「おい! あそこに魔物がいるぞ!」
「本当だ~、A級っぽいね」
今私たちがいるのは東の荒野地帯であり、広大な土地が広がっている。少し歩いていると空に魔物がいることをエリックが気づいたようだ。空を泳ぐように動くその姿から恐らく飛行系の上級モンスターだろう。
この東方向に上級モンスターが出現するのは珍しいが、荒野地帯には上級モンスターのワイバーンが出没すると聞いたことがある。
「よし! あのワイバーンは必ず仕留めるよ! A級を倒せればポイントも大幅に増えるだろうし!」
リズがそうこう言っているとワイバーンがこちらに気づいたようで空を泳いで近づいてくる……。
「よっしゃ! こっちに気付いたな!」
そう言ってエリックは剣を引き抜きワイバーンに狙いを定める……。
ワイバーンは大きな翼を羽ばたかせ、私たちに火球を放ってくる。火球の火力はかなり高く当たってしまえばひとたまりもないだろう……。
だがこちらにはレズリタがすでにスキルを発動していたようで、火球に対して手をかざす。
《黒い渦ッッッ!》
すると目の前の空間が渦を巻くようにぐにゃっと捻れるとワイバーンの放った火球はその捻れた空間に吸い寄せられる。その空間はまるで小さなブラックホールのごとく私の目に映ると、ワイバーンの放った火球をいとも容易く吸い寄せてしまった。
「れ、レズリタいつのまにこんな魔法を?」
「すごいでしょ~ラゼル。皆には秘密にしてたんだ~」
レズリタはそう言って軽くウィンクする。レズリタの魔法に関心しているとワイバーンが新たに火球を放ってくる。
「この火球切れるのかな?」
リズは剣を鞍から引き抜くと魔力を集中させ火球に対して剣を振る。すると綺麗に2つに分かれた火球が遥か彼方に飛んでいき霧散する……。だがワイバーンも馬鹿では無い、尻尾を丸めるとその巨体を縦横無尽に俊敏な動きで回しながら火球を連続で撃ってくる。
1つ1つの威力はそこそこありダメージを負う可能性もある……。そこで私もスキルを発動する。
《ブリザード》
放たれた冷気がワイバーンの羽をを一瞬にして氷漬けする。そして動きが緩慢になり飛竜は地面へと墜落した。
上から落ちたワイバーンにエリックがスキルを発動する。
「ギガントインパクトッッッ!」
上からエリックの重い一撃が入る、ワイバーンは空の上からでは味わえない重力に勝てずそのまま地面へとめり込む……。今の一撃でかなり弱った様子だが地面に縫い付けられているため直ぐに起き上がることが出来ないみたいだ。
「今だリズ!」
「任せて!」
リズは地面を蹴ってワイバーンに近づくと剣を一振りして、簡単にワイバーンの首を落とす……。
A級モンスターを相手にしながらこうも楽勝に終わるとは……かなり調子が良いしイケそうな気がする。
「よし、討伐完了! レズリタ魔法鏡でランキングを確かめて!」
リズがレズリタに命令すると直ぐに魔法鏡を取り出し順位を調べる……。
するとレズリタは笑顔になりはじめる。なんだか嬉しそうだ。
リズとエリックもその結果を心待ちにしていたんだろう、結果を聞いてくるレズリタを少し待っている。そして意を決したように口を開くと 笑顔でレズリタは言葉を発した。
「1位だよ! 私達が1位!!」
「やったな!!」
レズリタの言葉にエリックが拳を掲げて応える。
まさか1位を取れるなんて夢みたいだ……。ただ油断は出来ないだろう。
魔物との戦いを終えた私達は荒野を更に進みながら次々とモンスター討伐を行っていた。
結論から言うと荒野地帯は案外私たちが欲している上級モンスターが多数生息していたようで私達も4人で協力して難なく倒すことに成功する。1位という好成績が相まったのかポイントが増えっぱなしである。
「結構ポイント溜まってきたね!」
「ああ! 場所を少し変えて良かったぜ」
リズとエリックはもう元気いっぱいと言った様子だ。なんとか順位を維持出来ており気が楽なのだろう。
それから私たちは少しずつ魔物を狩っていき順位を徐々に上げていくことに成功する。
そして最終日の今日に至ってはかなり順位を維持できているのでは……そんな気持ちに包まれていた。
A級モンスターも十分に倒せておりしばらく巻き返されないだろう……。
私たちは安全に勝利を収めることだけを最優先に考えその日は魔物を狩り続ける。
するとレズリタが気になることを口にした。
「じ、地面が揺れてない?」
「地面?」
私は地面に手を置き注視してみる。
