外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

 とてつもない緊張感で手に汗をかくのを感じる。
 
 「お前たちは龍神教と接触したと聞いたが本当か?」
 
 ここで私は顔を起こし陛下を見る。

 その問いにどう答えるか一瞬戸惑ったがゆっくりと口を開く。
 
 「はい、龍神教と接触しました」
 
 龍神教は各国で犯罪行為を起こしている危険な集団だ。

 そんなのと接触したなどと聞けば一瞬で軍隊が動き出すであろう。
 
 龍神教の人間を見かけたら必ず殺せとまで言われている。

 それほど警戒されている存在である。
 
 「戦ってどう感じた?」
 
 陛下はとんでもないことを聞いてくる。

 そりゃ普通に怖かったに決まっているしあんな禍々しい人間見たことないんだから。
 
 ただ禍々しいだけじゃなく能力もかなり強かったし。
 
 リズ達は緊張のためか口を開く事ができない。

 なんとか私が伝えなければ、と思い口を開く。
 
 「今回対峙した敵は龍神教の中では下の方であろうと考えます」
 
 私は感じたことを正直に伝える。

 たしかに能力は強かったが使いこなせていない感じがしたからだ。

 それに精神が幼いということもあって上手く制御できていなかったのも察することが出来た。
 
 その言葉を聞き、陛下は険しい表情から一転してフッと笑う。
 
 「下の方か......実に面白い回答をしてくるな」
 
 どこか楽しんでいるような、そんな顔だった。
 
 「ではこの4人の中で一番強い者は誰か?」
 
 その質問に私達は静まり返る。

 正直私ではないだろう、私はリズやエリックのような剣技は使えないし、レズリタのように様々な魔法も使えない、はっきり言ってこの4人の中では私が一番弱いであろう。

 それに経験値も圧倒的に3人の方が積んでいるのだから。
 
 そう思っていた時、横にいたリズが口を開く。
 
 「ラゼルです」
 
 え?今なんて? 思わず口に出してしまうところだった。

 リズは顔色を一切変えずに陛下の方を見ている。

 本気で言っているのだろうか......。

 私は外れスキルを持ち家から追放をされるような、落ちこぼれなのに......。
 
 
 だがエリックとレズリタも大きく頷いている。

 混乱して呆然としていると陛下が私の顔を見て口を開く。
 
 「そうか」
 
 少し嬉しいような、なんとも言えない気持ちになり私の中の時間が止まったように感じられた。
 
 すると陛下が口角を上げ言葉をさらにかける。
 
 「お前の実力がどんなものか見せてみよ」
 
 今ここでか?正直に言ってスキルを発動すると疲れるから使いたくないんだが……そんなことができる状況ではないのだと思い私は仕方なく口を開く。
 
 「分かりました」
 
 そう言うと陛下は扉の近くにいた2人の兵に呼びかけをする。
 
 陛下の言葉を聞いた兵は慌てながら私と対峙するような位置へ移動する。
 
 リズ達とリスタは少し離れ、私を見守っていた。
 
 「では試合を始めよ」
 
 兵士は腰にさしている剣を抜き私に向けて構える。

 陛下の掛け声と共に試合は始まり兵が私に襲い掛かってくる。
 
 兵の動きはとても早く、並みの人間じゃ目が追いつけないスピードで迫っていた。

 流石陛下を守っているだけある。
 
 私は兵が近づく直前に手を挙げスキルを発動する。
 
 《ダークネス》
 
 スキルを発動すると兵2人の動きを影が覆う。
 
 その光景に陛下やエリック、リズ……そしてリスタまで驚いた表情をする。
 
 こんな得体の知れない影を突然出したんだから当然の反応だな。
 
 そのまま私は影で2人の動きを封じる。
 
 「なんだこれ!?」
 
 兵士はその場で動けずに騒ぎ出していた。まあ当然の反応だろう。

 突然影に包まれ身動きができなくなったのだ、これで落ち着いていられる訳がない。
 
