「遠藤君、だったね」
「ハイ……」
「矢萩君のクラスの委員長と聞いているよ」
「えぇ、まぁ」
「随分と多才な方だって、夜宵が感心しておりましたわ」
「こ、光栄です……」
「それで? 今回は脚本家兼監督、と。演目は白雪姫だっけ」
「あの、えぇ、はい」
俺の目の前には、神田ファミリーがいる。向かって右から、お父さんの純冶さん、お母さんの亜耶さん、そしてお姉さんの弥栄さんだ。なんていうか、この両親から生まれたらああなるわな、って思わず納得してしまうような、ふんわりおっとりした美男美女――この場合美紳士美淑女って言った方が良いのだろうか――である。そして、お姉さんの弥栄さん、めっちゃくちゃ美人じゃねぇか。劇のために化粧させた神田とよく似ている。
その三人に、俺はいま、半ば詰められてるような状況である。絵的にはカツアゲ現場だ。
「いや、私達はね、別に怒っているわけではないんだ。ただね、夜宵が劇に飛び入り参加したと聞いてね。驚いたよ。クラス展示なんてのんきに見ている場合ではなかった」
「しかも姫役で、矢萩君のお相手をなさったそうで」
「そんなの絶対におさめたかったに決まってるじゃない!」
そう言って、弥栄さんが、手に持っていたバズーカみたいな一眼レフを突き出す。えっとそれ、天体観測とかするやつですか? よく見たらご両親も、何かごっつい双眼鏡とハンカチを持っている。見る準備も、泣く準備も出来ているご様子。
「午前の方はもう仕方がない。急に決まったことなのだろうしね。だが、公演はこの後、午後にも、それから明日にもあると聞いたよ。どうなのかね、遠藤君。午後の部も夜宵は姫役で出るのかね。出ると言ってくれたまえ」
「私達、それを聞いて有休を叩きつけてきたんですのよ」
「どうなの遠藤君。矢萩君の相手なんて夜宵以外にいないよね?! どうなの?!」
ぐいぐいと迫りくる、顔面偏差値七十超えの面々である。圧がすごい。ご両親の職場は、有休は叩き付けないともらえないところなのだろうか。
「あ、あの、ていうか……」
落ち着いて、落ち着いて、どうどう、と両手をかざして距離を取る。
「ええと、その、皆さんは神田……君と、南城の関係について、どう、お考え、に?」
恐る恐る尋ねてみる。
すると、純冶さんが、「どう、とは?」と眼鏡の奥の瞳を眇め、眉をぴくりと動かした。いまの反応からして、三人共、単なる仲の良い幼馴染み同士以上の何かを期待しているように思えたんだが、そう思っていたのは俺だけだったのかもしれない。ちょっと早計だったか? と背中を嫌な汗が流れる。
「どうって、つまりですね――」
ここからどうにかごまかせるか? そう思いつつ、しどろもどろに次の言葉を探していると――、
「私の立場からこんなことを言うのもアレだが、まぁ、『矢×夜』かな、と」
!?
「待ってパパ。夜宵はああ見えて結構男前なのよ? 矢萩君をぐいっと引っ張っていくかもしれないじゃない。私は『夜×矢』だと思う」
「やぁちゃん、私も夜宵が意外と男前なのは否定しないけれど、あの子の性格上、矢萩君にリードされたいと思うのよね。そうだわ! 間を取って、リバでどうかしら!」
ぱん、と両手を合わせ、一番とんでもないことを口走ったのは亜耶さんだ。リバ、つまり、カップリング内での受け攻めを固定しないというやつだ。これを地雷設定している腐女子は多い。えっ、何この家族。ていうか、お父さん、あなた自分の息子が受けでもアリなんですか!? それ以前にBL用語が普通に飛び交ってんの、この家?!
