「うう、やっぱりラゼルには勝てないのか……悔しいよぉ~」
私は苦笑いしながら告げる。
「私と戦ってくれてありがとう、レズリタ」
そう言うといつの間にか私の体は、涙を流すレズリタに抱き着かれていたのだった。
すると耳元で嗚咽を鳴らしながら伝えてくれる。
「ありがと、ラゼル!」
こうして私とレズリタの模擬戦が終わった。
訓練所を出ると私達はリズ達がいる宿屋に向かう。
宿屋に着き部屋の扉を開けると起きたリズとエリックに目が合う。
「あ、ラゼルとレズリタどこに行ってたの!」
リズが質問してくきたのに対し私の後ろからレズリタが口開いた。
「ちょっと~、散歩に行ってた~」
そんな返答をしているので私は意味を察した。
きっとこの2人の事だ、ずっと寝ていたのだろうし伝えないでいいだろう。
そんな事を考えていると、リズの顔がムムムッとなっていた。
するとエリックが声をかけてきた。
「まあいいじゃねえか! 散歩は体に良いって言うしよ!」
それを聞いた私とレズリタは頷く。
すると、リズが急に慌てた表情を浮かべ口を開いた。
「あ、そういえば昨日の戦果をギルドに報告しないと!」
するとすぐリズとエリックは準備を始め朝食を食べ始めるのだった。
私とレズリタはやれやれと、2人を見て思ったのであった。
そして2人は朝食を済ませた後、私達は宿屋を出てギルドに向かった。
数時間後、私達はギルドに到着していた。
中に入ると多くの冒険者の姿が見受けられたが、戦いの疲れを感じているのか皆深い眠りについている。
そんな中、私達がギルドに入っても他の冒険者達は起きる素ぶりを見せず、ただただ寝息を立てていた。
「皆疲れてるんだね」
リズはそう言いながら辺りを見渡す。
エリックも周囲の冒険者を見ながら口を開いた。
「だなー、あのとき騎士団団長が来てなかったらどうなってたか」
そんな会話をしていると受付までたどりつく事ができた。
私は前に目をやり口を開く。
「昨日仕留めたモンスターの報告ですが......」
「オークとダークパンサーを仕留めたんですよね!」
私は受付嬢の言葉を聞き目を丸くさせる。
「なんで知っているんですか!」
リズが驚きの声を上げると受付嬢は笑顔で答えてくれた。
「実は昨日ギルドに騎士団長リスト様が来まして、昨日の報告をしてくださいました」
「だから知っているんですね……」
「はい」
そんな会話を続けていく内に受付嬢は書類を作り終え、私達に渡しながら口を開く。
「これが今回の戦果でございます、ご確認ください」
私はそっと紙を開き内容を確認するとそこに乗っていた文字に目ん玉が飛び出そうになるのであった。
パーティーランクAに昇格、そして報酬金。
その文字を見たリズは口を開く。
「すごいよ2人とも~! 私達凄いことになってるよ!」
信じられないといった表情で紙を指さしているリズを見て私はすぐに口を開く。
「すご」
エリックとレズリタも同じく驚いていた。
「まじかよ!」
4人で驚いていると受付嬢がまた新しい紙を手渡してきた。
「更に凄い依頼が来ていまして、貴族からの依頼の様です」
「まじかよ!」
エリックが叫ぶ。するとリズは紙を読み始める。
するとリズが驚嘆の声をあげ、書類をこちらに向けてきた。
「伯爵からの依頼だよ!」
伯爵という言葉を聞き私は驚き声を上げる。
「お、まじか!」
「うそー!?」
私達は一斉に声を上げて驚愕する。
その声の大きさに周りで寝ていた冒険者達がゴソゴソと体を動かし始めたのを見て少し笑ってしまう私だった。
しかし、私はふと疑問を口に出す。
「なぜ貴族から依頼が来たのですか?」
「それが、騎士団長リスタ様が薦めた様で……」
あの剣士かと私が納得していると受付嬢が言葉を発した。
「依頼を受けていただけますか?」
それを聞いたリズはもちろんと言わんばかりに口を開く。
「はい、もちろん! だよね皆?」
そう返答すると、私たちはもちろん頷くのだった。
こうして私達は伯爵からの依頼を無事受注し、ギルドを出て屋敷へ向かう事になったのである。
「そういやぁ、伯爵の領地はここからどのくらいかかるんだ?」
エリックがリズに質問をしてくる。
するとリズが答えた第20話 私はアルガス・ヘスターです。
「ここからだと馬車で3日間かかるかな」
「結構遠い~」
そんな会話をしていると、やがて2頭の馬と馬車が1台立っているのが見つかった。
「こちらが皆さまのために用意した馬車です、どうぞ乗ってくださいませ」
