さすが王国一の王国騎士団である……先ほどまでいた魔物が一瞬で死体と化している。
そう傍観していると2人の冒険者が私の近くに寄ってくる。
「ラゼル、リズ大丈夫!?」
私のもとに駆け寄ってきたのはレズリタとエリックの2人だ。
「エリックにレズリタ!?」
私が声をあげるとレズリタは事情を聞いてきたので私はこれまでの経緯を説明した。
するとレズリタたちは驚きの顔をしたまま、口を開く。
「信じられないけど……あのオークの数にダークパンサー……」
そして続けてエリックも口を開いた。
「す、すげえよ2人とも」
そう言うと私の担っているリズを見る。
「傷を治癒してくれてるみたいだけど……顔色も良くなってるみたいだし大丈夫そうだね」
レズリタは安心している様子だったので、私はふと疑問に思ったことを聞いてみる。
「そういえばレズリタとエリックは右翼でどんな感じだったの?」
私がそう言うと2人は恥ずかしげに答えてくれた。
「私達もオークとかは倒してたんだけど右翼は予想以上に魔物が多くてね……私の魔力が底を尽きた時には囲まれちゃって......」
そうするとレズリタはエリックの手を見つめる。
視線の先には擦り傷だらけの手があり、それを見たレズリタは申し訳なさそうな顔をして口を開いた。
「エリックごめん、私の魔力が尽きちゃったから......」
そう言われてエリックは頭を書きながら答える。
「魔力に限界があるのは仕方ないことだからさ! 大丈夫!」
温かい言葉をかけるエリックにレズリタは照れつつ顔を伏せたのだった。
するとリズが目を開けたので私は声をかける。
「リズ、大丈夫?」
その言葉にリズはハッと目を見開きキョロキョロと辺りを見回す。
リズはラゼルの背中の上なのに気付き顔を真っ赤にしながら私から離れた。
そして口を震わせながら、もごもごと小さな声で話し始める。
「ありがとう……ラゼル」
「いいの、気にしないで」
私は微笑みながらそう返答をする。
そんな会話をしていると後ろから聞きなれた男の声が聞こえてくる。
振り向くとリスタがいたのだった。
そして言葉を発する。
「とりあえず無事だったようだな」
その言葉を聞きエリック達は驚きを声で表した。
「り、リスタ騎士団長!?」
それには流石に私も驚きエリック達と同じような反応になってしまう。
そこでリスタは私に向けて口を開く。
「君達に伝えたい事があってここへ来たんだ。今回の魔物達の群れなんだが、人為的に起こされた可能性が高くてな......」
その言葉を聞き私を除いた3人は驚きの顔を示す。
「人為的ってそんなこと出来るの……?」
レズリタがそう呟くとリスタは続けて口を開く。
「平たく言えば龍の力をものにした人間の仕業という事だ」
その言葉を聞き3人は顔をさらにこわばらせた。
私はあの少女と散々会話していたため、3人よりも動揺は少なかった。
するとレズリタが疑問の声をあげる。
「人間は龍力を取り込めないはずじゃ?」
リスタは顎に手を当てると、『いや』と呟きながら言葉を発する。
「私も龍力について詳しいことは分からないが、風の噂だと龍力を取り込むことで体が適応できず精神が崩壊する可能性があると言われている。」
その話にリズが不安そうな顔をする。
それを見たリスタが続ける。
「そして今回、私とラゼルが見た少女も恐らく適応しなかった人間の部類だと思われる。魔物を統率したのはきっとその少女だ」
私もやはりそうなのだと確証を得られた。リズは不安げな表情を浮かべながらリスタに向けて口を開く。
「リスタさん……その少女はまた襲ってくると思いますか……?」
リズは不安になりながらもそう言葉にすると、リスタはいつもと同様に口を開く。
「私はそう思って行動していくつもりだ」
リスタのその強い言葉に私達は固唾が喉を通る感覚を覚える。
こうして会話が終わろうとしていた時、騎士団がリスタに駆けつけてくるのが見て取れた。
「リスタ騎士団長、そろそろ王都に戻りましょう」
騎士団がそういうとリスタは頷き騎士団長らしい言葉を発した。
「王都に帰還するぞ」
すると周りにいた騎士、冒険者達は歓声を上げリスタ騎士団長に着いていく。
こうして魔物の大襲撃事件は終わりを告げた。
「はぁーやっと着いた!」