確かに微かに震えている。それもかなり規則的に……。
もしかして魔物が近づいてきているのだろうか。この振動はかなり多い……。
「なんだこれ......もしかして魔物が一斉に動き出したのか!?」
エリックの発したその言葉に皆息を飲み込む。振動はどんどん大きくなっていき、それに従うように地響きも少しずつ大きくなっていく……。
「皆、王国南部の都・リザースに戻るよ!」
私がそう言うと3人とも頷いてくれ、全速力でリザースに向かう。
先ほどの魔物の大群は何なのだろうか、私たちは全速力で王国南部の都・リザースに向かうのだがいつまで経っても振動はやまない。
私は嫌な予感が拭えず走り続ける……。
もし魔物の大群がリザースに押し寄せていたなら……考えただけでも恐ろしい……。
今リザースには多くの民と国王が滞在している。
魔物の大群が襲いかかれば死人が出てしまう……。
きっと今回の祭りに参加しているパーティーもすぐに行動しているだろう。
私達は息切れしながらもなんとかリザースに向けて走り続ける。
■■■
「何事じゃ」
ここは王国南部の都・リザース……祭りの喧騒が鳴り響いていた……。
なぜなら突然地面が揺れていて騒ぎになっているからだ。
まだ大きな被害は出ていないが皆パニックになっており、落ち着いている街はどこにもない。
「へ、陛下! 魔物が大群で攻めてきています!」
興奮した様子で兵士の1人が報告をしてくる。
どうやらこの揺れは魔物によるものらしい。
「なら返り討ちにしてやれ」
「そ、それがあまりにも魔物が多く我々だけでは手に余りかねません!」
「なんじゃと?」
その言葉に少々苛立ちを覚えてしまう。
このままでは騒ぎも大きくなりお祭りが中止になってしまう。
皆不安の絶頂であろう……一刻も早くこの騒ぎを落ち着かせなければならないがその暇すらありそうも無い。
ならば……。
「近衛騎士団であるリスタを呼べ」
「陛下、私はここに」
目にも追えぬスピードでリスタが目の前に現れる……。
相変わらず驚かされるような動きである。
故にあれくらいの芸当は朝飯前だろうがな。
「魔物どもがここリザースに攻めてきておる。滅ぼしてこい」
「承知しました、では護衛を残していきます」
それにしてもたかが魔物どもでリザースを襲うなど片腹痛い。
魔物どもは知能がないからのう……。
そう思っているとリスタが混乱している民の前で口を開く。
「我は近衛騎士団団長リスタである! これより我が率いる近衛騎士団は魔物の群れを排除する!」
リスタの一言で混乱していた民の表情が取り除かれていく。
「必ずや我々は魔物どもを退ける! よって安心せよ!」
リスタのたった一度の一言で混乱は一気に収まる。いつ見ても凄いカリスマの持ち主だ。
それからしばらくしない間にリスタが自らが率いる近衛騎士団の面々を連れて民の前に姿を表す。
その威圧感からだろうか辺り一帯の温度が低く感じ取られるように思えるほど皆静まり返っている。
「陛下、近衛騎士団直属の第三騎士隊長と第四騎士隊長を護衛として置いていきます」
「なぜじゃ?皆で行けばよかろう」
ここはリザース……防衛機能も特に施した街である。
護衛に関してはA級冒険者が数十人は滞在しているのだから必要はない……。
なぜじゃろうか? わしがそう言うと第三、第四隊長達が頭を下げる……。
そしてリスタが再びその美しい透き通った声で言葉を紡ぐ。
「この魔物の大量発生が人為的だった場合……陛下や民に被害が及ばないとは言い切れません」
「なるほどな......」
「それでは我ら近衛騎士団は向かいますゆえ!」
そう言ってリスタがマントを翻し民から離れていく。
その部下である第一第二、第五の騎士たちも近衛騎士団のみが使える漆黒のマントを翻して颯爽と姿を消す……。
祭りと思っていたものがこれほど大規模な魔物による襲撃によって気が滅入る展開になるとはな……。
そう思いながら騎士達の背中を見つめるのだった。
「やっと見えてきたよ!」
「疲れたよ~」
「ああ、結構走ったな」
私たちはリザースに戻る選択を取った。
そして休憩することも無くリザースに向けて走り続けること1時間ほど……ようやく王国南部の都・リザースが眼前に見えてくる。
まだ結構遠いが魔物の群れは見えないので安心できる。
そうして私たちは王国南部の都・リザースに入る。
「無事だったようじゃな"龍"よ」