すぐに私たちは馬車に乗り込み王都を出るのだった。
私達は今馬車に揺られ目的地に向かっている最中である。
馬車に揺られながら私はふと家族を思い出していた。
追放された身だけど、元気にしてるのかなぁ……。
そんなことを考えていると、馬車を操縦していた使用人が口を開いた。
「もうすぐ伯爵邸へ到着いたします」
前方を見ると巨大な壁が待ち受けているのだった。
私達が門の前まで来ると同時に、門番たちが大きな声で『開門!』と叫ぶと大きな音を立てながら門が開かれる。
すると使用人達が口開いた。
「皆さまお疲れ様でした、到着でございます」
そんな声を聞きながら窓の外へ目を向けるととんでもない豪邸が現れたのだ。
あまりの大きさに言葉を失っていると使用人の女性が声をかけてくれた。
「それではヘスター伯爵のいるお部屋まで案内いたします」
そう言ってくれたので、私達は頷きついていく。
荘厳な内装にぼーっと見惚れているといつの間にか部屋の扉が目の前に現れていたのだった。
そして使用人が頭を下げたのち口を開く。
「それでは何か御座いましたら付近の者にご連絡ください」
すると使用人は頭を下げて立ち去って行った。
さて、いよいよへスター伯爵と話をするのだがどんな人であろうか……。
すると扉の方から物音が聞こえて来る。
「伯爵かな?」
そんなリズの声と共に扉が重々しい音を鳴らしながらゆっくりと開く。
すると金髪で整った顔つきをもつ大人びた男が現れた。
年は50ほどであろうか……。
紫色の高貴な服に身を包んでいて、一瞬だが貴族とは思えないほどの謙虚さを感じさせる笑顔である。
そんな物腰柔らかな男が話しかけてきたのだった。
「あぁ皆さま、来て頂きありがとうございます! こんな所ではなんだし中に入ってください」
そう言うと部屋へと入れてくれたのだった。
私達は促されるままソファへと腰掛ける。
向かい合った形の配置に座った。
しばらくの沈黙の後に男が声を発する。
「改めて挨拶させてもらいますね、私はへスター伯爵アルガス・ヘスターです」
それを聞いた私もすぐに挨拶を返す。
「私はAランク冒険者のラゼルです」
そう答えると他の3人も同じ様に自己紹介をした。
それを見るなり嬉しそうに男アルガスは話かけてくる。
「あなた方の魔力は素晴らしいモノをお持ちですね」
「お褒めいただきありがとうございます!」
リズが代表して返事をするとアルガスは喋りだす。
「それで依頼なのですが、実は最近、近くの村で魔物に襲われていると聞きまして、どうやらただの魔物ではないとか」
依頼内容をおさらいすると……村に現れた魔物の討伐。
「わかりました、そのご依頼確かに受けました!」
リズは力強く答えるとアルガスは地図を取り出した。
「村までの道のりはこの地図を見てもらえればわかると思います、お願いします」
リズは地図を受け取ると軽く会釈する。私達もそれに釣られるように会釈した。
そして立ち上がり私たちは部屋から退室する。
「それじゃあ依頼頑張ろう!」
そんなリズの言葉に皆が頷き村を目指すのだった。
私たちは馬車にゆられながら進んで行く。
するとついに村が見えてきた。
地図を見てみるとどうやらこの村が依頼場所らしい。
村の周辺は少し荒廃していたがどうにか平穏は保っている様だ。
しかし、村の様子が変だった。外に人影が感じられないのである。
エリックはふと口を開く。
「静かすぎじゃねえか?」
そう言われればと思い、私も不思議に思う。
馬車は村の入り口前までたどり着くと停車する。
そしてゆっくりと扉が開いていく中、私達は素早く飛び降り周囲に目を向けた。
私が声を発そうとすると誰かが前方にある店から走り出してきたのが見える。
一瞬モンスターかと思っていたが違った。
その人はこちらに手を大きく振りながら駆けてくる……。
だが途中で足がもつれて派手に顔面から倒れ込んだ。
「大丈夫ですか……?」
私はすぐさま倒れた男性に声をかけると……。
「も、もしかして依頼を請けた方ですか?」
そう男性は鼻をさすりながら聞いてきたので、私達は首を同時に振るう。
するとその男は立ち上がり少し申し訳無さそうにしている。
「挨拶をしようと外に出たんですが……途中で転んだものですから……」
そう言うと鼻が赤いまま口を歪めて苦笑いになる。
そんな人を見てエリックは笑いだしているが無視して私は話を切り出した。
「あの、この村で何があったんですか?」
そう私が質問すると男は口を開く。
「実は最近この村で不可解な出来事が続いてまして……」
