗はプレゼントを差し出し、「はい、父さんの好きなやつ!」と笑顔で渡すと、父は目を輝かせる。「おー!お前、ちゃんと分かってるじゃないか!」と大喜びだ。すぐに父は澄麗に「ありがとうな、いい嫁さんだな!」とお礼を言い、すっかり上機嫌。

母がすき焼きの準備をしてくれている。実家に帰るときは、なぜかいつも牛肉だ。しかもいつも良い肉。最近はどうやら「ロピア」が安くて美味しいお肉が手に入るとハマっているらしい。とはいえ、安いと言ってもそれなりの値段はするだろうし、心太朗は心の中で「おいおい、俺たちのためにそんなに奮発しなくても…」とツッコんでいる。とはいえ、肉が焼ける香りに自然と顔がほころぶのは止められない。

澄麗は妊娠中なので、生卵を避けて、すき焼きのタレを薄めて食べる。それでも「めっちゃ美味しい!」と、幸せそうに口に運ぶ彼女を見ると、心太朗もつい顔がほころぶ。家族ってこういう時間が一番いいのかもしれないな、と心の中でしみじみ思う瞬間だ。

その間、父はすでに焼酎を一杯…いや、三杯目か?上機嫌に澄麗に話しかけている。澄麗は笑顔で「そうなんですか〜」と聞いてくれているが、心太朗は内心「まったく、澄麗にばっかり話しかけて…」と微妙な疎外感を感じながら、黙々と肉を食べ続ける。しかし、こんな調子がもう何年も続いているので、心太朗はそれに慣れている。

次に話題は孫の話へ。父も母も、これから生まれてくる孫に期待を膨らませているようだ。だが、里帰り出産のため、しばらく孫に会えないと聞いて、父は少し残念そうだ。「1ヶ月も孫に会えないなんて!」と嘆く父に、心太朗は「まあ、姉の子で楽しんだだろ?少し我慢しろよ」と笑いながら諭す。姉の子供には散々可愛がってきたのだから、少しぐらい我慢してもらわないと困る。

父の声が次第に大きくなり、やばい予感がする。選挙の話が出てきた。ああ、これはいつものパターンだ、と心太朗は頭を抱える。政治の話を酒の席でするのは最悪だ。心太朗は「そろそろ帰ろうか…」とタイミングを見計らうが、父は「もういっぱい飲んでけ!」と声を張り上げる。完全に楽しいモードだ。そして、澄麗が聞き上手だから、余計に父は話が止まらないのだろう。

母がさすがに「そろそろ締めにしましょうか」と言ってくれ、やっと父の独壇場が終わった。心太朗たちは、何とか無事に家路につくことができた。

帰りの車の中、心太朗は「いやー、今日は食べすぎたな」とお腹をさすりながら思う。澄麗は父の話を聞くのに集中していたからか、あまり食べていなかったようだが、妊婦だし、食べすぎると体調を崩すこともあるのでちょうど良かったのかもしれない。

心太朗はふと、10年前のことを思い出す。あの頃、父とも母とも、今のように仲良くはなかった。それどころか、家に帰るたびに衝突ばかりしていた気がする。だが、時間が経つにつれて、お互い丸くなり、気がつけばこうして普通に会話できるようになっていた。若い頃は譲れない何かがあったのだろう。それは多分、どの親子にもあることだ。

「無駄な時間だったとは思わない」と心太朗は思う。その15年間も、親子の物語の一部だ。過去があったからこそ、今こうして穏やかに笑い合える日が来たのだ。そして今度は、自分が父親になる番だ。今はまだ手探りかもしれないけれど、心太朗にはこれからの未来がある。きっと、これから自分なりの親子の物語が作れるはずだ。心太朗は、車を走らせながら、これからの家族との新しい日々に胸を膨らませた。






**無職52日目(10月22日)**



心太朗は、曇った頭でぼんやりと天井を見上げながら、「今日は雨だって聞いてたんだけどな…」とつぶやいた。そんな彼を見て、横で支度をしていた妻の澄麗が、「天気予報なんて、当たらないことだってあるでしょ?晴れてるんだから、出かけましょうよ!」と笑顔で促した。