 すると笑い声が聞こえてくる。陛下が笑っているのだ。
 
 「さすがへスターからの報告通りの実力だな」
 
 陛下は満足げな顔で私を見た。そんな中、私は思う。
 
 いつへスターから報告がされていたんだと。
 
 そんな疑問を感じていると、レズリタが手を挙げる。
 
 「あのう……影で覆われた兵士さんの方は大丈夫ですか?」
 
 その言葉を聞き私はハッとする。

 影で包んでしまっているから今すぐ解除してあげないと。
 
 私は急いでスキルを解除して二人を元に戻す。

 体が自由になった二人はその場で呆けている様子だ。

 まあ突然影に体が覆われたのだから無理もないだろう。
 
 そんな私を見ながら陛下は口を開く。
 
 「お前たち4人には期待をしている、今後も龍神教が現れるかもしれん。その時は協力を願いたい」
 
 「はっ!」
 
 国王陛下直々の言葉に私たちは礼節の姿勢になる。
 
 すると国王は目を緩め優しく言葉を告げる。
 
 「では下がって良いぞ」
 その言葉を受けて私達はその場を後にする。

 すると扉の付近で待っていたリスタが歩いてくる。
 
 「ラゼルの能力は実に興味深いな……」
 
 興味ありげな顔で言ってくるリスタ。

 私の能力を発動する時は大体驚かれる事が多く慣れないものだ。
 
 そして私たちは陛下に敬礼をしリスタと共に扉をくぐるのであった。
 
 そして王城内から出たリズ達は胸を撫でおろすような感じで息を吐く。
 
 「凄い緊張したよ~」
 
 「初めてだし、心臓が口から飛び出そうだった!」
 
 それぞれが思い思いのことを口にして安堵の表情をみせている。

 そんな中エリックは息を大きく吐きながら口を開いた。
 
 「陛下の雰囲気が怖かった、近付いただけで首が飛びそうだ!」
 
 それは私も感じていた。

 正直なところいつ心臓が破裂してしまうのかと思っていたところだ。

 するとリスタが口を開いて話しだす。
 
 「そういえば君たちはもう冒険者ランクSなんだろう?」
 
 「はい! そうです!」
 
 「ということは大会にも出るのかな?」
 
 リスタの問いに私たちは首を縦に振る。
 
 大会というのはモンスターを狩る祭りみたいなものであり、とても大事な行事なのだ。

 その祭りに参加出来るのはSランク冒険者のみである。

 祭りの内容としては冒険者が狩ったモンスターのレア度などを競うといったものだ。

 その大会に参加するのか聞いてきたのだろう。
 
 「もちろん参加するよ~」
 
 「絶対優勝するぞ!」
 
 レズリタとエリックはそれに答えるように答えた。
 
 2人とも負けるなどと思っていないようで自信ありげな表情である。

 国王と対峙する時に感じていた緊張を一切感じさせないほどこの短時間でいつも通りに戻っていた。

 なにせその祭りで優勝した場合は国家直属の冒険者として雇われるからだ。

 この機会は絶対に逃したくないのだろう。
 
 「楽しみにしているよ」
 
 リスタも楽しみな様子で4人のことを見ている。

 その顔は興味深々なもので面白いものが見られそうだという期待感を感じさせる。
 
 そんな会話などしているうちに宮廷から出ることが出来た。

 空は赤く染まり日も暮れ始めている。
 
 「疲れたし、体を休めたいな~」
 
 「いいなそれ! 俺も武器屋行きたかったんだ!」
 
 「温泉にも行きたいね!」
 
 3人が話しに華を咲かせている。

 祭りが始まるのは3ヶ月後ぐらいだし、少しくらいは休んでも罰は当たらないだろう。

 ここの所ずっと戦闘ばっかで疲労もかなり溜まっている頃だ。

 するとリスタが口を開く。
 
 「ラゼル、良かったら明日僕と食事に行かないかい?」
 
 「......え?」
 
 私は驚嘆の声をあげた。

 今なんて言った? 食事?このイケメンが私なんかを誘っているのか?