それを聞いたリズは疑問を投げつける。
「どのような事が起きてるんですか?」
すると男が静かな声で答えた。
「それが......夜になると魔物が村周辺を徘徊するんですよ」
村を徘徊......周りになにか結界のようなものでもあるのかな?と思い私は尋ねる。
「村の周り一帯になにか結界かなんかが張ってありますか?」
「はい、村の周りは伯爵様の防御魔法で囲んでいるようです」
と言うとエリックが頭を掻きながら答えた。
「んじゃあ、その結界の状態はどうなってんだ?」
すると男は目線を少しそらしながら答える。
「それが結界がどうやら弱まっている様で、もしよかったら見て頂けませんか……?」
男は怯えと不安が入り混じった声で伝えて来たので私たちもそれに同意を示す。
「もちろんです! 今すぐ向かいましょう!」
私達は男性に案内をしてもらった。
「さあ、着きました……ここです」
そう言われて見えたのは何の変哲もない結界だった。特に荒らされているわけでもない。
「この結界少し触っていい?」
レズリタがそういうと男性が首を縦に振る。
するとレズリタは手のひらを結界にかざして目を大きく開けた。
「これは......」
レズリタは口元に手を添えて思考に耽っている。私は疑問を問いかけた。
「何が起きてるの?」
そんな問いかけにレズリタが口を開いた。
「もうこの結界は持ちそうにないね……」
「おいおいまじかよ」
エリックが驚いていると男は口を開く。
「今の所何とか難を凌いでおりますが、いつ魔物に襲われるか分からない状態に不安要素が増え続けてまして……」
だから村の人達は家に籠もってるのかと私は納得する。
するとエリックが口を開いた。
「その魔物たちはどこから来てるんだ?」
その問いに男は即答する。
「それが......森の奥から来ていることしか分からないんです」
森の奥と聞いて私の背筋に寒気が走る。
森の奥には虫が多いから最悪だ。
そんな私にも気づかずに皆話し続けて行くのだった。
「どのような魔物たちなのですか?」
「はい、私が見たのはウルフのような獣でした。ですが他にも魔物が押し寄せてきているようなんです」
ウルフは狼のような魔物。
数が集まれば大きな戦力になるし、俊敏な動きも相まって並大抵の冒険者では討伐が難しい。
しかも森での戦いで一番厄介な種類である。
そんなことを考えているとリズが口を開く。
「それじゃあまずは魔物の原因を探りに行くしかないね」
「了解~」
「おう!」
3人とも了承しているようだが私は全く乗り気ではない。
本当に虫は嫌いなのだ。
でも伯爵の依頼だから仕方ないか……。
そんなことを考えていると男が1つ提案をしてくる。
「そういえば村の皆さんに会って貰えませんか……?」
3人は笑顔で同時に口を開いた。
「もちろんです!」
3人が行きたいのなら私も行きたいけどやっぱり虫多いんだろうな……。
そんな事を考えながら私達は村の人々に会いにいく。
村の中心部に近づいていくと皆家に籠もり警戒しているのが遠くからでも分かるほどだった。
「みんなー! 冒険者が依頼を受けて村まで来てくれたよー!」
男が声を発すると村人達がゾロゾロと家の中から出てきて近づいてくる。
「おぉ……よく来てくださいました」
「こんなに早く来てくれるとは......」
そんな声が聞こえてきた。
すると一人の女の子が駆け足で私の所に来る。
「本当に魔物を倒してくれるの!?」
「うん、約束するよ」
私はその女の子の頭を撫でてあげると先ほどの暗い顔から笑顔になる。
それから私とエリック、リズにレズリタの4人が周囲の人たちの感謝の言葉を浴びるなか村長の元へ案内される。
「遠いところ来ていただいたのに気づかず……本当にすみません、ささっ上がってくだされ」
そう言うと家へと促されたため私達はその家にお邪魔し奥へと進んでいく。
「どうぞこちらにお座りください」
誘導されるがままに椅子に腰かけると村長が口を開く。
「魔物たちが毎日押し寄せて来て私たちも生きた心地がしなかったです」
そりゃそうだ、森はモンスターが多くいる恐ろしい場所でもある。
「今日私たちが魔物が出る原因を確かめてきます。必ず討伐いたしますのでどうかご安心ください」
私がそう言うと村長は目から涙を流す。
「そう言って頂けるだけでありがたいです......もう本当に怖くて、ダメかと……」
よほどの恐怖が襲ってきていたのであろう。