運動不足を感じていた二人は、近くの公園では物足りないということで、大阪城公園までドライブに行くことにした。心太朗は運転席に座り、久しぶりのドライブに少し浮かれていたが、内心「大阪城公園なんて観光客ばっかりじゃないか?まあ、澄麗が楽しそうだからいいか」と、自分を納得させながらエンジンをかけた。





到着してまず目に飛び込んできたのは、予想通りの外国人観光客の大群。「やっぱりな…」と心太朗は心の中でため息をつくが、澄麗はそんなことお構いなしに楽しそうに周りを見渡している。二人は公園の森のようなエリアへと進んでいった。



「この森をでたら、映画みたいにタイムスリップするんじゃない?」と、心太朗はふざけて言った。「もし本当に江戸時代にタイムスリップしたらどうする?」

「んー、まずはお侍さんに『すみません、これ江戸時代ですか?』って聞くかな!」と澄麗が笑いながら返した。心の中で「俺も結構ノリノリじゃん」と思いつつも、江戸時代にタイムスリップしてる自分を想像して少しシュールな気分になった。





森を抜けると、大阪城がドーンと姿を現す。それと同時に、逆方向には近代的な高層ビル群が立ち並ぶ風景が広がっていた。「すごいな、この時代のギャップ。お城とビルが同じ場所にあるのって、なんか未来と過去が同居してるみたい」と心太朗は感心して言った。実際には、ただの現代と歴史的建造物が共存しているだけなのに、自分をインテリっぽく見せたいがために、そんな大げさな表現をしてしまった自分を心の中で軽くツッコんだ。



「せっかくだから、お城の中にも入ってみようよ」と澄麗が提案し、二人は城内に向かった。お堀を見ながら、「これ、どうやって攻めるんだろうな?」と心太朗が言うと、「うーん、私は…ここで弁当食べながら観光するくらいかな」と澄麗が笑った。「いや、攻めるとか考えてる俺もどうかしてるな」と、心太朗はまたしても自分にツッコんだ。





城内を一通り見た後、二人はお土産売り場へ。「こんなにお土産って種類があるんだな」と心太朗は驚きつつ、特に買う予定もなくブラブラと見て回った。澄麗が興味津々でお土産を見ているのを見て、心太朗は「これ、子供が生まれたら買ってあげるのかな…?」なんてふと考えた。「でも、俺はまず何を買うべきか分かんないから、結局澄麗に任せるんだろうな…」と、未来の自分の姿を想像して苦笑いした。



「次は子供が生まれたらピクニックしに来ようね!」と澄麗が楽しそうに言うと、心太朗もそれに頷いた。が、内心では「いや、俺、ピクニックってなんか苦手なんだよな…子供できたら頑張るか」と少し気が重くなりつつも、澄麗の笑顔を見ると「まあ、いいか」と結局すべてを受け入れることにした。



帰りの車の中、心太朗は少し疲れた様子で運転を続けながら、「やっぱり今日は晴れててよかったな」とつぶやいた。澄麗が「うん、やっぱり外に出ると気分も変わるね!」と元気に応える。その言葉に心太朗も微笑みつつ、「まあ、俺も結局こうして楽しんでるし、これでよかったのかもな」と思いながら、心の中でまた一つツッコミを入れるのだった。



こうして、平凡だけど心温まる一日は、ゆっくりと暮れていくのであった。

**無職53日目(10月23日)**

心太朗は、澄麗と交際して2年2ヶ月、入籍して1年2ヶ月の記念日を迎えていた。中途半端な記念日だが、二人は毎月、スーパーでケーキを買ったり、外食する程度のお祝いをしている。この日は軽く外食をしようと澄麗にどこに行きたいか聞くと、彼女は嬉しそうに考え始めた。まるで食べ物のことだけを考えるコンピュータが動き出したかのように。

澄麗は、パソコンに向かってお店を探し始める。食べることが本当に好きな彼女にとって、これはまさにハッピーなミッションだ。しばらくの間、心太朗は彼女の背後で、何やらキーボードを叩く音を聞いている。

