「若王子くん、やっぱりめちゃめちゃモテるな。すごいわ。あの後輩の子、すごい喜んでたし。話しかけただけなのにな」
教室を出て、すぐ右に曲がる。
廊下はワックスがけが終わってから、鏡面かのように窓から射す太陽を乱反射させた。眩しくて顔をしかめた。
横に並びながら彼は日差しと、むわっとした湿度の高い風が吹くのを気にすることなく悠長に渡り廊下を進む。
スポーツ科と普通科とを結ぶこの渡り廊下のちょうど終わり、俺等から見てスポーツ科寄りのところに職員室と、下駄箱へ続く階段がある。その階段を降りるのが購買に一番近い道だった。
スポーツ科は基本運動部所属の子しかいない。1クラス編成。大会や遠征メインのため、基本学校の行事には参加してこない。夏休みの今は甲子園やインハイがあるからほとんどの子は登校していなかった。
同じ校舎なのに別世界みたいに静まり返ったそこに近づくと温度が2度下がった。
「あんまり自分で言いたくないんだけどさ。俺の事、知らないカンジ?」
自惚れるつもりはないけど、口に出せば調子に乗っていると思われるセリフを彼に向けた。
「へ?若王子 環くんやん。同じクラスのめちゃめちゃイケメン。基本女子に囲まれてる子。なんでもかんでも言われた事にヘラヘラしながら流されてる子。話しかけられたくない時、わざとイヤホンしてるスカした子」
何を今更、と言わんばかりにこちらを見ながら田島くんは両手を頭の後ろに組んだ。
階段を先に降りた彼のつむじを見つめる。
大体合っている情報を言われて、何も言い返せない。
結果、俺がすごい自惚れている奴みたいに認識された気がした。
「でもそれ以外は知らん。今回まで関わらんかったし。若王子くんのこと、そんな噂と数日関わっただけで知ってるとは言えん」
俺を見上げる顔は、教室でバカみたいに口をあけて笑う顔ではなくて、
俺よりもずっと歳上のように見えた。
さっきまで同い年だったはずなのに、先に行く人だった。
さっきだけの情報で俺のことを『知って』『好き』になる子がたくさんいた。
逆に言えば俺にはその情報が『全て』なのかもしれない。
コイツはどれだけ俺のことを知ろうとするんだろうかと思って怖くなった。
教室を出て、すぐ右に曲がる。
廊下はワックスがけが終わってから、鏡面かのように窓から射す太陽を乱反射させた。眩しくて顔をしかめた。
横に並びながら彼は日差しと、むわっとした湿度の高い風が吹くのを気にすることなく悠長に渡り廊下を進む。
スポーツ科と普通科とを結ぶこの渡り廊下のちょうど終わり、俺等から見てスポーツ科寄りのところに職員室と、下駄箱へ続く階段がある。その階段を降りるのが購買に一番近い道だった。
スポーツ科は基本運動部所属の子しかいない。1クラス編成。大会や遠征メインのため、基本学校の行事には参加してこない。夏休みの今は甲子園やインハイがあるからほとんどの子は登校していなかった。
同じ校舎なのに別世界みたいに静まり返ったそこに近づくと温度が2度下がった。
「あんまり自分で言いたくないんだけどさ。俺の事、知らないカンジ?」
自惚れるつもりはないけど、口に出せば調子に乗っていると思われるセリフを彼に向けた。
「へ?若王子 環くんやん。同じクラスのめちゃめちゃイケメン。基本女子に囲まれてる子。なんでもかんでも言われた事にヘラヘラしながら流されてる子。話しかけられたくない時、わざとイヤホンしてるスカした子」
何を今更、と言わんばかりにこちらを見ながら田島くんは両手を頭の後ろに組んだ。
階段を先に降りた彼のつむじを見つめる。
大体合っている情報を言われて、何も言い返せない。
結果、俺がすごい自惚れている奴みたいに認識された気がした。
「でもそれ以外は知らん。今回まで関わらんかったし。若王子くんのこと、そんな噂と数日関わっただけで知ってるとは言えん」
俺を見上げる顔は、教室でバカみたいに口をあけて笑う顔ではなくて、
俺よりもずっと歳上のように見えた。
さっきまで同い年だったはずなのに、先に行く人だった。
さっきだけの情報で俺のことを『知って』『好き』になる子がたくさんいた。
逆に言えば俺にはその情報が『全て』なのかもしれない。
コイツはどれだけ俺のことを知ろうとするんだろうかと思って怖くなった。