もう一度あなたに会うために

元夫が逮捕されて、困ったことが

二男をお風呂に入れることだった。

私が二男をお風呂に入れて

長男が受け取ってくれ

タオルで拭いておむつをし、服を着せてくれた。

ミルクをあげたり、おむつを替えたり

買い物にいく間、見ていてくれたり、

たまにはお風呂も入れてくれた。

長男には、本当に助けられた。



元夫は、覚せい剤だけではなく

カードの窃盗の容疑もあって

長くなるかもしれないと言われていた。

長男に「お父さん、3年くらいかかるらしい」

と伝えると

「3年なんて、すぐじゃん」

と、あっさり言われた。

私は拍子抜けした。

長男にとっては

どんなお父さんでも尊敬する父なのだ…



前回の人生では、

待てるかどうか不安だったから

マジで長男の言葉に救われた…

でも、今回は迷っている場合ではない。

何年だろうが、待つしかないのだ。



元夫が逮捕されて

何かあったら、あの捜査員の人に

連絡するように言われていたので連絡をした。

それから、変化があったら私から連絡をしたり

向こうからも、時々連絡をくれるようになった。

これがきっかけで、これから先も彼は心の支えとなってくれる。



元夫の接見禁止がとけて

面会に行くようになった時

元夫から、弁護士を頼みたいから

知り合いに会って、お金を貸してと頼んで欲しいと言われた。

その知り合いは私も会ったことがある人だった。

帰ってすぐ連絡をすると

翌日には家に来てくれた。

元夫が言った通りにお金を貸して欲しいと伝えると

「何の見返りもなく出来ない。元夫に内緒で自分の女になれ。

自分なら綺麗に着飾らせ大事にする。考えてみてくれ」

と言われた。

その人には病気の奥さんもいる。

奥さんとは会ったこともあるし…

よくして貰った…

そんなことできるわけない。

私はそんなに安い女に見えるのか…

と怒りさえ感じていた。

いくら元夫のためとはいえ

好きでもない人の女になるなんて私は無理…



翌日、面会に行って

泣きながら言われたことをすべて話した。

元夫は

「そんなことはしなくてもいい。弁護士は国選弁護人にしよう」

と言ってくれたから

すぐ連絡して、断った。

でも、思ったよりあっさりと了承した。



弁護士は当番弁護士に頼んだ。

すると、その弁護士は

なりたてで、しかも刑事事件は初めてという人だった。

すごく不安だったけれど、初めてながら

色々調べて、カードの弁済の話をつけてくれたり

頑張ってやってくれた。



裁判は、二男も連れて行った。

情状証人としても出廷した。

それを見た裁判官が、ひどく同情して

声をかけてくれた。

カードの被害弁償の話もついていたし…

求刑は思ったより重くなく2年半だった。



その裁判に、女になれと言った知り合いが傍聴しに来ていた。

何で来るの?

何をしでかすか分からない…

私は不安でしょうがなかった。

しかし、私はこの男が

私にしてくることを知っているから大丈夫…



判決は2年だった。

これから、また待つ生活が始まる。

やりきるしかない。

不安はいっぱいだったが

着々と「あの人」に会える日は近づいている。



そんな風に強く誓っていた私に

親友が連絡して来た…
親友には、今回のことも話していたので

いつものように話を聞いてくれる感じで

連絡をして来たのかな…と思っていた。



親友は来るなり

「ゆうこ、旦那と別れた方がいいよ」

親友はそんなこと言ったことがなかったのに…

「ゆうこ、おかしいよ。よく考えてごらん」



確かに、私は親友の言葉で

元夫と別れる決意をする。



でも今ではない…

どうして?

早すぎるんだけど…



親友は、戸惑っている私に

これから起こることを話し始めた。

待って…

なんでそれを知っているの?

