婚約破棄されて自由だと思ったら、そうはいかなかったみたいです!!

 「メルナセリア、今をもってお前との婚約を破棄するっ!!」

 その声がパーティー会場に響き渡る。

 「承知いたしました。ラクリウス様、婚約を破棄して頂きありがとうございます」

 私は喜んでいた。そう私は女癖の悪い公爵であるラクリウス・カゼムに愛想を尽かしていたからである。
 ここまでくるのには色々と苦労があった。どんなことをしてもラクリウスは婚約を解消してくれず色々な方法を使って怒らせてきたのだ。
 そして今日……その努力が実った。
 だけど婚約破棄と同時に私は家に帰れず平民となる。でも、それでもいいと思った。
 だって誰にも束縛されずに自由気ままに暮らせるのですもの。
 私はそう思いながらラクリウスに別れを告げると荷物を纏めるため自室に戻った。
 勿論、ニコニコしながらである。

 ★♡★♡★

 ここは私の部屋だ。だけど今日ここを出ていく。
 まぁ未練なんか全然ないのだけれど……ここに数ヶ月も居たせいか、なんか愛着がわいちゃって出ていき難いのよね。

 「あーそうだわ。ラクリウスからもらったブローチ……いらないわね」

 私はブローチをテーブルの上に置いた。

 「これで心置きなく自由気ままに庶民ライフを送れるわぁ」

 そう言いながら荷物を纏める。

 「こんなもんかなぁ。大きな荷物は異空間の収納ケースに仕舞ったし……あと何もないわよね?」

 私は周囲を見渡してみた。

 うん、大丈夫そう。いよいよか……今までとは違う生活、不安がない訳じゃない。でも、ワクワクの方が強いんだよね。
 そうだなぁ……町に住み始めたら仕事を探そう。どんな仕事があるんだろうなぁ。

 そう思い私は窓の外をみる。

 そういえば冒険者ギルドと商業ギルドってあるんだった。
 確か冒険者ギルドって結構ガラが悪い人たちが多いって聞くから……間違えないようにしないとね。

 そう考えながら私は荷物を持った。
 すると扉が、いきなり開き私は驚き荷物を落とす。

 「メルナセリア、本当にこれでよかったのですか?」

 そう言いながら心配な表情でブロンドで長い髪の女性が歩み寄ってくる。

 この女性はフユナリア・カゼム、ラクリウスの姉だ。

 「フユナリア様、私は後悔していません。それに好きと思えなくなった今では、ラクリウスを愛することなどできませんので」
 「そうなのね……残念だわ。貴女のように、しっかりした人がラクリウスには必要だと思っていたのですけど」
 「最初は私もラクリウスを真面な人にしようと試みました。ですが……聞く耳を持たない」

 そう言い私は、ハァーっと溜息をついた。

 「ごめんなさいね。貴女に苦労をかけてしまって……」
 「いえ、フユナリア様……謝らないでください。悪いのはラクリウスなのだから……」
 「そうでも……私がもっとちゃんとしていれば、こんなことにならなかったかもしれない」

 フユナリア様の表情は、かなりつらそうだ。

 「そんなことはありませんわ。フユナリア様も、なんとかしようと頑張っていましたもの」
 「どうなのでしょう……それならいいのですが。それはそうと、これからどうするのですか?」
 「はい、町に向かい宿屋に泊まります。その後、住む場所をみつけたら仕事を探そうかと」

 それを聞きフユナリア様は私を心配そうにみる。

 「女性一人で大丈夫ですか? もし護衛が必要であれば誰か雇いますが」
 「フユナリア様、そこまで心配して頂きありがとうございます。ですが……一人でやってみたいので」
 「そうなのね。ですが無理だと思ったら、いつでも言ってください」

 そう言われ私は、コクッと頷いた。

 「本当に心遣い……ありがとうございます。その時は、お願いしたいと思いますわ」

 そう言い私は軽く頭を下げる。
 私はフユナリア様と少し話をしたあと別れを告げ部屋を出た。
 その後、屋敷を出るとフェルミゴの城下町の宿屋に向かい歩き出す。

 因みに屋敷はフェルミゴ城の東側にある貴族の屋敷街にある。

 歩きながら私は色々な事を考えた。

 名前……どうしよう? まぁ姓を変えるだけでいいよね。どうせ家には戻れないんだし……。

 そして、ここから私の新たな生活が始まるのだ。
 ここはフェルミゴの城下町の宿屋だ。
 あれから私は途中で食事を済ませたあと、この宿屋にきた。そして宿をとると部屋にくる。
 外は夜なので真っ暗だ。