すると、しばらくして澄麗は声を上げた。「お寿司がいい!」彼女の声は、まるで子供がクリスマスプレゼントをもらったときのように輝いていた。記念日に寿司と聞くと高級店をイメージするかもしれないが、澄麗はそうではない。候補は、くら寿司、かっぱ寿司、スシロー、そしてはま寿司の4つ。

「おいおい、これ、回転寿司の四天王じゃん!」と心太朗は思わず笑った。最近、くら寿司とスシローは制覇したが、かっぱ寿司とはま寿司は未踏の地。どうせなら4つ全て行って、ランキングを決めるのも面白いかもと思い、今回ははま寿司に決定。

心太朗の家の近くにははま寿司がなかったため、車で30分かけて隣の市まで向かう。到着すると、なんと9組待ち。これには心太朗も「繁盛してるな、はま寿司」と感心する。初めてのはま寿司体験だ。記念日なのに、待ち時間の長さに不安が募る。

ようやく席に着くと、そこに待っていたのは……流れていない寿司レーン!心太朗は目を丸くした。まさか、はま寿司は流さないスタイルなのか?回転寿司といえば、流れる寿司を見ながら直感で選ぶ醍醐味があるのに、これでは…。

確かに、最近の回転寿司はこの傾向があるのだが、やっぱり心太朗は流れてくるネタを見て選ぶのが好きだ。寿司の流れに身を任せるのが、回転寿司の楽しみだと思っている。

しかし、はま寿司は液晶画面を用意していた。実際の寿司は流れていないが、画面の中で寿司が流れている。「デジタル回転寿司」とでも呼ぶのだろうか?すごい時代になったものだ。

一方、妊娠中の澄麗は生魚を食べることができず、「なんで回転寿司を選んだんだろう?」と思いつつも、揚げ物やラーメン、炙り系を楽しんでいた。彼女の楽しそうな姿を見て、心太朗は微笑んだ。「記念日だって言ってるのに、寿司が食べられないとか…」と内心でツッコミながらも、澄麗の幸せそうな顔を見るのはやはり嬉しい。

ささやかな記念日だが、これもまたいい思い出になるのだろう。心太朗は、こうして二人の笑いと共に少しずつ年を重ねていくことを思い描いた。今後の記念日はどんな形になるのだろうかと考えながら、デジタル寿司の前で二人、笑い合う。

記念日を祝い、寿司を選び続ける心太朗と、食の探求を楽しむ澄麗。この日もまた、二人の特別な瞬間として記憶に残ることだろう。こんな中途半端な記念日でさえ、心太朗の心にはしっかりと刻まれるのだから、まさに「記念日」って素晴らしい。






**無職54日目(10月24日)**

「来た!あの日が来た!」心太朗はベッドの中で叫んだ。そう、今日はメンタルが落ち込む日だ。いつものように、3日間ほど元気な日が続いた後、必ずやってくるこの日。まるで、定期的な天気のように、心の雲が曇り始めるのだ。

身体が重く、眠気が襲い、何もできない。布団の中でゴロゴロしていると、ふと、澄麗の声が耳に入る。「休めばいいじゃん。」彼女の優しい言葉が、心太朗を少しだけ動かそうとする。しかし、心太朗はまるで反抗期の子どもかのように、「でも、起き上がらないと…」と自分に言い聞かせる。

なんとか起き上がり、歯を磨いて朝食を取る。が、食べているうちに、「何もする気がしない」という思考が心に忍び込む。アメリカの海外ドラマをAmazonプライムで観ることにしたが、第一話すら見ることができずにウトウト。さすがにしんどくなって、澄麗に「寝る」と告げる。

ベッドに向かうが、布団に入ってもすぐには寝られない。さっきまでウトウトしながらドラマを観ていたのに、いざ寝ようとすると全く目が冴えてしまう。思考が無限ループに入ってしまった。「無職、ニートの典型的な生活をしているな。こんな状態で社会復帰できるのかな?」「もうすぐ子供が産まれるのに、父親としてやっていけるのか?」など、疑問が次々に浮かんでは消えない。