「はい、ただ魔物の大群がリザースをに来ていると感じ戻ってきました」
私達がリザースに辿り着いたとき国王は安堵の表情を見せていた。
やはり魔物の数は本当に恐ろしいものである……。
数十キロは離れているのにも関わらず地響き、そして巨大な何かが歩く足音はもはや地響きと呼んで良いのかさえ分からないものであった。
恐らく数百どころか千を越える数なのは間違いないだろう……。
とりあえず安堵するのも束の間であり私たちは直ぐに対策を始める必要があるためか国の指示を聞くことにすることとした。
この祭りに参加した他のパーティーも時間は掛かるだろうが戻ってくるはすだ。
それに陛下の話によるとリスタが魔物の殲滅に向かったみたいなので問題は解決に向かうだろう……。護衛もしっかりつけているとの話だしね。
色々と心配はあるかも知れないがなんといっても近衛騎士団は我が国の誇る最強の軍事部隊なのだ、それなら十分安心できるだろう……。
この騒ぎで街にはかなりの混乱や不安も見られたが少しずつだが落ち着きを取り戻しているみたいだ。
そう思った瞬間、何やら慌ただしい空気になり、誰かが声を荒らげていた。
「う、上を見ろ!」
なんだと思い全員が上を見てみると上空に何かの影が見え、その何かがこちらに向かって近づいてくる。
そうそれは竜だ――。
飛んでいる竜は3匹ぐらいでありとても巨大だと認識する。
「陛下をお守りしろ!」
近衛騎士団の第三と第四の隊長が陛下の周りを囲む。
皆各々の武器を持って竜から守ろうと気概を見せているのだが正直厳しいだろう……。
私達ですら敵わないと簡単に分かる存在だ、恐らくこの場にいるパーティーの精鋭をもってしても勝てるような敵ではない……。
「俺らがここにいて良かったよなラゼル」
「もちろん」
エリックがそう言いい放ち、腰に欠けている鞍から剣を抜く。
こんな状況になれば高ランク冒険者であってもどうなるかは分からないだろう。
だが私達はS級冒険者だ。どうすることも出来ない場合もあるかも知れないが、生存の可能性は確かに上がると思う。
その時だった……三匹の竜が旋回するように飛び大地へと激しい音と同時に降り立った。
この竜はおそらくSS級ほどの力がある。
今まで戦った魔物とは訳が違い厄介極まりないだろう……。
ただこの竜を逃す訳には行かない、もしこの竜がリザースを離れれば王都の多くの人々は死んでしまうだろう……。なんとしてもここで食い止めなければ。
私は黒い渦を展開し戦闘準備を整える。
リズ達も集中して剣を握る。すると近衛騎士団の隊長2人が私達に近付いてくる。
「我々近衛騎士団は竜を一体を討伐します、主戦力はリスタ様と一緒に行きましたので……」
「分かりました、では竜2体は冒険者が討伐します。」
私がそう言うと近衛騎士団の隊長が頷く。
これで冒険者は竜の殲滅に当たることができるわけだ……。
あとは竜をいかに効率よく倒すのかだ。
正直私達4人のパーティーだと竜1体に対しギリギリだろう……。
だからこの場にいるA級冒険者やB級冒険者に協力してもらうしかない。
だか周りにいる冒険者を見ても竜に挑もうとする勇気ある者はこの場には見えない。
SS級の竜の恐ろしさはここにいる人が一番分かっているだろう。
挑む勇気があるのは数十人いればいい方だ。
「私はS級冒険者ラゼルだ! 竜を討伐するため協力してもらいたい!」
私が叫ぶと殆どの人が恐怖のためか顔を背ける……。
「か、勝てるわけねぇよ......」
「竜なんかに俺らが勝てる訳がねぇ!」
この王都にいる冒険者は烏合の衆だ、恐れるのは当然だがそれではこの街の人々を助けることは出来ない……。
少し荒療治ではあるが皆に目を覚まさせるためにはこの手しかないな……。
ラゼルは一度深呼吸をすると、声を張り上げて皆に対し言葉を投げかけたのだった――。
「恐れているのはわかる、だがここで竜との戦いに勝利出来なければ、竜はきっと王都に侵入し人々を襲うだろう! そうなれば王都の多くの人々が死んでしまう!!」
周りの人々が静かになった。誰もが竜の恐ろしさを知っているのだろう……。
だからこそ分かるのだ、私達が言っていることも正しい。
すると私の言葉を聞き少しずつ目に色が灯ってくる。
「今この時間も先ほど向かった近衛騎士団は魔物の大群と戦っている! 我々は王国の人々を守らなければならない! 頼む! 我々と協力してくれ!!」