 ふぅ〜……明日、住む所を探さないとね。んー、よく考えたら仕事を先に探した方がいいのかな? 所持金もそれほどないし……屋敷の相場も知らないから。

 そう思い私はベッドの上に腰かける。

 「まあいいかぁ……眠いし寝よう」

 私はベッドに横になると眠った。

 ★♡★♡★

 「んー気持ちいい!」

 伸びをすると周囲を見回してみる。
 ここは宿屋の外だ。
 因みに翌日の昼間である。

 さて、どうしようかな? 仕事と屋敷さがし……そうだなぁ、どっちにしてもギルドに行かないとね。

 そう思い私は商業ギルドへ向かい歩き出した。
 歩きながら考えごとをしていると、ガラの悪そうな男たちが私の方に近づいてくる。

 「よう、一人かい? 良かったらオレ達といいことしねえか」
 「あーえっと……それって楽しいことでしょうか?」
 「ああ、凄く楽しいことだ」

 いかにもスケベそうな男の顔に吐き気を模様しそうだ。

 「そうねぇ……でも私は忙しいので、ごめんなさい」

 そう言い私は男たちから離れようとした。

 「そう言うなって……なぁ、いいことしようぜ」

 男たちの一人はそう言い私の腕を掴んだ。

 「な、何をするのですか?」

 そう言い私はその男の手を払おうとする。とその時、その男が宙に舞った。
 私は何が起きたのかとその男がいた場所へ視線を向ける。
 そこには青で短髪の男性が立っていた。左脇にみえる三つ編みが特徴的だ。

 「大丈夫か?」

 青髪の男性はそう言うと周囲に居る男たちに睨みを効かせる。

 「は、はい……ありがとうございます」

 私はその青髪の男性をみて、ドクンっと胸が鳴った。

 もしかして、これが一目惚れってヤツ?

 そう思い青髪の男性をみつめる。

 「それなら良かった」

 そう言い青髪の男性は私を庇うように身構えた。

 「おいっ、よくも仲間をやってくれたな!」

 ガラの悪い男たちの一人がそう言うと青髪の男性に殴りかかる。他の男たちも青髪の男性を殴りかかった。
 すると青髪の男性は華麗な身のこなしでガラの悪い男たちを投げ飛ばしたり殴る、蹴るで倒していく。
 それをみて私は更に胸の鼓動が速くなる。

 か、かっこいい~……まるでロマンス小説に出てくる王子様みたい。
 見た目は冒険者のよな服装だけど。でも今の私は平民、それなら釣り合うわよね?
 だけど彼の気持ちは、どうなのかな? それに……そもそも逢ったばかりで彼について何も知らない。……このあと聞こう。

 そう考えながら私は青髪の男性の戦闘をみていた。
 ガラの悪い男たちを全て倒した青髪の男性は息を整えながら私の方へ視線を向ける。

 「どうした? 顔が赤いぞ」
 「あっ、大丈夫ですわ。それよりも強いのですね」
 「そうか? まあ一応、旅をしながら鍛えてるからな」

 そう言い青髪の男性は手のひらへ目線を向けた。

 「そうなのですね……あーそうですわ。お礼をしたいのですが……どうしましょうか」
 「お礼か……そんなつもりで助けた訳じゃない」

 そう言った直後、青髪の男性のお腹が鳴る。

 「クスッ……そうね……食事などでは、どうでしょう?」
 「……食事か。それならオレが出す……女性に出してもらうのは違うしな」
 「そうなのですね……では、あとで何かしらのお礼をさせてください」

 そう私が言うと青髪の男性は、コクッと頷いた。

 「本当は、このまま去ろうと思ったんだが……名乗っておいた方がよさそうだな。オレの名前はグランディオ・リアガットだ」
 「私は……メルナセリア・ヒパティカと申します」