「生きてても意味がない」「生きてないほうが楽かも」と、どんどんダメな方へと考えが進む。心太朗の脳内では、悲劇のヒーローのような思考が渦巻いている。

その時、ふと澄麗のことを考える。「澄麗はどう思っているのだろう?」彼女は優しく、「大丈夫、休んでいいよ」と言ってくれるが、これから母親になるというのに、こんな父親で不安じゃないのだろうか。「いつもゴロゴロしている姿を見て、本音では働けよと思っているのでは…」心太朗は自己嫌悪に陥る。

「ごめんよ、今は動けんよ」と、心の中で呟く。

次に心太朗はYouTubeを開き、漫才を流す。金属バットの漫才が始まるが、笑うことはなくても、なんとなく忘れることができた。漫才のリズムに乗っているうちに、ようやく気を失って眠りに入った。

この日は起きて食べて寝て、また起きて食べて寝る。心太朗は何もできなかった。あぁ、心の雲は晴れず、気だるい日常は続くのだった。どこかで光が差し込むことを期待しながら、彼は再び布団の中へと戻った。






**無職55日目(10月25日)**

心太朗は、自身のX(旧Twitter)アカウントを眺めていた。フォロワーからのコメントが目に留まる。「イラスト上手ですね。自作ですか?」いやいや、自分のイラストはすべてAIで作ったもので、真実を知ったらこのフォロワーさん、ガックリしないだろうかと不安がよぎる。

「AIですよ」と正直に答える心太朗。すると、しばらくしてからそのフォロワーさんが「AIイラスト作成は何のアプリを使っていますか?」と聞いてきた。彼もおそらく、自分もAIイラストを作りたいと思っているのだろうか。心太朗は、少しでも役に立ちたいと感じ、「なんとか教えてあげなきゃ!」と心の中で決意する。

だが、Xの限られた文字数では、心太朗の思いをしっかりと伝えることはできなかった。結果、フォロワーさんからは「むずかしそうですね」との反応が返ってきた。心太朗は自分の力不足に悔しさと申し訳なさでいっぱいになった。彼は、どうやって役立つ情報を提供できるか頭を抱える。

しばらく考えた末、ひらめいた。いつも書いている日記の中で、やり方を詳しく書けばいいのだと。「ああ、やっぱり俺って天才だな!」と内心思う心太朗。しかし、実際は凡人以下で、その説明をするのは難しい。そこで、心太朗は自分で画像を作りながら、日記を書くことにした。

「よし、まずはこのサイトを立ち上げて…」と心太朗は、手順を進めていく。






AI画像生成の簡単ステップガイド(チャットGTPとイメージFX使用)


準備

今回心太朗が説明するAI画像生成にはチャットGPTと イメージfxを準備する必要がある。まずはこの2つを使えるようにする。

チャットGTPの準備に関しては、以下に詳しく書いている。
https://note.com/kotaroyasukawa/n/n66e2106a4016

イメージfxの準備に関しては、以下に詳しく書いている。
https://note.com/kotaroyasukawa/n/ndf3f61e72ebd



AI画像生成の簡単ステップ

1. チャットGPTにリクエストする
心太朗はパソコンの前に座り、キーボードを叩いた。「AI画像を作ります。英語のプロンプトを教えて」とチャットGTPに入力する。プロンプトのリクエストは全てチャットGTPで入力する。
「英語のプロンプトを教えて」というフレーズは毎回入力している。そうしないと、たまにチャットGPT内で画像が生成されてしまい、面倒なことになるからだ。

ちなみに、プロンプトとは、AIに「こんなことをしてほしい」とお願いするための言葉だ。イメージFXでは英語の方が正確にプロンプトを読み取るため、チャットGPTで英語のプロンプトを作成してもらう。

すぐに画面に返ってきたのは、チャットGPTからのメッセージだった。

「どんな画像を作りたいか教えてもらえれば、そのための詳細なプロンプトを作成しますよ!テーマやスタイル、色合い、登場人物などについて教えてください。」



2. 簡単なプロンプトを作る
次に心太朗は、サンプル画像のイメージを形にするため、簡単なプロンプトを作ることにした。
今回は普段日記で使う画像に近いもので説明しようとする。