レズリタが疲れた声をあげながら口を開いた。
私達は馬車から降り、ようやく王都の中に入ることができ安心する。
するとリズが口を開けた。
「皆疲れたと思うし、宿屋で体を労ろう!」
それを聞いて私含めた3人が頷く。
そう、さすがに今日は色々ありすぎたので疲れた……。
今はとりあえず体を休めるのが大切だ。
そうして私達は宿屋に向かったのだった。
「私はもう魔力が全然残ってないよ……」
そう言ってレズリタがベッドにもたれ掛かるとすぐに目を閉じ寝始めてしまった。
エリックも久しぶりに動いたため疲れたらしく、すぐ部屋に行き寝てしまった。
そんな2人を見ていたリズはクスッと笑うと口を開いた。
「ラゼル先にお風呂入っちゃっていいよ!」
「ありがとう」
そう言うとリズはバスタオルを取り出し渡してくれたのでお風呂場へと向かったのだった。
お風呂から出た後は特に何もせずリズとご飯を食べ、私は先に部屋に向かう。
「……なにこれ?」
そうして私の目の前のベッドには抱き枕を抱きしめながら眠るレズリタとエリックの2人がいたのだった。
2人とも無防備なまま眠っている。
今日は頑張ったので無理もないだろう。
私はその光景を見て頬が緩む。
するとリズの声と足音がした。
「どうしたの……あはっ」
2人を見つけるとリズも笑い出してしまうのだった。
「2人とも疲れちゃったんだね……、そーっと寝かせてあげようか」
「そうだね」
そうして私達は明日に備えて早々に寝るのであった。
次の日の朝。
窓から差し込んだ光で私は目が覚める。
こんな朝早くに目が覚めるのは珍しなーと思いながら私は隣のベッドで寝ているリズの方を見ると幸せそうな顔をしていて安心する。
その隣を見るとエリックが居てレズリタが......いない。
どこにいるのかと私は周りをキョロキョロとしていると扉に人影が見えたのだった。
「ふぁ~ラゼルおはよう」
扉を開けたのは眠たそうな目をしているレズリタだった。
私よりも5分前に目が覚めたみたいで眠たそうな顔を浮かべていた。
「おはよう、レズリタ」
私はレズリタに挨拶を済ませると、軽く準備をし、レズリタと1階に向かうのだった。
1階は食堂となっており、朝食がとれるようになっていたので私達は席についた。
朝は少し肌寒かったので私は朝ごはんのミルクを注文する。
そして運ばれてきたミルクを私は喉に流し込む。
椅子の背もたれによりかかってのんびりしているとレズリタが食べながら私に声をかけてきた。
「ねぇラゼル……朝ごはん食べ終わったらさ、ちょっと話があるんだけどいいかな」
「話……?まぁいいよ」
こうして私達はご飯を食べ、外に出る。
ちなみにリズとエリックは疲れているようだったのでまだ寝かせている。
そうしてレズリタと歩きながら空を見てボーッとしていると、レズリタが話しかけてきた。
「ねぇラゼル……」
「何?レズリタ」
私は空を見ながら答えると、レズリタは再度口を開いた。
「えっと……その……な」
「どうしたの?何かあったの?」
そこで少し沈黙になったと思ったら言葉を口にしてくれた。
「私と魔法で対決してほしいんだ……!」
その言葉を聞いて私は不思議そうに問いかける。
「どうして?」
そうするとレズリタは更に言葉を発した。
「私もっと魔法を……強くなりたいんだ……!」
その言葉を聞いて私はなんとなく理由を理解することができた。
真面目な顔をしてレズリタは言ってくるので、私は迷う事なく返答する。
「いいよ」
「ありがとうラゼル!」
そう喜ぶレズリタを見て私は自然と笑みがこぼれる。
「それじゃあ近くにある訓練所でやろ~」
「わかった」
そうして私たちは訓練所へと向かい歩いていくのであった。
数十分ほど歩くと訓練所に着くことができ、受付を済ませ模擬戦を行う事にした。
お互いある程度の距離を取り向き合い、顔を見合う。
「準備は良い? ラゼル」
「こっちはOKだよ、レズリタ」
2人が準備できた事を確認すると審判役の女性が合図をする。
「これよりラゼル対レズリタの魔法対決を行います」
私とレズリタは魔力を解放し戦闘態勢に入るのだった。そして審判が口を再び開く。
「始め!」
その言葉と同時にレズリタは片手を上げると、雷が集まりはじめやがてレズリタの周りを包み雷が腕を伝っていく。