  流石に立場が違いすぎてどう対応したらいいのか分からず困惑する私である。

 私を誘っているのはエルミア王国騎士団団長リスタ・ベルリオーズだ。

 王国最強の騎士が私みたいな外れスキル持ちを食事に誘うなんて考える方が難しかった。
 
 そんな固まっている私を見てリスタが口を開く。
 
 「突然誘ってしまったから驚かせてしまったようだ、申し訳ない。」
 
 困ったような顔をしたリスタを見てリズ達は焦ってしまう。

 騎士団長に謝られるのはイメージも崩れるし、王国最強の騎士に頭を下げさせてしまうのは正直気が引けてしまうため余計に焦っている様子だ。

 仕方なく私は言葉を発する。
 
 「いいですよ」
 私の言葉を聞きリスタは目を輝かせ喜ぶ。
 
 まるで子供の用に喜ぶ姿は、さっきまで騎士団長としてキビキビとした対応をしていた様子とは違いギャップについ驚いてしまう。
 
 「ありがとう、ラゼル」
 
 そして私とリスタは明日のスケジュールを確認をし、リスタは私たちに別れの挨拶を告げるとそのままどこかへ行ってしまった。
 
 明日リスタとご飯か……なんだか緊張するな……。

 そんな中横ではリズ達がはしゃいでいる様子だ。
 
 「え?騎士団長とご飯に行けるんですか! すご!」
 
 「流石ラゼルね!」
 
 「夢みたいだ……本当に明日あるのか?」
 
 3人が目を輝かせながらそんな会話を繰り広げている。

 エリックとレズリタはまだ信じられない感じでいるようだ。
 
 それはそうだよな、国王と会った後に王国騎士団団長からお誘いを受けることなんてありえないことだから。
 
 でも現実に今起こっている、まだ実感は無いが夢を見ているみたいだ。
 
 3人の顔を呆けた顔で見ているとレズリタが私を抱きしめてくる。
 
 「ラ~ゼル~すごいよ~!」
 
 感動を体全体で表すようなレズリタ。

 ちょっと私も照れてしまうな......。
 
 そんな大騒ぎの中リズがなにか思い出したように口を開く。
 
 「とりあえず今日は温泉でも行こう! そんでラゼルのデートが終わったら武器屋でも魔法の本でも見に行きましょ!」
 
 リズの言葉に同意し私たちは体を休めることに決定した。
 
 そして私たちは城下町を歩いていきお目当ての温泉に向かって行く。
 
 「そういえば温泉ってどこにあるの?」
 
 私はふと疑問に思い言葉を放つと、リズは手を叩いて答える。
 
 「王都から少し外れの方にあるの! 自然も豊かで気分転換にはうってつけ! きっと気に入ると思うよ!」
 
 そう自信ありげにリズは語る。

 確かに温泉といえば自然とセットだからな、自然と共存した作りならきっと気持ちの良いはずだ。
 
 「飯もうまいんだぜ!」
 
 「凄くおいしいよ~」
 
 エリックとレズリタからも高評価のようだ、『うまい』というワードを聞くたびに心が躍る。
 
 やがて私たちは馬車に乗り目的地へ向かった。

 馬車にゆられること20分、温泉宿が見えてくる。

 辺りが薄暗くなり始めた頃に私達は目的地に到着することができた。
 
 外観は落ち着いていて建築の木の良さを感じる綺麗な建物が目に入る。

 竹林に囲まれて少しレトロな感じが醸し出された木造造りだ。

 中からは微かな湯気とかけ流すような水の音、いかにも素晴らしい景色を連想させるに十分なシチュエーションだった。
 
 リズ達も目的地に到着すると心が躍っている様子だった。
 
 私も馬車からの道のりを降りた時に見えている温泉は綺麗だな~と見とれてしまったものだ。

 それほど目の前の温泉は素晴らしいものだったのだ。

 なので3人がはしゃぎ出す気持ちは分かる。
 「それじゃあ中に入ろ!」
 
 リズの言葉を聞いてみんな建物へ向かっていく。
 
 そのまま私達は木造建ての入り口へ向かう。暖簾をくぐり中へ入ると綺麗なお姉さんが現れ話しかけてくる。
 
 「いらっしゃいませ~、お食事にお泊まりですか?」
 
 そんな聞きなれたような質問をぶつけてくる宿の女将さんに対して私は答える。
 
 「はいそうです」
 
 そして私たちは料金を支払い部屋の中の部屋へ入るための鍵を渡される。
 
 リズ達ははしゃぎながら部屋へと向かっていく。

 部屋は離れになっているようで女性陣である私達3人は宿の中でも最も眺めの良い部屋らしい。リズ達がとても興奮しているのが分かるほど反応が大きいものだった。

 そんな私も興奮を隠し切れなかったが……。
 
 軽く説明を受けた後、私は部屋に入り寛ぎモードに入ろうとしていた。

 部屋の真ん中にある椅子に座りぐ~っと背伸びをする、想像以上に良い部屋で窓から見える景色も格別だった。
 
 「凄い良い景色だね」
 
 「でしょでしょ! ここは私のおすすめなの!」
 
 私達がそんな会話を交わしているとレズリタも私の横に座ってきた。
 
 そして外の風景を見て目を輝かせる。ちなみにエリックは隣部屋にいる。
 
 私と同じくレズリタも大分はしゃいでいるようだな……。
 
 普段見ない顔のレズリタを見て、自然と口元が緩む感じがした。
 
 窓から覗く景色は美しい自然が見えており精神が落ち着く。
 
