「おらおらおらー、1年坊主走れ走れー!」
「脚止まってんぞー!」

 広いグラウンドに陸上部の2、3年生の声が響く。桜の残る校庭をヘロヘロになりながら100人近い新入部員が団子になって走っている。その団子から半周先にふたつの影。小柄な影と背の高い影。

 ここは私立杜の丘学園の校庭。100メートルのラインが3本は直線で取れるくらい広々とした校庭だ。私立杜の丘学園は幼稚舎から大学院まであり、中高は一貫教育の全寮制の男子校だ。男子寮だけなら大学院まである。文武両道がモットーで偏差値も高く、それでいて自由な校風、そして陸上部はインハイで優勝の常連校に名を連ねる程の強豪だ。

 そこに属して今、1年坊主としてグラウンドの先頭を走っているのは、小柄な方が400メートルハードルのタカスギアキミ。よく日に焼けた肌と、小柄な体はハードルを軽く越えて、まるで木々の間を渡る風のようだ。そしてもうひとり、背の高い方はハイジャンプのテヅカヤマカズナリはそのスラリとした長身生かした、空気の重さを感じさせないジャンプ力で、それは空を舞う鳥のようだった。このふたりは1年ながらすでに一目置かれていて、期待の新人扱いだった。

 ふたりは産まれた時から同じ産院で、数日しか誕生日が違わない。親同士が意気投合したので、それからふたりはすっと一緒の幼なじみだった。
 初等部1年からふたりとも陸上部に所属している。中等部の頃にはもう向かうところ敵なし、ということもあって、学生陸上界ではちょっとした有名人だった。
 揃って種目こそ違うが陸上が大好きで、毎日の練習で真っ黒に焼けた肌と、しなやかな筋肉がその莫大な練習量を物語っている。
 いつまでもふたりは一緒に陸上を続けるのだろう。誰もがそうそう思っていた。お互いに切磋琢磨して、陸上の高みに昇っていくのだろう、そう本人たちすら信じて疑わなかったけれども。