起眞市立高等学校、体育館内。
まさか…避難所がこことは驚きだった。
「さっき帰ろうとしたばっかなのに…また戻ってきてしまった…」
起眞市には対怪獣用の特設避難所がまだないため、避難所(震災時などの)として起眞高の体育館が用いられているわけだけど…
いまいち、俺はこの体育館に信頼性を置いてない。
なぜなら、この体育館、至る所からGの死骸が出るし、なぜか前は体育の授業にネズミが出て大騒ぎしたし…ぶっちゃけ古いと思っている…
「そろそろリフォームしねぇのかな…」
体育館以外は普通に新しい校舎な訳で、そこに関しては文句はない。
なぜなら最高だからだ。
だが、ここが避難所となると流石に話は別。
Gやらネズミやらが出るところで一日、泊まるなんてそれこそ無理難題な訳で…
ドオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!
次の瞬間、体育館の一つの壁が破られ、天井から、血まみれの先ほどの赤い怪獣が現れる。
「え…?」
「「「「「きゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」」」」」
悲鳴が体育館に鳴り響き、先程まで座っていたくつろいで居た人たちが急になだれ込むように壊された壁の反対方向の出口に向かって走り出す。
「あれは…!!!か、怪獣!!!Vさんは!?」
「グフゥゥゥゥ…」
そう言いながら、火を口から漏らす鳥型の怪獣。
足が動いた人は良かったと思う。
俺は違った。
足が動かず、それどこか足に力が入らなかったので、尻餅をついてしまった。
「逃げなきゃ…」
小さく呟くも本の力は入れられない。
怪獣は、口を大きく開けると、口の喉の中に火の強大なパワーを溜め始めた。
逃げなきゃ…
そして、最大値に達したようで、パワーの溜まり方が止まる。
し、死ぬのか?俺は…
こんな所で!!!
くそぅっ!!!!!!
どうせなら…みんなに一言くらい…言ってから死にたかった!!!
俺は覚悟のつもりで、目を瞑ろうとしたがその時、怪獣の前に一人のピンク色のドレスを纏い、黒髪ロングヘアーで、とても奏音に似ている人が立っているのが見えた。
あの人。
危ないな
そう思った瞬間。
女の子の手元から、一つの白い光が放たれた。
そして次の瞬間、戦車の砲撃の如く、一本のビームが放たれる。
体育館全体に爆風を撒きあげると共に、ビームは一直線上にあった鳥型の怪獣の喉を突き刺し、血飛沫を上げさせる。
そして血飛沫が地面に着くよりも先に怪獣に追い討ちをかけるように、ビームが貫通された箇所が、大きな爆発を起こし、先程まであった筈の怪獣の首が吹っ飛んだ。
体育館に怪獣によって遮られていた太陽の光が差し込む。
そして怪獣が現れた時とは違う新たな光によって、俺は目を薄める。
怪獣が現れた時、放たれた光からは絶望しかなかった。
しかし、今のひかりはまるで希望を示唆しているようで…
「ひ、ヒーロー…」
俺はあることに気づき、何故か大声で
「ヒーローだぁぁぁ!!!!!!!!!」
と体育館全体に響き渡す。
すると、「ヒーローだ!!!ヒーローだ!!!!!!」と喜びの声が至る所で連鎖した。
「ヒーローが助けに来てくれたんだ!!!!!!!」
「つ、強すぎだろ!!!!!!!!!!!」
「良いぞヒーロー!!!!!!!」
そして、次の瞬間、横から体育館の横を何かが過ぎ去るようにして、そのヒーローはどこかへ消えていってしまった。
「ふう…緊張した〜…」
「お疲れ様です。奏音ちゃん。」
そして、突如として現れ、18レベルの巨大怪獣を一撃で倒したヒーローは後にこう呼ばれることとなった。
「とりあえず…救える命は救えて…よかった…」
『魔法少女、死刑執行人の奏音』と。
トワライトフェニックス レベル18
死者、637名
怪我人、2042名
戦死者、0名
突如として住宅街のど真ん中に出現した鳥型の巨大怪獣。
あたりを燃やし尽くす火を口の中から発射可能であり、広範囲による被害を出すことができる。
トワライトフェニクスを討伐してから、1週間後…
顔を地面に向けてあまり見られないようにしながら行く、学校への登校中。
私はこっそりと、歩きスマホをしながら登校していた。
「奏音!歩きスマホは良くないよ!!」
レンレンが言うと、私はネットニュースの一つをタップする。
「そ、そんなことよりも…まだやってるよ〜…」
スマホの液晶に映るのは、ネットニュースの記事。
そして、そこには顔の映っていない、後ろ姿の、魔法少女の時の私が映っていた。
「これって…奏音だ!!!!」
パァと表情が明るくなる、レンレンとは裏腹に、私は頭を抱えて暗い顔をした。
「そうなんだけど…!!!」
ネットニュースの記事。
そこには、『新たなヒーロー!!!死刑執行人の誕生か!?』という見出し。
これって…なんか身バレしたらヤバいヤツだよね…
「な、名前…」
「名前?|死刑執行人って書いて、エグゼキューショナーズなんてかっこいいね!」
レンレンは全力でフォローしてるつもりなのかなぁ…?
多分純粋な心で言ってるんだろうな…
死刑執行人…
今、そこを気にするのは、多分少し違うんだと思う。
今は私が魔法少女として有名になったという事実が報告されたことのな方が重要なんだけど…
それよりも…
名前…
「可愛くないなぁ…」
「お!奏音じゃねーか!」
地面に顔を向けて歩いていた私に、校門辺りで声を掛けてきたのは、隆一君の声だった。
「あ…お、おはよう…」
「んなぁ…今日さ…皆で霧矢のとこ行かないか?」
「え?」
隆一くんの言葉、それは今日、霧矢くんが居ないことを指し、同時に私に少しの不安感を漂わせる。
「それってどう言うこと…?」
「あれ?奏音、ライン見てなかったか…?」
「え?」
私は急いで、スマホを開く。
最近はずっとネットニュースとか、掲示板とかしか見てなかったからラインなんて長い間見てなかった…
バイト組がやけに300件と、通知の数が多かったので、バイト組のラインを開く。
「え…?」
一番最初に書いてあった言葉。
霧矢くんが言っていた。
「そのさ…あいつ、足怪我したらしいからさ、みんなで…ってか、バイト組でお見舞い行かね?って話を昨日アズリアとしてたんだよな。奏音見てなかったか…」
「わ…私も行く!!!」
迷わず言った…
1週間前に霧矢くんはトワライトフェニックスに出会ったと言っていた。
不安が的中してしまったよう。
私は魔法少女として…守れなかったのじゃないか、と。
確かに0ではなかった。
ニュースを見る限り、637人の死亡者。
その人たちのことは守れなかった。
Vさんは「落下地点にいた人たちが死んじゃっただけで、それ以外に守れるものは守れました。落ち込むことはありません。」って言ってたけど…
「わかった!じゃあ、今日の放課後行こうぜ!」
「…うん!」
霧矢くん…大丈夫かな…
「にしても最近さ、めっちゃ強いヒーローが出たってな!」
「うぇ!?そ、そうなんだ…」
それってもしかして…
「奏音知らないのか?死刑執行人っていうヒーロー。」
知っている。
メルトシンギュラリティという魔法を撃って、敵を滅ぼし、そして、魔法少女連合に所属している、魔法少女。
それ…私…
「いやーかっこいいよな!!死刑執行人って名前!!なんでも怪獣を1発で殺せるらしいから、エグゼキューショナーズソードって言う剣から名前取ってるらしくて、その剣が|死刑執行人の持つ、処刑人の剣らしくてな!悪を処刑する処刑人!て感じがしてめちゃくちゃかっこいいと思うんだよな!!!」
私…っていうか名前のことも含めてめちゃくちゃ喋ってる…
って言うか調べてるし…
「そ…そうなんだ…」
若干、痴漢寄りなことをしているようにも思える…
まあ、私のことを知らないんじゃ、仕方ないけどね…
「みんな〜、おはよ〜」
私が隆一くんに対して、少し戸惑っていると、後ろから私たちの天使、アズりんが声を掛けてくる。
よかった〜!!!アズりん!!話の相手お願いね!!