 「それじゃあ温泉場に行こっか!」
 
 そう言うと私達は部屋を後にし温泉場へと向かう。

 温泉宿の浴場は広々としており体を洗う場所などもしっかりと整備されていた。

 お湯の種類も多くあり、露天風呂もあるようだ。
 
 「ここ凄い広いんだね」
 
 私は初めてこんなに広い浴場を見るため少し目を見開いて感動をしている。
 
 そしてそれぞれ脱衣所で服を着替え浴場へと足を踏み入れる。

 その瞬間からもう分かるぐらいの湯気が立ち上っており辺りの視界を完全に失ってしまうほどの量であった。

 浴場の大きさも相まってすごい雰囲気になるんだなと思い言葉が出てくる。
 
 それから私たちは体を洗い露天風呂に入る。

 すると大自然という一言に尽きる素晴らしい風景が目に入る。

 王都周辺ではまずお目に掛かることはできないほどの大自然に見惚れてしまうほどだ。

 遠くの方を見ると連なった山々がはっきりと確認でき、その両側には森も存在していた。

 これだけの自然があることを改めて驚かされる。
 
 「今までの疲れが全部吹っ飛ぶよ~」
 
 「間違いない!」
 
 リズとレズリタは湯に浸かりながら言葉を放ち恍惚の表情を浮かべている。

 温泉というだけあり心の底から疲労を溶かそうとしている顔だ。
 
 私もそんな2人に引き込まれるように露天風呂へ向かっていき湯に入る、なんというか初めての感覚だ……。

 心地よくて全身が解されるような感覚になるな……まるで体に魔法が掛けられている気分になるさ。
 
 温泉場にはたまたま人がいないので貸し切りのような状態になっている。

 するとリズがお湯に浸かりながら話してくる。
 
 「龍神教と戦ったり陛下と会ったり、本当に大変だったよね」
 
 「たしかに毎回驚くようなイベントばかりで辛いときもある。でも私はリズ達と会えて良かったと思っているよ」
 
 私がそう返すとリズは照れ臭そうに顔をそむける。

 頬が赤くなっているのが分かるな。

 横を見るとレズリタもこちらを見てきたと思ったら私の頬をつついてくる。
 
 その行動の意図は理解できなかったが、彼女もなんだか嬉しそうではあった。
 
 「私もだよ~、正直ラゼルとエリックがパーティーに入るまで魔物討伐がうまくいってなかったんだ~」
 
 そういえば私がパーティーに入る時もそんなこと言ってたな。

 冒険者パーティーってのはお互い足りない能力を埋め合う。

 だからこそお互いの良いところを生かした戦術を取って魔物討伐ができるのだ。

 つまり私とエリックにはリズ達のパーティーに元々足りなかった能力を埋めることが出来たからこそ、いろんな事件を乗り越えられたというわけか……。
 
 「やっぱりパーティーってのは良いね。 お互い足りない所をチームで埋めていき力を合わせ助け合う、まさに理想のパーティーだったってわけだ」
 
 私がそう言うとリズとレズリタは子供のような笑顔をこちらに向けてくる。

 本当に良い子たちだな……改めて思うよ。
 
 そんな会話をしていると私は少し体が熱くなってきたのでお湯からでることにした。
 
 外の風景を眺めていたい気分ではあるが、こうも熱いと長時間この場に居られないな……。
 
 私は露天風呂を後にして脱衣所に向かった。
 
 タオルで体を拭き、身支度を整えた私だったが体を火照らせてしまったため少し喉が渇いたような感じになる。

 なにか飲もうと思って歩くと、館内に設置されている椅子を見かけたので腰を掛けて休憩することに決めた。

 すると背後から気配が迫ってくる。

 そして私の肩にとても軽い感触が走ると同時に聞きなれた声が耳に入ってきた。
 
 「ラゼル、温泉どうだった?」
 
 後ろにいたのは巨躯な体をしているエリックだった。

 髪の毛を見るとまだお風呂から上がったばかりであることが伺える。
 
 「もちろん最高だったよ、エリックは露天風呂入った?」
 
 私が尋ねるとエリックは首を縦に振る。

 私とエリックは椅子に座りお互いの話をしながらくつろいだ時間を過ごしたのだった。
 
 そんな時、向こうからリズとレズリタが歩いてくる。
 温泉で火照った体を冷ましているかのような表情である。

 そして私の元へたどり着くと口を開いた。
 
 「温泉気持ちよかったね!」
 
 温泉から上がってきたばかりのリズの表情はほわっとしており、思わず私の方が癒されそうな不思議な魅力があった。

 その隣を歩くレズリタも同様に上気した表情をしている。
 
 「そういえばあそこに牛乳売ってたよ~2人ともお風呂上がりに飲むと良いよ~」
 
 レズリタがそんな事を呟いて指差す方向には牛乳を売っているのが見えた。

 やはり宿と言ったところか、とても豊富な種類の飲み物が置いてある。

 牛乳なら好きだし飲んだら喉も潤うだろうと思ったので私達は即座に向かうことにした。
 
 売り場に行くと150Gぐらいの価格で牛乳が売っている。
 
 王都周辺にて作られているであろう牧場からはるばるとやって来た乳牛から絞り取られたであろうものだ、そんな立派なお乳を飲むなんて……と思いながらも私達2人は牛乳を買った。