まずは「日本人30代男性 メガネをかけて小太り。英語のプロンプト教えて」と入力すると、チャットGTP画面にプロンプトが生成される。

さらに、彼は「彼は日本人の妻と一緒にいる。英語のプロンプト教えて」と続ける。すると、また新しいプロンプトが表示される。

最後に、「女性は妊婦。英語のプロンプト教えて」と追加すると、またもや彼の要求に応じたプロンプトができあがる。





3. プロンプトをコピーしてイメージFXに貼り付ける
ここまでのチャットGTPでできたプロンプトを一旦コピーして、心太朗はイメージFXに貼り付けた。実際には数枚の画像が生成されるが、今回はその中の一枚だけを紹介することにした。



















「誰やねん!!」と心太朗は驚愕した。生成されたのは写真で、リアルすぎて実際に存在するのではないかという完成度だった。
(※この写真は心太朗と澄麗ではありません。AIで作られた架空の人物です。)





4. 画像のスタイルを調整する
しかし、彼はイラストにしたかったので、すぐに指示を出した。「イラストにした英語のプロンプトを教えて」と。

再びプロンプトをコピーして、イメージFXに貼り付ける。ここからは、毎回プロンプトをコピーしてイメージFXに貼り付けるという作業が続くことになる。











これで普段、心太朗が日記で使用している画像のスタイルにかなり近づいた。





5. 設定をリクエストする
今回は画像作りの説明のため、設定はなんでも良かった。遊び心を込めて、二人で宇宙旅行に行っている設定にしようと心太朗は考えた。「二人で宇宙旅行 。英語のプロンプト教えて」とリクエストする。
















宇宙感が少し物足りなかったので、彼は無重力感を出すために、「宇宙服で無重力。英語のプロンプト教えて」と指示を出した。














なかなかいい感じになってきた。
さらに今回は自由な発想ということで、どうせなら産まれてくる子供も追加しようと考えた。「赤ちゃんも追加して 英語のプロンプト教えて」と再び指示を出す。














まだ見ぬ我が子がイラストの中に登場した。心太朗は少し感動した。
ふと心太朗は考える。「よくよく考えたら、子供が産まれたら妊婦じゃないよな…」そこで、「妊婦じゃない。英語のプロンプト教えて」と修正を加えた。












ついに家族3人での宇宙旅行のイラストが完成した。画面には宇宙服を身にまとった心太朗と澄麗、そしてその間で楽しげに浮かんでいる赤ちゃんが描かれていた。星々が輝く背景が、家族の冒険心と愛情を包み込むように広がっている。

心太朗はそのイラストをじっと見つめ、胸に込み上げる感情を噛みしめた。「これが、AIの力で作られた自分たち家族の姿なんだな…」未来への期待や家族との夢が少しずつ形になっていくような気がして、自然と微笑んでしまう。










「この手順で、読者にもAI画像生成の方法をわかりやすく伝えられただろうか?」心太朗は画面に表示された日記の文章を読み返しながら、少しだけ不安を覚えた。自分が試行錯誤して生み出したステップが、読者にも伝わる形になっているのか。イラストを作り上げる楽しさや工夫の面白さが、しっかりと伝わるだろうか。

「大丈夫、これでいいはずだ」自分にそう言い聞かせると、心太朗は微笑んだ。画面の向こうにいる誰かが、このガイドを読んで、同じようにAI画像生成の楽しさを感じてくれたら。それが彼にとって、何よりも嬉しいことだ。





最後に、心太朗は満を持して、もっとリアルに心太朗と澄麗と我が子の姿を描きたくて
「これを写真にして、英語のプロンプトを教えて」と指示を出す。彼の目の前には、完成した画像がどのように生成されるのか、期待でいっぱいだった。
























