**無職35日目(10月5日)**

”「おい、起きろ!」と、部屋に響き渡る男の声。トニーは、顔をしかめながら目を開けた。目の前にはニック、腕組みをして彼を見下ろしている。

「…なんだよ、もうちょっと寝かせてくれよ。夢の中で金持ちになれそうだったんだぞ」と、トニーは布団の中でもがきながら抗議する。

「夢なんかどうでもいい。会議だ。もう始めるぞ」とニックは冷たく言い放つ。

「会議って、今日はなんの会議だよ?」トニーはベッドからズリ落ちながら、やっとのことで立ち上がった。

「心太朗のことだよ。ほら、あいつ、無職だし、ずっと精神的に落ち込んでるだろ?何かさせようって話だ」とニックは、トニーの耳元でさらに声を張った。

「ああ、そっちか…」トニーは不満げにため息をつく。「でもなんで俺が…」

「お前も実行役だろ?さっさと来い」とニックはトニーの背中を押して、半ば強引に部屋を出た。ニックとトニーは任務の実行役なのだ。

サム、マット、ニック、そして、やる気ゼロのトニー。彼らは会議室に集まっていた。会議の議題はただ一つ――無職で落ち込んでいる心太朗に何かをさせること。

副リーダーであるマットはいつものように会議を仕切る。

「じゃあ、心太朗にどんな行動を取らせればいいか、皆で考えよう。何か前向きなことをさせれば、少しは元気が出るかも知れないからな!」

「前向きなことって…」トニーがぼんやりとつぶやく。「無職だし、どうせ暇なんだから、家でゴロゴロさせておけばいいんじゃね?」

「それだと今と変わらないだろ!」ニックがすかさずツッコミを入れる。「少しは頭使え、トニー。」

「まぁまぁ、落ち着け」と、冷静なマットが会議の進行役として場を仕切る。「彼にふさわしい行動を見つけるのが、今回の会議の目的だ。皆のアイデアを聞こう。」

リーダーのサムが手を挙げて、いつもの笑顔で提案した。「そうだ!チョコザップに行かせよう!運動して、汗を流せば気分も晴れるし、健康にもいいしさ!」

「チョコザップって、あのコンビニ感覚のジム?」トニーが眉をひそめる。「あいつ、そんなん行くか?しかも風呂にも全然入ってないし、どうせ行っても臭いままだろ?」

「そこだ!」ニックが不敵な笑みを浮かべた。「だから、チョコザップに行かせるだけじゃなく、ちゃんと風呂にも入らせるんだよ。二つの問題を一気に解決だ。」

マットは満足げに頷く。「それで決まりだな。ニック、トニー、お前たちに任せたぞ。」

「ラジャー!」とニックは力強く返事をしたが、その隣でトニーは明らかに気が進まなそうな表情だ。「マジで俺も行くのかよ…?」

サムはトニーの肩を叩いて、明るく声をかけた。「大丈夫さ、トニー。終わったらいくらでもyou tube観させてやるよ!」

「…それなら、まぁ考えてやってもいいか」と、トニーは不承不承つぶやきながら、ようやく立ち上がった。

任務遂行のために、トニーとニックは外へと出発する。

「お前、ダルいとか言ってないで、ちゃんとやれよ」とニックが釘を刺す。

「わかったよ…でもさ、俺に任せるってどうかしてるよな。あいつ、俺の言うことなんか聞くか?」

「心配するな。俺がいる。お前はただついてこい」と、ニックは冷静に答えた。

トニーは頭をかきながら、歩き出す。「なんかもう、今日一日が終わった感じがするわ…」

こうして、グズりながらも任務に向かうトニーと、それを無言で引き連れるニックの姿が消えていった。″



心太朗の頭の中には現在、4人の個性的なキャラクターが住んでいる。まるで心の中の委員会だが、彼の思考を整理するために最近学んだ「6色ハット思考法」を基にしている。この手法は、さまざまな視点から問題を考えるためのもので、異なる色のハットをかぶることでその思考スタイルを切り替えられるというものだ。

•白いハットは事実やデータに焦点を当てる。要は、何がわかっているのかを整理する役割だ。

•赤いハットは感情や直感を反映する。自分自身や他人の感情に注目し、主観的な意見を自由に表現する。

•黒いハットは批判的な視点を持ち、リスクや問題点を指摘する役割。

•黄色いハット。これは楽観的な側面を強調し、ポジティブな可能性を探る。

•緑のハットは創造性を刺激し、新しいアイデアや解決策を生み出す。

•青いハット。これはプロセス全体を管理し、次のステップを考える。


ただ心太朗は頭の中に「6人も住ませてられんわ!」と思い、試行錯誤の末、4人まで減らした。愛着が湧くようにそれぞれに名前もつけた。心太朗の頭の中の会議メンバーを紹介しよう。

まずリーダーのサム。彼は常に前向きな意見を出し、「もっと楽しくやろうよ!」と心太朗の背中を押す。「その楽しいの、全然やってないけどね」と、自虐が入る。

次はマット。彼は会議の進行役で、決まった任務を他のメンバーに指示する。冷静で客観的な視点を持っているが、心太朗は「その冷静さ、いつもどこに行ってるの?」とツッコミを入れたくなる。

ニックは実行役で、責任感が強くストイックだ。彼は「やるべきことをやるのは当然だ」と言いつつ、心太朗は「厳しいって!ニック厳しいって!」と訴えている。

そして最後に、最年少のトニー。彼は怠け者で、生意気な性格だ。ちょっとすけべで不安症でもあり、だが時に天才的な創造性を見せることもあるが、「その天才性、いつも出してくれないよね」と内心思う。

この4人のキャラクターたちが心太朗の思考を支えているが、トニーが一番面倒くさいキャラなのだ。「結局、みんなが頑張ってるのに、トニーだけサボってる。彼が俺の中を支配してる気がする」と自虐的に思うこともしばしば。トニーが実際の心太朗と一番仲の良い存在なのだ。

今日はニックのおかげでチョコザップに行き、風呂に入ることができた。心の中のトニーは「風呂は面倒だ」とグズっていたが、ニックが「行くぞ!」と引っ張ってくれたおかげで、無事に行動に移すことができた。「これもニックがいなかったら、ずっと風呂にも入らなかったな」と、反省の気持ちが胸に去来する。
任務を果たしたニックとトニーだが、ニックは早々と姿を消した。「俺の任務は終わりだ。寝るぞ。」と言って。トニーはご褒美にサムとマットからいくらでもyoutubeを見ていいと許可を得た。「今日はサボらずニックによくついていけたな。今日はいくらでもyoutube観たらいいぞ」とマットが言う。「トニー、ありがとうな。いい日になったぜ」とリーダーのさむがとにーにお礼を言う。なんだかんだトニーは彼らには可愛がられている。

こうして心太朗の頭の中は4人のキャラクターたちが繰り広げる小さな冒険の舞台となり、日々の生活を少しでも楽にしている。「やっぱり、俺の頭の中の会議は、いつもこうやって混乱してるんだな」と思いながらも、彼はその冒険を楽しんでいるのだ。これが心太朗の、「4色ハット思考法」を使った奮闘の物語なのである。