外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~


 それを聞くと改めて気合が入ると同時に周りの冒険者の目が恐ろしいほど鋭いのが分かった。

 その場にいたSランク冒険者は敵意を剥き出しにしており、両者一歩も引かないように睨んでいる。
 
 すると一瞬の間があってから、騎士が高らかに宣言した。
 
 《これより王国の祭りを開催する!!!!》

 いよいよ始まるのだ……そう思うと少しだが身体が震えるのが分かる。Sランク冒険者同士の競いと言うこともあり会場の盛り上がりは最高に達していた……。

 今この会場にいる誰もが優勝を狙っているのだろう……。優勝すれば国家直属の冒険者になり、報酬金額も格段に上がる。

 それに国家直属じゃないと知り得ない情報も色々知ることが出来そうだしな……。そうして周りを見ていると王国騎士団がいる事に気付く。

 そしてその中に気になる人物を発見する……。王国騎士団団長リスタ、この国に置いては最高戦力に数えられる最強の剣士でもある。おそらく国王がここに来るのでその警護だろう。

 そう思っていると壇上に一人の女性が出てくる。
 
 《皆さまお待たせしました! これより開会式を始めます!》
 
 開会式のアナウンスが流れると観客は大きな歓声をあげる――――。

 流石国家、よくできた環境でこの大会は行われているみたいだ……。
 
 「早速ルールの説明を始めたいと思います。まず優勝した方々は賞金と国王様から称号が与えられます」
 
 そ賞金が出るのか、これは優勝しなくてはな……。
 
 「試合の形式としてはどれだけランクの高い魔物を倒せるか……。そしてランキング形式として表示されますので1位になったパーティーがそのまま優勝になります!」
 
 そう言うと大きな映像とテロップが表示される。
 
 「期間は3日ありまして、ポイント数が高かったパーティーが優勝となります」
 
 なるほどな……まあ弱い魔物を倒すよりランクの高い魔物を倒した方がポイントを多く獲得できるしそっちの方が断然いいよな。
 
 「それではパーティーのご紹介に移ります! ……最初に!  ギルド直属のSランクのパーティー”ドラゴンノツバサ”!!!」
 
 名前がアナウンスされるとそれと同時にそのパーティーが表に出てくる。会場はそれに合わせ拍手が巻き起こった――――。

 皆して強者の登場をまるでヒーローかのように興奮し、讃えている……。流石ランクが高い冒険者、人々の心をつかんでいるなと思っていた矢先の出来事だった……。
 「うわー緊張するね......」
 
 リズがおどおどしながらそう言う。
 他の皆が見ると明らかに落ち着きが無い様子だ……それも無理も無いだろう……。

 なぜなら今から対峙するチームはギルド直属のベテランのSランクパーティー”ドラゴンノツバサ“だ。
 
 「やっぱりベテランだから凄いオーラがあるね~」
 
 レズリタが目を細めながらそう言う。すると相手のパーティーメンバーらしき女性が前に出て高らかに宣言した。
 
 「優勝はこの私達に決まってるわ! 私達に勝てない人は誰もいないもの!」 
 
 堂々たる勝ち名乗り、流石ベテラン組といったところだ。その様子を見る限り、相手パーティーの実力がかなり高いことは明らかだ。今までのギルドの経緯を振り返ってみても並々ならぬ努力を日々重ねていることが分かる。

 もし戦うことになれば一筋縄ではいかないだろう……そう思うと体が僅かに震える……。しかし怖気ている場合では無いのだ、なぜなら絶対に優勝すると決めていたのだから……。
 
 「やっぱりベテランは強いな……」
 
 エリックが憧れるように呟く……。私はその声に頷くと続きを話す。
 
《では次はパーティーのご紹介!……同じくギルド直属のSランク冒険者”ブレイブソウルズ”!!》

 紹介されると巨躯な体を誇示するかのように大柄の男とその仲間に端正な顔つきの女性が出てくる。
 
 それと同時に観客たちは湧き上がった声をあげる……。
 
 流石はベテランのパーティーだけあって勢いがほかの比じゃない。その大きさに飲まれかかっている者もチラホラ見受けられる。

 そういえばふと私に疑問が湧いてきた……。
 
 私たちのパーティー名ってなんだ……?そう思い私はリズに聞きいてみる。
 
 「ねえ私たちのパーティー名って何……?」
 
 そう聞くとリズは口を開く。
 
 「私たちのパーティー名は"龍"だよ!」
 
 へぇ……そうだったのか、なかなかカッコいいではないか! 短くて覚えやすいし、私たちを表している言葉なのだろう……。
 
 すると相手パーティーの紹介が終わり次は私たちの番がやってくる――――

 《最後はギルド直属のSランク冒険者”龍“のご紹介です! このパーティは最近結成したばかりのパーティーですが、異例の昇格によりSランク冒険者になったとのことです!》
 