「何話してたの〜?」
「少し前に出てきた新しいヒーローの死刑執行人について話してたんだ!!」
すると奏音は、目を薄くして、少し眠そうにあくびをしながら、
「ああ〜霧矢くんが体育館に避難したら、急に現れて、霧矢くんを救ったっていうあれね〜」
霧矢くん…あの体育館に居たんだ…
「そ、そうなんだぁ…」
すると奏音は、空を見上げて、「そういえば」と言いながら
「霧矢くん、死刑執行人の人が凄い奏音ちゃんに似てたって言ってたな〜」
「えぇ!?!?」
「なわけ!俺からしたらあんま似てなかった気がするけどな〜」
隆一くんは平然のことかのように、校舎の方を見ながら言った。
「そうかな〜私は意外と…って言うかめっちゃ似てた気がするけどな〜」
アズリアは階段を登りながら、私の方を薄目で見てくる。
まるで疑っているかのように。
「ええ〜〜〜!?!?!?!?そ、そうかなぁ〜?本当に私に似てる〜?」
「奏音…え?マジ?」
私の反応を見て、本当に疑ったのか、隆一くんが真面目な顔をする。
「わ、私なわけないじゃーん!!!」
私は靴を履き替えている瞬間に、動揺した時に出てきた汗を全て拭き取った。
「レンレン!!」
私は小さくレンレンを呼ぶ。
どうやらレンレンは一般の人には見えないらしく、でも、念のため、バックの中に隠れているレンレンに、「これって、魔法少女ってバレたらどうなるの…?」と聞いてみる。
「うーん…そうだね〜…まずは奏音の家の前にファンとか、助けれらた人たちが殺到するとか、敵の人たちが奏音の家ごと壊して奏音を殺そうとするとかかなぁ…絵里の前の人は、正体がバレて家ごと爆破されて死んだよ?」
ひっ!!
怖すぎて不意に声が出た。これからは動揺しないようにしないと…ちょっとした噂はすぐ広まっちゃうから…
「どうした奏音?」
私はバックの少しだけ開いたチャックを慌てて閉めると、「な、なんでもないよ!!!」と隆一くんに言った。
危ない危ない…バレたら終わりって考えた方が良さそう…
私は教室の中に入ると、教室の後ろの扉側から一つ向こうの席に座った。
ちなみに横列の一番後ろ。
一番後ろの一番扉側には霧矢くんがいつもは座っているんだけど…
今日はやっぱり、居ない…
今まで無遅刻、無休を保ってきて、いつも席には霧矢くんが座っていて、すぐに、「おはよう」と朝の挨拶をしてから1日がスタートしていた私からすると、霧矢くんが居ない朝はちょっと寂しいかな…
私が少しシュンとしながらバックから強化書類を取り出していると、後ろから「なーに、寂しそうにしてんのさ!」と声が聞こえた。
私はその声の方向。後ろに振り替えようと、首を回すと、
「うぶ!!」と頬に人差し指が優しく刺さった。
後ろにいたのは、丸メガネを付けたピンク髪の女の子。
梓が立っていた。
私の頬の通り道に指を置いて。
「べ、別に…霧矢くんが居ないから…少し寂しいなーって思って…」
「別に、隣に李糸《りいと》がいるでしょ〜?」
私を挟んで霧矢くんの席の反対の席、その席に座っている赤髪のメガネをかけた男の子、細山李糸くん…
でも…
「で、でも李糸くんって…その…あんま喋らないし…」
「つまり!!陰キャって言いたいんだね!!!!!!」
「ごふぁ!!!!!!」
隣に居た李糸くんが机に屈服した…
「だ…だから…」
「え〜?奏音…本当にそう思ってる〜?」
「な…何が…」
梓は全てお見通しだよ〜!?とでも言うかのように、私の目を見つめる。
私はなんか、やばい気がして、ちょっとだけそっぽを向いた。
「あらら〜?私的にはそこのカップリング…ありだと思うんだけどね〜」
急に梓から出てきた言葉に、心臓の鼓動が一気に速くなってしまう
「な、な、なんでよ!?!?!?」
「お?奏音…まるで霧矢くんのことを嫌いって言っているようなもんだよ?それ」
「いや!!!霧矢くんのことは嫌いじゃないよ!!!!」
「じゃあ、好きなの?」
梓…霧矢くんが居ないからってよりにも寄って…
でも…なんだろう…今まで意識したことなかったけど、霧矢くんのことを話していると、なんだか、胸がざわざわする…
「べ…別に…今は友達!!ってだけだよ!!!それだけ!!!!!」
私はいつもより強めに言うと、梓はクスクスと笑って、「霧矢くんへの愛はわかったよ〜」と言いながら、自分の席に戻って行った。
「別に霧矢くんのことが好きなわけじゃないんだから!!!!!」
「はいは〜い」
もう…全く…まだ朝の準備できてないのに…
「あれが、魔法少女死刑執行人か〜…面白そ!」
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「ライリー…それは本当か?」
「私みたもん!!ぜったいぜったい!!!奏音ちゃんだったもん!!!!」
「でも…正直本当に奏音ちゃんって子が死刑執行人かは分からないよね…」
暗い部屋の中、蝋燭を一本だけ立てて丸い机を取り囲む。
「それじゃあ、そいつがどうやったら例の死刑執行人か証拠を掴まないとだね!!!」
「そうだな…それがまずは最善の手か…」
火が揺らぐ。
蝋燭の蝋が溶け、液体にへと変化する。
ポツンと、丸いテーブルの中に蝋が落ちた。
次の瞬間、部屋に光が灯る。
そして俺はそいつらに告げた。
「お前らさぁ…何してんの?」
LEDライトの電球が付いた俺の家の中、俺たち、RIは秘密の集会というものを取り行っていた。
「てかさぁ…人の勉強机を蝋で汚さないでくれない?」
勉強机の代わりとして機能していた俺の部屋に一つだけの机。
お婆ちゃん家の茶の間にありそうな少し大きめのちゃぶ台に蝋燭がそのままブッささている。
「すまない。ライリーがこういうのをしてみたいと言っていたので、やってみただけだ。ちょうど玄関に蝋燭とライターがあったので使った。地球人はこういうことをしないのか?」
俺はすぐに、地球外生命体のそいつ。
ベリアルに「地球人はそんなことしねぇよ」とツッコミを入れる。
「するもん!!!」
圧倒的に身長の小さいライリーが小さな腕を伸ばして対抗する。
「するのか?地球人は。」
「ま、まぁ…これをやるのは異世界人…とかだよね…」
俺は閉められたカーテンを開けながら、地味にちゃんと参加していたカントウにどの口が言えるんだよ!とツッコミを入れる。
「そう言ってもさ〜まずは悪の組織なんだったらこういう雰囲気作りからが基本でしょ〜!?」
「まあ…そうとも言えるけどな…じゃあ、せめて皿くらいは敷いてくれ?俺の勉強机に直接刺すのはエグいぞ?流石に。」
「ま…まぁ、さぁ…ライリーをいじめるのもそこまでにしようよ…?ほら…」
そう言いながらカントウはライリーの方向を目線で示す。
「あ…」
俺はどうやら重大なことに気づいてしまった…
ライリーが現在進行形で半泣きだ…
「う…ぐぅ…ユミー…ひどい!!!!」
「おい!!!ユミー!!!!!」
ベリアルが顔を真っ赤にして俺を睨んだ。
あ…これはどうやら俺の所為なのか…
自分の勉強机に蝋燭ぶっ刺して、ちょっと叱ったら、逆に俺が叱られる…
これ俺の所為か〜…
「大丈夫か?ライリー…」
ライリーはベリアルの伸ばした手の方向へ寄り、ベリアルに抱きつく。
ベリアルは、「よしよ〜し」と言いながら、ライリーの背中を優しくさすった。
赤ちゃんを慰めるかのように、白いワンピースを着た女の子を優しく撫でるベリアルはまるでキリストのように、聖人かと思うような清らかな顔をしている。
「これ…ベリアル…めちゃくちゃ清らかにされてるね…」
「ああ…異星人はロリコン見てぇだな…」