そして片方の手に集められた雷撃を私の前に向けつつ口を開いた。
「〈ボルト〉」
その詠唱とともに腕に集まった雷撃が瞬時に私のもとへと襲いかかってくる。
それに対して私も魔法を発動する。
《コピー》
私の魔法を見てレズリタは驚きの声をあげた。
「えっ!?」
〈ボルト〉は私の目の前でピシャリと音を立てて消失するのだった。
その様子を見た審判が驚愕の声を上げる。
「な、なんですかその魔法は!? 見たことも聞いたこともありません!」
そんな事を言って私に顔を向けてくるので私は首を振り知らないと答えた。
私はこの《コピー》の使い方が分かってきた気がする。
最初はあんまり分からなかったけど、少し使うたびに理解できていく感覚がとても楽しい。
この《コピー》は相手の能力を一時的に消すことが出来るからかなり強い……と勝手に思ったりした。
するとレズリタが口を開く。
「流石ラゼルだね……じゃあ次の魔法いくよっ〈フレイム〉!」
レズリタの前には炎の柱が出現し私の事を燃やさんと襲いかかってくる。
そこで私は人差し指を前に突きだすと一言。
「《ブリザード》」
私の手から発せられた白い靄が炎をかき消す。
そして炎柱は私の氷によってカチンカチンに凍らされてしまった。
私は驚きのあまり声を上げているレズリタをみて勝ちを確信したのだった。
「なっ!?」
「レズリタ、次は私の番だよ……!」
私は手をレズリタに向けてスキルを発動する。
《ポイズン》
そんな詠唱と共に毒の液体がレズリタを襲わんと向かっていく。
レズリタはそれを瞬時に避けるが、私はそれを見越してさらに追い打ちをかける。
「〈ブリザード〉」
冷気がレズリタを襲い、足と地面が凍って行く。
するとレズリタが瞬時に反応し、口を大きく開ける。
「《ファイア》!」
唱えた直後、レズリタの周りに火炎が発生し、やがて氷を打ち砕き追い打ちを防ぐのだった。
そして私に向け炎弾を発射してくる。
「まだ負けてないよ!」
そう言うと同時に炎弾は私のもとに飛んでくる。
私はその様子をみても落ち着き、《ブリザード》を使用するのだった。
そして飛んできた炎弾は消え、相殺される事となる。
「そんなのってあり!?」
レズリタは驚くと言葉を発するが、私は追撃の手を休める事はない。
《ポイズン》 そう唱えると私の手のひらから放たれた毒の液体がレズリタに迫る。
しかし今回は反応できず、もろにくらってしまうのであった。
そしてレズリタは力尽きて地面に倒れる。
「そこまで!」
審判の声と共に戦闘は終了し、私はレズリタのもとに向かう。
「大丈夫? レズリタ」
声をかけると、目をそっと開けたレズリタは悲しい声を発すのだった。
「うう、やっぱりラゼルには勝てないのか……悔しいよぉ~」
私は苦笑いしながら告げる。
「私と戦ってくれてありがとう、レズリタ」
そう言うといつの間にか私の体は、涙を流すレズリタに抱き着かれていたのだった。
すると耳元で嗚咽を鳴らしながら伝えてくれる。
「ありがと、ラゼル!」
こうして私とレズリタの模擬戦が終わった。
訓練所を出ると私達はリズ達がいる宿屋に向かう。
宿屋に着き部屋の扉を開けると起きたリズとエリックに目が合う。
「あ、ラゼルとレズリタどこに行ってたの!」
リズが質問してくきたのに対し私の後ろからレズリタが口開いた。
「ちょっと~、散歩に行ってた~」
そんな返答をしているので私は意味を察した。
きっとこの2人の事だ、ずっと寝ていたのだろうし伝えないでいいだろう。
そんな事を考えていると、リズの顔がムムムッとなっていた。
するとエリックが声をかけてきた。
「まあいいじゃねえか! 散歩は体に良いって言うしよ!」
それを聞いた私とレズリタは頷く。
すると、リズが急に慌てた表情を浮かべ口を開いた。
「あ、そういえば昨日の戦果をギルドに報告しないと!」
するとすぐリズとエリックは準備を始め朝食を食べ始めるのだった。
私とレズリタはやれやれと、2人を見て思ったのであった。
そして2人は朝食を済ませた後、私達は宿屋を出てギルドに向かった。
数時間後、私達はギルドに到着していた。
中に入ると多くの冒険者の姿が見受けられたが、戦いの疲れを感じているのか皆深い眠りについている。