「誰やねん!!」











まとめ

1. チャットGPTにリクエストする
「AI画像を作ります。英語のプロンプトを教えて」と入力する。
2. 簡単なプロンプトを作る
どんな画像にしたいか簡単な説明。
例:「日本人30代男性」「妊婦」などをリクエストして簡単なプロンプトを作成。
3. プロンプトをコピーしてイメージfxに貼り付ける
作成したプロンプトをイメージfxに貼り付けて、画像を生成。
4. 画像のスタイルを調整する
イラストにしたければ「イラストにして」
写真にしたければ「写真にして」など調整リクエストを送る。
5. 細かい設定を調整する
チャットGTPで「二人で宇宙旅行」「無重力」「赤ちゃんを追加」など細かい設定を調整する。

以上の手順で、AI画像生成を楽しんでみてください!


**無職56日目(10月26日)**

心太朗は朝7時に起きていた。普段なら絶対にありえない早起きだ。澄麗とお腹の子供の検診のために病院へ行く日である。澄麗は「私一人で行けるから、あなたは休んでていいわよ」と言ってくれたが、心太朗はここは“父親らしく”参加するべきだと決意し、眠気を引きずりながら車で病院に向かうことにした。

だが、いざ出発すると車内は静寂が支配する。もしかして、妻が本当に一人で行きたかったのか? …そんな一抹の不安を感じつつも、心太朗は眠気を振り払い、片道2時間かけて運転する。だんだん目が覚めてきて、ようやく病院に到着。まぁ、これで父親ポイントも稼げただろうと、ひそかに自分を褒めた。

病院に着いた澄麗は、さっそく尿検査や血液検査、そして定期検診へと向かう。その間、心太朗は病院の待合室で3日分溜め込んでいた日記を書くことに。そもそも溜め込むなという話だが、「夏休みの宿題も学校が始まってから仕上げる」のが心太朗スタイル。病院での手続きにトラブルがあり、日記は予定通り書き終えた。…彼としては“順調”である。

ほどなくして、澄麗が診察を終えて戻ってきた。健康状態も良好、そしてお腹の赤ちゃんも元気に育っているとのこと。エコー写真を見せてもらったが、心太朗には何のこっちゃさっぱりわからない。「2400gから2600gだって」と澄麗に言われ、ふむふむと頷きつつも、「もういつ産まれても大丈夫らしいよ」と聞かされると、ようやくリアリティが湧いてきた。

そんなわけで、今日の目玉は“助産師さんとのお話”。普段なら待合室で本を読んだり日記を書いて過ごすのが通例の心太朗だが、今日は「旦那様も一緒にどうぞ」と半ば強引に参加させられた。助産師さんは心太朗に「今日はお休みですか?」と聞いてくる。曖昧に「えぇ、まぁ…」と返すが、助産師さんは食い下がらない。「出産の日はお仕事お休みにできそうですか?」と重ねて尋ねられた。

心太朗は、心の中で「無職なんですけど?」とツッコミを入れつつ、さすがに嘘もつけず、やや気まずそうに「今、仕事辞めたんで、いつでも来れます」と答えた。すると助産師さん、驚きの表情で「素晴らしいですね!奥様とお子様のためにお時間作って、頼もしいですね」と絶賛。澄麗も笑顔で「はい!」と乗っかる。いやいや、こっちは別に“育児のため”に辞めたわけではないのだが、そんなに評価してくれるなら、それも悪くはないかと思えてくるから不思議だ。

助産師さんは、さらに出産に向けての運動を推奨してくれる。特に下半身とインナーマッスルの強化が大事らしい。心太朗もなぜか澄麗と一緒にスクワットをやらされ、呼吸法も実践するハメに。無職な上、まさかの妊婦体操デビューである。助産師さんの前であれこれやらされながら、「これ、人生の予定にあったっけ?」と心の中で問いかける心太朗。まぁ、無職だから暇といえば暇だが…。

その後、会計を済ませ、また車で2時間かけて帰路に就く。車内では今日のことを振り返りつつ、澄麗と「出産に向けて一緒にトレーニングしよう」と約束を交わした。無職ではあるが、こうして出産に向けて二人で過ごせる時間を持てることが幸せなのかもしれないと、心太朗はなんとなくしみじみとした気持ちになるのだった。