私が最後にそう言い終えた直後、覚悟を決めたのか皆顔を見合わせ同じ方向を向く。
そう先ほどまでの恐怖は無く皆が決死の覚悟で竜に挑むつもりがあるのだろう。
これならばいける。
「お、俺らは冒険者だ! 魔物を狩るのが仕事なんだ!」
「ああ! ラゼルさんの言葉で目が覚めた! やってやろうぜ!」
勇気を出してくれた冒険者達に感謝しながら竜と相対する。
竜の方も私達を見るや否や咆哮を上げ戦いの合図が鳴るのだった。
SS級の強さの竜だがこちらには陛下がいるのだ……負ける訳にはいかない。
国王も危険だが目の前にいる竜はもっと危険な存在だ。
もしもここで陛下に何かあれば国が危うくなる。
S級冒険者として、そしてこの国に仕えるものとして竜に負ける訳にはいかない。
「レズリタは魔法で援護を! リズとエリックは突撃を頼む!」
そう私は指示を出すと、三人は揃って返事をし竜に斬りかかるのだった。
2人は竜と対峙し激しく刃を交えている。
あれだけ激しい攻撃をしているが竜は俊敏な動きを見せ器用に回避を行っていた。
エリックが隙を狙って剣を振るうものの爪で防がれてしまうような攻防である。
「くそ! 硬てぇ!」
「流石竜ね!」
2人の刃は全く竜の皮膚を貫くことは無い……。
かなり魔力のこもった剣で切りつけているように見えるのだが傷一つつけることすら叶わない……。
流石SS級の竜といったところだろう。全くと言っていいほど傷がついていないのである。
すると竜は口を開き、私達に向け黒炎のようなものを勢いよく吐き出した。
「くっ!」
リズとエリックは急いでその炎を回避するが少々服にかかってしまう。
あの炎を浴びたら良くても大火傷で皮膚はドロドロに溶け落ちて醜い姿になるのだろう……。
そう思うとぞっとしてしまう。
「スパークッッッ!」
するとレズリタが電撃を竜に放ち命中する……。
今だと思い私も魔法を竜に放つ!
《ブリザードッッッッ!》
私の魔法から放たれる冷気が一瞬にして竜を包み込んでいき竜の体は見る見るうちに氷漬けになっていく。
今が好機だろう。一気に勝負を決めることが出来そうだ。
「リズ! エリック! 今よ!」
「うん!」
「任せろ!」
私の言葉と共にリズ達が竜に飛び掛かる。
まずはリズが竜に鋭い一撃を見舞う。
肩から刃が突き刺さり、抉るように斬り裂いていき刃は肉を切り裂く。
血しぶきが上がりやがてリズの剣も赤く真っ赤に染まる。
そしてエリックの大剣が竜の横腹を抉り血を吹き出した。
リズ達の攻撃によってダメージを負った竜はよろめき隙を見せる。
「私の魔法を得と味わえッ!!」
既に魔法を展開させていたレズリタが詠唱を唱える。
すると竜に向かって炎の渦が包み込んでいき徐々に炎を上昇させる。
どんどん火力は上がりやがて炎の渦は竜を包み込むように真っ赤な火球へと変化していく。
「グァァァァァァァ」
竜はもがくようにその火球から抜け出そうとする。
《星糸》
私の手から禍々しいオーラと共に糸が生成される。
その糸を竜に放つと、一気に全身を縛り付け身動き一つ取ることが出来なくなった。
火球の中で段々と体を焦がしていった竜は力尽きるかのように静かに倒れ地鳴りを起こすのであった。
「よし!」
作戦は成功だ。それぞれの役割を活かすことで見事SS級ドラゴンを討伐成功。
ただまだ2匹の竜が街を襲撃している……。
私は竜と戦ってる近衛騎士団と冒険者達の方に視線を移す。
やはり竜2体に苦戦しているようであった。
「私たちも援護をしに行こう!」
「ああ! ここで騎士や冒険者達が死んじゃあまずい!」
「私もまだまだ魔力が残ってるよ~」
3人とも援護をしにすぐに移動を開始しようとする。
だが私はここから動くことはせずこの場に留まる。
「ど、どうしたのラゼル? 行かないの?」
「ごめん、今魔力がないから戦えそうにない……」
「分かった、無理はしなくていいからね」
リズはそう言うと、この場から離れ竜との戦いに参加するのだった。
3人の後ろ姿を見送った後、私は前を向き静かに呟く。
「そろそろ出てきなよ、ローゼ」
「あはははは! ばれてた!」
すると近くの影からローゼが姿を表す。
私は初めから彼女が来ていることには気が付いていたのだ。
影の龍力をコピーしてからか影に関しての探知能力が格段に上昇しているのだろう。
するとローズはくすくすと笑いながら喋る。
「そういえばなんで私の名前を知ってるのぉ? 名乗ってないよねぇ!」