私が不審な顔をしていると…

「信じて貰えないと思うけど…私、どうやら急に過去に戻って来たみたい。

タイムリープっていうやつ?」

と話し始めた。

「ゆうこが、今大変な思いをしてるから…」

「どうせダメになるんだし、早い方が良いと思って…」



私は、このままでは未来が変わってしまうと思い

すべてを打ち明けた。

私は、どうしても「あの人」に会いたいこと…

だから、分かっていても過去を変えないと決意していること。

今から起こることもすべて知っていること。

そして、私にあの言葉を言ったあの時に

その言葉を言って欲しいと…



親友は分かってくれた。

「私は、ゆうこの味方だから…どんな協力でもする」

そう言ってくれた。

まさか、私以外にもタイムリープした人がいるとは

思わなかった…



今までの出来事は

本当に順調に、忠実に

起こっている…

親友だったから良かったけど、

あと少しで「あの人」に会えるのに…

もしかしたら、他にもいるのかも?

不安になった…



でも、私は今できることをする。



元夫は、隣の県の時間がかかる刑務所に移送された。

その頃は、高速道路が一部出来ていて

時間は短縮されたけれど…

それでも3時間かかる。

しかも、一人で日帰りで

二男を連れて行くのは難しい。



元夫は、ある提案をしてきた。

最初は面会は月に1回。

月末と月初めが平日にあたる日

泊りで来れば

2日続けて面会が出来るという。

だから、長男の学校が長期休暇のある

3月、7月に会いに行くことにした。

12月は、年末年始で面会も出来ないから

1日だけ面会することに…

長男に荷物を持ってもらい

私は二男を抱っこして

バスで移動。

そして、安いホテルに泊まった。

楽しみもないといけないから

夜は、近くのボーリング場へ…



今まで長男を面会に連れて行ったことがなかったから

長男にとっては、初めての父親との面会生活。

よく一緒に行ってくれた。

本当に頼もしい長男になった。



出産費用の返済、元夫のカード盗難の被害弁償。

払うものも多く、大変だったけれど

これがあったから

長男も、強くなれたのかもしれない。



手紙は毎日書いた。

そんな苦労も無意味なんだけどね…と思いながらも

忠実に…毎日書いた。

私が書く手紙が毎日届くって

元夫には重要なことなのだろうか…

こっちの世界では

毎日、目まぐるしく色々なことが

起こっている。

二男を寝かせてから、寝る前に手紙を書く。

疲れて寝てしまいたくても

書かなければいけない。

正直、意味のない手紙をを書くのは

未来のためとはいえ、辛かった…



そんな生活を続ける中で

あの男が行動を起こしてくる…
元夫が逮捕された翌年

生活保護の担当が変わった。

お金を貰いに行った日

担当が変わったと紹介された人物は

中学校の同級生の男だった…

驚きと同時に

恥ずかしい…と思った。

生活保護を貰うだけならまだ良い…

夫が刑務所に行ってることは

ごく少数の人しか知らないのに…

中学校の同級生に知られるなんて…

そう思いながら帰った1度目の人生。

今回もそうなることを知っているとはいえ、

やはり恥ずかしい。

ま、彼も守秘義務があるから

言わないだろうけど…

彼は、真面目な人だし優しい人だったから

まだ、良かった…



それから、私に近付こうとする人から

突然、連絡があった。

その人は、元夫がよく行っていた奥さん

の元旦那で元夫の知り合いの人…

「元夫が奥さんに会いに行っていたと聞いた。

何をしていたのか…知りたくないか?