俺らの陰口も今の清らかなベリアルには届かない。
どこまで浄化されてんだよ…こいつ…
すると、ベリアルに抱きついていたライリーが少し泣き声気味に「……………」と何かを呟いた。
俺はベリアルに視線を送ると、ベリアルは、「新しいおもちゃが欲しいと言っている」と告げた。
「ははは…ここぞどばかりに隙を狙ってくるね…」
ああああああああああ…………………………………
絶対行くって言わないと泣き止まないパターンだ…くそぉ…
俺は大きなため息を漏らすと、「行くかぁ…」とライリーに言った。
ライリーは「ほんと!?やったぁ!!!!!」とベリアルから離れて、その場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
そして、今度は俺にぎゅーっという風に抱きつく。
「あーはいはい…」と言う俺にベリアルからの視線がナイフのように刺さった。
高校生の財布をなんだと思っているんだ…
「そんじゃあ!行こうぜ!!あいつの顔をしっかりと拝まないとな!!」
少しウキウキしながら、病院へと踏み込んだ隆一くんは、そんな呑気な言葉を吐きながら、病院のカウンターのお姉さんへと声をかける。
私はアズりんの隣で地面に敷かれているタイルを見ながら少しだけ歩いた。
起眞市総合病院の3階に霧矢くんはいるらしく、私たちはそのことを病院のお姉さんから教えてもらい、そして、霧矢くんの病室へ行くと、そこには、健気にいびきを立てて寝ている霧矢くんの姿があった。
「あ。こいつ寝てやがる…」
隆一くんが、せっかくお見舞いのメロン持ってきたのに…と言葉をこぼすと、私は、眠っている霧矢くんの顔を見る。
「なんか、全然元気そうだね〜」
「そうだな…特に何もなさそうだ。ま、元気ってことがわかってよかったよ。」
本当に元気なんだろうか…本当は強がってたりしないのか…
今の寝顔からは想像もできないけど、もしかしたらそう言うことがあるのかもしれない…
私はネガティブな時はとことんネガティブだ。
不幸なことだったらなんでも思い付いてしまう。
こんな想像、現実になってほしくないし、想像したくもない…
嫌な思考だけが頭の中を覆い尽くすと、私は不意に、涙が溢れそうだった。
「どうする〜?霧矢くん寝てるし、このメロンだけ置いて帰らない?バイトもあるしさ〜」
「え?ああ…そうだな…バイトがあるしな。森崎さんだけじゃ心配だからな。」
森崎さんとは私たちが通っているバイト先の店長だ。
「奏音ちゃんはどうする?残る?」
アズりんは私に気遣ってくれたのか、2択の質問をする。
涙がすぐにでも溢れ出そうなのを、グッと我慢して私は、「いや、残るよ!霧矢くんが起きるかもしれないしね!それにお見舞いに来たよって言ってあげた方が、安心するだろうしね!」
できるだけ、隆一くんには悟られないように元気な声で、後ろを向かずに、言った。
ただ、霧矢くんの方向だけを見て言った。
「うん、そうだね〜奏音ちゃんはここにいた方が良いかもね〜それじゃ、隆一くん!行こ!」
そう言いながらアズりんは、隆一くんの背中を無理やり押して、病室から出た。
「じゃ、また明日〜」
アズりんの声のあと、誰の声も響かない病室に引き戸式の扉が閉じられる音が響いた。
アズりんには本当には感謝の言葉しかない…
「ううっ…」
だってこうやって、誰にも気にせず泣けるんだから。
「ううっ…ああっ……あああああああぁぁっ……!!!!!!」
ねんねんころりよ おころりよ
奏音 はよい子だ
ねんねしな
優しいメロディーがどこからか聞こえた。
ねんねのお守りは どこへ行った
あの山こえて 里へ行った
里のみやげに なにもろた
でんでん太鼓に 笙しょうの笛
この声は懐かしいお母さんの声だ。
もう、聞くことのできないお母さんの声。
起きゃがり小法師こぼしに 振り鼓
起きゃがり小法師こぼしに 振り鼓
あんなことになるんだったら…喧嘩なんてするんじゃなかった…
「んん…」
目を開けると、すぐさま瞳の中には優しい温もりのこもった光が差し込んだ。
頭の一番上から後頭部にかけて少しだけ暖かい感触もする。
「あ、起きたか。」
「んん…」
薄暗い病室の窓の向こう。
霧矢くんは本を開いて、片手に本を持って、もう片方の手で、私の頭を撫でながら、読書をしていた。
「ふぇ!?」
私は霧矢くんの手が頭に乗っかっていたという事実と、うっかりと寝てしまったことに驚きを隠せず変な声を出してしまい、挙句果てには、霧矢くんから「なんだその声」と少し笑われてしまい、顔が赤くなってしまった。
「大丈夫か?俺が起きた時、すっごいうなされてたっていうか、本当、すごかったぞ…めちゃくちゃ泣いてたし」
「え?ほ…本当…?は…恥ずかしい…」
私は顔を霧矢くんの布団に反射的に埋めると、何か違和感を感じた。
「え?」
布団はとてもフカフカしていて、特に何もない。
けど…なぜか…違和感を感じた…
「どうした?」
なんだろう…
私はそっと布団を持ち上げる…
すると、掛け布団の下。
そこにはベットしかなかった。
「奏音、どうしたんだ?」
「え?いや…なんでも…………あれ?」
私は掛け布団にかかって見えていない、霧矢くんの、足のモモあたりの掛け布団を退かす。
出てきたのは、右足…のモモから先がない、不気味な足だった。
「へ…?」
「あー…バレちまったか…」
私は《《普通》》は足が存在している場所の布団を触ってみる。
布の感触だ…
これが示してるのは…
「実はさ…その…怪獣に襲われて体育館に来た時…上から降ってくるコンクリートが足に当たっちゃってさ…切断手術したんだよ…バレないかなーって思ってたんだけど…バレちまったか…」
「だ…大丈夫なの…?痛くないの…?」
「え?まあ、今は全然痛くないからな…大丈夫だ」
霧矢くんは表情一つ変えずに言ってみせた。
私にはそれが余計…我慢しているようにも見えた。
私は霧矢くんの大事な可能性を…奪ってしまった…
「ううぐっ…うあぁ…………」
「って…どうして奏音が泣くんだ!?」
「ああっ…………」
「あ…ちょちょちょちょい!!」
大切な人の可能性を…奪ってしまった…
「あああぁぁあぁあああぁっ………………」
すると頭に優しい感触が広がった。
暖かいし…何より優しい。
霧矢くんの手だ。
「え…えっと…少し前にアズリアがさ、奏音は撫でてあげると落ち着くって言ってたからな。落ち着くか?」
この人は一体どこまで優しいのだろうか…
「うあああぁああぁああああぁぁぁああああっっっ!!!!!!!!!!」
「落ち着いたか?」
「ぐすっ…ぐすっ…うん…」
「そりゃあ良かった…」
そういうと、霧矢くんは、ほっとしたように、ベットの背もたれに力を抜いて腰を全体重を預けた。
「…………霧矢くんはさ……ヒーローとか…憎んでないの?」
「え?憎むわけないじゃん。」
「え?」
霧矢くんはまるで、なぜそんなことを聞くの?と困惑した表情を見せる。
「俺の命を救ったヒーローを憎むわけないだろ?」
「そうなの…?でも足のこととかさ…」
「下手したら、足だけじゃなくて命も失ってたよ。ていうかさ!!死刑執行人って魔法少女の人!!!俺あの人かっこいいと思うんだよな〜!!!新人の癖して、1発で敵仕留める魔法を使うんだぜ?ロマンありすぎだろ!!!!」
なんだか…そう言われると少しむず痒い気がする…
そっか…
私は…大切な人の可能性は奪ってしまったのかもしれないけど…
大切な人の命…大切な人の未来は守れたんだ!!!!