 そう私は挨拶をすると軽く頭を下げる。

 「そうだなぁ……どうする? オレは行きつけの店に食べに行くが」
 「そうなのですね。私も同行してもよろしいかしら?」
 「ああ……構わない。一人で食べるよりもいいしな」

 そう言うとグランディオは歩き始めた。
 それを私は追いかける。
 その後、店に着くまでの間……私はグランディオと話をした。
 ここは、いつもグランディオが来ている食事処だ。周囲に女性は少なく男性が多い。
 私はグランディオとカウンター席に腰かけ話しながら食事をしている。

 「グランディオは沢山、食べるのね」
 「ん? ああ……体を動かすからな。それよりも……オレの名前を呼ぶときは、グランでいいぞ」
 「グラン……そうね。確かに、この方が呼び易いわ。じゃあ私も、メルナでいいわよ」

 そう言い私は、ニコリと笑みを浮かべた。

 「分かった、そう呼ぶ。そういえば、さっきから余り食べてないんじゃないのか?」
 「あーそうね。でも、これ以上は食べれないかなぁ」
 「……勿体ないな。じゃあ、オレがもらっていいか?」

 そう聞かれ私は、コクッと頷いてしまう。
 それをみてグランは嬉しそうに私が食べていた物を自分の所に持ってくる。それを食べ始めた。

 ハッ! これてっ間接……キス…………迂闊でしたわ。私も、グランが食べたおかずを口にするべきでした。いえ、今でも間に合いますわよね?

 そう思いながらグランが食べているところを私は、ジーっとみている。

 「……もしかして、食べたくなったのか?」

 そう言いグランは、おかずを指差した。

 「あーええ、なんかグランが余りにも美味しそうに食べるから……」
 「そうか? じゃあ、食べれる分を取り分けろ」

 そう言われ私は目を輝かせグランが口を付けたと思われる場所を別の皿に取り分ける。

 「ありがとうございます」

 私は唾を飲み込んだあと食べた。

 「おっ、おう……構わないが。そんなに慌てて食べるとむせるぞ」
 「だ、大丈夫ですわ。ゴホッゴホッ……」
 「あーほら、何やってんだ?」

 そう言いグランは私に水をくれる。それもグランの飲みかけだ。
 嬉しさのあまり、その水を一気に飲み干した。

 「大丈夫か?」
 「はい、落ち着きましたわ」
 「そうか……それなら良かった」

 グランはそう言い、ニコッと笑みを浮かべる。
 その笑顔をみて私の胸の鼓動は、ドクンドクンと早くなった。

 ズル過ぎるわ……こんなにかっこいいのに、この素敵な笑顔。ああ……食べられたい。

 私は何を妄想しているのかと、ハッと我に返り顔が熱くなる。

 「……どうしたんだ? 顔が赤いぞ。熱でもあるのか?」
 「あーいえ、大丈夫ですわ。そういえばグランって、なんで旅をして鍛えているのです?」
 「……強くなりたい……悪いヤツを倒せるぐらいにな」

 そう言いグランは、どこか遠くをみているようにみえた。

 「倒したい悪い者がいるのですか?」
 「ああ、そういう事だ。そうだった……メルナは、一人なのか?」
 「そうね……今はそうよ。色々あって、昨日から一人で生活することになったの」

 私がそう言うとグランは心配そうにみる。

 「何があったか分からないけど……言えないことなのか?」
 「えーっと……そうね。できれば話したくないかなぁ」
 「そうか……それなら聞かない。オレも話せないことあるしな」

 そう言いグランは私をみた。
 私はみられて融けそうになる。

 「そうなのね。私は、これから仕事を探して……そのあと小さくてもいいから屋敷を購入しようと思ってるの」
 「凄いな……女で、そこまで考えてるなんて。男でも、そこまで考えられないヤツは沢山いる」
 「そ、そうかしら……ですが……ありがとうございます」

 私はそう言い、ニコッと笑った。

 「あ、ああ……。それじゃ……もしかして仕事を探しにギルドに向かうとこだったのか?」
 「ええ……商業ギルドに行く途中でした」
 「商業ギルドか……。ここの商業ギルドは余りいい噂を聞かないぞ」