 1本150Gの格安の牛乳だがこれがまた美味いのだ。

 脂肪分が少なく甘さだけが濃縮されたような美味さは王都内でもかなり人気がある飲み物だ。
 
 「やっぱ風呂上がりの牛乳は格別だな!」
 
 「間違いない」
 
 私とエリックはお決まりのセリフを吐きながら牛乳をグビグビ飲む。

 そんな私たちの姿を見たリズとレズリタも興奮しながら買って牛乳を飲んでいた。

 そして牛乳を飲み干すと私達は食事に向かうため食堂に足を向ける。
 
 宿の夕食は和食だ。

 炊き立ての艶やかな白い米に、湯通しした魚や色とりどりの野菜が入った味噌汁、それに酢の物や魚の煮つけなどの生臭さの無いように工夫されたお造りもある。

 さらにイワシの頭まで添えてあるという気合いの入りようだ。
 
 「す、すごすぎる!」
 
 私はこの料理を目の当たりにした瞬間声を漏らしてしまう。

 王国周辺にある魚とは明らかに違う匂いがして身もふわふわしている。
 
 「なんだこれ……すごく美味しい!」
 
 こんなにおいしい料理がこの国にはあるものなのか?と思うほどの衝撃を受けながらパクパク料理を口に運んでいるとあっという間に完食してしまった。
 
 「ラゼル食べるの早すぎでしょ!」
 
 「俺よりも食べるの早いじゃねえか!?」
 
 私を見てリズとエリックは驚嘆の声を上げていた。

 あまりの完食の速さに周りからの注目を意図せず集めてしまった……恥ずかしい。
 
 リズとエリックが驚く反面、レズリタは横でモグモグ美味しそうにご飯をほおばりながらお菓子のような甘さの漬物をポリポリ食べていた。
 
 そして全員が食べ終わり私たちは部屋に戻る。
 
 寝る時間になり寝床につくことになったが、ベットは最高の状態になっていた。

 備え付けの布団に入り、照明を消して暗い部屋の中で上を見上げる。
 
 思えば私は外れスキルで家族から軽蔑の目で見られずっと一人だったな。

 いや、私の家で働いていた召使いの女性達は私の事をいつも励ましてくれてたな。

 あの人達は元気だろうか。

 そんなことを考えていたらだんだんウトウトしてきて、気付いたら私は深い眠りに入っていたのだった。
 窓から日差しが差し込んできた朝、小鳥のさえずりが目覚ましとなり私は起床した。
 
