**無職36日目(10月6日)**


心太朗は、ようやく数日間の寝不足地獄から脱出した。毎晩、布団に入った途端に脳内で謎の会議が始まり、「次どうする?何が問題?」と詰め寄られ、何も決まらないまま朝が来る。その繰り返しだった。寝ようとするたびに脳が「今が作戦会議の時間だ!」と騒ぎ出すのだ。だが、その悪夢のような日々がついに終わり、心も体も「俺、生きてる!」と感じられるようになってきた。そろそろリハビリを再開しようと思った。

そんな彼がまず決めたのは、神社参り。これまで寝不足やら何やらで参拝に行けてなかったので、神様に「本当にすみません…」と謝らなければならない。心太朗は参道を歩きながら、心の中で「神様、久々に来れてよかったです。ほんとご無沙汰してました、今後はちゃんと来ますんで…」と頭を下げた。まるで職場の上司に言い訳してるみたいだが、神様には通じるはずだと信じるしかない。

参拝を終えて、心太朗の足取りは少し軽くなった。だが、腰と膝は相変わらず。「神様、ここも治してくんねぇかな…」と祈るも、体は正直だ。13時間立ちっぱなしの仕事をやっていたせいで、腰は「も、もう無理っす…」とずっと叫んでいるし、膝も「限界超えてますよ?」と悲鳴を上げている。それでも動かないといけないのが大人の辛いところだ。

家に戻ると、心太朗はお決まりのトイレ掃除に取りかかる。これが彼の数少ない家事担当だ。「他の家事もやらなきゃな」とは思うものの、妻の澄麗がほぼ全てを引き受けてしまうため、結果として彼の役割はトイレ掃除とゴミ捨てだけに落ち着いている。「いや、トイレ掃除も立派な仕事だろ?」と自分に言い聞かせながら、今日もトイレをピカピカに磨き上げた。

掃除が終わると、次の目的地はチョコザップ。これは心太朗にとって「行かなきゃ!」と思っていながら、ずっとサボっていた場所だ。チョコザップは、月額3,000円程度で、24時間いつでも使えるコンビニ感覚のジムだ。簡単なマシンが並んでいて、予約不要で好きな時間に行けるので、初心者でも気軽に通えるのがウリだ。だが心太朗は、忙しさを言い訳にして「まぁ、また明日からでいいや…」を繰り返し、気づけば数ヶ月休会していた。しかし、10月になり「そろそろマジで体動かさないと…」と危機感がじわりと湧いてきた。運動不足が原因でさらに腰と膝が壊れたら、もう立ち直れない。

ジムに着いた心太朗は、まずチェストプレスから始める。15回を3セット。「これ、何キロだっけ?あれ、重くない?」と思いながら、肩と胸にじんわりと効かせる。無理をせず、ペースも控えめに。「俺、無理しない!今日はとにかく無理しない!」と心に誓いつつも、内心「俺、これでいいのか…?」と疑問が浮かぶ。次はラットプルダウン。背中に効かせるこのマシンは、腰を気遣いながら慎重に取り組む必要がある。「もう腰、いじめないでください」って声が聞こえそうだが、心太朗はそれを無視して淡々とこなす。最後はレッグプレス。膝が本気で「おい、そろそろやめとけよ?」と訴えてくるが、軽めの重さで15回3セット。「膝くん、まだ大丈夫だよな?」と自問自答しながら、なんとか乗り切る。

トレーニングは大体20分で終了。「やっぱこれぐらいが俺にとってちょうどいいんだよ」と自分に言い聞かせる。無理をしすぎると、次の日の朝、腰と膝が「おい、やりすぎたろ?」と激しい反抗を見せるので、バランスが重要だ。神社参拝からチョコザップ、そして家に戻るまでの全行程で約1時間。このくらいのペースが、今の心太朗にとってちょうどいい。

家に戻ると、澄麗が笑顔で「どうだった?」と聞いてくる。心太朗は「まぁ、ぼちぼちだよ」と返すが、本音は「腰と膝、死にかけてます…」。でも、そこで弱音を吐いたら「俺、何のために行ったんだ?」と自己嫌悪に陥るので、強がるしかない。結局、澄麗との会話が彼にとって一番のリハビリになっていることに、少しずつ気づいている自分がいる。

こうして少しずつリズムを取り戻す日々。心太朗にとって、このゆるやかな毎日は、腰と膝、そして心の痛みと向き合うための大事なリハビリだ。焦らず、無理せず、少しずつ前に進む。それが今の心太朗の「生き方」になっている。