知りたかったら、今ラブホテルにいる。

子どもを連れて来てもいいから来て欲しい。

待っている」と言われた。

私は、何かされに行くようなもんだし…

もう今となっては、何をしていたのかなんて

どうでもよいと思って、行かなかった。

それから、連絡はなかったが…

だいたいは覚せい剤は夫婦でやるものらしいから

いいカモになると思ったのだろう。



ある日、ピンポンが鳴ったので

出てみると、チンピラみたいな風貌の夫婦らしき人達…

どんな用件かと聞いてみると

元夫が借金をしていたから取り立てに来たという。

借金の相手は、私に女になれと言ったあの男だった。

頼まれて来たという。

「元夫は、懲役に行ってます」と伝えると

「そりゃ、仕方ないわ」

と、あっさり帰って行った。

なんで、こんな仕打ちをするんだろう。

と怒りが沸き上がった。

やっぱり、黙ってはいなかったか…

これからも何かして来なければ良いけど…

と思っていたけど

そんなことも吹き飛ぶような事件が起こった。



ある殺人事件の犯人が捕まった後…

この男が、殺人教唆で逮捕された。

保険金殺人事件。

従業員に保険金を掛け、殺させたのだ。

その後、放火も発覚した。

裁判は長くかかったが…

この男は、無期懲役になった。

良かったと安心したけれど…

この男の奥さんはどうなったのだろう…

奥さんは、ずっと腎臓透析をしていた。

長くは生きられないと言っていたけれど

奥さんは大丈夫だろうかと

思ったけれど、知るすべもなかった…



そんな中…

捜査員の人は、時々連絡をくれた。

いつしかお互いのことも話すようになっていて

長電話もするようになっていた。

唯一、癒されるひととき…

「逮捕した男の奥さんと、こうして話をしてる

ことが分かったら、大変」

と言いながら、よく話を聞いてくれた。

この人のことを好きになったりは

しなかったけど…

本当に私の支えになってくれた…

この人は、まだまだ支えになってくれる人。



こうして、色々な人と関わりを持って…

月日は、流れて行った。

一度目の人生では、

これから起こる辛い日々のことなんて

知りもせず、元夫が帰る日を

心待ちにしていた…
月日は流れ…

長男は中学3年生になっていた。

長男は、真面目でもなく

悪さをするほどの子ではなく

どんなタイプの子とも上手く付き合う。

そんな子だった。

二男に対してもシャイで

本当は可愛いんだけど

どうしていいか分からないタイプ。

周りの友達の方が可愛がってくれていた。

うちは、狭いマンションなのに

長男の友達が来やすい家なのか…

よく集まっていた。



そんな長男も受験となり…

頭が良いわけでもない長男は

結局、私立高校の推薦入試を受けることにした。

長男もそこに行きたいと望んだから…

お金の算段もした。

遠くの公立高校に行って交通費が掛かるより

近くの私立高校に自転車で行った方がお金は掛からない。

授業料は、減免制度があった。

拘禁が1年過ぎていたので

母子家庭と認定されていたから

入学金と学費は母子家庭の貸付金から借りた。

学費に関係する貸付金は無利子となる。

私は兄に保証人になって貰った…。



そして、長男は4月から高校生。

二男は、近くの保育園に入園することになった。



それから8月になり…

元夫が出所することになった。

出所の日は、元夫の知り合いの人と

私と二男で迎えに行った。

1度目の人生では、嬉しかった。

やっと、また一緒に生活できると

希望に満ちていた。

今は、不安しかない…

でも、耐えるしかない。

ある意味、未来に「あの人」に会えるという

希望があるから…

そう考えながら…

楽しい振りをするしかなかった。



出所した日に検察庁に

出所の報告に行った。

そこで、担当検事が言った言葉…

「あなたには、更生するきっかけが無い

普通の人は結婚や子ども等で更生するきっかけがある。

でも、あなたは結婚も子どもも親が亡くなっても

更生出来なかった。

何かきっかけがあれば良いんですけど…」

と言った。

本当だ…

この人にはきっかけが無い…

結婚しても、長男が生まれても

父親が亡くなっても…

母親が亡くなっても…

そして二男が生まれても…

更生出来なかった…

私が一緒にいる意味なんて、無かった…

1度目の人生で、そう思った。

ずっと、私がいないとダメになると

