夕飯を食べて、入浴を済ませた真白は、襖のある部屋を見つけた。

隙間が少し空いている。

隙間からそっと覗くと、布のかけられたものがあった。

それは、鏡のようだった。

布は今にもずり落ちそうな掛け方がされていた。

気にせず部屋に戻ろうとした。

「お前…」

「え?」

何か声が聞こえた気がした。

(まさか、あの鏡から?)

横目で鏡を見た。

昼間のこともあるので、何も詮索せずに聞こえないふりをした。



慧と千輝は、真白たちの部屋とは離れた部屋にいた。

「しばらく、ここに滞在することになるな」

「あの四人が早く回復してくれたらいいんですが…」

霊力を消耗しているだけの天音と結奈はともかく、心配なのは紫音と花蓮だった。

邪気から受けた傷は治るのに時間がかかる。

「今は、渚と晶がみてくれている。あの二人なら適切な処置をしてくれるはずだ」

「慧さんは、二人とは親しいんですか?」

「晶とは大学を卒業してから知り合ったが、渚とは桜咲家に修行に来ていたときによく話をしていたな」

そこまで話すと、慧はドアを開けた。

「少し外に出てくる」

「えっ今からですか?外寒いですよ」

「すぐ戻るから大丈夫だ」


慧は今は調査で立ち入り禁止になっている、旅館に向かった。

「確かこの辺りだったはず…」

「ここは立ち入り禁止だぞ」

慧が振り向くと、渚が立っていた。

「こんな時間に何をしている?」

「少し風に当たっていた」

渚が慧の頬に触れた。

「冷たいな。風邪引くぞ」

そのとき、空から白い雪が降ってきた。

「お前こそこんなところで何してるんだ。もう十時すぎだろ」

「私は仕事だ。さっきまで神宮(かみみや)家の本家に行ってきた」

神宮家は、京都でもかなりの力を持つ術師の家系だ。

「全く、あそこの当主は頑固だな。相変わらず馬が合わない」

「そういえば、長男との見合いの話が来た時は大喧嘩したってほんとだったのか?」

「まぁな。本当はあの家と繋がりは持たないつもりだったんだが、今度は末っ子の次男を婿入りさせてほしいと言われた時は流石に驚いたな」

その時のことを思い出したかのように、渚はクスクス笑った。

「神宮家は何が何でもうちと繋がりを持ちたかったらしい。どうせ家を継ぐのは湊になるのに、わざわざ婿入りしてきたんだからな」

「…嫌じゃなかったのか?」

「嫌ではなかったな。向こうの両親とはよくしてもらっていたし、長男とは、結婚するにはお互いに合わなかったと言うだけで、仕事をする上ではいいとは思う」

「…そうか」