「夜宵が意外と男前なのは私も認めているところだが、少々気持ちが優しすぎるというか、ネガティブすぎるところがあってね。毎年バレンタインだって何やら頑張って手作りしているようなんだが、結局渡せなかったりしてねぇ」
「毎年毎年、『萩ちゃん、今年もたくさんもらってた』ってしょんぼりしながら帰って来て、めそめそしながらそれを食べてるのよ? あんなの、こっちの胸が締め付けられるわよ。でも今年はそれがなかったから、進展したと思ったのに、全然なのよねぇ」
「やぁちゃん、夜宵はね、繊細なのよ。ママ、あなたも少し夜宵を見習ってほしいぐらいだわ」
「どうしても矢萩君と同じところに通いたかったのだろう、この学校の素晴らしさを我々に二時間かけてプレゼンした時のあの情熱はどこに行ってしまったのか。正直我々としても、じれったくて仕方がないんだよ、遠藤君」
わかるかね、と詰められれば、こくこくと強く頷くしかない。親説得するために二時間プレゼンって、中学の時から仕上がってんな、神田。
そりゃあ俺だって、一刻も早くあの二人をくっつけてしまいたいのである。しかも、神田家はこの通り、BのLでもウェルカムらしい。となれば俄然やる気も湧いてくるというものである。
が、そうなると気になるのはもう片方だ。
正直、お堅いイメージの神田家の方が、同性愛には難色を示すような気がしていたが、逆に体育会系の南城家の方がその辺は厳しいのかもしれない。
そんなことを思っていると――、
「おお、いたいた、遠藤君!」
馬鹿みたいにデカい声が聞こえ、俺は振り返った。こっちは行事のあれやこれやで、多少の面識はある。そう、もうおわかりだろう、南城ファミリーである。
こちらもこちらでご両親プラスお兄さんのフルメンバーだ。お父さんの隆哉さんに、お母さんの沙也子さん、そしてお兄さんの椰潮さんである。
「お、純冶さんトコもいらしてましたか!」
「亜耶ちゃん、お休み取れたの~? 良かったわねぇ~!」
「弥栄さん、本日もお綺麗で!」
急に騒がしくなったな。ここん家、スポーツ一家だけあって、語尾に『!』が見えるんだよ。もうちょいトーンを落としてくれ。
「あぁ隆哉君。見ました、さっきの劇?」
「もちろん見ましたとも! いやぁ、トンビが鷹を生んだとは正にこのことで、矢萩はあれでなかなかのイケメンですから! ねぇ、ママ!?」
「ほんっと! 我が子ながら、とんでもない王子っぷりだったわよねぇ!」
「矢萩はあれで脱いでもイケるからな! 最後、ノリで脱げば良かったのに!」
良いわけがない。ノリで俺の劇を壊すな。
「それで、ウチの夜宵も出たとか」
「そうなんですよ! 途中までは南城ジムにスカウトしたいくらいのムキムキ姫だったのに、最後、棺の中からとんでもない美人が出て来て、観客席騒然でしたから!」
「弥栄ちゃんにそっくりの美人さんに仕上がってましたよ!」
「ということは?!」
「したんですの!? 矢萩君と?!」
「どうなんですか、おじさんおばさん! その決定的瞬間は?!」
さっきまで俺に迫ってきたのとは比べ物にならない圧で南城家に詰め寄るが、さすがは筋肉一家、びくともしねぇ。
「それがねぇ……」
その時ばかりは『!』も鳴りを潜め、気持ちトーンを落とした沙也子さんが、いかにしてあの白雪姫が幕を閉じたかを説明した。すると――、
「遠藤君!」
「ひぃっ!」
さっきまで(顔面の圧はあったけど)終始温和だった純冶さんが俺の両肩を掴み、声を荒らげた。
「どういうことかね?! 白雪姫にはそんな、小人達乱入によるキスシーン強制カットのダンスパーティーエンドなんていう解釈があるのかね?! 第何刷の話を採用したのかね?! まさか君オリジナルではあるまいな!?」
「違います! 断固として違います! あれは演劇部の謀反で――!」
「謀反だと!? 君はそんな裏切り者をのさばらせておくのか!? 世が世なら打首獄門かギロチンだぞ!? 午後の部は!? 明日の公演はどうなるんだね!?」
「さ、させません! 男・遠藤! 次も、明日も、縄で縛りつけてでも、止めて見せます!」
「よく言ったわ遠藤君!」
「これで矢萩君と夜宵のキスシーンが見られるのね!? 楽しみだわ! S席のチケットはいくらなの?! まだ残ってる?! いまの私なら転売屋からでも買う覚悟よ!」
待って。
待って神田ファミリー。まだ南城ファミリーが二人の関係についてどう思っているのか確認してない。特に弥栄さん、キスシーン云々の発言はヤバくないですか!? あと、チケットは販売しておりません! 早めに並んでお好きな席へどうぞ! 転売屋からは買うな!
