ファルサーが見せた "頼りにならない地図" で見当をつけ、ドラゴンの棲む場所に繋がる廃坑の入り口を目指して二人は進んだ。
 しかしアテにならない地図は、その名の通り不備が多く、廃坑の入り口らしき場所に行っても完全に潰れて入れなかったり、廃坑とは無関係な獣の住処であったりと、無駄足に終わることが度々続いた。
 前を行くファルサーの背中を眺めながら、アークはぼんやりと、先ほど見せられた肩の焼き印のことを考えていた。
 彼に同行して来たのは、良い選択だったとは思えない。
 彼にすぐにも訪れるであろう死を、なんとかして退けようとしているが、それが正しい選択なのかどうかすら、迷っている。
 この危機を脱することが出来れば。
 運の悪さで招いてしまった彼のこの窮状に、少し手を貸してやれば。
 そうすれば彼にも、平穏が戻るのではないかと思った。
 だが此処に至るまでに聞いたファルサーの話から、それは到底不可能だと解った。
 生きて戻ったところで、王は彼に次の試練を課すだけだろう。
 詩人(バード)の歌う神の試練を受ける英雄譚よりも、酷い重荷を背負わせられている。
 しかも彼の場合、神の寵愛を受けておらず、ただ運が悪いだけだ。

「ファルサー」

 少し開けた窪地に抜けた所で、アークは前に進もうとする背中に声を掛けた。

「なんですか?」
「もう、日が沈む。今日はこの辺りで夜を明かしたまえ」

 アークの発言に、ファルサーは改めて辺りを見回し、息を一つ吐いてから頷いた。

「そうですね」

 ファルサーが休む気になったのを見てから、アークは窪地の真ん中に立って身を屈める。
 薪を集めた(わけ)でも無いのに、そこに赤々と炎が燃え始めた。
 それからアークは窪地の中をグルリと見回してから、おもむろに右手を掲げた。
 アークの(てのひら)から小さな灯りが、ふわふわと飛び立っていき、窪地の四方に散っていく。

「それは、なんですか?」
「昆虫だ」
「虫…? なんのために?」
「昆虫は、連れ歩くのに便利な生き物だ。ちょっと手を加えたり、交配を重ねるだけで、こちらの都合に適った変異をするのも面白い」
「面白い…ですか? どうだろう? 僕は虫についてそこまで考えたコトはありません」
「そうか、残念だな。昆虫の交配や草木の配合を試行錯誤して、期待以上の結果が出た時は爽快だ。つまりあれが、達成感というものだろう」
「それなら、僕も解ります。剣技の練習をして、実践時にそれが上手く決まった時は、達成感がありますから」
「少し違うような気がしなくもないが、それぞれの得意分野が違うのだから、当然と言えば当然なのだろうな」
「それで、今は何をしたんです?」
「私は魔法(ガルズ)を使わずに、昆虫を放つだけで結界(フルンド)を作る研究をしている」
「すみません。僕は学が無いので、魔法(ガルズ)の知識が無いんです」

 (もう)(わけ)無さそうに、ファルサーは頭を下げた。