 それを聞き私は、どうしてだろうと首を傾げる。

 「そうなのですね。でも、どうしてでしょうか?」
 「オレも、それほど知ってる訳じゃない。知ってることは……依頼主から多額の金をせしめてるだけじゃなく請け負う者に安い賃金しか払わないって話だ」
 「それって……本当なのですか?」

 そう聞くとグランは頷いた。

 「とある冒険者が依頼を受けて調べた。だが、その冒険者はオレに話した数日後……何者かに殺された」
 「……それが本当なら、役人に訴えた方がいいと思うのですが」
 「いや、証拠がない。証拠さえつかめればいいんだけどな」

 そう言いグランは無作為に一点をみて睨んでいる。
 その後、私はグランと話をしたあと食事処を出た。
 食事処を出ると私はグランに冒険者ギルドに行くことを勧められる。
 私はなんとなく嫌だったけどグランも一緒に行くと言ってくれた。そのため渋々ながら冒険者ギルドに向かうことにする。
 そして冒険者ギルドに向かいながら私はグランと話をしていた。
 オレはメルナと話をしながら街路を歩き冒険者ギルドに向かっている。……って云うかメルナは女だ。このオレが女と話をしている。
 二十ニ年……生きて来て母親以外こんなに話したことがなかった。
 それに彼女がオレのことを嫌っている様子はないんだよな。これって脈ありってことなのか? いや……分からないか。
 できるだけメルナに嫌われないようにしないと……。

 そう思いオレはメルナをみた。

 「どうしたのです……私の顔に何かついているの?」
 「あっ、いや……何もついていない。ただよく喋るなと思ってな」

 ハッ! まずい……オレは何を言ってるんだ。

 「ごめんなさい。そうね……少し話し過ぎましたわ。ですが、こうやって誰かと話をするのって……久しぶりでしたの」
 「そうなのか。別に話すなって言った訳じゃないんだ。どちらかと云えば喋っていてくれた方がいい。オレは余り話すのが得意な訳じゃないからな」
 「そうなのですね……分かりましたわ」

 そう言いメルナは満面の笑顔で微笑む。

 やっぱり可愛い……いや女神のように綺麗だ。
 さっき街路でメルナをガラの悪い男たちから助けたあとぐらいからか……好きになったかもしれない。
 でも告白なんて無理だ。それに逢ったばかりで何も分かっていないしな。それだけじゃない……メルナに嫌われたくない。
 そばに居られるだけでいいんだけど、どうなんだ? 冒険者ギルドを紹介したあとも一緒に行動できるのか?

 そう自問自答しているとオレの目の前にメルナの顔があった。

 「ヒャック!?」

 オレは驚き、しゃっくりのような奇妙な裏声を発生してしまう。

 「本当に、どうしたのです? 先程から何か考えごとをしているようですが」
 「色々考えてたのは確かだ。冒険者ギルドを紹介したらメルナと、さよならなのかと思ってな」
 「なぜですの? 冒険者ギルドを強く勧めてくれたのはグランよね?」

 ん? メルナは何が言いたいんだ。

 そう思いオレは首を傾げる。

 「そうだが……仕事は一人で、やるんだよな」
 「それは、嫌ですわ。それに冒険者ギルドに一人で行くのも怖いですし……ですのでグラン、一緒に毎回ついて来て下さいね」
 「あ、ああ……そういう事か。そうだな……慣れるまで付き合ってやる」

 そう言いオレは、ニコッと笑った。……笑えてるかは不安だが。

 「よかったですわ……これで、いつでもグランに逢えますわね」

 そう言われオレは、もしかして両思いなのかと頭をよぎる。

 メルナもオレのことを好きなのか? いや、ただ利用したいだけなのかもしれない。
 だが……それでも、メルナと一緒にいれるならアリかもな。

 「グラン……そういえば、どこに住んでいるのです?」
 「この町の西側にある住宅街にある貸家だ」
 「まあ……そうなのですね。そういえば先程、旅をしているって言ってましたものね」

 そう言われオレは頷いた。

 「ずっとこの町に居る訳じゃないからな」
 「……ですが、すぐではないのですよね?」
 「ああ、この町には一ヶ月前に来たばかりだからな。それに、やりたいこともある」