 そのまま私はベットから降り窓を開け外の空気を感じる。レズリタとリズはまだ寝ているようだ。

 私は布団を片付けた後、顔を洗い服を整えた。

 今日はあの騎士団団長リスタと食事に行くことになっている。

 身だしなみは大事だからな……。
 
 数分後にリズとレズリタも起きてくる。
 
 「ラゼル朝早いね~」
 
 「あ、今日リスタ騎士団長と食事だもんね!」
 
 寝起きで寝ぼけているレズリタとハキハキとしているリズ、どちらも新鮮で見入ってしまう。私はいつも通り早起きだ。
 
 「じゃあ私たちは温泉宿で休んでるからラゼルは楽しんできて!」
 
 リズに背中を押される。

 後で3人には土産を買わないとな……そう思わせてくれるようなやりとりだ。
 
 そして私は温泉宿の暖簾をくぐりそのまま外に出た。
 
 空を見ると美しい青空には雲ひとつもない快晴である。
 
 気温もポカポカとした暖かさを感じるため外出には持ってこいの良い日だ。
 
 それから私は馬車に乗り目的地へ向かう。
 
 その道中も青空の中飛ぶ小鳥や風に揺れる草原が目に入ったりして旅行気分を満喫させられた。

 これぞ理想の冒険者ライフというものではないだろうか……。

 そんなことを思い浮かべてるうちに予定よりも早く馬車は目的地へ向かっていたようで周りの景色の流れが速くなっていることに気付いた。
 
 「そろそろ着きますよ」
 
 馬車を運転する使用人が口を開く。

 もうあと3分ほどで目的地に辿り着くというところで私はドキドキして来た。

 騎士団団長様と食事という経験したことのない状況なのだ、緊張しないわけが無いだろう……。
 
 そして数分後馬車は止まり目的地に到着する。

 私は少し深呼吸した後馬車を降り、リスタがいる場所まで歩く。
 
 私が今向かっているのは王都では有名な噴水広場だ。

 広場の中央に噴水があり、それを囲うようにベンチが置かれていたり、ストリート演奏している人がいたりする。
 
 そんな事を考えながら歩いていると目的地である噴水広場が視界に入る。

 そしてその噴水近くにリスタがいることに気付く。
 
 透き通った黄色い髪の毛に金色の瞳。整った顔立ちは透き通るように白い肌と相性が良くとても目立っている。

 するとリスタが私に気付いたらしく手を軽く振っているのが見えた。
 
 その瞬間周りの人がざわつき始めたのが分かったため、少し恥ずかしかったが足を進めリスタの元へとたどり着いた。
 
 「ラゼル、おはよう」
 
 「おはようございます」
 
 するとリスタがムムっとした顔になってこちらを見る。

 なんだ?と一瞬困惑したが数秒後に理由が分かった。

 私は挨拶するときに思わず敬語を使っていたのだ……。
 
 「敬語じゃなくていいよ。今日の僕はただのリスタだ」
 
 「分かった、おはようリスタ」
 
 するとリスタの顔が笑顔に切り替わったのが分かった。

 リスタは敬語を使われるのが嫌いみたいらしい。

 私も別に敬語じゃなくてもいいんだけど、周りの目が少し気になってしまうのだ……。

 リスタの顔は王都内では誰もが知っているほどよく知れ渡っている。

 リスタがいるということは私まで注目を浴びてしまうことになるのだから言葉遣いには気を付けようと思っていたんだが、まあいいか。
 
 「それじゃあ早速近くに美味しい和食店があるからそこに行こうか」
 
 「賛成!」
 
 「食事になると元気がいいね、ラゼルは」
 
 しまったしまった、いつものクセが出てしまった。

 私は食事になるとつい嬉しさから元気が溢れ出てしまうのだ……気をつけなければ。
 
 そして私達は話題の和食店を目指し歩く。

 街は多くの人で賑わっており活気づいていた。

 朝の人々が活気づいてる姿は新鮮な気持ちになり思わず心が躍るようだ。

 にしても周りの人達が私たちをジロジロ見ているのはやはりリスタが近くで歩いているからだろう。

 リスタは多くの功を挙げ騎士団団長にまで上り詰めた人物であるためこの国に住む人にとって相当憧れの存在なのである。

 そんなことを思っているといつのまにか料理屋に到着する。
 
 中に入ると大勢の人々が食卓を囲んで食事をしていた。

 どのお店でも活気があると気分が盛り上がるな。

 その人々の様子を横目にしながら席に着きメニューを見る。
 
 「どうだい? なかなか美味しそうなメニューばかりだろ?」
 
 「美味しそう!」
 
 リスタの言う通り、どの料理も新鮮そうな魚や野菜で彩られており食欲をそそられる。
 
 腹が鳴りそうなほどの美食が私の前に置かれていた。

 まだ何も頼んでいないのに興奮してしまう。
 
 そして私たちは注文をし、談笑しながら料理を待つ。
 
 「ラゼルはいつから冒険者になったんだい?」
 
 「数ヵ月前ぐらいかな? 私は外れスキルで家から追放をされたんだけど、リズが私をパーティーに誘ってくれて冒険者になることができたの」
 
 それから私は数ヵ月前のことを思い出して少し俯く。
 
 私の落ち込んだ様子に気づいたリスタが口を開こうとする。
 
 「すまない、嫌な記憶を思い出させてしまったみたいだ」
 
 「たしかに家から追放された時は絶望で辛かったです。でも今は幸せで冒険者としての充実感を感じてて、今は冒険出来て幸せです」

 私はそう言い切り笑顔を見せる。
 私はそう言い切り笑顔を見せる。
 
 するとリスタは安堵して笑みを浮かべながら頷く。
 
 そんな会話をしていると料理がテーブルに配膳されいよいよ食事の時が来たのだと心を躍らせた。

 和食で食べる煮魚など全てが輝いており口内に溢れ出すよだれを必死に飲みこむようにして味わうことができた。

 完璧である。

 これほどクオリティの高いものをリーズナブルなお値段で食べられるとは至高すぎる店だ……!

