**無職41日目(10月11日)

心太朗は、澄麗の定期検診に向かうため、朝早くから車を走らせていた。澄麗の実家は隣の県にあるので、里帰り出産ってことだから仕方ないが、病院まで2時間のドライブ。前夜2時半まで起きていた心太朗にとって、6時半起きはもはや「修行」。たった4時間の睡眠で朝を迎えた彼は、「寝たら負け」とでも思ってるのか、自分でもよくわからないテンションでハンドルを握っていた。

これまでに2回もこの病院に来ているが、まだ道を覚えられない心太朗はそわそわと運転していた。ようやく大きな県立病院に到着した時には、すでに疲労感たっぷり。建物が広すぎて迷子になりそうなほどだが、受付を済ませ、澄麗は検尿と採血を受ける。心太朗は「大変だなぁ、澄麗」と心配しつつ、ただ待つだけの自分にちょっと申し訳なくなっていた。

次に澄麗は助産師さんとの面談があり、別の病棟へ移動。病院って、なぜこうも「歩かせたい意図」があるのか?無駄に広い病棟を移動しながら、心太朗は「こんなに歩かされたら、出産する前に俺が倒れる」と内心ぼやいていた。

面談の間、心太朗は待合室で待つことに。ここには窓際にカウンターテーブルがあり、外の景色を見ながら過ごせる。「お、これならちょっとカフェっぽくておしゃれじゃん」と気分が少し上がり、さっそくパソコンを開いた。X(旧Twitter)をチェックし、フォロワーの投稿に目を通していたが、そこには仕事を頑張っている人、家族と過ごしている人、休んでいる人など、いろんな日常が流れていた。

心太朗は以前「俺なんかが話しかけたら迷惑かな」と、いいねを押すのが精一杯だったが、最近は勇気を出してリプライするようになった。すると意外にも、これが結構楽しい。「案外俺って、コミュ力高いんじゃね?」と、自分を無理やり肯定しながら投稿にリプライを送り続ける。

時間があったので、前日の出来事を振り返って日記を書く。なんだかんだで日記を書くのは好きだが、毎日続けようと思っても一日遅れでしか書けない。「まあ、一日遅れでも続けてる自分を褒めよう」と、ささやかな自己肯定感を感じながらも、心太朗は少しずつ文章を綴った。

ちょうど日記を書き終えた頃、澄麗も面談を終えて戻ってきた。診察の時間までに少し余裕があったので、心太朗は日記に載せるイラストを描き始める。「なんだ、俺、クリエイティブなこともできるじゃん」と、なぜか一瞬自分に酔いながら、イラストを仕上げる。

その後、ようやくすべての診察が終わり、赤ちゃんが順調に育っていることが確認できた。体重は2150グラム。毎日読んでいるマタニティ本「はじめての妊娠・出産安心マタニティブック」によると、この時期の赤ちゃんはだいたい2100グラムくらいらしい。「おお、しっかり育ってるな!…俺、育てたわけじゃないけど」と、謎の達成感に包まれた。


ちなみにこの「はじめての妊娠・出産安心マタニティブック」。タイトルからして、初心者向けの安心感を押し出しているが、実際に中を読んでみると意外と詳しくて、「お腹の赤ちゃんの成長が毎日わかる!」という売り文句通り、ママと赤ちゃんの変化が日ごとに細かく解説されていた。
心太朗と澄麗は毎晩そのページをめくりながら、赤ちゃんの成長を確認するのが日課になっている。その本には出産までの日数もきっちり記されていて、残りはあと40日。数字を目にするたびに、心太朗も「おお、いよいよか…」と、じわじわと実感が湧いてくる。産後のアドバイスや必要な栄養の情報、さらには世界各国の子育て文化までも網羅されている。まるでマタニティ版の百科事典のようなボリュームだ。「これ一冊あれば、どこの国でも子育てできそうだな」とこの本を読み込んでいた。

すべてが終わり、清算をしようとすると、急に名前を呼ばれ、血液検査の件で確認があると言われる。「え?血液に何か問題でも?」と澄麗は心配そうな表情を浮かべたが、心太朗は「大丈夫だって!」と励ました(自分を)。再び呼ばれて確認すると、どうやら金額の計算ミスだったらしい。「そっちかーい!」と内心突っ込んだが、まあ何事もなくてよかった。

今回、保険証が間に合わなかったため、17,000円も支払うことに。「うわ、17,000円は痛すぎる!でも後で返ってくるなら…まあいいか。いや、やっぱり痛い…」と、気持ちの整理がつかないまま、財布の中身が減っていく。

診察が終わり、澄麗が「マクドナルド行きたい」と言い出す。心太朗は「妊婦だから、もうちょっとヘルシーなものがいいんじゃないの?」と心配しつつも、澄麗の「食べたい!」という強い要望に逆らえず、結局マクドナルドへ。「妊婦の食欲には逆らえないんだな…」と、自分を納得させながら、心太朗はその日の出来事を思い出し、笑うしかなかった。