 そうオレが言うとメルナは優しく微笑んだ。……可愛い。
 メルナと話をしながらオレは、その後も変な妄想を膨らませる。そして冒険者ギルドに向かい街路を歩いていた。
 ここが冒険者ギルドらしい。建物の中には色んな人がいる。
 ガラの悪い男の人や男っぽい女性、私よりも年齢が低そうな男女もいて驚いた。
 そう思っていたよりも雰囲気が良かったからである。
 私とグランは受付のカウンターへ向かって歩いていた。
 その間グランは年配の冒険者さんたちに色々言われている。
 それを聞き私は顔から湯気が出そうになった。

 私とグランが恋人同士なんて言うのですもの。でも私は、それを否定するつもりなんてない。
 でもグランに否定された。途中で知り合って困っていたから冒険者ギルドに連れて来ただけだって……確かに逢ったばかりだけど……複雑だなぁ。

 そうこう思っていると、いつの間にかグランは受付のカウンターに居て私を呼んでいる。
 私は慌ててグランの居る受付カウンターへ向かった。

 「ボーっとしてどうしたんだ?」

 受付のカウンターまでくるとグランにそう言われる。

 「あーうん、なんかイメージと違ってたから……色々考えてたの」
 「そうか……まあ仕事が商業よりも庶民寄りだから請け負う者は曰く付きのヤツなんかもいる」
 「じゃあ……誰でも登録できるのですか?」

 そう問うとグランは首を横に振った。

 「登録は十歳からだ。まあ偽名でも登録できるがな」
 「そうなのですね……誰でも仕事ができるのはいいことだと思いますわ」
 「そうだな。商業ギルドは色々制限があるみたいだが」

 そう言いグランは無作為に一点をみつめている。

 「それだけ信用を大事にしているという事なのでしょうけど」
 「それだけじゃないだろうな。まぁこれは、あとで話す」

 そう言われ私は、コクッと頷いた。

 「クスッ、話は終わったかしら?」

 その声を聞き私はカウンターの反対側に居る女性をみる。
 グランも慌てて、その女性をみた。

 「あっ、サリュアさん……いつからそこに居たんだ?」
 「グランが来てから、ずっと居るんだけど」

 そう言われグランは焦っているみたいだ。

 「まあいいわ。それよりも今日は彼女をみせびらかしに来た訳じゃないわよね」
 「…………彼女……いや、メルナとはそんな関係じゃない」
 「そう? それで今日は、なんの用なの?」

 サリュアさんはそう言い私をみて睨んでいる。

 私……何かしたの? 全然……記憶にないのだけど……。

 「用があるのは、メルナだ。冒険者登録をしたいらしい」
 「そういう事なのね。じゃあ待ってて書類を持ってくるわ」

 それを聞き私は頷いた。

 グランにまた否定された。でも、いつでも逢える。逢えなくなるよりはいいよね。

 そう思いグランに視線を向ける。

 「どうした? トイレか?」
 「ハッ!? 違いますわ!」

 私は恥ずかしくなりグランの頬を、パシッと平手打ちした。
 グランは、よろけて床に尻餅をつく。そして痛かったらしく頬を摩っている。

 「ツウ……いきなり叩くことないだろ」
 「あっ、ごめんなさい。でも……」

 やってしまった……でも、そんな恥ずかしいことを公衆の面前で言うんですもの。

 「今のは、グランが悪いわよ。女性に対して配慮が足りなすぎます」

 そう言いサリュアは、グランを睨んでいる。

 「ん? もしかしてトイレって言ったことで叩かれたのか?」

 グランはそう言いながら立ち上がり私をみた。

 「そ、そうね。でも……グランは悪気がなかったのですもの。それに……これから、なるべくグランの発言に慣れていきますわ」
 「悪い……オレも気をつける」

 そう言うとグランは、なぜか私から目を逸らし俯いている。

 もしかして……嫌われたの? どうしましょう……でも、まだ分かりませんわよね。

 「ゴホンッ! イチャイチャは、そのくらいにしてもらえます?」
 「い、イチャイチャって……別にしてない。それよりもメルナの登録だろ!」
 「そうね。じゃあ、この書類に記載してくれるかな」