「そういえばさー、なんか死刑執行人がすごい奏音の後ろ姿にめっちゃ似てたような気がしたんだけど…もしかして、エグゼキューショナーズだったり__」
「ちちちちち!!!!!違うよ!!!私全然そんな人知らないもん!!!!」
「え?でも…」
「っっっっっっ絶対に違うよ!!!!!!」
「お、おう…こんな否定されたの初めてだな…」
危なかった…霧矢くんに身バレするところだった…
でも…霧矢くんになら…私の秘密…
「まあ、流石に無いか…」
ぐふっ!!!!!!!!!!!!
奏音ちゃんの心に2000ダメージ!!!!!
心が砕けそう!!!!!!!!!!
「でも…どこか似てたんだよな…」
「えっと…どこが?」
「立ち方?」
え?立ち方?それだけ?
「死刑執行人…なんか、振り返った時があったんだけど、なんか、他の人のことを心配してるみたいで…その時の立ち方がすごい奏音だったなーって思ってさ…え?本当に奏音じゃない?」
霧矢くんは私に疑いの目を向けた。
これ…言った方が良いのかな…
でも…身バレするのは死に関係するかもしれないし…
だけど…霧矢くんになら…
「え…えっと、私は__」
ドオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!!!
次の瞬間、大きな地響きが夜空に響き渡った。
そして、ビル群を抜けた向こう側。
そこには大きな怪獣…この前に襲ってきたブラックモンスターのような怪獣が直立していた。
しかし、ブラックモンスターとは一味違う、赤いラインを皮膚の上に走らせて、真っ赤に染まった瞳をギラつかせている。
「奏音!!奏音!!!怪獣だよ!!!!怪獣!!!」
「うぉ!!!だ…誰だ?お前…」
バットタイミングで出てきたレンレンを私は、つかみ病室の外へと連れ出そうとしたが、レンレンは、私の手をひょいと避けると、私の腕を伝って頭の上にちょこんと乗った。
空気かと思うくらいに軽かったレンレンはニッコリと笑顔になりながら、「僕はレンレン!!!魔法少女の相棒なんだ!!!!」と言った。
「ま…魔法少女って…やっぱり奏音は死刑執行人なのか!?」
「わ…私は別に違くて…」
「え?そうだよ〜!!!最近、めちゃくちゃ奏音頑張ってるんだよ〜!!!!」
身バレは避けた方が良いって言ったレンレンは何処に行ったの!?!?
するとすぐに、私は、ベットの上にいる霧矢くんの両手が私の背中の後ろに回った。
「ふぇ!?!?」
暖かい感触と、心の温もり。
それを体全体で感じる。
「あわあわあわあわ……」
窓に映る私はとても赤くなっていてりんごのように顔が染まっている。
「かカカカカカカカカカカカカカカカカカカかかかか…かいじゅうううう…………」
「え?あ、そうか…奏音…行くのか?」
霧矢くんのように…守れる命…があるかもしれない…し…
「や…やっぱり行かないと…!!」
「そうか…そんじゃ、行ってらっしゃい。」
そういうと、霧矢くんは私のことを、もう一度抱きしめてから私を離して、笑顔になって、私のことを見送る…
引き攣った表情のまま、病室を出た私は、病院の廊下を走りながら、暑くなった頬を両手で押さえて…必死に悶えた…
霧矢くんに…霧矢くんにぃぃ………!!!!!
ひゃぁぁぁぁぁぁぁ……………!!!!!!!
しっかり乙女な少女の私は走っているからか、それとも霧矢くんの余波がまだあるのか…
どっちかわからないが、とても鼓動が早い。
そして、胸の中がむず痒い。
掻いても掻いても取れないようなむず痒さ。
それがとても、心地良い。
どうやら私は…恋というのが始まったのかも…
明日も来よう。
ここに。
霧矢くんに会いに。
私は病院の外へと出ると、魔法のステッキを取り出し、魔法少女のドレスへと変身した。
「よし!!頑張っちゃおうかな!!!!」
「って?倒された!?」
「はい。ちょうど、先ほどにアメリカのトップヒーロー。シャイニーによって討伐されました。」
私と同じようにドレスを身に纏ったVさん。
私たち魔法少女の役割は主にヒーローのサポートなど主流で、ここでは秩序保安委員会の一つの組織、特対捕獲分析連合のサポートをしているらしい。
特対捕獲分析連合とは、秩序保安委員会の組織の一つで、主に怪獣の分析などを取り行う組織の一つ。
「ちょっと、そこの魔法少女くん。少し良いかい?」
「あ、すいません。少し呼ばれました。行ってきますね。」
「あ…はい…行ってらっしゃい。」
夜にギラギラと輝く掲示看板。
大きな交差点の真ん中で、怪獣は真っ二つに斬られて倒されていた。
「どうやって…こんなこと…」
「やあ、お嬢ちゃん。君は魔法少女の人かな?」
「えっと…」
私は後ろを振り返り、声のした方向を向くと、そこにはゴーグルをつけて、体にパワードスーツのような物を見にまとい、まるでサイボーグかと思うかのような金属の体をした男の人が居た。
「もしかして、最近噂の死刑執行人って君のこと?」
そう言いながら男の人は、ゴーグルを外す。
ゴーグルの下には明らかに外国人のような深い堀の刻まれた目が露わになる。
何処か優しそうで、それで居て、強そうなイメージを纏う、男性に私は…「えっと…あなたは?」と質問する。
男性は、ポカンと鉄砲玉を喰らったような顔をすると、苦笑いをした後「こっちでは有名じゃないのかな?」とつぶやいた後
「アメリカでトップヒーローをやってるシャイニーという男だ。よろしく」
と言いながら手を目の前に出す。
「え!?あ、あなたがシャイニー!?」
なんとなく名前はニュースで聞いたことがある、その名前に私は少したじろぐと、それを察したシャイニーさんは、またもや苦笑いをして、「そ、そんなに驚かなくても…ヒーローをやっていれば一度は俺と会うよ。」
と落ち着いた様子で言った。
「そ…そうなんですか…?」
「まあ、俺はいろんな国を飛んでいるからね。」
「じゃあ、これをやったのも…」と言いながらブラックモンスターの死体を指さす。
「ああ。これも俺がやったね。」
「す、すごい…こんな巨大な怪獣を真っ二つになんて…」
すると、シャイニーさんは大袈裟に手を叩きながら「君こそ、この怪獣のオリジンの頭をぶっ飛ばしたって聞いたけど?単なる噂だったかな?」
「あ…そういえばそうだった…」