思っていたけど、元夫は変わっていない。

むしろ悪くなっている…

将来、別れる決断をしたのは

間違っていなかったと

改めて…思った。

それでも、父親が帰って来て

喜ぶ長男を見ると…

複雑な気持ちになる。

それでも、これから起こることを

私は止められない。



元夫が帰って来たから

母子家庭の貸付は借りられなくなる。

だから、社会福祉協議会から貸し付けをした。

民生委員さんにお願いをしたり

社会福祉協議会にも何度も足を運んで、

やっと借りることが出来た。

保証人は、元夫の兄に頼んだ。

半年後から、母子家庭の返済が始まる。



元夫は知り合いの所に仕事に行き

私も、暫くして

パートに行くことにした。



それから、暫くは落ち着いていたが…

元夫は、思わぬ方向へと

進むこととなる…



私は、35歳になっていた。

元夫42歳。長男16歳。二男2歳。

「あの人」に会えるまで

あと4年…
元夫は、毎晩遅くまでフラフラしていた。

それはいつもと変わらないのだが…

刑務所で知り合った友達と、その彼女が

一緒に遊びに来たり、そんな日もあった。

その彼女は、隣の県の子で…

慕って来たので

その彼女とは、たまにメールしたり

電話したりしていた。

ちょっと変わった子だったから

正直、軽くあしらっている感じだった。



ある日、その彼女から電話があった。

「お姉ちゃん。私ね、お姉ちゃんに言わないとけないことがある」

ためらいながら、彼女は話し始めた。

「実はお兄ちゃん(元夫)が話があると言って

会いに来た。それで、ホテルに連れて行かれて

薬を打たれた。それで関係を持ってしまった。

お姉ちゃん、本当にごめんね」

衝撃的だった…

元夫は、前の事件の時は友達の奥さんの家に行っていたし

怪しかったけど…

それまでは、女遊びをしたことが無かった。

クズだけど、マメだし覚せい剤をしても

女に狂うことは無かった…



元夫に彼女から電話があったことを話すと

「あの娘はおかしいし、構って欲しいから

嘘を言ってるんだろ。本気で聞かなくていいよ」

と言った。

1回目の人生の時は、

確かにおかしい娘だったので…

その言葉を信じてしまった。

でも、おそらく本当のことだったんだろう…

その後は、二人の関係が続いている感じは無かった。



それから元夫は

朝になっても帰って来ていない

ということが増えて行った。

元夫は朝帰りをすることはなく

夜中に帰って来ることが多かった。

私は、疲れて先に寝てしまうのだが

夜中に目が覚めて、元夫がいなかったら

そこから眠れなくなってしまう。

赤い目をして会社に行くことも…

次の日、会社から帰っても元夫は帰っていなかったことも…



この頃、私は捜査員の人に

元夫が帰って来ないと

電話をして相談したりしていた。

元夫が出所してから連絡は取りあって

いたようなので

「自分からも連絡をしてみる」

と言ってくれ、色々と話を聞いてくれた。



元夫が帰って来た時に

問い詰めてみると

「知り合いに頼まれて友達の母子家庭の妹家族の面倒を見ている。

変な関係ではない」と私に話した。

そんな話はデタラメなのは知ってるよ…

と思いながら話を聞いて

信じた振りをしていた。

1度目の人生は、本当に信じていたのかもしれない…



それから、ある夜

知り合いの奥さんから電話があって

「元夫が誰かと揉めて警察署に連れて行かれたけど

飲んでいて暴れそうだから、従業員に運転させて家に帰すね」

そう言ってくれた。

尿検査はされなかったようだった。

とりあえず、マンションの下に車を停めて貰った。

元夫は、酔っ払っていて睡眠薬も一緒に飲んでいるようだった。

話もできる状態ではない。

そのまま、寝かせた。



翌朝、奥さんにお礼の電話を入れると

「あれは、覚せい剤やってるね。

匂いがすごかったよ」

と言われた。

分かってます。と思いながら…

知らない振りをした。



マンションの下に停めて貰ったけれど

邪魔になるので、車を動かすのに

元夫の友達に来て貰って

駐車場まで動かして貰ったが

その時の彼の様子があまりにも

いつもと違っていた。

覚せい剤を効かせていたのだろう。

元夫には、そんな型がなく分かりにくい。

でもウロウロするのが、元夫の型なんだろうと

捜査員の人が言っていたのを思い出した。