 そう言われ私はグランとサリュアさんに聞きながら書類に記載していった。
 私は書類に記載を終えるとサリュアさんに渡した。
 受け取ったサリュアさんは書類をみている。その後、登録カードに記載すると私にくれた。

 「綺麗な文字を書くのね。もしかして……元は貴族とかかしら?」
 「えっ!? いえ、全然……ぜーんぜん違いますわっ!」

 驚き、そのせいか私は声が裏返っている。
 だけど鋭いと思った。恐らく色んな人たちをみて来ているため分かるのかもしれない。

 「そう? じゃあ今まで文字を書く機会が多かったのね」
 「はい、代筆をしていたこともあります」
 「それは凄いわ。もしそういった仕事が入ったら真っ先に紹介するわね」

 なんでしょう?……さっきとは明らかに違う態度。ですが悪い意味でではありませんし……大丈夫ですね。

 「ありがとうございます。力仕事よりも、そういったものの方が助かりますわ」
 「そうなのね。あーそうそう、メルナセリアは冒険者ギルドって初めて?」
 「はい、真面に働くこと自体が初めてです」

 それを聞きサリュアさんは説明し始めた。
 サリュアさんの説明では冒険者ギルド共通のランクがあるらしい。
 スペード♠、クローバー♧、ダイヤ♦、ハート♡、スター☆彡と云うランクがある。最初はスペードから始まり最高ランクがスターだ。
 という事は私は現在スペードである。
 それと依頼は直接受付で聞くか掲示板をみて受ける。ただ希に、その人にあった仕事があると声をかけてくれるみたい。
 これは助かるわ……探す手間が省けるものね。

 「……こんな感じよ。それで今日は、どうするの?」
 「そうですねぇ……住む所も探したいけれど、その前にお金を稼がないとですよね?」
 「もしかして家出?」

 そう言われ私は「……」一瞬、言葉を失った。

 「い、家出じゃありません。まぁ……似たようなものですが、今は家に帰れないのです」
 「なるほど……じゃあ貸家なら月払いで安い所を知っているけど」
 「貸家ですか……安いって、どのくらいなのです?」

 私は気になり聞いてしまった。でも安いのであれば屋敷を購入するまでの間、宿屋に泊まっているよりもいいかと思ったのだ。

 「家にもよるけど金貨二枚から十枚って所かしら」
 「銀貨ではなくて金貨なのですね。因みに仕事をすると、だいたいどのくらいになるのでしょう?」
 「依頼内容にもよるわね。でもほとんどが銀貨払いが多いわ」

 それを聞き私は悩んだ。銀貨もチリも積もれば金貨相当になる。一ヶ月、その分の仕事を熟せばいいだけだ。それに安い所を探せばいいのだから。
 それと今なら金貨が結構ある。それなら……そうしよう。

 「どこに行けば借りることができますか?」
 「それならグランが知ってるから案内してもらうといいわよ」
 「お、おお……オレが案内するのか?」

 なんかグラン……迷惑そうな顔をしてる。私と一緒に行動するのが嫌なのかな?

 そう思った瞬間、なぜか涙が溢れでる。

 「ちょ、なんで泣いてるんだ?」
 「グラン……貴方が嫌な顔をしたからでしょ!」
 「えっ!? そんなつもりなかったんだけどな。だけど……ごめん、悪かった」

 グランは頭を下げ謝ってくれた。

 「ううん……大丈夫よ。それにグラン、無理に私に付き合わないでね」
 「あーえっと……無理に付き合ってる訳じゃない。ただこれから仕事をしないと」
 「そういう事なのね。その仕事って私もできるのかしら?」