 ギルドの受付嬢が最後の紹介をすると相手パーティーの顔が微かに歪み、こちらを睨みつけるように見てくる。
 恐らく私たちが早く昇格してしまい、かなり気に食わなかったのだろう。それにしてもこの目つきの悪さは嫌だな……。
 
 それからアナウンスで私のパーティー名の紹介が行われる――――。
 
 「そしてこの方々は龍神教、《白龍の権利者》と戦い村を救った功績によりSランク冒険者に上り詰めたのです! 」
 
 その言葉を聞き民はどっと盛り上がる。それに対して相手パーティーは思わぬ発言に観客同様に動揺を隠せないでいた。
 
 「ほ、本当に龍神教と戦ったのか!?」
 
 「凄すぎる……」
 
 多くの民がそんな言葉を口にしている。それにしても相手パーティーをここまで動揺させることが出来るとは……私が思っていたよりも龍神教との戦いが影響力が大きいと言う事がここで証明されてしまうのであった……。そしてパーティー紹介が終わると国王様が壇上に上がる……。

 。国王様がお見えになると観客は一気に静まり変える―――― 。
 
 そして皆、頭を下げると国王様が皆の方を向き演説を始める。
 
 「本日は大会にご参加頂き有難い……この通り皆が楽しんでくれているみたいで何よりですな」
 
 国王様が壇上で笑顔でそう仰ると皆、同じように笑ってみせる。凄い良い王様だ……あの笑顔で私達も心が癒される。
 
 「もう始まるんだね......」
 
 「ああ、うまく動けるか心配だぜ」
 
 レズリタとエリックが心配そうにそう言った。昨日あんなに寝たのに緊張で身体が震えている……。

 するとリズが私たちに言葉をかける……。
 
 「大丈夫よ、これまでみんなで培ってきた物を出せるようにすればいいんだから」
 
 そう言うと皆の顔に徐々に元気が戻り始める……。流石はリーダーと言う所だろう。
 リズがいることでパーティーがなんだか元気になるのだから……。

 そうしているうちに大歓声が会場を包む――――。
 
 どうやら準備ができたみたいだ。そしてついに戦いの火蓋が切られる……。
 
 「行け! 冒険者達よ! モンスターに立ち向かい勝利を勝ち取るのだ!!! これより祭りを開催する!!!!!!」
 
 国王様の言葉でついに大会開催の合図が会場に響き渡った――――。

 その瞬間にこちらを指さし挑発する言葉が聞こえてくる……どうやらベテランのギルド直属のSランク冒険者……"ブレイブソウルズとドラゴンノツバサ"の挑発らしい。

 ここから始まるんだ……。
 
 そう思った瞬間"ブレイブソウルズとドラゴンノツバサ"が行動を開始する。
 
 「私たちも出遅れない!!」
 
 「おう! 行くぞ!」
 
 「おっけ~!」
 
 リズの掛け声で皆一斉に走り出すのであった。
 「A級のモンスターがあまりいないわね」
 「うん、簡単には見つからないか~」
 「まあ気長に探していこうぜ」
 
 案の定、王国ではあまり上位のモンスターはあまり出てこなかった……。
 だがそれは他の選手も同じ状況だろう。だからこそ焦らないで行動をしていかないとね。
 
 「今は下級のモンスターを討伐していったほうが良いよ、高ランクのモンスターがいない以上、探しても時間が掛かるし体力にも限界が来るわ」
 
 リズ達が慌てていた私はそう言うと続いてリズ達も相槌を打つ。
 
 「よし、それじゃあ近くの森に行って低級のモンスターを狩ろう!」
 「そうだな! 少しでもポイントを稼いでいかないとな」
 
 そうして私達の行動指針が一致し近くの森に向かう。森では上級モンスターはあまりいないが下級のモンスターが大量に存在していた。
 やはり試合の前哨戦ということもあってその方がやりやすいだろう。私たちは森の奥に行き歩いているとモンスターが現れ始める。
 