元夫は、何も知らず眠っていた…

でも、目を覚ましてから起こることを

私は知っている…
私はその日、二男を保育園に預け仕事を休んだ。



しばらくすると元夫は目を覚ました。

昨日あったことを話すと

「迷惑掛けてごめん」と謝った。

でも、いきなり「出かけてくる」

と行こうとするので

まだ無理だと止めたが、聞かない。

でもまだ呂律が回っていない。

私は思わず…

「どうしても行くなら私も一緒に行く」

と元夫に言った。

元夫は、仕方なさそうに「分かった」と言った。



それから支度をして下に降りると

元夫は、隣の大家さんの会社の従業員に

突っかかっていった。

なんとか宥めて、大家さんの会社にも謝罪して

駐車場に向かった。

私は免許を持っていないから

代わりに運転をすることが出来ない…

それは、めちゃくちゃな運転だった。

怖い思いをして何とか着いた場所。

それは、友達の妹だという女のマンションだった。

家に一緒に入って挨拶をした。

「私が精神的に不安定だから、お世話になっている」

と女は話す。

元夫は「ゆうこも嫌だろうから、もうここには来ないことにする。

最後に二人で話したいから玄関の外で待ってて」

と言ったので、私は承諾し玄関の前で待っていた。

これから、起こることも分かっている。

でも、タイミングが重要だ…

元夫は、なかなか出て来なかった…

私は、タイミングを見計らい

部屋に入って行った。

すると思った通り…

元夫と女がキスをしていた。

私は、鞄で元夫を叩いて

「好きにしろ」と叫んで出て行った。

隣にタクシー会社があったので

タクシーに乗って家に帰った。



1度目の人生も

腹が立って仕方なくて…

涙も出なかった。

でも今は、その時の思いとは違う。

もう少し…もう少しの我慢だ…

と言い聞かせた。

でも、キスの光景が頭をよぎってしまう。

忘れたいのに忘れない光景となった…



元夫から何度も電話が入っていたが無視した。

家の電話が鳴ったので出てみると

さっきの女だった。

「私は家庭を壊す気はない。もう会わないから

許してあげて下さい」と言ったが

私は「もう要らないから、そちらで好きにどうぞ」

と言って電話を切った。



元夫が帰って来て

話がしたいと言い、言い訳を並べて来た。

女とはもう会わないから別れないでくれと言う。

嘘なのは分かっている。

このまま別れてしまいたい。

でも、別れるのは今では無い。

でも別れた時期はいつだったか…忘れかけていた。

今ではないことは確かだ…

とりあえず、もう会わないと約束させて

許すことにした。



もう連絡をしないと思っていたのに

毎朝、メールが入っていることに気が付いた。

仕事に行くのに起きられないから

起こして貰っていると言う。

私はおかしいだろうと怒った。

すると、もう連絡も取らないと言い

もう連絡をしないと書いたメールを私に見せ、送信した。

女から何度もメールが来ていたが…

元夫は無視していた。



それから暫くして

女が自分の実家の空き家に火を点けて

ボヤを起こし、女は火傷をして入院した。

後に、捕まったと聞いた。



精神的に不安定なのは本当だったのかもしれないが

この女も覚せい剤繋がりだったのだろう。

これでこの女とは切れることになった。



1度目の人生では、これで落ち着くと思っていた…

でも、順調に進んでいる。

私は、辛い過去を心の奥にしまい込んでしまう傾向があったから

離婚した頃の記憶が定かでないことが不安だった…
私は、これから何が起きるのか

どのタイミングで離婚するのか…

あまり覚えていないことに不安になり

親友を呼び出した。

これまで、親友の告白を聞いてから

ずっと、これからの話や順調に進んでいる話等を

会う度にして来た。

だからいつも通り

「これからって、何が起きるんだっけ?

私、肝心な離婚のきっかけが思い出せなくて…」

と話すと、親友は

「え?どういうこと?旦那と離婚するの?

ま、その方がいいとは思ってたけどね」

と言った。

「え?タイムリープのこと、覚えてないの?」

と聞くと

「タイムリープ?何それ?なんか流行りの物?」

と言う。

「冗談だよね?」

と聞いても

「冗談じゃないよ。逆に、ゆうこが何を言ってるのか

分からないんだけど」

これは…マジか…

忘れているわけじゃないな…

まさか!戻ったの?