そんな中、私達がギルドに入っても他の冒険者達は起きる素ぶりを見せず、ただただ寝息を立てていた。
「皆疲れてるんだね」
リズはそう言いながら辺りを見渡す。
エリックも周囲の冒険者を見ながら口を開いた。
「だなー、あのとき騎士団団長が来てなかったらどうなってたか」
そんな会話をしていると受付までたどりつく事ができた。
私は前に目をやり口を開く。
「昨日仕留めたモンスターの報告ですが......」
「オークとダークパンサーを仕留めたんですよね!」
私は受付嬢の言葉を聞き目を丸くさせる。
「なんで知っているんですか!」
リズが驚きの声を上げると受付嬢は笑顔で答えてくれた。
「実は昨日ギルドに騎士団長リスト様が来まして、昨日の報告をしてくださいました」
「だから知っているんですね……」
「はい」
そんな会話を続けていく内に受付嬢は書類を作り終え、私達に渡しながら口を開く。
「これが今回の戦果でございます、ご確認ください」
私はそっと紙を開き内容を確認するとそこに乗っていた文字に目ん玉が飛び出そうになるのであった。
パーティーランクAに昇格、そして報酬金。
その文字を見たリズは口を開く。
「すごいよ2人とも~! 私達凄いことになってるよ!」
信じられないといった表情で紙を指さしているリズを見て私はすぐに口を開く。
「すご」
エリックとレズリタも同じく驚いていた。
「まじかよ!」
4人で驚いていると受付嬢がまた新しい紙を手渡してきた。
「更に凄い依頼が来ていまして、貴族からの依頼の様です」
「まじかよ!」
エリックが叫ぶ。するとリズは紙を読み始める。
するとリズが驚嘆の声をあげ、書類をこちらに向けてきた。
「伯爵からの依頼だよ!」
伯爵という言葉を聞き私は驚き声を上げる。
「お、まじか!」
「うそー!?」
私達は一斉に声を上げて驚愕する。
その声の大きさに周りで寝ていた冒険者達がゴソゴソと体を動かし始めたのを見て少し笑ってしまう私だった。
しかし、私はふと疑問を口に出す。
「なぜ貴族から依頼が来たのですか?」
「それが、騎士団長リスタ様が薦めた様で……」
あの剣士かと私が納得していると受付嬢が言葉を発した。
「依頼を受けていただけますか?」
それを聞いたリズはもちろんと言わんばかりに口を開く。
「はい、もちろん! だよね皆?」
そう返答すると、私たちはもちろん頷くのだった。
こうして私達は伯爵からの依頼を無事受注し、ギルドを出て屋敷へ向かう事になったのである。
「そういやぁ、伯爵の領地はここからどのくらいかかるんだ?」
エリックがリズに質問をしてくる。
するとリズが答えた第20話 私はアルガス・ヘスターです。
「ここからだと馬車で3日間かかるかな」
「結構遠い~」
そんな会話をしていると、やがて2頭の馬と馬車が1台立っているのが見つかった。
「こちらが皆さまのために用意した馬車です、どうぞ乗ってくださいませ」
すぐに私たちは馬車に乗り込み王都を出るのだった。
私達は今馬車に揺られ目的地に向かっている最中である。
馬車に揺られながら私はふと家族を思い出していた。
追放された身だけど、元気にしてるのかなぁ……。
そんなことを考えていると、馬車を操縦していた使用人が口を開いた。
「もうすぐ伯爵邸へ到着いたします」
前方を見ると巨大な壁が待ち受けているのだった。
私達が門の前まで来ると同時に、門番たちが大きな声で『開門!』と叫ぶと大きな音を立てながら門が開かれる。
すると使用人達が口開いた。
「皆さまお疲れ様でした、到着でございます」
そんな声を聞きながら窓の外へ目を向けるととんでもない豪邸が現れたのだ。
あまりの大きさに言葉を失っていると使用人の女性が声をかけてくれた。
「それではヘスター伯爵のいるお部屋まで案内いたします」
そう言ってくれたので、私達は頷きついていく。
荘厳な内装にぼーっと見惚れているといつの間にか部屋の扉が目の前に現れていたのだった。
そして使用人が頭を下げたのち口を開く。
「それでは何か御座いましたら付近の者にご連絡ください」
すると使用人は頭を下げて立ち去って行った。
さて、いよいよへスター伯爵と話をするのだがどんな人であろうか……。
すると扉の方から物音が聞こえて来る。
「伯爵かな?」