しかし、なぜ何もしてないのに急に魔物が来るようになったのか……これが不思議でしょうがない。
そんな考えに耽っていると村長が声をかけてくる。
「今日はお疲れでしょうから一旦村でゆっくり休んでいってください。」
村長からそう言われ、私たちは村の宿で過ごした。
そして数時間が立ち、日が沈んでいく。
そろそろ行くか……。私は重たい体を起こし家から出た。
すると、宿の外では村人が待ち構えてこちらに話しかけてくる。
「夜になってきました……お気をつけていってください……」
私はそんな声を聞きながら笑顔で伝える。
「ありがとうございます、必ず魔物を倒してきます」
そんな返事を受け他の3人が続いて口を開いた。
「必ず討伐します!」
すると先ほどまで暗い表情をした村人たちは一斉に笑顔になってくれる。
そうして私たちは魔物達が出現するとされる森へと出発したのだった。
「すごい暗くて怖いよ~」
レズリタがそう言いながら先頭を歩くリズに飛びつく。
確かにこんなに暗いと虫とかたくさんいるだろうな……。
などと考えながらも前へと進み続けていく。
やがて少し拓けた場所へ出て一息ついていると辺りからは魔物の鳴き声や足音などが聞こえてくるようになった。
「くるよ、みんな気をつけて」
リズがそう言うと前方からウルフが集団で襲いかかってくる。
「フレイム!」
レズリタは自分に飛びかかった魔物を炎で焼き払う。
リズも同様に自身にとびかかってきたウルフを一閃する。
そしてエリックが大剣を振るうと魔物が切り裂かれていくのが見えた。
私も《ポイズン》で援護して、全ての魔物が倒された所で一息つく。
「まだまだ先に魔物がいるのかな?」
リズがそう言うとレズリタも続く。
「森の奥へ行くしか方法はないみたいだね~」
そして私たちは森の奥に進んでいく。
少し歩くとなにやら妙な足跡を見つける。
「ここなんか足跡がたくさんない?」
私がそう言い、エリックも口を開いた。
「そうだな、こりゃ奥にはウルフとかがたくさんいやがるんだろ」
警戒しながら先へ進んでいくと少し開けた所にでた。
するとそこにはウルフが集団で固まっていのだ。
「うわぁ……すごい数だよこれ……」
レズリタは怯えた様子でウルフを見ている。
するとエリックが私に話しかけてくる。
「おい、ウルフの奥になんか見えねぇか?」
そう言われて奥を見ると人影が見える。
「誰かいるね……」
すると人影が私たちの方へ近づいてくる。
「まさか気づかれた!? みんな気をつけて!」
リズがそう言うと私たちは戦闘態勢を取る。
「なんだい君たち? コソコソと隠れて」
思ったより若々しい声が聞こえる。
するとウルフが私たちの存在に気づき襲いかかってくる。
「おいおい! 魔物が俺らを見て一直線に突っ込んできやがる!」
エリックはそう言うと私たちは武器を構えて一歩前に踏み出す。
「ギガントブレイク!」
エリックが叫びとともに大剣を横に薙ぐと魔物たちが跳ね飛ばされていく。
すると銀髪の青年が前に出る。
見た目は凡庸な見た目の青年で細身の体つきである。
「君らさあ何がしたいの? いきなり野生のウルフを斬りかかりにくるとか、君らの価値観はどうなってるの?」
そんな事を聞きながらエリックは青年を睨みつけながら口を開く。
「お前はこのウルフのリーダーか? 答えてもらうぞ?」
エリックが問うと青年は溜息をついた後口を開く。
「僕かい? 僕はこのウルフたちの群れを率いてるのさ。 ただまあ、いわゆる指揮官っていう立ち位置ではあるかな?」
それに対しエリックは私に目を向けた。
私は首を縦にふる。
そしてエリックは言った。
「俺らはその魔物の異常な出現の原因を探りに来たんだ」
すると銀髪の青年が不機嫌そうに返答する。
「だからって僕のウルフを切ることはないだろう? 君たちってさあ……自分の立場弁えてる?」
それを言うと青年の後ろにはウルフの集団が姿を現しこちらを見据えた。
「仕方ないでしょ! そのウルフたちが村を困らせてるんだから!」
リズは戦闘態勢を取ったまま銀髪の青年に問いかける。
「君たちってさあ失礼だよね? 僕だって傷つくんだよ?」
エリックはため息を吐き口を開く。
「お前は何者なんだ」
エリックが質問を投げかけると青年は目を大きく見開いた後に嬉しそうに答えた。
「僕は龍神教の白龍を崇めし権利者、ヨルフ・シルキーだ」
私たちの背筋が凍るのを感じる。
白龍、その伝説に出てきた名前が出るとは何事だ。
白龍は神聖な存在としているのに何をほざいているんだ?