「いやぁ、ウチの息子が不甲斐ないせいで、すみませんね、ほんとに!」
「見た目に反して奥手なのはパパに似たのよ、もう! この人ったら、私と付き合ってる時だって手を繋ぐまでに半年かかったのよ?!」
「俺に相談してくれれば良かったのになぁ! ワハハ!」
どうやら南城が見た目に反してヘタレなのは父親譲りらしい。
「ああそうそう、こんなことをしている場合じゃないんだ、遠藤君!」
手を繋ぐのに半年もの時間を要する男、隆哉さんが、ぽん、と手を打った。
「矢萩と夜宵君を知らないか?! 何かさっき、やけに完成度の高い王子と姫が腕を組みながら歩いているという情報を入手したんだ!」
「そうそう、そうなのよ! もうどう考えたって矢萩と夜宵君でしょ?! だから私達、陰からそっと見守ろうと思って!」
そんなオール語尾に『!』つけた状態で? そっと見守るとか出来るの、この夫婦!?
「俺はばっちり記録を残すつもりだ!」
じゃじゃーん! と暑苦しい効果音付きで、弥栄さんのよりは幾分かレンズが大人しめな一眼レフを取り出す。
ていうかお前も一眼持って来たのか! もう絶対それフラッシュとかシャッター音とかどぎついやつだろ!? そんなことはないのかもしれないけど、持ち主に似そうなんだよ。そのフラッシュは何千ルーメンなんだ! 絶対盗撮に向かないやつだろ! いや、それはそれで堂々としてて良いのかな……?
まぁとりあえず、この感じからして南城家も大丈夫そうではある。
「ハイ……」
「矢萩君のクラスの委員長と聞いているよ」
「えぇ、まぁ」
「随分と多才な方だって、夜宵が感心しておりましたわ」
「こ、光栄です……」
「それで? 今回は脚本家兼監督、と。演目は白雪姫だっけ」
「あの、えぇ、はい」
俺の目の前には、神田ファミリーがいる。向かって右から、お父さんの純冶さん、お母さんの亜耶さん、そしてお姉さんの弥栄さんだ。なんていうか、この両親から生まれたらああなるわな、って思わず納得してしまうような、ふんわりおっとりした美男美女――この場合美紳士美淑女って言った方が良いのだろうか――である。そして、お姉さんの弥栄さん、めっちゃくちゃ美人じゃねぇか。劇のために化粧させた神田とよく似ている。
その三人に、俺はいま、半ば詰められてるような状況である。絵的にはカツアゲ現場だ。
「いや、私達はね、別に怒っているわけではないんだ。ただね、夜宵が劇に飛び入り参加したと聞いてね。驚いたよ。クラス展示なんてのんきに見ている場合ではなかった」
「しかも姫役で、矢萩君のお相手をなさったそうで」
「そんなの絶対におさめたかったに決まってるじゃない!」
そう言って、弥栄さんが、手に持っていたバズーカみたいな一眼レフを突き出す。えっとそれ、天体観測とかするやつですか? よく見たらご両親も、何かごっつい双眼鏡とハンカチを持っている。見る準備も、泣く準備も出来ているご様子。
「午前の方はもう仕方がない。急に決まったことなのだろうしね。だが、公演はこの後、午後にも、それから明日にもあると聞いたよ。どうなのかね、遠藤君。午後の部も夜宵は姫役で出るのかね。出ると言ってくれたまえ」
「私達、それを聞いて有休を叩きつけてきたんですのよ」
「どうなの遠藤君。矢萩君の相手なんて夜宵以外にいないよね?! どうなの?!」
ぐいぐいと迫りくる、顔面偏差値七十超えの面々である。圧がすごい。ご両親の職場は、有休は叩き付けないともらえないところなのだろうか。
「あ、あの、ていうか……」
落ち着いて、落ち着いて、どうどう、と両手をかざして距離を取る。
「ええと、その、皆さんは神田……君と、南城の関係について、どう、お考え、に?」
恐る恐る尋ねてみる。
すると、純冶さんが、「どう、とは?」と眼鏡の奥の瞳を眇め、眉をぴくりと動かした。いまの反応からして、三人共、単なる仲の良い幼馴染み同士以上の何かを期待しているように思えたんだが、そう思っていたのは俺だけだったのかもしれない。ちょっと早計だったか? と背中を嫌な汗が流れる。
「どうって、つまりですね――」
ここからどうにかごまかせるか? そう思いつつ、しどろもどろに次の言葉を探していると――、
「私の立場からこんなことを言うのもアレだが、まぁ、『矢×夜』かな、と」
!?