「白龍の権利者から教えてもらったんだよ、影の龍力をもらった事も含めてね」
「そうだったのね! 権利者と会ってよく生きていられたね」
まあ生きてこれたのは奇跡だろう。
ヨルフの能力は凄かったが使いこなせていなかったので相性の問題だったのだろう。
するとローズが私の方に歩いて来る。
「さあ! 勝負しようラゼル!」
そう言ってローゼは手に影を纏い始める。
《暗影鋭爪》
彼女の持つ影の力によって黒く禍々しい鋭利な爪が生み出される。
放たれた爪は私に向かってくる。
なんとか防ごうとするが衝撃に耐えられずに後ろに吹き飛ばされてしまった。
これは思ったよりもきついかも知れない……。
そう思っていると近くにいた低ランクの冒険者達が私の元によってくる。
「ラ、ラゼルさん! 大丈夫ですか!?」
「来るな! 危ない!」
私はそう叫ぶが冒険者達は足を止めない。
するとローゼがその冒険者に鋭い爪で斬り裂こうと攻撃を行う。
私は瞬時にスキルを発動する。
《ブリザード!》
放たれた冷気はローゼの爪を氷漬けにする。だが完全ではない。
私のスキルで凍らせられるのも数秒程度だろう……。
ローゼの力は本当に恐ろしい。
彼女から産み出される影の能力は強敵であると言わざる終えないものだ。
「お前たちは陛下をお守りしろ! 私が何とか食い止める!」
私は大声で冒険者達にそう声を投げかけると彼らは速やかに王の元に戻るのだった。
まずいな、今のローズの攻撃力ならばこのリザースを全て破壊出来るだろう。
ローズの能力を毎回コピーは出来ない。
それにローズの能力は応用が効く。
ヨルフとは違いローズはきちんと能力の使い方を分かっている様子だ……。
どのような能力の出方をするのか全く分からないのだ。
するとローゼが私に向かって飛び掛かってくる。私は咄嗟に氷の剣を作り出す。
《アイスソード!》
私の剣とローゼの爪がぶつかり合うと、激しい衝撃波と共に周りにあった瓦礫や冒険者達が吹き飛ばされるのだった。
まずいな、このままでは本当にリザースは崩壊してしまうぞ……。
それにリズ達も心配だ。
《ダークネス》
私は影の魔法を繰り出す。
ローゼの視界を覆う黒い煙は移動しそのまま彼女に襲いかかっていく。
「あれれ? 私の能力が使えるの? おもしろいね!」
狂気じみた笑みを浮かべながらローゼも同様に《ダークネス》を発動し、私のダークネスをかき消すかのように黒い影が灯る。
すると、その影は私の放ったダークネスをかき消しただけでなくそのまま私に攻撃しかけ始めたのだ。
「ちっ! 厄介な影だな!」
私は咄嗟に氷を作り出し、ローゼの攻撃を防ぐ。
なんとかして打開策を見つけなければ……。
するとローズは私に追撃をしようと飛び掛かってくる。
《暗魔龍爪》
再び強力な魔力を感じると、無数の影の刃が生成され私を切り刻もうとする……。
本当に恐ろしいほどの力だ。
刃はどれも鋭く直撃したらただでは済まないだろう……。
それに触れなくてもこれだけのオーラが出ているのだ、触れてしまったら大怪我どころじゃすまない。
《星糸ッッッ!》
私は星糸で影の刃から身を守る。
だが、それにも限界がある……このままではいずれ私の魔力は底を尽きるだろう。
圧倒的な力の差を感じ一瞬心が折れそうになるが今はこの王都の街を救う為に戦っている。
弱音を吐く暇はない。
《闇糸!》
私は先ほど放った星糸に影の龍力を混ぜて発動させる。
すると星糸が黒く変色し、影の刃を防ぎながら徐々にローズに迫っていく。
そしてそのままローズの影に纏わりつくように闇糸が絡みつく。
「わわ! なにこれ!」
「喰らいなさい! 私の全力を!!」
私は闇糸で絡みついた影を一気に握りつぶす。
するとローゼの体は黒い霧のようなものに包まれ姿が消える。
この隙を逃すわけにはいかない! 私はすぐに魔法を展開する。
《全力のブリザード!!》
私を中心として街を凍り付けにしていく……。
一瞬にして周りは凍っていく。
この魔法を使えば確実にローゼを仕留めることが出来るだろう……そう思っていたその時だった。
目の前には影が広がっていた。
「くそ! 影には移動が自在なのか!」
「あはははは! 残念でした~!」
すぐ目の前にローゼが立っていた。
ここまで能力を発動しても仕留められないのか……。
まずいな……このままじゃ負けるぞ。
そう思い最後の賭けに出ることにした。
なんとかしてローゼの能力をコピーしなくちゃいけない!