そう思っているとリズの体が震えていることに気づく。
「リズ、どうしたの?」
私が聞くと震えた声で言う。
「なんで……ここに龍神教がいるの……」
龍神教という言葉に私は馴染みがない。
するとレズリタが小声で教えてくれる。
「龍神教は龍を信仰し、各地で犯罪行為を起こしてる奴らさ……各国から危険視されている集団だよ」
龍神教......聞けば聞くほど恐しい奴らだ。
するとエリックがにヨルフ向けて大声をあげる。
「お前らの目的はなんだ!」
すると青年は不機嫌になり首を捻る。
「君たちさぁ? さっきから僕に対しての礼儀が足りていないんじゃないの? まあ僕は寛大な心を持ってるから? 教えてあげてもいいけど」
傲慢な口調にいらつきつつ私はヨルフを睨みつける。
「僕の目的は平和な世界を作る事だよ。白龍はそれを望んでいるからね、君らも僕の素晴らしさに感謝するべきじゃないかな?」
そう言った後ヨルフの顔からは狂気的な笑いが止まらない。
その言葉を聞いたエリックは飛び出し大剣をヨルフに振り下ろす。
しかしヨルフは剣を避けた。
いや避けたんじゃない、当たっていなかったのだ。
「どういうことだ!?」
エリックが驚愕しながら後ずさる。
「君ら弱すぎないかい? よく冒険者なんてやっているなあ?」
私は何がどうなっているのかわからなかった。
するとリズが剣を握りしめ前に踏み出す。
「許せないよ……」
そしてリズは瞬間移動するかのようにヨルフに突進し突きを放つ。
しかしそれでも当たらない。
「だから何度言ったら分かるんだ? それとも理解が出来ないのかい?」
エリックも大剣を振り下ろそうとするが剣は空を切ってしまう。
リズは何度繰り返してもヨルフに剣を突き刺せていない。
「この! なんで!? なんで当たらないの!?」
まるで瞬間移動でもしているかのようだ。
だけどこのままじゃ2人の体力がいつまで持つかわからない。
「レズリタ、私と魔法を合わせて」
私が指示を出すとレズリタは呪文を唱え、私は手を挙げスキルを発動する。
《ブリザード》
「ボルト!」
2つの魔法は重なり混ざり合い、電撃と共に氷の塊がヨルフに向かって突き進む。
しかし、その攻撃をヨルフはいともたやすくかわす。
「次は僕の番でいいかな? 時間は有限だしさ?」
そう言うとヨルフはエリックとリズの後ろへと回った。
それに気づいていない2人はヨルフが突然消えたことに困惑する。
「なっ……!!」
「えっ……!」
その瞬間、2人がヨルフの攻撃で吹き飛ばされる。
ヨルフは今攻撃をしたのだ……。
多分瞬間的にしているのだろう。
そうじゃなきゃおかしい。
「どうやって後ろに回ったんだ……?」
エリックとリズが腹部を抑えながら立ち上がる。
するとヨルフが笑顔で答えた。
「普通に走って後ろに回っただけさ」
ありえない速度で移動した後エリックとリズの背後をとったと言う事なのだろうか……。
おそらくこいつの能力は素早さに関連する能力なのだろう。
でもあんなに速い攻撃見たことがない。
「君らそんなに弱くてどうやって冒険者やってるの? それとも冒険者というのは名前だけなのかな?」
そう言いながらヨルフは私とレズリタに向けて問いかけてきた。
レズリタはその言葉を聞き、イラついた表情でヨルフを睨みつけ魔法を詠唱する。