またもや、シャイニーさんはアメリカ人らしい笑い声を夜に響かせる。
「ていうか…オリジンってのは…?」
「君が初めて倒した怪獣ってさ、ブラックモンスターっていう怪獣だろ?この怪獣はその改造版のような存在らしいよ?さっき分析連合の人たちが言っていた。」
「それって…双子…とかっていうことですか」
「ふふ、君は考え方が面白いね!そうじゃないんだ。怪獣が意図的に作られた恐れがあるってことさ。」
「え!?そ、それって…」
「感染ウイルスや放射線、色々な手があるが、今のところ人間による故意的な物だと捉えて良い。」
「それってどういうことですか…?」
「怪獣が突発的に現れた。それが2回もだ。」
そういえば…私が初めてブラックモンスターに遭遇した時も…ブラックモンスターはビルの中から現れていた…
ビルを突き破ってきたのかと思えば、ビルの奥の道は特に攻撃された気配もなかったし…
「今回の場合、この交差点の真ん中に突如として現れたんだ。おかげで死人がわんさか出たよ…」
「そ…そんな…」
「ま、この御時世、死人が出ることなんて普通だよ。それに今回は12人ほどで止められたんだ。まだ良い方さ。」
それで良いのだろうか…
そんな脇役みたいな扱いをしていて…
死んだ人を大切にしていた大切していた人が居るだろうに…
「仕方ないことなんだよ…」
「そうなんでしょうか…」
「もしかしたらヒーローとか…いや、人類に人類の裏切り者がいるかもね…」
「そんな…!!!」
人類の裏切り者…それは、人間を辞めて怪人として悪行を働こうとする者。
もしかしたら…霧矢くんだって…
「まあ、まだ可能性の話だし。ウイルス感染の恐れだってある。君は戦闘に特化した魔法少女だろ?見るからに未成年だ。そろそろ家に帰ったほうが良さそうだぞ?なんせ今は8時だからな。」
「あ…そうですね…」
「早く帰った方が良い。家の人が心配_」
「私に家の人は居ません」
シャイニーさんが言い切るよりも先にそう告げた。
「おっと…すまなかったな…」
「いえ良いんです。慣れてますんで。」
霧矢くんによって新たに作られた新しい感情と、今までにあったどうしても埋まらない空っぽの感情。
その空っぽの感情を抱えながら、物足りなさを感じながら私は夜の道を歩く。
家に帰ったとしても、この物足りなさが埋まることは無い。
「悲しい…のかな?」
改めて実感する。
死者12人の内、私のようになってしまう人がいるかもしれない。
やっぱり守れなかったのかな…
「仕方ないことなんだよ…」
そう…あの事は仕方なかったし…
「あ!そうだ!良いこと思いついちゃった!!」
________________________________
「ふわぁ…良くねたぁ…」
片足の失われた新鮮な感覚と共に、俺はあくびをして朝を起きる。
目をこすり、また二度寝しようと布団をかぶ…
「ん!?」
朝6時。
俺のベッドの側に、奏音は居た。
「な、なんで…奏音が寝てるんだ…?」
まるでお姫様かのように目を瞑りながら俺のベッドに寄り掛かる奏音は、白い肌が朝日によって白く輝き、とても綺麗に思えた。
「か、可愛い…」
これは惚れるしかないだろ…と思いながら、俺は奏音がねているのを良いことに頭を撫でる。
昔飼っていた猫を撫でる感覚によく似ていると、思いつつ、俺は奏音が目を開いて顔を赤くするまで、俺は奏音の頭を撫で続けた。
ブラックモンスター改
死者:12名
怪我人:25人
戦死者:0人
少し前に現れたブラックモンスターのよく似た怪獣。
主な攻撃はビーム光線などがあったようだが、そんな事をする暇も与えずにシャイニーが討伐し、被害は最小限に抑えられた。
「奏音!!奏音!!!!」
「レンレン!!!ちょっと姿隠して!!!!」
「大丈夫だよ〜どうせ誰も見えてないんだから〜」
「本当にもぉー!!!!」
私の頭の周りを飛び回るレンレン。
少し前まではおとなしかったのに、最近になって何故か暴れ始めた。
ちょっとじっとしてくれないかな…
「レンレン!!!!ほら!!!」
私は言いながら学校指定のバックのチャックを開けて、レンレンに見せつけながら開く。
「入って!!!!!」
「ええ〜…やだよぉ…せっかく自由になったってのにぃ…」
「でも…レンレンって意外と有名なんでしょ!?」
「え?まぁ…最上級の魔法のステッキの精霊だから…確かに有名っちゃ有名だけど…別にこの学校だったらVしか僕のこと認知できないって!!!」
「なんでわかるのよ!!!」
「理由は特にないね!!!!」
はぁ、と私は息を吐き切ると1-Cの教室の扉に手を掛ける。
「それじゃあ、これから黙っててね!!!!」
「え〜!!!!!」
「文句言わない!!!!!」
私は曹怒鳴りつけると、教室の扉を開いた。
教室の扉の向こうには、霧矢くんの居ない席。
やっぱり寂しいな…
そう思ってしまうが、その感情は一旦飲み込んで、朝の準備をする。
視界の中に時々レンレンが入ってウザったい。
「よ!奏音!」
「お、おはよ〜奏音ちゃ〜ん」
すると先に来ていた隆一くんとアズりんが私に気づいて私の席へと来た。
「最近登校するの遅いな?なんかあったのか?」
そ…それは霧矢くんが居る病院から来ている…からなんて言えない!!!!
「え…えっとねぇ…最近少し眠くて…お寝坊しちゃうんだ!!!」
「本当のこと言わないの?ほんとは毎朝霧矢くんとラブラブで〜って」
すると頭の周りを飛び回っていたレンレンが横槍を刺してきた
ラブラブじゃないし!!!!!!!!
ま…まだ別に…ラブラブじゃないし…
「奏音?なんか凄い顔赤くなってるけど…大丈夫か?」
「え!?あ、いや!!!大丈夫!!!!」
私は慌てて時計を見ると、もう少しで先生が来る時間だと言うことに気づき、
「あ!!ほら時間!!!見て見て!!!先生来ちゃうよ!!!!!!!」
「あ、ほんとだ。じゃあな!!」
そういうと隆一くんは自分の席に戻った。
しかし、アズりんだけが残っていた。
「あ、アズりん?帰らない…の?」
「奏音ちゃん…そのちょっと相談…があるんだけどさ…?」
少し弱気なアズりん。
久しぶりにこんなアズりんを目にしたな…
可愛い…
「え?あ…相談?ど、どんなの!?」
「そのさ…わ、私魔法少女…になっちゃったんだけどさ…」
え?魔法少女…?