 「出たわね! 皆やるよ!」
 
 私たちの前に現れたのはゴブリンとスライムの群れだ。
 
 ゴブリンとスライムは共に下級モンスターだがゴブリンに関しては人でも倒せる敵ではある。
 だが如何に弱い敵とは言え数がそろえば驚異と成りえるのではあるが……。
 
 私達4人は臆すことなく戦いを始めた――――。
 
 「バーチカルッッッ!」
 「ギガントインパクトッッ!」
 
 2人の剣技がゴブリンとスライムを一斉に切り裂く。あれほどいたモンスターたちを素早く倒すことが出来るのは複数戦に慣れているからだろう……。
 ちなみにレズリタと私は魔力を温存したいがため戦闘に参加しないつもりだ。もし上級モンスターが出たときに戦闘に出られるように体力を温存しておきたいという判断でもある。そのため2人の様子を見るだけに留めているつもりだ。
 
 「やったわね! いい動きだったよエリック!」
 「リズもな!」
 
 そう言い手と手をお互いに合わせる2人は何だか姉弟のようで微笑ましいな……。そう思いながら2人を見つめているとリズがハッとした顔でこちらを向き照れくさそうにする。
 そんな光景がおかしくて笑ってしまった私である……。そして私たちは森にいるモンスターを一掃した後森から出る。
 
 「結構ポイントが溜まったんじゃない? 順位を見てみようよ!」
 
 リズがそう言うとレズリタはポケットから魔法鏡を取りだす。
 この魔法鏡は事前に運営側から選手全員に渡されていた魔道具である。
 レズリタが魔法鏡に手を触れると一瞬にして風景が変わり順位表が現れる――――。
 
 順位表の中には三人のチーム名があるはずだ。
 そして順位を確認せずに現在位置に目を向けて私達のパーティー名をを探す。
 そしてとうとう発見するのであった。
 
 私達”龍“のパーティーは2位につけていた……。
 思っていたよりもかなりの高順位で嬉しくなる。
 
 「一位はドラゴンの翼か......どこでモンスターを見つけてるんだろう?」
 「俺たちが今いるのは王国南部だ。南部にはモンスターが多いって聞いたがな......」
 
 どうやら私達は現在一位のドラゴンの翼には負けているらしい。
 流石に森にこもっていては仕方ないとは言えこの差は結構痛いかもしれない……。
 
 それに加えてスライムやゴブリンじゃあね……。まあまだ大会が本格的に始まって数時間、順位を変える可能性はいくらでもある。
  この祭りを中心に据えられたギ王国南部の都・リザース……そこでは現在大会初日とあって物凄い活気に溢れている。
 元々王国南部はモンスターが多いことで有名だったらしい。その関係で今回のような祭りを催すことで毎年大盛況なのだ。
 
 「まだまだモンスターを探すよ!  少しの差で順位が変動するからね」
 
 リズの言葉に皆して頷くと私達はモンスターを探し続けるのであった。
 「そろそろ暗くなってきたし、近くの街に行って休まない?」
 
 私がリズ達に向けてそう言うと3人は周りを見る。私は安全や疲労を第1に考えてそういったがレズリタはまだ体力的には余裕らしい。
 だが夜は危険だ。不慣れな土地で危険な道を進むのは懸命とは言えない……。
 最悪モンスターに囲まれる可能性もあるし日が上っているときに休めたほうが絶対いい。
 
 「そうだね、今日はもう休んで明日に向けて備えようか」
 「ああ、それが良い。流石の俺も疲れちまった」
 
 皆私の判断を受け入れてくれる。そして私達は近くにある街に向けて足を進めた。
 その街ではお祭りが開かれていた……。お祭りの中心地には太鼓が鳴り響き人々は飲み食べ騒いでいる。
 このように南部全体がお祭りで賑わい、物が飛び交うさまは圧巻の一言だ。
 
 それもそうだろう、南部のモンスターをどれだけ倒すかこの祭りで多くの者たちが争っているのだ。
 民的には南部のモンスターを討伐してくれるのは民を救ってくれていると同義だ。
 それにより皆が盛り上がっているのだろう。そうして私たちは国王が手配してくれた宿屋に向かう。
 国王が手配してくれていたため宿屋は温かく私たちを迎えてくれる。
 