戻るってあるんだ…

でも、それしか考えられなかった…



とりあえず、親友には話を誤魔化して

いつも通り、たわいもない話をして帰らせた。



戻るとしてもいつか分からないよね…

私も、57歳の私に戻りたいよ…

でも、私は死んだのかもしれないし…

戻ったってどうなるか…



私は、母が死んだ時も

葬式が済んで落ち着いてから

初めて学校に行った時に、友達と笑っていたら

「ゆうこ、もう学校に来てる。しかも笑ってる。悲しくないのかな」

とか言われたり…

本当は悲しくても、ずっと泣いているわけにいかないし

心の奥にしまって考えないようにしていた。

元夫が逮捕されてニュースや新聞に出た頃の

社会情勢を覚えていなくて笑われたり…

記憶が飛んでいることがよくあった。



でも、なるようになるしかないか…

と思うしかなかった。

ただ、タイムリープを知っている

唯一の親友が居なくなったことが不安だった…



それから、元夫は仕事場の社長が通っていた

飲み屋のママと知り合った。

私も、二男を連れて飲みに行った。

それから、元夫はそのママと

よく連絡を取り合っているようだった。

私にも、色々相談したらいいよ

とママと連絡を取るように言って来たり…

でも、ママは私よりも3歳くらい年上の人で

敬語を使ってメールしてたら

なかなか馴染めなくて…いつの間にか

メールしなくなった。



元夫は、前に警察署に連れて行かれた件で

警察に呼び出されていた。

警察の呼び出しの前日

ママは、娘や孫を連れて家に来た。

その時に、元夫が

「これで暫く会えなくなるかもね」と言うと

ママは泣きだした。

私は、なんで泣くの?と不信感しか無かった。

こんな事があったような気がするけど…

本当にこれからの事を覚えてない…

でも、このママは元夫と何かあるな…と感じた。



翌日、元夫は警察署に行ったが

何事もなく、帰って来た。



その後もママの存在はあったが…

よく分からないまま日々が過ぎて行った。



元夫は相変わらず帰りも遅く…

夫婦喧嘩をすることも増えて来た。

昔、兄嫁から「思ったことを全部言ったら

喧嘩になるから、心の中で言うようにしてる」

と聞いてから、それを実行していたが

私は、これまでのことで気持ちが大きくなり

言い過ぎることも多々あった。

しかし、あまりにも元夫の行動がおかしすぎて

言うしかなかった。



こうして夫婦喧嘩は、どんどん増えていった…
夫婦喧嘩が始まると…

長男は、関わらないように部屋に籠る。

でも二男は、喧嘩を止めようとする。

喧嘩の途中で自分の手で私の口を押えて

「お母さん黙って」と言ったり

そんな二男を見ると

私も元夫も、もう喧嘩するのは止めようと話をするが…

顔を合わせれば喧嘩をしてしまう。



そんな中、長男が学校を数日休むことがあった。

喘息もたまに出ていたから、休ませていたが

心配した学校の担任の先生が

学校に来た長男に

「何かあったのか?心配事があるなら聞くぞ」

と言ってくれたらしく…

長男は

「最近、お父さんとお母さんの仲が悪くて心配」

と言ったそうだ。

そう…担任の先生が話してくれた。



そんな長男の気持ちを知らずに

いや、話したはずなのに…

元夫は家に帰らなくなっていた。



毎日、帰らない夫を待ち…

眠れない毎日が続く…

寝不足で会社に行った…

そんな私を心配して…

会社の男性の同僚が

「目、赤いけど大丈夫?」

と声を掛けてくれた。



捜査員の人にも相談していたが

元夫は、捜査員の人にも

連絡をしなくなっていた。



元夫は帰って来ない。

前と同じパターンだから

確実に浮気をしている。

相手は、あのママなのか…



たまに帰って来ても

色々と言い訳をする。

1度目の人生では、それを信じようとしていた。

でも、その日さえも帰って来なかった。

苦しい、眠れない…

心がどんどん壊れていった。

割り切れば良いのに割り切れない…

もう何ヶ月、こんな生活を送っているのだろう…



もう限界だった…



そんな時に、親友が電話をくれた。

苦しい思いを話して…

「元夫は、浮気じゃない。仕事して遅くなったから

車で寝てしまったって言うから信じるしかなくて…」

親友は

「ゆうこ、どう考えてもおかしいよ!

それを信じようとする、ゆうこもおかしくなっているよ」

と言った。



まさに、その言葉だった。

その言葉を待っていたんだ…

私は、我に返った。

私…おかしくなっているの?