 リズ達も連れてきてやりたいくらいだ。
 
 「気に入ってくれたようだね。顔に出ているよ」
 
 私の顔がお花畑状態だったことに気付く。

 だがそれだけ料理は美味だったという事の証明でもあるから感謝しきれない。

 私はスプーンを止めず次から次へと口に運んだ。

 そしてあっという間に完食する。
 
 「ここの料理めっちゃおいしい!」
 
 「僕も気に入ってくれたみたいで嬉しいよ」
 
 やっぱり美味しい料理を食べると幸せな気持ちになる。
 
 リスタには感謝しなければ。こんなに美味しい和食店を教えてくれるなんてな……。
 
 それからお腹も満たされたのでしばらく雑談することにした。
 
 「リスタはどうして騎士になったの?」
 
 騎士になるのは国を守る職業として重要なものだ。

 誰にでもなれる職業では無い。
 
 「僕は英雄に憧れていたんだ。ずっと昔からね。色んな人を救ったり守ったりするのが僕の夢だったんだ」
 
 この言葉を聞き私は納得した。

 英雄と呼ばれる存在に憧れる気持ちに私も心当たりがあったからだ。
 
 だからこそ共感を持てた、この人が騎士団団長を務められていることがただ騎士としての実力があるだけでなく人格者でもあるということも示している。
 
 「この後行きたい所があるんだが、付き合って貰えないか?」
 
 「もちろんいいよ」
 
 その後私達は会計を済まし店を出る。

 次に向かう場所があるようなのでそこへ向かうことにした。
 
 「どこに行くんですか?」
 
 「ここは人が多すぎるからね、綺麗な自然ある場所にでも行かないかい?」
 
 どうやら私が周りの目を気にしていることを察してくれたらしい。

 確かにリスタといる限り視線を集めてしまうだろうからな……これ以上目立たなくなるのならそれでいいやと思ったので肯定し私達は静かな場所へ向かうことにしたのだった。
 
 「失礼」
 
 「え?」
 
 すると突然リスタが私を俵担ぎしジャンプをする。

 物凄い速さで屋根を飛び駆けていき次々と景色が流れるように過ぎ去っていく。

 先程は視線がどうのと気にしていたがそんなこと考える間もなくなった。
 
 ふと横を見ると木や家々が通りすぎていきその速さを物語っていた。

 そしてそのまま屋根から屋根へ飛び移る。

 速すぎるためか王都の人達は私たちに気付かず買い物をしていたる遊んでいた。

 それから数分経ったころだろうか。
 
 先ほどの光景とは全く別のところに私達は来ていた。
 
 そこは美しい平原で奥の方には森林が広がっている。

 風によって揺れる草木の音と鳥のさえずりが聞こえてくる。

 こんな場所があっただなんて……想像すらしていなかった場所だ。
 
 「......そろそろ降ろしてください」
 
 ハッとリスタは我に返り私を地面に降ろす。

 そしてゆっくりと足を着地させ体勢を立て直すとリスタに振り向き質問をする。
 
 「ここは?」
 
 「僕がいつもリラックスしている場所だ。ここには自然以外何も無く何も考えることなくて気楽に休める」
 
 私もさらに周りを見渡すと柔らかそうな草や湖が広がっており空気も澄んでいた。

 ここでリスタはいつも休んでいるのだろうか。
 
 「さらに奥に進むと良いものが見れるよ」
 
 リスタが笑顔で言うので私も思わず興味が沸く。

 そして歩くこと数分、たしかに私は目を丸くし見るもの全てが美しく感嘆の声を上げてしまうほど素晴らしいものが目に映った。
 
 どこまでも続く花の景色だ。

 私が見た中でこんなに広い花畑を見たことがなかった。
 
 いろいろな色の花が私達を囲むように生えておりそのどれもが見事な品種なのがよく分かる。これが王国の象徴とされていて納得できるほど美しかったのだ。

 私が景色を眺めているとリスタが言う。
 
 「僕はこの花を見るたびに癒やされていてね、疲れた日や苦しい時にいつもこの場所に来ていたんだ」
 
 リスタの顔も穏やかな笑顔を浮かべており景色を楽しんでいることが分かる。

 なんだか私も似たような感じなので思わず嬉しくなる。
 
 「花が好きなんですか?」
 
 そう聞くとリスタは微笑みながら口を開く。
 
 「ああ、大好きだ」
 
 その顔に思わず見惚れてしまう。

 それからもリスタとの会話は続き、いつしか私も気軽に話せるようになっていた。
 
 王国最強の騎士なんて呼ばれる人が、ただ花が好きな好青年なのだと思うと微笑ましくなるな。
 
 それから私たちは散歩をしながら談笑をしていく。

 リスタと話すのはとても楽しくつい笑顔が漏れてしまうのだった。
 
 会話をしているとあっという間に時間が過ぎ、そろそろ帰ることになった。
 
 「そういえば私、店でお菓子とか買いたいんだけど。リズ達にあげたくて」
 
 「それならうってつけの場所があるよ」
 
 本当にリスタはなんでも知っているんだな。

 また機会があったらおすすめのご飯屋さんを聞こう。
 
 「ちなみにここから町までどれくらい時間が掛かるんですか?」
 
 「普通だと徒歩で数時間は掛かるね」
 
 まじか……。そんなところまで一瞬で来ることができたというわけか。
 
 ん?てことは私またあの俵担ぎをされるのか……?

 それは嫌というか恥ずかしいというか......。
 
 「また俵担ぎをして町に戻ろうか」
 
 「嫌です!」
 
 そう言って私とリスタは徒歩で王都へと向かうことにしたのだった。

 町へ戻る頃には丁度お昼の時間だったのでまたご飯を食べることにし、食べ終わった後、お菓子の店まで連れて行って貰った。

 それから3人が喜びそうなお菓子を一通り選んだ後、買ったお菓子をアイテム袋の中に入れ店から出る。

 そしてリスタとはそこで解散をし、馬車で温泉宿に戻るのであった。
 「ラゼル! 食事どうだった!」
 
 「楽しかったよ」
 
 私は買ってきたお菓子を机に広げながら答える。
 
 3人はそれを見るや目を輝かせてお菓子を食べ始め幸せそうな顔をしていた。

 やっぱりリスタっていろんな店を知っているんだな。本当に良かった……。

 それからは温泉に入り今日の疲れを取る。

 明日もたくさんの名所を回らなければならないのだから休まなければな。

 そして湯上がりのタオル姿で広い部屋に足を運び私たちは談笑をし始めるのであった。
 
 「そういえば明日はどこに行くの?」
 
 「ん~、私魔法書を見たいんだけど~」
 
 「私は武器屋に寄りたいんだけど!」
 
 困ったことに意見がバラバラになってきており収拾が付かなくなりそうだった。

 このままではどうすることもできず会議が進まないので私が口を開く。
 
 「まず武器屋に行って、その後に魔法書見に行くのはどう?」
 
 4人ともその意見がよかったらしい。

 特にリズの目が星に変わりそうなくらい輝いていた。
 
 とりあえず明日の方針は決めることが出来たため安心だ。

 リズとエリックは武器の強化をしたいらしい。

 たしかに武器が強いと戦闘に余裕ができて楽になるから良いな。

 それに新しい攻撃方法を考えたりできるから戦力を更に上げることにつながるのもいい。
 
 そういえば私武器とか触ったこと無いな……。

 どんなのがあるんだろうか?