「待ってパパ。夜宵はああ見えて結構男前なのよ? 矢萩君をぐいっと引っ張っていくかもしれないじゃない。私は『夜×矢』だと思う」
「やぁちゃん、私も夜宵が意外と男前なのは否定しないけれど、あの子の性格上、矢萩君にリードされたいと思うのよね。そうだわ! 間を取って、リバでどうかしら!」
ぱん、と両手を合わせ、一番とんでもないことを口走ったのは亜耶さんだ。リバ、つまり、カップリング内での受け攻めを固定しないというやつだ。これを地雷設定している腐女子は多い。えっ、何この家族。ていうか、お父さん、あなた自分の息子が受けでもアリなんですか!? それ以前にBL用語が普通に飛び交ってんの、この家?!
「夜宵が意外と男前なのは私も認めているところだが、少々気持ちが優しすぎるというか、ネガティブすぎるところがあってね。毎年バレンタインだって何やら頑張って手作りしているようなんだが、結局渡せなかったりしてねぇ」
「毎年毎年、『萩ちゃん、今年もたくさんもらってた』ってしょんぼりしながら帰って来て、めそめそしながらそれを食べてるのよ? あんなの、こっちの胸が締め付けられるわよ。でも今年はそれがなかったから、進展したと思ったのに、全然なのよねぇ」
「やぁちゃん、夜宵はね、繊細なのよ。ママ、あなたも少し夜宵を見習ってほしいぐらいだわ」
「どうしても矢萩君と同じところに通いたかったのだろう、この学校の素晴らしさを我々に二時間かけてプレゼンした時のあの情熱はどこに行ってしまったのか。正直我々としても、じれったくて仕方がないんだよ、遠藤君」
わかるかね、と詰められれば、こくこくと強く頷くしかない。親説得するために二時間プレゼンって、中学の時から仕上がってんな、神田。
そりゃあ俺だって、一刻も早くあの二人をくっつけてしまいたいのである。しかも、神田家はこの通り、BのLでもウェルカムらしい。となれば俄然やる気も湧いてくるというものである。
が、そうなると気になるのはもう片方だ。
正直、お堅いイメージの神田家の方が、同性愛には難色を示すような気がしていたが、逆に体育会系の南城家の方がその辺は厳しいのかもしれない。
そんなことを思っていると――、
「おお、いたいた、遠藤君!」
馬鹿みたいにデカい声が聞こえ、俺は振り返った。こっちは行事のあれやこれやで、多少の面識はある。そう、もうおわかりだろう、南城ファミリーである。
こちらもこちらでご両親プラスお兄さんのフルメンバーだ。お父さんの隆哉さんに、お母さんの沙也子さん、そしてお兄さんの椰潮さんである。
「お、純冶さんトコもいらしてましたか!」
「亜耶ちゃん、お休み取れたの~? 良かったわねぇ~!」
「弥栄さん、本日もお綺麗で!」
急に騒がしくなったな。ここん家、スポーツ一家だけあって、語尾に『!』が見えるんだよ。もうちょいトーンを落としてくれ。
「あぁ隆哉君。見ました、さっきの劇?」
「もちろん見ましたとも! いやぁ、トンビが鷹を生んだとは正にこのことで、矢萩はあれでなかなかのイケメンですから! ねぇ、ママ!?」
「ほんっと! 我が子ながら、とんでもない王子っぷりだったわよねぇ!」
「矢萩はあれで脱いでもイケるからな! 最後、ノリで脱げば良かったのに!」
良いわけがない。ノリで俺の劇を壊すな。
「それで、ウチの夜宵も出たとか」