 「私ちょっと風呂に入ってくるね!」
 
 リズはそう言うと部屋から出ていく。そして私たち三人が部屋に取り残される。
 
 「にしてもここまで盛り上がるなんてね」
 「ああ、他の街も大体こんな感じらしいぞ……」
 「気分が上がっちゃう~」
 
 周りが賑やかなせいもあって私の気分も少なからず上がっていると思う……。
 おかげでワクワクしているのは内緒だ……。
 
 「明日はどういう感じで行動する? 今日の行動指針で行くと順位が落ちていくと思うんだけど」
 「そこなんだよな、明日もスライムやゴブリンじゃあな……せめて上位モンスターじゃないと俺たちにとってプラスに動かないのかもな。低ランクだと正直かなりまずいぜ」
 
 やはりエリックの言うことには一理ある、油断しているとどんどんポイント差が広がっていくだろう……。
 
 「次は少し移動しよう、もう少し東部に行けばモンスターに出会えるかも」
 「そうすべきかもな」
 
 こうして私たちの一日目が終わりを迎えた――――――。
 「ち、父上、どうしたのですか?」
 
 僕は巨大蛇にやられた後、何とか屋敷に戻ってくることが出来た。しかし父は怪我だらけの僕を見るとすぐに部屋に来させ、僕を見下してくる。
 
 「貴様には失望した。もうスキルを使いこなす事が出来ないということが証明されたからだ」
 「どうゆうことですか?」
 
 理解ができていなかった僕が父に聞き返すと、怒声が聞こえてくる。
 
 「お前が何一つ努力をしないからだ!」
 「そ、それは......」
 
 確かに僕は訓練を一切していなかった。
 何故なら僕には剣聖のスキルがあるのだから、剣術なんて必要ないと思っていたからだ。
 
 「まともに修行もしないのか貴様は、弱い魔物すら倒せないのならお前をレスト家から追放するぞ」
 
 父からそんな言葉を受け、初めて自分がここまで追い込まれているのを理解した。
 追放……レスト家から追放ってどうゆうことだ?屋敷を追い出されることか?なら僕は死ぬのか?姉さんのように追放されては生きていけないのだから。
 
 「どうした、答えられないのか」
 
 僕の目から涙が溢れ出して言葉を漏らす。
 
 「ぼ、僕はただ強くなる方法が分からなくて……」
 
 泣きじゃくりながら言うと父は冷たい目をこちらに向けてくる。そして大きなため息をつくと再度告げてくる。
 
 「ラゼルは上手くやっているようだぞ」
 「は......え?」
 
 なんで姉さんの名前が今でてくるんだ? どうしてだ、姉さんは追放されたはず。
 どうして姉さんの名前が出てくるんだ?どうして?姉さんは追放されたのになんで父から姉の名前が出てくるんだよ!

 いや、考えられる事は一つしかない。頭が回らない中、父さんがまたため息を漏らす。
 
 「ラゼルは家を出た後、冒険者となりパーティーを組み、数々の功績を残しているようだ。それどころか陛下ともお会いになっているようだぞ!」
 
 ま、待ってくれ、どういうことなんだ。一体姉さんは何をしているんだ?理解できないが嫌な汗が体を伝う。姉さんが国王と会っている?あり得ない、何かの間違いだ……。
 僕だけがまた分かっていないこの状況の中、再び父が言ってくる。
 
 「ラゼルを追放した私は世間的にもマズイ状況になってしまった。お前には期待していたが、残念だ」
 
 父の失望した目は僕を絶望に導いていた。
 この日から僕は自分の無力さに悔しさを隠しきれなくなってしまっていた。もう僕には何もなかった……。

 父上からは失望され、召使いからは蔑まれ、はもう僕はもう無能なのだと判断を下されてしまっている。
 
 心は憎しみで溢れかえっていた……。こんな世界なんて僕は消えてしまえばいいと思ってしまうほどに……。そうして僕は屋敷から出てどこにも行く当てがなく、ただ歩き続ける。
 どうして僕がこんな思いをしないといけないんだ。ずっと考えていたのはそればかりで僕の表情は限界が近いと言えた。
 
 もう嫌だよ……。何で僕だけがこんな惨めな思いをしなくちゃいけないんだよ!本当に……この世界はもう僕に優しくしてくれないのか?いっその事死んでしまった方が楽じゃないのか?そんな考えを至っていると雨が降ってくる。