そう思い私はローゼの能力をコピーしようと近づこうとする……すると次の瞬間だった。
ある人物が間に入り込んできたのだった。
だ、誰と思い私は間に入り込んできた人物の顔を見る……。
そこには私の弟、クルスの姿があったのだ……。
「な、なんで」
「姉さん、久しぶりだなあ!」
久しぶりの再会ではあったのだが私は感動はする余裕などなかった。
なぜならクルスの顔は狂人じみた恐ろしい笑みに包まれていたからだ。
突如、街の中心で人々の歓声がこだまする。
その声は色々な場所でも起こっているようだ。
その歓声からきっと戦いが終わってあの2匹の竜を倒したのだと思い安心感に包まれる……だがそんな気の抜けた時が訪れる事は無かった。
なぜならクルスは私に向かって剣を振りかざしていたのだった。
私は咄嗟に氷の剣を生成しクルスの攻撃を弾くと彼はすぐに距離を取り、再び私に剣を向ける。
するとローゼが笑いながら喋り出す……。
「もしかしてこの子のお姉さんだったのぉ? ごめんねぇ私この子に龍力をあげちゃった!」
「う、噓でしょ? クルスに何をしたの?」
私は状況が飲み込めずに混乱していた。
弟のクルスに一体何があったというのだ。
それにいきなり攻撃を仕掛けてきたことも驚いている原因のひとつだが、それ以前に私の弟は《剣聖》を持っているから力なんて欲していないはずだ。
するとローゼは笑いながら私に話す。
「この子は力が無くてね、だから私の龍力をあげたの! そうしたら喜んで私に服従したよ!」
クルスがローゼに龍力を貰った? そんなことありえない……。
だが、今目の前で起きていることが現実なのだ。するとクルスが口を開く。
「僕は剣聖のスキルを持っているのに上手く使いこなせなかった! それから父上からは見放され僕は落ちこぼれになった! 屋敷では僕の味方なんて誰もいない! 皆して僕を出来損ないと言ってきた! そんな時に外れスキルの姉さんは数々の実績を挙げ始めたんだ」
クルスの顔を見ると悔し涙で瞳を潤ませている……。
そしてクルスは私に剣を向けながら叫ぶように話を続ける。
「だから僕は力が欲しくなったんだ、そして僕は運良くローズに出会って龍力を貰ったんだよ!」
そういうことだったのかと私は納得する。
だが、いくらローズから龍力を貰ったからといってあんな危ない力を使うなんて……。
確かに《剣聖》のスキルの所有者は努力が出来れば精霊をも操れるはずだ。
だが努力出来る素質がなければ何も身につかないのだ。
たとえ、当たりスキルがあったとしても努力をしなければ宝の持ち腐れだ。
クルスはきっと努力をしてこなかったのだろう……だから今のような状況になっているのだ。
それにこうなった根本の原因は父上にあるだろう。
クルスは小さいころ優しい子だった。
なのに父上がスキルで差別をするから……。
するとローゼは笑いながらクルスの方に歩み寄る。
「さあクルス君! あなたの力をお姉さんに見せつけてあげなよ!」
するとクルスは剣に龍力を流し込み、私に攻撃を仕掛けてくる。
クルスの鋭い斬撃が私を襲うがその攻撃をなんとか防ぎきる……だが、その威力はすさまじかった。
私の氷の剣が簡単に折れてしまうほどの威力だった。
《剣聖》のスキルに龍力が合わさったらこんなにも強くなるのか。
私はクルスから距離を取り魔法を展開しようとしたその時、再び剣を突き刺そうと迫ってくる。
《ブリザード》
私は氷の壁を発動させ防ぐとクルスは剣を何度も私に向け攻撃してくるのだった。
その攻撃を防ぎきるが、クルスの攻撃のスピードは徐々に上がっていく……。
まずいな……このままだといずれ私の魔力が尽きてしまう、どうしようかと悩んでいると横からローゼの攻撃が繰り出される。
《ナイトメア》
ローゼが展開した影から巨大な手の型をした影が2つ現れる。
その影の手は私を捕まえようと襲い掛かってくる。
「ちっ! これは避けられない!」