そうか…

こんな生活の中で、おかしくなってしまったんだ…



やっと気が付いた。

今まで、自分が何とかしなければ…

私がいなきゃ、ダメになる。

私が更生させる。

そうしなければいけないと思い込んでいた。



私は、本当の元夫が分からなくなっていた。

マメで優しくて浮気をしない。

そんな元夫は、今は何処にもいない…

もう、私が知っていた元夫はいない…

むしろ、私は最初から本当の元夫を

知らなかったのかもしれない…



私の中でプツンと何かが切れた…

もう、浮気相手が誰だろうとどうでもいい。

離婚しようと決めた。



メールで元夫に

「大事な話がある」と送った。

それでも、なかなか帰って来なかった。



帰って来て

「もう限界です。離婚して下さい」

と伝えた。

「別れたくない」と色々言っていたが

「もう決めたから」と強く言うと

元夫は仕方なさそうに「分かった」と言った。



前に喧嘩をした時に

次に何かあったら提出するからと

離婚届けを書いていたから

それを提出すると話した。

それから、家を出るように言った。

行くところが無いとか言っていたが

「そんなことは知らない。とにかく出て行って」

と言うと

簡単な荷物だけ持って、出て行った。



私は、翌日

離婚届けを提出した…



私は、36歳。もうすぐ37歳になる…

長男は高校3年生。二男4歳。



あと3年で「あの人」に会える…
長男に、お父さんと離婚したと伝えると

寂しそうに…

「そうか…分かった」と言った。



私は、離婚届けを出した足で

生活保護の担当に離婚したことを伝えた。

その時の担当は同級生ではなく…

他の人に代わっていたから良かった…



私は、元夫に離婚届けを提出した事を伝えた。

元夫は生活保護の担当に

離婚したから住む所がないと言いに行き

「公園で寝るしかない」

と担当に言うと

「そうして貰うしかない」

と言われたと…

笑うしかなかった。



飲み屋のママは結婚していた。

だから、どこでどうしていたのか…

1度目の人生でも知らなかったし…

どうでも良かった…

後に、元夫は近くにマンションを借りた。



元夫は

「話がしたい」

と連絡して来たが…

「話すことはない」と突っぱねた。

すると「二男を遊びに連れて行こう」

と言うから

私は、遊びに行くならいいか…

と思って行くことにした。



元夫は

「やり直したい、やり直せるように頑張るから

考え直して欲しい」

と言った。

これから、どうなるか知っている私は

そんなの嘘だと分かっていた。

1度目の人生の私でも

そんなの信じられなくて…

戻る気は更々なかった。



それから、元夫は

荷物が残っているからと会いに来たり

「二男をどこかに連れて行こう」

と口実をつけては会いに来た。



正直、遊びに行くのは嫌では無かった。

私も、そういう面で元夫を利用していたのかもしれない…

6月は蛍を見に行き

夏は海や川に泳ぎに行ったり

花火を見に行ったり

冬はイルミネーションを見に行った。



でも、元夫の事をおかしいと思う事もよくあった。

私が、熱を出した時

二男を見て欲しいと頼んで

帰って来た二男に

「今日、お父さんと何したの?」

と聞くと

「おばさんも一緒に遊びに行った」

と言った。

元夫が、二男を川に連れて行くと言って

連れて行った時も帰って来た二男は

「おばさんとお姉ちゃんと小さい子と行った」

と言った。

私は、やっぱ相手はあのママか…

続いているんじゃないか…

と思いつつ、やり直す気も無いし…

どうでもいいやと思っていた。

そう思いながらも

会う事もやめられない自分がいた。



長男の卒業式にも一緒に参加した。

その後、ランチして映画を見た。

元夫の帰りを待つ心配も無い。

たまに会って、何処かに行って…

そんな関係が、すごく楽だった。



結局、別れられないんだよな…

そんな自分が、1度目の人生は

すごく嫌だった。

でも、これを超えなければ…

私に明るい未来は無い…



長男は、高校を卒業して

友達と住むからと家を出た。

就職も決まっていなかったから

フリーター生活。



ある日、長男から

「話がある。彼女を連れて行くから

お父さんも呼んでおいて」と言われ

元夫とも

「結婚したいとか言うのかな…

まさか、子どもが出来たとか?」

と話していた。



長男が彼女を連れて帰って来て

話したことは、やはり…

「子どもが出来たから結婚したい」だった。

やっぱりか…

私、おばあちゃんになるのか…

知ってたけど…

まぁまぁ、ショックだな…

彼女は1歳年上の素直そうな可愛い娘だった。

良かった、何はともあれ長男が落ち着くなら安心だ。

長男は、これを機に就職した。



翌年、男の子が生まれた。

私は38歳でおばあちゃんになった…

二男は6歳で叔父さんに…

長男は私と同じ19歳で父親になった…



私は、ささやかな幸せを感じていた…