 雨なんて良い思い出がないし、気持ち良いとは今まで思ったことがない。それなのに僕は今こうして雨にうたれていても悪い気はしなかった。少しずつ気持ちが和らいでいくのが分かる。それどころか心にゆとりが生まれたような気がしていた。
 
 「僕はどうしたらいいんだ? 誰か教えてよ……もうこんな人生嫌だよ……」
 
 思わず涙を流してしまう。僕は雨に濡れながら泣き叫ぶ。
 もううんざりだよ……なんでこんな苦しい思いばかりをしなくちゃいけないんだよ!何でこうなったんだよ!そう思いながら雨の中にいると誰かが近付いてきた。
 
 目頭が再び熱くなるのが分かるが、泣いても仕方ないと思い顔を上げたのだ。するとそこに立っていたのは濃い赤髪の少女だった。
 
 「あれれ? 何で泣いてるの?」
 「だ、誰だ?」
 
 目の前にいるのは僕を見つめてくる1人の少女だった。

 だけど誰かが近寄ってくるとは思わなかったから少し困惑している僕がいて、誰かに涙を流すところを見られたのが恥ずかしく顔を逸らしてしまう。
 
 すると少女は首を傾げながら僕に話しかけてくる。
 
 「ねえねえ? 何で泣いてるの?」
 「ぼ、僕に力がないからだよ……」
 
 正直この謎の少女に今の心情を話すのは嫌だったが、自然と話していた。なんなんだこの人は?なんで僕に話しかけてきたんだ?一切素性も知れない人だし、意味が分からないと余計に僕を追い込む。特徴的なのは赤い目、あとマントを羽織っている。
 
 「あははは! それなら力を貸してあげるよ! 」
 「な、何をいって......」
 「いいから!」
 
 そう言って少女は手を出してくる。何を言っているんだ?頭がおかしいのか?いや、そんな事よりもこの少女はどこか狂気的な雰囲気を纏っている。何故ならこの少女には何か得体の知れない圧力がありどこか危険視するような何かが溢れ出ている気がすると直感的に理解していたのだ。

 一体僕の目の前に立っているこの正体不明の少女は何者なんだと思いつつ手を出す。すると少女の手から黒い球体が出てきて僕の体の中に入っていく。次の瞬間に体に電撃が走るような感覚に陥る。
 
 な、何が起きてるんだ!?そう思っていると少女は満面の笑みを向けてくる。
 
 「あなたに私の龍力を分けてあげたの」
 「りゅ、龍力? なんだそれは?」
 
 ますます意味が分からない。どうして僕に力を与えてるんだ?そう考えていると体が軽くなるのを感じる。さっきまでとは違いまるで別人のような気持ちになってさえいた。一体どうしてだ?そう思っていると体から力が溢れ出てくるような感覚がする。

 今ならスキル《剣聖》を使うと技が出せそうな気がしていた。
 
 試してみようとした矢先、少女は僕の手を止める。
 
 「あはは! ここで使おうとしないでね! 騒ぎになっちゃう!」
 「ああ、そうだな。でもせっかく手に入れた力を試してみたいんだけど」
 「だったらその力、復讐に使わない?」
 「復讐?」
 
 何を言うかと思ったらいきなり復讐という言葉に疑問を抱いたが、すぐに僕の頭の中には父が僕に言っていた事の光景を思い出してしまう。そう思い少女の話に少し興味を惹かれる僕がいたのだった。
 
 「復讐ってなにをするんだよ」
 「もちろん王国を潰すんだよ!」
 王国を潰すだと!?本気で言ってるのかこの少女は、冗談かなにかだろうと思っていると少女は微笑む。
 
 その表情は暗く怖いほどの笑顔を見せるのだった。どうやら冗談じゃないらしい……。
 
 「僕の名前はクルス、お前の名前は?」
 「私の名前はローザ、よろしくね?」
 
 そして僕はこの少女ローザと協力する事になった。
 「おい! あそこに魔物がいるぞ!」
 「本当だ~、A級っぽいね」
 
 今私たちがいるのは東の荒野地帯であり、広大な土地が広がっている。少し歩いていると空に魔物がいることをエリックが気づいたようだ。空を泳ぐように動くその姿から恐らく飛行系の上級モンスターだろう。