「そうなんですよ! 途中までは南城ジムにスカウトしたいくらいのムキムキ姫だったのに、最後、棺の中からとんでもない美人が出て来て、観客席騒然でしたから!」
「弥栄ちゃんにそっくりの美人さんに仕上がってましたよ!」
「ということは?!」
「したんですの!? 矢萩君と?!」
「どうなんですか、おじさんおばさん! その決定的瞬間は?!」
さっきまで俺に迫ってきたのとは比べ物にならない圧で南城家に詰め寄るが、さすがは筋肉一家、びくともしねぇ。
「それがねぇ……」
その時ばかりは『!』も鳴りを潜め、気持ちトーンを落とした沙也子さんが、いかにしてあの白雪姫が幕を閉じたかを説明した。すると――、
「遠藤君!」
「ひぃっ!」
さっきまで(顔面の圧はあったけど)終始温和だった純冶さんが俺の両肩を掴み、声を荒らげた。
「どういうことかね?! 白雪姫にはそんな、小人達乱入によるキスシーン強制カットのダンスパーティーエンドなんていう解釈があるのかね?! 第何刷の話を採用したのかね?! まさか君オリジナルではあるまいな!?」
「違います! 断固として違います! あれは演劇部の謀反で――!」
「謀反だと!? 君はそんな裏切り者をのさばらせておくのか!? 世が世なら打首獄門かギロチンだぞ!? 午後の部は!? 明日の公演はどうなるんだね!?」
「さ、させません! 男・遠藤! 次も、明日も、縄で縛りつけてでも、止めて見せます!」
「よく言ったわ遠藤君!」
「これで矢萩君と夜宵のキスシーンが見られるのね!? 楽しみだわ! S席のチケットはいくらなの?! まだ残ってる?! いまの私なら転売屋からでも買う覚悟よ!」
待って。
待って神田ファミリー。まだ南城ファミリーが二人の関係についてどう思っているのか確認してない。特に弥栄さん、キスシーン云々の発言はヤバくないですか!? あと、チケットは販売しておりません! 早めに並んでお好きな席へどうぞ! 転売屋からは買うな!
「いやぁ、ウチの息子が不甲斐ないせいで、すみませんね、ほんとに!」
「見た目に反して奥手なのはパパに似たのよ、もう! この人ったら、私と付き合ってる時だって手を繋ぐまでに半年かかったのよ?!」
「俺に相談してくれれば良かったのになぁ! ワハハ!」
どうやら南城が見た目に反してヘタレなのは父親譲りらしい。
「ああそうそう、こんなことをしている場合じゃないんだ、遠藤君!」
手を繋ぐのに半年もの時間を要する男、隆哉さんが、ぽん、と手を打った。
「矢萩と夜宵君を知らないか?! 何かさっき、やけに完成度の高い王子と姫が腕を組みながら歩いているという情報を入手したんだ!」
「そうそう、そうなのよ! もうどう考えたって矢萩と夜宵君でしょ?! だから私達、陰からそっと見守ろうと思って!」
そんなオール語尾に『!』つけた状態で? そっと見守るとか出来るの、この夫婦!?
「俺はばっちり記録を残すつもりだ!」
じゃじゃーん! と暑苦しい効果音付きで、弥栄さんのよりは幾分かレンズが大人しめな一眼レフを取り出す。
ていうかお前も一眼持って来たのか! もう絶対それフラッシュとかシャッター音とかどぎついやつだろ!? そんなことはないのかもしれないけど、持ち主に似そうなんだよ。そのフラッシュは何千ルーメンなんだ! 絶対盗撮に向かないやつだろ! いや、それはそれで堂々としてて良いのかな……?
まぁとりあえず、この感じからして南城家も大丈夫そうではある。