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 あれから母親に助けてくれた人物のことを聞いたが、真依を助けた後にいなくなってしまったそうで、結局お礼を伝えられなかったという。

 ただその言葉ではっきりしたのは、助けてくれたのは史絵ではなく別人ということだった。史絵が助けたのであれば、すぐに判明したはずだから。

 母親が帰ってから、何度も川に落ちた時のことを思い出そうとした。しかし頭を過ぎるのは落ちた瞬間のことだけで、助けられた時のことは思い出せなかった。

 頭を打ったと言っていたし、その瞬間に気を失ったか、衝撃で忘れてしまったかのどちらかだろう。

 ベッドの上に横になり、ぼんやりと天井を見つめていると、
「真ー依! 私だよ。入っていい?」
とカーテン越しに史絵の声が聞こえた。

 久しぶりに聞く友人の声に、真依の心に明るい光が差し込む。

「もちろん! 来てくれて嬉しいよー!」

 するとベッドを囲っていたカーテンの一部が開かれ、その隙間から史絵が笑顔を覗かせた。

「あぁ良かったぁ。真依が生きてるー!」

 泣きそうになりながら真依に抱きついてきた史絵の背中を優しく叩き、真依はクスクスと笑った。

「縁起でもないこと言わないでよー。でも私もほっとしてる」

 真依がそう言うと、史絵は真依の顔を真剣な目で見つめる。

「あれは事故なんだよね? 自分からってことはないよね?」

 目をぱちぱちと(しばた)くと、彼女の言葉の意味を理解して肩を落とした。そうか……史絵にそんな心配をさせてしまったんだーー自分が目を覚まさないばかりに、余計な心配をさせてしまったことを申し訳なく思った。

「もちろん、事故だよ。心配かけちゃってごめんね」

 真依の言葉に安心したのか、史絵は体の力が抜けてベッドに突っ伏した。

「本当だよぉ。でも安心した」
「そんな時にこんなこと聞くのもアレなんだけど、私を助けてくれたのって、もしかして絵の具くんだったりする?」

 すると史絵は勢いよく起き上がり、驚いたように目を見開いて真依をみたのだ。もうそのリアクションだけではっきりとわかり、そして胸が熱くなるのを感じた。

「やっぱりそうなんだ……。どうしよう、嬉しすぎるかも」
「えっ、ちょっと待って。なんで知ってるの? あの時、まだ意識があった?」
「意識はなかったよ。ただ……」

 そこまで言いかけてから、真依は口をきゅっと閉ざした。どうせ夢だと信じてもらえない。だって真依ですら夢かもしれないと思っているのだから。それならば答え合わせは絵の具くんと一緒にしたいと思った。