 この東方向に上級モンスターが出現するのは珍しいが、荒野地帯には上級モンスターのワイバーンが出没すると聞いたことがある。
 
 「よし! あのワイバーンは必ず仕留めるよ! A級を倒せればポイントも大幅に増えるだろうし!」
 
 リズがそうこう言っているとワイバーンがこちらに気づいたようで空を泳いで近づいてくる……。
 
 「よっしゃ! こっちに気付いたな!」
 
 そう言ってエリックは剣を引き抜きワイバーンに狙いを定める……。
 ワイバーンは大きな翼を羽ばたかせ、私たちに火球を放ってくる。火球の火力はかなり高く当たってしまえばひとたまりもないだろう……。

 だがこちらにはレズリタがすでにスキルを発動していたようで、火球に対して手をかざす。
 
 《黒い渦ッッッ!》
 
 すると目の前の空間が渦を巻くようにぐにゃっと捻れるとワイバーンの放った火球はその捻れた空間に吸い寄せられる。その空間はまるで小さなブラックホールのごとく私の目に映ると、ワイバーンの放った火球をいとも容易く吸い寄せてしまった。
 
 「れ、レズリタいつのまにこんな魔法を?」
 「すごいでしょ~ラゼル。皆には秘密にしてたんだ~」
 
 レズリタはそう言って軽くウィンクする。レズリタの魔法に関心しているとワイバーンが新たに火球を放ってくる。
 
 「この火球切れるのかな?」
 リズは剣を鞍から引き抜くと魔力を集中させ火球に対して剣を振る。すると綺麗に2つに分かれた火球が遥か彼方に飛んでいき霧散する……。だがワイバーンも馬鹿では無い、尻尾を丸めるとその巨体を縦横無尽に俊敏な動きで回しながら火球を連続で撃ってくる。

 1つ1つの威力はそこそこありダメージを負う可能性もある……。そこで私もスキルを発動する。
 
 《ブリザード》
 
 放たれた冷気がワイバーンの羽をを一瞬にして氷漬けする。そして動きが緩慢になり飛竜は地面へと墜落した。
 
 上から落ちたワイバーンにエリックがスキルを発動する。
 
 「ギガントインパクトッッッ!」
 
 上からエリックの重い一撃が入る、ワイバーンは空の上からでは味わえない重力に勝てずそのまま地面へとめり込む……。今の一撃でかなり弱った様子だが地面に縫い付けられているため直ぐに起き上がることが出来ないみたいだ。
 
 「今だリズ!」
 「任せて!」
 
 リズは地面を蹴ってワイバーンに近づくと剣を一振りして、簡単にワイバーンの首を落とす……。
 
 A級モンスターを相手にしながらこうも楽勝に終わるとは……かなり調子が良いしイケそうな気がする。
 
 「よし、討伐完了! レズリタ魔法鏡でランキングを確かめて!」
 
 リズがレズリタに命令すると直ぐに魔法鏡を取り出し順位を調べる……。
 するとレズリタは笑顔になりはじめる。なんだか嬉しそうだ。
 
 リズとエリックもその結果を心待ちにしていたんだろう、結果を聞いてくるレズリタを少し待っている。そして意を決したように口を開くと 笑顔でレズリタは言葉を発した。
 
 「1位だよ! 私達が1位!!」
 「やったな!!」
 
 レズリタの言葉にエリックが拳を掲げて応える。
 まさか1位を取れるなんて夢みたいだ……。ただ油断は出来ないだろう。
 魔物との戦いを終えた私達は荒野を更に進みながら次々とモンスター討伐を行っていた。
 
 結論から言うと荒野地帯は案外私たちが欲している上級モンスターが多数生息していたようで私達も4人で協力して難なく倒すことに成功する。1位という好成績が相まったのかポイントが増えっぱなしである。
 
 「結構ポイント溜まってきたね!」
 「ああ! 場所を少し変えて良かったぜ」
 
 リズとエリックはもう元気いっぱいと言った様子だ。なんとか順位を維持出来ており気が楽なのだろう。
 それから私たちは少しずつ魔物を狩っていき順位を徐々に上げていくことに成功する。
 
