* * *

 ルナはハルに手を引かれ、ジェットコースターの前に辿り着いた。昨日、景太が言っていた日本最長のジェットコースターだ。

 それを見たルナのこめかみに冷や汗が伝う。

「ハル……まさか」

「これに乗ろう!」

 ハルはそう言って目を輝かせた。

 ……正直乗りたくない。

 しかし、ルナの脳裏に文化祭の時の失態が蘇った。

(……今日は格好悪いところ見せないぞ)

 ルナは覚悟を決め、両頬を叩いて気合いを入れる。

「……よし、乗ろう!」

 ルナは力強くそう言って、ハルと2人で列に並んだ。

 列が進むにつれ、ルナの恐怖はどんどんと増えていく。

 ルナは悪魔だ。普段隠しているだけで翼をちゃんと持っている。だから、空を飛ぶことはできるし、飛ぶことに対して特に苦手意識もない。

 しかし、それは自分の意思で飛んだ場合の話だ。

 ジェットコースターのような、他人の……ましてや、機械の意思によって激しく振りまわされながら飛ぶアトラクションなんて、ルナは恐ろしくてたまらなかった。

 だって、自分で飛ぶのとは違って、次にどこを飛ぶのか分からないのだ。しかも、猛スピードで飛ばされるのだ。

(うう……怖すぎる)

 ルナが身震いするのを見たハルが、揶揄うように彼を覗き込む。

「ルナ、大丈夫?怖くない?」

「だ、大丈夫!余裕だよ!」

「本当かな~?」

「本当だよ!」

 ハルはルナの様子を見てクスクスと笑う。

 やがて、ルナ達の順番がやってきた。

 2人はコースターに乗り込み、安全バーを下ろす。

「それでは、いってらっしゃい!」

 ガイドが笑顔で手を振ると、ルナ達を乗せたコースターがゆっくりと加速し始めた。

「いよいよだ~!」 

 ルナの隣でハルが楽しそうに目を輝かせていた。

 その可愛らしい横顔に見とれていたのも束の間。



 コースターが、一気に落下した。

「ぎゃーー!!」

「きゃーー!あはは!」

 コースターはその勢いのまま上昇し、また落下する。

 その後、すごいスピードで1回転した。

(も、もう無理かも……)

 しかし、ジェットコースターはまだ終わらない。

 ルナは途切れそうな意識を何とか保ちながら、終点まで持ちこたえた。

「おつかれさまでした!お忘れ物にご注意下さいね」

 ガイドの指示に従い、バーを上げて荷物を持ち、ルナ達はコースターを降りた。

(怖かった……)

「あー!楽しかった!」

 げっそりとするルナの隣で、ハルは生き生きとしていた。

「ルナ、次はあれに乗ろう!」

 ハルが指さしたのは垂直落下のアトラクションだった。

 ……正直、耐えられる気がしない。

(でも、今日は格好つけるって決めたんだ)

 ルナはもう一度両頬を叩いて気合いを入れた。

「うん、分かったよ!」

 今日はハルにとことん付き合ってみせよう。ルナはそう意気込んでハルの後を追った。