絶望の淵に立たされたその時、横から炎の魔法が飛んでくる。
その魔法は影の手を貫き、そのままローゼに直撃したのだった。
すると私の目の前に3人の人物が現れる。
その人物は私がよく知る人物であった……。
「もう! 無理しないでって言ったのにラゼル!」
「今の危ないところだったよね~、ねえエリック~」
「ああ、少し遅れてたらやばかったな」
現れたのはリズ、エリック、レズリタの3人であった。
先ほどいた竜の方に視点を戻すと既に討伐しているようだ。
だが近衛騎士団や冒険者の姿が見えない所を見ると被害が大きかったのだろう。
「ごめん、助かったよ3人とも」
「後は私たちに任せなさい!」
リズがそう声を張って返事をすると他の2人も臨戦態勢に入り、戦闘を始める。
3人の戦闘は熾烈を極めるものだった。
剣と影の龍力がぶつかり合い、その衝撃は周りをも破壊していく。
そしてレズリタの魔法がクルスに襲い掛かりそれを防ぎきるといった形になっていた。
「おいローゼ! この状況じゃあ僕たちは負けてしまうぞ!」
「あはははは! 確かにやばいねぇ~! じゃあ応援を呼んじゃおっか!」
するとローゼは両手を合わせて呟く。
《来い》 すると黒い渦から様々な種族の魔物が出現する。
やはり目的は街の破壊だったみたいだ……。
「くそ! 魔物を召喚しやがったぞあいつ!」
魔物達は一斉に私たちに襲い掛かる。
さらに《ナイトメア》によって作られた影の手も襲いかかってくるので厄介だ。
するとクルスが勝ち誇った顔をしながら私にこう呟いてくる。
「姉さん、これで僕らの勝ちだ」
このままじゃクルスやローゼにやられてしまう。
そう思った私は今ある魔力を駆使してスキルを組み合わせて発動する。
《毒糸ッッッ!》
私の持っている《ポイズン》と《星糸》を組み合わせて発動する。
こうすることで毒を纏った糸はあの魔物達にも届くはずだ。
放たれた毒糸は魔物を拘束するように巻き付きその毒で魔物達は溶けていく。
リズ達に当たらないように調整しながら私はスキルを発動していく。
「す、すごいよラゼル! 魔物が次々と溶けていってる!」
リズが驚きながらそう話しているとうちに魔物達はどんどん消滅していく。
それを見たローゼは少し焦り始める。
「ちょ、なにそれ! そんなのありなの!?」
「焦るなローゼ! 僕が姉さんを切る!」
するとクルスが大声で叫ぶ。
《影龍剣ッッ!!》
クルスは影で作り上げた剣に龍力を流し込み、その剣を私に向けてくる。
リズ達はローゼとの対処で手いっぱいだ……。
これはまずいと思い私はすぐに防御の体制に入ろうとするが間に合いそうになかった。
「あ......」
終わったと思い私は目を瞑る。
だが、いつまで待っても攻撃はやってこない。
恐る恐る目を開けるとそこには騎士の姿があった。
攻撃が私に当たる前に防がれている。その者はクルスの剣を止めていた。
「遅れてすまない、ラゼル」
「リ、リスタ!」
私を助けてくれたのはリスタだった。
おそらく大群の魔物を討伐してここリザースまで来たのだろう。
「だ、誰だよお前! 僕は姉さんを切り刻むんだよ!」
「僕は近衛騎士団団長リスタ・ローズベルトだ。クルス、君の悪行は目に余るものがある。それに自分の姉を切ろうとするなど愚者の所業だ」
そうクルスに言う。
するとクルスは顔を真っ赤させリスタを睨んでいた。
そしてクルスは剣に龍力を込める。
《影龍剣ッッ!!》
クルスの放った一撃はリスタの剣とぶつかり合い激しい衝撃波が辺りに広がる。
激しい戦闘に私はつい見とれてしまう。
リスタの剣とクルスの一撃がぶつかった瞬間、衝撃波が広がり建物を崩壊させていく。
するとクルスは怒り狂ったように叫ぶ。
「なんで僕の邪魔をするんだ! お前なんかに僕の何が分かるんだよ!」
「私は君の事を何も知らない、だが一つ分かることは君はローゼの龍力によって洗脳されているということだ」