「え?まほ…うぐっ!!!!!」
私が叫びそうになったのをアズりんが無理矢理口を押さえて言わないようにする。
「しー!!!!身バレしたら死んじゃうかもだから…!!!!」
「あ…ごめんね…」
「魔法少女ってことは、じゃあ僕のこと見えるんだ…!?」
するとレンレンが空中を舞ってアズりんと私の間に割り入ってくる。
するとアズりんは何も言わないでコクリと頷く。
「え?それってもしかして…レンレンが言っていたラブラブ…って所聞こえてた?」
再びコクリとアズりんは静かに頷く。
「ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!」
顔を両手で隠してその場に蹲る。
「別に違うから!!!!!まだだから!!!!!!!!」
「え?奏音ちゃん…まだってことはこれからあるの?」
「ああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!」
蹲って床を叩く。
死んだ…絶対に死んだ…
「だ…大丈夫だよ奏音ちゃん!!!!わ、私も付き合ってるから!!!!!!」
つ、付き合っている????
「え?それって…誰と?」
アズりんは隆一くんの方をチラリと見た。
「え?」
隆一くんの方を指さす。
コクリと頷くアズりん
声を出さないで口を両手で押さえる私。
少しニマニマしてしまった。
今更になって顔の赤くなるアズりん。
ああ…アズりんはもう既に人の手に渡ってしまったわけか…
そう考えると、とても嬉しいようで、合法的に可愛いと言える手段が無くなって悲しい気持ちもある。
「そ、それでさ…その…先輩魔法少女として…少し教えてもらいたい…ていうか…」
アズりんがモジモジと体を捻らせつつ言葉を続ける。
「その…色々教えてもらいたいことがあるんだけど…良いかな?奏音ちゃん…」
私はすると、にっこりと笑顔で、
「いいよ!!!ドンと任せなさい!!!!」
と胸を叩きながら言った。
まあ、あんまり教えてることもないような気がするんだけど…
まあいっか!!!
「ありがとう!!それじゃあ、また後でね!!!」
するとアズりんはその言葉を残して自分の席へと戻った。
てか…隆一くんとアズりん付き合ってたんだ…
私もいつか、霧矢くんと…
プシュウと頭が音を立てて爆発しそうになる。
私は自分で考えたことが思いの外恥ずかしく、顔を机に伏せた。
「奏音どうしたの?」
と聞いてくるレンレンを無視して。
放課後…
誰もいない教室にて…
「それで?一体アズりんは何がわからないの?この先輩魔法少女がドンと教えてあげるよ!!!」
「え…えっと…その…この子なんだけど…」
と言いつつ、アズりんは自分の学校用のバックの中を私とレンレンに向かって見せる。
「ん?」
バックの中には、毛布のようにふわふわとした布のような物が詰められていた。
感触的にはクッションのように柔らかい丸い物体。
「一体…これは?」
「ほら、起きてユイユイ。」
そう呟きながら、そのクッションのような物質を人差し指でツンツンとアズりんが突いた。
「ユイユイって…まさか!!!」
レンレンが何かに気づいたようだけど、私にはさっぱりだ。
すると、物体から「ふわぁ〜」という呑気で眠たそうな声のようなものがした。
「なんだよぉ…アズリアぁぁ…まだ眠たいよぉ…」
すると、バックから一つのレンレンに似た動物の顔が現れる。
「ユイユイ!?ど、どうしてここに!?」
「この子のことなんだけど…奏音ちゃん…知ってる?」
「え?私は知らないけど…さっきレンレンが…レンレン何か知ってるの?」
「うん!ユイユイは僕と同じ最上級クラスの精霊で、魔法のどの魔法のステッキにも属さない妖精だったはずなんだけど…」
「昨日この子に呼ばれたのぉ…魔法のステッキに僕の体が召喚されて…今は立派な魔法少女のステッキの妖精だよぉ…はぁ…眠」
「ということは…アズりんも私みたいに凄い強い魔法が使えるの!?」
「え!私!?」
「もしかしたらそうかもね!!!そういえばさ、魔法ってどんなのなの!?」
「え…えっと…確かソードブレイカーって名前だったと思う…」
ソードブレイカー…一体どんな技なんだろう…
でも、今ここで発動しちゃったらもしかしたら校舎破壊するかもだし…
「じゃあ…ユイユイ…これからよろしくね!!アズりんを頼んだよ!!!!」
「え、別に僕が何かするってことはないんじゃ…まあ、いいや…おやすみぃ…」
その言葉を言った後、ユイユイはアズりんのカバンの中に入り、一つの物質のようにまたもや動かなくなった。
「ユイユイ、アズりんみたいだね!」
「えぇ?そうかなぁ…?」
私がそうだよ!!というと、アズりんは不思議に思ったようにまたもや首を傾げた。そしてあくびをする。
そういうところが似てるんだよ!!!!
「そういえば、奏音ちゃんってもしかして、最近話題の死刑執行人って魔法少女?」
「え?まあ…はい…そうです。」
「やっぱりそうだったんだ〜なんとなくわかっちゃってたけどさぁ〜」
「そ、そうなんだ…やっぱりわかりやすいのかな…」
「どうだろうね〜…隆一くんは全く分かってなかったみたいだけど…」
「そうなんだ…」
まあ、それはそれで安心ではあるかなぁ…
「そういえばさ、他に魔法少女の人って居るの?」
「え?あ、Vさんのことを紹介しなきゃ!!」
私は唐突に思い出し、アズりんの手を握って「2-A組に行こう!!」と言った。
「え?どうして?」
「良いから良いから!!」
教室をでたあと、私たちはVさんの居る教室、2-Aに向かおうと、誰もいない廊下へと出た。
校舎の外では運動部の掛け声が響く。
廊下に差し込む太陽の光を見る限り、外ではとても暑いように見える。
と、そのときアズりんの首元がうっすらと銀色に輝くのを私の目が捉えた。
首輪だ。
魔法少女全員に取り付けられる、いつでも魔法少女を殺せるようにできている首輪。
それがアズりんの首にもあり、その首輪が、アズりんの命が既にジェーニンの手のひらの上にあるということがわかった。
アズりんも……………
2-Aの教室の前に来ると、私たちは、その場に止まった。
「Vさんいるかな…」
「とりあえず入ってみる?」
「そうだね。」
生憎、今日は美術部が休みなため、もしかしたら、Vさんは先に帰っているかもと、懸念があったが、どうだか…
すると、中から、チュっと音が聞こえた。
何かに吸い付くような音。
「ん〜?」
アズりんもこの奇妙な音に気づいたのか、少しばかり首を傾ける。
「一旦開けようか…」
私は念のため、魔法のステッキを背中に隠しながら、出す。
そして、一気に教室の扉を開け…
「むちゅ…ちゅ…はぁ…ユミーさん…」
「ちょ…っとまってくれ…V…」
私が扉を閉めようと、その時、Vさんの彼氏…ユミーさんと目が合った。
「あ…」
「ユミーさん…んん…はぁ…ちゅ…」
「おいV?ちょっと一回待とう?」
顔が真っ青になるユミーさん。
それとは対にどんどんと顔が火照っているVさんは、椅子にしわっているユミーさんの上に向かい合うようにして、乗っている。
なんか分からないけど…ちょっと、えっ………えっ…………ち…だ。
「ユミーさん…もう…私…」
「V?人、来てる」
「えぇ?」
Vさんの今までに見たことのない、蕩けた視線が私たちの方に向く。
すると、今までの蕩けた顔が一気に崩れ、その代わり、「は…はわあああああああ!!!!!!!!」と羞恥の叫び声が響いた。
「もう…奏音がダメなので、私が言いますけど…ヤルんだったら家でやってくれませんか…?」
「すまん…もうちょっと考えるべきだった…」
「私が誘ったせいで…」
「え…V先輩から誘ったんですか?」
「う…ううううううううう…………最近ストレスが酷くて…」
「ストレスが酷いからって…ほら、奏音ちゃん純粋すぎて教室の隅であんな感じで蹲ってますよ…」
ここここここここここここここ高校生で!?!?!?!?!?!?!?!?