そんなリズの声と共に扉が重々しい音を鳴らしながらゆっくりと開く。
すると金髪で整った顔つきをもつ大人びた男が現れた。
年は50ほどであろうか……。
紫色の高貴な服に身を包んでいて、一瞬だが貴族とは思えないほどの謙虚さを感じさせる笑顔である。
そんな物腰柔らかな男が話しかけてきたのだった。
「あぁ皆さま、来て頂きありがとうございます! こんな所ではなんだし中に入ってください」
そう言うと部屋へと入れてくれたのだった。
私達は促されるままソファへと腰掛ける。
向かい合った形の配置に座った。
しばらくの沈黙の後に男が声を発する。
「改めて挨拶させてもらいますね、私はへスター伯爵アルガス・ヘスターです」
それを聞いた私もすぐに挨拶を返す。
「私はAランク冒険者のラゼルです」
そう答えると他の3人も同じ様に自己紹介をした。
それを見るなり嬉しそうに男アルガスは話かけてくる。
「あなた方の魔力は素晴らしいモノをお持ちですね」
「お褒めいただきありがとうございます!」
リズが代表して返事をするとアルガスは喋りだす。
「それで依頼なのですが、実は最近、近くの村で魔物に襲われていると聞きまして、どうやらただの魔物ではないとか」
依頼内容をおさらいすると……村に現れた魔物の討伐。
「わかりました、そのご依頼確かに受けました!」
リズは力強く答えるとアルガスは地図を取り出した。
「村までの道のりはこの地図を見てもらえればわかると思います、お願いします」
リズは地図を受け取ると軽く会釈する。私達もそれに釣られるように会釈した。
そして立ち上がり私たちは部屋から退室する。
「それじゃあ依頼頑張ろう!」
そんなリズの言葉に皆が頷き村を目指すのだった。
私たちは馬車にゆられながら進んで行く。
するとついに村が見えてきた。
地図を見てみるとどうやらこの村が依頼場所らしい。
村の周辺は少し荒廃していたがどうにか平穏は保っている様だ。
しかし、村の様子が変だった。外に人影が感じられないのである。
エリックはふと口を開く。
「静かすぎじゃねえか?」
そう言われればと思い、私も不思議に思う。
馬車は村の入り口前までたどり着くと停車する。
そしてゆっくりと扉が開いていく中、私達は素早く飛び降り周囲に目を向けた。
私が声を発そうとすると誰かが前方にある店から走り出してきたのが見える。
一瞬モンスターかと思っていたが違った。
その人はこちらに手を大きく振りながら駆けてくる……。
だが途中で足がもつれて派手に顔面から倒れ込んだ。
「大丈夫ですか……?」
私はすぐさま倒れた男性に声をかけると……。
「も、もしかして依頼を請けた方ですか?」
そう男性は鼻をさすりながら聞いてきたので、私達は首を同時に振るう。
するとその男は立ち上がり少し申し訳無さそうにしている。
「挨拶をしようと外に出たんですが……途中で転んだものですから……」
そう言うと鼻が赤いまま口を歪めて苦笑いになる。
そんな人を見てエリックは笑いだしているが無視して私は話を切り出した。
「あの、この村で何があったんですか?」
そう私が質問すると男は口を開く。
「実は最近この村で不可解な出来事が続いてまして……」
それを聞いたリズは疑問を投げつける。
「どのような事が起きてるんですか?」
すると男が静かな声で答えた。
「それが......夜になると魔物が村周辺を徘徊するんですよ」
村を徘徊......周りになにか結界のようなものでもあるのかな?と思い私は尋ねる。
「村の周り一帯になにか結界かなんかが張ってありますか?」
「はい、村の周りは伯爵様の防御魔法で囲んでいるようです」
と言うとエリックが頭を掻きながら答えた。
「んじゃあ、その結界の状態はどうなってんだ?」
すると男は目線を少しそらしながら答える。
「それが結界がどうやら弱まっている様で、もしよかったら見て頂けませんか……?」
男は怯えと不安が入り混じった声で伝えて来たので私たちもそれに同意を示す。
「もちろんです! 今すぐ向かいましょう!」
私達は男性に案内をしてもらった。
「さあ、着きました……ここです」
そう言われて見えたのは何の変哲もない結界だった。特に荒らされているわけでもない。
「この結界少し触っていい?」