 楽しみだな~とワクワクしながらこの後は遊びつつベッドで1日が終わったのである。
 
 次の日の朝、私たちは温泉宿を出て馬車に乗り目的地へと向かう。
 
 「いやー武器屋に行くのは久しぶりだ!」
 
 「私もー!」
 
 エリックとリズは久しぶりの武器屋ということでとても心待ちにしていたようだった。

 2人はまるで子供のような無邪気な顔をしながら興奮した様子で話を盛り上げている。
 
 2人の会話を聞いているとエリックがたまに大剣について語っていることがあるらしくリズはとても興味深そうに話を聞いていた。

 たしかにあのデカい剣を自分が持っているところを想像するとわくわくするな……あんな重量が乗った剣を振ってみたいと思い私も会話を聞きつつ夢を見ていた。

 その横でレズリタがほっぺを膨らませて睨んでいるのが少し気になるが。
 
 レズリタはあまり剣に興味が無さそうだ。

 まあ魔法使いは剣は必要ないし攻撃方法が魔法メインだから仕方ないだろう。
 
 そして数十分後、馬車を降りて徒歩移動を開始する。
 
 目の前には美しい街並みが広がっており、とても古き良き雰囲気の街並みが広がっていた。

 エリックとリズはキョロキョロと周りを興味津々に見渡しながら歩き回っている。

 その微笑ましい姿を私とレズリタは静かに見守りつつ武器屋のある場所へ向かうことにするのだった。
 
 到着したのは大きな建物に剣や杖などがデザインされた看板がある。

 いかにも剣の専門店といった雰囲気の店だった。

 エリックとリズは見ただけで分かるほどのワクワクと期待をしながら店に入っていく。

 私達もその後ろに続いてついて行く。
 店に入るとお客用の椅子やソファなどが並べられていてとても居心地が良くお客さんへの気遣いが見て取れるように整理整頓されており内装も清潔感を感じさせた。

 ここで買いたいと思えるような店内を作っていると思う。

 そして周りを見渡すと様々な種類の武器や防具が並んでいた。

 どの武器も丁寧に作られており見ているだけでなんだか興奮をしてしまう。
 
 既にリズとエリックはワクワクが最高潮に達したのか年相応な顔で装備品を眺めていた。

 これは購入することになりそうだな……。
 
 「いらっしゃい」
 
 ふと店の奥から女性の店員らしき人物が出て来た。

 赤い髪を後ろでひとつにまとめており小柄で落ち着いた雰囲気を出している人だった。

 年は20代だろうか……?

 この人がこの店の女店主のようだったので軽く挨拶をするとニコッとして挨拶を返してくれた。接客もしっかりしているのでさすがだと言える。
 
 「なにかお探しかい?」
 
 「なんかいい感じの武器とかありませんか!」
 
 「俺もいい感じの大剣が見たい!」
 
 店主が話しかけてくると食いつくようにエリックとリズはそれに答える。
 
 すごい剣への熱意だな。

 だが気持ちは分かる、剣や戦いといったものに興味がある人ならばみんなこうなるんじゃないだろうか。
 
 そんなテンション爆上げな2人を見て店主は笑顔で微笑み武器のコーナーに案内してくれる。

 私たちはその場に行くと剣やら槍や盾といったものが、いろいろな種類並べられている場所に来た。
 
 「これなんてどうだい?」
 
 店主が指さす先には美しい銀の剣が飾られていた。
 
 一見普通の銀色にしか見えないが輝きを放ち高級感を感じさせた。

 すると、店主が続けて話す。
 
 あの素材はミスリルと呼ばれる希少な鉱石から取れるものなのだと説明してくれた。

 それよりも私が驚いたのはそんな希少な鉱石から取れた金属を刀身として使用していることだった。

 なんという贅沢さだ……確かに刃の部分はとてもキレイに磨かれており本物同様の輝きを放っている。

 実に見事なものだった。

 そしてその剣の値段は50万ゴールド……めちゃめちゃ高い……。

 こんな高品質で高い素材を使用しているならこのくらいするのは納得だなと思わされるほどだった。
 
 「おいおいこの剣は凄いぞ!?」
 
 「間違いない!」
 
 エリックとリズは子供のようにはしゃぎながら叫ぶように意見している。
 
 2人がそれだけ喜んでくれるなら本当にいい武器なんだと思うのだった。
 
 レズリタも興味津々で眺めているということはかなり良い物であることが分かる。
 
 「これにします!」
 
 リズが店主に目を向け大きな声で発言する。

 なんか、突然購入が決まったな……。
 
 もう少しいろんな剣を見た方がいいんじゃ……とか考えてしまうがリズの熱い眼差しを見てしまうと何も言えないな。

 まあ本人がそれでいいと思うのであれば大丈夫なんだろうと気にしないようにし、この素晴らしい武器を購入しようとするのだった。
 
 「この剣買います!」
 
 「ありがとうございます、と言いたい所なんだけどね......」
 
 ん? と他の3人が頭にハテナを浮かべていると店主が口を開く。
 
 「その剣はタダであげるからさ、私の頼み事を聞いてくれないかい?」