け…けけけけけけ結婚してからじゃないの!?!?!?!?!?!?
わわわわわわわわわ、私も霧矢くんと…
はあああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!!!!!!!!
駄目だ!!!!死んじゃうよぉおおおおおおおおおおおおおおお…………………
「ああ…すまなかった…」
「あの…すいません…その…なぜ今日はこの2-Aに来たのですか?」
「あ〜奏音ちゃん…!」
えっちなのはダメ死刑…えっちなのはダメ死刑…えっちなのはダメ死刑…えっちなのはダメ死刑…
「あ〜…ダメだね〜…じゃあ、とりあえず、女子達だけの会話したいんで、とりあえずユミーさん一回教室から出て行ってもらえますか…?」
「え?俺…?」
「はい。お願いします…」
「わ…わかった…」
ユミーさんが出ると、私はVさんと向き合い、とりあえず、奏音ちゃんの方を向くが、
「これりゃあダメそうだね〜…仕方ない…私が…というか、私自身が説明しますね〜」
「えっと…何をですか?」
私はバックの中にいるユイユイを手で退けてバックの底にある魔法のステッキを出した。
「そ…それって…!!」
「魔法のステッキです。実は昨日、魔法少女になって、それで挨拶をと思って…」
「アズりんは…自分の魔法がまだ分からなくて…どうにかできる方法ってありますか…?」
ふう…もう…大丈夫…えっちなのはダメ死刑…
「奏音ちゃん?もう大丈夫ですか…?」
「はい…一応…それよりも、アズりんの魔法の効果とか、後は、アズりんが何をすれば良いのかとか…教えていただけたら良いなぁと思って…」
「うーん…そうですね…まずは自分の魔法の効果をどこかで知らないとですよね…」
ドオオオオオオオオオオオオオオオオン!!!!!!!!!
外で控えていたユミーさんが、いきなり扉を開けて、「今のはなんだ!?」と教室の中に叫んでくる。
「も、もしかして怪獣か何かでしょうか…物騒ですね…最近は…」
怪獣!!!!
私は魔法のステッキを握りしめ、走ってユミーさんの開けた扉を通り、廊下へと飛び出た。
「おい奏音!?」
「ああ!!もう!!あの子ったら!!行きますよ!!アズリアさん!!!」
「え!?あ、はい!!!!」
「えっと…行ってらっしゃーい…?」
「行ってきます!!!!」
そう言うと、Vはその場から立ち去っていった。
「こちらユミー。V以外は殺しても良い。どうやら新しい魔法少女も加わったようだ。それだけは伝えとく。」
「ギャハハハハハ!!!!!この力は良いゼェ!!!!!」
学校のすぐ外には、歪な形をし、虫のような外骨格を身に纏った怪人の姿。
そしてその怪人はビームのようなものを口から出して、周りのビルを破壊する。
「お!!そこにちょうど良いのがいるじゃねぇか!!」
怪人の視線が、ただの一般人の女の人の方へと向く。
「やっ…!!!!!」
「人肉はうめぇんだ!!!そんじゃ、俺の食料となってもらおうか!!!!」
怪人が振りかざしたカマキリのような手を見て、覚悟を決めたのか、女の人は、手を盾にするように目の前に出す。
「じゃあな!!!うおらぁ!!!!!」
空気を切りながら女の人へと刃が向かう。
「ソードブレイカー!!!!!」
そして、空気を切り裂いたカマは、ある一つの黄色に光る弾がぶつかると、爆発し、爆発に巻き込まれた怪人は、少しだけよろける。
ビルとビルに挟まれた道路の上で、私たちはアズりんの怪獣に向かって放った攻撃は、あたりはしたが、怪獣の「なんだこれはぁ?」の言葉から察するにあまり効いていないようだ。
「大丈夫ですか?」
Vさんが優しく女の人に話しかけると、Vさんは自分の持っていた魔法のホウキに女の人を乗せて、飛び立った。
「後は任せましたよ!!!」
「ふん!!何が任せただよ!!!お前らはここで俺さまに殺される運命なんだよ!!!!」
す、すごい溢れる悪役感…
「殺してやるさぁ…!!!!!!!今すぐになぁ!!!!!」
2mほどの怪人は、その目をぎらりと輝かせると、奇妙なオーラを放った。
膝が震え始める。
今までの怪獣は、明確に私に対して殺すという殺意は感じられなかった…
けど、今回は違う。
絶対殺すと言う覚悟。
それにともなって私に放たれるオーラには鳥肌が立った。
怖い…気持ち悪い…心臓の鼓動が早い…息が荒い…死にたくない…死にたくない…
「奏音ちゃん〜大丈夫だよ〜こいつなんか怖くないって!」
「え?」
「こんな虫、私たちでイチコロだよ〜」
なんで、そんなに呑気に言えるの!?
なんでそんなに…勇気が湧いてくるの…?
アズりんは私の手を掴むと、暖かい温度が染み渡る。
なぜだか、大丈夫と言う言葉が不意に浮かんできた。
「そうだね…こんなやつなんか怖くない!!!!」
「ほほぉ?生意気じゃないか!!!!そんじゃあ、最初っから特別なモンをお見舞いしてやろうじゃねぇか!!!!」
怪人は、両腕のカマを地面に刺すと、前傾姿勢に構える。
「俺のスペシャル攻撃、ヒートブラスターをな!!!」
大きな大砲のように、口の中から筒型の白い歯のような物が剥きでると、まるで、ビーム砲に力を溜めるように、筒型の白い歯の中に赤い火が溜まっていく。
周りの空気を全て吸い込み、力を溜めていく怪人。
今にも爆発しそうなエネルギーから漏れ出す風が、肌を熱くする。
そして、筒状の剥き出しの歯の中身が爆発した瞬間。
私たちに向かって一気に一筋の光の熱線が放たれる。
一筋の熱線は、周りの道路に敷かれたコンクリートを二つの陣営に分けるように、線を引くようにして、真っ直ぐ私に向かって来る。
地面の溶ける程の熱線が目の前に迫ってくる。
熱線の風が目の前に迫り、サウナに入ったような風。
いや、もっと熱い。
「やば………」
不意に呟いた一言
いきなり迫ってきた死という言葉。
怖気ついた私。
そして、不意に目が閉じてしまう。
「ソードブレイカー!!!」
グッといれた瞼の力はアズりんの声が聞こえてから数秒経った後、ようやくやっと目を開いた。
「え…え…?」
目の前には、魔法のステッキを目の前に掲げ、3mほど先で止まったコンクリートの液状化。
熱のせいで少しだけ溶けたコンクリートは、ハンバーグが板の上で焼けるようなじゅわあと言った音を鳴らす。
「な、なんだ…?少し火力が足りなかったか…?もう1発!!!!」
再び、発射されるえげつない火の弾丸の数々。
何発もの弾丸。
一つ一つがコンクリートを溶かすほどの熱量を持った弾丸は、私らに向かって撃たれた。
「え!?ちょちょちょ!?!?!?」
「ソードブレイカー!!!!」
アズりんが魔法を発すると、飛び出した魔法は怪人の放つ攻撃と相殺し合って、攻撃は何もなかったかのように消え去る。
「奏音ちゃん!!!今だよ!!!!」
「え!?あ、そっか!!!」
私は大雑把に魔法のステッキを向ける。
あ、ちょっと待って?
そういえば、私の能力って被弾した相手が爆発するよね…?