 そして最終日の今日に至ってはかなり順位を維持できているのでは……そんな気持ちに包まれていた。
 
 A級モンスターも十分に倒せておりしばらく巻き返されないだろう……。
 
 私たちは安全に勝利を収めることだけを最優先に考えその日は魔物を狩り続ける。
 
 するとレズリタが気になることを口にした。
 
 「じ、地面が揺れてない?」
 
 「地面?」
 
 私は地面に手を置き注視してみる。
 確かに微かに震えている。それもかなり規則的に……。
 
 もしかして魔物が近づいてきているのだろうか。この振動はかなり多い……。
 
 「なんだこれ......もしかして魔物が一斉に動き出したのか!?」
 
 エリックの発したその言葉に皆息を飲み込む。振動はどんどん大きくなっていき、それに従うように地響きも少しずつ大きくなっていく……。
 
 「皆、王国南部の都・リザースに戻るよ!」
 
 私がそう言うと3人とも頷いてくれ、全速力でリザースに向かう。
 
 先ほどの魔物の大群は何なのだろうか、私たちは全速力で王国南部の都・リザースに向かうのだがいつまで経っても振動はやまない。
 
 私は嫌な予感が拭えず走り続ける……。

 もし魔物の大群がリザースに押し寄せていたなら……考えただけでも恐ろしい……。
 
 今リザースには多くの民と国王が滞在している。

 魔物の大群が襲いかかれば死人が出てしまう……。
 
 きっと今回の祭りに参加しているパーティーもすぐに行動しているだろう。
 
 私達は息切れしながらもなんとかリザースに向けて走り続ける。

 
 
■■■


 
 「何事じゃ」
 
 ここは王国南部の都・リザース……祭りの喧騒が鳴り響いていた……。
 
 なぜなら突然地面が揺れていて騒ぎになっているからだ。
 
 まだ大きな被害は出ていないが皆パニックになっており、落ち着いている街はどこにもない。
 
 「へ、陛下! 魔物が大群で攻めてきています!」
 
 興奮した様子で兵士の1人が報告をしてくる。
 どうやらこの揺れは魔物によるものらしい。
 
 「なら返り討ちにしてやれ」
 
 「そ、それがあまりにも魔物が多く我々だけでは手に余りかねません!」
 
 「なんじゃと?」
 
 その言葉に少々苛立ちを覚えてしまう。
 このままでは騒ぎも大きくなりお祭りが中止になってしまう。

 皆不安の絶頂であろう……一刻も早くこの騒ぎを落ち着かせなければならないがその暇すらありそうも無い。

 ならば……。
 
 「近衛騎士団であるリスタを呼べ」
 
 「陛下、私はここに」
 
 目にも追えぬスピードでリスタが目の前に現れる……。

 相変わらず驚かされるような動きである。
 
 故にあれくらいの芸当は朝飯前だろうがな。
 
 「魔物どもがここリザースに攻めてきておる。滅ぼしてこい」
 
 「承知しました、では護衛を残していきます」
 
 それにしてもたかが魔物どもでリザースを襲うなど片腹痛い。

 魔物どもは知能がないからのう……。

 そう思っているとリスタが混乱している民の前で口を開く。
 
 「我は近衛騎士団団長リスタである! これより我が率いる近衛騎士団は魔物の群れを排除する!」
 
 リスタの一言で混乱していた民の表情が取り除かれていく。
 
 「必ずや我々は魔物どもを退ける! よって安心せよ!」
 
 リスタのたった一度の一言で混乱は一気に収まる。いつ見ても凄いカリスマの持ち主だ。
 
 それからしばらくしない間にリスタが自らが率いる近衛騎士団の面々を連れて民の前に姿を表す。

 その威圧感からだろうか辺り一帯の温度が低く感じ取られるように思えるほど皆静まり返っている。
 
 「陛下、近衛騎士団直属の第三騎士隊長と第四騎士隊長を護衛として置いていきます」
 
 「なぜじゃ?皆で行けばよかろう」
 
 ここはリザース……防衛機能も特に施した街である。

 護衛に関してはA級冒険者が数十人は滞在しているのだから必要はない……。
 
 なぜじゃろうか? わしがそう言うと第三、第四隊長達が頭を下げる……。
 
 そしてリスタが再びその美しい透き通った声で言葉を紡ぐ。
 
 「この魔物の大量発生が人為的だった場合……陛下や民に被害が及ばないとは言い切れません」
 
 「なるほどな......」
 
 「それでは我ら近衛騎士団は向かいますゆえ!」
 
 そう言ってリスタがマントを翻し民から離れていく。

 その部下である第一第二、第五の騎士たちも近衛騎士団のみが使える漆黒のマントを翻して颯爽と姿を消す……。
 
 祭りと思っていたものがこれほど大規模な魔物による襲撃によって気が滅入る展開になるとはな……。

 そう思いながら騎士達の背中を見つめるのだった。