 私はそう聞きグランとサリュアさんをみる。

 「どうかしら? 確か今日の仕事って隣村への荷物の配達よね」
 「ああ、外は魔物や魔獣がでるからな。戦闘経験がないと、つらいだろ」
 「魔法程度なら使えますわ」

 そう私が言うとグランは難しい顔をした。

 「魔法か……杖か補助的な魔道具は持ってないのか?」
 「ありませんわ……ですが購入すれば大丈夫かと」
 「そうだな……サリュアさん、メルナも受けても大丈夫か?」

 そうグランが聞くとサリュアさんは、コクッと頷きカウンターの奥に向かう。
 その後サリュアさんは依頼書を持って来て説明してくれた。
 それを聞き終えると私は、別に持ってきた書類にサインをする。
 そして、そのあと私はグランとギルドを出た。
 ここは武器や色々な装備品などが売っている店だ。
 私はグランとこの店の中をみて歩いている。そう私が使う武器を探しているのだ。

 「メルナ、杖の方がいいか?」
 「んーそうね……そう云うのに関しては余り詳しくないのよ」
 「そうか……じゃあ、とりあえず杖を先にみよう」

 そう言われ私は頷いた。
 私は杖の前までくると種類の多さに驚愕する。

 「す、凄いですわ! こんなに色んなタイプの杖があるなんて」
 「本当に初めてなんだな」
 「ええ、魔法の勉強はしたのですが……実戦は初めてなのです」

 そう私が言うとグランの顔は青ざめた。

 「…………ほ、本当に大丈夫か?」
 「多分……大丈夫だと思います。ですが最初は弱い魔物や魔獣を相手に試したいのですが」
 「そうだな……そうするか。じゃあ武器が先だな。もし武器じゃなければ魔道具でもいい」

 そう言われ私は頷いたあと杖やステッキ、魔道具などをみて歩く。

 「やっぱり杖がいいですわ」

 なぜか私は杖の方がカッコいいように思えた。そのため再び杖のコーナーに向かう。
 杖コーナーの所までくると手に取ってみる。

 「この杖って……もしかして殴れます?」
 「あ、ハンマーが付いているヤツか。それなら接近戦に使える。魔法を付与して攻撃もできたはずだ」
 「これシンプルですが私には使いやすそうですわ」

 そう言い私は軽くハンマー付きの杖を振ってみた。
 思ったよりも軽く持ちやすい。だけど地味だと思った。

 「装飾しても大丈夫かしら?」
 「杖にか? どうだろうな……店員に聞いた方がいいんじゃないのか」

 それを聞き私は店のカウンターの方へ向かう。
 そのあとをグランが追ってくる。
 カウンターの所までくると、かなり年配の男性が立っていた。グランの話では、ここの店主さんらしい。
 杖を店主さんにみせると私は装飾をしても大丈夫か聞いてみる。
 それを聞いた店主さんは最初、ビックリしていたが簡素な物であれば大丈夫だと言ってくれた。
 私はそう言われこの杖を買うことにする。金額も銀貨五十枚で思ったよりも安かった。
 バッグからお金を出そうとするとグランは無言でカウンターの上に銀貨五十枚を置く。

 「グラン……もしかして買ってくれるのですか?」
 「あ……うん、そうだな。メルナは今のところ金を使うな……屋敷を購入したいんだろ。それなら貯めた方がいい」
 「嬉しいですわ……そうですね。グラン……ありがとうございます」

 私はそう言い、ニコッと笑った。
 その後、私はグランへ視線を向ける。微かにグランの顔が赤く染まっているようにみえた。
 私はどうしたのかと思ったが具合を悪くしているようにみえなかったので何も言わないでおくことにする。

 「お……おお、問題ない。じゃあ……仕事をする前に試しに使ってみるか?」
 「そうですね……そうしますわ」
 「ああ……そういえば装備も整えた方がいい」

 そう言いグランは適当に私に合いそうな装備を持ってくる。

 「必要そうなの見繕ってきたが……どうだ?」
 「ええ、いいと思いますわ」

 それを聞きグランは、その装備一式を持ってカウンターへ向かった。

 またグランが買ってくれました。でも、いいのでしょうか?

 そう思い私はグランをみつめる。

 「買ってきた。とりあえず着替えが先だな」
 「そうですね。本当に何から何までありがとうございますね」
 「だから大丈夫だ。但しオレが買える物であればな」

 グランにそう言われ私は嬉しくて笑った。
 その後グランは私の装備一式を持って「行くぞ」と言い店の外へ出ていく。
 私は杖を持つと店主さんに挨拶をしたあとグランを追いかけた。