この距離だと私たちも爆発に巻き込まれるかも…
「アズりん!!!私の攻撃だと、自分たちも攻撃に巻き添いくらっちゃうかも!!!!」
「え!?そうなの!?」
「だから一回Vさん呼ばないと!!!!Vさんの飛行能力だったら、もしかしたら、一度、引き離せるかも!!!!」
「な、なるほど、じゃあ!!!耐えてるよ!!!!」
「そうはさせるかよ!!!!」
そう言いつつ、怪人は目の前に迫ってくる。
どうやら、遠距離攻撃から近距離攻撃へとシフトチェンジしたようだ。
「おらあ!!!!」
振られるカマは空中を切り裂き、そのカマをアズりんは、ギリギリの所で、首を傾けて、避ける。
「ソードブレイカー!!!!」
アズりんは放った魔法を怪人の胸に当てて、ノックバックさせる。
2m程、ノックバックした怪人は、自分の手を先程のビームの光線のように赤く染まらせると、「今度は熱いぜ!?お前は避け切れるかな!?」と言いつつ、カマを横に振りかざした。
アズりんはそれを女の子とも思えないような運動神経を使い、バク宙をして、腰あたりに振られた赤いカマの攻撃を避けた。
「アズりん!!」
そして、地面に着地したアズりんは後ろ蹴りを入れる。
「んな!?!?」
「ソードブレイカー!!!!」
何発もの魔法を放ったアズりんは、魔法全てが怪人に直撃し、空中の空気をかき分けながら後ろへと吹っ飛んだ。
追い討ちをかけようと、吹っ飛んだ怪人に向かって走るアズりん。
そして、高跳びの棒2mを飛び越えそうなくらいの高さを飛んだ後、その重力の力を借り、自分の拳を怪人へと勢いよく下ろす。
バゴン!!!!と重たい音がすると、「ぐわああ!!!!」と怪人がその場で悶える。
「く、クソが!!!小娘がやりおって!!!!」
「へ!!これでも私…運動神経は良い方なんだ!!!」
瞼が全開になったアズりん。
覚醒状態とも言えるその目は、獲物だけを見ていた。
「す…すごい…」
本心から溢れた言葉。
人外の怪物と肉弾戦。
そりゃあ、魔法少女のドレスだから、少しは体力上昇の効果くらいはついていると思うけど、それでも魔法少女のドレスは肉弾戦のために作られているものではない。
でも、それでも、魔法×武術の融合。
それは到底、誰もができるようなことだとは思えない。
それに、戦っているのは昨日まで普通の高校生だった女の子だ。
それが一気にこんな風になるなんて…
「や、やっぱりアズりんは凄いよ!!!!」
アズりんは、どこかのプロボクサーを真似るかのように、戦闘の構えをすると、前に出した左手で、クイクイと手招きをするようなジェスチャーをする。
いわゆる、かかって来い、だ。
「舐めやがって!!!怪人の本領!!!見せてやるぜ!!!!!」
怪人は、左足地面に埋め、そして、右手をビル一つ分くらいの大きさにまで膨らませて見せる。
「パンクコング!!!!!!」
まるで、岩を投げるかのように、持ち上げたその腕は、アズりんに向かって落とされる。
でも、アズりんだったら大丈夫。
「ソードブレイカー!!!!」
持ち上げられた大きな右腕に当たった黄金色の魔法は、ぶつかったと同時に爆発した。
それでも少し腕の勢いがおさまった程度。
完全に止めるまでには至らなかった。
「まず!!!!」
ドオオオオオオオオン!!!!!!!
轟音を鳴らして地面にぶつかる怪人の右腕。
そう言いつつ、アズりんは、全速力で怪人の間合いから一旦離れた。
ビュン!!!と音を鳴らしながら、攻撃を避けたアズりんは魔法のステッキを目の前に向け、そして、怪人の頭に向かって放つ。
「ぐはっ!!!!!!!」
見事ヒットした攻撃によって生まれた隙。
アズりんはここを見逃さず、
地面に埋め込まれた丘のように膨れ上がった右腕にピョンと飛び乗ると、大きな右腕を伝って、怪人の肩まで走り、そして、怪人の頭をサッカーボールのようにして、思いっきり蹴りつける。
さらに怪人は苦しそうに「ぐああああ!!!!!!!!」と悲鳴をあげるが、それでも倒れる様子は無い。
「か…かったぁ……」
それとは別に、アズりんは自分の足を抑えて悶える。
「クソがぁ…この怪人様をサッカーボール見てぇにしやがってよぉ…!!!」
「痛いよぉ……!」
「アズりん!!!!」
「それじゃあ、ここらでさよならとしましょうか!!!!!」
すぐにアズりんが立つも、少しだけ、アズりんは足を意識してしまっているようだ…
「それじゃあ、最終奥義使わせてもらうぜ!!!!これは痛いからあんまり使いたくはなかったがな!!!!」
そういうと怪人は両腕を広げると、再び、あのビームのように両腕のカマが赤く染まる。
「カマネットォォ!!!!!!!!!!!」
怪人の両腕のカマが、木の根っこのように、分離した。
先程の一本のカマとはわけが違う。
これは攻撃範囲が広くなったわけだし、ジャンプして避けようとか、そういうのもできなさそうだ…
「アズりん!!!!!!」
「へ…お、面白そう…じゃん…」
片目を瞑って、痛みを悶えるようにするアズりん。
そろそろやばそうだ。
「お前、もう素早く逃げらんねぇだろ?まあ、いいさ、じゃ。」
振りかざされる熊の手のような両腕のカマ。
そして、私の上を通り過ぎる黒い影。
覚悟を決めたような、顔付きのアズりん。
カマの周りに沢山の風圧を生み出して切り裂かれたそれは、空気、空気、空気。
カマが切ったものの中にはアズりんなど入っていない。
カマは空を切り裂いたのだ。
「え!?」
私も、よくわからなかった。
空中に黒いかげが出てくると、同時に私はなぜかアズりんの真横を少し空中に浮かんだ感覚とともに通り過ぎたのだから…
「大丈夫ですか?」
掴まれた魔法少女のドレスの裾。
私を掴み取ったのはVさんだった。
魔法のホウキは、怪人の真横を素通りし、私とアズりんを魔法のホウキで回収し、今まさに、その場を離れているようだ。
豆粒の大きさほどになる怪人。
「早く体制を整えてください!!!このホウキは最大5tまでなら耐えれるので3人乗っても大丈夫ですから!!!!」
「あ、はい!!!!!」
私は、Vさんの肩を掴むと、後ろに乗ったアズりんが私の肩を掴んだ。
そして、次の瞬間、真横をレーザービームのようなものが通り過ぎる。
「奏音さんは攻撃を!!!アズリアさんは迎撃をお願いします!!!!戦闘の途中を少し見ていました!!!!高度を上げます!!!!奏音さん!!!お願いしますよ!!!!」
放たれだビームは、怪人が口から放った物。
それを「ソードブレイカー」で撃ち落とす、アズりん。
ビルの上を通り抜け、怪人のいる道路を捉える。
「今…イケる!!!!!!メルトシンギュラリティ!!!!!」
もう、無駄に構える必要なんか無い。
だって、これは…追尾機能付きだから!!!!
放たれた巨大な閃光は、先程、私たちが居た場所の道路に曲線を描きながら向かい、そして、怪人のいるであろう場所に着弾すると、上空からでも確認できるほどの爆発を起こした。
オーバーキル。それが、一番似合った言葉だと思うほどに。
「ほんとに、あのまま、撃ってたら巻き添え食らってたかもね〜…」
「とりあえず、地上に降りますね。」
「はーい。」