わたしの胸が、ドキリと音を立てる。
わたしはあわてて改札口へ振り返り、スクールバッグを肩にかけ直した。
「いじわる、です。コウタ先輩」
「最初にいじわるしたのは、はるかちゃんだからねー」
きっと、今のコウタ先輩は。
わたしの心なんて全部見透して、優しく笑っていて。
好きの気持ちが、帰りたい気持ちよりも大きいことが、バレているから。
反対側のホームに電車が来るアナウンスが流れる。
わたしは、熱い息を吐き。
コウタ先輩へ向き直り、ベーッと赤い舌をだした。
「ズルイ人には言いませんからね! コウタ先輩!」
苦笑いしたコウタ先輩が、んーと考え。
わたしが乗る電車のアナウンスにあわせ、耳元でささやいた。
「大好きだよ、はるかちゃん」
走りこんでくる電車のライトより、赤く赤く染まりながら。
わたしは離れていくコウタ先輩のネクタイをつかみ、せいいっぱい背伸びをして。
同じように、耳元でささやいた。
「わたしも大好きです。コウタ先輩」
パッとネクタイを離し、わたしは改札口にパスケースを当てる。
「アプリで連絡しますね! コウタ先輩、返事くださいね!」
開いた電車の扉から出てくる人の波を抜け、わたしは電車に乗りこむ。
プシュンと音を立て、閉まった扉に近づき。
わたしは立ったままのコウタ先輩へ、手を振る。
振り返される手と笑顔が、遠ざかっていく。
好きです。好きです。大好きです。コウタ先輩。
だからこそ。
わたしは聞かなくちゃ、いけない。
どうして、あんなに演劇を大好きなコウタ先輩が。
中学で事件に巻き込まれたり、高校では演劇部には入部しなかったのか。
わたしは扉にもたれかかり、トークアプリを起動する。
コウタ先輩の画面を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返し。
乗り換え駅を告げる車内アナウンスを聞き、エイッと送信ボタンを押した。
【はるか:
乗り換え駅に着きました。
明日、中学生の時の話を聞かせてください。
劇団の練習、頑張ってくださいね】
乗り換え駅は、何本もの電車が入り混じるターミナル駅。
人の間をかいくぐり、目的のホームへたどり着いた直後。
スカートのポケットに入れたスマートフォンが、ブルルとふるえた。
待ち受け画面には、コウタ先輩からの着信を告げるメッセージ。
わたしはホームにすべりこんできた電車に乗り、空いている席に座る。
ふーと大きく息を吐きだし、トークアプリを開いた。
【コウタ先輩:
休憩中。師匠に早速ビシバシしごかれています。
はるかちゃん。家に着いたら、また連絡して。帰り道、気をつけてね。
明日、きちんと話すよ。みんなにも、聞いておいて欲しいから】