クルスは怒りを爆発させ、リスタに剣を振る。
だがその攻撃はいとも簡単に防がれ、リスタの反撃がクルスを襲う。
リスタの剣から放たれた一撃はクルスの剣を砕きそのままクルスを吹き飛ばした。
そしてクルスは気を失いその場に倒れる。
「どういうことリスタ? 洗脳されてるって」
「剣を交えて分かったことなんだが、クルスの剣には龍力と闇が混じっていた。恐らくローズに洗脳されたのだろう」
クルスはローゼの龍力で思考能力も操られているのか。
確かにクルスの行動には無駄な部分が多々あった。
するとローゼが拍手をして私たちにの所に来る。
「あははは! クルスやられちゃったかー! でもあんま強くなかったし当然か!」
それを聞いたリスタは剣をローゼに向ける。
リスタの目からは殺意が溢れている……その目には迷いはないといった意志が感じられた。
リズ達もボロボロになりながらも武器をローゼに向ける。
流石に戦闘が続いたせいかリズ達の体は限界を迎えている。
これ以上は戦わせられない......。今この場で戦えるのはリスタと私だけだ。
私はクルスを安全な場所に移動させたあと、立ち上がり戦う準備をする。
リスタ達も戦闘態勢を維持したまま待機している。するとローゼが口を開く。
「王国最強の2人を相手するなんてきついなあああ!」
するとローゼは影を操り、四方八方に散らせる。影は私たちに襲いかかってくる。
「一閃」
リスタの一撃が影を切り裂いていく。
凄まじいほどの魔力を剣に流し込み、影が切り裂かれる。
だが、影の数が多すぎて全てを防ぎきることが出来ない。
するとローゼが笑いながらスキルを発動する。
《暗魔龍爪!》
すると影が龍のような形状になり私たちに襲いかかる。
するとリスタが私に向けて叫ぶ。
「ラゼル! 私がこの影を防ぐから攻撃に回ってくれ!」
私はリスタの指示に従い、攻撃に回ることにする。
《毒糸ッッ!》
私はローゼに向けてスキルを発動する。
先ほど魔物を倒すために使った技だ。
糸と毒を組み合わせて強化し、放つというもの。
毒を付着させているので食らった相手を溶かすことも出来る。
そして私は魔物に使用した技と同じように数発の毒糸を発射する。
その毒糸を見たローゼは焦った顔になる。
ローゼは手から影の龍力を放出し、糸を消滅させようとするが、糸に触れた途端影は溶けてしまう。
この糸なら影だろうと切り裂くことが出来るみたいだ。
私は毒糸の量を増やし、広範囲に展開していく。
そして動けないローゼに向かって発射していく……。
ローゼは何かをしているように見えるが防ぐことが出来ないようだ。
そのまま私の毒糸はローゼの体を捉える。
そして毒糸はローゼの体を拘束する。
ローゼの体に防御魔法が掛かっているが溶けはしない。
だが体が麻痺しているのかローゼは身動きが取れなくなる。
「今よリスタ!」
「ラゼル、よくやった」
その瞬間リスタは剣を空天に向けて掲げ、スキルを発動する。
《剣聖》のスキルによってさらに剣は赤く光り輝き、周りが明るくなるほどになっていた。
リスタの剣には凄まじいほどの風が集まり始める。
おそらくスキルによる一撃なのだろう。
空間に歪を作りながら一気に魔力が広がっていく。
「ま、待ってえええ! 私はヨルフに龍力を貰っただけなんだよ! だから許してよおおお!」
ローゼは命乞いをしてくるがリスタは剣を構え、ローゼにこう叫ぶ。
「悪行をした者にはそれ相応の裁きがある。そしてそれは死だ」
「まっ......」
《紅炎の剣》
剣を振り下ろすと同時に凄まじいほどの風の斬撃が放たれる。
赤く輝き始めた紅炎が空高く昇ると一瞬でローゼに襲い掛かり、凄まじい爆風を生み出しながらローゼの体を呑み込んでいくのだった。
ローゼを包み込んだ紅炎は容赦なく燃え続け、ローゼの体を灰に変えていく。
そして跡形もなく消え去った。
「終わったな......」
リスタは剣をしまい、私の元に歩いてくる。