レズリタがそういうと男性が首を縦に振る。
するとレズリタは手のひらを結界にかざして目を大きく開けた。
「これは......」
レズリタは口元に手を添えて思考に耽っている。私は疑問を問いかけた。
「何が起きてるの?」
そんな問いかけにレズリタが口を開いた。
「もうこの結界は持ちそうにないね……」
「おいおいまじかよ」
エリックが驚いていると男は口を開く。
「今の所何とか難を凌いでおりますが、いつ魔物に襲われるか分からない状態に不安要素が増え続けてまして……」
だから村の人達は家に籠もってるのかと私は納得する。
するとエリックが口を開いた。
「その魔物たちはどこから来てるんだ?」
その問いに男は即答する。
「それが......森の奥から来ていることしか分からないんです」
森の奥と聞いて私の背筋に寒気が走る。
森の奥には虫が多いから最悪だ。
そんな私にも気づかずに皆話し続けて行くのだった。
「どのような魔物たちなのですか?」
「はい、私が見たのはウルフのような獣でした。ですが他にも魔物が押し寄せてきているようなんです」
ウルフは狼のような魔物。
数が集まれば大きな戦力になるし、俊敏な動きも相まって並大抵の冒険者では討伐が難しい。
しかも森での戦いで一番厄介な種類である。
そんなことを考えているとリズが口を開く。
「それじゃあまずは魔物の原因を探りに行くしかないね」
「了解~」
「おう!」
3人とも了承しているようだが私は全く乗り気ではない。
本当に虫は嫌いなのだ。
でも伯爵の依頼だから仕方ないか……。
そんなことを考えていると男が1つ提案をしてくる。
「そういえば村の皆さんに会って貰えませんか……?」
3人は笑顔で同時に口を開いた。
「もちろんです!」
3人が行きたいのなら私も行きたいけどやっぱり虫多いんだろうな……。
そんな事を考えながら私達は村の人々に会いにいく。
村の中心部に近づいていくと皆家に籠もり警戒しているのが遠くからでも分かるほどだった。
「みんなー! 冒険者が依頼を受けて村まで来てくれたよー!」
男が声を発すると村人達がゾロゾロと家の中から出てきて近づいてくる。
「おぉ……よく来てくださいました」
「こんなに早く来てくれるとは......」
そんな声が聞こえてきた。
すると一人の女の子が駆け足で私の所に来る。
「本当に魔物を倒してくれるの!?」
「うん、約束するよ」
私はその女の子の頭を撫でてあげると先ほどの暗い顔から笑顔になる。
それから私とエリック、リズにレズリタの4人が周囲の人たちの感謝の言葉を浴びるなか村長の元へ案内される。
「遠いところ来ていただいたのに気づかず……本当にすみません、ささっ上がってくだされ」
そう言うと家へと促されたため私達はその家にお邪魔し奥へと進んでいく。
「どうぞこちらにお座りください」
誘導されるがままに椅子に腰かけると村長が口を開く。
「魔物たちが毎日押し寄せて来て私たちも生きた心地がしなかったです」
そりゃそうだ、森はモンスターが多くいる恐ろしい場所でもある。
「今日私たちが魔物が出る原因を確かめてきます。必ず討伐いたしますのでどうかご安心ください」
私がそう言うと村長は目から涙を流す。
「そう言って頂けるだけでありがたいです......もう本当に怖くて、ダメかと……」
よほどの恐怖が襲ってきていたのであろう。
しかし、なぜ何もしてないのに急に魔物が来るようになったのか……これが不思議でしょうがない。
そんな考えに耽っていると村長が声をかけてくる。
「今日はお疲れでしょうから一旦村でゆっくり休んでいってください。」
村長からそう言われ、私たちは村の宿で過ごした。
そして数時間が立ち、日が沈んでいく。
そろそろ行くか……。私は重たい体を起こし家から出た。
すると、宿の外では村人が待ち構えてこちらに話しかけてくる。
「夜になってきました……お気をつけていってください……」
私はそんな声を聞きながら笑顔で伝える。
「ありがとうございます、必ず魔物を倒してきます」
そんな返事を受け他の3人が続いて口を開いた。
「必ず討伐します!」
すると先ほどまで暗い表情をした村人たちは一斉に笑顔になってくれる。
そうして私たちは魔物達が出現するとされる森へと出発したのだった。